説明

骨誘導材および骨誘導キット

【課題】骨粗鬆症等の患者の体内において、早期に骨密度の増加を達成する。
【解決手段】リン酸エステル化合物と、水溶性カルシウム化合物と、中性または酸性緩衝液とを含む骨誘導材1を提供する。リン酸エステル化合物が、βグリセロリン酸、pニトロフェニルリン酸、アデノシン一リン酸、アデノシン二リン酸、アデノシン三リン酸または各種ビタミンリン酸エステル誘導体の少なくとも1つを含むことが好ましく、水溶性カルシウム化合物が、塩酸カルシウム、硝酸カルシウムまたは水酸化カルシウムの少なくとも1つを含むことが好ましく、緩衝液が、リン酸緩衝液、塩酸緩衝液または酢酸緩衝液の少なくとも1つを含むことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨誘導材および骨誘導キットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、骨粗鬆症患者の治療としては、食事療法や運動療法が基本であるが、これらの療法によっても治療効果が認められない場合には、ビタミンA,C,D,K、カルシウム、亜鉛、タンパク質等を含有する栄養組成物を用いた薬物療法が採用されることがある(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開2006−131611号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、圧迫骨折の発生が危惧される骨粗鬆症患者にとっては、早期の骨密度上昇が望まれるものの、上記の栄養組成物を用いた薬物療法では、栄養組成物の投与から骨密度の増加が認められるまでには相当の時間を要するという不都合がある。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、骨粗鬆症等の患者の体内において早期に骨密度の増加を達成することができる骨誘導材および骨誘導キットを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、リン酸エステル化合物と、水溶性カルシウム化合物と、中性または酸性緩衝液とを含む骨誘導材を提供する。
上記発明においては、前記リン酸エステル化合物が、βグリセロリン酸、pニトロフェニルリン酸、アデノシン一リン酸、アデノシン二リン酸、アデノシン三リン酸または各種ビタミンリン酸エステル誘導体の少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0006】
また、上記発明においては、前記水溶性カルシウム化合物が、塩酸カルシウム、硝酸カルシウムまたは水酸化カルシウムの少なくとも1つを含むことが好ましい。
また、上記発明においては、前記緩衝液が、リン酸緩衝液、塩酸緩衝液または酢酸緩衝液の少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0007】
本発明によれば、リン酸基を外す機能を有する酵素を混合することで、リン酸エステル化合物から無機リン酸イオンが分離され、水溶性カルシウム化合物が緩衝液内において電離して生成されたカルシウムイオンと結合してリン酸水素カルシウム二水和物が析出する。本発明に係る骨誘導材は、酵素注入前、注入後所定時間内、および注入後所定温度以下に冷却した状態に維持されている場合には、ゾル状態であって、リン酸水素カルシウム二水和物は析出せず、極小領域への注入を容易にすることができる。
【0008】
そして、このようにして生体内に注入された本発明に係る骨誘導材と酵素との混合物内においては、体温まで暖められることにより、リン酸水素カルシウム二水和物が析出し、かつ、硬化を伴ってリン酸カルシウム化合物へと転化するので、骨を結合することができる。これらの反応は極めて早期に発生するので、骨粗鬆症患者に対して、早期に骨密度の増加を図ることができる。
【0009】
また、上記発明においては、リン酸基を外す機能を有する酵素を含み、4℃以下に冷却されてなることとしてもよい。
また、上記発明においては、前記酵素が、酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼを含むこととしてもよい。
【0010】
このようにすることで、リン酸エステル化合物と、水溶性カルシウム化合物と、中性または酸性緩衝液と、リン酸基を外す機能を有する酵素とを混合した骨誘導材を4℃以下に冷却して、酵素によるリン酸エステル化合物からの無機リン酸イオンの分離反応を抑え、骨誘導材をゾル状態に維持することができる。したがって、この状態では、リン酸水素カルシウム二水和物は析出せず、極小領域への注入を容易にすることができる。
【0011】
そして、このような骨誘導材が生体内に注入されると、体温まで暖められることにより、リン酸水素カルシウム二水和物が析出し、かつ、硬化を伴ってリン酸カルシウム化合物へと転化するので、骨を結合することができる。これらの反応は極めて早期に発生するので、骨粗鬆症患者に対して、早期に骨密度の増加を図ることができる。
【0012】
また、本発明は、上記いずれかの骨誘導材を収容した第1の容器と、リン酸基を外す機能を有する酵素を収容した第2の容器とを備える骨誘導キットを提供する。
本発明によれば、使用に際して第1の容器内の骨誘導材と第2の容器内の酵素とを混合することで、第1の容器内の骨誘導材を常温で保存しておいてもゾル状態に維持することができ、混合後即座に生体内に注入することで、リン酸水素カルシウム二水和物の析出前に、極小領域への注入を容易にすることができる。
上記発明においては、前記酵素が、酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、骨粗鬆症等の患者の体内において早期に骨密度の増加を達成することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の一実施形態に係る骨誘導材1について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る骨誘導材1は、図1に示されるように、リン酸エステル化合物と、水溶性カルシウム化合物と、中性または酸性緩衝液とを混合して構成され、第1の容器2内に収容されている。
【0015】
リン酸エステル化合物は、βグリセロリン酸、pニトロフェニルリン酸、アデノシン一リン酸、アデノシン二リン酸、アデノシン三リン酸または各種ビタミンリン酸エステル誘導体の少なくとも1つを含んでいる。
