説明

高分散性液相支持体を用いたオリゴヌクレオチド合成法

【課題】高分散性液相支持体を用い、流体(フロー)で反応でき、カップリング効率が向上した核酸合成法の提供。
【解決手段】式(1):


[式中、R1:炭素数1〜12のアルキレン基、R2:炭素数1〜22のアルキレン基、R3及びR4は、それぞれ独立に、炭素数1〜22のアルキル基等、R5:単結合又は炭素数1〜22のアルキレン基、R6:それぞれ独立に炭素数6〜30のアルキル基、nは2〜6、Xは水素原子、水酸基等、Z:極性基が保護されていてもよいアデニル、グアニル基等]の疎水性基結合ヌクレオシド又はオリゴヌクレオチドと非極性溶媒に溶解したヌクレオシドホスホロアミダイトを酸・アゾール複合体化合物又はその溶液と接触させるオリゴヌクレオチドの合成法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分散性液相支持体を用いた、フロー反応が可能なオリゴヌクレオチド合成法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の核酸合成法はホスホロアミダイト法(非特許文献1〜3)を用いた固相合成法が主流である。ホスホロアミダイト法は、5’水酸基、各塩基のアミノ基、さらにRNAの場合は2’水酸基が保護されたアミダイトモノマーを、テトラゾール系、イミダゾール系化合物に代表されるプロモーター(アクチベーター)を用いてカップリングさせ、後に酸化することでホスホロジエステル結合を形成するものである(下記式参照)。
【0003】
【化1】

【0004】
〔上記式中、保護基とは、DMTr, MMTr等、保護塩基とは、Bz-アデニン、Bz-シトシン、iBu-グアニン、チミン、ウラシル、 Pac-アデニン, Ac-シトシン, iPr-Pac-グアニン dmf-グアニン、その他の保護修飾塩基等、Xは、H、O-TBDMS、O-Tom、O-Cpep、O-シアノエチル基、O-F等、Yは、水素原子、エチルチオ基、ベンジルメルカプト基等を示す。〕
【0005】
固相合成法は、CPG(controlled pore glass)あるいは架橋ポリスチレン樹脂に代表される固体にリンカーを介して順次つなげていく方法であり、反応毎の分離・精製が簡便で容易に機械化が可能であった。そのためPCR法に用いるプライマー等、少量・多品種を短時間で合成することに威力を発揮し、現在のバイオテクノロジーを支える科学技術の一つとなっている。
【0006】
しかし、昨今の合成核酸の使用用途は分子生物学分野の基礎研究のみならず、RNAi法などのアンチセンス分野を利用した核酸医薬に代表される医薬用途、あるいは電子デバイスへの応用といった工学分野にも広く使われるようになってきた。
特に医薬用途として用いられる場合には、大量かつ高品質な合成核酸を持続的に提供していくことが必要不可欠である。
【0007】
しかしながら、固相合成法では固相カラムを用いることによる製造容量の定型化に伴い、反応スケールごとの連動性が欠如している結果、製造プロセスを作り上げる各ステップに新たな問題点を生じさせる要因になり、プロセス開発に携わる者に大きな負担を強いることになっている。特に、RNA合成は原材料であるアミダイト試薬が高価で数グラムでのデモンストレーションテストですら莫大な費用が掛かる。また反応収率が液相法と比較して一般的に低いなどの問題点を抱えており、現状は決して満足できるものではない。
【0008】
斯かる状況の下、本出願人は、溶媒極性によって高分散と凝集を制御できる高分散性液相支持体(High Dispersible Liquid Support :HDLS)が結合したヌクレオシド誘導体(疎水性基結合ヌクレオシド)を開発し、これを出発原料としてオリゴヌクレオチドを合成した場合には、試薬投入量を大幅に削減でき、かつ通常の液相合成時に直面する分離・回収操作の煩雑さを著しく簡便化できることを見出し、特許出願した(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特願2009−131095
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】S. L. Beaucage, M. H. Caruthers, Tetrahedron Lett., 22, 1859 (1981)
【非特許文献2】H. Koster, et al. Tetrahedron, 40, 103 (1984)
【非特許文献3】P. Wright, D. Lloyd, W. Rapp, A. Andrus, Tetrahedron Lett., 34, 3373 (1993)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、高分散性液相支持体を用い、流体(フロー)での反応が可能で、カップリング効率が向上したオリゴヌクレオチド合成法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、前記疎水性基結合ヌクレオシドを出発物質として用いたオリゴヌクレオチドの合成において、反応条件の検討を行ったところ、縮合反応の際に、予め前記疎水性基結合ヌクレオシド又は疎水性基結合オリゴヌクレオチドとヌクレオシドホスホロアミダイト化合物(アミダイトモノマー)を非極性溶媒に溶解させ、これと酸・アゾール複合体化合物又はそれを含有する溶液とを接触させる、という手順を用いることにより、ヌクレオシドホスホロアミダイト化合物とのカップリングが高効率で進行し、フローでの反応が容易に可能となることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の1)〜5)に係るものである。
1)下記一般式(1):
【0014】
【化2】

【0015】
[式中、R1は炭素数1〜12のアルキレン基を示し、R2は炭素数1〜22のアルキレン基を示し、R3及びR4は、それぞれ独立に、炭素数1〜22のアルキル基を示すか、或いはR3及びR4が互いに結合し、隣接する窒素原子及びR2と共に下記式(2):
【0016】
【化3】

【0017】
(ここで、R7は炭素数1〜6のアルキル基を示し、mは0又は1の整数を示し、yは0〜3の整数を示す。)
で示されるヘテロ環を形成する2価の基を示し、R5は単結合又は炭素数1〜22のアルキレン基を示し、R6はそれぞれ独立に炭素数6〜30のアルキル基を示し、nは2〜6の整数を示し、Xは水素原子、水酸基、又は保護基により保護された水酸基を示し、Yは酸性条件下で脱保護可能な保護基を示し、Zは、極性基が保護基により保護されていてもよい、アデニル基、グアニル基、シトシル基、チミニル基、若しくはウラシル基、又は当該核酸塩基の誘導体を示す。]
で示される疎水性基結合ヌクレオシドを出発原料とし、酸・アゾール複合体化合物の存在下、順次ヌクレオシドホスホロアミダイト化合物を縮合・酸化させる工程を含むオリゴヌクレオチドの合成法であって、縮合反応が、予め前記疎水性基結合ヌクレオシド又は疎水性基結合オリゴヌクレオチドとヌクレオシドホスホロアミダイト化合物を非極性溶媒に溶解させ、これと酸・アゾール複合体化合物又はそれを含有する溶液とを接触させることによって行われる、前記オリゴヌクレオチドの合成法。
2)疎水性基結合ヌクレオシド又は疎水性基結合オリゴヌクレオチドとヌクレオシドホスホロアミダイト化合物を非極性溶媒に溶解させた溶液と、酸・アゾール複合体化合物を非極性溶媒に溶解させた溶液をそれぞれ別個に調製し、これらを混合する上記1)のオリゴヌクレオチドの合成法。
3)疎水性基結合ヌクレオシド又は疎水性基結合オリゴヌクレオチドとヌクレオシドホスホロアミダイト化合物を非極性溶媒に溶解させた溶液と、酸・アゾール複合体化合物を非極性溶媒に溶解させた溶液とを流路内に別々に供給し、当該流路内で連続的に縮合反応を行う上記1)又は2)のオリゴヌクレオチドの合成法。
4)出発原料の疎水性基結合ヌクレオシドが、下記の一般式(3):
【0018】
【化4】

