高分子ゲル及びその製造方法
【課題】 中性又は弱電解質の第一のモノマーを使用した第一の網目構造体であっても、多量の第二のモノマーを第一の網目構造中に導入できる高分子ゲルの製造方法の提供。
【解決手段】 以下の工程を含む、高分子ゲルの製造方法。
1)架橋構造を有する第一の網目構造体中に分子ステントを導入する工程;
及び
2)分子ステントを導入した第一の網目構造体内に第二のモノマーを導入して重合する工程。
【解決手段】 以下の工程を含む、高分子ゲルの製造方法。
1)架橋構造を有する第一の網目構造体中に分子ステントを導入する工程;
及び
2)分子ステントを導入した第一の網目構造体内に第二のモノマーを導入して重合する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セミ相互侵入網目構造ゲル又は相互侵入網目構造ゲル等の高分子ゲル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子ゲルは、低摩擦特性や物質透過性、外的刺激に対する能動的な生物様運動特性など、固体や液体が単独では持ち得ない興味深い性質を数多く持つ。しかし、これらの特性を生かして日常生活や医療、工業の分野でゲルを用いようとする場合、ポリビニルアルコール(PVA)ゲルやポリ−2−ヒドロキシエチルメタクリレート(PHEMA)ゲルのような一部のゲルを除き、殆どが機械的強度に乏しく脆いというのが現状である。もし高い強度を持つゲル(特にハイドロゲル)ができれば、またその原理を理解し自由に機械的強度を調整できるようになれば、生活品や工業的な利用は勿論の事、ゲルの持つ物質透過性を生かした人工血管や低摩擦表面を有するゲルの人工関節軟骨への応用など、実用レベルの高機能性バイオマテリアルの開発が可能となり、高分子ゲルの利用価値が飛躍的に高まることが期待される。
【0003】
そこで、機械的強度に優れた高分子ゲルを得るため、第一のモノマー成分を重合し架橋することにより形成された網目構造中に、第二のモノマー成分を導入し、第二のモノマー成分を重合し場合により架橋することにより得られる、セミ相互侵入網目構造ハイドロゲル又は相互侵入網目構造ハイドロゲルにおいて、第一のモノマー成分の10モル%以上が、電荷を有する不飽和モノマーであり、第二のモノマー成分の60モル%以上が、電気的に中性である不飽和モノマーであり、第一のモノマー成分量:第二のモノマー成分量が、モノマー換算したモル比で1:2〜1:100であり、かつ、第二のモノマー成分を重合し架橋する場合には、第一のモノマー成分を重合し架橋する場合よりも架橋度を小さく設定することを特徴とする、セミ相互侵入網目構造ハイドロゲル又は相互侵入網目構造ハイドロゲルが提案されている(特許文献1)。当該方法によれば、第一のモノマーとして、10モル%以上が電荷を有する不飽和モノマーを使用することによって、第一のモノマー成分により得られた網目構造の骨格同士が電気的に反発して膨潤しやすく、当該網目構造の中に第二のモノマーが入り込みやすくなるため、強度の高いゲルを得ることができた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第03/093337号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記の合成法により得られるゲルは、第一のモノマーの10モル%以上が、電荷を有する不飽和モノマーである必要があるので、第一の網目構造としての選択肢が限定される。そこで、本発明は、中性又は弱電解質の第一のモノマーを使用した第一の網目構造体であっても、多量の第二のモノマーを第一の網目構造中に導入できる高分子ゲルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明(1)は、以下の工程を含む、高分子ゲルの製造方法である。
1)架橋構造を有する第一の網目構造体中に分子ステントを導入する工程;
及び
2)分子ステントを導入した第一の網目構造体内に第二のモノマーを導入して重合する工程。
【0007】
本発明(2)は、前記分子ステント導入後の第一の網目構造体内の浸透圧πstentと、前記第一の網目構造体の初期弾性率E1st netとが下記式(1)の関係を満足する、前記発明(1)の製造方法である。
πstent / E1st net ≧ 1.5 (1)
【0008】
本発明(3)は、網目構造体内での分子ステントの拡散係数Dstentと、網目構造体内での第二モノマーの拡散係数D2nd monoとの関係が下記式(2)の関係を満足する、前記発明(1)又は(2)の製造方法である。
D2nd mono / Dstent ≧ 2 (2)
【0009】
本発明(4)は、前記分子ステントが、電解質ポリマーであることを特徴とする、前記発明(1)〜(3)のいずれか一つの製造方法である。
【0010】
本発明(5)は、前記電解質ポリマーが、スルホン酸系モノマー又はその塩、4級アミン塩系モノマーからなる群から選ばれる一又は二種以上の電解質原料モノマーを重合して得られる強電解質ポリマーであることを特徴とする、前記発明(4)の製造方法である。
【0011】
本発明(6)は、前記工程1)において、電解質原料モノマーを前記第一の網目構造体内に導入し重合して電解質ポリマーを合成することにより、分子ステントを導入することを特徴とする、前記発明(4)又は(5)の製造方法である。
【0012】
本発明(7)は、前記工程1)において、分子ステント存在の下で、第一のモノマーと架橋剤を重合して第一の網目構造体を形成する工程である、前記発明(1)〜(5)のいずれか一つの製造方法である。
【0013】
本発明(8)は、前記工程2)の後に、以下の工程を有することを特徴とする、前記発明(1)〜(7)のいずれか一つの製造方法である。
3)分子ステントを除去する工程。
【0014】
本発明(9)は、以下の工程を含む方法により得られる、高分子ゲル。
1)架橋構造を有する中性の第一のモノマーからなる第一の網目構造体中に分子ステントを導入する工程;
及び
2)分子ステントを導入した第一の網目構造体内に第二のモノマーを導入して重合する工程。
【0015】
本発明(10)は、第一のモノマー成分量:第二のモノマー成分量が、モノマー換算したモル比で1:2〜1:100である、前記発明(9)の高分子ゲルである。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る製造方法によれば、第一のモノマーの種類に限定されずに、第一の網目構造中に多量の第二のモノマーを導入できるため、中性や弱電解質モノマーであっても、高い強度を有する高分子ゲルを得ることができる。本発明は、分子ステントを用いることによって、第一の網目構造体内の物質の濃度を高めて浸透圧を高めることによって、第一の網目構造体の網目を拡張して多量の第二のモノマーを導入することができる。特にポリマーを用いることにより、第一の網目構造内に分子ステントを留まらせることができ、第二のモノマーが網目構造体に進入する前に分子ステントが網目外に抜けてしまうことを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、相互侵入網目構造ゲルの概念構成図である。
【図2】図2は、セミ相互侵入網目構造ゲルの概念構成図である。
【図3】図3(a)は、ステントの種類に対する相対厚さ(PHEAゲルの厚さを1とした)の測定結果である。図3(b)は、ステントの種類に対する相対初期弾性率の測定結果である。
【図4】図4は、分子ステントを導入した第一の網目構造体の相対Enの値を示した図である。
【図5】図5は、高分子ゲルの応力−歪曲線を示す。
【図6】図6は、高分子ゲルの損失エネルギーを示す。
【図7】図7(a)はステント濃度と相対厚さの関係を示す図であり、図7(b)はステント濃度に対する相対初期弾性率の関係を示す図である。
【図8】図8は、規格化ステント濃度に対する相対Enの関係を示す図である。
【図9】図9は、各種高分子ゲルの応力‐歪曲線を示す図である。
【図10】図10は、各種高分子ゲルの損失エネルギーを示す図である。
【図11】図11(a)は分子ステントを導入した各種第一の網目構造体の厚さを示す図であり、図11(b)は初期弾性率を測定した結果を示す図であり、図11(c)は単位高分子鎖あたりの弾性率を示した図である。
【図12】図12は、各種高分子ゲルの応力歪曲線である。
【図13】図13は、各種高分子ゲルの応力歪曲線である。
【図14】図14は、各種高分子ゲルの応力歪曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
まず、本明細書に記載された用語の定義につき説明する。
【0019】
「相互侵入網目構造ゲル」とは、ベースとなる網目構造に、他の網目構造が、ゲル全体において均一に絡みついており、結果としてゲル内に複数の網目構造を形成しているようなゲルを指す。例えば、この種のゲルは、図1に示すように、複数の架橋点1を有する第一の網目構造Aと、複数の架橋点2を有する第二の網目構造Bとから構成され、これら第一の網目構造Aと第二の網目構造Bが、互いに網目を介して物理的に絡まり合っている。
【0020】
「セミ相互侵入網目構造ゲル」とは、ベースとなる網目構造に、直鎖状ポリマーが、ゲル全体において均一に絡みついており、結果としてゲル内に複数の網目構造を形成しているようなゲルを指す。例えば、この種のゲルは、図2に示すように、複数の架橋点3を有する第一の網目構造Cと、直鎖状ポリマーDとから構成され、これら第一の網目構造Cと直鎖状ポリマーDが、互いに網目を介して物理的に絡まり合っている。なお、図1及び図2において、第一の網目構造A及びCを、第二の網目構造B及び直鎖状ポリマーDより太く描いたが、これは、便宜的に太さを変えて描いたものである。また、「相互侵入網目構造ゲル」及び「セミ相互侵入網目構造ゲル」は、ダブルネットワーク型のみでなく、三重や四重以上の網目構造を有するゲルをも含む概念である。
【0021】
「架橋度」とは、モノマーの仕込みモル濃度に対する架橋剤のモル濃度の比をパーセントで表した値をいう。なお、実際には、重合に関与しなかったモノマーや架橋に関与しなかった架橋剤も僅かにある場合があるが、この際も、本明細書におけるゲルの架橋度は、前記の通りとする。
【0022】
尚、本明細書にいう「ハイドロゲル」とは、溶媒が水であるゲルをいうが、影響しない程度の量、水可溶性溶媒(例えばアルコール)等を含有していてもよい。
【0023】
本発明に係る高分子ゲルは、少なくとも以下の工程を含む方法により製造される。
1)架橋構造を有する第一の網目構造体中に分子ステントを導入する工程;
及び
2)分子ステントを導入した第一の網目構造体内に第二のモノマーを導入して重合する工程。
【0024】
工程1)
工程1)においては、架橋構造を有する第一の網目構造体中に分子ステントを導入する。当該工程を経ることにより、分子ステントが第一の網目構造体の間隙に入り込んで、ゲルを膨潤させて間隙を広げるため、工程2)においてモノマーが当該網目構造の内に入り込みやすくなる。そのため、第一の網目構造体内に十分な量の第二のモノマーを導入することができるため、高い強度を有する高分子ゲルを得ることができる。
【0025】
工程1)において用いる「分子ステント」とは、網目構造体の網目拡張作用を有する物質を意味する。即ち、このような作用を有する物質は、あたかも血管を広げる医療機器であるステントのような役割を果たすので、分子ステントと呼ぶ。
【0026】
分子ステントは、少なくとも、第一の網目構造体内の浸透圧を、第一の網目構造体初期弾性率より高めることにより、網目構造体内の骨格を広げることが可能となり、更に、第二のモノマー導入の際に当該分子ステントが第一の網目構造体内から容易に抜け出さない程度の低い拡散性を有することにより機能する。
【0027】
分子ステントは、第一の網目構造体内に導入した際に、第一の網目構造体の初期弾性率よりも高い浸透圧を示すようなものを選択することが好適である。
即ち、分子ステント導入後の第一の網目構造体内の浸透圧πstentと、前記第一の網目構造体の初期弾性率E1st netとが下記式(1)の関係を満足することが好適である。
πstent / E1st net ≧ 1.5 (1)
【0028】
上記式(1)の関係を満足することにより、第一の網目構造体内の浸透圧が、第一の網目構造体自身の初期弾性率の値を上回ることとなり、第一の網目構造体内に水等の溶媒が浸入し、網目構造を膨潤させることができるようになる。πstent / E1st netは、2以上であることがより好適であり、4以上であることが更に好適である。
【0029】
