説明

高分子量ポリジフェニルビニルホスフィンオキシド、その製造方法及び金属抽出剤

【課題】特に金属抽出剤として有用な、分子量10,000以上をもつ高分子量ポリジフェニルビニルホスフィンオキシドを提供する。
【解決手段】一般式


(Phはフェニル基)
で表わされる構成単位からなり、分子量10,000以上を有する高分子量ポリジフェニルビニルホスフィンオキシド、及びそれからなる金属抽出剤とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なホスフィンオキシド重合体、特に高分子量ポリジフェニルビニルホスフィンオキシド、その製造方法及びそれを用いた金属抽出剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまで、ビニルジフェニルホスフィンオキシド単独を有機過酸化物触媒の存在下で重合させて、分子量692又は1348の重合体を製造する方法、ジフェニルビニルホスフィンオキシドとスチレン又はメチルメタクリレートとをアゾビスイソブチロニトリル触媒の存在下で共重合させる方法、ビス(4‐ニトロフェニル)4‐クロロ‐1,2‐ブテニルホスフィンオキシドとビニルクロリド又はジイソブチルビニルホスフィンオキシドとステアリルメタクリレートとをアゾイソブチロニトリル触媒の存在下で共重合させる方法や、このようにして得た重合体又は共重合体が接着剤及び難燃剤として有用であることは知られている(特許文献1参照)。
【0003】
また、トルエン中、グリニャール化合物の存在下でジフェニルビニルホスフィンオキシドを重合させることにより、低分子量のジフェニルビニルホスフィンオキシドオリゴマーを得たことが報告されている(非特許文献1参照)。
しかしながら、分子量10,000以上の高分子量ポリジフェニルビニルホスフィンオキシドは知られていない。
【0004】
他方、パラジウム触媒の存在下、アセチレン化合物に、第二級ホスフィンオキシドを反応させてアルケニルホスフィンオキシド化合物を製造する方法(特許文献2、3参照)、ロジウム触媒の存在下、アセチレン化合物に第二級ホスフィンオキシドを反応させてアルケニルホスフィンオキシド化合物を製造する方法(特許文献4参照)など、アルケニルホスフィンオキシド化合物又はその製造方法は知られているが、このようにして得られたアルケニルホスフィンオキシド化合物の重合体は知られていない。
【0005】
【特許文献1】特公昭38−15491号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献2】特開平9−241276号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献3】特開平9−295993号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献4】特開2002−241386号公報(特許請求の範囲その他)
【非特許文献1】「ジャーナル・オブ・ポリマー・サイエンス(J.Polymer Sci.)」、1963年、パートA、第1巻、p.3627−3642
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、特に金属抽出剤として有用な、分子量10,000以上をもつ高分子量ポリジフェニルビニルホスフィンオキシド及びその製造方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、これまで得られなかった高分子量ポリジフェニルビニルホスフィンオキシドを製造するために鋭意研究を重ねた結果、極性溶媒中、グリニャール化合物又は有機リチウム化合物を触媒としてジフェニルビニルホスフィンオキシドを重合させると、分子量10,000以上の高分子量ポリジフェニルビニルホスフィンオキシドが生成すること、及びこの高分子量重合体は、金属特にランタノイド金属の抽出剤として優れた機能を有することを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
一般式
【化1】

(式中のPhはフェニル基である)
で表わされる構成単位からなり、分子量10,000以上を有する高分子量ポリジフェニルビニルホスフィンオキシド、一般式
【化2】

(式中のPhは前記と同じ意味をもつ)
で表わされるジフェニルビニルホスフィンオキシドを、極性溶媒中、触媒量のグリニャール化合物又は有機リチウム化合物の存在下で分子量10,000以上になるまで重合させることを特徴とする前記記載の高分子量ポリジフェニルビニルホスフィンオキシドの製造方法、及び一般式
【化3】

