説明

高分子量ハロゲン化ポリカーボネート化合物およびその製造方法

【課題】ハロゲン置換二価フェノール及びホスゲンから、アミン類触媒を用いて熱安定性の良好な高分子量ハロゲン化ポリカーボネート化合物を安定して提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で示されるハロゲン置換二価フェノールのアルカリ水溶液とホスゲンとを有機溶媒の存在下反応させてハロゲン化カーボネート化合物を製造するに当り、ホスゲン化反応終了時までのアルカリの総使用量が該二価フェノールに対し、1.0〜2.0倍モルの範囲に抑え続く重合反応に移行すること、且つアミン類触媒を一連の反応を通して使用することを特徴とした重量平均分子量が50,000より大きい高分子量ハロゲン化ポリカーボネート化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱安定性の良好な高分子量ハロゲン化ポリカーボネート化合物、かかる高分子量ハロゲン化ポリカーボネート化合物をハロゲン置換二価フェノール及びホスゲンから、ホスゲン化反応終了時までアルカリの総使用量が該二価フェノールに対し、2.0倍モル以下に抑えた上で、アミン類触媒を用いて製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、テトラブロモビスフェノールAとホスゲンをアルカリ水溶液および塩化メチレン等の溶媒の存在下、ホスゲン化し、ホスゲン化後に第3級アミンを添加するハロゲン化ポリカーボネート樹脂を製造する方法が提案されている。この方法で報告された重量平均分子量は、最大で50,000である(特許文献2にも比較例として試験結果が報告されている)。また、この特許では、触媒としての第3級アミンは、ホスゲン化をはじめる前に添加すると、ホスゲンが分解して、得られるハロゲン化ポリカーボネートの平均分子量が低くなるため、ホスゲン化した後に添加することが好ましいとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第3,912,687号明細書
【特許文献2】米国特許第4,794,156号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
2,2−ビス(3,5−ジブロム−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下テトラブロムビスフェノールAという)のようなハロゲン置換二価フェノールとホスゲンの反応は、一般のポリカーボネート樹脂の原料である2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下ビスフェノールAという)とのホスゲンの反応に比べ、2個のブロムのオルト位置換による水酸基の立体障害によって反応性が低く、特に脂肪族3級アミンのようなアミン類触媒を使用する方法で、重量平均分子量50,000以上の高分子量ハロゲン化ポリカーボネートを製造した例は報告されてなく、これまで様々な研究が試みられているが、誰も成功していない。
【0005】
本発明は、ハロゲン置換二価フェノール及びホスゲンから、アミン類触媒を用いて熱安定性の良好な高分子量ハロゲン化ポリカーボネート化合物を安定して提供することを目的とする。本発明者は、上記目的を達成せんとして鋭意検討を重ねた結果、予想外にもホスゲン化をはじめる前のアルカリ化合物の使用量、および反応系のpHを特定の条件に満足させることで、ホスゲンのアルカリ化合物との分解反応が殆ど起こらないことが確認され、ホスゲンの使用量を必要最小限に抑えて、熱安定性の良好な重量平均分子量が50,000より大きく、且つ分子量分布(Mw/Mn)が4.5以下であることを特徴とした高分子量ハロゲン化ポリカーボネート化合物を製造できることを見出し、本発明に到達した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明によれば、
1.下記一般式(1)で示されるハロゲン置換二価フェノールのアルカリ水溶液とホスゲンとを有機溶媒の存在下反応させてハロゲン化カーボネート化合物を製造するに当り、ホスゲン化反応終了時までのアルカリの総使用量が該二価フェノールに対し、1.0〜2.0倍モルの範囲に抑え続く重合反応に移行すること、且つアミン類触媒を一連の反応を通して使用することを特徴とした重量平均分子量が50,000より大きい高分子量ハロゲン化ポリカーボネート化合物の製造方法、
【化1】