ここで、第一の網目構造内の浸透圧πstentは、分子ステントを導入した第一の網目構造体の平衡膨潤時の初期弾性率の値で代用する。分子ステントが第一の網目構造内に導入された場合、当該網目構造の平衡膨潤状態においては、網目構造内に水が浸入する圧力(すなわち、浸透圧)が網目構造の弾性率と等しい状態にあることを意味するためである。また、分子ステントとして電解質ポリマーを用いた場合には、全体の浸透圧πstentは、解離イオン由来の浸透圧πionとポリマー由来の浸透圧πpolyの和に概ね等しくなる。浸透圧は分子数と比例関係にあるため、電解質ポリマーの場合、解離イオンの数が、ポリマーの数よりも圧倒的に大きな数となるため、πion>>πpolyとなり、実質的に解離イオンの浸透圧πionは分子ステントを導入した第一の網目構造体の平衡膨潤時の初期弾性率の値に等しくなる。
【0030】
網目構造内での分子ステントの拡散係数Dstentと、網目構造内での第二モノマーの拡散係数D2nd monoとの関係が下記式(2)の関係を満足することが好適である。
D2nd mono / Dstent ≧ 2 (2)
【0031】
上記式(2)を満足する分子ステントを使用することによって、分子ステントが第一の網目構造体から放出される速度よりも、第二のモノマーが第一の網目構造内に導入される速度のほうが速くなるため、第二のモノマーを多量導入することができる。D2nd mono/Dstentは、10以上がより好適であり、100以上がさらに好適である。尚、網目構造内での拡散係数は実施例に記載の方法により計算される。
【0032】
分子ステントの具体的な例としては、電解質ポリマー、電解質錯体、電解質ミセル、電解質ナノパーティクル等が挙げられる。これらの中でも電解質ポリマーを使用することが好適である。電解質ポリマーを使用することにより、浸透圧が大きくなるので、第一の網目構造体を膨潤し易くなる。浸透圧は、一般的に系の中に存在する分子の数に依存する。すなわち、電解質ポリマーを用いた場合には、上述のように電解質モノマー由来のイオン解離基が解離してイオンが多量に存在することになり、浸透圧を高めることが可能となる。また、ポリマーであることにより、第一の網目構造体内から分子ステントのポリマー成分が放出されにくくなるので、結果的に、解離したカウンターイオンもまた第一の網目構造体内に保持されることとなる。
【0033】
電解質ポリマーとしては、例えば、酸性基(例えば、スルホン酸基)や塩基性基有する不飽和モノマー等の電解質原料モノマーの重合体が挙げられる。より具体的には、電解質原料モノマーとして、例えば、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、スチレンスルホン酸ナトリウム(NaSS)等のスルホン酸系モノマー又はその塩や、アクリル酸等のカルボン酸モノマー又はその塩や、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドハロゲン化メチル4級塩(DMAPAA−Q)、ジメチルアミノエチルアクリレートハロゲン化メチル4級塩(DMAEA−Q)等の4級アミン塩系モノマー等が挙げられる。これらの中でも、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、スチレンスルホン酸ナトリウム(NaSS)等のスルホン酸系モノマー又はその塩、及び、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドハロゲン化メチル4級塩(DMAPAA−Q)、ジメチルアミノエチルアクリレートハロゲン化メチル4級塩(DMAEA−Q)等の4級アミン塩系モノマーからなる群から選ばれる、一種又は二種以上のモノマーを重合して得られる強電解質ポリマーを用いることが好適である。強電解質ポリマーであることにより、電離し易くなるため、第一の網目構造内の浸透圧を高めることが出来る。
【0034】
分子ステントとして強電解質ポリマーを用いる場合には、強電解質のモノマーを第一の網目構造体内に導入して重合することにより網目構造体の内部に分子ステントを導入することが好適である。ここで、第一の分子構造体の中に、強電解質モノマーを導入する際に、溶液の濃度を高めて、浸透圧を高くすることによって、第一の網目構造体内に多くの分子ステントのモノマーが導入される。内部に強電解質モノマーが導入された状態で重合することにより、第一の網目構造体内に分子ステントを導入することができる。
【0035】
その他、分子ステント存在の下で、第一のモノマーと架橋剤を重合して第一の網目構造体を形成することにより、第一の網目構造体内に分子ステントを導入することもできる。このような方法とすることにより、合成のステップを一段階減らせるので、製造がより簡便になる。また、電解質ポリマーのような重合体に限定されず、内部で浸透圧を高めることが出来る様々な物質を分子ステントとして用いることができるようになる。
【0036】
ここで、分子ステントを導入した第一の網目構造体の膨潤度は、相対厚さにおいて、1.5以上であることが好適であり、1.8以上がより好適であり、2.0以上が更に好適である。上限は特に限定されないが、例えば10.0である。尚、ここで相対厚さとは、分子ステントを導入した網目構造体の平衡膨潤後の厚みを、分子ステントを導入していない網目構造体の平衡膨潤後の厚みで割った値を意味する。このような膨潤度が得られる程度に分子ステントが、網目構造体内に入り込み膨潤させることによって、工程2)においてモノマーの導入量が多くなる。
【0037】
また、分子ステントを導入した第一の網目構造体の剛直性は、単位高分子鎖あたりの弾性率Enにおいて、10MPa以上であることが好適であり、30MPa以上がより好適であり、50MPa以上がより好適である。上限は特に限定されないが、例えば、1000MPa以下である。尚、単位高分子鎖あたりの弾性率Enは、弾性率×(相対厚さ)3により求めた。ここで、相対厚さとは、厚み変化率を意味する。すなわち、上記Enは、測定によりえられた弾性率が網目構造体の膨潤度の変化による体積変化に依存するため、網目構造体を構成する高分子あたりの値に規格化して評価するための値である。すなわち、Enが高い値を示すということは、網目構造体の高分子が伸張した状態にあることを意味するので、分子ステントが網目を拡張していることの指標ともなる。また、より高い剛直性を有することによって、後述する工程2)により得られる高分子ゲルが高い強度を有する材料となる。
【0038】
ここで工程1)において用いられる架橋構造を有する第一の網目構造体としては、特に限定されないが、化学架橋構造を有する網目構造体であることが好適である。網目構造体の形状としては、全体にわたって連続的に存在する塊状の網目構造体であってもよいし、粒子状の網目構造体であってもよい。特に高強度の高分子ゲルを得るためには、前者の塊状の網目構造体であることが好適である。また粒子状の網目構造体は、例えば塊状の網目構造体を粉砕したものを用いてもよい。
【0039】
第一の網目構造体を構成するモノマーとしては、電気的に中性である不飽和モノマー、電荷を有する不飽和モノマーや、これらの共重合体が挙げられるが、これらの中でも、電気的に中性である不飽和モノマー又は弱電解質モノマーを用いることが好適であり、これらの中でも電気的に中性である不飽和モノマーを用いることがより好適である。即ち、電気的に中性であるモノマーは、網目構造を構成するポリマーが電荷を有しないので、互いに反発せず、十分に膨潤しないため、続いて導入しようとするモノマーが第一の網目構造体内に進入しにくいという問題を有していたが、本発明に係る分子ステントを使用することによって、中性モノマー等の第二のモノマーの進入し難い第一の網目構造体を使用した場合であっても、十分に第二のモノマーを第一の網目構造体内に導入させることができる。
【0040】
電気的に中性である不飽和モノマーとしては、例えば、アクリルアミド(AAm)、N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)、ジメチルアクリルアミド(DMAAm)等のアクリルアミド系モノマーや、酢酸ビニル、ビニルピリジン、スチレン(St)等のビニル系モノマーや、メチルメタクリレート等のアルキルアクリレート系モノマーや、ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)等のヒドロキシアルキルアクリレート系モノマーや、トリフルオロエチルアクリレート等のフッ素含有不飽和モノマーを挙げることができる。
【0041】
電荷を有する不飽和モノマーとしては、好適には、酸性基(例えば、カルボキシル基、リン酸基及びスルホン酸基を)や塩基性基(例えば、アミノ基)有する不飽和モノマーを、例えば、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、アクリル酸(AAc)、メタクリル酸又はそれらの塩を挙げることができる。また、本発明においては、特に弱電解質のモノマー等により製造された網目構造体のように膨潤が十分に起きないものであっても、第一の網目構造体として使用することが可能となる。
【0042】
架橋剤は、特に限定されず、化学架橋を形成する公知の架橋剤を使用することができるが、架橋重合すべき有機モノマーに対応して種々のものが選択され、例えば、二以上の(メタ)アクリル基を有するアクリル系架橋剤が挙げられる。より具体的には、有機モノマーとしてAMPS、AAm、AAcを用いた場合には、N,N′−メチレンビスアクリルアミドを、有機モノマーとしてStを用いた場合には、エチレングリコールジメタクリレートを夫々使用することができる。
【0043】
重合開始剤は、特に限定されず、公知の重合開始剤を使用することができるが、重合すべき有機モノマーに対応して種々のものが選択される。例えば、有機モノマーとしてAMPS、AAm、AAcを熱重合する場合には、過硫酸カリウムなどの水溶性熱触媒、過硫酸カリウム−チオ硫酸ナトリウムなどのレドックス開始剤を用いることができ、光重合する場合には、光増感剤として2−オキソグルタル酸を用いることができる。また、有機モノマーとしてStを熱重合する場合には、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、過酸化ベンゾイル(BPO)などの有機溶媒に溶解性の熱触媒を用いることができ、光重合する場合には、光増感剤としてベンゾフェノンを使用することができる。
【0044】
また、第一の網目構造を有するゲルを浸漬する溶液の溶媒は、特に限定されず、公知の溶媒を使用することができる。
【0045】
工程2)
工程2)においては、膨潤させた第一の網目構造体内に第二のモノマーを導入して重合する。第二のモノマーは、網目状に重合して第二の網目構造体を導入してもよいし、直鎖的に重合して第二のポリマーを導入してもよい。網目状に重合することによって、相互進入網目構造ゲルを得ることができる。一方、直鎖的に重合した場合には、セミ相互侵入網目構造ゲルを得ることができる。
【0046】
ここで、第二のモノマーとしては、電気的に中性である不飽和モノマー、電荷を有する不飽和モノマーや、これらの共重合体が挙げられるが、これらの中でも、電気的に中性であるモノマーを用いることが好適である。電気的に中性なモノマーを用いることにより、第二の網目構造体もしくは第二のポリマーが大変形においても破壊しにくい。
【0047】
電気的に中性である不飽和モノマーとしては、例えば、アクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、ジメチルアクリルアミド等のアクリルアミド系モノマーや、酢酸ビニル、ビニルピリジン、スチレン等のビニル系モノマーや、メチルメタクリレート等のアルキルアクリレート系モノマーや、ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)等のヒドロキシアルキルアクリレート系モノマーや、トリフルオロエチルアクリレート等のフッ素含有不飽和モノマーを挙げることができる。
【0048】
電荷を有する不飽和モノマーとしては、好適には、酸性基(例えば、カルボキシル基、リン酸基及びスルホン酸基を)や塩基性基(例えば、アミノ基)有する不飽和モノマーを、例えば、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、アクリル酸(AAc)、メタクリル酸又はそれらの塩を挙げることができる。
【0049】
架橋剤としては、工程1)と同様の架橋剤を使用できる。尚、工程1)の架橋剤と工程2)の架橋剤とは、種類が同じであっても異なっていてもよい。重合開始剤としては、工程1)と同様の重合開始剤を使用できる。尚、工程1)の重合開始剤と工程2)の重合開始剤とは、種類が同じであっても異なっていてもよい。また、溶媒も工程1)と、同様に公知の溶媒を用いることができるが、工程1)と工程2)と同種の溶媒を使用することが好適である。
