説明

高分解能及び高精度のベクトル磁力計

【課題】本発明は、環境磁場の成分を測定するためのベクトル磁力計に関する。
【解決手段】本ベクトル磁力計は、光学的にポンピングされるスカラー磁力計(2’)と、異なる軸(Ox、Oy)を有し且つ異なる周波数を有する二つの発振器(Gx、Gy)によって電力供給される一対の導電性巻き線(Ex、Ey)とを備える。スカラー磁力計の無線周波数コイル(56)及び導電性巻き線(Ex、Ey)は、回転手段に取り付けられた回転支持体(85)と機械的に一体である。無線周波数コイルの軸は、軸Ox、Oyと同じ平面内にある。支持体は、この平面が環境磁場に実質的に直交するように回転される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベクトル磁力計の分野に係り、特に光学的にポンピングされるベクトル磁力計に関する。
【背景技術】
【0002】
光学的にポンピングされるスカラー磁力計は数十年にわたって知られている。これらは、光学ポンピングを用いて増幅されるゼーマンライン間の磁気共鳴に基づいている。例えば、ヘリウムセル(He)を用いたこのタイプの磁力計では、1準位のヘリウム原子が、高周波(HF)放電によって2準安定準位に励起される。この2準安定準位は、静磁場の存在下においてゼーマン三重項に分裂する。2準安定準位の原子は、波長可変レーザを用いて、2準位に光学的にポンピングされる。結果として、2準位における選択的励起によって、三重項の異なるラインが異なって減少する。このように励起された原子は、自然放出によって、2準安定準位に戻る。磁気共鳴は、ラーモア周波数の無線周波数(RF)場によって、三重項準位間に誘起される。共鳴信号の振幅は、光学ポンピングによって増幅される。共鳴は、セルの出力における吸収ピークによって観測される。無線周波数場発生器は、PLLループによって吸収ピークに周波数が固定されて、磁場の測定基準が、ラーモアの関係式B=F/γ(γは電子の磁気回転比)によって、共鳴周波数Fから直接導出される(従ってスカラー磁力計と称される)。
【0003】
光学的にポンピングされるスカラー磁力計の詳細な説明は、特許文献1及び特許文献2に記載されている。
【0004】
近年、ベクトル磁力計が開発されていて、これは、複数の軸に沿った磁場の成分を測定することを可能にするデバイスである。
【0005】
例示的なベクトル磁力計は特許文献3に記載されている。この磁力計は、上述のタイプのスカラー磁力計と、セルを取り囲む三つの導電性巻き線を備え、それら巻き線の軸が正規直交三面体を形成する。各巻き線は、異なる周波数信号で励起されて、つまり、軸Oxに対してはF、軸Oyに沿ってはF、軸Ozに沿ってはFとなる。周波数Fで軸Oxに沿った磁場の印加は、周波数Fの変化量によって、測定される磁場ベクトルBの測定基準Bを変化させる。磁場測定基準を与えるスカラー磁力計の出力信号は、周波数Fの成分を有し、その振幅は軸Ox上の磁場ベクトルBの射影に依存する。検出器を通過した光強度信号の同期復調によって、この成分をアクセス可能にする。他の軸Oy及びOzについても同様である。この測定原理の詳細な説明は非特許文献1に記載されている。
【0006】
上述のベクトル磁力計の構造が図1に示される。
【0007】
上述のように、このベクトル磁力計は、破線2によって囲まれたスカラー磁力計を含む。
【0008】
スカラー磁力計は、ヘリウムで充填されたセル10と、Heの2準位と2準位との間の異なるエネルギーに調整された波長でビームを放出するレーザ14と、直線偏光されたビーム17を伝達する偏光子16と、セルを通過したビーム18を受光する光検出器24と、無線周波数発振器22を制御する周波数固定回路21と、周波数推定器26と、高周波放電回路30とを備える。
【0009】
放電回路30は、セル内に配置された二つの電極間の高周波静電放電によって、ヘリウム原子を1基底準位から2準安定準位にする。無線周波数発振器は、セル10を取り囲む又はこの近傍に配置されたコイル56に電流を供給して、セル内に無線周波数場を発生させる。この無線周波数場が、ゼーマン三重項の準位間の磁気共鳴を誘起する。コイル56及び偏光子16は、例えば回転接点を用いて機械的に一体となり、偏光子に加えられるあらゆる回転が、無線周波数場の方向と同じ角度での回転をもたらす。コイル56及び偏光子は、無線周波数場が偏光方向に整列されるように更に取り付けられる。
【0010】