(式中、(I)Zは、(A)全部または異なる部分が(i)直鎖状、分岐状、環状または二環式の、(ii)脂肪族または芳香族の、および(iii)飽和または不飽和である二価の基であって、該二価の基は最大5個の酸素、窒素、硫黄、リンおよび/またはハロゲン(フッ素、ヨウ素、塩素または臭素)原子とともに1ないし35個の炭素原子より成るか;または(B)S、S、SO、SO、OもしくはCO;または(C)単結合であり;
(II)各Xは独立的に、水素、C−C12の直鎖状または環状のアルキル、アルコキシ、アリール、もしくはアリールオキシ基であり;
(III)DおよびDは同一かまたは異なるハロ基、たとえばフルオロ、クロロ、ブロモまたはヨードであり;
(IV)a,b,c,dは整数であり0<a≦4および0<b≦4;かつc=4−aおよびd=4−bである)
2.ホスゲン化反応終了時までのアルカリ化合物の総使用量をハロゲン置換二価フェノールに対して1.0倍モル以上2.0倍モル以下とし、且つアミン類触媒を存在させて、該二価フェノールに対して1.0〜1.5倍モルのホスゲンを添加しホスゲン化反応を行い、ホスゲン化後の反応液にアルカリ化合物を逐次添加し重合反応させることを特徴とする前項1記載の高分子量ハロゲン化ポリカーボネート化合物の製造方法、
3.アミン類触媒の添加時期が、
(I)ホスゲン化反応前、
(II)ホスゲン化反応時、
(III)ホスゲン化後、
(IV)重合反応時、
のうち少なくとも1点以上選択することを特徴とした前項1記載の高分子量ハロゲン化ポリカーボネート化合物の製造方法、
4.ハロゲン置換二価フェノールが、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパンである前項1記載の高分子量ハロゲン化ポリカーボネート化合物の製造方法、
5.ホスゲン化反応終了時までのアルカリの総使用量が、ハロゲン置換二価フェノールに対し1.2〜1.8倍モルである前項1記載の高分子量ハロゲン化ポリカーボネート化合物の製造方法、
6.アミン類触媒が、トリエチルアミンである前項1記載の高分子量ハロゲン化カーボネート化合物の製造方法、および
7.前記式(1)で示されるハロゲン置換二価フェノールから得られた、重量平均分子量が50,000より大きく、且つ分子量分布(Mw/Mn)が4.5以下であることを特徴とする高分子量ハロゲン化ポリカーボネート化合物、
が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ホスゲン化反応終了時までの塩基量をハロゲン置換二価フェノールに対して2.0倍モル以下に低減することで、該二価フェノール及びホスゲンから、熱安定性の良好な高分子量ハロゲン化ポリカーボネート化合物を製造する方法、さらにこれまで低い反応性により該二価フェノールに対して1.5倍モル以上という大過剰のホスゲンを用いていたが、ホスゲン必要量を大幅に低減した非常に安定かつ低コストで高分子量ハロゲン化ポリカーボネート化合物を製造する方法を確立出来、その奏する工業的効果は格別なものである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の製造方法で使用される二価フェノールは、前記一般式(1)で表されるハロゲン置換二価フェノールであり、特に好ましくは実質的に前記一般式(1)で表されるハロゲン置換二価フェノールからなる二価フェノールである。かかるハロゲン置換二価フェノールとしては、具体的には2,2−ビス(3,5−ジブロム−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称テトラブロムビスフェノールA)、2,2−ビス(3,5−ジクロル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(3,5−ジブロム−4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(3,5−ジクロル−4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(3,5−ジブロム−4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(3,5−ジクロル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(3,5−ジブロム−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,5−ジクロル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン等が挙げられる。特にテトラブロムビスフェノールAが好ましく使用される。これらは単独もしくは2種以上を混合して使用できる。
