説明

高入力光ファイバ及びその母材の製造方法

【目的】本発明は、長期信頼性の高い高入力光ファイバ及びその母材の製造方法を提供することを目的とする。
【構成】本発明は、コア及び該コアを囲むクラッドとからなる光ファイバであって、前記コア及びクラッドのドーパント濃度が光ファイバ軸方向に変化しており、且つコアの最大屈折率で規格化した相対屈折率分布が光ファイバ軸方向の任意の位置における断面内で常に一定とするもので、光ファイバ軸方向にドーパント濃度を変えることにより、誘導ブリルアン散乱発生のしきい値を高くし、光ファイバに入射出来る光を強くすることができ、この結果、伝送距離を大幅に伸ばすことが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は長距離伝送用の高入力光ファイバ及びその母材の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に長距離光伝送を実現するためには、例えば(1) 光ファイバの伝送損失を少なくする、(2) 光ファイバに入射する光を強くする、等が必要であることが知られている。
【0003】(1)の光ファイバの伝送損失を少なくする点については、実用レベルの研究が進められており、現在GeO2 をコアとする光ファイバでは0.2dB/km以下、またSiO2 をコアとし、FをSiO2 にドープしたクラッドを有する光ファイバでは0.18dB/km以下の低損失のものが得られている。
【0004】また一方、(2)の光ファイバに入射する光を強くする点については、半導体レーザの出力向上、あるいはエルビウムドープ光ファイバ増幅器等を用いた光増幅技術の進展がめざましいが、光ファイバに入射できる光強度には限界があることが知られている。すなわち約7dBm以上の強い光を入射させると光ファイバ中に音波が励起され、光波が音波により散乱される光非線形現象、すなわち誘導ブリルアン散乱が発生する。これによって、入射光の大部分は光ファイバの光入射端に向かって反射され、光受信端には届かなくなる。
【0005】この現象については、D.Cotterによる、“Obsevation of stimulated Brillouin scattering inlow−loss silica fibre at 1.3μm”(Electronics letters, vol.18,No.12, 495−496頁,1982)に説明されている。従って光ファイバに有効に入射できる光量は制限されてしまう。伝送距離を増大させるためには誘導ブリルアン散乱の発生を抑圧する必要があるが、それには誘導ブリルアン利得幅の拡大、すなわち、誘導ブリルアン周波数シフト(入射した光の周波数と散乱された光の周波数の差)の不均一化をはかる必要がある。
【0006】光ファイバ中の誘導ブリルアン散乱を抑圧するための従来技術として、光ファイバ中に力学的歪みを生じさせる方法が報告されている。これは光ファイバ中に歪みを生じさせると誘導ブリルアン散乱の周波数シフト量が変化することを利用したものである。
【0007】この現象については、倉島、堀口、立田による、“Tensile Strain Effects on Brillouin Frequency Shift in Single−mode Fibers Having Pure Silica and GeO2 −doped Cores”(IOOC’89,21C4−2)に報告されている。この現象を利用して誘導ブリルアン散乱発生のしきい値を上げる方法として、光ファイバケーブル内に光ファイバを螺旋状に巻いて、光ファイバ軸方向の歪みを変化させて誘導ブリルアン利得幅を広げる方法がN,Yoshizawa,T.Horiguchi,T.Kurashimaらによる、“Proposal for stimulated Brillouin scattering suppression by fibre cabling”,(Electronics Letters,vol.27,No.12,pp.1100−1101,1991)と題する論文に報告されている。
【0008】この光ファイバケーブルの構造は、例えば図12に示すように光ファイバ11が軸方向に2重螺旋構造になっており該光ファイバ11に加わる力学的歪みが圧縮状態から引っ張り状態へと交互に変化している。これにともない誘導ブリルアン周波数シフト量がケーブルの場所ごとに変化するため、結果的にブリルアン散乱利得幅を増大させ、従って誘導ブリルアン散乱発生のしきい値が上がる。