(式中のPhは前記と同じ意味をもつ)
で表わされる構成単位からなり、分子量10,000以上を有する高分子量ポリジフェニルビニルホスフィンオキシドからなる金属抽出剤を提供するものである。
【0009】
本発明の高分子量ポリジフェニルビニルホスフィンオキシドは、分子量10,000以上という高分子量を有する点で、従来のポリジフェニルビニルホスフィンオキシドと明らかに異なっている。
本発明のポリジフェニルビニルホスフィンオキシドの分子量の上限については、特に制限はないが、通常の条件で重合させた場合には、1,000,000程度が上限になる。したがって、好ましい分子量は10,000〜1,000,000の範囲である。
【0010】
このような高分子量ポリジフェニルビニルホスフィンオキシドは、前記一般式(II)のジフェニルビニルホスフィンオキシドを触媒量のグリニャール化合物又は有機リチウム化合物の存在下で重合させることが必要である。そして、このような有機金属触媒下においては、そのジフェニルビニルホスフィンオキシドへの求核的付加反応により、効率よく重合反応が行われ、定量的に高分子量ポリジフェニルビニルホスフィンオキシドが生成する。
【0011】
そして、このような求核的付加反応は、極性溶媒中で進行するので、上記の重合反応は、極性溶媒中で行うことが必要であり、非極性溶媒例えばトルエン中では、所望の高分子量ポリジフェニルビニルホスフィンオキシドは全く得られない。
【0012】
上記の触媒として用いるグリニャール化合物としては、例えば、メチルマグネシウムハライド、n‐ブチルマグネシウムハライド、t‐ブチルマグネシウムハライド、ビニルマグネシウムハライド、アリルマグネシウムハライド、ベンジルマグネシウムハライド、フェニルマグネシウムハライドなどがある。ここでハライドとはクロリド、ブロミド及びヨージドを意味する。
また、有機リチウム化合物としては、例えばメチルリチウム、n‐ブチルリチウム、t‐ブチルリチウム、フェニルリチウムなどがある。
これらの触媒は、単量体のジフェニルビニルホスフィンオキシドに基づき0.1〜50モル%、好ましくは1〜5モル%の範囲で用いられる。
【0013】
次に反応溶媒として用いられる極性溶媒には、例えばジエチルエーテル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどが含まれるが、特に好ましいのは、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジオキサンなどである。
【0014】
ジフェニルビニルホスフィンオキシドの重合反応は、通常0℃ないし150℃、好ましくは室温ないし50℃の温度で行われる。
また、この重合反応は、大気中で行われるが、所望に応じ不活性雰囲気例えば窒素雰囲気中で行うこともできる。
重合は、通常30分ないし24時間で終了する。終了後、反応混合物から溶媒を留去し、水、希酸水溶液で洗浄したのち、真空乾燥すれば、所望の高分子量ポリジフェニルビニルホスフィンオキシドが難燃性、耐熱性の白色粉末として95%以上の収率で得られる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、難燃性、耐熱性を有し、特に金属抽出剤として好適な高分子量ポリジフェニルビニルホスフィンオキシドを効率よく得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に実施例により本発明を実施するための最良の形態を説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
【0017】
なお、実施例における分子量及び難燃性は以下の方法により測定した。
(1)分子量;
カラムとして、Tosoh社製、商品名「GMHHR−H*2」を、溶媒としてヘキサフルオロイソプロパノールを用い、ポリメチルメタクリレートをスタンダードとしたゲルパーミエーションクロマトグラフィにより測定した。
(2)難燃性;
試料をUL−94テストを行い、着火しない場合は難燃性ありとし、着火した場合は難燃性なしとした。
【0018】
実施例1
テトラヒドロフラン(THF)10mlにジフェニルビニルホスフィンオキシド1mmolと触媒として5mol%のt‐ブチルマグネシウムクロリドを加え、大気中30℃で20時間かきまぜながら重合反応させた。反応終了後、溶媒を留去し、残渣を先ず0.1M−塩酸2mlで、次に純水2mlずつで3回洗浄したのち、真空乾燥することにより、質量平均分子量(Mw)24,000、分子量分布(Mw/Mn)2.1の高分子量ポリジフェニルビニルホスフィンオキシドを97.5%の収率で得た。
このものについて、TGAを測定したところ、窒素雰囲気中では429℃、空気中では410℃で5質量%減が認められた。
【0019】
実施例2〜10
表1に示す触媒、溶媒、反応条件を用い、実施例1と同様に操作して、表1に示す分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)をもつ高分子量ポリジフェニルビニルホスフィンオキシドを表1に示す収率で製造した。
【0020】
【表1】

【0021】
比較例
実施例1で用いた溶媒のテトラヒドロフランを同量のトルエンで代えた以外は、実施例1と全く同様に操作してジフェニルビニルホスフィンオキシドの重合を行ったところ、反応は全く進行せず、重合体は全く得られなかった。
【0022】
実施例11
La(III)イオンを10-4Mの濃度で含む1.0M HNO3溶液に対し、実施例1で得た高分子量ポリジフェニルビニルホスフィンオキシドを金属イオンの5倍過剰量で加えて振りまぜたのち、高分子量ポリジフェニルビニルホスフィンオキシドをろ去した。このような処理の前後における液中のLa(III)濃度原子吸光スペクトルにより測定したところ、処理後においてLa(III)の49%が抽出されていた。
同様にEu(III)についての抽出率を試験したところ、その抽出率は35%であった。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の高分子量ポリジフェニルビニルホスフィンオキシドは、金属特にランタノイド系金属の抽出剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式
【化1】

(式中のPhはフェニル基である)
で表わされる構成単位からなり、分子量10,000以上を有する高分子量ポリジフェニルビニルホスフィンオキシド。
【請求項2】
一般式
【化2】

(式中のPhはフェニル基である)
で表わされるジフェニルビニルホスフィンオキシドを、極性溶媒中、触媒量のグリニャール化合物又は有機リチウム化合物の存在下で分子量10,000以上になるまで重合させることを特徴とする、請求項1記載の高分子量ポリジフェニルビニルホスフィンオキシドの製造方法。
【請求項3】
極性溶媒がテトラヒドロフラン又はテトラヒドロピランである請求項2記載の高分子量ポリジフェニルビニルホスフィンオキシドの製造方法。
【請求項4】
一般式
【化3】

(式中のPhはフェニル基である)
で表わされる構成単位からなり、分子量10,000以上を有する高分子量ポリジフェニルビニルホスフィンオキシドからなる金属抽出剤。
【請求項5】
ランタノイド金属を抽出するための請求項4記載の金属抽出剤。

【公開番号】特開2007−91824(P2007−91824A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−280713(P2005−280713)
【出願日】平成17年9月27日(2005.9.27)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】