説明

高分子イオン伝導体の製造法

環状エーテル、環状炭酸エステル、及び環状エステル類を用いてプラズマ気相重合法によって電極上に高分子薄膜を形成させて高分子固体電解質としての機能を持つ膜の製造法及びその製造条件の最適化。
【効果】この方法は、イオン伝導薄膜の作製法として非常に簡便で効率的である。膜の性質も均一でち密である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、環状エーテル、環状炭酸エステルおよび環状エステル化合物を用いて気相プラズマ重合反応により高分子イオン伝導体作製のための反応条件の最適化に関する。
【0002】
【従来の技術】電気自動車用バッテリー、家庭用小型電力貯蔵システムへの応用が期待されるリチウム二次電池には安定性、長寿命化、全固体化、薄膜化が求められている。そのため固体電解質の開発は電極と共に重要である。従来から用いられてきた電解質溶液の代わりに高分子固体電解質を使用することは、液漏れの考慮が不要となり、加工性、成型性の改善が期待される。
【0003】従来かかる製法には、適当な溶剤に可溶な高分子の場合はキャステング法で製膜化していた。しかし、溶媒の乾燥時にピンホールが形成されたりする欠点があった。また、イオン伝導体となり得るすべての高分子が溶剤可溶とは限らない。この方法での他の問題点は電解質と電極との接触性が悪く界面抵抗が高くなる場合である。成膜化には、他に、圧着法、蒸着法、光重合法等が知られていてそれぞれの特徴を有しているが、どんな化合物にも適応可能とは言えない。
【0004】しかしながら、プラズマ気相法は種々のモノマーに応用できる利点がある。このプラズマ気相法は既に20数年前にShenらによって発明されたものである。この方法での高分子固体電解質への応用の可能性は小久見ら(J.Electrochem.Soc.135,2649(1988))がオクタメチルシクロテトラシロキサンの系で既に検討している。しかし、環状エーテル、エステル系については、これが初めてのケースである。また、プラズマ気相法でのイオン電解質の簡便な導入技術は確立していない。ここで適用するプラズマ重合物のモノマー類は非水電解液としてアルカリ金属塩の溶解に使用されてきたものであり、室温でのイオン伝導度がかなり高いことが知られている。
【0005】それらの中には、例えば、環状エーテル類では、1,4‐ジオキサン、1,3‐ジオキソラン、4‐メチル‐1,3‐ジオキソラン、2‐メトキシ‐1,3‐ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2‐メチル‐テトラヒドロフラン。環状炭酸エステル類では、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、2‐メチル‐プロピレンカーボネート、環状エステル類では、γ‐ブチロラクトン、γ‐バレロラクトン等である。これらの電解液を重合した場合にイオン伝導度にどのような影響を与えるかは未解決であった。
【0006】
【発明が解決しようとした課題】プラズマ気相重合法の利点は電極と高分子薄膜面の密着性がよく界面抵抗が比較的低いことであろう。電池を構成する上で短い工程で製造できることが望ましい。そこで、薄膜電極は真空蒸着法によって同一反応器内で一体成型する方法(特開昭61‐214131号)も知られており、プラズマ気相重合法と組み合わせると工程が簡略化できる。また、装置をいちいち停止せずにイオン電解質をスプレードライ法で注入可能かを検討することは製造工程の短縮の上からも重要である。これは電池を構成して行く上の必要技術であり、多層化、積層化につながる問題であり充分検討に値する。また、反応条件をできるだけ穏和に行い省エネルギー、省資源化できるかを検討することも必要である。
【0007】
