説明

高アスペクト比を有するフィロシリケートプレートレットの製造方法

本発明は、高アスペクト比を有するフィロシリケートディスクの製造方法、本発明により得られるフィロシリケートディスク、複合材料、防炎性障壁または拡散障壁の製造における本発明によるフィロシリケートディスクの使用、および本発明によるフィロシリケートディスクを含むまたは用いて得られる複合材料に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高アスペクト比を有するフィロシリケートプレートレットの製造方法、本発明により得られるフィロシリケートプレートレット、複合材料、防炎性障壁または拡散障壁の製造における本発明によるフィロシリケートプレートレットの使用、および本発明によるフィロシリケートプレートレットを含むまたはこれを用いて得られる複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
先行技術において、フィロシリケートを表面被覆組成物または複合材料へ添加することは知られている。これにより、得られる系の機械特性を向上させることができる。とりわけ、このようにして、表面被覆物または複合材料層の障壁作用を増大させることが可能である。
【0003】
特性における向上の程度は、フィロシリケートを形成するプレートレットのアスペクト比に著しく依存することが示されている。従って、高アスペクト比を有するフィロシリケートプレートレットを製造することは、特に良好な機械特性および高障壁作用により区別される表面被覆物または複合材料層を得ることが可能となるので原理上望ましい。
【0004】
アスペクト比は、プレートレット長さおよびプレートレットの高さの割合であると理解される。このため、プレートレット長さにおける増加およびプレートレット高さにおける減少はいずれも、アスペクト比における増加をもたらす。フィロシリケートのプレートレット高さの理論下限は、単一シリケートラメラであり、2:1フィロシリケートの場合には約1ナノメートルとなる。
【0005】
一般に、フィロシリケートは、数ナノメートル〜数ミリメートルの高さを有するシリケートラメラの堆積、いわゆるタクトイドを有する。フィロシリケートの場合、プレートレット径は、その組成および構造に応じて、数ナノメートル(熱水的に製造されたスメクタイト)〜数センチメートル(マイカ)である。従って、天然フィロシリケートは、20〜約400のアスペクト比を有する。
【0006】
次に、アスペクト比は、化学的および/または物理的処置により、プレートレットをそのスタック軸に沿って分裂(剥脱)することにより特定の制限内で向上させることができる。しかしながら、プレートレット長さの増加は、合成条件を変化させることによってのみ可能である。
【0007】
剥脱を伴うアスペクト比の増加は、例えば向上した特性を有するポリマー−フィロシリケートナノ複合材料の製造のための重要な条件であるとみなされる(H.A.Stretz、D.R.Paul、R.Li、H.Keskkula、P.E.Cassidy、Polymer 2005、第46巻、第2621頁〜第2637頁、およびL.A.Utracki、M.Sepehr、E.Boccaleri、Polymers for Advanced Technologies 2007、第18巻、第1頁〜第37頁)。用語剥脱または離層の説明について、G.Lagaly、J.E.F.C.Gardolinsky、Clay Miner.2005、第547頁〜第556頁を参照する。インターカレート可能なおよび剥脱性のフィロシリケートは、例えばスメクタイトの種類からのモンモリロナイトまたはヘクトライトである。
【0008】
これまで知られているフィロシリケートの処理の欠点は、場合によっては、相反する特性である。例えば熱水的に製造されたスメクタイト(例えばOptigel SH)は、極めて良好な膨潤挙動を示し、その結果、個々のシリケートラメラ中への自発的な剥脱が起こる。しかしながら、このようなスメクタイトは、約50ナノメートルの小さいプレートレット径を有し、アスペクト比は、50の値を超えない。
【0009】
モンモリロナイトまたはバーミキュライト型の天然フィロシリケートは、数百ナノメートル〜数マイクロメートルのプレートレット径を示すが、自発的な剥脱は起こらない。しかしながら、アスペクト比は、複雑な剥脱工程により増加させることができる。