【0050】
本発明に係る高分子ゲル中の第一のモノマー成分量:第二のモノマー成分量が、モノマー換算したモル比で1:2〜1:100(好適には1:3〜1:50、より好適には1:3〜1:30)であることが好適である。このような構成を採ることにより、ゲルに、高い機械強度等の特性を付与することができる。
【0051】
次に、重合・架橋条件等につき説明すると、まず、第一の網目構造を有するゲルに拡散した第二のモノマー成分の重合反応は、加熱するか、または紫外線のような光を照射するか、いずれかにより行うことができる。この重合反応は、前記ゲルの第一の網目構造を壊さない条件下でなされる。また、架橋反応は、所定濃度の架橋剤、反応開始剤を第二のモノマー成分と一緒に溶媒中に混合し、第一の網目構造を有するゲルに拡散させる。具体的には、第一の網目構造を有するゲルを、架橋剤を含有する第二のモノマー溶液に浸漬し、24時間低温下で拡散させる。なお、拡散途中で架橋してしまうことを避けるために、室温以下、4℃付近が好ましい。
【0052】
また、第二のモノマー成分を重合し架橋する場合には、第一のモノマー成分を重合し架橋する場合よりも架橋度を小さく設定することである。即ち、第二の網目構造(第二のモノマー成分を重合し架橋することにより形成される網目構造)の架橋度を、第一の網目構造のそれよりも小さくするというものであり、その最も極端な例が、第二の網目構造の架橋度が0(即ち、第二のモノマー成分を重合するが架橋しない場合)である、セミ相互侵入網目構造ハイドロゲルの形態である。このような構成を採ることにより、ゲルに、これまでにない機械強度等の特性を付与することができる。
【0053】
具体的には、第一の網目構造を形成させるために使用する架橋剤の量と、第二の網目構造を形成させるために使用する架橋剤の量を、各々の網目構造の原料モノマーと関連づけて適宜調整する。好適には、第一の網目構造の架橋度が0.1〜50mol%であり、第二の網目構造の架橋度が0.001〜20mol%となるように、より好適には、第一の網目構造の架橋度が1〜20mol%であり、第二の網目構造の架橋度が0.01〜5mol%となるように、最も好適には、第一の網目構造の架橋度が2〜10mol%であり、第二の網目構造の架橋度が0.03〜1mol%となるようにする。特に、ゲルの含水率を小さくしたり(即ち、膨潤度を小さくする)、硬くする(即ち、弾性率を大きくする)には、両方の架橋度を上げるようにすればよい。
【0054】
工程3)
工程3)においては、分子ステントを除去する。当該工程は任意工程であるが、分子ステントを取り除くこともできる。分子ステントの除去方法としては、高分子ゲルを水中等の溶媒中に浸漬する方法などが挙げられる。
【0055】
以上、本方法により得られる高分子ゲルは、第一の網目構造体の種類に限定されることなく、高い強度を有する。特に、応力−歪曲線において、早い段階で降伏点が観測され、その後、応力が徐々に上昇しつつ、高い破断伸びを示す。高分子ゲルの破断のための損失エネルギーが、高くなる傾向にあり、破断しにくいゲルが得られるという性質を有する。
【0056】
また、第一の網目構造体の架橋度を調整することによって、得られる高分子ゲルの性質を変化させることができる。PAMPS/PAAm相互進入網目構造ゲルのように高強度の高分子ゲルを得ようとする場合には、第一の網目構造体の架橋度は1〜10mol%が好適であり、1.5〜8mol%がより好適であり、2〜4mol%が更に好適である。
【0057】
一方、高い破断歪を有する高分子ゲルを得ようとする場合には、第一の網目構造体の架橋度は0.03〜6mol%が好適であり、0.1〜4mol%がより好適であり、0.3〜2mol%が更に好適である。
【0058】
また、高い降伏応力を有する高分子ゲルを得ようとする場合には、第一の網目構造体の架橋度は2〜20mol%が好適であり、3〜15mol%がより好適であり、4〜12mol%が更に好適である。
【0059】
まず、高分子ゲルの圧縮破断応力は、好適には1〜100MPaであり、より好適には5〜50MPaであり、最も好適には10〜40MPaである。更に、高分子ゲルの引張破断応力は、好適には0.1〜100MPaであり、更に好適には0.1〜50MPaであり、最も好適には0.5〜5MPaである。
【0060】
「圧縮破断応力」とは、(圧縮破断時の力/元の断面積)の式で算出され、また、「圧縮破断歪」とは、(元の長さ−圧縮破断時の長さ)/元の長さの式で算出される。これらは、以下の方法Aで測定可能である。
測定方法A:ゲルを直径9mm、厚さ5mmの円盤状に切り出し、前記ゲルを2枚の平板プレート間に挟み、TENSILON(商標)引張試験機(ORIENTEC社製型式:RTC−1310A)を用いて圧縮させる圧縮破断応力。圧縮速度は10%/分とする。
【0061】
「引張破断応力」とは、(引張破断時の力/元の断面積)の式で算出され、また、「引張破断歪」とは、(引張破断時の長さ−元の長さ)/元の長さの式で算出される。これらは、以下の方法Bで測定可能である。
測定方法B:ゲルを延伸部延伸部長さ12mm、幅2mm、厚さ2mmのダンベル状(JIS
K−6251−7)に切り出しゲルの両末端を挟み、TENSILON(商標)引張試験機(ORIENTEC社製型式:1310A)で試験を行い、破断した時点での応力を引張破断応力σとする。引張速度は100mm/分とする。「歪」とは、(伸長時の長さ‐元の長さ)/元の長さの式で算出される。「応力」とは、(伸長時の力/元の断面積)の式で算出される。
【0062】
更に、本発明の高分子ゲルは、好適には、含水率が10%以上(より好適には50%以上、更に好適には85%以上)である。このように、ゲルに多量の水を存在させることにより、しなやか性、物質の透過性が向上する。なお、含水率の上限値は特に限定されないが、ゲルの機械強度維持等の理由から、通常は99.9%以下、好適には99%以下、より好適には95%以下である。
【0063】
「含水率」とは、以下の式で求められる値をいう:
含水率=水の重さ/(水の重さ+乾燥ゲルの重さ)×100(%)
【0064】
また、本発明のゲルは、好適には、収縮度が20〜95%(更に好適には60〜95%、最も好適には70〜95%)である。従来の電解質ゲルは、塩水に漬けると収縮が激しいため、特に、生体材料としての用途が閉ざされていた。このような物性を有することにより、かかる用途の可能性を提供した点で、非常に有意義である。このように収縮度が小さいと、例えば、おむつに応用するときに、吸収能力が落ちないという利点がある。また、海水中でゲルを応用する際にも有効である。
【0065】
「収縮度」とは、純水中で平衡膨潤したゲルの重量に対する塩水中で平衡膨潤したゲルの重量の比をパーセントで表した値を指し、以下の方法Cで測定された値をいう。
測定方法C:ゲルを大きさ2×2×0.2cm3に切り出し、20℃下で、500mlの蒸留水に入れ、1日間平衡膨潤させる。平衡膨潤後、水から取り出し、重さを天秤で量る。そのゲルを、更に、20℃下で、0.1mol/lの塩化ナトリウム水溶液500mlに入れ、1日浸漬し、平衡膨潤させてから取り出し、その重さを量る。
【実施例】
【0066】
(分子ステントの種類の検討)
モノマー(ヒドロキシエチルアクリレート:HEA)1M,架橋剤(N,N′−メチレンビスアクリルアミド:MBAA)4mol%,開始剤2−オキソグルタル酸 0.1mol%を純水に溶解させ、UVを8h照射することで第1網目のPHEA(ポリヒドロキシエチルアクリレート)ゲルを作成した。本ゲルを強電解質モノマーと光開始剤の水溶液に3日間浸漬した。モノマーとしては、アニオン型強電解質の2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)とスチレンスルホン酸ナトリウム(NaSS)、カチオン型強電解質のジメチルアミノプロピルアクリルアミドハロゲン化メチル4級塩(DMAPAA−Q)と、ジメチルアミノエチルアクリレートハロゲン化メチル4級塩(DMAEA−Q)、比較として中性のアクリルアミド(AAm)および弱電解質のアクリル酸(AAc)、計6種類を用いた。モノマー濃度は0.5〜1M、光開始剤濃度は0.1mol%である。本ゲルにUVを8h照射することで、ゲル内部で強電解質ポリマー(分子ステント)を合成した。このゲルをStゲルと呼ぶ。Stゲルを、モノマーAAm 2M、架橋剤 0.02mol%、光開始剤0.01mol%の水溶液に2日間浸漬した。本ゲルにUVを8h照射することで第2網目のPAAmを重合し、St−DN(ダブルネット:相互侵入網目構造)ゲルを合成した。尚、NaSSを使用した場合には、分子ステントを導入後、第一の網目構造体の一部が破壊された。
【0067】
上記の製造工程において得られたStゲルの物性を確認した。図3(a)は、ステントの種類に対する相対厚さ(PHEAゲルの厚さを1とした)の測定結果である。ここで、相対厚さは、ステント導入後の第一の網目構造体の平衡膨潤状態における厚さを、ステントを導入する前の第一の網目構造体(ここではPHEA)の平衡膨潤状態における厚さで除した値を測定した。より詳細には、分子ステントを導入したゲルを純水中で平衡膨潤させ、ノギスでゲルの厚さを測定する。分子ステントを導入していないゲルを純水中で平衡膨潤させ、ノギスでゲルの厚さを測定する。相対厚さは以下の式により求める。
(相対厚さ)=(分子ステントを導入したゲルの厚さ)/(分子ステントを未導入のゲルの厚さ)
【0068】
(応力‐歪曲線)
ゲルを延伸部長さ12mm、幅2mm、厚さ2mmのダンベル状(JIS
K−6251−7)に切り出し、TENSILON(商標)引張試験機(ORIENTEC社製形式:1310A)で試験を行った。引張速度は100mm/分とした。
【0069】
(相対初期弾性率の測定方法)
「初期弾性率」は、応力−歪曲線の歪初期における1次直線近似の傾きから求めた。
「相対初期弾性率」は、(ステントを導入したゲルの平衡膨潤時の初期弾性率)/(ステントを未導入ゲルの平衡膨潤時の初期弾性率)の式で算出した。
【0070】
(損失エネルギーの評価方法)
「損失エネルギー」は、応力−歪曲線の応力値を歪0から破断まで積分することにより算出した。損失エネルギーは応力−歪曲線と横軸により囲まれた面積に相当する。
【0071】
図3(b)は、ステントの種類に対する相対初期弾性率の測定結果である。ここでは、[分子ステント導入後のPHEAゲル単体の初期弾性率]/[PHEAゲル単体の初期弾性率]の値を示した。明細書中でも述べたように当該値は、πstent / E1st netに等しい。尚、Stゲルの初期弾性率は、0.019MPa〜0.175MPaであった。また、PHEAゲル単体の初期弾性率は、0.031MPaであった。
【0072】
図4は、上記の製造工程において得られたStゲルの相対Enの値を示した図である。
単位高分子鎖あたりの相対硬さEnは、
En∝E×q
En:単位高分子鎖あたりの相対硬さ
E:初期弾性率
q:膨潤度(体積変化率)
で表される。そこで、Enは以下の式(a)により求めた。
En=(初期弾性率)×(相対厚さ)3 (a)
【0073】
図4に示すように、強電解質ポリマーからなる分子ステントを用いた場合には、特に高い相対硬さEnを示すので、第一の網目構造体を構成する高分子が伸張した状態にあることがわかる。すなわち、分子ステントが機能しており、網目構造体の網目を拡張されている状態にあることがわかる。
【0074】
上記の工程により得られたSt−DNゲルの物性を測定した。図5は、応力−歪曲線を示す。図6は、損失エネルギーを示す。
【0075】
図5に示すように、測定した応力‐歪特性によれば、本発明に係るSt−DNゲルは、主に早い段階で降伏点が発生し、その後、ゆっくりと応力が増加して、大きな破断伸びを有することがわかった。その結果、図6に示す損失エネルギーの図から読み取れるように、当該エネルギーがより高くなり、破断に際して多くのエネルギーを要求する性質を有する高分子ゲルを得ることができることがわかった。
【0076】
上記のPHEA(第一の網目構造体)‐PAMPS(分子ステント)‐PAAm(第二の網目構造体) St−DNゲルの元素分析結果は以下の表1の通りである。
【表1】
【0077】
St−DNゲルを、PAMPS、PAAm gel、PHEA gel、水の4成分系だと考え、C,N,Oの分析結果を用いて連立方程式を組み、それぞれの重量比を求めたところ、以下の表2の結果となった。したがって、本ゲルでは、PHEA:PAAmのモノマー換算したモル比は、1:4.5であった。
【0078】
【表2】
【0079】
(分子ステント除去)
