説明

高分子ビルダー

【課題】 ビルダー性能が良好で、生分解性が改善され、かつ泥分散性にも優れる高分子ビルダー、及び該高分子ビルダーを簡便に製造する方法、並びに該高分子ビルダーを含有する洗浄剤組成物の提供。
【解決手段】 ポリビニルアルコールを主鎖とし、カルボキシル基を有する単量体に由来する重合単位を含む数平均分子量が150〜1000のグラフト鎖を有し、グラフト鎖の重量が全ポリマー重量の10〜80重量%であるグラフトポリマーからなる高分子ビルダー、及びその製造方法、並びにこの高分子ビルダー及び界面活性剤を含有する洗浄剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフトポリマーからなる高分子ビルダー及びその製造方法、並びに該高分子ビルダーを含有する洗浄剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維用の合成洗剤は、界面活性剤を主たる構成成分としているが、その洗浄能力を高めるために水中のカルシウム分を捕捉するビルダーが配合されている。ビルダーはゼオライトA等の無機ビルダーが広く用いられているが、その作用を補うために有機ビルダーも用いられている。
【0003】
洗剤に使用されている有機ビルダーとしては、ポリカルボン酸系高分子ビルダーが挙げられる。しかしながらそれらの多くは生分解性が低く、近年、環境安全性の観点から、ビルダー性能が良好で、生分解性が改善されたポリマーへの置き換えが試みられている。
【0004】
非特許文献1には、ポリビニルアルコール(PVA)とアクリル酸とのランダム共重合体が開示されている。しかしながら、かかるランダム共重合体では、アクリル酸ユニットがポリビニルアルコールにより分断され、ビルダー性能を高くすることができず、一方ビルダー性能を求めてアクリル酸含有量を多くした場合、生分解性の急速な低下があり、生分解性とビルダー性能の両立は困難である。
【0005】
また、特許文献1には、カルボキシル基を有する単量体をポリアルキレンオキシド等の生分解性基幹にグラフトさせたビルダー性共重合体が開示されている。しかしながら、この共重合体を製造する方法として、希望する構造のビルダーを得るために金属塩を用いることが記載されており、簡便な方法で高い性能を持つビルダーを製造することができない。
【非特許文献1】Macromol.Chem., 194, 3237(1993)
【特許文献1】特開平3−177406号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、ビルダー性能が良好で、生分解性が改善され、かつ泥分散性にも優れる高分子ビルダー、及び該高分子ビルダーを簡便に製造する方法、並びに該高分子ビルダーを含有する洗浄剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ポリビニルアルコールを主鎖とし、カルボキシル基を有する単量体に由来する重合単位を含む数平均分子量が150〜1000のグラフト鎖を有し、グラフト鎖の重量が全ポリマー重量の10〜80重量%であるグラフトポリマーからなる高分子ビルダー、及びその製造方法、並びにこの高分子ビルダー及び界面活性剤を含有する洗浄剤組成物を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ビルダー性能が良好で、生分解性が改善され、かつ泥分散性にも優れた高分子ビルダー、並びにそれを含有する洗浄剤組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
[高分子ビルダー]
本発明の高分子ビルダーは、ポリビニルアルコールを主鎖とし、カルボキシル基を有する単量体に由来する重合単位を含むグラフト鎖を有するグラフトポリマーからなる。
【0010】
ポリビニルアルコールの平均重合度は特に限定されないが、水溶液粘度の観点より、5000以下が好ましく、3000以下がより好ましく、1000以下がさらに好ましい。また生分解性の観点より、50以上が好ましく、100以上がより好ましく、200以上がさらに好ましい。
【0011】
ここでポリビニルアルコールの平均重合度は1H−NMR測定により求めることができ、市販品はカタログ値を用いた。
【0012】
また、ポリビニルアルコールは一部又は全部が鹸化されたものでも良い。生分解性の観点より、グラフトポリマーの主鎖中のビニルアルコールユニットの含有量は60重量%以上が好ましく、80重量%以上がより好ましく、90重量%以上がさらに好ましい。
【0013】