【0009】その他の方法として、光ファイバ線引き時に張力を変えることにより軸方向の残留応力を変化させる方法が、野沢、酒井、和田、山内により、“誘導ブリルアン散乱の発生を抑制した光ファイバ”(1991年電子情報通信学会秋期大会、B−546)と題する論文に説明されている。図13にSiO2 をコアとしF−SiO2 をクラッドとするブリルアン散乱抑圧光ファイバの光ファイバ軸方向の張力分布を示す。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、光ファイバ軸方向に歪みを加える従来方法では、光ファイバが破断しやすいという問題点がある。例えば通常の光ファイバに対して歪みを0.1%から0.2%に増加させた場合、1km当りの破断率が107 倍も増加することが、満氷豊、勝山豊、小林敬和、石田之則らによる論文、“スクリーニング試験による光ファイバ強度保証法”(電子通信学会論文誌、vol.J66−B,No.7.1983)に報告されている。従って、これを避けるためには光ファイバ表面への炭素膜被覆などによる高強度化技術を併用することが必須となる。また、従来法では特殊なひずみ状態を保持しなければならないために、ケーブル構造に制限を生じ、現実の光ファイバ線路に用いることは非常に難しいという問題がある。
【0011】本発明は上記の事情に鑑み、長期信頼性の高い長距離伝送用の高入力光ファイバ及びその母材の製造方法を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため本発明は、コア及び該コアを囲むクラッドとからなる光ファイバであって、前記コア及びクラッドのドーパント濃度が光ファイバ軸方向に変化しており、且つコアの最大屈折率で規格化した相対屈折率分布が光ファイバ軸方向の任意の位置における断面内で常に一定であることを特徴とする高入力光ファイバとし、また、上記高入力光ファイバにおいて、コア及びクラッドにドープするドーパントが、GeO2 ,P2 5 ,Al2 3 及びFより選ばれた一種もしくはこれらの組合せよりなることを特徴とし、また、上記高入力光ファイバにおいて、コア及びクラッドがGeO2 ドープ石英からなることを特徴とし、また、上記高入力光ファイバにおいて、コア及びクラッドがGeO2 ドープ石英からなる光ファイバであって、前記コア及びクラッドにドープするドーパントがFであることを特徴とし、また、上記高入力光ファイバにおいて、コアがGeO2 ドープ石英、クラッドが純粋石英(pure silica)からなる光ファイバであって、前記コア及びクラッドにドープするドーパントがFであることを特徴とし、また、上記高入力光ファイバにおいて、コア及びクラッドがFドープ石英からなる光ファイバであって、前記コア及びクラッドにドープするドーパントがFであることを特徴とし、また、上記高入力光ファイバにおいて、コアが純粋石英、クラッドがFドープ石英からなる光ファイバであって、前記コア及びクラッドにドープするドーパントがFであることを特徴とし、また、高入力光ファイバ母材の製造方法として、気相反応により合成した石英ガラス粒子体あるいはGeO2 がドープされた石英ガラス粒子体を加熱炉で脱水及びまたはフッ素添加のための加熱処理を行い、その後透明ガラス化して光ファイバ母材を製造する方法において、石英ガラス粒子体中の断面内GeO2 ドーパント分布を長手方向に均一とし、このガラス粒子体をゾーン炉中で、フッ素添加のために加熱処理工程において、粒子体をガラス化する長手方向の位置によって添加するフッ素濃度を変化させながら透明ガラス化することを特徴とする。
【0013】
【作用】本発明は、光ファイバの軸方向にコア及びクラッドのドーパント濃度を変えることにより、誘導ブリルアン散乱の周波数域が広がり、これにより誘導ブリルアン散乱発生の入射光量しきい値を大きくすることができる。このとき、コアの最大屈折率で規格化した光ファイバ断面内の屈折率分布を一定に保つ。
【0014】すなわち、ステップ形光ファイバを例にとれば、コア・クラッドの比屈折率差Δ(=(n1 −n2 )/n1 )を一定に保つことにより、導波モードのフィールド分布が一定に保たれ、通常の光ファイバと同等の伝送特性を得ることが出来る。