PHEA‐PAMPS‐PAAm St−DNゲルを合成後、水に浸漬し、2日目と16日目に元素分析を行った(表3、表4)。結果、2日目の段階では、他のポリマーと比較して5.0wt%のステントが含まれていたのに対し、16日目の段階では2.3wt%に減少していた(表5、表6)。
【0080】
【表3】
【0081】
【表4】
【0082】
【表5】
【0083】
【表6】
【0084】
(拡散係数:第二のモノマー)
第2のモノマー(アクリルアミド)のゲル内での拡散係数:
DAAm=1.07×10−9(m2/s)
【0085】
・導出法
アインシュタイン=ストークスの式を用いて拡散係数Dを求める。
【数1】
T:293.15(K)とすると、水の粘度η=1.002(mPa・s)
アクリルアミドの流体力学的半径aは、C=Cbondの結合長から0.2nm程度だと予測される。これらを代入すると、
DAAm=1.07×10−9(m2/s)
AAmのサイズはゲルの網目(数nm)よりも十分に小さいので、ゲル網目はアクリルアミドの拡散に殆ど影響しない、つまり、ゲル内部での拡散係数は、水中での拡散係数とほぼ等しいと考えられる。
【0086】
・浸漬に必要な日数
拡散方程式
【数2】
を用いて、AAmのゲル内部への拡散を考える。
tは時刻、xはゲル表面からの距離、cはxにおけるゲル内部のAAm濃度である。
ゲル外部のAAm溶液の濃度cAAmは一定とする。
tで積分すると、
【数3】
t=0の時、ゲルの中のAAm濃度cは0なので、
【数4】
次にxで積分すると、
【数5】
t>0の時、ゲルとAAm溶液との境目(x=0)では、ゲル内外のAAm濃度は同じ、つまり
【数6】
だと考えられるので、
【数7】
再度xで積分すると、
【数8】
t>0の時、ゲルと溶液との境目(x=0)では、ゲルのAAm濃度は外のAAm濃度cAAmと等しいと考えられるので、
【数9】
変形すると
【数10】
あるいは
【数11】
ゲル中心のAAm濃度が外のAAm濃度の99%になる時間t99%を、ゲル内部にAAmが充分浸透した時間とみなす。
ゲルの幅dが2mmの時、x=1mm
計算すると、
t99%=4.63×104(s)=12.9(h)
ゲルの厚さが2mmの時は、AAm溶液に半日以上浸漬すれば、AAmは十分に浸透する。
【0087】
(拡散係数:分子ステント)
分子ステント(PAMPS)のゲル中での拡散係数:
D=3.06×10−12(m2/s)
【0088】
・測定法
ステント分子はゲルの網目よりも充分に大きいので、ゲルからのステント分子の流出速度を実際に調べる必要がある。今回、St−DNゲルからのステント分子の流出を1次元ランダムウォークモデルによって考え、そこから拡散係数を計算した。
ステント流出開始後2日目のゲル内のステント総量(g)をW1、時刻をt1とし、16日目のステント総量(g)をW2、時刻をt2とする。t2‐t1=14dである。また、元素分析の結果より、W1/W2=2.167であった。
ゲル内でのステントの拡散係数をDとする。ランダムウォークモデルを用いた場合、時刻tの時のステント分子鎖の存在割合分布は正規分布に従い、以下のように表せる。
【数12】
ここで、t=t1における標準偏差をd/2(ゲル厚みの半分)であると考えると、
【数13】
となり、上2式を比較することで
【数14】
となる。
ゲル中心(x=0)でのステント濃度をc1とすると、
【数15】
Nは、ステントの全量に比例する定数である。
次に、時刻t2の時のゲル中心でのステント濃度c2は
【数16】
と表せる。2つを比較すると、
【数17】
【数18】
拡散係数Dは
【数19】
となる。
ここで、ゲル内部のステント総量がゲル中心のステント濃度に比例する、と近似すると、
W1/W2=c1/c2
となる。
実験値(d=2mm,W1/W2=2.167,t=14d)を代入すると、
D=3.06×10−12(m2/s)
と求められる。
【0089】
以上の結果から、D2nd mono / Dstentは、[1.07×10−9(m2/s)]/[3.06×10−12(m2/s)]=3.50×102である。
【0090】
(第一のモノマーの種類の検討)
モノマー1M,架橋剤MBAA 4mol%,開始剤2−オキソグルタル酸 0.1mol%を純水に溶解させ、UVを8h照射することで第1網目のゲルを作成した。モノマーとしては、中性のAAmとHEA、弱電解質のAAcの3種類を用いた。本ゲルをAMPSと光開始剤の水溶液に3日間浸漬した。モノマー濃度は0.5〜1M、光開始剤濃度は0.1mol%である。本ゲルにUVを8h照射することで、ゲル内部で強電解質ポリマー(分子ステント)を合成した。このゲルをStゲルと呼ぶ。Stゲルを、モノマーAAm 2M、架橋剤0.02mol%、光開始剤0.01mol%の水溶液に2日間浸漬した。本ゲルにUVを8h照射することで第2網目のPAAmを重合し、St−DNゲルを合成した。
【0091】
上記工程により得られたStDNゲルの各種物性を測定した。
図7(a)は、ステント濃度と相対厚さの関係を示す図であり、図7(b)は、ステント濃度に対する相対初期弾性率の関係を示す図である。ここで、規格化ステント濃度とは、第一網目成分に対する分子ステント高分子のモル比をモノマー単位で換算したものである。成分比は元素分析により求めた。尚、相対厚さ及び相対初期弾性率については、上記と同様の方法により測定した。尚、初期弾性率は、AAcゲルの場合、0.022MPa、AAmゲルの場合0.033MPa、HEAゲルの場合0.055MPaであった。また、分子ステント導入後の初期弾性率は、StAAcゲルの場合0.032〜0.067MPa(πstent/E1st net:1.45〜3.045)、StAAmゲルの場合0.039〜0.146MPa(πstent/E1st net:1.18〜4.42)、StHEAゲルの場合0.077〜0.21MPa(πstent/E1st net:1.40〜3.82)であった。ステントの導入量を高くすれば相対厚さ及び相対初期弾性率の値が増していくので、よりステントとしての網目拡張機能を有することがわかる。
【0092】
図8は、ステント濃度に対する相対Enの関係を示す図である。尚、Enの測定方法は上記と同様の方法により行なった。何れの種の第一のモノマーであってもステントの導入量が多くなればなるほど、相対初期弾性率は高い値を示し、分子ステントの導入量が増えることにより網目構造を拡張する効果が高まることがわかった。
【0093】
図9は、各種StDNゲルの応力‐歪曲線を示す図である。各種StDNゲルの規格化ステント濃度は、AAcが0.28、AAmが0.31、HEAが0.40であるものを使用した。比較として、分子ステントを使用しないで製造したDNゲルの結果を掲載した。結果、何れの種の第一のモノマーであっても、比較的低い降伏点を有し、その後、ゆっくりと応力が増して、高い歪を許容することができる性質を有することがわかった。図10は、各種StDNゲルの損失エネルギーを示す図である。損失エネルギーも、本発明に係るSt−DNゲルは高い値を示した。
【0094】
(第一の網目構造体の架橋度が物性に与える影響)
モノマー(ジメチルアクリルアミド:DMAAm)1M,架橋剤(N,N′−メチレンビスアクリルアミド:MBAA)4mol%,2mol%,1mol%,0.5mol%、開始剤2−オキソグルタル酸 0.1mol%を純水に溶解させ、UVを8h照射することで第1網目のPDMAAm(ポリジメチルアクリルアミド)ゲルを作成した。本ゲルを強電解質モノマー(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸:AMPS)と光開始剤の水溶液に3日間浸漬した。モノマー濃度は1M、光開始剤濃度は0.1mol%である。本ゲルにUVを8h照射することで、ゲル内部で強電解質ポリマー(分子ステント)を合成した。このゲルをStゲルと呼ぶ。Stゲルの厚さ及び初期弾性率を測定して図11に示した。図11(a)は分子ステントを導入した各種第一の網目構造体の厚さを示す図であり、図11(b)は初期弾性率を測定した結果を示す図であり、図11(c)は単位高分子鎖あたりの弾性率を示した図である。
【0095】
上記のStゲルを、モノマーAAm 2M、架橋剤MBAA 0.02mol%、光開始剤2−オキソグルタル酸0.01mol%の水溶液に2日間浸漬した。本ゲルにUVを8h照射することで第2網目のPAAmを重合し、St−DNゲルを合成した。得られたDNゲルの応力歪曲線を作成して、各種物性を評価した。尚、比較例として、PAMPS/PAAmの相互進入網目構造ゲルの応力歪曲線を作成した(図12)。
【0096】
(架橋度の検討)
モノマー(ヒドロキシエチルアクリレート:HEA)1M,架橋剤(N,N′−メチレンビスアクリルアミド:MBAA)4mol%、開始剤2−オキソグルタル酸 0.1mol%を純水に溶解させ、UVを8h照射することで第1網目のPHEA(ポリヒドロキシエチルアクリレート)ゲルを作成した。本ゲルを強電解質モノマー2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)と光開始剤の水溶液に3日間浸漬した。モノマー濃度は0.5〜1M、光開始剤濃度は0.1mol%である。本ゲルにUVを8h照射することで、ゲル内部で強電解質ポリマー(分子ステント)を合成した。このゲルをStゲルと呼ぶ。Stゲルを、モノマーAAm 2M、架橋剤 0.02mol%、光開始剤0.01mol%の水溶液に2日間浸漬した。本ゲルにUVを8h照射することで第2網目のPAAmを重合し、St−DNゲルを合成した。比較として、PAMPS/PAAmのDNゲルと、PHEA/PAAm ipn(相互侵入網目構造)ゲルを製造して応力‐歪曲線を作成した。結果を、表7、図13に示した。
【0097】
【表7】
【0098】
第一網目の架橋度を2mol%にした以外は上記と同様の方法でSt−DNゲルを製造して、応力‐歪曲線を作成した。結果を表8、図14に示した。
【0099】
【表8】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セミ相互侵入網目構造ゲル又は相互侵入網目構造ゲル等の高分子ゲル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子ゲルは、低摩擦特性や物質透過性、外的刺激に対する能動的な生物様運動特性など、固体や液体が単独では持ち得ない興味深い性質を数多く持つ。しかし、これらの特性を生かして日常生活や医療、工業の分野でゲルを用いようとする場合、ポリビニルアルコール(PVA)ゲルやポリ−2−ヒドロキシエチルメタクリレート(PHEMA)ゲルのような一部のゲルを除き、殆どが機械的強度に乏しく脆いというのが現状である。もし高い強度を持つゲル(特にハイドロゲル)ができれば、またその原理を理解し自由に機械的強度を調整できるようになれば、生活品や工業的な利用は勿論の事、ゲルの持つ物質透過性を生かした人工血管や低摩擦表面を有するゲルの人工関節軟骨への応用など、実用レベルの高機能性バイオマテリアルの開発が可能となり、高分子ゲルの利用価値が飛躍的に高まることが期待される。
【0003】
そこで、機械的強度に優れた高分子ゲルを得るため、第一のモノマー成分を重合し架橋することにより形成された網目構造中に、第二のモノマー成分を導入し、第二のモノマー成分を重合し場合により架橋することにより得られる、セミ相互侵入網目構造ハイドロゲル又は相互侵入網目構造ハイドロゲルにおいて、第一のモノマー成分の10モル%以上が、電荷を有する不飽和モノマーであり、第二のモノマー成分の60モル%以上が、電気的に中性である不飽和モノマーであり、第一のモノマー成分量:第二のモノマー成分量が、モノマー換算したモル比で1:2〜1:100であり、かつ、第二のモノマー成分を重合し架橋する場合には、第一のモノマー成分を重合し架橋する場合よりも架橋度を小さく設定することを特徴とする、セミ相互侵入網目構造ハイドロゲル又は相互侵入網目構造ハイドロゲルが提案されている(特許文献1)。当該方法によれば、第一のモノマーとして、10モル%以上が電荷を有する不飽和モノマーを使用することによって、第一のモノマー成分により得られた網目構造の骨格同士が電気的に反発して膨潤しやすく、当該網目構造の中に第二のモノマーが入り込みやすくなるため、強度の高いゲルを得ることができた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第03/093337号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記の合成法により得られるゲルは、第一のモノマーの10モル%以上が、電荷を有する不飽和モノマーである必要があるので、第一の網目構造としての選択肢が限定される。そこで、本発明は、中性又は弱電解質の第一のモノマーを使用した第一の網目構造体であっても、多量の第二のモノマーを第一の網目構造中に導入できる高分子ゲルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明(1)は、以下の工程を含む、高分子ゲルの製造方法である。