【0019】
[式中、R6'はそれぞれ独立に炭素数18〜30のアルキル基を示し、R1、X、Z及びyは前記と同じものを示す。]
で示される化合物である、上記1)〜3)のオリゴヌクレオチドの合成法。
5)一般式(3)において、R6'がオクタデシル基である上記4)のオリゴヌクレオチドの合成法。
【発明の効果】
【0020】
本発明のオリゴヌクレオチドの合成法によれば、縮合反応において、ヌクレオシドホスホロアミダイト化合物の酸・アゾール複合体化合物(アクチベーター)よる活性化が阻害されず、当該縮合反応をフローで行うことができ、簡易かつ効率よくオリゴヌクレオチドを製造できる。また、従来、液相合成法での合成が困難であったRNAオリゴヌクレオチドであっても、高収率で製造できる。
特に、疎水性基結合ヌクレオシド又は疎水性基結合オリゴヌクレオチドと、ヌクレオシドホスホロアミダイト化合物を非極性溶媒に溶解させた溶液と、酸・アゾール複合体化合物を非極性溶媒に溶解させた溶液をそれぞれ別個に調製した後、両者を混合する二液混合型フロー合成システムによれば、両溶液の増減のみで生産量を自在に変えることができ、少ない試薬投入量で常に一定の反応効率を維持することが可能であり、バッチ式の液相合成法や固相合成法と比較して著しく有用性が高い。また、疎水性基結合ヌクレオシドを用いることから、反応生成物を高極性溶媒にて容易に晶析・固体化でき、固相法のような簡便な分離精製が可能となるという利点も有する。従って、本発明のオリゴヌクレオチドの合成法は、大容量の核酸製造に極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】事前混合型フロー合成システムの概念図
【図2】二液混合型フロー合成システムの概念図
【図3】多段衝突型マイクロミキサの平面図
【図4】シリンジポンプを利用した反応液連続供給・吐出方式を用いたフロー合成システムの概念図
【図5】切替バルブによる反応液の供給と吐出の仕組みを示した概念図
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のオリゴヌクレオチドの合成法においては、下記一般式(1)で示される疎水性基結合ヌクレオシドが出発原料として用いられる。
【0023】
【化5】

【0024】
[式中、R1は炭素数1〜12のアルキレン基を示し、R2は炭素数1〜22のアルキレン基を示し、R3及びR4は、それぞれ独立に、炭素数1〜22のアルキル基を示すか、或いはR3及びR4が互いに結合し、隣接する窒素原子及びR2と共に下記式(2):
【0025】
【化6】

【0026】
(ここで、R7は炭素数1〜6のアルキル基を示し、mは0又は1の整数を示し、yは0〜3の整数を示す。)
で示されるヘテロ環を形成する2価の基を示し、R5は単結合又は炭素数1〜22のアルキレン基を示し、R6はそれぞれ独立に炭素数6〜30のアルキル基を示し、nは2〜6の整数を示し、Xは水素原子、水酸基、又は保護基により保護された水酸基を示し、Zは、極性基が保護基により保護されていてもよい、アデニル基、グアニル基、シトシル基、チミニル基、若しくはウラシル基、又は当該核酸塩基の誘導体を示す。]
【0027】
当該疎水性基結合ヌクレオシドは、所定の疎水性基:
【0028】
【化7】

【0029】
〔式中、R2、R3、R4、R5、R6及びnは前記と同じものを示す。〕
を有し、これが液相中での支持体(High Dispersible Liquid Support :HDLS))として機能することから、非極性溶媒中、水の存在しない疎水性環境下でオリゴヌクレオチドの合成反応を行うことができる。このため、オリゴヌクレオチドの合成の際に用いられるヌクレオシドホスホロアミダイト化合物の、酸・アゾール複合体化合物(アクチベーター)による活性化が阻害されない。したがって、これを用いることにより、反応収率が向上され、10量体以上のオリゴヌクレオチドのように、従来、液相合成法での合成が困難であったオリゴヌクレオチドであっても、高収率で製造できる。
また、当該疎水性基結合ヌクレオシドは、溶媒極性によってその物理的性質が異なり、THF、ジクロロメタン、トルエン等の比較的低極性の溶媒には溶解・高分散し、メタノール、アセトニトリル、水などに代表される高極性溶媒中では凝集・沈殿する。この性質を利用し、反応溶媒は低極性の溶媒を用いることで液相反応に供する反応場を構築し、高極性溶媒にて晶析・固体化することによって、固相法のような簡便な分離精製が可能となる。
【0030】
式(1)中、R1、R2、及びR5で表されるアルキレン基、R3、R4、R6及びR7で表されるアルキル基は、それぞれ直鎖又は分岐鎖の何れでもよいが、直鎖であるのが好ましい。
【0031】
1で示されるアルキレン基は、炭素数が1以上12以下であるが、炭素数1〜6であるのが好ましい。具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基等を挙げることができ、中でも、メチレン基、エチレン基、及びヘキシレン基が好ましく、エチレン基であるのが更に好ましい。
【0032】
2で示されるアルキレン基は、炭素数が1以上22以下であるが、炭素数2〜12であるのが好ましい。具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基等を挙げることができ、エチレン基であるのが更に好ましい。
【0033】
3及びR4が、それぞれ独立にアルキル基となる場合、当該アルキル基の炭素数は、1〜6であるのが好ましい。R3及びR4としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等を挙げることができる。
3及びR4が互いに結合し、隣接する窒素原子及びR2と共に上記式(2)で表されるヘテロ環を形成する2価の基である場合には、mは0であるのが好ましい。また、R7で表される炭素数1〜6のアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等を挙げることができるが、メチル基が好ましく、また、yが0〜2の整数であるのが好ましい。
形成されるヘテロ環としては、具体的にはホモピペラジン、ピペラジン、cis−2,6−ジメチルピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、2−メチルピペラジン等を挙げることができる。これらの中でも、2,6−ジメチルピペラジン、ピペラジン、及び2,5−ジメチルピペラジンが好ましく、ピペラジンが特に好ましい。
【0034】
5で示される単結合又はアルキレン基におけるアルキレン基は、炭素数1以上22以下のアルキレン基であるが、炭素数1〜6が好ましい。具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基等を挙げることができる。R5としては、単結合、メチレン基、エチレン基、及びヘキセン基が好ましく、単結合が更に好ましい。
【0035】
6で示されるアルキル基は、それぞれ独立に炭素数6以上30以下のアルキル基であり、nは2以上6以下の整数である。ここで、nは3以上6以下であるのが好ましく、3であるのが更に好ましい。また、R6は炭素数18〜30であるのが好ましく、炭素数18のオクタデシル基であるのが更に好ましい。炭素数6〜30のアルキル基であるR6の置換位置は、R5に対して3位、4位、及び5位であるのが好ましい。
【0036】
ここで、R1からR5で表されるアルキル又はアルキレン基の組み合わせとしては、下記一般式(3)のように、R1がエチレン基であり、R3及びR4が互いに結合し、隣接する窒素原子及びR2と共にピペラジンを形成する2価の基であり、R5が単結合であり、R6が炭素原子数18〜30のアルキル基である組み合わせが好ましい。
【0037】
【化8】