【0010】
マイカ型のフィロシリケートは、数センチメートルのプレートレット長さを示すが、強力なラメラ間力に起因して剥脱することができず、非常に大きいプレートレット高さを、効率的に低減させることができない。
【0011】
フィロシリケートの合成製造は、例えばJ.T.Kloprogge、S.Komarneni、J.E.Amonette、Clays Clay Miner.1999年、第47巻、第529頁〜第554頁に記載されている。合成フィロシリケートは、これまで天然に存在するフィロシリケートと同様に用いられてきたが、すなわち、合成フィロシリケートは、できる限りインターカレートまたは剥脱されたフィロシリケートプレートレットを得るために化学的に変性される(L.T.J.Korley、S.M.Liff、N.Kumar、G.H.McKinley、P.T.Hammond、Macromolecules 2006、第39巻、第7030頁〜第7036頁)。
【0012】
タエニオライト型の膨潤性フィロシリケートの合成は、米国特許第4045241号から既知である。この物質は、数時間続きおよびエネルギーについて高い費用を有する方法により製造される。見出された一般的な欠点は、揮発性2元フッ化物の大量損失であった。この大量損失は、初期計量におけるフッ化物の大幅に増加した添加により補われなければならない。
【0013】
出願番号PCT/EP2009/006560を有する未公開PCT出願では、媒質層電荷の非膨潤性フィロシリケートタクトイドの製造のための方法が記載されている。これにより0.2〜0.8の範囲の層電荷を有する合成スメクタイトは、最初の工程で得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第4045241号明細書
【特許文献2】PCT/EP2009/006560号明細書
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】H.A.Stretz、D.R.Paul、R.Li、H.Keskkula、P.E.Cassidy、「Polymer 2005」、第46巻、第2621頁〜第2637頁
【非特許文献2】L.A.Utracki、M.Sepehr、E.Boccaleri、「Polymers for Advanced Technologies 2007」、第18巻、第1頁〜第37頁
【非特許文献3】G.Lagaly、J.E.F.C.Gardolinsky、「Clay Miner.2005」、第547頁〜第556頁
【非特許文献4】J.T.Kloprogge、S.Komarneni、J.E.Amonette、「Clays Clay Miner.1999」、第47巻、第529頁〜第554頁
【非特許文献5】L.T.J.Korley、S.M.Liff、N.Kumar、G.H.McKinley、P.T.Hammond、「Macromolecules 2006」、第39巻、第7030頁〜第7036頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の課題は、高アスペクト比を有するフィロシリケートプレートレットの製造方法を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題は、
A)式:
[Mn/valencyinter[MIIoct[MIIItet10
〔式中、
Mは、酸化状態1〜3の金属カチオンであり、
は、酸化状態2または3の金属カチオンであり、
IIは、酸化状態1または2の金属カチオンであり、
IIIは、酸化状態4の原子であり、
Xは、ジアニオンであり、および
Yは、モノアニオンであり、
mは、酸化状態3の金属原子Mについて≦2.0であり、酸化状態2の金属原子Mについて≦3.0であり、
oは≦1.0であり、および
層電荷nは、>0.8および≦1.0である〕
で示される合成スメクタイトを、高温溶融合成により製造し、および
B)工程A)の合成スメクタイトを、剥脱および/または離層して高アスペクト比を有するフィロシリケートプレートレットを与える
方法により解決される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明による方法により、400を越える平均アスペクト比を有するフィロシリケートプレートレットを得ることが可能である。