1)架橋構造を有する第一の網目構造体中に分子ステントを導入する工程;
及び
2)分子ステントを導入した第一の網目構造体内に第二のモノマーを導入して重合する工程。
【0007】
本発明(2)は、前記分子ステント導入後の第一の網目構造体内の浸透圧πstentと、前記第一の網目構造体の初期弾性率E1st netとが下記式(1)の関係を満足する、前記発明(1)の製造方法である。
πstent / E1st net ≧ 1.5 (1)
【0008】
本発明(3)は、網目構造体内での分子ステントの拡散係数Dstentと、網目構造体内での第二モノマーの拡散係数D2nd monoとの関係が下記式(2)の関係を満足する、前記発明(1)又は(2)の製造方法である。
D2nd mono / Dstent ≧ 2 (2)
【0009】
本発明(4)は、前記分子ステントが、電解質ポリマーであることを特徴とする、前記発明(1)〜(3)のいずれか一つの製造方法である。
【0010】
本発明(5)は、前記電解質ポリマーが、スルホン酸系モノマー又はその塩、4級アミン塩系モノマーからなる群から選ばれる一又は二種以上の電解質原料モノマーを重合して得られる強電解質ポリマーであることを特徴とする、前記発明(4)の製造方法である。
【0011】
本発明(6)は、前記工程1)において、電解質原料モノマーを前記第一の網目構造体内に導入し重合して電解質ポリマーを合成することにより、分子ステントを導入することを特徴とする、前記発明(4)又は(5)の製造方法である。
【0012】
本発明(7)は、前記工程1)において、分子ステント存在の下で、第一のモノマーと架橋剤を重合して第一の網目構造体を形成する工程である、前記発明(1)〜(5)のいずれか一つの製造方法である。
【0013】
本発明(8)は、前記工程2)の後に、以下の工程を有することを特徴とする、前記発明(1)〜(7)のいずれか一つの製造方法である。
3)分子ステントを除去する工程。
【0014】
本発明(9)は、以下の工程を含む方法により得られる、高分子ゲル。
1)架橋構造を有する中性の第一のモノマーからなる第一の網目構造体中に分子ステントを導入する工程;
及び
2)分子ステントを導入した第一の網目構造体内に第二のモノマーを導入して重合する工程。
【0015】
本発明(10)は、第一のモノマー成分量:第二のモノマー成分量が、モノマー換算したモル比で1:2〜1:100である、前記発明(9)の高分子ゲルである。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る製造方法によれば、第一のモノマーの種類に限定されずに、第一の網目構造中に多量の第二のモノマーを導入できるため、中性や弱電解質モノマーであっても、高い強度を有する高分子ゲルを得ることができる。本発明は、分子ステントを用いることによって、第一の網目構造体内の物質の濃度を高めて浸透圧を高めることによって、第一の網目構造体の網目を拡張して多量の第二のモノマーを導入することができる。特にポリマーを用いることにより、第一の網目構造内に分子ステントを留まらせることができ、第二のモノマーが網目構造体に進入する前に分子ステントが網目外に抜けてしまうことを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、相互侵入網目構造ゲルの概念構成図である。
【図2】図2は、セミ相互侵入網目構造ゲルの概念構成図である。
【図3】図3(a)は、ステントの種類に対する相対厚さ(PHEAゲルの厚さを1とした)の測定結果である。図3(b)は、ステントの種類に対する相対初期弾性率の測定結果である。
【図4】図4は、分子ステントを導入した第一の網目構造体の相対Enの値を示した図である。
【図5】図5は、高分子ゲルの応力−歪曲線を示す。
【図6】図6は、高分子ゲルの損失エネルギーを示す。
【図7】図7(a)はステント濃度と相対厚さの関係を示す図であり、図7(b)はステント濃度に対する相対初期弾性率の関係を示す図である。
【図8】図8は、規格化ステント濃度に対する相対Enの関係を示す図である。
【図9】図9は、各種高分子ゲルの応力‐歪曲線を示す図である。
【図10】図10は、各種高分子ゲルの損失エネルギーを示す図である。
【図11】図11(a)は分子ステントを導入した各種第一の網目構造体の厚さを示す図であり、図11(b)は初期弾性率を測定した結果を示す図であり、図11(c)は単位高分子鎖あたりの弾性率を示した図である。
【図12】図12は、各種高分子ゲルの応力歪曲線である。
【図13】図13は、各種高分子ゲルの応力歪曲線である。
【図14】図14は、各種高分子ゲルの応力歪曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
まず、本明細書に記載された用語の定義につき説明する。
【0019】
「相互侵入網目構造ゲル」とは、ベースとなる網目構造に、他の網目構造が、ゲル全体において均一に絡みついており、結果としてゲル内に複数の網目構造を形成しているようなゲルを指す。例えば、この種のゲルは、図1に示すように、複数の架橋点1を有する第一の網目構造Aと、複数の架橋点2を有する第二の網目構造Bとから構成され、これら第一の網目構造Aと第二の網目構造Bが、互いに網目を介して物理的に絡まり合っている。
【0020】
「セミ相互侵入網目構造ゲル」とは、ベースとなる網目構造に、直鎖状ポリマーが、ゲル全体において均一に絡みついており、結果としてゲル内に複数の網目構造を形成しているようなゲルを指す。例えば、この種のゲルは、図2に示すように、複数の架橋点3を有する第一の網目構造Cと、直鎖状ポリマーDとから構成され、これら第一の網目構造Cと直鎖状ポリマーDが、互いに網目を介して物理的に絡まり合っている。なお、図1及び図2において、第一の網目構造A及びCを、第二の網目構造B及び直鎖状ポリマーDより太く描いたが、これは、便宜的に太さを変えて描いたものである。また、「相互侵入網目構造ゲル」及び「セミ相互侵入網目構造ゲル」は、ダブルネットワーク型のみでなく、三重や四重以上の網目構造を有するゲルをも含む概念である。
【0021】
「架橋度」とは、モノマーの仕込みモル濃度に対する架橋剤のモル濃度の比をパーセントで表した値をいう。なお、実際には、重合に関与しなかったモノマーや架橋に関与しなかった架橋剤も僅かにある場合があるが、この際も、本明細書におけるゲルの架橋度は、前記の通りとする。
【0022】
尚、本明細書にいう「ハイドロゲル」とは、溶媒が水であるゲルをいうが、影響しない程度の量、水可溶性溶媒(例えばアルコール)等を含有していてもよい。
【0023】
本発明に係る高分子ゲルは、少なくとも以下の工程を含む方法により製造される。
1)架橋構造を有する第一の網目構造体中に分子ステントを導入する工程;
及び
2)分子ステントを導入した第一の網目構造体内に第二のモノマーを導入して重合する工程。
【0024】
工程1)
工程1)においては、架橋構造を有する第一の網目構造体中に分子ステントを導入する。当該工程を経ることにより、分子ステントが第一の網目構造体の間隙に入り込んで、ゲルを膨潤させて間隙を広げるため、工程2)においてモノマーが当該網目構造の内に入り込みやすくなる。そのため、第一の網目構造体内に十分な量の第二のモノマーを導入することができるため、高い強度を有する高分子ゲルを得ることができる。
【0025】
工程1)において用いる「分子ステント」とは、網目構造体の網目拡張作用を有する物質を意味する。即ち、このような作用を有する物質は、あたかも血管を広げる医療機器であるステントのような役割を果たすので、分子ステントと呼ぶ。
【0026】
分子ステントは、少なくとも、第一の網目構造体内の浸透圧を、第一の網目構造体初期弾性率より高めることにより、網目構造体内の骨格を広げることが可能となり、更に、第二のモノマー導入の際に当該分子ステントが第一の網目構造体内から容易に抜け出さない程度の低い拡散性を有することにより機能する。
【0027】
分子ステントは、第一の網目構造体内に導入した際に、第一の網目構造体の初期弾性率よりも高い浸透圧を示すようなものを選択することが好適である。
即ち、分子ステント導入後の第一の網目構造体内の浸透圧πstentと、前記第一の網目構造体の初期弾性率E1st netとが下記式(1)の関係を満足することが好適である。
πstent / E1st net ≧ 1.5 (1)
【0028】
上記式(1)の関係を満足することにより、第一の網目構造体内の浸透圧が、第一の網目構造体自身の初期弾性率の値を上回ることとなり、第一の網目構造体内に水等の溶媒が浸入し、網目構造を膨潤させることができるようになる。πstent / E1st netは、2以上であることがより好適であり、4以上であることが更に好適である。
【0029】
ここで、第一の網目構造内の浸透圧πstentは、分子ステントを導入した第一の網目構造体の平衡膨潤時の初期弾性率の値で代用する。分子ステントが第一の網目構造内に導入された場合、当該網目構造の平衡膨潤状態においては、網目構造内に水が浸入する圧力(すなわち、浸透圧)が網目構造の弾性率と等しい状態にあることを意味するためである。また、分子ステントとして電解質ポリマーを用いた場合には、全体の浸透圧πstentは、解離イオン由来の浸透圧πionとポリマー由来の浸透圧πpolyの和に概ね等しくなる。浸透圧は分子数と比例関係にあるため、電解質ポリマーの場合、解離イオンの数が、ポリマーの数よりも圧倒的に大きな数となるため、πion>>πpolyとなり、実質的に解離イオンの浸透圧πionは分子ステントを導入した第一の網目構造体の平衡膨潤時の初期弾性率の値に等しくなる。
【0030】
網目構造内での分子ステントの拡散係数Dstentと、網目構造内での第二モノマーの拡散係数D2nd monoとの関係が下記式(2)の関係を満足することが好適である。
D2nd mono / Dstent ≧ 2 (2)
【0031】
上記式(2)を満足する分子ステントを使用することによって、分子ステントが第一の網目構造体から放出される速度よりも、第二のモノマーが第一の網目構造内に導入される速度のほうが速くなるため、第二のモノマーを多量導入することができる。D2nd mono/Dstentは、10以上がより好適であり、100以上がさらに好適である。尚、網目構造内での拡散係数は実施例に記載の方法により計算される。
【0032】
分子ステントの具体的な例としては、電解質ポリマー、電解質錯体、電解質ミセル、電解質ナノパーティクル等が挙げられる。これらの中でも電解質ポリマーを使用することが好適である。電解質ポリマーを使用することにより、浸透圧が大きくなるので、第一の網目構造体を膨潤し易くなる。浸透圧は、一般的に系の中に存在する分子の数に依存する。すなわち、電解質ポリマーを用いた場合には、上述のように電解質モノマー由来のイオン解離基が解離してイオンが多量に存在することになり、浸透圧を高めることが可能となる。また、ポリマーであることにより、第一の網目構造体内から分子ステントのポリマー成分が放出されにくくなるので、結果的に、解離したカウンターイオンもまた第一の網目構造体内に保持されることとなる。
【0033】
電解質ポリマーとしては、例えば、酸性基(例えば、スルホン酸基)や塩基性基有する不飽和モノマー等の電解質原料モノマーの重合体が挙げられる。より具体的には、電解質原料モノマーとして、例えば、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、スチレンスルホン酸ナトリウム(NaSS)等のスルホン酸系モノマー又はその塩や、アクリル酸等のカルボン酸モノマー又はその塩や、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドハロゲン化メチル4級塩(DMAPAA−Q)、ジメチルアミノエチルアクリレートハロゲン化メチル4級塩(DMAEA−Q)等の4級アミン塩系モノマー等が挙げられる。これらの中でも、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、スチレンスルホン酸ナトリウム(NaSS)等のスルホン酸系モノマー又はその塩、及び、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドハロゲン化メチル4級塩(DMAPAA−Q)、ジメチルアミノエチルアクリレートハロゲン化メチル4級塩(DMAEA−Q)等の4級アミン塩系モノマーからなる群から選ばれる、一種又は二種以上のモノマーを重合して得られる強電解質ポリマーを用いることが好適である。強電解質ポリマーであることにより、電離し易くなるため、第一の網目構造内の浸透圧を高めることが出来る。