【0009】
また、必要に応じて一般的な二価フェノールを約50モル%まで導入できる。かかる二価フェノールとしては、具体的には、レゾルシノール、ヒドロキノン、4,4′‐ジヒドロキシビフェニル、1,6‐ジヒドロキシナフタレン、ビス(4‐ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4‐ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、1,1‐ビス(4‐ヒドロキシフェニル)エタン、1,2‐ビス(4‐ヒドロキシフェニル)エタン、1,1‐ビス(4‐ヒドロキシフェニル)‐1‐フェニルエタン、2,2‐ビス(4‐ヒドロキシフェニル)プロパン(すなわち、「ビスフェノールA」)、2,2‐ビス(4‐ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1‐ビス(4‐ヒドロキシフェニル)イソブタン、1,1‐ビス(4‐ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1‐ビス(4‐ヒドロキシフェニル)シクロドデカン、2,2‐ビス(4‐ヒドロキシフェニル)アダマンタン、2,2‐ビス(3‐メチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2‐ビス(3‐n‐プロピル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2‐ビス(3‐イソプロピル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2‐ビス(3‐sec‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2‐ビス(3‐tert‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2‐ビス(3‐シクロヘキシル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2‐ビス(4‐ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4′‐ジヒドロキシベンゾフェノン、3,3‐ビス(4‐ヒドロキシフェニル)‐2‐ブタノン、ビス(4‐ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4‐ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4‐ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4‐ヒドロキシフェニル)スルホン、9,9‐ビス(4‐ヒドロキシフェニル)フルオレン等が挙げられる。
【0010】
本発明の製造方法で使用されるアルカリ化合物はアルカリ金属またはアルカリ土類金属の化合物であり、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物が好ましく用いられ、なかでも水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムが特に好ましく用いられる。
【0011】
本発明の製造方法で使用される有機溶媒は水に対して実質的に不溶で、反応に対して不活性で且つ反応によって生成するハロゲン化カーボネートオリゴマーを溶解する有機溶媒である。かかる有機溶媒としては例えば塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロホルム等の塩素化脂肪族炭化水素、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロトルエン等の塩素化芳香族炭化水素、アセトフェノン、シクロへキサノン、アニソール等があげられ、これらは単独又は2種以上混合して使用することができる。なかでも塩化メチレンが特に好ましく使用される。
【0012】