固定回路40は、偏光子16の角度位置、従って無線周波数場の角度位置を設定するモータ46を制御する。より正確には、固定回路40は、偏光方向を制御して、共鳴信号の最大振幅が得られるようにする。
【0011】
スカラー磁力計2に加えて、ベクトル磁力計は、三つの導電性巻き線Ex、Ey、Ezを備え、これら巻き線はそれぞれ、実質的に直交する方向を有する三つの軸Ox、Oy、Ozに沿って回転する。これらの巻き線は三つの発振器Gx、Gy、Gzによって電力供給されて、各々の固有周波数、つまりF、F、Fに設定される。これらの巻き線は、視認性の問題でずらして図示されているが、実際には、セルの周囲に配置される。
【0012】
回路70は、周波数推定器26によって伝達された信号を処理し、一般的には、測定される磁場の測定基準Bを与える信号を処理する。
【0013】
周波数推定器26の出力の位相及び直角位相は、周波数F、F、Fの各々において復調される。位相復調器はDx、Dy、Dzで示されていて、直角位相復調器はD’x、D’y、D’zで示されている。直角位相復調器は、等価な位相シフト手段である四分の一波長リタデーション31、32,33を用いて位相シフト変調信号を受信する。
【0014】
周波数F、F、Fの各々における位相成分及び直角位相成分は、それから、軸Ox、Oy、Ozに沿ったベクトルBの成分を導出する計算モジュール34に提供される。
【0015】
図1に示されるベクトル磁力計は良い結果を与えるが、それが用いるスカラー磁力計の固有性能よりもはるかに低い分解能及び精度の性能を有する。
【0016】
第一に、磁力計の分解能が、それが検出可能な磁場の最小変化である一方、その精度は、磁場の実際の値に対する測定値の標準偏差であることを思い出されたい。精度誤差は、正確性成分と信頼性成分とを有する。
【0017】
分解能及び精度におけるこれらの制限は、本質的には、軸Ox、Oy、Ozに沿った磁場の変調振幅(以下、ベクトル変調振幅と称する)をあまり高く選択することができないという事実によるものであり、これは、センサの線形性にとって有害であり、測定を歪める。更に、ベクトル変調振幅及び変調周波数を、断熱励起条件を満たすのに十分低く選択しなければならない。励起は、共鳴無線周波数信号が有効磁場(環境磁場プラス変調成分)を静磁場であると“みなす”場合(言い換えると、磁場の変化が共鳴ピークの周波数幅に対して十分遅い場合)に断熱的であると称される。
【0018】
実際には、50μT(地球磁場の大きさ)のオーダで測定される環境磁場について、ベクトル変調振幅は、略10ヘルツのオーダの変調周波数に対して50nTをほとんど超えない。従って、各磁場成分に対する分解能も50nTのオーダである一方、スカラー磁力計の分解能は略10pTのオーダである。従って、ベクトル磁力計の分解能は、対応するスカラー磁力計の分解能に対して3桁の大きさで劣る。更に、同じ測定条件下、及び1pTのオーダのベクトル変調振幅の精度において、ベクトル磁力計の精度は1nT以下になることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】仏国特許出願公開第2663430号明細書
【特許文献2】仏国特許出願公開第2713347号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第964260号明細書
【特許文献4】欧州特許第1344075号明細書
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】O.Gavrand et al、“On the calibration of a vector 4He pumped magnetometer”、Earth Planet Space、第53巻、pp.949−958、2011年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
従って、本発明の目的は、分解能及び精度が改善されたベクトル磁力計を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、環境磁場の成分を測定するためのデバイスに係り、本デバイスは:
‐ ガスで充填されたセルと、光ビームを放出するレーザ源と、偏光方向に沿ってそのビームを直線偏光させる偏光子と、セルを通過した偏光ビームを受光して電気信号を提供する光検出器と、セルを取り囲み且つ無線周波数発振器によって電力供給されるコイルであって、そのコイルの軸が偏光方向と一致しているコイルと、その電気信号を受信して無線周波数発振器の周波数をラーモア周波数に固定する周波数固定手段と、その発振器が発生させる無線周波数信号の周波数を推定する推定器とを備えた光学的にポンピングされるスカラー磁力計であって、推定された周波数から、セルが配置される磁場の測定基準を表す信号を提供するスカラー磁力計と、