【0038】
[式中、R6'はそれぞれ独立に炭素数18〜30のアルキル基を示し、R1、X、Z及びyは前記と同じものを示す。]
【0039】
特に、上記一般式(3)で示される化合物の中でも、R6'がオクタデシル基であるのが好ましい。
【0040】
Xは、水素原子、水酸基、又は保護基により保護された水酸基を示すが、ここで、Xが水素原子の場合、本発明の疎水性基結合ヌクレオシドに含まれる5単糖残基は、デオキシリボース残基となる。このため、Xが水素原子の場合、本発明の疎水性基結合ヌクレオシドは、疎水性基結合デオキシリボヌクレオシドとなり、オリゴデオキシリボヌクレオチドの合成に用いることができる。同様に、Xが水酸基又は保護基により保護された水酸基の場合、本発明の疎水性基結合ヌクレオシドに含まれる5単糖残基は、2位の水酸基が保護されていてもよいリボース残基となる。このため、Xが水酸基又は保護基により保護された水酸基の場合、本発明の疎水性基結合ヌクレオシドは、リボース残基の2位の水酸基が保護されていてもよい疎水性基結合リボヌクレオシドとなり、オリゴリボヌクレオチドの合成に用いることができる。
【0041】
リボース残基の2位の水酸基を保護していてもよい保護基としては、水酸基保護基として用いることができる任意の保護基を挙げることができる。具体的には、メチル基、ベンジル基、p−メトキシベンジル基、tert−ブチル基、メトキシメチル基、2−テトラヒドロピラニル基、エトキシエチル基、アセチル基、ヒバロイル基、ベンゾイル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基、[(トリイソプロピルシリル)オキシ]メチル(Tom)基、1−(4−クロロフェニル)−4−エトキシピペリジン−4−イル(Cpep)基等を挙げることができる。これらの中でも、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、[(トリイソプロピルシリル)オキシ]メチル(Tom)基、及びtert−ブチルジメチルシリル基であることが好ましく、経済性及び入手の容易さの観点から、tert−ブチルジメチルシリル基であることが特に好ましい。
【0042】
Zは、極性基が保護基により保護されていてもよい、アデニル基、グアニル基、シトシル基、チミニル基、若しくはウラシル基、又はこれらの誘導体である。即ち、Zとしては、従来DNA及びRNAの核酸塩基として知られている任意の塩基、並びにこれらの誘有体であって、塩基の極性基が任意に保護されたものを使用することができる。誘導体としては、8−ブロモアデニル基、8−ブロモグアニル基、5−ブロモシトシル基、5−ヨードシトシル基、5−ブロモウラシル基、5−ヨードウラシル基、5−フルオロウラシル基、5−メチルシトシル基、8−オキングアニル基、ヒポキサンチニル基等を挙げることができる。
【0043】
Z中、塩基の極性基に結合する保護基としては、特に限定されないが、一般には、1級アミノ基、及びカルボニル基の保護基として使用できる基を挙げることができる。1級アミノ基の保護基としては、ピバロイル基、トリフルオロアセチル基、フェノキシアセチル基、4−イソプロピルフェノキシアセチル基、アセチル基、ベンゾイル基、イソブチリル基、ジメチルホルムアミジニル基等を挙げることができる。これらの中でも、フェノキシアセチル基、4−イソプロピルフェノキシアセチル基、アセチル基、ベンゾイル基、イソブチリル基、及びジメチルホルムアミジニル基が好ましい。また、カルボニル基を保護する場合は、メタノール、エチレングリコール、及び1,3−プロパンジオール等をカルボニル基に反応させて、アセタールを形成させることができる。ここで、カルボニル基の保護基については、特に導入しなくてもよい場合がある。
【0044】
本発明のオリゴヌクレオチドの合成法は、前記一般式(1)で示される疎水性基結合ヌクレオシドを出発原料として用い、ホスホロアミダイト法に準じて行われる。
すなわち、本発明は、疎水性基結合ヌクレオシドを出発原料とし、酸・アゾール複合体化合物の存在下、順次ヌクレオシドホスホロアミダイト化合物を縮合・酸化させる工程(縮合・酸化工程)を含むものであり、当該縮合反応において、予め前記疎水性基結合ヌクレオシド又は疎水性基結合オリゴヌクレオチドと、ヌクレオシドホスホロアミダイト化合物を非極性溶媒に溶解させ、これと酸・アゾール複合体化合物又はそれを含有する溶液を接触させることを特徴とするものである。
以下に、最初の縮合・酸化工程を例にとり、本発明の方法を説明する。
【0045】
【化9】