本発明のグラフトポリマーのグラフト鎖を構成するカルボキシル基を有する単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、クロトン酸、及びビニル酢酸、並びにそれらの塩から選ばれる少なくとも1種が好ましく、アクリル酸、メタクリル酸及びそれらの塩から選ばれる少なくとも1種がより好ましい。また、カルボキシル基を有する単量体の中和度は特に制限はないが、80%以下が好ましく、50%以下がより好ましく、20%以下がさらに好ましい。
【0014】
ここでカルボキシル基を有する単量体の中和度は、単量体中のカルボキシル基の当量数に対して中和に用いた塩基性化合物の当量数の比と定義される。塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属水酸化物、アンモニアやアミン化合物が挙げられる。
【0015】
また、グラフト鎖は、カルボキシル基を有する単量体と共重合可能なエチレン性不飽和単量体を含むことができる。かかる単量体としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート等のアクリル酸またはメタクリル酸のアルキルエステル;アクリル酸またはメタクリル酸のヒドロキシアルキルエステル;アクリルアミドまたはメタクリルアミド等が挙げられる。
【0016】
グラフト鎖中のカルボキシル基を有する単量体の含有量は60重量%以上が好ましく、80重量%以上がより好ましく、90重量%以上がさらに好ましい。
【0017】
本発明の高分子ビルダーが十分な生分解性を得る観点から、グラフト鎖の数平均分子量は、150以上であり、250以上が好ましく、500以上がより好ましい。また1000以下であり、800以下が好ましく、750以下がより好ましい。
【0018】
本発明のグラフトポリマー中のグラフト鎖の重量は、高いビルダー性能を発現させる観点から、全ポリマー重量に対し、10重量%以上であり、15重量%以上が好ましく、20重量%以上がより好ましい。また、十分な生分解性を得る観点から、80重量%以下であり、70重量%以下が好ましく、50重量%以下がより好ましい。
【0019】
また、本発明のグラフトポリマーは、十分な生分解性を得る観点から、グラフト鎖とグラフト鎖との間のポリビニルアルコール主鎖の長さが長いことが好ましい。かかる長さ、すなわちグラフト鎖とグラフト鎖の間に存在する主鎖の分子量の平均値(以下グラフト点間分子量という)が大きいほうが生分解性が良好であり、グラフト点間分子量は300以上が好ましく、500以上がより好ましく、1000以上がさらに好ましい。
【0020】
なお、グラフト鎖の数平均分子量、グラフトポリマー中のグラフト鎖の重量、グラフト点間分子量は、1H−NMR及び13C−NMR測定により求めることができる。
【0021】
本発明のグラフトポリマーの重量平均分子量は、水溶液の粘度上昇に伴うハンドリング性、及びビルダー性能の観点より、5000以上が好ましく、9000以上がより好ましい。また20万以下が好ましく、15万以下がより好ましく、10万以下がさらに好ましい。
【0022】
グラフトポリマーの重量平均分子量は、ポリアクリル酸を標準ポリマーとして、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにて測定できる。
【0023】
[高分子ビルダーの製造方法]
本発明の高分子ビルダーは、ポリビニルアルコールに、カルボキシル基を有する単量体を含むモノマー成分と重合開始剤とを滴下して重合することにより製造される。ポリビニルアルコールに重合開始剤や成長末端ラジカルが連鎖移動することでポリビニルアルコール主鎖上にラジカルを生成させ、ここを開始点としてカルボキシル基を有する単量体を含むモノマー成分が重合するために、グラフトポリマーが得られる。
【0024】
また、ポリ酢酸ビニルを有機溶剤に溶解、分散させ、カルボキシル基を有する単量体を含むモノマー成分をグラフト鎖として重合した後、得られたグラフトポリマーを加水分解してポリビニルアルコールを主鎖とするグラフトポリマーを得てもよい。
【0025】
重合溶媒としては、カルボキシル基を有する単量体を溶解し、ポリビニルアルコールが溶解または分散する溶媒が好ましく、水、オクタノール等の高沸点のアルコール、パラフィン等の高沸点の炭化水素、ポリビニルアルコールを溶解するN,N−ジメチルホルムアミドやジメチルスルホキシドなどが挙げられる。
【0026】