【0015】また、本発明光ファイバを作製するためには、長手方向にドーパントの濃度を変化させる製造方法が必要となる。図8は、本発明の製造方法に関するフッ素添加用加熱炉であり、この図を用いてFのドーパント量を長手方向に変化させる方法について示す。図に示すような加熱炉1は、ヒータ部分2が備わっており、このヒータの長さLhは母材の長さLbに対してLh<<Lbなる関係にあるゾーン炉である。このゾーン炉において、導入ガス供給口3からフッ素含有ガスSF6 及びHeを導入する。SF6 に替わるフッ素含有ガスとしては、他にCF4 ,C2 6 ,SiF4 ,F2 等があげられる。VAD法等で作製された粒子体4を回転させながら、一定の速度で下降させる。加熱炉1の雰囲気はSF6 +Heである。Fの最終的なドーパント濃度はこの雰囲気のSF6 の分圧によって決まる。粒子体が下降してヒータ2の部分にきたとき、ヒータ2により温度が1400度以上に上げられ、粒子体のFの量が固定されガラス化される。この際、加熱炉1のFの分圧を調整することにより粒子体に固定されるFの量を制御できる。この場合、ヒータの部分が、粒子体の長さより大きい場合には、Fの量は、粒子体の長手方向で均一となるため、特に上記で示したLh<<Lbが必要である。このようにすることにより、長手方向にFのドープ量の異なる光ファイバ母材を作製することが可能となる。その結果、この光ファイバ母材を線引きすることにより光ファイバ化すると、高入力光ファイバを実現することができる。
【0016】
【実施例】以下、図面を参照して本発明の実施例を詳細に説明する。
【0017】(実施例1)図1は本発明の第1の実施例に係る光ファイバのコア及びクラッドの屈折率の光ファイバ軸方向変化を示すもので、本実施例においては、屈折率分布はステップ形をしており、コア及びクラッドのいずれにもGeO2 をドーパントとして用いている。
【0018】本実施例光ファイバの一端(z=0)においては、クラッドにはドーパントを含まない、通常の光ファイバと全く同一の構造をしている。
【0019】図1,3,4,5において、Leはブリルアン散乱発生の有効長であり、光ファイバ長が充分長い場合には近似的に4.3/α(α:損失(dB/km))で与えられることが、先に上げたCotterの論文に示されている。光ファイバの損失が0.21dB/kmとき、有効長Leは20.5kmとなる。長さLeの区間では音波と光波の相互作用により、ブリルアン散乱が発生しやすい。そこで、この区間の光ファイバ中のドーパント濃度を変化させて、ブリルアン散乱発生のしきい値を増大させることができる。図2は、本実施例の光ファイバの任意の長さzにおける断面内の屈折率分布を示している。軸方向の位置によらず、コア径は10μm、クラッド径は125μmで一定であり、かつ図3に示すようにコア・クラッドの比屈折率差Δ(=(n1 −n2 )/n1 ;n1 :コアの屈折率、n2 :クラッドの屈折率)も一定値0.3%としている。
【0020】図4は、このような光ファイバ構造を実現するための、光ファイバ軸方向のドーパント濃度分布を示している。GeO2 をドーパントとするとき、1mol%のGeO2 によりSiO2 に対する相対屈折率は約0.1%増加する。
【0021】図3の光ファイバでは、コア部のドーパント量はz=0で3mol%、z=20.5kmで4.5mol%であり、クラッドでのドーパント量はz=0では0mol%、z=20.5kmでは1.5mol%である。これらのドーパント量は任意の位置zにおけるコア・クラッド間の屈折率差Δが0.3%に保たれるように連続的に変化している。
【0022】本実施例は光入力のしきい値を通常の光ファイバに比べて10倍高くするもので、次のようにして設計している。誘導ブリルアン散乱光の周波数シフト量はコアに加えられたドーパント量に比例して変化することが、N.Shibata,Y.Azuma,T.Horiguchi,M.Tatedaらによる、“Brillouin−gain spectra for single−modefibers having various core/claddingmaterial compositions”(ECOC’88)に報告されている。石英材料の誘導ブリルアン利得幅は光波長1.55μmにおいて、16MHz程度であることが、Cotterにより報告されている。
【0023】したがって、入力しきい値レベルを10dB増やすためには、誘導ブリルアン周波数シフト量が160(=16x10)MHz変化していればよい。GeO2による周波数シフト量は107MHz/mol%であることが、前記N.Shibataらによる論文に報告されている。