【0046】
〔式中、式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、n、X、Zは前記と同じものを示し、Yは酸性条件下で脱保護可能な保護基を示し、Z1は極性基が保護基により保護されていてもよい、アデニル基、グアニル基、シトシル基、チミニル基、若しくはウラシル基、又は当該核酸塩基の誘導体を示す。〕
【0047】
第一工程は、出発原料である疎水性基結合ヌクレオシド(1)を、酸・アゾール複合体化合物(B)の存在下で、ヌクレオシドホスホロアミダイト化合物(A)と縮合(カップリング)させる工程である。
ここで、各試薬の反応系への投入は、予め疎水性基結合ヌクレオシドとヌクレオシドホスホロアミダイト化合物を非極性溶媒に溶解させ、これと酸・アゾール複合体化合物又はそれを含有する溶液とを接触させるように行われる。
すなわち、疎水性基結合ヌクレオシドが、ヌクレオシドホスホロアミダイト化合物と接触する前に、酸・アゾール複合体化合物と接触しないようにすることが必要である。
後記実施例に示すとおり、疎水性基結合ヌクレオシドを、先に酸・アゾール複合体化合物を接触させ、その後ヌクレオシドホスホロアミダイト化合物を接触させるような方法で反応を行った場合、前記の場合に比べて、カップリング効率が低下し、RNAの合成ではこの傾向が顕著に現れる(実施例1〜3、比較例1〜3)。
【0048】
なお、ヌクレオシドホスホロアミダイト化合物と酸・アゾール複合体化合物と予め接触させる方法では、先にホスホロアミダイトと酸・アゾール複合体化合物による反応活性種の生成が起こり、連続的に溶液を流し続けていく間に活性種の劣化の可能性がある点で好ましくない。その場合、疎水性基結合ヌクレオシドとホスホロアミダイトと酸・アゾール複合体化合物による反応活性種との反応環境が一定ではなくなり、少ない試薬投入量で連続的かつ安定なカップリング収率を維持することが困難になる点で好ましくない。
【0049】
各試薬の反応系への投入手段は、疎水性基結合ヌクレオシドと、ヌクレオシドホスホロアミダイト化合物を予め非極性溶媒に溶解させた溶液と、酸・アゾール複合体化合物又はそれを含有する溶液が接触するようにされればよく、一つの反応容器で、疎水性基結合ヌクレオシドとヌクレオシドホスホロアミダイト化合物を非極性溶媒に溶解させた後に、酸・アゾール複合体化合物又はそれを含有する溶液を添加・混合すること(事前混合型)、或いは、疎水性基結合ヌクレオシドとヌクレオシドホスホロアミダイト化合物を非極性溶媒に溶解させた溶液と、酸・アゾール複合体化合物を非極性溶媒に溶解させた溶液をそれぞれ別個に調製した後、両者を混合すること(二液混合型)の何れでも良い。
【0050】
ここで、非極性溶媒としては、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、及び酢酸エチルからなる群から遊ばれる少なくとも一種であることが好ましく、ジクロロメタンであることが更に好ましい。非極性溶媒を上記溶媒とすることにより、疎水性基結合ヌクレオシド溶液中における疎水性基結合ヌクレオシドの溶解度が向上し、且つより疎水性が強い疎水性環境を構築することができる。
【0051】
出発原料として一般式(1)で示される疎水性基結合ヌクレオシドは、5単糖残基の5位の炭素原子に結合する水酸基が、酸性条件下で脱保護可能な保護基で保護されたものを、適宜脱保護することにより用いることができる。ここで、保護基としては、水酸基の保護基として用いられる、例えばメチル基、tert−ブチル基、メトキシメチル基、2−テトラヒドロピラニル基、エトキシエチル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、1,1−ビス(4−メトシキフェニル)−1−フェニルメチル基等のジメトキシトリチル基、1−(4−メトキシフェニル)−1,1−ジフェニルメチル基等のモノメトキシトリチル基等が挙げられる。
【0052】
また、脱保護反応は、酸性溶液を用いて行われ、その後、還元剤を添加することで脱保護反応を停止させる。ここで、酸性溶液に用いられる酸としては、トリクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、モノクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸等を挙げることができる。これらの中でもジクロロ酢酸が好ましい。また、遊離保護基の捕捉剤としては、メタノール、トリエチルシラン、トリイソプロピルシラン、アニソール、チオアニソール、エタンジチオール等を挙げることができるが、メタノール及びトリエチルシランであることが好ましい。
【0053】
酸・アゾール複合体化合物としては、5−ベンジルメルカプト−1H−テトラゾール、5−エチルチオ−1H−テトラゾール、4,5−ジシアノイミダゾール、1H−テトラゾール、ベンズイミダゾリウムトリフラート、N−フェニルベンズイミダゾリウムトリフラート等を挙げることができる。これらのうち、5−ベンジルメルカプト−1H−テトラゾール、5−エチルチオ−1H−テトラゾール、4,5−ジシアノイミダゾール、1H−テトラゾールは通常アセトニトリルのような極性溶媒に溶解されて国内で一般的に市販されており、ベンズイミダゾリウムトリフラート、N−フェニルベンズイミダゾリウムトリフラート等はアセトニトリルのような極性溶媒に溶解している状態で一般的に市販されてはおらず、事前にアセトニトリルのような極性溶媒で溶解して用いる。本発明の方法においては、これを前記した非極性溶媒、好ましくは、疎水性基結合ヌクレオシドとヌクレオシドホスホロアミダイト化合物の溶解に使用される溶媒と同一の溶媒と、アセトニトリルのような極性溶媒に溶解されている状態の酸・アゾール複合体化合物を混合して使用するのが好ましい。
【0054】
ヌクレオシドホスホロアミダイト化合物としては、目的とする疎水性基結合オリゴヌクレオチドの特性に応じて、適宜選択することができ、必要に応じて5単糖残基の2位の水酸基及び5位の水酸基が保護されたリボヌクレオシドホスホロアミダイト化合物及びデオキシリボヌクレオシドホスホロアミダイト化合物のいずれをも用いることができ、塩基として、必要に応じて極性基に保護基が結合した、アデニル基、グアニル基、シトシル基、チミニル基、ウラシル基、8−ブロモアデニル基、8−ブロモグアニル基、5−ブロモシトシル基、5−ヨードシトシル基、5−ブロモウラシル基、5−ヨードウラシル基、5−フルオロウラシル基、5−メチルシトシル基、8−オキソグアニル基、ヒポキサンチニル基等を有するものを用いることができる。
【0055】
ヌクレオシドホスホロアミダイト化合物において、5単糖残基の2位の水酸基及び5位の水酸基、並びに塩基の極性基の保護基(前記化合物(A)中のY及びZ1)としては、既に記述した、疎水性基結合ヌクレオシド化合物において対応する基の保護基と同様のものを用いることができる。
【0056】
縮合反応は、ホスホロアミダイト法において通常使用される条件で行えばよく、例えば、15〜40℃、好ましくは35〜40℃で、10〜30分、好ましくは10〜15分で行えばよい。そして、上記縮合反応は、支持体も含めてオリゴヌクレオチド合成に必要な試薬・溶媒をすべて液体として供給することにより液相反応が可能であること、カップリング効率が高いことから、公知のフロー合成システムを用いて、流体中で行うことが可能である。
【0057】
すなわち、試料を供給するための試料供給流路、反応を行わせるための反応流路、必要に応じて試料供給流路を反応流路に導くための混合手段、該流路に液体を連続的に供給するための手段、反応温度を調節するための手段等を備えたフロー合成装置を用いて連続的に行うことができる(図1,2,4参照)。
上記装置を構成する各部材は、公知の手段、器具、材料が使用され、特に限定されるものではない。
【0058】
例えば、反応流路の材質としては、例えば、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)等のフッ素系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、芳香族ポリエーテルケトン系樹脂等の合成樹脂からなるチューブ、ステンレス、銅又はその合金、チタン又はその合金等からなる金属製の管などが挙げられる。液体供給手段としては、例えばシリンジポンプ、プランジャーポンプ、ダイヤフラムポンプ、ギヤポンプ等の通常この分野で用いられる反応溶液を供給するためのポンプ等が挙げられる。試料供給流路を反応流路に導くための混合手段としては、例えば、多段衝突型マイクロミキサ等が挙げられる。
【0059】