本発明の製造方法で使用されるアミン類触媒としては、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリへキシルアミン、トリオクチルアミン、トリデシルアミン、ジメチル−n−プロピルアミン、ジエチル−n−プロピルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、ピリジン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、N,N−ジエチル−4−アミノピリジン等の三級アミン、トリメチルドデシルアンモニウムクロリド、トリエチルドデシルアンモニウムクロリド、ジメチルベンジルフェニルアンモニウムクロリド、ジエチルベンジルフェニルアンモニウムクロリド、トリメチルドデシルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルドデシルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムクロリド、トリエチルベンジルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムクロリド等の四級アンモニウム化合物が挙げられる。また、トリフェニル−n−ブチルホスホニウムブロマイド、トリフェニルメチルホスホニウムブロマイド等の四級ホスホニウム塩を使用してもよく、なかでもトリエチルアミンが好ましい。これら触媒はホスゲン化反応時に存在させることも可能である。
【0013】
本発明の製造方法においては、まず上記二価フェノール、アルカリ化合物、水および有機溶媒からなる混合液を調製する。
ホスゲン化反応終了時までのアルカリ化合物の使用量は、二価フェノールに対して1.0〜2.0倍モル、好ましくは1.2〜1.8倍モル、より好ましくは1.4〜1.6倍モルの範囲とする。アルカリ化合物の使用量が1.0倍モルより少ないと、ホスゲン化反応においてクロロホーメートの生成が少なくなり、未反応二価フェノールが多くなる。
【0014】
アミン類触媒の使用量は、二価フェノールに対して0〜0.1倍モルが好ましく、0〜0.07倍モルが更に好ましく、0〜0.05倍モルがより好ましい。アミン類触媒の使用量が上記範囲より多いと一連の反応を通してクロロホーメート基とアミン類触媒が反応してウレタン結合(カルバモイル)が生成し、反応生成物の熱安定性が悪化することとなる。アミン類触媒は、ホスゲン化反応前、ホスゲン化反応時、ホスゲン化後、重合反応時のいずれの時期に添加しても良いが、ホスゲン化反応前やホスゲン化反応時に全量添加すると上記ウレタン結合(カルバモイル)が生成し易くなるため、ホスゲン化後や重合反応時に触媒の一部あるいは全部を添加もしくは逐次添加することがより好ましい。
【0015】
上記調製された二価フェノール、アルカリ化合物、水、有機溶媒およびアミン類触媒(無添加も可能)からなる混合液は、次いでホスゲン化反応を行う。ホスゲン化反応は、かかる混合液にホスゲンを添加し、且つ反応系のpHを7〜12の範囲で反応させる。
【0016】
かかるホスゲン化反応におけるホスゲンの使用量は、二価フェノールに対して1.0〜1.5倍モルが好ましく、1.0〜1.3倍モルがより好ましく、1.0〜1.1倍モルが更に好ましい。ホスゲンの使用量が上記範囲より少ないときはクロロホーメートの生成量が少なく、未反応二価フェノールが多くなり最終的な反応収率が低下し、上記範囲より多いときは、より過剰のアルカリ化合物が必要になって、ホスゲンや生成したクロロホーメートの分解が多くなり、更に水酸基やクロロホーメート基が残存して、得られる反応生成物の熱安定性が悪化するとともに重合度の調整が困難になる。
【0017】
また、ホスゲン添加時に反応系の好ましくはpHを7〜12、より好ましくはpHを9〜12、更に好ましくはpHを10〜12の範囲に維持することが必要であり、ホスゲン化反応中にアルカリ化合物を添加することによっても上記pH範囲を維持することができる。かかるpH範囲とすることによって過剰のアルカリ化合物によるホスゲンや生成したクロロホーメートの分解を抑制し、モノクロロホーメートの生成を促進する。また、ホスゲン添加時の反応系のpHが12より高くなると、重合度の制御がし難くなり、また未反応二価フェノールも多くなり最終的な反応収率が低下することになる。
【0018】
また、ホスゲン化反応の際の反応温度は10〜30℃の範囲が好ましく、かかる範囲ではホスゲンの分解が少なくホスゲン化反応速度が適度で未反応二価フェノールが少なく反応収率が高くなり好ましい。
【0019】
本発明の製造方法において、ホスゲン化反応終了後、反応溶液にアルカリ化合物を加えて反応系のpHを12以上にし、次いで反応温度30〜45℃の範囲でさらに重合反応させる。
