説明

高含水廃油処理剤およびその製造方法

【課題】 廃油との混合性が良く、生石灰の反応性に優れているとともに、製造コストの低減を図ることができる高含水廃油処理剤およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 高含水廃油処理剤は、生石灰の微粉が高級脂肪酸とシリコーンで表面改質されたものである。使用する生石灰は、活性度が650ml以上の高反応性の生石灰であることが望ましい。高級脂肪酸は、ステアリン酸などの炭素数16〜18の高級脂肪酸であることが好ましい。この高含水廃油処理剤は、生石灰に高級脂肪酸を加えた後、シリコーンと水を加えて激しく攪拌することにより製造される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、例えばガソリンスタンドの油タンクの洗浄時に発生する水や泥を多量に含む廃油を処理するための高含水廃油処理剤およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】この種の廃油処理剤としては、生石灰を界面活性剤と脂肪酸で表面処理したものが知られている(特公昭58−2000号公報)。すなわち、特公昭58−2000号公報には、廃油処理剤として、具体的には1重量%のステアリン酸と0.2重量%のジイソオクチルスルホこはく酸ナトリウムを含有する生石灰が開示されている。
【0003】また、特開平5−177108号公報には、処理剤として、油膜処理がなされた生石灰に3〜20重量%の珪酸ソーダと、必要により0.5〜5重量%の酸化マグネシウムと珪素3〜15重量%とが混合されたものが開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところが、前者の処理剤においては、界面活性剤は油分と混ざりにくいため廃油との混合性が悪く、生石灰は活性度の低いものであるため水との反応性が低いという問題があった。しかも、界面活性剤は一般にコストが高いため処理剤の製造コストが高くなるという問題があった。
【0005】また、後者の処理剤においては、廃油中の重金属の溶出防止に効果はあるものの、生石灰の反応性が考慮されておらず、生石灰の水和反応における反応性が低いという問題があった。
【0006】この発明は、このような従来の技術に存在する問題に着目してなされたものである。その目的とするところは、廃油との混合性が良く、生石灰の反応性に優れているとともに、製造コストの低減を図ることができる高含水廃油処理剤およびその製造方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するために、第1の発明の高含水廃油処理剤では、生石灰の微粉を高級脂肪酸とシリコーンで表面処理したものである。
【0008】第2の発明では、第1の発明において、生石灰は活性度が650ml以上の高反応性生石灰である。第3の発明の高含水廃油処理剤の製造方法では、生石灰に高級脂肪酸を加えた後、シリコーンと水を加えて攪拌するものである。
【0009】
【発明の実施の形態】以下に、この発明の実施形態について詳細に説明する。原料となる生石灰は、微粉状の軟焼生石灰であり、平均粒子径が0.5mm以下であることが好ましく、0.1mm以下であることがさらに好ましい。平均粒子径の下限は0.01mm程度である。また、この生石灰の活性度は650ml以上の高反応性のものであることが望ましい。軟焼生石灰としての上限は800ml程度である。この活性度は、日本石灰協会の次のような参考試験方法に基づくものである。
(1) 適用範囲生石灰の水中におけるOH- の溶出速度を4Nの塩酸で滴定し、その反応性を知るものである。
(2) 試料塊状生石灰を粗粉砕した後、1000μmのふるいでふるう。そして、ふるいをパスした生石灰を100g採取して試料とする。
(3) 操作(イ)ビーカーに純水4リットルをとり、温度を40℃に保つ。
(ロ)攪拌機の3枚羽根の下端とビーカーの底面との距離が20mmとなるように、ビーカーの中央にセットする。
(ハ)攪拌を開始するとともに、フェノールフタレイン指示薬を2〜3滴加える。
(ニ)測定試料を一度に投入し、それと同時にストップウオッチを押す。
(ホ)1分経過後より溶液がわずかに赤色を持続するように4N塩酸を滴下し、1分毎にそれまでの滴下量を記録する。
【0010】この操作を10分間続け、4N塩酸の総量(ml)をもって活性度とする。次に、高級脂肪酸は生石灰の表面改質剤で、ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸などの炭素数16〜18の高級脂肪酸又はこれらの混合物が使用される。また、この高級脂肪酸を含有する牛脂、てんぷら油、綿実油、オリーブ油なども使用できる。この高級脂肪酸は、生石灰に対して0.1〜5重量%の範囲で添加するのが好ましい。0.1重量%未満では処理剤を高含水廃油に添加したときの油分との混合性が低くなったり、水の分離性が低下したりする。5重量%を越えると生石灰の水和反応における反応性が低下する。
【0011】シリコーンも、生石灰の表面改質剤で、生石灰の水との反応を抑制するとともに、油分との接触を円滑にする。このシリコーンとしては、通常ポリジメチルシロキサンが使用される。シリコーンとして具体的には、例えばシリコーンを10%含有する水溶液、エマルション、懸濁液などの水性液が使用される。このシリコーンの添加量は、生石灰に対して0.015〜0.3重量%の範囲であることが好ましい。0.015重量%未満では、処理剤を高含水廃油に添加したときの油分との混合性が低く、水の分離性が低下する。0.3重量%を越えると、生石灰の水和反応における反応性が低下する。