流路の内径は、上記液体中で反応を行わせることができるような、通常0.1〜1.0mmの範囲の大きさから適宜選択すればよいが、0.2〜1.0mmの範囲の大きさから選択するのが好ましい。また、液体を連続的に供給する際の液体の流速としては、反応場の流路の長さ、内径等によって変わるが、例えば通常0.1〜1.0ml/min、好ましくは0.1〜0.2ml/minが挙げられる。
【0060】
斯くしてフロー式で反応を行う場合、原理的に2種の反応溶液の増減のみで生産量を自在に変えることができ、反応箇所はマイクロミキサより先の部分であるため、少ない試薬投入量で常に一定の反応効率を維持することが可能である。これは、フラスコで行うバッチ式の液相合成法や固相合成法と比較して著しく優位な利点となる。
【0061】
縮合・酸化工程の第二段階は、上記一般式(1−2)で示される化合物を、上述の非極性溶媒に溶解させ、酸化剤を加えて、酸化反応を生起させることにより、下記一般式(1−3)で示される化合物を得る。酸化剤としてはヨウ素/水/ピリジン混合物、tert−ブチルペルオキシド/トルエン溶液、2−ブタノンペルオキシド/塩化メチレン溶液等を挙げることができる。具体的な反応手法としては、上記一般式(1−2)で示される化合物をジクロロメタン等に溶解させた溶液に、ヨウ素/水/テトラヒドロフラン/ピリジンの混合溶液を添加する手法を挙げることができる。
【0062】
上記の第一段階で生成する一般式(1−2)で示される化合物、及び式(1−3)で示される化合物は、後述する「分離段階」により晶析させて分離・回収することができる。
【0063】
以上、縮合・酸化工程における反応について、最初の縮合・酸化反応を例に詳述したが、同様の反応を順次繰り返すことにより、疎水性基結合ヌクレオシドに結合したヌクレオシド残基の5単糖残基の5位の炭素原子と、その5’末端側に隣接するヌクレオシド残基の有する5単糖残基の3位の炭素原子とが、リン酸基を介して連続的に結合した構造を有する疎水性基結合オリゴヌクレオチドを合成することができる。
【0064】
縮合・酸化工程終了後、疎水性基結合オリゴヌクレオチドに結合した保護基を脱保護する。保護基の脱保護については、疎水性基結合オリゴヌクレオチドに結合した保護基の種類・性質に応じて、当業者に周知の手法を適宜用いることができる。
例えば、5単糖残基の2位の水酸基の保護基として、tert−ブチルジメチルシリル基を用いる場合、N−メチルピロリドン/トリエチルアミン・3HF/トリエチルアミン混合溶液にて60℃で90分間処理する条件で反応を行うことによって脱保護することができる。また、塩基の有する極性基の保護基として、フェノキシアセチル基、4−イソプロピルフェノキシアセチル基、アセチル基、ベンゾイル基、及びイソブチリル基を用いる場合、アンモニア:エタノール=3:1溶液にて、80℃で90分間処理する条件で反応を行うことによって脱保護することができる。なお、5単糖残基の5位の水酸基の保護基の脱保護反応については、前述した手法と同様の手法を用いればよい。
【0065】
また、疎水性基結合ヌクレオシド部分における、疎水性基(HDLS)の脱離についても、上記の要領にて行うことができ、例えば、アンモニア:エタノール=3:1溶液を用いて80℃で90分間処理する条件で反応を行うことによって、ヌクレオシドとHDLSを繋ぐリンカー部分を含め同時に脱離させることができる。
【0066】
本発明の方法においては、上記の各段階の化学反応の後に、生成物の分離工程を有していてもよい。分離手段としては、溶液温度及び/又は溶液組成を変化させる手法を用いる方法を挙げることができる。上述したとおり、本発明においては、一般式(1)で示される疎水性基結合ヌクレオシドを用いるので、溶液温度及び/又は溶液温度を変化させる手法を用いることにより、各反応生成物を容易に分離・回収することができる。
【0067】
溶液温度を変化させる手法としては、例えば、反応溶液を冷却する手段を挙げることができる。具体的には、例えば、疎水性基結合オリゴヌクレオチド合成方法の中間生成物を溶解している溶媒としてジクロロメクン/メタノール混合溶液、あるいはジクロロメタン/アセトニトリル混合溶液を用いた場合には、0℃以下に冷却することにより、当該中間生成物を晶析させることが可能となる。
【0068】
溶液組成を変化させる手法としては、例えば、非極性溶媒中に疎水性基結合オリゴヌクレオチド合成方法の中間生成物を溶解した溶液に、上記非極性溶媒への親和性の高い溶媒を、更に添加する手法を挙げることができる。この場合、反応溶液が相分離することなく一相のみで維持される。
【0069】
上記非極性溶媒に親和性の高い溶媒としては、非極性溶媒として用いられた溶媒と同一の溶媒でも、異なった溶媒であってもよいが、例えば、非極性溶媒として、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン等を用いた場合には、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、メタノール等を用いることができる。
【0070】
また、溶液組成を変化させる別の好ましい手法としては、例えば、非極性溶媒中に疎水性基結合オリゴヌクレオチド合成方法の反応生成物を溶解した溶液を濃縮する公知の手法を挙げることができる。
【0071】
好適な分離手段としては、例えば、ジクロロメタン中に各反応生成物を溶解した溶液に、アセトニトリルを添加し、溶媒を揮発させて濃縮し、冷却させて、晶析したジクロロメタン中に反応生成物を吸引濾過等の手法を用いて分離する方法、また、ジクロロメタン中に反応生成物を溶解した溶液に、メタノールを添加し、溶媒を揮発させて濃縮し、遠心分離することや反応生成物を分離する方法を例示できる。
【実施例】
【0072】
製造例1 疎水性基結合ヌクレオシドの合成
3,4,5−トリス(オクタデシロキシ)フェニル酢酸927.6mg(1mmol)に、4−ブトキシカルボニルピペラジン558.8mg(3mmol)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)405.4mg(3mmol)、2−(1H−1−ベンゾトリアゾリル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸(HBTU)1.1378g(1mmol)、N,N−ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)を523μl(3mmol)を加え、3,4,5−トリス(オクタデシロキシ)フェニル酢酸−4−ブトキシカルボニルピペラジンを合成した。これに4N塩酸を作用させて、3,4,5−トリス(オクタデシロキシ)フェニル酢酸ピペラジン塩酸塩を合成した。
【0073】
チミニル基の5位の水酸基がジメトキシトリチル基により保護された5’−O−(1,1−ビス(4−メトシキフェニル)−1−フェニルメチル)チミジン5.08gを適当量のジクロロメタンに溶解し、無水コハク酸1.52g、トリエチルアミン10mLを加えて撹拌した。薄層クロマトグラフィーにて反応の完結を確認した後、0.2Mトリエチルアミンリン酸塩水溶液とともに分液漏斗に移して有機層を回収し、エバポレーターで濃縮・乾燥させて、チミニル基の5位の水酸基がジメトキシトリチル基により保護された3’−O−スクシニル−5’−O−(1,1−ビス(4−メトシキフェニル)−1−フェニルメチル)チミジンを得た。
【0074】
3,4,5−トリス(オクタデシロキシ)フェニル酢酸ピペラジン塩酸塩500mgを、ジクロロメタン50mLに溶解し、チミニル基の5位水酸基がジメトキシトリチル基により保護された3’−スクシニル−5’−O−(1,1−ビス(4−メトシキフェニル)−1−フェニルメチル)チミジンを644mg、2−(1H−1−ベンゾトリアゾリル)1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸(HBTU)1137mg、ジイソプロピルエチルアミン510μlを加えて撹拌し、薄屑クロマトグラフィーにて反応の完結を確認した後、エバポレーターで濃縮し、吸引濾過によって、5’−O−(4,4’−ジメトキシトリチル)チミジン−3’−O−スクシニルピペラジン−4−(1−カルボニル−3,4,5−トリス(オクタデシロキシ)を得た。
【0075】
次いで、ナスフラスコ容器中に、上記5’−O−(4,4’−ジメトキシトリチル)チミジン−3’−O−スクシニルピペラジン−4−(1−カルボニル−3,4,5−トリス(オクタデシロキシ)324.4mg(100μmol)をジクロロメタン10mLに溶解させた溶液と、3%トリクロロ酢酸/ジクロロメタン溶液10mLとを投入して均一に撹拌した。これを室温で5分間放置した後、メタノールを添加し、反応溶液の一部を分取して薄層クロマトグラフィーにて反応の完結を確認した。反応溶液をナスフラスコ容器からエバポレーターに移して濃縮し、キリヤマ漏斗を用いた吸引濾過によって、下記式で示される化合物1(以下、「HO-dT-HDLS」とも称する)を得た。
【0076】
【化10】