重合温度は90℃以上が好ましく、95℃以上がより好ましい。かかる温度を採用することによりポリビニルアルコールへのカルボキシル基を有する単量体の連鎖移動が十分に進行し、グラフト効率が向上し、カルボキシル基を有する単量体由来のグラフト鎖の分子量を小さくすることができ、ひいては生分解性が良好なグラフトポリマーを得ることができる。重合温度が高くなればポリビニルアルコール上への連鎖移動効率が高まり、さらに好ましい。100℃を越える重合温度で製造する場合は、高圧下での重合やジメチルスルホキシドなどの高沸点溶媒の使用が挙げられる。重合温度の上限は溶媒の沸点等で制限されるが、200℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましい。
【0027】
グラフト効率が高く、カルボキシル基を有する単量体由来のグラフト鎖の分子量を小さくするためには、モノマーの滴下時間を十分に長くすることが有効である。カルボキシル基を有する単量体を含むモノマー成分の滴下時間は、温度、滴下する単量体量によって変わり、以下の式(1)で定義される最低滴下時間Tmin以上の時間で行うことが好ましい。
【0028】
Tmin [hr]=3.95×10-28×exp(24479/T)×G/C1.5 (1)
〔ここで、T:重合温度[絶対温度(K)]、G:グラフトポリマーを構成する原料単量体全量中のカルボキシル基を有する単量体の重量%、C:ポリビニルアルコールの初期濃度(重量%)を表す。〕
最低滴下時間Tminは、重合温度が高いほど短くすることができ、重合の絶対温度に対して指数関数的に低下する。また、グラフトポリマーを構成する原料単量体全量中のカルボキシル基を有する単量体の重量%(G)を高くしたい場合には、Tminを長くする必要がある。また、ポリビニルアルコールの初期濃度(C)が高ければ、Tminは短くてもよい。なお、ポリビニルアルコールの初期濃度(C)とは、カルボキシル基を有する単量体を滴下する前に、重合反応槽に予め仕込んでおくポリビニルアルコール水溶液の濃度である。
【0029】
重合時間は、上述のように反応温度に依存するが、2時間以上が好ましく、5時間以上がより好ましく、10時間以上がさらに好ましい。また24時間以下が好ましい。
【0030】
重合開始剤は、溶媒に可溶な重合開始剤が好ましい。重合開始剤としては、アゾ系重合開始剤が、グラフト鎖の含有率を高くした場合においても架橋反応を抑制することができ、グラフト鎖の分子量が過剰に大きくならないようにすることができるので好ましいが、アゾ系重合開始剤以外の従来公知の重合開始剤を用いることもできる。
【0031】
本発明に用いられるアゾ系重合開始剤としては、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロハライド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロハライド及び4,4’−アゾビス−4−シアノバレリックアシッドからなる群より選択される1種以上が本発明の目的を達成する観点から好ましい。また、上記の重合開始剤において、ハライドはクロリドであることが経済面より好ましい。
【0032】
本発明に用いられるアゾ系重合開始剤以外の重合開始剤としては、ハイドロパーオキシド類、過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニムなどの過硫酸塩、過塩素酸カリウム、過塩素酸ナトリウムなどの過塩素酸塩、塩素酸カリ、臭素酸カリなどのハロゲン酸塩、過酸化水素/第1鉄塩、過硫酸塩/亜硫酸塩、クメンヒドロパーオキシド/第1鉄塩、過酸化水素/L−アスコルビン酸等のレドックス系重合開始剤等を例示することができる。これらは1種以上を使用することができる。
【0033】
[洗浄剤組成物]
本発明の洗浄剤組成物は、本発明の高分子ビルダー及び界面活性剤を含有する。本発明の洗浄剤組成物中の本発明の高分子ビルダーの含有量は、洗浄性能の観点から、0.1〜15重量%が好ましく、1.5〜10重量%がより好ましい。界面活性剤の含有量は、洗浄性能の観点から、10〜40重量%が好ましく、20〜30重量%がより好ましい。
【0034】
本発明の高分子ビルダーを単独で洗剤用ビルダーとして使用してもよいが、ゼオライトA等の無機ビルダーや他の有機ビルダーと併用してもよい。
【0035】
本発明の高分子ビルダーと共に用いられる界面活性剤は、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤のいずれでもよい。
【0036】
陰イオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪酸石ケン、アルキルエーテルカルボン酸塩、N−アシルアミノ酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩、α−オレフィンスルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、脂肪酸アルキロールアミドの硫酸エステル塩、アルキルエーテルリン酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩などが好適に用いられる。