【0024】そこで、約1.5mol%のGeO2 を光ファイバ軸方向に有効長Leにわたって、変化させればよい。このとき、ドープするGeO2 の量が少ないため、従来の損失0.20dB/kmの光ファイバに比べて損失の増加は0.01dB/km程度であり、光ファイバの損失は0.21dB/km程度となる。従って、10dBの入射光増加に対して、48(=10/0.21)kmの本実施例の光ファイバを従来の光ファイバに接続することができる。
【0025】このとき、入射端から48km離れた従来光ファイバとの接続点では、従来光ファイバの光入力しきい値まで光強度が充分減衰しているので、誘導ブリルアン散乱が発生することはない。
【0026】以上説明したように本発明光ファイバ48kmを従来の光ファイバにつなぎ、通常の光ファイバの入力しきい値(7dBm)の10倍強い光(17dBm)を本発明光ファイバの側から入射すれば、本発明の光ファイバと従来光ファイバの接続点における光強度はちょうど従来光ファイバの光入力しきい値になるので、通信可能な光ファイバ長を48km延長することができる。
【0027】図4に述べた以外のドーパント分布として、図5としても同様な効果があることは明らかである。また、全く同様の原理により、一般に有効長Le内において、ブリルアン散乱周波数シフト量が通常の光ファイバにおけるブリルアン散乱利得幅(前記例では16MHz)のG倍(前記例では10倍)以上となるように光ファイバ軸方向にドーパント量が変化していれば、断面内の屈折率分布形状がステップ形以外の任意形状であっても、入射光量しきい値がG倍となる効果が得られることがわかる。
【0028】(実施例2)導波構造制御用ドーパントとしてFを用いる場合を第2の実施例として図6,7を参照して説明する。図6,7は、本実施例に係る光ファイバの構造(ドーパント濃度の光ファイバ軸方向変化)を示す。
【0029】SiO2 にFをドープすると、SiO2 に対する屈折率はFの1wt%あたり0.4%小さくなる。これを用いてコアよりもクラッドの方に多くのFを添加することにより導波構造を実現する。第1の実施例同様に、コア形は10μm、クラッド径は125μm、比屈折率差Δは0.3%とした。
【0030】一方、光ファイバのコアにFをドーパントとして加えると、Fドープ量1wt%当り、356MHz誘導ブリルアン散乱周波数シフト量が変化することが知られている(N.Shibata他、ECOC’88, 115−118)。第1の実施例と同様の設計方針に従い、ブリルアン周波数シフト量を利得幅の30倍すなわち480MHz変化させて、入力レベルを14.8dB増やすためには約1.35wt%のFを光ファイバ軸方向に変化させればよい。このときコア・クラッドの比屈折率Δは0.3%に保ち、光ファイバ軸方向のFドープ量変化量がコアとクラッドで同じとなるようにする。
【0031】先にも述べたように、クラッドのみにFをドープした純粋石英コア光ファイバの損失は0.18dB/km程度であるが、更にFを長さ方向に最大1.35wt%ドープすると、レイーリー散乱の増加により平均損失は約0.21dB/kmとなる。従って、70(=14.8/0.21)kmの本実施例の光ファイバを従来の光ファイバにつなぎ、本実施例光ファイバの端面から21.8dBmの光を入射すれば、本実施例光ファイバから従来光ファイバに入射する点での光強度は、ちょうど従来光ファイバの光入力限界7dBmとなる。結局、通信可能な光ファイバ長が70km延びたことになる。
【0032】上述した第1,第2の実施例ではいずれも本発明の光ファイバの一端における屈折率構造を通常の光ファイバと一致させることができるから、本発明の光ファイバと従来の通常光ファイバとの接続点における反射等の悪影響は生じない。また、力学的歪みを含まないため従来法による歪み添加形光ファイバと異なり、信頼性の高い長距離光伝送路を提供することができる。
【0033】次に、本発明に係る高入力光ファイバの具体的なドーパントの組み合わせについて上記各実施例の場合を含めて列挙すると以下のようになる。
【0034】(1) コア及びクラッドがGeO2 ドープ石英からなる場合。
【0035】(2) コア及びクラッドがGeO2 ドープ石英からなる光ファイバであって、前記コア及びクラッドにドープするドーパントがFである場合。
【0036】(3) コアがGeO2 ドープ石英、クラッドが純粋石英からなる光ファイバであって、前記コア及びクラッドにドープするドーパントがFである場合。