【0077】
実施例1 DMT-dT-dT-HDLSの合成(1)
図1に示す、事前混合型のフロー合成システムを用い、下記式で示される化合物2(以下「DMT-dT-dT-HDLS」とも称する)を合成した。
また、生成物1mgをクロロホルム1mLに溶解し、以下の条件で、HPLC分析を行ない、カップリング効率は、HPLCにてUV=258nmでの吸収によって得られるピーク面積の積分値を用いることにより算出した。
<HPLC装置・設定>
システム:waters alliance e2695、
カラム:inertsil 100A( 5μm 4.6φ×150mm GLサイエンス)
カラム温度:30℃、
流速:1.0mL / min 移動相(A):クロロホルム、溶離液(B):メタノール
分析時間:30分、グラジェント:1%(0min)⇒5%(30min)
【0078】
【化11】

【0079】
1)装置の構成
・シリンジ:25mLガスタイトシリンジ(ハミルトン社製)
・シリンジポンプ(HARVARD社製、 APPARATUS 11 PLUS)
・テフロンチューブ(内径1mm、長さ3m)
・オイルバス(アズワン社製、HOA-50D)
2)方法
i)溶液の調製
製造例1で得られたHO-dT-HDLS(化合物1)(132mg(0.1mmol)に、脱水ジクロロメタン(関東化学)25mLを加え、100mLの二口ナス型フラスコで溶解し、モレキュラーシーブス3A(Sigma Aldrich)を100mg加えて、室温で5分撹拌した。5分後、これに、DMTr-dT Amidite(Thermo Scientific) 149mg (0.2mmol)を加えてさらに35分撹拌した。
ii)カップリング
上記で調製されたHO-dT-HDLS(化合物1)とDMTr-dT Amiditeの混合溶液に、BMT Solution (0.25M アセトニトリル溶液 和光純薬)を5mL加えて1分撹拌した。
これを、25mLのガスタイトシリンジで全量採り、シリンジポンプでチューブ内へ流し、流速0.1ml / min、温度35℃で、カップリング反応に付し、反応液を受器で受けた。
iii)酸化
次いで、得られた反応液に、0.67% 2-Butanoneperoxide/ジクロロメタン溶液を10mL加えて10分撹拌した。
iv)分離・精製
反応終了後、メタノールを20mL加えて、エバポレーターで反応溶媒(ジクロロメタン)を留去。白い固形物ができ始めた時点で濃縮操作を終え、室温で15分放置した。桐山ロートを用いて吸引濾過し、残渣を得た(純度99%、回収率95%)。
3)カップリング効率:99%
【0080】
実施例2 DMT-dT-dT-HDLSの合成(2)
図2に示す、二液混合型のフロー合成システムを用い、実施例1と同様に、DMT-dT-dT-HDLS(化合物2)を合成した。生成物について実施例1と同様にHPLCで分析し、カップリング効率を算出した。
1)装置の構成(図2参照)
・シリンジ:25mLガスタイトシリンジ(ハミルトン社製)
・シリンジポンプ(HARVARD社製、 APPARATUS 11 PLUS)
・テフロンチューブ(内径1mm、長さ3m)
・オイルバス(アズワン社製、HOA-50D)
・マイクロミキサ(statics型 流路径0.2mm、流路体積19.95μL YMC社製)
2)方法
i)溶液の調製
下記表1に示すように、HO-dT-HDLS(化合物1)とDMTr-dT Amiditeを含む溶液Aと、BMT Solutionを含む溶液Bを調製した。
【0081】
【表1】

