説明

高分子液晶の配向制御方法

【課題】 高分子液晶における配向を簡単な1段階プロセスによって定められるうえ、ナノメートルスケールにおける配向制御が可能となる方法を提供する。
【解決手段】 高分子液晶の配向をナノインプリントによって制御する。たとえば、ラインアンドスペースの微細パターンを有する部分と有しない部分とを含むモールドを高分子液晶に押し付けることによって、当該液晶中に、特定方向へ配向した部分と配向がランダムな部分とを意図的に配置して同時に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子液晶の配向を制御する方法に関するもので、詳しくは、ナノインプリントを行うことにより液晶を配向制御するものである。
【背景技術】
【0002】
光反応性高分子液晶を配向制御するためには、偏光紫外光(LPUV)を照射する方法が用いられている(下記の文献1・2を参照)。この方法に関して以下に述べる。まず、光反応性高分子液晶を基板にスピンコートする。この時点で高分子液晶の配向はランダムである。この基板に対してLPUVを照射すると、偏光方向と平行に向いている高分子液晶が2量化光反応を起こし、液晶性が低下する。LPUV照射後に熱処理を行うと、偏光方向に対して垂直方向に光反応性高分子液晶は再配向する。このような特性を活かし、マスクを通してLPUVを照射することにより、同一平面状で配向部分とランダム部分を意図的に作成することが可能である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】E. Uchida, and N. Kawatsuki: Macromolecules 39 (2006) 9357
【非特許文献2】N. Kawatsuki, T. Kawanishi, and E. Uchida: Macromolecules 41 (2008) 4642
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようにLPUVを用いて配向制御を行う場合、光を照射する方法であるためにナノメートルスケールにおける配向制御が難しい。また、LPUVの照射に加えて熱処理も必要とするため、2段階のプロセスが必要である。
本発明はそのような点を考慮して行ったもので、1段階のプロセスによって配向を定められるうえ、ナノメートルスケールにおける配向制御が可能な方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明による高分子液晶の配向制御方法は、高分子液晶の配向をナノインプリントによって制御するものである。なお、ナノインプリントとは、基板等の表面に設けた樹脂皮膜上にモールド(金型)の微細パターン(パターンを形成する凹凸の幅等がナノメートル前後のもの)を転写形成する技術であり、半導体素子や光素子などに必要なパターンを形成する手段として利用されている。
発明者らの試験によれば、高分子液晶にナノインプリントを行うとモールドの微細パターンにしたがって液晶が並び、したがって当該液晶の配向を設定することができる。そのため、微細パターンとして方向や配置等の適切なものを形成し、そのモールドを用いて高分子液晶にナノインプリントを行うと、制御された必要な配向を有する液晶を得ることができる。
前記した従来の配向制御では、LPUVの照射に加えて熱処理も必要であるため2段階のプロセスが必要であるが、ナノインプリントによる場合には熱処理が不要で、いわば1段階プロセスでの配向制御が可能となる。高分子液晶中で、ナノインプリントを行う部分と行わない部分とは確実かつ明瞭に区分できるため、LPUV照射による場合とは違ってナノメートルスケールでの配向制御ができる、という利点もある。
【0006】
上記のナノインプリントは、高分子液晶に対し、ラインアンドスペースの微細パターンを有するモールドを押し付けることによって行うのが好ましい。ラインアンドスペースの微細パターンとは、パターンを形成するライン(凸部)とスペース(凹部)とが交互に並んでそれぞれ線状(直線状または曲線状)に延びているものをいう。
発明者らの調査では、モールドにおけるラインアンドスペースの微細パターンを高分子液晶に押し付けると、その方向に基づいて液晶が並び、もってその配向が定まる。したがって、上のようにナノインプリントを行うことにより、液晶の配向を特定の向きに揃えることができる。