【0019】
本発明による方法により得られるフィロシリケートプレートレットの更なる優位性は、これらが、程度の差はあるが黄褐色である天然モンモリロナイトおよびバーミキュライトとは異なって無色であることである。
【0020】
Mは、好ましくは、酸化状態1または2を有する。Mは、特に好ましくはLi、Na、Mg2+またはこれらのイオンの2以上の混合物である。Mは、極めて特に好ましくはLiである。
【0021】
は、好ましくはMg2+、Al3+、Fe2+、Fe3+またはこれらのイオンの2以上の混合物である。
【0022】
IIは、好ましくはLi、Mg2+またはこれらのカチオンの混合物である。
【0023】
IIIは、好ましくは4価ケイ素カチオンである。
【0024】
Xは、好ましくはO2−である。
【0025】
Yは、好ましくはOHまたはF、特に好ましくはFである。
【0026】
層電荷nは、好ましくは≧0.85および≦0.95である。
【0027】
本発明の特に好ましい実施態様によれば、Mは、Li、Na、Mg2+またはこれらのイオンの2以上の混合物であり、Mは、Mg2+、Al3+、Fe2+、Fe3+またはこれらのイオンの2以上の混合物であり、MIIは、Li、Mg2+またはこれらのイオンの混合物であり、MIIIは、4価ケイ素カチオンであり、XはO2−でありYはOHまたはFである。
【0028】
式:
[Mn/valencyinter[MIIoct[MIIItet10
で示される合成スメクタイトは、所望の金属(塩、酸化物、ガラス)の化合物を、化学量論比で開放るつぼ系または密閉るつぼ系において加熱して均質な溶融物を形成して、次いで該溶融物を再び冷却することにより製造することができる。
【0029】
密閉るつぼ系における合成の場合、出発化合物として、アルカリ塩/アルカリ土類塩、アルカリ土類酸化物および酸化ケイ素、好ましくは2元アルカリフッ化物/アルカリ土類フッ化物、アルカリ土類酸化物および酸化ケイ素、特に好ましくは、LiF、NaF、MgF、MgO、石英を用いることができる。
【0030】
この場合、出発化合物の相対的比率は、例えば二酸化ケイ素1モル当たり0.4〜0.6モルのアルカリフッ化物/アルカリ土類フッ化物の形態でのF、および二酸化ケイ素1モル当たり0.4〜0.6モルのアルカリ土類金属酸化物、好ましくは二酸化ケイ素1モルあたり0.45〜0.55モルのアルカリフッ化物/アルカリ土類フッ化物の形態でのFおよび二酸化ケイ素1モルあたり0.45〜0.55モルのアルカリ土類酸化物、特に好ましくは二酸化ケイ素1モル当たり0.5モルのアルカリフッ化物/アルカリ土類フッ化物の形態でのFおよび二酸化ケイ素1モル当たり0.5モルのアルカリ土類酸化物である。
【0031】
るつぼの装填は、好ましくは、まず、より揮発性の物質を、次いでアルカリ土類酸化物を、最後に酸化ケイ素を計量投入するように行う。典型的には、融点が高く、化学的に不活性であるかまたは反応性の低い金属、好ましくはモリブデンまたはプラチナからできた高融点るつぼを使用する。
【0032】
好ましくは、残存水および揮発性不純物を除去するために、材料を装填した、未だ開放したるつぼを、密閉前に、真空下で200〜1100℃、好ましくは400〜900℃の温度において加熱する。実験的には、るつぼの下部領域をより低い温度にする一方で、上部のるつぼ端を赤熱状態にするような手順が好ましい。
【0033】
予備合成を、反応混合物を均質にするために、任意に、密閉した耐圧性るつぼにおいて5〜20分間、1700〜1900℃、特に好ましくは1750〜1850℃において行う。
【0034】
加熱および予備合成は、典型的には、高周波誘導炉において行う。るつぼは、保護雰囲気(例えばアルゴン)、減圧またはこれらの手段の組み合わせにより酸化から保護する。
【0035】