‐ 異なる軸を有し、セルの周囲に配置され、且つ異なる周波数を有する二つの発振器によってそれぞれ電力供給される二つの導電性巻き線と、前記スカラー磁力計によって提供される信号の位相及び直角位相を二つの異なる周波数に対して復調し且つそれら二つの周波数における信号のスペクトル成分を提供するように構成された復調手段と、そのスペクトル成分及び環境磁場の測定基準から、環境磁場の三つの直交する軸に沿った成分を求める計算手段とを含み、
‐ 二つの導電性巻き線及びコイルは、回転支持体と機械的に一体とされ、二つの導電性巻き線の軸及びコイルの軸は同じ平面内に位置し、
‐ その支持体は、環境磁場の方向に実質的に直交してその平面を回転させるように回転手段に取り付けられる。
【0023】
例示的な実施形態によると、回転手段は非磁性ゴニオメータを備える。
【0024】
代わりに、回転手段は、二つの導電性巻き線の軸に沿ったその磁場の成分の大きさに依存した制御信号を受信する。
【0025】
それら二つの発振器が発生させる信号の異なる周波数F、F及び振幅bm、bmは、bmとbmの積が断熱励起条件を満たすように選択される。
【0026】
二つの導電性巻き線の軸は、好ましくは直交するように選択される。
【0027】
計算手段は、二つの導電性巻き線の軸上の環境磁場の成分B及びBを求めて、そこから、関係式|B|=(B−B−B1/2を用いてそれら二つの軸に直交する軸に沿った成分を導出する。ここで、Bは、測定された環境磁場の測定基準である。
【0028】
第一の変形例によると、環境磁場の測定基準は、二つの導電性巻き線に電力供給されていない際にスカラー磁力計によって予め提供されて、計算手段に記憶されている。
【0029】
第二の変形例によると、環境磁場の測定基準は、スカラー磁力計によって提供された信号の周波数ゼロにおけるスペクトル成分から、計算手段によって得られる。
【0030】
周波数ゼロにおけるスペクトル成分Beff(0)は、計算手段によって、(B+B)/2Beff(0)に等しい補正値で予め補正可能である。
【0031】
本発明は、上記測定デバイスを用いて環境磁場の成分を測定するための方法にも関し:
a)そのデバイスをオンにする前に、環境磁場の方向を求め、導電性巻き線の軸及びコイルの軸を含む平面が環境磁場の方向に実質的に直交するようにその支持体を回転させ、
b)そのデバイスをオンにした後であるが、二つの導電性巻き線に電力供給されていない際に、スカラー磁力計によって環境磁場の測定を行い、
c)異なる周波数を有する発振器によって二つの導電性巻き線に電力供給し、
d)計算手段が、ステップc)においてスカラー磁力計によって提供された信号の二つの異なる周波数におけるスペクトル成分から、二つの導電性巻き線の軸に沿った環境磁場の成分を求め、ステップb)において得られた環境磁場の測定基準からこれら二つの軸に直交する成分を導出する。
【0032】
最後に、本発明は、上記デバイスを用いて環境磁場の成分を測定するための方法の他の代替例に関し:
a)そのデバイスをオンにした後に、異なる周波数を有する発振器によって二つの導電性巻き線に電力供給し、
b)二つの導電性巻き線の軸及びコイルの軸を含む平面を、これら二つの軸に沿って測定された磁場の成分の振幅を最少化することによって、環境磁場の方向に実質的に直交して回転させ、
c)計算手段が、スカラー磁力計によって提供された信号の周波数ゼロの成分から環境磁場の測定基準を求め、
d)計算手段が、スカラー磁力計によって提供された信号の二つの異なる周波数におけるスペクトル成分から、二つの導電性巻き線の軸に沿った環境磁場の成分を求め、そこから、ステップc)で得られた環境磁場の測定基準から、これら二つの軸に直交する成分を導出する。
【0033】
周波数ゼロにおけるスペクトル成分は、(B+B)/2Beff(0)に等しい補正値で予め補正可能であり、ここで、B及びBは、二つの導電性巻き線の軸に沿った環境磁場の成分である。
【0034】
有利な例示的実施形態によると、計算手段は、周波数の関数としてスカラー磁力計の伝達関数の変化を求め、二つの異なる周波数におけるスペクトル成分を補正して、この変化を補償し、補正されたスペクトル成分から環境磁場の成分を求める。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】従来技術において知られているベクトル磁力計を示す。