高分子液晶に対し、円形ドットまたは多角形ドットの微細パターン(ナノメートルレベルの大きさの円もしくは多角形(またはその輪郭)を示すドットが多数配置されたパターン)を有するモールドを押し付けてナノインプリントを行うのも好ましい。その場合も、当該微細パターンに対応する部分において液晶の配向を定めることができる。
【0007】
とくに、上記のような微細パターン(ラインアンドスペースまたは円もしくは多角形ドットのもの)を有する部分と有しない部分とを含むモールドを押し付けることにより、高分子液晶中に、特定方向へ配向した部分と配向がランダムな部分(特定方向への配向を有しない部分)とを同時に形成するのが好ましい。
モールド中に微細パターンを有しない部分があると、その部分を高分子液晶に押し付けても液晶が特定方向に並ぶことはない。そのため、微細パターンを有する部分と有しない部分とを含むモールドを押し付けることとすれば、液晶中に、特定方向への配向のある部分とそれがないランダムな部分とを意図的に配置して同時に形成でき、しかも両者間をナノメートルスケールで明瞭に区分することができる。
【0008】
上記の微細パターンにおけるラインアンドスペースの間隔(ラインまたはスペースの線幅)は、500nm〜2000nmにするとよい。
発明者らは、当該間隔をその範囲に定めた微細パターンをもつモールドを用いて試験をし、配向制御の効果を確認した。
【0009】
上記ナノインプリントとしては、熱ナノインプリントまたは光ナノインプリントを採用することができる。なお、熱ナノインプリントとは、モールドの押し付けの際に樹脂(高分子液晶)を加熱するナノインプリント法であり、光ナノインプリントとは、モールドの押し付けの際に光(紫外線等)を照射して樹脂を硬化させるナノインプリント法である。いずれの方法によっても、モールドの微細パターンにて液晶の配向を任意に定めることが可能である。
【0010】
上記の高分子液晶としては、光反応性高分子液晶を使用するのがとくに好ましい。
光反応性高分子液晶にナノインプリントを行うことにより、配向制御の効果を確認することができた。
【発明の効果】
【0011】
発明に係る高分子液晶の配向制御方法によれば、モールドを押し付けるという1段階の簡単なプロセスによって、ナノメートルスケールでの液晶の配向制御が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】高分子液晶であるP6CAMの合成手順に関するスキームを示す。
【図2】ナノインプリントのプロセスを、その手順に沿って(1)・(2)・(3)の順に示す模式図である。
【図3】熱ナノインプリントにより作製されたP6CAM上のパターンを示す電子顕微鏡写真である。
【図4】熱ナノインプリントにより作製されたP6CAMパターンの偏光顕微鏡写真である。図4(a)はラインアンドスペースのパターンを転写した場合、同(b)は円ドットパターンまたは三角ドットパターンを転写した場合のものである。
【図5】P6CAM以外の高分子液晶にナノインプリントを行う場合に関する図で、図5(a)は高分子液晶の構造式、同(b)はその高分子液晶の偏光顕微鏡写真である。
【図6】偏光を用いた光学特性評価法の概略図(図6(a))と、その際の偏光方向に関する説明図(図6(b))である。
【図7】P6CAMパターンから得られた回折効率の偏光角度依存を示す。図7(a)・(b)・(c)はそれぞれ、L&Sパターンの線幅を500nm、1000nm、2000nmにした場合の回折効率の偏光角度依存を示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、光反応性高分子液晶について配向制御を行った例を示す。
【0014】
図1に光反応性高分子液晶(P6CAM)の合成スキームを示す。始発物質は東京化成工業(株)の製品を使用した。
最初に6CAを合成し、合成した6CAから6CAMを合成するスキーム1に関して下記に述べる。
三つ口フラスコにtrans-p-クマル酸50g(0.30mol)、KOH 68.4g(1.2mol)、水 90ml、エタノール 210mlを入れ、78℃で還流する。そしてKIを少量加え、6-クロロ-1-ヘキサノール 50g(0.36mol)をゆっくり滴下し、72時間還流する。反応液を約2000mlの水に加え、酸性になるまで塩酸を加える。生じた沈殿物を吸引ろ過し、ろ物をメタノールで洗浄後、THFで再結晶を行った。合成された6CAは白色粉末固体であり、収量は31.6g(0.12mol)、収率は39.2mol%である。