主合成は、材料へ適合する温度プログラムにより行う。この合成工程は、好ましくは、回転の軸の水平配向を有する回転式グラファイト製炉内で行う。第1加熱工程では、温度を、室温から1600〜1900℃まで、好ましくは1700〜1800℃まで1〜50℃/分、好ましくは10〜20℃/分の加熱速度にて上昇させる。第2工程では、加熱を、1600〜1900℃、好ましくは1700〜1800℃にて行う。第2工程の加熱相は、好ましくは10〜240分、特に好ましくは30〜120分続く。第3工程では、温度を、1100〜1500℃の値へ、好ましくは1200〜1400℃の値へ10〜100℃/分、好ましくは30〜80℃/分の冷却速度にて下げる。第4工程では、温度を、1200〜900℃の値へ、好ましくは1100〜1000℃の値へ0.5〜30℃/分、好ましくは1〜20℃/分の冷却速度にて下げる。第4工程後の室温への加熱速度の低下は、0.1〜100℃/分にて、好ましくは炉の電源を切ることにより制御せずに行う。
【0036】
手順は、典型的には、例えばArまたはNのような保護ガス下で行う。
【0037】
フィロシリケートは、るつぼを壊して開けた後、結晶性吸湿性固体の形態で得られる。
【0038】
開放るつぼ系における合成の場合、一般組成:
wSiO・xM・yM・zM
〔式中、5<w<7、0<x<4、0≦y<2、0≦z<1.5およびM、M、Mは金属酸化物であり、およびMはM以外でありM以外であり、MはM以外である〕
で示されるガラス段階(Glasstufe)を好ましく用いる。
【0039】
、M、Mは、互いに独立して、金属酸化物、好ましくはLiO、NaO、KO、RbO、MgO、特に好ましくはLiO、NaO、MgOであってよい。MはM以外でありM以外であり、MはM以外である。
【0040】
ガラス段階は、所望の化学量論において、所望の塩、好ましくは炭酸塩、特に好ましくはLiCO、NaCOおよびケイ素源、例えば酸化ケイ素、好ましくはシリカから製造する。この粉状成分を、加熱および急速な冷却によりガラス状態へ転化する。転化は、好ましくは900〜1500℃、特に好ましくは1000〜1300℃にて行う。ガラス段階の製造における加熱相は、10〜360分、好ましくは30〜120分、特に好ましくは40〜90分である。この手順は、典型的には、ガラス状炭素るつぼ中において保護雰囲気および/または減圧下で高周波誘導加熱により行う。温度の室温への低下は、炉の電源を切ることにより行う。次いで得られたガラス段階は微細に粉砕するが、これは例えば微粉砕機により行うことができる。
【0041】
更なる反応物は、ガラス段階へ10:1〜1:10の重量比で添加してA)において化学両論を得る。5:1〜1:5の比が好ましい。必要であれば、10%までの過剰の易揮発性添加剤を添加することができる。これらは、例えばアルカリまたはアルカリ土類化合物および/またはケイ素化合物である。好ましいのは、軽アルカリおよび/またはアルカリ土類フッ化物ならびに炭酸塩およびその酸化物ならびに酸化ケイ素の使用である。特に好ましいのは、NaF、MgF、LiFおよび/またはMgCOMg(OH)およびシリカのアニール化混合物の使用である。
【0042】
次いで該混合物を、用いる化合物の共晶混合物の溶融温度を越えて、好ましくは900〜1500℃、特に好ましくは1100〜1400℃へ加熱する。加熱相は、好ましくは1〜240分、特に好ましくは5〜30分継続する。加熱は、50〜500℃/分の加熱速度にて、好ましくは炉の最大可能加熱速度にて行う。加熱相後の室温への冷却は、1〜500℃/分の速度にて、好ましくは炉の電源を切ることにより制御せずに行う。この生成物は、結晶性吸湿性固体の形態で得られる。
【0043】
合成は、典型的には、不活性雰囲気下、ガラス状炭素るつぼ中で行う。加熱は、典型的には、高周波誘導により行う。
【0044】
記載した方法は、高周波誘導によるエネルギー効率に優れた加熱、安価な出発化合物(高度の純度は不要、出発物質の予備乾燥は不要、より広範な出発物質、例えば有利には炭酸塩等)の使用、密閉るつぼ系における合成と比べて著しく短縮された合成時間およびるつぼの複数の使用の可能性に起因して実質的により費用効率が高い。
【0045】
合成後、合成フィロシリケートには、好ましくは、可溶性合成生成物を含ませないことができる。これは、極性溶媒で、好ましくは水性溶媒または水溶性溶媒で、特に好ましくは水、希酸または苛性アルカリ溶液、メタノールまたはこれらの混合物で洗浄することにより行うことができる。洗浄操作は、好ましくは、透析、遠心分離またはろ過により行う。
【0046】
工程B)では、好ましくは、合成スメクタイトを、剥脱または離層するために極性溶媒中へ導入することができる。
【0047】
水、水混和性溶媒、希酸水溶液または塩基および/またはこれらの混合物を、極性溶媒として工程B)中において用いる場合、特に好ましい。