【0020】
ホスゲン化反応終了後、必要に応じて一価フェノールを添加することで分子量を調整することができる。一価フェノールとしては、例えばフェノール、クレゾール、sec−ブチルフェノール、tert−ブチルフェノール、tert−オクチルフェノール、ノニルフェノール、クミルフェノール、2,4,6−トリブロモフェノール、ペンタブロモフェノール、ヒドロキシクロマン類等が挙げられ、これらは単独で又は二種以上混合して使用してもよい。一価フェノールの使用量は目的とする反応生成物の重合度によって調整すればよい。
【0021】
重合反応温度および重合反応時間は、30〜45℃の温度範囲で重合反応させる必要がある。反応温度が溶媒の沸点以上になる場合にはオートクレープ等圧力容器を用い加圧下で行うことが好ましい。重合反応温度が30℃より低くいと、反応完結に長い時間を要すと共に、水酸基やクロロホーメート基が残存して、得られる反応生成物の熱安定性が悪化することとなり好ましくない。重合反応温度が45℃を超えると反応生成物の分解反応が生じ好ましくない。
【0022】
重合反応時にはアルカリ化合物を逐次添加することが好ましい。重合反応時に添加するアルカリ化合物の使用量は、ホスゲン化反応時に使用したアルカリ化合物の量と合計して、二価フェノールに対して2.1〜4.5倍モルの範囲が好ましく、2.2〜3.5倍モルの範囲がより好ましく、2.3〜2.8倍モルの範囲がさらに好ましい。
【0023】
かかる重合反応によって得られる有機溶媒溶液から酸洗浄及び水洗等によって不純物を除去した後有機溶媒を除去することによって高分子量ハロゲン化カーボネート化合物が得られる。
【0024】
本発明の製造方法により、ハロゲン置換二価フェノール及びホスゲンから、熱安定性の良好な高分子量ハロゲン化ポリカーボネート化合物を安定して提供することができる。得られるハロゲン化カーボネート化合物は、末端停止剤として使用した一価フェノールの使用量を調整することにより、重量平均分子量が50,000を超えて500,000以下の範囲である。
【0025】
また、本発明の製造方法により得られるハロゲン化カーボネート化合物は、分子量分布(Mw/Mn)が4.5以下であることが好ましく、4.4以下であることがより好ましい。下限は1.0以上であるが、実用上2.0以上であってもよい。分子量分布(Mw/Mn)が4.5以下であるとハロゲン化カーボネート化合物の熱安定性が良好となる。
【0026】
さらに、本発明の製造方法により得られるハロゲン化カーボネート化合物は、そのオリゴマー量が0.6%以下であることが好ましく、0.55%以下であることがより好ましく、0.5%以下であることがさらに好ましい。下限は0%であるが、実用上0.1%以上であってもよい。そのオリゴマー量が0.6%以下であるとハロゲン化カーボネート化合物の熱安定性が良好となる。
【実施例】
【0027】
以下に実施例をあげて更に説明する。なお、実施例中の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)およびオリゴマー量の評価は下記の方法に従った。
【0028】
(1)重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)
乾燥した試料40mgをクロロホルム5mlに溶解し、下記条件としたGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)装置に、200μlを導入して測定した。
装置;島津製作所(株)製GPCシステム(LC−10A)
検出器;RID−10A
カラム;Shodex KF−801+KF−802+KF805L
標準物質;TSK標準ポリスチレン
溶離液;クロロホルム、40℃、1ml/min
【0029】
(2)オリゴマー量
乾燥した試料50mgをクロロホルム5mlに溶解し、下記条件としたGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)装置に、20μlを導入して測定した。尚、オリゴマー量を先測定方法で求めたGPCチャートのリテンションタイムが19min以降に観測されるオリゴマー成分のピーク面積の全ピーク面積に対する割合(%)と定義した。
装置;Waters(株)製GPCシステム(Waters2695)
検出器;Waters2487
カラム;TSKgel G2000HXL+G3000HXL
標準物質;TSK標準ポリスチレン
溶離液;クロロホルム、40℃、0.7ml/min
【0030】