【図2】本発明の実施形態に係るベクトル磁力計を概略的に示す。
【図3】本発明の第一の変形例に係る図2の磁力計によって環境磁場の成分を測定するための方法を概略的に示す。
【図4】本発明の第二の変形例に係る図2の磁力計によって環境磁場の成分を測定するための方法を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の基本原理は、測定される環境磁場に、その環境磁場に直交する変調磁場を重ね合わせることである。この構成は、有効磁場の測定基準が僅かしか変化しないので、測定の線形性を変化させずに、従来技術より実質的に高いベクトル変調振幅を提供する。
【0037】
図2は、本発明の一実施形態に係るベクトル磁力計を示す。
【0038】
この磁力計は、前述のように、光学的にポンピングされるスカラー磁力計2’に基づいている。図1と同じ参照符号を有する要素は同一又は同様のものである。
【0039】
スカラー磁力計2’は、前述のように、波長可変レーザ14と、偏光子16と、ガス(例えばヘリウム)で充填されたセル10と、セル10を通過した偏光レーザビームを受光する光検出器24と、高周波静電放電によってガス原子を励起準位(ヘリウムの場合、2準安定準位)にする放電回路30と、光検出器から電気信号を受信し且つコイルに電力供給を行う無線周波数発振器22の周波数を制御する周波数固定回路21とを含む。固定は、セルの吸収ピーク下において行われて、対応する周波数は、スカラー磁力計が配置される磁場に関するラーモア周波数である。
【0040】
しかしながら、スカラー磁力計2’の構造は、スカラー磁力計2の構造よりも単純である。実際、スカラー磁力計2’は、セル10の入力においてレーザビームの偏光を変化させるモータ46を有さず、従って、固定回路40を有さない。
【0041】
偏光子16はコイル56に対して固定されていて、その軸を偏光方向として有する直線偏光ビームを伝達する。言い換えると、ガス原子を励起する無線周波数場が、入射レーザビームの偏光方向と一致している。
【0042】
スカラー磁力計2’は、セルが配置される磁場の測定基準を表す信号(例えば対応するラーモア周波数)を提供する。
【0043】
図1とは異なり、この場合、ベクトル磁力計は、セルに印加される磁場を変調するための二つの導電性巻き線Ex及びEyしか含まない。
【0044】
二つの導電性巻き線Ex及びExの軸Ox、Oyは異なり、有利には直交するように選択される。コイル56の軸(従って無線周波数場の方向)及び軸Ox、Oyは同じ平面内に位置する。
【0045】
発振器Gx及びGyは、周期的信号、典型的には異なる周波数F及びFを有する正弦波信号(以下、ベクトル変調信号と称する)で導電性巻き線Ex及びEyに電力供給を行う。前述のように、これらの信号は、スカラー磁力計からの測定信号の位相及び直角位相変調を行うためにも使用される。処理回路70’の計算モジュール34が、周波数F及びFで復調された位相及び直角位相成分を受信する。後述のように、以前のステップにおいて、計算モジュール34は予め環境磁場Bの測定基準をメモリに記憶している。
【0046】
成分B及びBが、従来技術のように、周波数F及びFにおける場の大きさのスペクトル成分から得られる。他方、第三の成分が以下の関係式から導出される:
|B|=(B−B−B1/2 (1)
【0047】
コイル56及び巻き線Ex及びEyは、回転支持体85と機械的に一体であるアセンブリ80を形成する。この支持体は、環境磁場に実質的に直交する平面内おいて、導電性巻き線Ex及びEyの軸並びに無線周波数場の方向を回転させて維持するために、機械的又は電気機械的な回転手段(図示せず)に取り付けられる。
【0048】
例示的な実施形態によると、回転手段は非磁性ゴニオメータであり得る。このデバイスは、環境磁場を発生させないし、環境磁場を乱しもしない。これは、磁場の角度回転を提供し、支持体がその方向に回転することを可能にする。
【0049】
回転手段は、制御信号によって駆動可能であり、その制御信号は、外部のものであるか、又はベクトル磁力計に対するものでななく、環境磁場の方向を示す。例えば、この制御信号は、角度磁力計によって提供可能である。代わりに、この制御信号は、後述のように、粗い較正フェイズ中にベクトル磁力計自体によって発生され得る。
【0050】