次に合成した6CAを用いてディーンスターク法により6CAMを合成した。まず、三つ口フラスコに6CAM11.0g(0.04mol)、ヒドロキノン2.9g(0.02mol)、メタクリル酸2.7g(0.01mol)を入れ、100℃のオイルバスで還流する。1時間後にオイルバスの設定温度を130℃に上げ、7時間還流する。室温まで放冷後、エーテル400mlを加え生じた沈殿物をろ過し、ろ液を水洗いした。無水硫酸ナトリウムで脱水後、減圧留去しメタノールで再結晶した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(THF:ヘキサン=5:5)を行い、メタノールで再結晶を行った。合成された6CAMは白色粉末固体であり、収量は1.6g(0.004mol)、収率は18mol%である。
次に合成した6CAMからP6CAMを合成するスキーム2に関して下記に述べる。
50mlのナスフラスコに6CAM3.50g(10.5mol)、AIBN20.7mg(0.13mmol)、THF35mlを入れ1時間窒素置換を行った後、56℃のオイルバスで24時間反応させた。反応溶液を室温まで放冷後、エーテル中に滴下し析出物をろ過した。得られた固体をTHFに溶解させエーテルで再沈殿を2回行い減圧乾燥した。合成されたP6CAMは白色粉末固体であり、収量は2.9g、収率は83.1wt%である。
【0015】
つづいて、上記で合成したP6CAMにナノインプリントを行った。図2に熱ナノインプリントのプロセス図を示す。モールドはSiO2/Si基板上に電子ビームリソグラフィーにより作製した。パターンは線幅が500、1000、2000nmのラインアンドスペース(L&S)パターンであり、モールドはパターンが有る部分(図2に示す部分)とパターンが無い部分(図2に示さない部分)で構成されている。離型剤であるOPTOOL DSX(ダイキン工業(株))を用いたディップコート法により、モールド離型処理のためモールド表面にフッ素含有自己組織化膜を成膜した。図2(1)〜(3)に沿って下記に熱ナノインプリントの説明を記す。
(1)まず、合成したP6CAMを石英基板上にスピンコートにより塗布する。この時点でP6CAMの配向はランダムである。そしてP6CAMが塗布された基板とモールドを150℃まで昇温する。
(2)次に圧力20MPaでモールドを基板に押し付け、60秒間保持する。
(3)その後、P6CAMが塗布された基板とモールドを室温まで冷却したのち、モールドを基板から引き離す。
図3に、以上の熱ナノインプリントによりP6CAMの表面に形成されたパターンの電子顕微鏡写真を示す。
【0016】
上のようにして作製したP6CAMパターンを偏光顕微鏡により観察した。偏光顕微鏡は分子が一定方向に配向している場合は明視野に、配向がランダムの場合は暗視野になるように設定している。
図4(a)に、パターンが有る部分と無い部分との境目の偏光顕微鏡写真を示す。なお、「パターンが無い部分」とは、モールド面内でパターンが無かった部分という意味であり、熱ナノインプリントを行っていない部分という意味ではない。図4に示すようにパターンが有る部分は明視野に、パターンが無い部分は暗視野となった。このように、熱ナノインプリントによってP6CAMが配向されることを確認した。
また、円ドットパターンと三角ドットパターンを用いて熱ナノインプリントを行った場合も図4(b)に示すようにP6CAMは配向することを確認した。図4(b)はP6CAMにインプリントされた円ドットパターン(円の直径が1μm)と三角ドットパターン(三角形の1辺が1μm)の偏光顕微鏡写真である。
【0017】
P6CAM以外の高分子液晶に対しても熱ナノインプリントを行い、偏光顕微鏡による観察を行った。図5(a)にラインアンドスペース(L&S)の熱インプリントを行った高分子液晶の構造式を示す。また、図5(b)に図5(a)の高分子液晶の偏光顕微鏡写真を示す。インプリントパターンライン方向と偏光子がクロスニコルの状態になるよう試料を設置し、検光子がライン方向と平行の場合と45°の場合の偏光顕微鏡写真である。0°の場合、パターンエリアは暗視野となっているが、45°では明るくなっている。このことから高分子液晶はライン方向と平行方向に配向していると判断できる。