【0037】(4) コア及びクラッドがFドープ石英からなる光ファイバであって、前記コア及びクラッドにドープするドーパントがFである場合。
【0038】(5) コアが純粋石英、クラッドがFドープ石英からなる光ファイバであって、前記コア及びクラッドにドープするドーパントがFである場合。
【0039】以上、実施例ではドーパントとしてGeO2 ,Fを用いた場合について説明したがAl2 3 ,P2 5 等をドーパントとして用いても同じ効果が得られる。また、分散シフト光ファイバ、偏波保持光ファイバのような特殊な構造をもつ光ファイバに対しても全く同様に、ここに説明した効果を得ることが出来る。
【0040】(実施例3)高入力光ファイバの製造方法に関する実施例について説明する。VAD法によって合成されたコア部分がGeO2 ドープ石英、クラッド部分が石英の粒子体を用いて熱処理及び透明ガラス化を行った。透明ガラス化はF雰囲気中でゾーン炉を用いて行った。この粒子体を図8に示す透明ガラス化用のゾーン炉で、下降速度を一定にして徐々に移動させ、導入ガスはSF6 及びHeを用いた。ゾーン炉のヒータ部分2に粒子体がくると、炉内のFの濃度によって粒子体にドープされるFの濃度が固定され透明ガラス化される。この場合、粒子体の場所によって、導入するガスの量を変化させることにより、粒子体にドープされるFの濃度が変化する。
【0041】図9は本発明高入力光ファイバ母材の長手方向での屈折率分布の実施例を示す。試作した光ファイバの長さは約29kmである。図より、長手方向でのFのドーパントの変化が比屈折率差にして約0.2%変化している。また、長手方向におけるコアとクラッドの間の比屈折率差は変化していない。SiO2 にFをドープすると、SiO2 に対する屈折率はFの1wt%あたり0.4%小さくなる。従って、この場合には、光ファイバの始端と終端とでは、Fのドーパント量としては約0.5wt%の変化がある。本実施例光ファイバの伝送損失は、1.3及び1.55μmでそれぞれ0.43dB/km及び0.23dB/kmであり、通常の光ファイバの損失とほとんど差がない。
【0042】一方、光ファイバのコアにFをドーパントとして加えると、Fドープ量1wt%あたり356MHz誘導ブリルアン散乱周波数シフト量が波長1.55μmにおいて変化することが示されている。これは、波長1.3μmにおいては424MHzに対応している。
【0043】図10は図9に示した光ファイバ及び従来の光ファイバにおける、1.3μmでの入力パワーに対する透過パワー及び散乱パワーの測定結果を示す。図より、SBSによる散乱光が急激に増加しはじめる入力パワーレベルは約13dBmである。従来の光ファイバにおいては約7dBmである。従って、本実施例の光ファイバは、入力レベルを従来光ファイバに比べて約6dB向上できた。
【0044】このように、光ファイバの長手方向にFのドーパント量を変化させることによって入射光量のしきい値を向上することができる。
【0045】(実施例4)図11は3層構造による分散シフト光ファイバに本発明を適用した実施例である。本実施例の光ファイバを製造するにあたっては、まずGeO2 のみをドーパントとするセンタコア5、サイドコア6及びドーパントを含まないクラッド7よりなる石英ガラス粒子体を気相反応法により合成する。しかる後に図8R>8の加熱炉1の雰囲気中のF濃度を変えながら焼結し、ガラス化する。図11はこのようにして得られたガラス母材の屈折率分布を示す。実線,一点鎖線は、母材の両端における屈折率分布を表す。破線は、母材中央における屈折率分布を表す。長手方向のFのドープ量の変化による屈折率変化を0.7%とするとき、ブリルアン周波数シフトは、1.3μmで約300MHzとなる。このとき、SBSの抑圧効果は通常光ファイバのブリルアン利得幅50MHzであるから約8dBとなる。このように、本発明光ファイバの屈折率分布はステップ形に限らず、任意の屈折率分布に対して適用が可能である。
【0046】
【発明の効果】以上説明したように本発明によれば、導波構造形成のためにSiO2 ガラスに加えられるドーパント濃度に依存して、その誘導ブリルアン周波数シフト量が変化する性質を利用したので、コアの最大屈折率で規格化した相対屈折率分布を光ファイバ軸方向に一定に保ったまま、光ファイバ軸方向にドーパント濃度を変えることにより、誘導ブリルアン散乱発生のしきい値が高くなり、光ファイバに入射出来る光を強くすることが出来る。その結果、光ファイバによる伝送距離を大幅にのばすことが出来る。