いずれにしろ、磁場の方向における支持体の回転を、1%から0.1%、好ましくは0.1%に等しい比較的粗い精度で行うことができる。この回転の目的は、低い歪みレベルの測定条件下にあることであり、環境磁場の回転を正確に知ることではないことを理解することは重要である。環境磁場の正確な回転は、環境磁場の成分の測定によって与えられる。
【0051】
実際にセルに印加される有効磁場を以下のように表すことができる(式中、Beff、B、bm、bmはベクトル):
eff=B+bmj2πFxt+bmj2πFyt (2)
ここでベクトルBは環境磁場の磁気ベクトルであり、bmj2πFxt、bmj2πFytはそれぞれ導電性巻き線Ex及びEyが発生させる磁場である。ベクトルbm及びbmは、ベクトルBに実質的に直交し、ベクトルBeffの端が、面Oxy内において楕円を描く。歪みを最少化するために、bm=bmと選択することが更に有利である。振幅bm=||ベクトルbm||及びbm=||ベクトルbm||は、環境磁場Bの振幅よりも1桁から2桁低くなるように有利に選択される(数Hzから20Hzの変調周波数に対して)。つまり、従来技術において用いられているものよりも10から100倍高いレベルである。有効磁場の大きさBeffは、時間に対して僅かしか変化しないので、磁力計は線形な範囲内にあり、従来の技術のものよりも10から100倍優れた磁場ベクトルの成分の測定の分解能及び精度が達成可能である。
【0052】
更に、bmとbmの積は、断熱励起方式に留まるように十分低く選択される(10−5、更には10−6THz以下)。20Hz以下の変調周波数に対してこの基準を満たすことは、振幅bm、bmの上限が、環境磁場の大きさの1000倍のオーダであることに換言される。例えば、地球磁場の測定に対して、bm=bm=1nT、F=20Hz、F=9Hzが選択され得る。
【0053】
成分bm及びbmの測定は、支持体を回転させるための粗い較正フェイズにおいて使用可能である。この場合、制御信号を、b=(B+B1/2を最少にするように発生させ、つまり、環境磁場に直交して軸Ox及びOyを回転させる。
【0054】
図3は、本発明の第一の変形例に係る図2のベクトル磁力計によって環境磁場の成分を測定するための方法を概略的に示す。
【0055】
第一ステップ310において、電磁的乱れを防止するため、ベクトル磁力計をオンにする前に、環境磁場ベクトルBの方向を、非磁性ゴニオメータを用いて求めて、コイル56の軸及び二つの導電性巻き線の軸Ox、Oyを含む平面Πが環境磁場に直交するように、支持体85を回転させる。
【0056】
320においてベクトル磁力計をオンにした後であるが、ベクトル変調信号が発生していない時に、330において、環境磁場の測定基準Bをスカラー磁力計2’によって測定して、後の使用のために計算手段34に記憶する。
【0057】
ステップ340において、発振器Gx及びGyを作動させて、ベクトル変調信号を導電性巻き線Ex及びEyの各々に投入する。
【0058】
ステップ360では、環境磁場の成分B、Bを、周波数F及びFにおけるBeffのスペクトル成分から求めて、成分Bを、ステップ330で得られた測定基準Bから関係式(1)によって導出する。
【0059】
代わりに、図示されていない代替例によると、Bの測定を、ベクトル変調信号の発生の前に、個別のステップ330において行うのではなくて、ステップ360において成分B、Bと同時に求める。この代替例によると、周波数推定器26によって提供されたBeffを表す信号の直流(DC)成分によって、測定基準Bを得る。従って、測定基準Bは、周波数ゼロにおけるBeffのスペクトル成分によって与えられる。
【0060】
代替例においても、計算手段における多様な前処理又は後処理が想定され得る。
【0061】
例えば、特許文献4に記載されるように、ステップ350において、計算手段は、周波数の関数としてスカラー磁力計の伝達関数の発展を考慮するようにスペクトル成分を任意で補正することができる。成分B、Bを得る前に(成分Bは上記関係式(1)から導出される)、Beffのスペクトル成分を、伝達関数の変化に対して補償する。
【0062】
更に、測定基準Bが、Beffの直流スペクトル成分によって得られる場合、これは、周波数F、Fの成分自体の振動を補償するように有利に補正可能である。実際、この振動は、周波数ゼロにおいて、実質的にb/2Bに等しい大きさの浮動成分を誘起する。測定基準Bは、Beff(0)であるとは推定されず、以下のように補正される:
=Beff(0)−(B+B)/2Beff(0) (3)