【0048】
極性溶媒中への組み込み後、合成スメクタイトは、膨潤を示す。膨潤は、スメクタイトの更なる化学処理をせずに行う。剥脱および/または離層は、膨潤により起こる。
【0049】
この方法では、極性溶媒中のフィロシリケートプレートレットの分散体も容易に製造することができる。このような分散体も本発明は提供する。
【0050】
化学または物理処理は、剥脱について必要ではないが、このような処理は、剥脱を加速または更に促進することができる。好ましいのは、高せん断力での物理的分散、特に好ましくは回転子−固定子分散機、多重ロールミル、ボールミル、超音波または高圧ジェット分散を用いることによる高せん断力での物理的分散である。
【0051】
本発明は、本発明による方法により得られる物理的プレートレットを更に提供する。
【0052】
本発明はまた、複合材料、防炎性障壁または拡散障壁の製造における本発明によるフィロシリケートプレートレットの使用を提供する。
【0053】
例えば、フィロシリケートプレートレットの極性溶媒、例えば水等における分散体を用いて防炎性障壁または拡散障壁を基材へ塗布することができる。そのためには、分散体を基材へ塗布し、次いで溶媒を、例えば乾燥することにより除去することができる。
【0054】
本発明は、本発明によるフィロシリケートプレートレットを含むまたはこれを用いて得られる複合材料を更に提供する。
【0055】
複合材料がポリマーを含有する場合、特に好ましい。
【0056】
ポリマー複合材料を製造するために、とりわけ、フィロシリケートプレートレットを、重縮合、重付加、ラジカル重合、イオン重合および共重合により製造された従来知られているポリマー中へ組み込むことができる。このようなポリマーの例は、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアミド、PMMA、ポリエステル、ポリオレフィン、ゴム、ポリシロキサン、EVOH、ポリラクチド、ポリスチレン、PEO、PPO、PAN、ポリエポキシドである。
【0057】
ポリマーへの導入は、従来使用される技術、例えば押出法、混練法、回転子−固定子法(Dispermat、Ultra−Turrax等)、粉砕法(ボールミル等)またはジェット分散により行うことができ、ポリマーの粘度に依存する。
【実施例】
【0058】
本発明を、実施例により以下に詳細に説明する。
【0059】
方法:
酸素障壁: 酸素障壁の決定は、DIN53380、第3章に従って、Modern Controls,Inc.からの測定装置を用いて、23℃の温度にて純粋酸素(99.95%)により行った。計測およびキャリアガスの相対湿度は50%であった。
【0060】
X線回折: d(001)値は、フィロシリケート試料を、Panalytical XPERT−Pro粉末回折計(銅アノード、ニッケルフィルター、Cu−Kα: 1.54187Å)を用いてBragg−Brentano幾何学により計測することによって計測した。
【0061】
誘導結合プラズマ原子発光分光法(ICP−AES): ICP−AESによる定量元素分析を、JY24分光計を用いて行った(Jobin Yvon)。
【0062】
原子吸光分光法(AAS): AASによる化学的に開いたフィロシリケート試料の量的元素分析(従来使用される標準手順の使用)は、Varian AA100を用いて行った。
【0063】
原子間力顕微鏡(AFM): AFM下で粒子の画像化を、MFP3D(商標) AFM (Asylum Research)を用いてシリコンカンチレバー(kc: 46Nm−1)により行った。
【0064】
走査型電子顕微鏡(SEM): 走査型電子顕微鏡による調査は、LEO 1530 FESEMを用いて電界放出カソードにより行った。
【0065】
レーザー回折: 水性分散体の粒度分布を、レーザー回折によりHoriba LA 950粒子分析器(Retsch GmbH)を用いて計測した。
【0066】
伝導性: 水性洗浄液の電気伝導性を、RTにおいてHI 99300モバイル導電率計(Hanna Instruments)を用いて計測した。
【0067】
物質:
〔自己接着性ポリプロピレンフィルム〕
No.7005、厚み約63μm。HERMA GmbH、Fabrikstrasse 16、70794 フィルダーシュタット、ドイツ。