【0082】
(溶液A)
製造例1で得られたHO-dT-HDLS(化合物1) 132mg (0.1mmol)、DMTr-dT Amidite(Thermo Scientific) 149mg (0.2mmol)、脱水ジクロロメタン(関東化学)12.5mLを100mLの二口ナス型フラスコで溶解し、モレキュラーシーブス3A(Sigma Aldrich)を100mg加えて、室温で40分撹拌した。
(溶液B)
BMT Solution (0.25M アセトニトリル溶液 和光純薬)を5mL、脱水ジクロロメタン(関東化学)7.5mLを100mLの二口ナス型フラスコに加えて撹拌した。
ii)カップリング
溶液A及び溶液Bを25mLのガスタイトシリンジでそれぞれ全量採り、シリンジポンプで、両液をチューブ内に流し、マイクロミキサを用いて両液を混合し、反応チューブ内で流速0.1ml / min、温度35℃で反応させ、反応終了後、反応生成物を受器で受けた。
iii)酸化
次いで、得られた反応液に、0.67% 2-Butanoneperoxide/ジクロロメタン溶液を10mL加えて10分撹拌した。
iv)分離・精製
反応終了後、メタノールを20mL加えて、エバポレーターで反応溶媒(ジクロロメタン)を留去。白い固形物ができ始めた時点で濃縮操作を終え、室温で15分放置した。桐山ロートを用いて吸引濾過し、残渣を得た。
3)カップリング効率:>99%
【0083】
比較例1 DMT-dT-dT-HDLSの合成
実施例2と同様の二液混合型のフロー合成システムを用い、以下に示す溶液Aと溶液Bを調製し、実施例2と同様にして、DMT-dT-dT-HDLS(化合物2)を合成し、生成物について実施例1と同様にHPLCで分析し、カップリング効率を算出した。
1)溶液の調製
下記表2に示すように、HO-dT-HDLS(化合物1)とBMT Solutionを含む溶液Aと、DMTr-dT Amiditeを含む溶液Bを調製した。
【0084】
【表2】

【0085】
(溶液A)
HO-dT-HDLS(化合物1) 132mg (0.1mmol)、BMT Solution (0.25M アセトニトリル溶液 和光純薬)を5mL、脱水ジクロロメタン(関東化学)7.5mLを100mLの二口ナス型フラスコで溶解し、モレキュラーシーブス3A(Sigma Aldrich)を100mg加えて、室温で40分撹拌した。
(溶液B)
DMTr-dT Amidite(Thermo Scientific) 149mg (0.2mmol)を脱水ジクロロメタン(関東化学)12.5mL中に100mLの二口ナス型フラスコで溶解し、モレキュラーシーブス3A(Sigma Aldrich)を100mg加えて40分撹拌した。
2)カップリング効率:98%
カップリング効率が98%である場合、仮に20塩基伸長したとすると、目的物の割合は0.9820×100=66.7(%)と見積もられる。これが99%の場合には、同様の計算により0.9920×100=81.8(%)となり、15.1%の差が生じる。
このように、カップリング効率が1%しか異ならなくても、目的とするオリゴヌクレオチドの回収量に大きな影響が出ることがある。したがって、カップリング効率は99%以上であることが最も望ましい。
【0086】
実施例3 DMT-rU-dT-HDLSの合成
実施例2と同様の、二液混合型のフロー合成システムを用い、下記式で示される化合物3(以下、「DMT-rU-dT-HDLS」とも称する)を合成した。生成物について実施例1と同様にHPLCで分析し、カップリング効率を算出した。
【0087】
【化12】

【0088】
1)装置の構成(図2参照)
・シリンジ:25mLガスタイトシリンジ(ハミルトン社製)
・シリンジポンプ(HARVARD社製、 APPARATUS 11 PLUS)
・テフロンチューブ(内径1mm、長さ3m)
・オイルバス(アズワン社製、HOA-50D)
・マイクロミキサ(statics型 流路径0.2mm、流路体積19.95μL YMC社製)
2)方法
i)溶液の調製
下記表3に示すように、HO-dT-HDLS(化合物1)とDMTr-rU Amiditeを含む溶液Aと、BMT Solutionを含む溶液Bを調製した。
【0089】
【表3】

【0090】
(溶液A)
HO-dT-HDLS(化合物1)132mg (0.1mmol)、DMTr-rU Amidite(Glen Research) 172mg (0.2mmol)、脱水ジクロロメタン(関東化学)12.5mLを100mLの二口ナス型フラスコで溶解し、モレキュラーシーブス3A(Sigma Aldrich)を100mg加えて、室温で40分撹拌した。
(溶液B)
BMT Solution (0.25M アセトニトリル溶液 和光純薬)を5mL、脱水ジクロロメタン(関東化学)7.5mLを100mLの二口ナス型フラスコに加えて撹拌した。
ii)カップリング
溶液A及び溶液Bを25mLのガスタイトシリンジでそれぞれ全量採り、シリンジポンプで、両液をチューブ内に流し、マイクロミキサを用いて両液を混合し、反応チューブ内で流速0.1ml / min、温度35℃で反応させ、反応終了後、反応生成物を受器で受けた。
iii)酸化
次いで、得られた反応液に、0.67% 2-Butanoneperoxide/ジクロロメタン溶液を10mL加えて10分撹拌した。
iv)分離・精製
反応終了後、メタノールを20mL加えて、エバポレーターで反応溶媒(ジクロロメタン)を留去。白い固形物ができ始めた時点で濃縮操作を終え、室温で15分放置した。桐山ロートを用いて吸引濾過し、残渣を得た。
3)カップリング効率:99%
【0091】
比較例2 DMT-rU-dT-HDLSの合成
実施例3と同様の、二液混合型のフロー合成システムを用い、以下に示す溶液Aと溶液Bを調製し、実施例3と同様にして、DMT-rU-dT-HDLS(化合物3)を合成した。生成物について実施例1と同様にHPLCで分析し、カップリング効率を算出した。
【0092】
1)溶液の調製
下記表4に示すように、HO-dT-HDLS(化合物1)とBMT Solutionを含む溶液Aと、DMTr-rU Amiditeを含む溶液Bを調製した。
【0093】
【表4】

【0094】
(溶液A)
HO-dT-HDLS(化合物1)132mg (0.1mmol)、BMT Solution (0.25M アセトニトリル溶液 和光純薬)を5mL、脱水ジクロロメタン(関東化学)7.5mLを100mLの二口ナス型フラスコで溶解し、モレキュラーシーブス3A(Sigma Aldrich)を100mg加えて、室温で40分撹拌した。
(溶液B)
DMTr-rU Amidite(Glen Research) 172mg (0.2mmol)を脱水ジクロロメタン(関東化学)12.5mL中に100mLの二口ナス型フラスコで溶解し、モレキュラーシーブス3A(Sigma Aldrich)を100mg加えて40分撹拌した。
2)カップリング効率:70%
【0095】
比較例3 DMT-rU-dT-HDLSの合成
実施例3と同様の、二液混合型のフロー合成システムを用い、下記表5に示す溶液Aと溶液Bを調製し、同様にして、DMT-rU-dT-HDLS(化合物3)を合成した。生成物について実施例1と同様にHPLCで分析し、カップリング効率を算出した。
1)溶液の調製
下記表4に示すように、HO-dT-HDLS(化合物1)とBMT Solutionを含む溶液Aと、DMTr-rU Amiditeを含む溶液Bを調製した。
【0096】
【表5】