ここで、Beff(0)は、Beffのスペクトルの直流成分である。
【0063】
任意で、370において、磁力計に関係して支持体に関係しない直交成分を得るために、成分B、B、Bの変換を行うことができる。較正による更なる処理や、信号対ノイズ比を改善するための連続測定のフィルタリングも、本発明の範囲から逸脱せずに、想定可能である。
【0064】
図4は、本発明の第二の代替例に係る図2のベクトル磁力計によって環境磁場の成分を測定するための方法を概略的に示す。
【0065】
410においてベクトル磁力計をオンにした後、420において、ベクトル変調信号を、Gx及びGyによって発生させて、導電性巻き線Ex及びEyに投入する。
【0066】
430において、支持体85を回転させて、成分B及びBを最少化して、つまり、横成分Bを最少化する。
【0067】
ステップ440において、任意で、周波数F、Fにおける直流成分を前処理する。直流成分の前処理は、関係式(3)によって表される補正となり得る。周波数F、Fにおける成分は、上述のステップ350における処理と同じ処理を受け得る。
【0068】
450において、測定基準B及び成分B、Bが、440において前もって補正された又は補正されていない周波数0、F、Fにおけるスペクトル成分から求められ、成分Bが関係式(1)から導出される。
【0069】
最後に、任意で、成分B、B、Bの後処理が、上述のステップ370のように行われる。
【符号の説明】
【0070】
2 スカラー磁力計
10 セル
14 波長可変レーザ
16 偏光子
21 周波数固定回路
22 無線周波数発振器
24 光検出器
26 周波数推定器
30 放電回路
31、32 四分の一波長リタデーション
34 計算モジュール
56 コイル
85 回転支持体
Dx、Dy 位相復調器
Dx’、Dy’ 直角位相復調器
Ex、Ey 導電性巻き線
Gx、Gy 発振器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学的にポンピングされるスカラー磁力計と、二つの導電性巻き線(Ex、Ey)と、復調手段(Dx、Dx’、Dy、Dy’)と、計算手段(34)とを含む、環境磁場の成分を測定するための測定デバイスであって、
前記スカラー磁力計が、ガスで充填されたセル(10)と、光ビームを放出するレーザ源(40)と、偏光方向に沿って前記光ビームを直線偏光させる偏光子(16)と、前記セルを通過した偏光ビームを受光して電気信号を提供する光検出器と、前記セルを取り囲み且つ無線周波数発振器(22)によって電力供給されるコイルで(56)あって、該コイルの軸が前記偏光方向に一致しているコイル(56)と、前記電気信号を受信して前記無線周波数発振器の周波数をラーモア周波数に固定する周波数固定手段と、前記無線周波数発振器が発生させる無線周波数信号の周波数を推定する周波数推定器とを備え、前記スカラー磁力計が、推定された周波数から、前記セルが配置される磁場の測定基準を表す信号を提供し、
前記二つの導電性巻き線(Ex、Ey)が、異なる軸(Ox、Oy)を有し、前記セルの周囲に提供され、それぞれ異なる周波数(F、F)を有する二つの発振器(Gx、Gy)によって電力供給され、前記復調手段(Dx、Dx’、Dy、Dy’)が、前記スカラー磁力計によって提供される信号の位相及び直角位相を二つの異なる周波数に対して復調して該二つの異なる周波数における信号のスペクトル成分を提供するように構成されていて、前記計算手段(34)が、前記スペクトル成分及び前記環境磁場の測定基準から、前記環境磁場の三つの直交する軸(Ox、Oy、Oz)に沿った成分を求め、
前記二つの導電性巻き線(Ex、Ey)及び前記コイルが回転支持体(85)と機械的に一体になっていて、前記二つの導電性巻き線の軸及び前記コイルの軸が同じ平面内に位置し、
前記回転支持体(85)が、前記平面を前記環境磁場の方向に実質的に直交して回転させるように回転手段の上に取り付けられていることを特徴とする測定デバイス。
【請求項2】
前記回転手段が非磁性ゴニオメータを備えることを特徴とする請求項1に記載の測定デバイス。
【請求項3】
前記回転手段が、前記二つの導電性巻き線の軸に沿った前記環境磁場の成分の大きさに依存した制御信号を受信することを特徴とする請求項1に記載の測定デバイス。
【請求項4】
前記二つの発振器が発生させる信号の前記異なる周波数(F、F)及び振幅bm、bmが、bmとbmの積が断熱励起条件を満たすように選択されることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の測定デバイス。