【0034】
分子ステントとして強電解質ポリマーを用いる場合には、強電解質のモノマーを第一の網目構造体内に導入して重合することにより網目構造体の内部に分子ステントを導入することが好適である。ここで、第一の分子構造体の中に、強電解質モノマーを導入する際に、溶液の濃度を高めて、浸透圧を高くすることによって、第一の網目構造体内に多くの分子ステントのモノマーが導入される。内部に強電解質モノマーが導入された状態で重合することにより、第一の網目構造体内に分子ステントを導入することができる。
【0035】
その他、分子ステント存在の下で、第一のモノマーと架橋剤を重合して第一の網目構造体を形成することにより、第一の網目構造体内に分子ステントを導入することもできる。このような方法とすることにより、合成のステップを一段階減らせるので、製造がより簡便になる。また、電解質ポリマーのような重合体に限定されず、内部で浸透圧を高めることが出来る様々な物質を分子ステントとして用いることができるようになる。
【0036】
ここで、分子ステントを導入した第一の網目構造体の膨潤度は、相対厚さにおいて、1.5以上であることが好適であり、1.8以上がより好適であり、2.0以上が更に好適である。上限は特に限定されないが、例えば10.0である。尚、ここで相対厚さとは、分子ステントを導入した網目構造体の平衡膨潤後の厚みを、分子ステントを導入していない網目構造体の平衡膨潤後の厚みで割った値を意味する。このような膨潤度が得られる程度に分子ステントが、網目構造体内に入り込み膨潤させることによって、工程2)においてモノマーの導入量が多くなる。
【0037】
また、分子ステントを導入した第一の網目構造体の剛直性は、単位高分子鎖あたりの弾性率Enにおいて、10MPa以上であることが好適であり、30MPa以上がより好適であり、50MPa以上がより好適である。上限は特に限定されないが、例えば、1000MPa以下である。尚、単位高分子鎖あたりの弾性率Enは、弾性率×(相対厚さ)3により求めた。ここで、相対厚さとは、厚み変化率を意味する。すなわち、上記Enは、測定によりえられた弾性率が網目構造体の膨潤度の変化による体積変化に依存するため、網目構造体を構成する高分子あたりの値に規格化して評価するための値である。すなわち、Enが高い値を示すということは、網目構造体の高分子が伸張した状態にあることを意味するので、分子ステントが網目を拡張していることの指標ともなる。また、より高い剛直性を有することによって、後述する工程2)により得られる高分子ゲルが高い強度を有する材料となる。
【0038】
ここで工程1)において用いられる架橋構造を有する第一の網目構造体としては、特に限定されないが、化学架橋構造を有する網目構造体であることが好適である。網目構造体の形状としては、全体にわたって連続的に存在する塊状の網目構造体であってもよいし、粒子状の網目構造体であってもよい。特に高強度の高分子ゲルを得るためには、前者の塊状の網目構造体であることが好適である。また粒子状の網目構造体は、例えば塊状の網目構造体を粉砕したものを用いてもよい。
【0039】
第一の網目構造体を構成するモノマーとしては、電気的に中性である不飽和モノマー、電荷を有する不飽和モノマーや、これらの共重合体が挙げられるが、これらの中でも、電気的に中性である不飽和モノマー又は弱電解質モノマーを用いることが好適であり、これらの中でも電気的に中性である不飽和モノマーを用いることがより好適である。即ち、電気的に中性であるモノマーは、網目構造を構成するポリマーが電荷を有しないので、互いに反発せず、十分に膨潤しないため、続いて導入しようとするモノマーが第一の網目構造体内に進入しにくいという問題を有していたが、本発明に係る分子ステントを使用することによって、中性モノマー等の第二のモノマーの進入し難い第一の網目構造体を使用した場合であっても、十分に第二のモノマーを第一の網目構造体内に導入させることができる。
【0040】
電気的に中性である不飽和モノマーとしては、例えば、アクリルアミド(AAm)、N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)、ジメチルアクリルアミド(DMAAm)等のアクリルアミド系モノマーや、酢酸ビニル、ビニルピリジン、スチレン(St)等のビニル系モノマーや、メチルメタクリレート等のアルキルアクリレート系モノマーや、ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)等のヒドロキシアルキルアクリレート系モノマーや、トリフルオロエチルアクリレート等のフッ素含有不飽和モノマーを挙げることができる。
【0041】
電荷を有する不飽和モノマーとしては、好適には、酸性基(例えば、カルボキシル基、リン酸基及びスルホン酸基を)や塩基性基(例えば、アミノ基)有する不飽和モノマーを、例えば、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、アクリル酸(AAc)、メタクリル酸又はそれらの塩を挙げることができる。また、本発明においては、特に弱電解質のモノマー等により製造された網目構造体のように膨潤が十分に起きないものであっても、第一の網目構造体として使用することが可能となる。
【0042】
架橋剤は、特に限定されず、化学架橋を形成する公知の架橋剤を使用することができるが、架橋重合すべき有機モノマーに対応して種々のものが選択され、例えば、二以上の(メタ)アクリル基を有するアクリル系架橋剤が挙げられる。より具体的には、有機モノマーとしてAMPS、AAm、AAcを用いた場合には、N,N′−メチレンビスアクリルアミドを、有機モノマーとしてStを用いた場合には、エチレングリコールジメタクリレートを夫々使用することができる。
【0043】
重合開始剤は、特に限定されず、公知の重合開始剤を使用することができるが、重合すべき有機モノマーに対応して種々のものが選択される。例えば、有機モノマーとしてAMPS、AAm、AAcを熱重合する場合には、過硫酸カリウムなどの水溶性熱触媒、過硫酸カリウム−チオ硫酸ナトリウムなどのレドックス開始剤を用いることができ、光重合する場合には、光増感剤として2−オキソグルタル酸を用いることができる。また、有機モノマーとしてStを熱重合する場合には、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、過酸化ベンゾイル(BPO)などの有機溶媒に溶解性の熱触媒を用いることができ、光重合する場合には、光増感剤としてベンゾフェノンを使用することができる。
【0044】
また、第一の網目構造を有するゲルを浸漬する溶液の溶媒は、特に限定されず、公知の溶媒を使用することができる。
【0045】
工程2)
工程2)においては、膨潤させた第一の網目構造体内に第二のモノマーを導入して重合する。第二のモノマーは、網目状に重合して第二の網目構造体を導入してもよいし、直鎖的に重合して第二のポリマーを導入してもよい。網目状に重合することによって、相互進入網目構造ゲルを得ることができる。一方、直鎖的に重合した場合には、セミ相互侵入網目構造ゲルを得ることができる。
【0046】
ここで、第二のモノマーとしては、電気的に中性である不飽和モノマー、電荷を有する不飽和モノマーや、これらの共重合体が挙げられるが、これらの中でも、電気的に中性であるモノマーを用いることが好適である。電気的に中性なモノマーを用いることにより、第二の網目構造体もしくは第二のポリマーが大変形においても破壊しにくい。
【0047】
電気的に中性である不飽和モノマーとしては、例えば、アクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、ジメチルアクリルアミド等のアクリルアミド系モノマーや、酢酸ビニル、ビニルピリジン、スチレン等のビニル系モノマーや、メチルメタクリレート等のアルキルアクリレート系モノマーや、ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)等のヒドロキシアルキルアクリレート系モノマーや、トリフルオロエチルアクリレート等のフッ素含有不飽和モノマーを挙げることができる。
【0048】
電荷を有する不飽和モノマーとしては、好適には、酸性基(例えば、カルボキシル基、リン酸基及びスルホン酸基を)や塩基性基(例えば、アミノ基)有する不飽和モノマーを、例えば、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、アクリル酸(AAc)、メタクリル酸又はそれらの塩を挙げることができる。
【0049】
架橋剤としては、工程1)と同様の架橋剤を使用できる。尚、工程1)の架橋剤と工程2)の架橋剤とは、種類が同じであっても異なっていてもよい。重合開始剤としては、工程1)と同様の重合開始剤を使用できる。尚、工程1)の重合開始剤と工程2)の重合開始剤とは、種類が同じであっても異なっていてもよい。また、溶媒も工程1)と、同様に公知の溶媒を用いることができるが、工程1)と工程2)と同種の溶媒を使用することが好適である。
【0050】
本発明に係る高分子ゲル中の第一のモノマー成分量:第二のモノマー成分量が、モノマー換算したモル比で1:2〜1:100(好適には1:3〜1:50、より好適には1:3〜1:30)であることが好適である。このような構成を採ることにより、ゲルに、高い機械強度等の特性を付与することができる。
【0051】
次に、重合・架橋条件等につき説明すると、まず、第一の網目構造を有するゲルに拡散した第二のモノマー成分の重合反応は、加熱するか、または紫外線のような光を照射するか、いずれかにより行うことができる。この重合反応は、前記ゲルの第一の網目構造を壊さない条件下でなされる。また、架橋反応は、所定濃度の架橋剤、反応開始剤を第二のモノマー成分と一緒に溶媒中に混合し、第一の網目構造を有するゲルに拡散させる。具体的には、第一の網目構造を有するゲルを、架橋剤を含有する第二のモノマー溶液に浸漬し、24時間低温下で拡散させる。なお、拡散途中で架橋してしまうことを避けるために、室温以下、4℃付近が好ましい。
【0052】
また、第二のモノマー成分を重合し架橋する場合には、第一のモノマー成分を重合し架橋する場合よりも架橋度を小さく設定することである。即ち、第二の網目構造(第二のモノマー成分を重合し架橋することにより形成される網目構造)の架橋度を、第一の網目構造のそれよりも小さくするというものであり、その最も極端な例が、第二の網目構造の架橋度が0(即ち、第二のモノマー成分を重合するが架橋しない場合)である、セミ相互侵入網目構造ハイドロゲルの形態である。このような構成を採ることにより、ゲルに、これまでにない機械強度等の特性を付与することができる。
【0053】
具体的には、第一の網目構造を形成させるために使用する架橋剤の量と、第二の網目構造を形成させるために使用する架橋剤の量を、各々の網目構造の原料モノマーと関連づけて適宜調整する。好適には、第一の網目構造の架橋度が0.1〜50mol%であり、第二の網目構造の架橋度が0.001〜20mol%となるように、より好適には、第一の網目構造の架橋度が1〜20mol%であり、第二の網目構造の架橋度が0.01〜5mol%となるように、最も好適には、第一の網目構造の架橋度が2〜10mol%であり、第二の網目構造の架橋度が0.03〜1mol%となるようにする。特に、ゲルの含水率を小さくしたり(即ち、膨潤度を小さくする)、硬くする(即ち、弾性率を大きくする)には、両方の架橋度を上げるようにすればよい。
【0054】
工程3)
工程3)においては、分子ステントを除去する。当該工程は任意工程であるが、分子ステントを取り除くこともできる。分子ステントの除去方法としては、高分子ゲルを水中等の溶媒中に浸漬する方法などが挙げられる。
【0055】
以上、本方法により得られる高分子ゲルは、第一の網目構造体の種類に限定されることなく、高い強度を有する。特に、応力−歪曲線において、早い段階で降伏点が観測され、その後、応力が徐々に上昇しつつ、高い破断伸びを示す。高分子ゲルの破断のための損失エネルギーが、高くなる傾向にあり、破断しにくいゲルが得られるという性質を有する。
【0056】
また、第一の網目構造体の架橋度を調整することによって、得られる高分子ゲルの性質を変化させることができる。PAMPS/PAAm相互進入網目構造ゲルのように高強度の高分子ゲルを得ようとする場合には、第一の網目構造体の架橋度は1〜10mol%が好適であり、1.5〜8mol%がより好適であり、2〜4mol%が更に好適である。
【0057】
一方、高い破断歪を有する高分子ゲルを得ようとする場合には、第一の網目構造体の架橋度は0.03〜6mol%が好適であり、0.1〜4mol%がより好適であり、0.3〜2mol%が更に好適である。