このようにP6CAM以外の高分子液晶に対しても配向制御が可能である傾向が観察された。
【0018】
次に、L&Sパターンの熱ナノインプリントにより配向した前記P6CAMの配向方向を、偏光を用いた光学特性評価により調べた。図6(a)に測定法の概略図を示す。図中のPBSとは偏光ビームスプリッターであり、単色光を入射角0°で入射させると反対面よりP偏光、直角方向にS偏光を分離することが出来る光学素子である。本実験では概略図に示すようにS偏光を用いた。次にλ/2 plateとは、光がplateを透過した後、直行する直線偏光成分の間に180°の位相差を生じさせる光学素子である。直線偏光をλ/2 plateに入射させることで、直線偏光の方位を回転させることができる。本実験ではこのλ/2 plateを用いて直線偏光の向きを変えた。また、照射する偏光の向きは図6(b)に示すように、θ=0°の時、L&Sパターンに対して平行になり、θ=90°の時、L&Sパターンに対して垂直となるように照射した。
作製されたパターンはL&Sパターンであるため、回折光が得られる。図6(a)により偏光を照射して得られる回折光につき、回折効率の偏光角度依存を測定することでP6CAMの配向方向を調べた。
図7(a)、(b)、(c)に、500、1000、2000nmのL&Sパターンを形成した各P6CAMについて調べた回折効率の偏光角度依存を示す。いずれのパターンに関しても±1次光の回折効率は0°の時最大となり、90°の時最小となった。このことから、P6CAMはラインに対して平行方向に配向していることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明は、ナノインプリントにより光反応性高分子液晶を配向制御する方法であり、ナノ構造物を同時に作製できる有用な手段である。液晶を用いた表示素子や記憶素子の製造工程等において有意義な利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子液晶の配向をナノインプリントによって制御することを特徴とする高分子液晶の配向制御方法。
【請求項2】
高分子液晶に対し、ラインアンドスペースの微細パターンを有するモールドを押し付けることにより上記のナノインプリントを行うことを特徴とする請求項1に記載した高分子液晶の配向制御方法。
【請求項3】
高分子液晶に対し、円形ドットまたは多角形ドットの微細パターンを有するモールドを押し付けることにより上記のナノインプリントを行うことを特徴とする請求項1に記載した高分子液晶の配向制御方法。
【請求項4】
上記の微細パターンを有する部分と有しない部分とを含むモールドを押し付けることにより、高分子液晶中に、特定方向へ配向した部分と配向がランダムな部分とを同時に形成することを特徴とする請求項2または3に記載した高分子液晶の配向制御方法。
【請求項5】
上記微細パターンにおけるラインアンドスペースの間隔が、500nm〜2000nmであることを特徴とする請求項2に記載した高分子液晶の配向制御方法。
【請求項6】
上記ナノインプリントとして、熱ナノインプリントまたは光ナノインプリントを行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載した高分子液晶の配向制御方法。
【請求項7】
高分子液晶として光反応性高分子液晶を使用することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載した高分子液晶の配向制御方法。

【図1】
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【図7】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−186092(P2011−186092A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−49943(P2010−49943)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名: 社団法人 応用物理学会 刊行物名: 第70回応用物理学会学術講演会講演予稿集 巻数、号数: 第0分冊 発行年月日: 平成21年(2009年)9月8日
【出願人】(592216384)兵庫県 (258)
【出願人】(597138508)明昌機工株式会社 (11)
【Fターム(参考)】