【請求項5】
前記二つの導電性巻き線の軸が直交していることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の測定デバイス。
【請求項6】
前記計算手段が、前記二つの導電性巻き線の軸(Ox、Oy)上の前記環境磁場の成分B及びBを求め、関係式|B|=(B−B−B1/2によって前記二つの導電性巻き線の軸(Ox、Oy)に直交する軸(Oz)に沿った成分を導出し、Bが測定された環境磁場の測定基準であることを特徴とする請求項5に記載の測定デバイス。
【請求項7】
前記環境磁場の測定基準が、前記二つの導電性巻き線に電力供給されていない際に前記スカラー磁力計によって予め提供されて、前記計算手段(34)に記憶されていることを特徴とする請求項6に記載の測定デバイス。
【請求項8】
前記環境磁場の測定基準が、前記計算手段によって、前記スカラー磁力計によって提供される信号の周波数ゼロにおけるスペクトル成分から得られることを特徴とする請求項6に記載に測定デバイス。
【請求項9】
前記周波数ゼロにおけるスペクトル成分Beff(0)が、前記計算手段によって、(B+B)/2Beff(0)に等しい補正値で予め補正されていることを特徴とする請求項8に記載の測定デバイス。
【請求項10】
請求項1に記載の計測デバイスを用いて環境磁場の成分を測定するための測定方法であって、
a)前記測定デバイスをオンにする前に、前記環境磁場の方向を求め(310)、前記二つの導電性巻き線の軸及び前記コイルの軸が前記環境磁場の方向に実質的に直交するように前記回転支持体(85)を回転させ、
b)前記測定デバイスをオンにした後であるが、前記二つの導電性巻き線に電力供給されていない際に、前記環境磁場を、前記スカラー磁力計によって測定し(330)、
c)前記二つの導電性巻き線に、前記異なる周波数(F、F)を有する二つの発振器によって電力供給し(340)、
d)前記計算手段が、ステップc)において前記スカラー磁力計によって提供された信号の二つの異なる周波数におけるスペクトル成分から、前記二つの導電性巻き線の軸に沿った前記環境磁場の成分を求め(360)、ステップb)において得られた前記環境磁場の測定基準から、前記二つの導電性巻き線の軸に直交する成分を導出することを特徴とする測定方法。
【請求項11】
請求項1に記載の測定デバイスを用いて環境磁場の成分を測定するための測定方法であって、
a)前記測定デバイスをオンにした後に、前記二つの導電性巻き線に、前記異なる周波数(F、F)を有する二つの発振器によって電力供給し(420)、
b)前記二つの導電性巻き線の軸及び前記コイルの軸を含む平面(Π)を、前記二つの導電性巻き線の軸に沿って測定された前記環境磁場の成分の振幅を最少化することによって、前記環境磁場の方向に実質的に直交するように回転させ、
c)前記計算手段が、前記スカラー磁力計によって提供された信号の周波数ゼロの成分から、前記環境磁場の測定基準を求め(450)、
d)前記計算手段が、前記スカラー磁力計によって提供された信号の二つの異なる周波数におけるスペクトル成分から、前記二つの導電性巻き線の軸に沿った前記環境磁場の成分を求め(450)、ステップc)において得られた前記環境磁場の測定基準から、前記二つの導電性巻き線の軸に直交する成分を導出することを特徴とする測定方法。
【請求項12】
周波数ゼロにおけるスペクトル成分Beff(0)が、(B+B)/2Beff(0)に等しい補正値で予め補正され、B及びBが前記二つの導電性巻き線の軸に沿った前記環境磁場の成分であることを特徴とする請求項11に記載の測定方法。
【請求項13】
前記計算手段が、周波数の関数として前記スカラー磁力計の伝達関数の変化を求め、前記二つの異なる周波数におけるスペクトル成分を補正して、前記変化を補償し(350、440)、補正されたスペクトル成分から前記環境磁場の成分を求める(360、450)ことを特徴とする請求項10から12のいずれか一項に記載の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−15523(P2013−15523A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−148342(P2012−148342)
【出願日】平成24年7月2日(2012.7.2)
【出願人】(502124444)コミッサリア ア レネルジー アトミーク エ オ ゼネルジ ザルタナテイヴ (383)