各実施例および比較例におけるホスゲン使用量、ホスゲン化終了時までの総アルカリ添加量、ホスゲン化反応中のアルカリおよび触媒の添加の有無、重合中の触媒添加の有無、反応生成物の重量平均分子量、分散値(Mw/Mn)およびオリゴマー量については、下記の表1に示した。
【0031】
[実施例1]
ホスゲン吹込管、温度計及び攪拌機を備えたフラスコにテトラブロムビスフェノールA130g(0.239モル)、7.0%水酸化ナトリウム水溶液161ml(水酸化ナトリウム0.299モル)、塩化メチレン393ml及びトリエチルアミン0.2ml(0.002モル)を仕込んで溶解し、攪拌下20〜25℃に保持し、ホスゲン28.5g(0.289モル)を60分要して吹込み、ホスゲン吹き込み終盤には25%水酸化ナトリウム水溶液5ml(水酸化ナトリウム0.041モル)を加えながら反応混合液のpHを、10.5〜11.0に維持してホスゲン化反応させた。ホスゲン化反応終了後p−tert−ブチルフェノール0.20g(0.0013モル)を加え、トリエチルアミン0.8ml(0.008モル)および25%水酸化ナトリウム水溶液44ml(水酸化ナトリウム0.363モル)を約60分かけて加え、35〜40℃の温度で90分間反応させた。反応終了後静置して水相と塩化メチレン相に分離し、水相中の炭酸ナトリウム量からホスゲン分解率を求めて結果を表1に示した。また、反応終了後の水相に濃塩酸を加えpHを3以下にしたところ、水相は白濁せず透明であり、未反応テトラブロムビスフェノールAの析出は認められなかった。
分離した塩化メチレン相を無機塩類及びアミン類がなくなるまで酸洗浄及び水洗した後、塩化メチレンを除去してハロゲン化ポリカーボネートを得た。この際、重量平均分子量は214,000、分散は4.1、オリゴマー量0.41%であった。
【0032】
[実施例2]
ホスゲン吹込管、温度計及び攪拌機を備えたフラスコにテトラブロムビスフェノールA130g(0.239モル)、7.0%水酸化ナトリウム水溶液161ml(水酸化ナトリウム0.299モル)、塩化メチレン393mlを仕込んで溶解し、攪拌下20〜25℃に保持し、ホスゲン28.5g(0.289モル)を60分要して吹込み、ホスゲン吹き込み終盤には25%水酸化ナトリウム水溶液5ml(水酸化ナトリウム0.041モル)を加えながら反応混合液のpHを、10.5〜11.0に維持してホスゲン化反応させた。ホスゲン化反応終了後p−tert−ブチルフェノール0.20g(0.0013モル)、およびトリエチルアミン1.03ml(0.01モル)を加え、25%水酸化ナトリウム水溶液44ml(水酸化ナトリウム0.363モル)を約60分かけて加え、以後実施例1と同様の操作を行ったところ、重量平均分子量208,000、分散4.2、オリゴマー量0.43%である高分子量ハロゲン化ポリカーボネートを得た。
【0033】
[実施例3]
ホスゲン吹込管、温度計及び攪拌機を備えたフラスコにテトラブロムビスフェノールA130g(0.239モル)、7.0%水酸化ナトリウム水溶液242ml(水酸化ナトリウム0.359モル)、塩化メチレン393ml及びトリエチルアミン0.2ml(0.002モル)を仕込んで溶解し、攪拌下20〜25℃に保持し、ホスゲン28.5g(0.289モル)を60分要して吹込み、ホスゲン化反応させた。ホスゲン化反応時の反応混合液のpHは、10.0〜11.8であった。ホスゲン化反応終了後p−tert−ブチルフェノール0.20g(0.0013モル)を加え、トリエチルアミン0.8ml(0.008モル)および25%水酸化ナトリウム水溶液44ml(水酸化ナトリウム0.363モル)を約60分かけて加え、以後実施例1と同様の操作を行ったところ、重量平均分子量213,000、分散4.3、オリゴマー量0.46%である高分子量ハロゲン化ポリカーボネートを得た。
【0034】
[実施例4]
ホスゲン吹込管、温度計及び攪拌機を備えたフラスコにテトラブロムビスフェノールA130g(0.239モル)、7.0%水酸化ナトリウム水溶液242ml(水酸化ナトリウム0.359モル)、塩化メチレン393mlを仕込んで溶解し、攪拌下20〜25℃に保持し、ホスゲン28.5g(0.289モル)を60分要して吹込み、ホスゲン化反応させた。ホスゲン化反応時の反応混合液のpHは、10.0〜11.8であった。ホスゲン化反応終了後p−tert−ブチルフェノール0.20g(0.0013モル)およびトリエチルアミン1.03ml(0.01モル)を加え、25%水酸化ナトリウム水溶液44ml(水酸化ナトリウム0.363モル)を約60分かけて加え、以後実施例1と同様の操作を行ったところ、重量平均分子量207,000、分散4.2、オリゴマー量0.45%である高分子量ハロゲン化ポリカーボネートを得た。