【0047】本発明の光ファイバには歪みが加わっていないため、長期信頼性の高い長距離伝送路を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る光ファイバの軸方向zにおけるコア及びクラッドの屈折率の一例を示す特性図である。
【図2】本発明に係る光ファイバ断面内の屈折率分布の一例を示す特性図である。
【図3】本発明に係るコア・クラッドの比屈折率差Δの軸方向変化の一例を示す特性図である。
【図4】本発明に係るコア・クラッドへ添加したドーパント量の軸方向変化の一例を示す特性図である。
【図5】本発明に係る図4と異なる例のドーパント分布を示す特性図である。
【図6】本発明に係るFをドーパントとした時の軸方向のドーパント量の一例を示す特性図である。
【図7】本発明に係るFをドーパントとした時の軸方向のドーパント量の一例を示す特性図である。
【図8】本発明に係る高入力光ファイバの製造方法におけるフッ素添加用加熱炉の一例を示す構成図である。
【図9】本発明に係る光ファイバ母材の長手方向での屈折率分布の一例を示す特性図である。
【図10】本発明に係る光ファイバ及び従来光ファイバの透過光及び後方散乱光の測定結果の一例を示す特性図である。
【図11】本発明を分散シフト光ファイバに適用した第2の実施例の長手方向での屈折率分布を示す特性図である。
【図12】従来の2重螺旋構造にしたブリルアン散乱抑圧光ファイバケーブルを示す構造図である。
【図13】従来の光ファイバ線引き時の残留歪みを利用したブリルアン散乱抑圧光ファイバの軸方向の残留張力変化を示す特性図である。
【符号の説明】
1…加熱炉、2…ヒータ部分、3…導入ガス供給口、4…粒子体、5…センタコア、6…サイドコア、7…クラッド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 コア及び該コアを囲むクラッドとからなる光ファイバであって、前記コア及びクラッドのドーパント濃度が光ファイバ軸方向に変化しており、且つコアの最大屈折率で規格化した相対屈折率分布が光ファイバ軸方向の任意の位置における断面内で常に一定であることを特徴とする高入力光ファイバ。
【請求項2】 請求項1記載の高入力光ファイバにおいて、コア及びクラッドにドープするドーパントが、GeO2 ,P2 5 ,Al2 3 及びFより選ばれた一種もしくはこれらの組合せよりなることを特徴とする高入力光ファイバ。
【請求項3】 請求項1記載の高入力光ファイバにおいて、コア及びクラッドがGeO2 ドープ石英からなることを特徴とする高入力光ファイバ。
【請求項4】 請求項1記載の高入力光ファイバにおいて、コア及びクラッドがGeO2 ドープ石英からなる光ファイバであって、前記コア及びクラッドにドープするドーパントがFであることを特徴とする高入力光ファイバ。
【請求項5】 請求項1記載の高入力光ファイバにおいて、コアがGeO2ドープ石英、クラッドが純粋石英からなる光ファイバであって、前記コア及びクラッドにドープするドーパントがFであることを特徴とする高入力光ファイバ。
【請求項6】 請求項1記載の高入力光ファイバにおいて、コア及びクラッドがFドープ石英からなる光ファイバであって、前記コア及びクラッドにドープするドーパントがFであることを特徴とする高入力光ファイバ。
【請求項7】 請求項1記載の高入力光ファイバにおいて、コアが純粋石英、クラッドがFドープ石英からなる光ファイバであって、前記コア及びクラッドにドープするドーパントがFであることを特徴とする高入力光ファイバ。
【請求項8】 気相反応により合成した石英ガラス粒子体あるいはGeO2がドープされた石英ガラス粒子体を加熱炉で脱水及びまたはフッ素添加のための加熱処理を行い、その後透明ガラス化して光ファイバ母材を製造する方法において、上記石英ガラス粒子体中の断面内GeO2 ドーパント分布は長手方向に均一とし、加熱炉としてゾーン炉を用い、フッ素添加のための加熱処理工程において、ガラス粒子体をガラス化する長手方向の位置によって添加するフッ素濃度を変化させながら透明ガラス化することを特徴とする高入力光ファイバ母材の製造方法。

【図12】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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