【0068】
〔Cloisite Na+〕
ナトリウムモンモリロナイト、Southern Clay Products Inc.、1212 Church Street、Gonzales、テキサス 78629、米国。
【0069】
〔Optigel SH〕
熱水合成からのヘクトライト、以前:Sued Chemie AG、Ostenrieder Str. 15、85368 モースブルク、現在:Rockwood Clay Additives GmbH、Stadtwaldstr.44、85368 モースブルク、独国。
【0070】
〔LiCO
>99%、Merck Eurolab GmbH、John−Deere−Str.5、76646 ブルフザル。
【0071】
〔ケイ素(SiO×nHO)〕
>99.5%、Sigma−Aldrich Chemie GmbH、Eschenstr.5、82024 タウフキルヒェン
【0072】
〔MgCOMg(OH)
超高純度、Fischer Scientific GmbH、Im Heiligen Feld 17、58239 シュヴァート。
【0073】
〔LiF〕
>99%、Merck Eurolab GmbH、John−Deere−Str. 5、76646 ブルフザル。
【0074】
〔MgF
>99.5%、Alfa Aesar GmbH&Co KG、Zeppelinstrasse 7、76185 カールスルーエ。
【0075】
実施例1:A(Li0.9ヘクトライト)の製造
計画した組成:
[Li0.9inter[Mg2.1Li0.9oct[Sitet10
で示されるLiヘクトライトの合成を、組成:
LiO・2SiO
を有する非晶質アルカリガラス(前駆体αと呼ぶ)より行う。このガラスは、塩LiCO(13.83g)およびシリカ(SiO×nHO;24.61g)を微細に混合し、該混合物を、1時間1150℃にてアルゴン下、ガラス状炭素製るつぼ中で誘導加熱することにより製造する。
【0076】
同時に、第2前駆体(前駆体βと称する)を、MgCOMg(OH)(7.52g)およびシリカ(SiO×nHO、10.47g)を微細に混合し、該混合物を、1時間900℃にてチャンバー炉内の酸化アルミニウム製るつぼ中で、加熱することにより製造する。
【0077】
冷却後、28.09gの前駆体αおよび全量の前駆体βを粉砕し、12.50gのMgFとよく混合する。この混合物を、5分以内に1300℃へガラス状炭素製るつぼ中でアルゴン下、誘導加熱により加熱し、この温度にて8分間保持する。この工程の後、該温度は、炉の電源を切ることによりRTへ下げる。
【0078】
強吸湿性フィロシリケートは、低硬度の無色または灰色を帯びた固体の形態で得られ、これは、空気中で短時間のみ放置した後に粉々に砕ける。水中では、極めてゆっくり沈殿し、コロイド相の大部分を含有する分散体を形成し、これはほとんど沈殿を示さない。
【0079】
同定:d(001)=12.2Å(40%相対湿度において)。水性ペースト(3重量部水:1重量部固体)の測定において、反射は約70Åにて起こり、これは高度の浸透性膨潤を示す。
【0080】
組成(ICP−AESおよびAAS測定から)は、[Li0.85interMg2.15Li0.85oct[Sitet10である。
【0081】
空気中で徐々に乾燥した水性Liヘクトライト分散体の走査型電子顕微鏡(SEM)像においては、フィロシリケートタクトイドは、ほとんど認められない。代わりに、基材表面へ柔軟に適合する均質な外観のフィルムが存在する。
【0082】
より高いz分解能(試料高さの分解能)により、フィロシリケートプレートレットは、原子間力顕微鏡(AFM)下で首尾良く画像化することができる。20μmまでの側面寸法および1nmのラメラ高さを有する柔軟性ラメラ(アスペクト比:20000)が見られる。場合によっては、幾つかのラメラの堆積(5未満)も存在する。
【0083】
29.3μmの粒度の中央値は、レーザー回折により決定した。
【0084】
実施例2:Liヘクトライトのフィルムの障壁特性