【0037】
陽イオン性界面活性剤としては、脂肪族アミン塩、脂肪族四級アンモニウム塩、ベンザルコニウム塩、塩化ベンゼトニウム、ピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩などが好適に用いられる。
【0038】
非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアミンオキシドなどが好適に用いられる。
【0039】
両性界面活性剤としては、例えばカルボキシベタイン型化合物、アミノカルボン酸塩、イミダゾリニウムベタインなどが好適に用いられる。
【0040】
本発明の洗浄剤組成物を製造する際には、本発明の高分子ビルダーと界面活性剤の他に、通常の洗浄剤組成物に用いられている酵素や蛍光増白剤、制泡剤などを配合することができる。
【実施例】
【0041】
以下の実施例において、グラフトポリマーの重量平均分子量は以下の方法で測定し、構造は以下の方法で同定した。
【0042】
<重量平均分子量の測定法>
重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定した。測定条件は以下の通りである。
カラム:東ソー製 G4000PWXL+G2500PWXL
溶離液:0.2Mリン酸緩衝液/アセトニトリル=9/1(vol/vol)
測定温度:40℃
流速:1.0mL/min
検出器:UVまたはRI
標準ポリマー:ポリアクリル酸
<グラフトポリマーの構造の同定方法>
グラフトポリマー全量中のカルボキシル基を有する単量体ユニットの重量分率G’、グラフト鎖の数平均分子量Mn(PAA)、及びグラフト点間分子量は、1H−NMR及び13C−NMRのピークより求めることができる。例えば、カルボキシル基を有する単量体がアクリル酸の場合は以下のようにして求められる。
【0043】
グラフトポリマー中の水素原子を以下のように分け、1H−NMRにおける吸収積分値をa〜dとし、ピークa、c及びdの積分値の合計をxとする。尚、各水素原子の概略の化学シフトをカッコ内に示す。
a:ポリビニルアルコールのメチレン水素
b:ポリビニルアルコールの水酸基が結合する炭素に結合している水素(3.6〜4.2ppm)
c:アクリル酸のメチレン水素
d:アクリル酸のカルボキシル基が結合している炭素に結合している水素
x:a+c+d(1.0〜2.4ppm)
このとき、ポリビニルアルコールユニット数nPVA、及びアクリル酸ユニット数nPAAは以下の式(2)及び(3)で表される。
【0044】
nPVA=b (2)
nPAA=(x−2)/3 (3)
ビニルアルコールの分子量44及びアクリル酸の分子量72より、アクリル酸グラフト鎖の含有率G’は式(4)で求められる。
【0045】
G’=nPAA×72/(nPAA×72+nPVA×44) (4)
また、グラフトポリマー中の以下の炭素原子の13C−NMRにおける吸収積分値をe及びfとする。尚、各炭素原子の概略の化学シフトをカッコ内に示す。
e:ポリビニルアルコールの水酸基とグラフト鎖とが結合する炭素(約78ppm)
f:アクリル酸のカルボキシル基の炭素(182−190ppm)
このとき、グラフト鎖の数平均分子量Mn(PAA)は、式(5)で求められる。
【0046】
Mn(PAA)=(f/e)×72 (5)
また、グラフト点間分子量は、式(6)で求められる。
【0047】
グラフト点間分子量=Mn(PAA)/[(nPAA×72)/(nPVA×44)] (6)
実施例1
ポリビニルアルコール(平均重合度=500、完全ケン化(和光純薬社製)、以下PVA−1という)70gとイオン交換水779.8gを2Lセパラブルフラスコに仕込み、100℃まで昇温してポリビニルアルコールを溶解させた。温度を100℃に保ったまま、80%アクリル酸(東亞合成製)43.78gとイオン交換水60.2gを混合したものと、重合開始剤(2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸:和光純薬製V−50)6.58gをイオン交換水102gに溶解させた重合開始剤水溶液を等速で20時間かけて滴下した。
【0048】
反応溶液の一部をアセトンに注ぎ、再沈殿を行い、沈殿物を回収し、グラフトポリマーを得た。1H−NMRにより沈殿物はグラフトポリマーであることを確認した。得られたグラフトポリマーの重量平均分子量、グラフト量、グラフト鎖ポリアクリル酸の数平均分子量、グラフト点間分子量を表1に示す。
