説明

骨模型

【課題】 硬さ、切削感、削りかすの形状等が人骨に類似した骨模型の提供。
【解決手段】 100重量部のアクリル系樹脂と20〜50重量部のおがくずとを含む骨模型。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実習用に適した骨模型、詳しくはアクリル系樹脂とおがくずとを含む骨模型に関する。
【背景技術】
【0002】
口腔外科、胸部外科、脳神経外科等の様々な外科手術における手技修得の為に実習の必要性が増大しつつある。現在、これらの手術手技修得の為の実習においては、従来からの動物等の天然骨に代えて、エポキシ樹脂の骨模型やアクリル系樹脂と無機物粉体との混合物を含む骨模型(例えば、特許文献1)を用いることが提案されている。
【0003】
しかし、エポキシ樹脂からの骨模型は、実際の骨と比べて、硬さ、削ったときの感触(削ったときに刃にまとわりつく)及び削りかすの形状が違う(人骨では削りかすが粒状であるのに対して、粉状である)などの点で、天然骨の代替としては不充分であった。
【0004】
また、アクリル系樹脂と無機物粉体との混合物を含む骨模型は、切削感において改善はされているものの、まだ十分とはいえない点で問題があった。さらに、骨模型は、粘膜模型と一体化して使用されることが多いところ、近年開発されたポリビニルアルコールを含む粘膜模型との接着性が劣るという問題点もあった。したがって、より手術手技修得に適した実習用骨模型の開発が引き続き要望されていた。
【特許文献1】特開平06−230717号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記した問題点を解決するためになされたものであり、したがって、その目的は、構造及び切削感において人骨と極めて類似した実習用の骨模型を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
(1)100重量部のアクリル系樹脂と20〜50重量部のおがくずとを含む骨模型;
(2)さらに、5〜20重量部のポリビニルアルコールを含む、(1)の骨模型;
(3)(1)又は(2)記載の骨模型を組み込んだ、生体模型
である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の骨模型は、構造及び切削感において人骨と同等な骨模型であり、手術手技修得の為の実習に好適である。
また、本発明の好適な実施態様である、ポリビニルアルコールをさらに含む骨模型は、上記の効果に加え、ポリビニルアルコール系の粘膜模型との接着性に優れるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の骨模型は、100重量部のアクリル系樹脂と20〜50重量部のおがくずとを含む。
本発明におけるアクリル系樹脂は、アクリル系樹脂及び/又はメタクリル系樹脂であり、アクリル酸エステル単量体及び/又はメタクリル酸エステル単量体を含む液状物を重合硬化せしめることによって得られる。
【0009】
アクリル酸エステル系単量体及び/又はメタクリル酸エステル単量体は、2官能性単量体でも多官能性単量体でもよく、単独で使用しても、又、両者を混合して使用しても良い。
【0010】
2官能性単量体としては、例えば、メタクリル酸メチルエステル,メタクリル酸エチルエステル,メタクリル酸ブチルエステル,メタクリル酸プロピルエステル,メタクリル酸2エチルヘキシルエステル,アクリル酸メチルエステル,アクリル酸エチルエステル,アクリル酸ブチルエステル,アクリル酸2エチルヘキシルエステル等を挙げることができる。
【0011】
多官能性単量体としては、例えば、ジビニルベンゼン,ビスフェノールAジメタクリレート,ビスフェノールAジグリシジルメタクリレート,トリエチレングリコールジメタクリレート,ビスメタクリロキシエトキシフェニルプロパン,ネオペンチルグリコールジメタクリレート,トリメチロールプロパントリアクリレート,エチレングリコールジメタクリレート,ジエチレングリコールジメタクリレート,トリメチロールプロパントリメタクリレート,テトラメチロールメタントリメタクリレート,テトラメチロールメタントリアクリレート,テトラメチロールメタンテトラメタクリレート,ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート,ジペンタエリスリトールペンタアクリレート,2,2−ビス(4−メタクリロキシエトキシフェニル)プロパン等が挙げられる。
【0012】
本発明におけるアクリル酸エステル単量体及び/又はメタクリル酸エステル単量体を含む液状物は、上記の単量体に加え、アクリル系重合体及び/又はメタクリル系重合体を含むことができる。アクリル系重合体及び/又はメタクリル系重合体としては、アクリル酸エステルやマタクリル酸エステルの単独重合体若しくはそれらの共重合体、あるいはそれらの混合物を用いることができるが、これらのうちメタクリル酸メチルエステル重合体、メタクリル酸メチルエステル−メタクリル酸エチルエステル,メタクリル酸メチルエステル−メタクリル酸プロピルエステル又はメタクリル酸メチルエステル−メタクリル酸ブチルエステル等の共重合体が好ましい。アクリル系重合体及び/又はメタクリル系重合体の添加量は、アクリル酸エステル単量体及び/又はメタクリル酸エステル単量体の100重量部あたり、50重量部以下、好ましくは5〜30重量部、より好ましくは7〜25重量部、さらに好ましくは8〜20重量部である。
【0013】
本発明におけるおがくずは、材木をのこぎり等で切るときにできる木材くずのことであり、好ましくは形状が0.5mm以下のおがくずである。おがくずは、100重量部のアクリル系樹脂に対して、20〜50重量部、好ましくは25〜40重量部、更に好ましくは30〜35重量部を含む。
【0014】
本発明において、アクリル酸エステル単量体及び/又はメタクリル酸エステル単量体並びに場合によりアクリル系重合体及び/又はメタクリル系重合体を含む液状物は、公知の重合開始剤を含んでもよい。
【0015】
本発明において、アクリル酸エステル単量体及び/又はメタクリル酸エステル単量体並びに場合によりアクリル系重合体及び/又はメタクリル系重合体を含む液状物は、おがくずを加えた後、常法により硬化、成形して骨模型とすることができる。硬化と成形は、型枠内で同時に行ってもよい。
【0016】
本発明の骨模型は、アクリル系樹脂とおがくずの配合比が異なる骨模型を複合化した骨模型も包含する。例えば、異なる配合比の下顎骨の皮質骨模型と海綿骨模型を複合化して下顎骨模型としてもよい。
【0017】
本発明の骨模型は、さらに、ポリビニルアルコールを含んでもよい。ポリビニルアルコールの量は、アクリル系樹脂100重量部に対して、5〜20重量部、好ましくは5〜15重量部、より好ましくは10〜15重量部である。
【0018】
本発明におけるポリビニルアルコールの平均分子量は、1000以下、好ましくは700未満、より好ましくは500以下である。ポリビニルアルコールの添加は、アクリル系樹脂の硬化前であり得る。
【0019】
本発明の骨模型は、ポリビニルアルコールを添加することにより、ポリビニルアルコールをベースとする粘膜模型との接着性が向上する。したがって、骨模型と粘膜模型を一体化した口腔模型、鼻腔模型、耳腔模型、眼部模型、頭部模型、胸部模型、腹部模型等の人体の生体模型に応用できる。
【実施例】
【0020】
本発明を実施例及び比較例を用いて更に説明する。
実施例1〜12
表1の配合に基づき、重合開始剤入りアクリル系モノマー(GC,ユニファストIIの液体)、アクリル系重合体(GC,ユニファストIIのパウダー)、おがくず(主にベイマツやツガからなるおがくず,粒径0.5mm以下)、及びポリビニルアルコール系大和糊(平均分子量500以下)を型枠内にて105℃まで加熱して、150kgf/cm2の圧力を加え、10〜15分間、硬化、成型せしめた後、圧力を解放して室温に戻して骨模型を得た。
【0021】
【表1】