【問題を解決するための手段】先づ、図1に示すようなプラズマ反応装置を用いて薄膜の作製法を以下に示す。1.の真空系を通して真空ポンプによって、6.のベルジャー内を減圧状態にして置く。2.のモノマー容器に所定のモノマーを適量評量して入れる。モノマーのガス化に際して適量のガスが流れるように必要な温度にするため、3.の加熱ないし冷却装置で適切な温度を設定する。モノマーの導入量は、4.の流量計を用いて、5.のアルゴン流量を調整しながら行う。8.のガスシャワー出口よりアルゴンとモノマー混合ガスを、9.の薄膜作製台に吹き付ける。放電電力を適当な値に設定してプラズマ重合反応を所望時間行う。一旦放電電力を止めて、7.の電解質液導入口よりコックを開いて、8.のシャワー出口より高分子薄膜上にスプレードライを行って電解質と高分子複合体を形成させる。電解質濃度はスプレー時間に依存する。モノマーを蒸発させるためにしばらく真空状態で放置する。電解質が中まで浸透するには時間を要するがこれは後処理で行う。一定時間経過後、再び低い放電電力を掛けて電解質を高分子膜で覆う。これは、短時間で充分である。以上のような工程を経て目的の高分子薄膜は作製できる。詳細な実験条件については実施例で示す。
【0008】
【発明の目的】本発明の新しい点はモノマーにイオン伝導体になり得る化合物を選択して、プラズマ重合法を適用して高分子固体電解質としての機能を有する薄膜を作成すること。更に、電解質の導入を含めて、電池の製造工程を短縮するための最適な製造条件を見いだすことにある。
【0009】
【実施例】以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
【0010】(実施例1)まず初めに環状エーテル類で実施例を示す。プラズマ反応器内に電極を置き、その表面に高分子イオン伝導体を気相プラズマ反応によって付着させる。そのためには、ポリエチレンオキサイド様イオン伝導体を作成するために、モノマーとして、1,4‐ジオキサンを用いた。高真空状態で反応させるためにモノマー容器を−15℃に冷却して行う。プラズマ反応器内の真空度が10-2torr程度に達したらアルゴンガスを流して可及的に酸素を除去した後にアルゴンとモノマー混合ガスをプラズマ反応器に導入する。流量計を調整して20ml/minとする。放電電力を100w加えてプラズマ反応を開始させる。この時の真空度は0.28〜0.31torr程度が望ましい。モノマー流量(F)は1.5〜2.5g/hrが好適であった。2.5hr反応させると1μmの薄膜が作成できる。放電電力を一時中断して上部の導入路からモノマーに溶解した電解質例えば、LiClO4,LiBF4等を2〜3回スプレーした後に30分程度真空乾燥を行う。この間に電解質はポリマーと複合体を形成するから次のステップで行うプラズマ照射での分解をかなり防ぐことができる。更に、プラズマ照射を25Wに下げて30分間継続する。また、電極としてカーボン繊維を使用した場合も同一条件で繊維表面に高分子膜が形成されていることが確認できた。
【0011】(実施例2)実施例1と同一モノマーを使用して温度と流量を変えて放電電力50Wにしてプラズマ重合反応を行った。アルゴンガスキャリア流量(Fl:(ml/min))とモノマー容器設定温度(Ti:(℃))との間に、Fl=−1.6Ti−4の関係式が成り立つことが分かった。即ち、設定温度を−5℃にしたとき、Fl=5(ml/min)にすることができる。これは、アルゴンの消費量を−15℃のときの1/4に減らせることを意味する。但し、未反応モノマーの流失量は増加するから、コスト上どちらが有利かの比較が必要である。このポリマーのイオン伝導度は、10-6Scm-1程度であった。ここで電解質量の最適化は行っていないのでイオン伝導度はもっと改善できるものと思われる。外の実施例でも同様である。
【0012】(実施例3)主鎖の酸素の不規則性からポリエチレンオキサイドより結晶化度が下がることが期待され、従ってイオン伝導度も改善される目的で、1,3‐ジオキソランを用いた。反応条件は実施例1にほぼ順じて行うことができる。このモノマーの沸点は低いことからモノマー容器を−30℃に冷却して行った。その他の点については実施例1とほぼ同じ条件とした。実施例2で行った最適化を同様にして求めると、設定温度と流量との関係式は、Fl=−2.2Ti−48.2(Ti<−23℃)となった。従って、実施例2程度の高温シフトさせる温度メリットは少ない。また、イオン伝導度も上がらず10-7Scm-1程度であった。