【0035】
[実施例5]
ホスゲン吹込管、温度計及び攪拌機を備えたフラスコにテトラブロムビスフェノールA130g(0.239モル)、7.0%水酸化ナトリウム水溶液161ml(水酸化ナトリウム0.299モル)、塩化メチレン393ml及びトリエチルアミン1.03ml(0.01モル)を仕込んで溶解し、攪拌下20〜25℃に保持し、ホスゲン28.5g(0.289モル)を60分要して吹込み、ホスゲン吹き込み終盤には25%水酸化ナトリウム水溶液5ml(水酸化ナトリウム0.041モル)を加えながら反応混合液のpHを、10.5〜11.0に維持してホスゲン化反応させた。ホスゲン化反応終了後p−tert−ブチルフェノール0.20g(0.0013モル)を加え、25%水酸化ナトリウム水溶液44ml(水酸化ナトリウム0.363モル)を約60分かけて加え、以後実施例1と同様の操作を行ったところ、重量平均分子量212,000、分散4.3、オリゴマー量0.47%である高分子量ハロゲン化ポリカーボネートを得た。
【0036】
[実施例6]
ホスゲン吹込管、温度計及び攪拌機を備えたフラスコにテトラブロムビスフェノールA130g(0.239モル)、7.0%水酸化ナトリウム水溶液242ml(水酸化ナトリウム0.359モル)、塩化メチレン393ml及びトリエチルアミン1.03ml(0.01モル)を仕込んで溶解し、攪拌下20〜25℃に保持し、ホスゲン28.5g(0.289モル)を約60分要して吹込み、ホスゲン化反応させた。ホスゲン化反応時の反応混合液のpHは、10.0〜11.8であった。ホスゲン化反応終了後p−tert−ブチルフェノール0.20g(0.0013モル)を加え、25%水酸化ナトリウム水溶液44ml(水酸化ナトリウム0.363モル)を約60分かけて加え、以後実施例1と同様の操作を行ったところ、重量平均分子量213,000、分散4.4、オリゴマー量0.49%である高分子量ハロゲン化ポリカーボネートを得た。
【0037】
[比較例1]
ホスゲン吹込管、温度計及び攪拌機を備えたフラスコにテトラブロムビスフェノールA130g(0.239モル)、7.0%水酸化ナトリウム水溶液322ml(水酸化ナトリウム0.478モル)、塩化メチレン640mlを仕込んで溶解し、攪拌下20〜25℃に保持し、ホスゲン32.6g(0.322モル)を約60分要して吹込み、ホスゲン吹き込み中に適宜25%水酸化ナトリウム水溶液44ml(水酸化ナトリウム0.363モル)を加えながら反応混合液のpH10に維持してホスゲン化反応させた。ホスゲン化反応終了後p−tert−ブチルフェノール0.20g(0.0013モル)及びトリエチルアミン1.03ml(0.01モル)を加え、25%水酸化ナトリウム水溶液44ml(水酸化ナトリウム0.363モル)を約60分かけて加え、以後実施例1と同様の操作を行ったところ、重量平均分子量10,000未満のオリゴマーであるハロゲン化ポリカーボネートを得た。
【0038】
[比較例2]
ホスゲン吹込管、温度計及び攪拌機を備えたフラスコにテトラブロムビスフェノールA130g(0.239モル)、7.0%水酸化ナトリウム水溶液322ml(水酸化ナトリウム0.478モル)、塩化メチレン640ml及びトリエチルアミン1.03ml(0.01モル)を仕込んで溶解し、攪拌下20〜25℃に保持し、ホスゲン30.4g(0.301モル)を約60分を要して吹込み、ホスゲン吹き込み中に適宜25%水酸化ナトリウム水溶液29ml(水酸化ナトリウム0.239モル)を加えながら反応混合液のpHを9〜10に維持してホスゲン化反応させた。ホスゲン化反応終了後p−tert−ブチルフェノール0.20g(0.0013モル)を加え、25%水酸化ナトリウム水溶液44ml(水酸化ナトリウム0.363モル)を約60分かけて加え、以後実施例1と同様の操作を行ったところ、重量平均分子量41,000であるハロゲン化ポリカーボネートを得た。
【0039】
[比較例3]
米国特許第4,794,156号公報を参考に高分子量ハロゲン化ポリカーボネートの製造方法を追試した。