【0022】
得られた骨模型を、8人からなる専門家(歯科医4名、歯科技工士3名、工学博士1名)のパネルにより、正常人の下顎骨の皮質骨と比較した、硬さ、切削感及び削りかすの形状について、並びにポリビニルアルコール(PVA、平均分子量:1700)との接着性について、判定した。その結果を表2に示す。
【0023】
【表2】

【0024】
実施例1、7及び11の骨模型は、ヒトの下顎骨の皮質骨に近い硬さ、切削感、削りかすの形状を有していた。
【0025】
アクリル系重合体とおがくずの混合比を変えることにより、硬さ等の物性の異なる各種の人骨の模型を製造できる。たとえば、ヒト下顎骨の海綿骨は、実施例5及び9の骨模型により再現が可能であった。
【0026】
実施例1、7又は11の骨模型と実施例5又は9の骨模型とを複合化して、ヒトの下顎骨の模型を製造できる。
【0027】
ポリビニルアルコールを含有する実施例5〜12、特に実施例9〜12の骨模型は、ポリビニルアルコール製の粘膜模型との接着性に優れる。
比較例1
【0028】
重合開始剤入りアクリル系モノマー(GC,ユニファストIIの液体)8.0g、アクリル系重合体(GC,ユニファストIIのパウダー)1.3g、セラミックスパウダーであるメタルボンド用陶材(松風,ユニボンドヴィンテージ)0.5g又は0.7g、ポリビニルアルコール(平均分子量500)1gを型枠内にて105℃まで加熱して、150kgf/cm2の圧力を加え、10〜15分間、硬化、成型せしめた後、圧力を解放して室温に戻して骨模型を得た。
【0029】
得られた骨模型は、人下顎骨の皮質骨とは、硬さ、切削感、削りかすの形状が異なっていた。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、構造及び切削感において人骨と極めて類似した実習用の骨模型であり、手術手技習得のために有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
100重量部のアクリル系樹脂と20〜50重量部のおがくずとを含む骨模型。
【請求項2】
さらに、5〜20重量部のポリビニルアルコールを含む、請求項1記載の骨模型。
【請求項3】
請求項1又は2記載の骨模型を組み込んだ、生体模型。

【公開番号】特開2008−250004(P2008−250004A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−91360(P2007−91360)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(506180394)有限会社 テクノ・キャスト (3)
【Fターム(参考)】