【0049】
実施例2〜4
ポリビニルアルコールとして、PVA−1の代わりに、以下の方法で得られたPVA−2を用い、表1に示す重合開始剤を用いて、表1に示す条件以外は実施例1と同様の方法でグラフトポリマーを製造した。得られたグラフトポリマーの重量平均分子量、グラフト量、グラフト鎖ポリアクリル酸の数平均分子量、グラフト点間分子量を表1に示す。
【0050】
<PVA−2の製造法>
2Lセパラブルフラスコにメタノール800gを仕込み、60℃まで昇温したのち、酢酸ビニル400g、2−メルカプトエタノールを仕込み、重合開始剤(2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル):和光純薬製)をメタノール200gに溶解させた重合開始剤溶液をそれぞれ2時間かけて滴下し、重合を行った。滴下終了後、3時間60℃を保ったまま重合を進めた。重合終了後、反応溶液を30℃まで冷却し、3.5%水酸化ナトリウム水溶液94.8gを2回に分けて添加し、室温で2時間加水分解を行った。析出したポリマーをろ過し、メタノールで洗浄、乾燥後PVA−2を得た。平均重合度は270であった(1H−NMRにて測定)。
【0051】
比較例1
試薬のポリビニルアルコール(和光純薬製;平均重合度=500)を比較例1のポリマーとした。
【0052】
比較例2
市販のポリアクリル酸(PAA)ナトリウム(BASF社製、ソカランPA−15)を比較例2のポリマーとした。このポリマーの数平均分子量は1150(重量平均分子量は2370)であった。
【0053】
実施例1〜4で得られたグラフトポリマー、比較例1〜2のポリマーからなる高分子ビルダーについて、以下の方法で泥分散性、Ca捕捉能、生分解性の評価を行った。結果を表1にまとめて示した。
【0054】
<泥分散性>
ポリマー0.05gを正確に100mLメスフラスコに量りとり、20mMの塩化アンモニウム緩衝溶液(pH10)で溶解させた(ポリマー溶液)。50mLの目盛り付沈降管に20mM塩化アンモニウム緩衝溶液(pH10)を50mL入れ、ポリマー溶液を0.5mL添加し、沈降管にフタをして振とうした。その中に、園芸用土を0.05g添加し、振とう5分、超音波5分で分散させ、25℃で2時間静置した。2時間後、沈降管の目盛り40mLのところから、3mLサンプリングし、575nmでの吸光度を測定した。吸光度が高いものほど、泥の分散性が良好である。
【0055】
<Ca捕捉能>
Ca捕捉能は、イオンメーターとカルシウム電極を用いたイオン電極法にて測定した。100mLのメスフラスコに0.1gのポリマーを正確に量りとり、塩化アンモニウム緩衝溶液(塩化アンモニウム=8.558g/Lの水溶液を25%アンモニア水にてpH10に調整)にてメスアップした。これに20000mg/L(炭酸カルシウム換算)に相当する塩化カルシウム水溶液(pH10:緩衝溶液にて調製)を0.2mlずつ滴下し、カルシウム電極にて電位差を測定した。滴定量と電位差との関係から溶液中のカルシウムイオン濃度を見積もり、溶液中のカルシウムイオン濃度とブランクにおけるカルシウムイオン濃度との差からカルシウム捕捉能(mgCaCO3/g)を算出した。尚、Ca捕捉能30以上のものが、ビルダー性能が良好であるといえる。
【0056】
<生分解性>
3Lのビーカーに、ポリマー50mg−炭素/L(およそ100mg/L)、処理場汚泥200mg/Lとなるように仕込み、空気をバブリング、攪拌しながら25±1℃で試験を行った。試験開始28日目にサンプルを採取、0.2μmのフィルターにてろ過した後、溶存有機炭素濃度(DOC)を測定した。生分解率は試験開始時点のDOCとの比により求めた。
【0057】
【表1】

【0058】
表中の略号は以下の意味を示す。
AA:アクリル酸
PVA:ポリビニルアルコール
PAA:ポリアクリル酸
V−50:2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸
V−40:1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)
DMSO:ジメチルスルホキシド
Tmin:最低滴下時間
G:グラフトポリマーを構成する原料単量体全量中のアクリル酸の重量%
C:ポリビニルアルコールの初期濃度(重量%)
G’:グラフトポリマー全量中のPAAの重量分率
Mn(PAA):PAA(グラフト鎖)の数平均分子量。
【0059】
表1の結果から、本発明の高分子ビルダーは、ビルダー性能が良好で、生分解性が改善され、かつ泥分散性にも優れていることがわかる。
【0060】
実施例5及び比較例3
