説明

高吸湿自己伸長捲縮糸

【課題】高い吸湿性や嵩高性を有し、高温高湿度の雰囲気としたとき自己伸長して織編物の通気量を増加し快適性を付与することができるだけでなく、吸水や吸湿しても捲縮率の変化が小さいため高い織編物品位を維持することができる高吸湿自己伸長繊維を提供する。
【解決手段】2種類の重合体が横断面においてサイドバイサイド型に複合された複合繊維からなる捲縮糸であって、該2種類の重合体がポリエーテルエステルアミドブロック共重合体とポリアミド重合体であり、複合比率が重量を基準として70/30〜30/70である高吸湿自己伸長捲縮糸とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高吸湿伸長捲縮糸に関するものであり、高い吸湿性や嵩高性を有し、高温高湿度下では織編物の通気量を増加し快適性を付与することができるだけでなく、吸水や吸湿しても織編物品位を維持することができる高吸湿自己伸長捲縮糸に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートとナイロン6とからなるサイドバイサイド型複合繊維は、これらポリマー成分の収縮挙動の差により、捲縮形態を発現し、該複合繊維からなる布帛は、嵩高でソフトなウール調の風合いを有している。さらに、雰囲気温度や湿度の変化により、その捲縮特性が変化し、高温高湿度下では低捲縮、低温低湿度下では高捲縮となる興味深い性能を有している。この変化により、高温高湿度下では、織編物の繊維間空隙は開き、反対に低温低湿度下では繊維間空隙が狭くなるために、高温高湿度下における通気量が増加して、衣服内環境を快適にする機能を有することが、特許文献1〜3に提案されている。
【0003】
しかしながら、上記のポリエチレンテレフタレートとナイロン6とからなるサイドバイサイド型複合繊維の高温高湿度下と低温低湿度下における捲縮率の変化は4〜8%と非常に大きく、衣類の着用時には、局部的な発汗により局部的な形態変化が発生し、組織がルーズになる現象がある。このため、運動着以外の用途については上記問題が発生せず、高い吸湿性を有しながら織編物品位を維持することが難しく、広い用途に用いることができるものが望まれている。
【0004】
【特許文献1】特開昭58−46118号公報
【特許文献2】特開昭58−46119号公報
【特許文献3】特開2002−180323号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記背景技術に鑑みなされたものであり、その目的は、高い吸湿性や嵩高性を有し、高温高湿度の雰囲気としたとき自己伸長して織編物の通気量を増加し快適性を付与することができるだけでなく、吸水や吸湿しても捲縮率の変化が小さいため高い織編物品位を維持することができる高吸湿自己伸長捲縮糸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが検討した結果、上記課題は、2種類の重合体が横断面においてサイドバイサイド型に複合された複合繊維からなる捲縮糸であって、該2種類の重合体がポリエーテルエステルアミドブロック共重合体とポリアミド重合体であり、複合比率が重量を基準として70/30〜30/70であることを特徴とする高吸湿自己伸長捲縮糸により達成できることを見出した。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、しかもウールと同等の高い吸湿性や嵩高性を有し、高温高湿度の雰囲気としたとき自己伸長し、織編物の通気量を増加して快適性を付与することができる高吸湿自己伸長捲縮糸を提供することができる。また、本発明の高吸湿自己伸長捲縮糸は、吸水や吸湿しても捲縮率の変化が小さいため、高い織編物品位を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の高吸湿自己伸長捲縮糸は、2種類の重合体が横断面においてサイドバイサイド型に複合された複合繊維からなる捲縮糸である。
【0009】