合成後、実施例1からのLiヘクトライトを、脱塩水(約20g/L)へ添加し、合成の可溶性不純物を、脱塩水に対する透析(細孔径25〜30Åの透析膜)により除去する。透析の洗浄水は、数時間、伝導性がもはや30μSの値を超えなくなるまで更新する。3.4g/Lの濃度を有する分散体は、乾燥Liヘクトライトから脱塩水の添加により製造する。145mLのこの希釈分散体を、該分散体が完全に乾燥するまで、板ガラス溝(19.4×19.4cm)中で静かな場所でRTにおいて貯蔵する。100重量%の固形分を有する得られたフィルムは無事に容易に分離することができるが、自己接着性ポリプロピレンフィルム(Herma)を、機械的損傷を防止するために表面上にキャリア物質として適用する。2層複合材料を、ガラス溝から取り出し、物質の酸素障壁を試験する。純粋ポリプロピレンフィルムを参考として測定する。
【0085】
PPフィルムの酸素透過の測定は、2097.9cm/m・d・bar(100μmフィルム厚みへの算術的正規化:1335.64cm/m・d・bar)の値を与えた。
【0086】
2層複合材料Liヘクトライト/PPフィルムの酸素透過の測定は、6.5〜15.1μmのLiヘクトライトのフィルム厚みを有する7.3〜9.8cm/m・d・bar(100μmフィルム厚みへの算術的正規化:0.98cm/m・d・bar)の値を与えた。
【0087】
比較例1:Naモンモリロナイトの障壁特性
500mgのNaモンモリロナイト(cloisite Na+)を、150mLの脱塩水へ添加し、1日間貯蔵する。次いで、モンモリロナイト分散体を板ガラス溝(19.4×19.4cm)中へ注ぎ、静かな場所でRTにおいて該分散体が完全に乾燥するまで貯蔵する。100重量%の固体分を有する得られたフィルムを、実施例2におけるLiヘクトライトより十分にガラス表面から分離することができない。自己接着性PPフィルムを担体物質として用いることにより、O障壁測定のための適当な試料を製造する。
【0088】
2層複合材料Naモンモリロナイト/PPフィルムの酸素透過の測定は、6.7〜7.8μmのモンモリロナイトフィルムのフィルム厚みを有する145.7〜169.1cm2/m・d・bar(100μmフィルム厚みへの算術的正規化:48.5cm/m2・d・bar)の値を得た。
【0089】
比較例2:熱水的に合成されたヘクトライトのフィルムの障壁特性(Optigel SH)
用いるOptigel SH型のヘクトライトは、熱水的合成により製造された市販生成物であり、その結果、プレートレット径は、平均50ナノメートルに限定される。500mgのOptigel型の乾燥ヘクトライトを、150mLの脱塩水へ添加し、1日間撹拌する。次いでコロイド溶液を、板ガラス溝(19.4×19.4cm)中へ振盪させて投入し、静かな場所でRTにおいて該分散体が完全に乾燥するまで貯蔵する。得られた透明フィルムは、溝から分離することができず、従って障壁特性について試験することができない。
【0090】
他の製造方法は、同じOptigel SHの水性分散体をポリプロピレン基材上で直接乾燥させ、均質フィルムをもたらすが、同様に、フィルムの脆弱性およびクラックにより生じた機械的損傷に起因してO障壁を測定することができなかった。
【0091】
特性の考察
実施例1におけるLiヘクトライト型のフィロシリケートは、極めて大きいプレートレット径を有し、これは、天然スメクタイトおよび熱水的に製造したスメクタイトのプレートレット径を大きく越え、おおよそバーミキュライトの範囲である。膨潤特性は、天然フィロシリケート、例えばバーミキュライトおよびモンモリロナイトと比べてより顕著である。これは、適当な溶媒、例えば水等における実施例1のLiヘクトライトの自然剥脱において現れる。この結果、本発明による柔軟性フィロシリケートプレートレットまたはラメラが生じ、これらは、極めて大きいアスペクト比>>400を有する。これまで、このような大きいアスペクト比を有する物質を経済的に製造することはできなかった。この物質の優れた特性は、ガス障壁測定において特に顕著であり、平均2097.9cm/m・d・barから8.6cm/m・d・barへのO透過性における大きな減少が、薄いLiヘクトライトフィルム(平均厚み10.8μm)をPP基材へ適用することにより示された。
【0092】
任意の種類の化学的または物理的予備処理は、これらの結果を得るために必要ではないことに注目すべきである。
【0093】