【0058】
また、高い降伏応力を有する高分子ゲルを得ようとする場合には、第一の網目構造体の架橋度は2〜20mol%が好適であり、3〜15mol%がより好適であり、4〜12mol%が更に好適である。
【0059】
まず、高分子ゲルの圧縮破断応力は、好適には1〜100MPaであり、より好適には5〜50MPaであり、最も好適には10〜40MPaである。更に、高分子ゲルの引張破断応力は、好適には0.1〜100MPaであり、更に好適には0.1〜50MPaであり、最も好適には0.5〜5MPaである。
【0060】
「圧縮破断応力」とは、(圧縮破断時の力/元の断面積)の式で算出され、また、「圧縮破断歪」とは、(元の長さ−圧縮破断時の長さ)/元の長さの式で算出される。これらは、以下の方法Aで測定可能である。
測定方法A:ゲルを直径9mm、厚さ5mmの円盤状に切り出し、前記ゲルを2枚の平板プレート間に挟み、TENSILON(商標)引張試験機(ORIENTEC社製型式:RTC−1310A)を用いて圧縮させる圧縮破断応力。圧縮速度は10%/分とする。
【0061】
「引張破断応力」とは、(引張破断時の力/元の断面積)の式で算出され、また、「引張破断歪」とは、(引張破断時の長さ−元の長さ)/元の長さの式で算出される。これらは、以下の方法Bで測定可能である。
測定方法B:ゲルを延伸部延伸部長さ12mm、幅2mm、厚さ2mmのダンベル状(JIS
K−6251−7)に切り出しゲルの両末端を挟み、TENSILON(商標)引張試験機(ORIENTEC社製型式:1310A)で試験を行い、破断した時点での応力を引張破断応力σとする。引張速度は100mm/分とする。「歪」とは、(伸長時の長さ‐元の長さ)/元の長さの式で算出される。「応力」とは、(伸長時の力/元の断面積)の式で算出される。
【0062】
更に、本発明の高分子ゲルは、好適には、含水率が10%以上(より好適には50%以上、更に好適には85%以上)である。このように、ゲルに多量の水を存在させることにより、しなやか性、物質の透過性が向上する。なお、含水率の上限値は特に限定されないが、ゲルの機械強度維持等の理由から、通常は99.9%以下、好適には99%以下、より好適には95%以下である。
【0063】
「含水率」とは、以下の式で求められる値をいう:
含水率=水の重さ/(水の重さ+乾燥ゲルの重さ)×100(%)
【0064】
また、本発明のゲルは、好適には、収縮度が20〜95%(更に好適には60〜95%、最も好適には70〜95%)である。従来の電解質ゲルは、塩水に漬けると収縮が激しいため、特に、生体材料としての用途が閉ざされていた。このような物性を有することにより、かかる用途の可能性を提供した点で、非常に有意義である。このように収縮度が小さいと、例えば、おむつに応用するときに、吸収能力が落ちないという利点がある。また、海水中でゲルを応用する際にも有効である。
【0065】
「収縮度」とは、純水中で平衡膨潤したゲルの重量に対する塩水中で平衡膨潤したゲルの重量の比をパーセントで表した値を指し、以下の方法Cで測定された値をいう。
測定方法C:ゲルを大きさ2×2×0.2cm3に切り出し、20℃下で、500mlの蒸留水に入れ、1日間平衡膨潤させる。平衡膨潤後、水から取り出し、重さを天秤で量る。そのゲルを、更に、20℃下で、0.1mol/lの塩化ナトリウム水溶液500mlに入れ、1日浸漬し、平衡膨潤させてから取り出し、その重さを量る。
【実施例】
【0066】
(分子ステントの種類の検討)
モノマー(ヒドロキシエチルアクリレート:HEA)1M,架橋剤(N,N′−メチレンビスアクリルアミド:MBAA)4mol%,開始剤2−オキソグルタル酸 0.1mol%を純水に溶解させ、UVを8h照射することで第1網目のPHEA(ポリヒドロキシエチルアクリレート)ゲルを作成した。本ゲルを強電解質モノマーと光開始剤の水溶液に3日間浸漬した。モノマーとしては、アニオン型強電解質の2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)とスチレンスルホン酸ナトリウム(NaSS)、カチオン型強電解質のジメチルアミノプロピルアクリルアミドハロゲン化メチル4級塩(DMAPAA−Q)と、ジメチルアミノエチルアクリレートハロゲン化メチル4級塩(DMAEA−Q)、比較として中性のアクリルアミド(AAm)および弱電解質のアクリル酸(AAc)、計6種類を用いた。モノマー濃度は0.5〜1M、光開始剤濃度は0.1mol%である。本ゲルにUVを8h照射することで、ゲル内部で強電解質ポリマー(分子ステント)を合成した。このゲルをStゲルと呼ぶ。Stゲルを、モノマーAAm 2M、架橋剤 0.02mol%、光開始剤0.01mol%の水溶液に2日間浸漬した。本ゲルにUVを8h照射することで第2網目のPAAmを重合し、St−DN(ダブルネット:相互侵入網目構造)ゲルを合成した。尚、NaSSを使用した場合には、分子ステントを導入後、第一の網目構造体の一部が破壊された。
【0067】
上記の製造工程において得られたStゲルの物性を確認した。図3(a)は、ステントの種類に対する相対厚さ(PHEAゲルの厚さを1とした)の測定結果である。ここで、相対厚さは、ステント導入後の第一の網目構造体の平衡膨潤状態における厚さを、ステントを導入する前の第一の網目構造体(ここではPHEA)の平衡膨潤状態における厚さで除した値を測定した。より詳細には、分子ステントを導入したゲルを純水中で平衡膨潤させ、ノギスでゲルの厚さを測定する。分子ステントを導入していないゲルを純水中で平衡膨潤させ、ノギスでゲルの厚さを測定する。相対厚さは以下の式により求める。
(相対厚さ)=(分子ステントを導入したゲルの厚さ)/(分子ステントを未導入のゲルの厚さ)
【0068】
(応力‐歪曲線)
ゲルを延伸部長さ12mm、幅2mm、厚さ2mmのダンベル状(JIS
K−6251−7)に切り出し、TENSILON(商標)引張試験機(ORIENTEC社製形式:1310A)で試験を行った。引張速度は100mm/分とした。
【0069】
(相対初期弾性率の測定方法)
「初期弾性率」は、応力−歪曲線の歪初期における1次直線近似の傾きから求めた。
「相対初期弾性率」は、(ステントを導入したゲルの平衡膨潤時の初期弾性率)/(ステントを未導入ゲルの平衡膨潤時の初期弾性率)の式で算出した。
【0070】
(損失エネルギーの評価方法)
「損失エネルギー」は、応力−歪曲線の応力値を歪0から破断まで積分することにより算出した。損失エネルギーは応力−歪曲線と横軸により囲まれた面積に相当する。
【0071】
図3(b)は、ステントの種類に対する相対初期弾性率の測定結果である。ここでは、[分子ステント導入後のPHEAゲル単体の初期弾性率]/[PHEAゲル単体の初期弾性率]の値を示した。明細書中でも述べたように当該値は、πstent / E1st netに等しい。尚、Stゲルの初期弾性率は、0.019MPa〜0.175MPaであった。また、PHEAゲル単体の初期弾性率は、0.031MPaであった。
【0072】
図4は、上記の製造工程において得られたStゲルの相対Enの値を示した図である。
単位高分子鎖あたりの相対硬さEnは、
En∝E×q
En:単位高分子鎖あたりの相対硬さ
E:初期弾性率
q:膨潤度(体積変化率)
で表される。そこで、Enは以下の式(a)により求めた。
En=(初期弾性率)×(相対厚さ)3 (a)
【0073】
図4に示すように、強電解質ポリマーからなる分子ステントを用いた場合には、特に高い相対硬さEnを示すので、第一の網目構造体を構成する高分子が伸張した状態にあることがわかる。すなわち、分子ステントが機能しており、網目構造体の網目を拡張されている状態にあることがわかる。
【0074】
上記の工程により得られたSt−DNゲルの物性を測定した。図5は、応力−歪曲線を示す。図6は、損失エネルギーを示す。
【0075】
図5に示すように、測定した応力‐歪特性によれば、本発明に係るSt−DNゲルは、主に早い段階で降伏点が発生し、その後、ゆっくりと応力が増加して、大きな破断伸びを有することがわかった。その結果、図6に示す損失エネルギーの図から読み取れるように、当該エネルギーがより高くなり、破断に際して多くのエネルギーを要求する性質を有する高分子ゲルを得ることができることがわかった。
【0076】
上記のPHEA(第一の網目構造体)‐PAMPS(分子ステント)‐PAAm(第二の網目構造体) St−DNゲルの元素分析結果は以下の表1の通りである。
【表1】
【0077】
St−DNゲルを、PAMPS、PAAm gel、PHEA gel、水の4成分系だと考え、C,N,Oの分析結果を用いて連立方程式を組み、それぞれの重量比を求めたところ、以下の表2の結果となった。したがって、本ゲルでは、PHEA:PAAmのモノマー換算したモル比は、1:4.5であった。
【0078】
【表2】
【0079】
(分子ステント除去)
PHEA‐PAMPS‐PAAm St−DNゲルを合成後、水に浸漬し、2日目と16日目に元素分析を行った(表3、表4)。結果、2日目の段階では、他のポリマーと比較して5.0wt%のステントが含まれていたのに対し、16日目の段階では2.3wt%に減少していた(表5、表6)。
【0080】
【表3】
【0081】
【表4】
【0082】
【表5】
【0083】
【表6】
【0084】
(拡散係数:第二のモノマー)
第2のモノマー(アクリルアミド)のゲル内での拡散係数:
DAAm=1.07×10−9(m2/s)
【0085】
・導出法
アインシュタイン=ストークスの式を用いて拡散係数Dを求める。
【数1】
T:293.15(K)とすると、水の粘度η=1.002(mPa・s)
アクリルアミドの流体力学的半径aは、C=Cbondの結合長から0.2nm程度だと予測される。これらを代入すると、
DAAm=1.07×10−9(m2/s)
AAmのサイズはゲルの網目(数nm)よりも十分に小さいので、ゲル網目はアクリルアミドの拡散に殆ど影響しない、つまり、ゲル内部での拡散係数は、水中での拡散係数とほぼ等しいと考えられる。
【0086】
・浸漬に必要な日数
拡散方程式
【数2】
を用いて、AAmのゲル内部への拡散を考える。
tは時刻、xはゲル表面からの距離、cはxにおけるゲル内部のAAm濃度である。
ゲル外部のAAm溶液の濃度cAAmは一定とする。
tで積分すると、
【数3】
t=0の時、ゲルの中のAAm濃度cは0なので、
【数4】
次にxで積分すると、
【数5】
t>0の時、ゲルとAAm溶液との境目(x=0)では、ゲル内外のAAm濃度は同じ、つまり
【数6】
だと考えられるので、
【数7】
再度xで積分すると、
【数8】
t>0の時、ゲルと溶液との境目(x=0)では、ゲルのAAm濃度は外のAAm濃度cAAmと等しいと考えられるので、
【数9】
変形すると
【数10】
あるいは
【数11】
ゲル中心のAAm濃度が外のAAm濃度の99%になる時間t99%を、ゲル内部にAAmが充分浸透した時間とみなす。
ゲルの幅dが2mmの時、x=1mm
計算すると、
t99%=4.63×104(s)=12.9(h)
ゲルの厚さが2mmの時は、AAm溶液に半日以上浸漬すれば、AAmは十分に浸透する。
【0087】
(拡散係数:分子ステント)
分子ステント(PAMPS)のゲル中での拡散係数:
D=3.06×10−12(m2/s)
【0088】
・測定法
ステント分子はゲルの網目よりも充分に大きいので、ゲルからのステント分子の流出速度を実際に調べる必要がある。今回、St−DNゲルからのステント分子の流出を1次元ランダムウォークモデルによって考え、そこから拡散係数を計算した。
ステント流出開始後2日目のゲル内のステント総量(g)をW1、時刻をt1とし、16日目のステント総量(g)をW2、時刻をt2とする。t2‐t1=14dである。また、元素分析の結果より、W1/W2=2.167であった。
ゲル内でのステントの拡散係数をDとする。ランダムウォークモデルを用いた場合、時刻tの時のステント分子鎖の存在割合分布は正規分布に従い、以下のように表せる。
【数12】
ここで、t=t1における標準偏差をd/2(ゲル厚みの半分)であると考えると、
【数13】
となり、上2式を比較することで
【数14】
となる。
ゲル中心(x=0)でのステント濃度をc1とすると、
【数15】
Nは、ステントの全量に比例する定数である。
次に、時刻t2の時のゲル中心でのステント濃度c2は
【数16】
と表せる。2つを比較すると、
【数17】
【数18】
拡散係数Dは
【数19】
となる。
ここで、ゲル内部のステント総量がゲル中心のステント濃度に比例する、と近似すると、
W1/W2=c1/c2
となる。
実験値(d=2mm,W1/W2=2.167,t=14d)を代入すると、