本発明においては、上記2種類の重合体がポリエーテルエステルアミドブロック共重合体とポリアミド重合体であり、複合比率が重量を基準として70/30〜30/70であることが肝要である。これにより優れた嵩高性や吸湿性を有し、織編物としたとき高温高湿度下では通気性が増加して快適性を与え、その際も高い品位を維持できる捲縮糸とすることができる。
【0010】
すなわち、上記の2種類の重合体の組合せは、高い吸湿性、嵩高性や吸湿や吸水による適度な伸長性が得られる点や、両方の重合体成分間での剥離防止の点から特に優れている。
【0011】
本発明で用いるポリエーテルエステルアミドブロック共重合体は、数平均分子量500〜5000のε−カプロラクタムとテレフタル酸からなる両端にCOOH基を持つポリアミド成分と、数平均分子量1600〜3000のビスフェノールAのエチレンオキシド付加物とがエステル結合してなる、下記の式A及び式Bからなるブロック共重合体であって、テレフタル酸、ε−カプロラクタムの部分で耐熱性を付与しており、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物の部分で高吸湿性を付与している。このポリエーテルエステルアミドブロック共重合体の例としては、三洋化成工業株式会社製ペレスタットNC6321等がある。
【0012】
【化1】

(ここで、a=3〜10、b=3〜10、c=10〜25、d=10〜25、f=3〜10、g=10〜25、h=10〜25である。)
【0013】
一方、ポリアミドは、ナイロン6、ナイロン66などがあげられるが、特にナイロン6が好ましい。
【0014】
本発明においては、ポリエーテルエステルアミドブロック共重合体とポリアミドとの複合比率を、重量を基準として70/30〜30/70とする必要がある。ポリエーテルエステルアミドブロック共重合体が30%未満の場合には十分な吸湿性能が得られない。一方、ポリエーテルエステルアミドブロック共重合体の割合が70%を超える場合には、高温高湿度下での繊維の自己伸長が大きくなりすぎて衣服などとした際、形態が多く変化し品位が低下する。
【0015】
なお、本発明の捲縮糸を構成する複合繊維は、上記2種類のサイドバイサイド型に複合したものであるが、該複合繊維の断面は丸断面、扁平、異形断面など特に規定されるものではない。
【0016】
また、捲縮糸の吸湿率は、温度35℃、湿度95%RH(高温高湿度と称することがある)では8〜20%、温度20℃、湿度65%(低温低湿度と称することがある)では2〜12%であることが好ましい。いずれの吸湿率もこれを満たない場合は衣服内の湿気を十分に吸収することができず好ましくない。一方、いずれの吸湿率もこれを超える場合には放湿性が十分ではないために快適な衣服内環境を作ることが難しい。
【0017】
本発明の捲縮糸は、温度20℃、湿度65%での捲縮率は5〜10%が好ましい。捲縮率が5%未満の場合は嵩高性が十分でなく、一方、10%を超える場合には吸水または吸湿したときの織編物の品位が低下する傾向にある。
【0018】
本発明の捲縮糸の特徴は、低温低湿度から高温高湿度への雰囲気変化による自己伸長性と、極めて低い捲縮率変化にある。高温高湿度時に自己伸長することにより繊維径が小さくなり衣服の通気量が増加し衣服などとして快適性を与えることができる。このときの自己伸長率は3〜7%、捲縮変化が2%以下であることが好ましい。自己伸長率が3%以下の場合では十分な通気量の変化が見られない。一方、自己伸長率が7%を越える場合や捲縮変化が2%を超える場合は吸水や吸湿により衣服の形態変化が大きいため織編物品が低下してしまう。
【0019】
以上に説明した本発明の捲縮糸は、以下の方法によって製造することができる。例えば、ポリエーテルエステルアミドブロック共重合体を220〜250℃で溶融し、ポリアミドがナイロン6の場合は250〜290℃で溶融し、公知の複合断面用紡糸口金を用いてサイドバイサイド型に複合化して溶融吐出し、温度20〜50℃、風速0.1〜0.5m/分の冷却風を吹き付けて冷却固化し、500〜1500m/分で未延伸糸を引取り、これを40〜100℃で2.0〜5.0倍に延伸し、120〜160℃で熱セットすることにより製造することができる。なお、上記延伸においては、未延伸糸を一旦巻き取った後、これを延伸してもよいし、未延伸糸を一旦巻き取らず連続してこれを延伸してもよい。かかる製造方法により、本発明の捲縮糸を安定して製造できるだけでなく、前述した高温高湿度や低温低湿度での捲縮率を満足する捲縮糸を製造することができる。