実施例4で得られたグラフトポリマーからなる高分子ビルダーを用い、表2に示す組成の洗浄剤組成物を調製した。また、高分子ビルダーを除いた以外は同様にして比較の洗浄剤組成物を調製した。得られた洗浄剤組成物について、下記方法で洗浄性及び再汚染防止性を評価した。結果を表2に示す。
【0061】
<洗浄性の評価方法>
松下電器産業製洗濯機「愛妻号 NA−F70AP」へ衣料(肌着とYシャツを8/2の重量比率)2.2kgと10cm×10cmの下記方法で調製した人工汚染布10枚を35cm×30cmの木綿台布3枚に縫い付けて均一に入れ、評価サンプル22gを集合状態で衣類上に置き、評価サンプルに直接水が当たらないように注水し、標準コースで洗浄を行った。洗浄条件は次のとおりであった。
【0062】
洗浄コース:標準コース、洗浄剤濃度0.067重量%、洗濯水71.2mgCaCO3 /LでCa/Mgのモル比7/3の硬水、水温20℃、浴比15L/kg。
【0063】
洗浄性は、汚染前の原布及び洗浄前後の汚染布の550nmにおける反射率を自記色彩計(島津製作所(株)製)にて測定し、次式によって洗浄率を求め、10枚の測定平均値を洗浄性として示す。なお、洗浄後の反射率をA、洗浄前の反射率をB、原布の反射率をCとする。
【0064】
洗浄率(%)=(A−B)/(C−B)ラ100
・人工汚染布の調製
汚垢物質として、オレイン酸28.3重量%、トリオレイン15.6重量%、コレステロールオレート12.2重量%、流動パラフィン2.5重量%、スクワレン2.5重量%、コレステロール2.5重量%、ゼラチン7.0重量%、無機汚垢29.8重量%、カーボンブラック(日本油化学協会指定)0.5重量%を含有する水溶液からなる人工汚染液を布に付着させて人工汚染布を調製した。人工汚染液の布への付着は、特開平7−270395号公報に準じて人工汚染液を布に印刷することで行った。人工汚染液を布に付着させ人工汚染布を作製する工程は、グラビアロールのセル容積58cm3/cm2、塗布速度1.0m/min、乾燥温度100℃、乾燥時間1分で行った。布は木綿金巾2003布(八頭商店製)を使用した。
【0065】
<再汚染防止性の評価方法>
木綿の白布(金巾2003布)を10cm×10cmに裁断し、5枚1組とした。評価用洗浄剤水溶液1Lに園芸用鹿沼赤土を加え、ターゴトメーターにて次の条件で洗浄試験を行った。洗浄条件は、洗浄時間:10分、洗剤濃度:0.08重量%、水の硬度:4ー、水の温度:20℃、すすぎ:20℃水道水にて5分間流水すすぎである。
【0066】
再汚染防止性は、洗浄前の原布(白布)及び試験後の汚染布の460nmにおける反射率を自記色彩計(島津製作所製)にて測定し、次式によって再汚染防止率を求めた。
【0067】
再汚染防止性(%)=(試験後の反射率/原布の反射率)×100
【0068】
【表2】

【0069】
*1:A型ゼオライト(ゼオビルダー社製)
*2:エマルゲン108(花王株式会社製)
*3:分子量8500

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコールを主鎖とし、カルボキシル基を有する単量体に由来する重合単位を含む数平均分子量が150〜1000のグラフト鎖を有し、グラフト鎖の重量が全ポリマー重量の10〜80重量%であるグラフトポリマーからなる高分子ビルダー。
【請求項2】
カルボキシル基を有する単量体が、アクリル酸、メタクリル酸及びそれらの塩から選ばれる少なくとも1種である、請求項1記載の高分子ビルダー。
【請求項3】
グラフトポリマーの重量平均分子量が5000〜200000である、請求項1又は2に記載の高分子ビルダー。
【請求項4】
90〜200℃の温度範囲で、カルボキシル基を有する単量体を含むモノマー成分と重合開始剤とを、下記式(1)で定義される最低滴下時間Tmin以上の時間をかけてポリビニルアルコールに添加して重合を行う、請求項1〜3いずれかに記載の高分子ビルダーの製造方法。
Tmin [hr]=3.95×10-28×exp(24479/T)×G/C1.5 (1)
〔ここで、T:重合温度[絶対温度(K)]、G:グラフトポリマーを構成する原料単量体全量中のカルボキシル基を有する単量体の重量%、C:ポリビニルアルコールの初期濃度(重量%)を表す。〕
【請求項5】
請求項1〜3いずれかに記載の高分子ビルダー及び界面活性剤を含有する洗浄剤組成物。

【公開番号】特開2009−35633(P2009−35633A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−201129(P2007−201129)
【出願日】平成19年8月1日(2007.8.1)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】