【0097】
(溶液A)
HO-dT-HDLS(化合物1)132mg (0.1mmol)、BMT Solution (0.25M アセトニトリル溶液 和光純薬)を5mL、脱水ジクロロメタン(関東化学)7.5mLを100mLの二口ナス型フラスコで溶解し、モレキュラーシーブス3A(Sigma Aldrich)を100mg加えて、室温で40分撹拌した。
(溶液B)
DMTr-rU Amidite(Glen Research) 517mg (0.6mmol)を脱水ジクロロメタン(関東化学)12.5mL中に100mLの二口ナス型フラスコで溶解し、モレキュラーシーブス3A(Sigma Aldrich)を100mg加えて40分撹拌した。
2)カップリング効率:99%
HO-dT-HDLS(化合物1)とBMT Solutionの組み合わせで溶液を作成した場合において、高いカップリング効率を得るにはHO-dT-HDLSに対して6当量程度のアミダイトモノマー(BMT Solution)が必要であった。
【0098】
実施例4 DMT-dT-dT-HDLSの合成(3)
図4に示す、二液混合型のフロー合成システム(大量連続合成システム)を用い、実施例1と同様に、化合物2(DMT-dT-dT-HDLS)を合成した。生成物について実施例1と同様にHPLCで分析し、カップリング効率を算出した。
1)装置の構成(図4参照)
・シリンジ:25mLガスタイトシリンジ(ハミルトン社製)
・シリンジポンプ(HARVARD社製、 APPARATUS 11 PLUS)
・テフロンチューブ(内径1mm、長さ3m)
・3way切替えバルブ(EYELA社製)
・オイルバス(アズワン社製、HOA-50D)
・マイクロミキサ(statics型 流路径0.2mm、流路体積19.95μL YMC社製)
2)方法
i)溶液の調製
下記表6に示すように、HO-dT-HDLS(化合物1)とDMTr-dT Amiditeを含む溶液Aと、BMT Solutionを含む溶液Bを調製した。
【0099】
【表6】

【0100】
(溶液A)
HO-dT-HDLS(化合物1) 660mg (0.5mmol)、DMTr-dT Amidite(Thermo Scientific) 744mg (1.0mmol)、脱水ジクロロメタン(関東化学)62.5mLを100mLの二口ナス型フラスコで溶解し、モレキュラーシーブス3A(Sigma Aldrich)を500mg加えて、室温で40分撹拌した。
(溶液B)
BMT Solution (0.25M アセトニトリル溶液 和光純薬)を25mL、脱水ジクロロメタン(関東化学)37.5mLを100mLの二口ナス型フラスコに加えて撹拌した。
ii)カップリング
溶液A及び溶液Bを、それぞれ切替えバルブ(図5参照)を通して25mLのガスタイトシリンジで12.5mL吸引し、バルブをマイクロミキサ側へ切替え、シリンジポンプで、両液をチューブ内に流し、マイクロミキサを用いて両液を混合し、反応チューブ内で流速0.1ml / min、温度35℃で反応させ、反応終了後、反応生成物を受器で受けた。この操作を計5回繰り返した。生成物を受ける受器は繰り返すたびに換えて別々に受けておく。
iii)酸化
次いで、得られた反応液に、0.67% 2-Butanoneperoxide/ジクロロメタン溶液を10mL加えて10分撹拌した。この操作をそれぞれの受器に対して行う。
iv)分離・精製
反応終了後、メタノールを20mL加えて、エバポレーターで反応溶媒(ジクロロメタン)を留去。白い固形物ができ始めた時点で濃縮操作を終え、室温で15分放置した。桐山ロートを用いて吸引濾過し、残渣を得た。
3)カップリング効率
【0101】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
【化1】

[式中、R1は炭素数1〜12のアルキレン基を示し、R2は炭素数1〜22のアルキレン基を示し、R3及びR4は、それぞれ独立に、炭素数1〜22のアルキル基を示すか、或いはR3及びR4が互いに結合し、隣接する窒素原子及びR2と共に下記式(2):
【化2】

(ここで、R7は炭素数1〜6のアルキル基を示し、mは0又は1の整数を示し、yは0〜3の整数を示す。)
で示されるヘテロ環を形成する2価の基を示し、R5は単結合又は炭素数1〜22のアルキレン基を示し、R6はそれぞれ独立に炭素数6〜30のアルキル基を示し、nは2〜6の整数を示し、Xは水素原子、水酸基、又は保護基により保護された水酸基を示し、Yは酸性条件下で脱保護可能な保護基を示し、Zは、極性基が保護基により保護されていてもよい、アデニル基、グアニル基、シトシル基、チミニル基、若しくはウラシル基、又は当該核酸塩基の誘導体を示す。]
で示される疎水性基結合ヌクレオシドを出発原料とし、酸・アゾール複合体化合物の存在下、順次ヌクレオシドホスホロアミダイト化合物を縮合・酸化させる工程を含むオリゴヌクレオチドの合成法であって、縮合反応が、予め前記疎水性基結合ヌクレオシド又は疎水性基結合オリゴヌクレオチドとヌクレオシドホスホロアミダイト化合物を非極性溶媒に溶解させ、これと酸・アゾール複合体化合物又はそれを含有する溶液とを接触させることによって行われる、前記オリゴヌクレオチドの合成法。
【請求項2】
疎水性基結合ヌクレオシド又は疎水性基結合オリゴヌクレオチドとヌクレオシドホスホロアミダイト化合物を非極性溶媒に溶解させた溶液と、酸・アゾール複合体化合物を非極性溶媒に溶解させた溶液をそれぞれ別個に調製し、これらを混合する請求項1記載のオリゴヌクレオチドの合成法。
【請求項3】
疎水性基結合ヌクレオシド又は疎水性基結合オリゴヌクレオチドとヌクレオシドホスホロアミダイト化合物を非極性溶媒に溶解させた溶液と、酸・アゾール複合体化合物を非極性溶媒に溶解させた溶液とを流路内に別々に供給し、当該流路内で連続的に縮合反応を行う請求項1又は2記載のオリゴヌクレオチドの合成法。
【請求項4】
出発原料の疎水性基結合ヌクレオシドが、下記の一般式(3):
【化3】

[式中、R6'はそれぞれ独立に炭素数18〜30のアルキル基を示し、R1、X、Z及びyは前記と同じものを示す。]
で示される化合物である、請求項1〜3の何れか1項記載のオリゴヌクレオチドの合成法。
【請求項5】
一般式(3)において、R6'がオクタデシル基である請求項4記載のオリゴヌクレオチドの合成法。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−111728(P2012−111728A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263629(P2010−263629)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)2010年7月27日 第12回日本RNA学会年会事務局発行「第12回日本RNA学会(12▲th▼RNA Meeting in Tokyo)予稿集」
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(801000072)農工大ティー・エル・オー株式会社 (83)
【出願人】(501394000)北海道システム・サイエンス株式会社 (4)
【Fターム(参考)】