ホスゲン吹込管、温度計及び攪拌機を備えたフラスコにテトラブロムビスフェノールA130g(0.239モル)、50%水酸化ナトリウム水溶液37.9g(水酸化ナトリウム0.474モル)、水480ml、塩化メチレン320ml及びp−tert−ブチルフェノール0.20g(0.0013モル)を仕込んで溶解し、攪拌下22〜28℃に保持し、ホスゲン34.8g(0.352モル)を約30分要して吹込み、ホスゲン吹き込み中に適宜50%水酸化ナトリウム水溶液4.7g(水酸化ナトリウム0.059モル)を加えながら反応混合液のpHを10に維持してホスゲン化反応させた。ホスゲン化反応終了後、塩化メチレン630mlおよびN,N−ジメチルアミノピリジン65mg(0.00053モル)を加え撹拌を開始し、pH10を維持するように50%水酸化ナトリウム水溶液37.5g(水酸化ナトリウム0.468モル)を約30分かけて加えた後、ホスゲン3.2g(0.032モル)を加えpH7にして撹拌を停止した。以後実施例1と同様の操作を行ったところ、重量平均分子量201,000、分散4.9、オリゴマー量0.62%である高分子量ハロゲン化ポリカーボネートを得た。
【0040】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の高分子量ハロゲン化ポリカーボネートは、気体分離膜等の中空糸繊維用途として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるハロゲン置換二価フェノールのアルカリ水溶液とホスゲンとを有機溶媒の存在下反応させてハロゲン化カーボネート化合物を製造するに当り、ホスゲン化反応終了時までのアルカリの総使用量が該二価フェノールに対し、1.0〜2.0倍モルの範囲に抑え続く重合反応に移行すること、且つアミン類触媒を一連の反応を通して使用することを特徴とした重量平均分子量が50,000より大きい高分子量ハロゲン化ポリカーボネート化合物の製造方法。
【化1】

(式中、(I)Zは、(A)全部または異なる部分が(i)直鎖状、分岐状、環状または二環式の、(ii)脂肪族または芳香族の、および(iii)飽和または不飽和である二価の基であって、該二価の基は最大5個の酸素、窒素、硫黄、リンおよび/またはハロゲン(フッ素、ヨウ素、塩素または臭素)原子とともに1ないし35個の炭素原子より成るか;または(B)S、S、SO、SO、OもしくはCO;または(C)単結合であり;
(II)各Xは独立的に、水素、C−C12の直鎖状または環状のアルキル、アルコキシ、アリール、もしくはアリールオキシ基であり;
(III)DおよびDは同一かまたは異なるハロ基、たとえばフルオロ、クロロ、ブロモまたはヨードであり;
(IV)a,b,c,dは整数であり0<a≦4および0<b≦4;かつc=4−aおよびd=4−bである)
【請求項2】
ホスゲン化反応終了時までのアルカリ化合物の総使用量をハロゲン置換二価フェノールに対して1.0倍モル以上2.0倍モル以下とし、且つアミン類触媒を存在させて、該二価フェノールに対して1.0〜1.5倍モルのホスゲンを添加しホスゲン化反応を行い、ホスゲン化後の反応液にアルカリ化合物を逐次添加し重合反応させることを特徴とする請求項1記載の高分子量ハロゲン化ポリカーボネート化合物の製造方法。
【請求項3】
アミン類触媒の添加時期が、
(I)ホスゲン化反応前、
(II)ホスゲン化反応時、
(III)ホスゲン化後、
(IV)重合反応時、
のうち少なくとも1点以上選択することを特徴とした請求項1記載の高分子量ハロゲン化ポリカーボネート化合物の製造方法。
【請求項4】
ハロゲン置換二価フェノールが、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパンである請求項1記載の高分子量ハロゲン化ポリカーボネート化合物の製造方法。
【請求項5】
ホスゲン化反応終了時までのアルカリの総使用量が、ハロゲン置換二価フェノールに対し1.2〜1.8倍モルである請求項1記載の高分子量ハロゲン化ポリカーボネート化合物の製造方法。
【請求項6】
アミン類触媒が、トリエチルアミンである請求項1記載の高分子量ハロゲン化カーボネート化合物の製造方法。
【請求項7】
前記式(1)で示されるハロゲン置換二価フェノールから得られた、重量平均分子量が50,000より大きく、且つ分子量分布(Mw/Mn)が4.5以下であることを特徴とする高分子量ハロゲン化ポリカーボネート化合物。

【公開番号】特開2010−222534(P2010−222534A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−74272(P2009−74272)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000215888)帝人化成株式会社 (504)
【Fターム(参考)】