従来知られているフィロシリケート、例えば天然モンモリロナイトまたは市販の熱水合成ヘクトライトとの比較は、本発明によるフィロシリケートの優位性を明らかに示す。記載の合成により、本発明によるフィロシリケートを、高純度で短時間に簡単な基本的な化学から製造することができる拡張性のある方法を更に提供する。これは、長い時間の熱水法と比較して効率性において著しい向上を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高アスペクト比を有するフィロシリケートプレートレットの製造方法であって、
A)式:
[Mn/valencyinter[MIIoct[MIIItet10
〔式中、
Mは、酸化状態1〜3の金属カチオンであり、
は、酸化状態2または3の金属カチオンであり、
IIは、酸化状態1または2の金属カチオンであり、
IIIは、酸化状態4の原子であり、
Xは、ジアニオンであり、および
Yは、モノアニオンであり、
mは、酸化状態3の金属原子Mについて≦2.0であり、酸化状態2の金属原子Mについて≦3.0であり、
oは≦1.0であり、および
層電荷nは、>0.8および≦1.0である〕
で示される合成スメクタイトを、高温溶融合成により製造し、および
B)工程A)の合成スメクタイトを、剥脱および/または離層して高アスペクト比を有するフィロシリケートプレートレットを与える
方法。
【請求項2】
Mは、Li、Na、Mg2+またはこれらのイオンの2以上の混合物であり、Mは、Mg2+、Al3+、Fe2+、Fe3+またはこれらのイオンの2以上の混合物であり、MIIは、Li、Mg2+またはこれらのイオンの混合物であり、MIIIは、4価ケイ素カチオンであり、XはO2−であり、YはOHまたはFであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Mは、Liであることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
層電荷nは、≧0.85および≦0.95であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
高温溶融合成を、開放るつぼ系において行うことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
合成スメクタイトの製造のために、一般組成:
wSiO・xM・yM・zM
〔式中、5<w<7、0<x<4、0≦y<2、0≦z<1.5およびM、M、Mは金属酸化物であり、およびMはM以外でありM以外であり、MはM以外である〕
で示されるガラス段階を用いることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
工程B)において、合成スメクタイトを、剥脱または離層するために極性溶媒中へ導入することを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
工程B)において、水、水混和性溶媒、希薄酸水溶液または希薄塩基水溶液および/またはこれらの混合物を、極性溶媒として用いることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の方法により得られるフィロシリケートプレートレット。
【請求項10】
請求項9に記載のフィロシリケートプレートレットの、複合材料、防炎性障壁または拡散障壁の製造における使用。
【請求項11】
請求項9に記載のフィロシリケートプレートレットを含む、またはこれを用いて得られる複合材料。
【請求項12】
ポリマーを含有することを特徴とする、請求項11に記載の複合材料。

【公表番号】特表2013−517215(P2013−517215A)
【公表日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−549321(P2012−549321)
【出願日】平成23年1月17日(2011.1.17)
【国際出願番号】PCT/EP2011/050521
【国際公開番号】WO2011/089089
【国際公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(512137348)バイエル・インテレクチュアル・プロパティ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (91)
【氏名又は名称原語表記】Bayer Intellectual Property GmbH
【Fターム(参考)】