D=3.06×10−12(m2/s)
と求められる。
【0089】
以上の結果から、D2nd mono / Dstentは、[1.07×10−9(m2/s)]/[3.06×10−12(m2/s)]=3.50×102である。
【0090】
(第一のモノマーの種類の検討)
モノマー1M,架橋剤MBAA 4mol%,開始剤2−オキソグルタル酸 0.1mol%を純水に溶解させ、UVを8h照射することで第1網目のゲルを作成した。モノマーとしては、中性のAAmとHEA、弱電解質のAAcの3種類を用いた。本ゲルをAMPSと光開始剤の水溶液に3日間浸漬した。モノマー濃度は0.5〜1M、光開始剤濃度は0.1mol%である。本ゲルにUVを8h照射することで、ゲル内部で強電解質ポリマー(分子ステント)を合成した。このゲルをStゲルと呼ぶ。Stゲルを、モノマーAAm 2M、架橋剤0.02mol%、光開始剤0.01mol%の水溶液に2日間浸漬した。本ゲルにUVを8h照射することで第2網目のPAAmを重合し、St−DNゲルを合成した。
【0091】
上記工程により得られたStDNゲルの各種物性を測定した。
図7(a)は、ステント濃度と相対厚さの関係を示す図であり、図7(b)は、ステント濃度に対する相対初期弾性率の関係を示す図である。ここで、規格化ステント濃度とは、第一網目成分に対する分子ステント高分子のモル比をモノマー単位で換算したものである。成分比は元素分析により求めた。尚、相対厚さ及び相対初期弾性率については、上記と同様の方法により測定した。尚、初期弾性率は、AAcゲルの場合、0.022MPa、AAmゲルの場合0.033MPa、HEAゲルの場合0.055MPaであった。また、分子ステント導入後の初期弾性率は、StAAcゲルの場合0.032〜0.067MPa(πstent/E1st net:1.45〜3.045)、StAAmゲルの場合0.039〜0.146MPa(πstent/E1st net:1.18〜4.42)、StHEAゲルの場合0.077〜0.21MPa(πstent/E1st net:1.40〜3.82)であった。ステントの導入量を高くすれば相対厚さ及び相対初期弾性率の値が増していくので、よりステントとしての網目拡張機能を有することがわかる。
【0092】
図8は、ステント濃度に対する相対Enの関係を示す図である。尚、Enの測定方法は上記と同様の方法により行なった。何れの種の第一のモノマーであってもステントの導入量が多くなればなるほど、相対初期弾性率は高い値を示し、分子ステントの導入量が増えることにより網目構造を拡張する効果が高まることがわかった。
【0093】
図9は、各種StDNゲルの応力‐歪曲線を示す図である。各種StDNゲルの規格化ステント濃度は、AAcが0.28、AAmが0.31、HEAが0.40であるものを使用した。比較として、分子ステントを使用しないで製造したDNゲルの結果を掲載した。結果、何れの種の第一のモノマーであっても、比較的低い降伏点を有し、その後、ゆっくりと応力が増して、高い歪を許容することができる性質を有することがわかった。図10は、各種StDNゲルの損失エネルギーを示す図である。損失エネルギーも、本発明に係るSt−DNゲルは高い値を示した。
【0094】
(第一の網目構造体の架橋度が物性に与える影響)
モノマー(ジメチルアクリルアミド:DMAAm)1M,架橋剤(N,N′−メチレンビスアクリルアミド:MBAA)4mol%,2mol%,1mol%,0.5mol%、開始剤2−オキソグルタル酸 0.1mol%を純水に溶解させ、UVを8h照射することで第1網目のPDMAAm(ポリジメチルアクリルアミド)ゲルを作成した。本ゲルを強電解質モノマー(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸:AMPS)と光開始剤の水溶液に3日間浸漬した。モノマー濃度は1M、光開始剤濃度は0.1mol%である。本ゲルにUVを8h照射することで、ゲル内部で強電解質ポリマー(分子ステント)を合成した。このゲルをStゲルと呼ぶ。Stゲルの厚さ及び初期弾性率を測定して図11に示した。図11(a)は分子ステントを導入した各種第一の網目構造体の厚さを示す図であり、図11(b)は初期弾性率を測定した結果を示す図であり、図11(c)は単位高分子鎖あたりの弾性率を示した図である。
【0095】
上記のStゲルを、モノマーAAm 2M、架橋剤MBAA 0.02mol%、光開始剤2−オキソグルタル酸0.01mol%の水溶液に2日間浸漬した。本ゲルにUVを8h照射することで第2網目のPAAmを重合し、St−DNゲルを合成した。得られたDNゲルの応力歪曲線を作成して、各種物性を評価した。尚、比較例として、PAMPS/PAAmの相互進入網目構造ゲルの応力歪曲線を作成した(図12)。
【0096】
(架橋度の検討)
モノマー(ヒドロキシエチルアクリレート:HEA)1M,架橋剤(N,N′−メチレンビスアクリルアミド:MBAA)4mol%、開始剤2−オキソグルタル酸 0.1mol%を純水に溶解させ、UVを8h照射することで第1網目のPHEA(ポリヒドロキシエチルアクリレート)ゲルを作成した。本ゲルを強電解質モノマー2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)と光開始剤の水溶液に3日間浸漬した。モノマー濃度は0.5〜1M、光開始剤濃度は0.1mol%である。本ゲルにUVを8h照射することで、ゲル内部で強電解質ポリマー(分子ステント)を合成した。このゲルをStゲルと呼ぶ。Stゲルを、モノマーAAm 2M、架橋剤 0.02mol%、光開始剤0.01mol%の水溶液に2日間浸漬した。本ゲルにUVを8h照射することで第2網目のPAAmを重合し、St−DNゲルを合成した。比較として、PAMPS/PAAmのDNゲルと、PHEA/PAAm ipn(相互侵入網目構造)ゲルを製造して応力‐歪曲線を作成した。結果を、表7、図13に示した。
【0097】
【表7】
【0098】
第一網目の架橋度を2mol%にした以外は上記と同様の方法でSt−DNゲルを製造して、応力‐歪曲線を作成した。結果を表8、図14に示した。
【0099】
【表8】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、高分子ゲルの製造方法。
1)架橋構造を有する第一の網目構造体中に分子ステントを導入する工程;
及び
2)分子ステントを導入した第一の網目構造体内に第二のモノマーを導入して重合する工程。
【請求項2】
前記分子ステント導入後の第一の網目構造体内の浸透圧πstentと、前記第一の網目構造体の初期弾性率E1st netとが下記式(1)の関係を満足する、請求項1記載の製造方法。
πstent / E1st net ≧ 1.5 (1)
【請求項3】
網目構造体内での分子ステントの拡散係数Dstentと、網目構造体内での第二モノマーの拡散係数D2nd monoとの関係が下記式(2)の関係を満足する、請求項1又は2記載の製造方法。
D2nd mono / Dstent ≧ 2 (2)
【請求項4】
前記分子ステントが、電解質ポリマーであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項5】
前記電解質ポリマーが、スルホン酸系モノマー又はその塩、4級アミン塩系モノマーからなる群から選ばれる一又は二種以上の電解質原料モノマーを重合して得られる強電解質ポリマーであることを特徴とする、請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
前記工程1)において、電解質原料モノマーを前記第一の網目構造体内に導入し重合して電解質ポリマーを合成することにより、分子ステントを導入することを特徴とする、請求項4又は5記載の製造方法。
【請求項7】
前記工程1)において、分子ステント存在の下で、第一のモノマーと架橋剤を重合して第一の網目構造体を形成する工程である、請求項1〜5のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項8】
前記工程2)の後に、以下の工程を有することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項記載の製造方法。
3)分子ステントを除去する工程。
【請求項9】
以下の工程を含む方法により得られる、高分子ゲル。
1)架橋構造を有する中性の第一のモノマーからなる第一の網目構造体中に分子ステントを導入する工程;
及び
2)分子ステントを導入した第一の網目構造体内に第二のモノマーを導入して重合する工程。
【請求項10】
第一のモノマー成分量:第二のモノマー成分量が、モノマー換算したモル比で1:2〜1:100である、請求項9記載の高分子ゲル。
【請求項1】
以下の工程を含む、高分子ゲルの製造方法。
1)架橋構造を有する第一の網目構造体中に分子ステントを導入する工程;
及び
2)分子ステントを導入した第一の網目構造体内に第二のモノマーを導入して重合する工程。
【請求項2】
前記分子ステント導入後の第一の網目構造体内の浸透圧πstentと、前記第一の網目構造体の初期弾性率E1st netとが下記式(1)の関係を満足する、請求項1記載の製造方法。
πstent / E1st net ≧ 1.5 (1)
【請求項3】
網目構造体内での分子ステントの拡散係数Dstentと、網目構造体内での第二モノマーの拡散係数D2nd monoとの関係が下記式(2)の関係を満足する、請求項1又は2記載の製造方法。
D2nd mono / Dstent ≧ 2 (2)
【請求項4】
前記分子ステントが、電解質ポリマーであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項5】
前記電解質ポリマーが、スルホン酸系モノマー又はその塩、4級アミン塩系モノマーからなる群から選ばれる一又は二種以上の電解質原料モノマーを重合して得られる強電解質ポリマーであることを特徴とする、請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
前記工程1)において、電解質原料モノマーを前記第一の網目構造体内に導入し重合して電解質ポリマーを合成することにより、分子ステントを導入することを特徴とする、請求項4又は5記載の製造方法。
【請求項7】
前記工程1)において、分子ステント存在の下で、第一のモノマーと架橋剤を重合して第一の網目構造体を形成する工程である、請求項1〜5のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項8】
前記工程2)の後に、以下の工程を有することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項記載の製造方法。
3)分子ステントを除去する工程。
【請求項9】
以下の工程を含む方法により得られる、高分子ゲル。
1)架橋構造を有する中性の第一のモノマーからなる第一の網目構造体中に分子ステントを導入する工程;
及び
2)分子ステントを導入した第一の網目構造体内に第二のモノマーを導入して重合する工程。
【請求項10】
第一のモノマー成分量:第二のモノマー成分量が、モノマー換算したモル比で1:2〜1:100である、請求項9記載の高分子ゲル。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図13】
【図14】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図13】
【図14】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−36262(P2012−36262A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175795(P2010−175795)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 第14回卒業研究経過報告会、国立大学法人北海道大学主催、平成22年2月5日発表 国立大学法人北海道大学発行、第14回卒業研究経過報告会要旨集、平成22年2月4日発行
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 第14回卒業研究経過報告会、国立大学法人北海道大学主催、平成22年2月5日発表 国立大学法人北海道大学発行、第14回卒業研究経過報告会要旨集、平成22年2月4日発行
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】
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