水溶性カルシウム化合物は、塩酸カルシウム、硝酸カルシウムまたは水酸化カルシウムの少なくとも1つを含んでいる。
前記緩衝液は、リン酸緩衝液、塩酸緩衝液または酢酸緩衝液の少なくとも1つを含んでいる。
【0016】
このように構成された本実施形態に係る骨誘導材1は、常温で保存しておいてもゾル状態に維持されており、高い流動性を有している。そして、リン酸基を外す機能を有する酵素3、例えば、第2の容器に収容された酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ(以下、酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ3ともいう。)を混合することで、リン酸エステル化合物から無機リン酸イオンが分離され(Step1)、水溶性カルシウム化合物が緩衝液内において電離して生成されているカルシウムイオンと結合してリン酸水素カルシウム二水和物が析出する(Step2)。
【0017】
このようにして析出したリン酸水素カルシウム二水和物は、硬化を伴ってリン酸カルシウム化合物へと転化する。そして、これらの反応は体温において極めて早期に発生するので、骨粗鬆症患者の体内に注入することにより、早期に骨密度の増加を図ることができる。
【0018】
すなわち、酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ3を収容した第2の容器4を4℃程度以下に冷却しておき、患者の体内への注入に先立って本実施形態に係る骨誘導材1に混合することにより、上記反応が開始されるが、混合後しばらくの間は、反応が活発ではなく、ゾル状態が維持される。したがって、この状態の間に体内に注入することにより、少ない抵抗でスムーズに注入することができる。ゾル状の骨誘導材1は、粘性が低いので骨が粗鬆となった部位のような極小領域への注入を容易にすることができる。
【0019】
そして、体内に注入された後には、酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ3が活性化されてリン酸エステル化合物の無機リン酸イオンが分離され、リン酸水素カルシウム二水和物の析出、硬化が開始され、骨密度の増加を図ることができるという効果がある。
【0020】
なお、本実施形態に係る骨誘導材1によれば、リン酸エステル化合物と、水溶性カルシウム化合物と、中性または酸性緩衝液とを混合したが、図2に示されるように、これに加えて酵素3を混合することにより骨誘導材1′を構成し、かつ、そのように構成された骨誘導材1′全体を4℃以下に冷却状態とすることにしてもよい。このようにすることで、骨誘導材1′は、冷却状態に維持された状態では、上記反応が発生せずにゲル状態が維持される一方、体内に注入されて、含有されている酵素3が加温されることにより、上記反応が発生して、リン酸水素カルシウム二水和物の析出および、硬化を伴うリン酸カルシウム化合物への転化が発生し、早期に骨密度を増加させることができる。
【0021】
また、リン酸エステル化合物と、水溶性カルシウム化合物と、中性または酸性緩衝液とを混合した骨誘導材1と、酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ3とを別々の容器2,4に収容した骨誘導キット5として構成してもよい。このように構成することで、使用に際して別個の容器2,4内の骨誘導材1と酵素3とを混合し、混合後迅速に体内に注入することによって、上記効果を達成することができる。
【0022】
また、本実施形態に係る骨誘導材1,1′においては、ヒアルロン酸、コラーゲン、キトサン、ゼラチン、アガロース等の生体高分子や、幹細胞や骨が細胞等の細胞や、BMP、bFGF、デキサメタゾンあるいはアスコルビン酸等の成長因子等を含んでいてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係る骨誘導材の作用を説明する図である。
【図2】図1の骨誘導材の変形例の作用を説明する図である。
【符号の説明】
【0024】
1,1′ 骨誘導材
2 第1の容器
3 酵素(酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ)
4 第2の容器
5 骨誘導キット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸エステル化合物と、水溶性カルシウム化合物と、中性または酸性緩衝液とを含む骨誘導材。
【請求項2】
前記リン酸エステル化合物が、βグリセロリン酸、pニトロフェニルリン酸、アデノシン一リン酸、アデノシン二リン酸、アデノシン三リン酸または各種ビタミンリン酸エステル誘導体の少なくとも1つを含む請求項1に記載の骨誘導材。
【請求項3】
前記水溶性カルシウム化合物が、塩酸カルシウム、硝酸カルシウムまたは水酸化カルシウムの少なくとも1つを含む請求項1または請求項2に記載の骨誘導材。
【請求項4】
前記緩衝液が、リン酸緩衝液、塩酸緩衝液または酢酸緩衝液の少なくとも1つを含む請求項1から請求項3のいずれかに記載の骨誘導材。
【請求項5】
リン酸基を外す機能を有する酵素を含み、4℃以下に冷却されてなる請求項1から請求項4のいずれかに記載の骨誘導材。
【請求項6】
前記酵素が、酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼを含む請求項5に記載の骨誘導材。
【請求項7】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の骨誘導材を収容した第1の容器と、リン酸基を外す機能を有する酵素を収容した第2の容器とを備える骨誘導キット。
【請求項8】
前記酵素が、酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼを含む請求項7に記載の骨誘導キット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−138131(P2010−138131A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−317230(P2008−317230)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】