【0013】(実施例4)次に環状炭酸エステルの系の実施例を示す。ポリマー主鎖にエーテル基をはさんだ状態でカルボニル基を導入した場合に、イオン伝導度への影響を見るためプロピレンカーボネートを用いた。このモノマーの沸点は1気圧で241℃と高いめにモノマー容器を110℃に加熱して行った。1μmの薄膜を作製するのに4hr必要であった。その外の反応条件は実施例1とほぼ同一である。イオン伝導度は実施例3と同程度であった。
【0014】(実施例5)次に環状エステルの系の実施例を示す。ポリマー主鎖にエーテル基とカルボニル基を導入した場合に、イオン伝導度への影響を見るためγ‐ブチロラクトンを用いた。このモノマーの沸点は1気圧で204℃と若干下がるためモノマー容器を47℃に加熱して行った。その外の反応条件は実施例1とほぼ同一である。この系は一番室温に近いからコスト的には有利である。しかし、イオン伝導度に関しては改善が見られなかった。
【0015】
【発明の効果】本発明の方法に従えば、各種環状エーテル及び環状ラクトンを用いてプラズマ気相重合法によって極めて容易にイオン伝導性を有する高分子薄膜を再現性良く、より短時間で作製することができる。電解質の導入も容易であることが分かった。しかし、イオン伝導度は現在のところ従来知られているポリエチレンオキサイド系の値と余り変わらず今後の改善が必要である。本発明を更に発展させていけば、電極と高分子電解質を積層化していくのに、キャステング法等に較べて容易でかつ膜の均一なものが製造できる。電極にカーボン繊維を使用する場合は、反応器の中に巻取り機構を新たに導入するだけで工程が簡単でありながら連続的に多量に製造できるようになる。また、この方法はモノマーを目的に応じて選択すればセパレータ膜の製造にも応用できる。このち密な膜はリチウムデンドライトの形成に際し起きる電極間の短絡を防ぐと共にイオン伝導度を上げる目的で電解液を含浸しやすいものを選択することもできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1にプラズマ気相反応の概略図を示す。
【符号の説明】
1 真空系及び真空ポンプ
2 モノマー容器
3 加熱ないし冷却装置
4 流量計
5 キャリアガス導入口
6 プラズマ反応容器
7 電解質液導入口
8 RF電極兼ガスシャワー出口
9 薄膜作製台

【特許請求の範囲】
【請求項1】環状エーテル、環状炭酸エステル、環状エステル類を用いてプラズマ気相反応による高分子イオン伝導体の薄膜作製において反応条件の最適化を行うことを特徴とする製造法。
【請求項2】前記環状エーテルとは、1,3‐ジオキソラン、1,4‐ジオキサン等の化合物を含み、環状炭酸エステルとは、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の化合物を含み、環状エステルとは、γ‐ブチロラクトン、γ‐バレロラクトン等の化合物を用いた請求項1に記載の薄膜製造法。
【請求項3】前記環状エーテル、環状炭酸エステルおよび環状エステルの反応条件の最適化とは、モノマー容器温度をそれぞれ−30〜0℃、110〜150℃、および45〜55℃の範囲で行い、真空度0.2〜0.4Torr、アルゴンガスキャリアの流速を5〜20ml/minの範囲内でプラズマ気相反応を行う請求項1に記載の製造法。

【図面1】
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【公開番号】特開平5−320324
【公開日】平成5年(1993)12月3日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−128692
【出願日】平成3年(1991)4月30日
【出願人】(000001144)工業技術院長 (75)
【指定代理人】
【氏名又は名称】工業技術院 大阪工業技術試験所長