【0012】次に、高含水廃油処理剤の製造方法について説明する。高含水廃油処理剤は、生石灰に高級脂肪酸を加えた後、シリコーンと水を加えて攪拌することにより製造される。さらに具体的には、まず生石灰に高級脂肪酸を加えて混合する。これにより、生石灰の表面が部分的に高級脂肪酸の一部によって被覆される。次いで、シリコーンと水を加えて激しく攪拌することにより、生石灰と水が反応して発熱する。その反応熱により、残りの高級脂肪酸とシリコーンとが生石灰の表面に被覆され、廃油処理剤の粉末が得られる。
【0013】続いて、この高含水廃油処理剤の使用方法について説明する。前記のような廃油処理剤を高含水廃油に添加すると、処理剤の表面に被覆されている高級脂肪酸とシリコーンにより、処理剤は廃油中の油分と充分に混合されるとともに、生石灰と水との反応が抑制される。なお、これらの混合性と反応性は、処理剤中の高級脂肪酸とシリコーンの含有量により決定される。
【0014】処理剤の混合後には、油分と水分とが分離されるので、必要に応じてこの水分を分離する。そして、水分分離後の油分をそのままの状態で維持すると、5〜10分後には生石灰の高い反応性により、生石灰が瞬時に水と反応し、その反応熱によって水が蒸発して水分が減少し、高含水廃油が粉末化する。その結果、油分のみを含有する粉体が得られる。
【0015】なお、塩素(Cl)や硫黄(S)の含有量の高い廃油を、前記粉末状の廃油処理剤で処理した場合、処理後に得られる微粉を直接噴霧燃焼させると、発生する塩素ガス(Cl2 )や亜硫酸ガス(SO2 )などの有害ガスが発生する。しかし、廃油処理剤中の生石灰のカルシウム分が、これら有害ガスと反応して有害成分を吸収し除去することができるため、簡単に燃焼処理することができる。
【0016】以上のように、実施形態によれば、次のような利点がある。
(1)高含水廃油処理剤の表面は高級脂肪酸とシリコーンにより被覆されていることから、処理剤を廃油と混合したときに油分との混合性が良い。
(2)高含水廃油処理剤の表面に被覆される高級脂肪酸とシリコーンにより、生石灰と水との反応性を制御することができる。
(3)生石灰の高い反応性により、生石灰と廃油中の水との優れた反応性が得られ、その反応熱により水分を蒸発させ、高含水廃油を容易に粉体にすることができる。
(4)高含水廃油処理剤は、生石灰に高級脂肪酸を加えた後、シリコーンと水を加えて攪拌することにより容易に得られ、製造コストの低減を図ることができる。
【0017】
【実施例】以下に、この発明を具体化した実施例について説明する。
(実施例1)まず、生石灰として、平均粒子径が0.05mmで、活性度が750mlのものを用意した。また、ステアリン酸とシリコーン消泡剤(シリコーン15%含有)を用意した。そして、この生石灰100重量部にステアリン酸2重量部を加えて予備混合した後、シリコーン消泡剤0.2重量部(シリコーンとして0.03重量部)を添加して激しく攪拌混合した。その結果、生石灰の表面がステアリン酸とシリコーンで処理された粉末状の廃油処理剤が得られた。
【0018】次に、この廃油処理剤を使用して水を50%含有する廃油を処理した。すなわち、廃油100重量部に対して廃油処理剤を50重量部混合して放置したところ、5 分後に生石灰が水と激しく反応した。その水和反応の熱により水分が蒸発し、廃油は微粉状になった。
(実施例2)生石灰として、平均粒子径が0.05mmで、活性度が300mlのものを使用した。また、ステアリン酸とシリコーン消泡剤(シリコーン15%含有)を使用した。そして、この生石灰100重量部にステアリン酸2重量部を加えて予備混合した後、シリコーン消泡剤0.2重量部(シリコーンとして0.03重量部)を添加して激しく攪拌混合した。その結果、生石灰の表面が処理され粉末状の廃油処理剤が得られた。
【0019】この廃油処理剤を使用して水を50%含有する廃油を処理した。すなわち、廃油100重量部に対して廃油処理剤を100重量部混合して放置したところ、5分後に生石灰が水と激しく反応した。その反応熱により、廃油の微粉末が得られた。この微粉末は、多少べとついたが、問題はなかった。
【0020】なお、前記実施形態より把握される技術的思想について以下に記載する。
(1)高級脂肪酸は炭素数16〜18の高級脂肪酸であり、その添加量が生石灰に対して0.1〜5重量%である請求項1に記載の高含水廃油処理剤。このように構成すれば、処理剤を高含水廃油に添加したときの油分との混合性や水の分離性を発揮できるとともに、生石灰の水和反応における所定の反応性を発揮することができる。
(2)シリコーンは、所定量のシリコーンを含有する水性液である請求頃1に記載の高含水廃油処理剤。この構成によれば、生石灰が水性液中の水と反応して発熱し、高級脂肪酸の生石灰表面への被覆を促進させることができる。
(3)高含水廃油に高含水廃油処理剤を加えて混合した後水層を分離し、油層にシリコーンと水を加えて攪拌する高含水廃油処理剤の使用方法。この方法によれば、高含水廃油を効率良く粉末化でき、油分のみを含有する粉体を容易に得ることができる。
【0021】
【発明の効果】この発明は以上のように構成されているため、次のような優れた効果を奏する。
【0022】第1の発明の高含水廃油処理剤によれば、高含水廃油との混合性が良く、生石灰と高含水廃油中の水との反応を抑制することができるとともに、生石灰と水との優れた反応性を発揮することができる。
【0023】第2の発明によれば、生石灰と水との反応性をさらに向上させることができる。第3の発明の高含水廃油処理剤の製造方法によれば、高級脂肪酸とシリコーンで表面処理された廃油処理剤の粉末を効率良く得ることができるとともに、製造コストの低減を図ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 生石灰の微粉を高級脂肪酸とシリコーンで表面処理した高含水廃油処理剤。
【請求項2】 生石灰は活性度が650ml以上の高反応性生石灰である請求項1に記載の高含水廃油処理剤。
【請求項3】 生石灰に高級脂肪酸を加えた後、シリコーンと水を加えて攪拌する高含水廃油処理剤の製造方法。