【実施例】
【0020】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明する。なお、各物性は下記の方法で測定した。
【0021】
(1)捲縮率、自己伸長率
捲縮複合繊維糸条を長さ30cmの綛にとり、0.00177cN/dtex(2mg/de)の初荷重、0.177cN/dtex(0.2g/de)の重荷重をかけて1分経過後の長さL0を測定し、直ちに重荷重を取り除き1分経過後の長さL1を測定する。次に0.00177cN/dtex(2mg/de)の初荷重をかけた状態で、沸水中に20分間浸漬した後、初加重をはずし24時間自然乾燥を行う。自然乾燥後、20℃×65%RH雰囲気下に24時間静置した後、0.00017cN/dtex(0.2mg/de)の初荷重、0.177cN/dtex(0.2g/de)の重荷重をかけ、1分経過後の長さL2を測定した後、重荷重をはずし1分後の長さL3を測定する。次に35℃×95%RH雰囲気下に24時間静置した後、再び0.00017cN/dtex(0.2mg/de)の初荷重、0.177cN/dtex(0.2g/de)の重荷重をかけ、1分経過後の長さL2′を測定した後、重荷重をはずし1分後の長さL3′を測定する。
次式により、各雰囲気下における捲縮率、自己伸長率を算出する。
低温低湿度における捲縮率=(L2−L3)/L0×100(%)
高温高湿度における捲縮率=(L2′−L3′)/L0×100(%)
自己伸長率=(L2′−L2)/L2×100(%)
【0022】
(2)吸湿率
試料を20℃×65%RHあるいは35℃×95%RHとした恒温恒湿室中に2時間調湿し、絶乾試料の重量と調湿試料の重量から次式により吸湿率を求めた。
吸湿率(%)=(調湿後の重量−絶乾時の重量)×100/絶乾時の重量
【0023】
(3)快適性
捲縮糸を目付け200g/mの筒編とし、任意に選んだ5人に着用してもらいムレ感やべとつき感を評価してもらった。4人以上がムレ感やべとつき感が少ないと感じたものを「良好」、それ以外を「不良」とした。
【0024】
(4)品位
捲縮糸を目付け200g/mの筒編とし、これに3ccの水をたらし、局部的な形態変化が起こり編物表面の品位が低下したものを「不良」、変化が少なく品位の低下が無かったものを「良好」とした。
【0025】
[実施例1]
ナイロン6(Ny−6:BASF社製BS−700)と、数平均分子量1430のε−カプロラクタムとテレフタル酸からなる両端にCOOH基を持つポリアミド成分と、数平均分子量1800のビスフェノールAのエチレンオキシド付加物とがエステル結合してなるポリエステルエーテルアミドブロック共重合体(三洋化成工業株式会社製ペレスタットNC6321)とをそれぞれ270℃、230℃で溶融し、サイドバイサイド型複合断面用紡糸口金(0.3mmφ、24ホール)を用い、Ny−6/ポリエステルエーテルアミドブロック共重合体=50/50の複合比率(重量比率)にてトータル吐出量24g/分で吐出した。吐出された糸条の冷却は、横吹き式冷却装置を用い、温度25℃、風速0.3m/分の冷却風を吹き付けて行い、固化した糸条を1000m/分の速度で引取り、一旦巻き取ることなくこれを60℃で3.0倍に延伸し、さらに140℃で熱セットを行って巻き取って、84dtex/24フィラメントの捲縮糸を得た。結果を表1に示す。
【0026】
[実施例2〜3、比較例1〜5]
2種類の重合体成分や、それらの複合比率(重量比率)を表1に記載したように変更した以外は、実施例1と同様にして捲縮糸を得た。結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の高吸湿自己伸長捲縮糸は、優れた吸湿性及び嵩高性を有し、かつ織編物品位に変化がなく、高温高湿度下での通気量が増加して快適性を発現する。このため、ムレ感、べとつき感のないインナー、裏地、外衣や、スポーツ衣料、特にファッション性が要求されるスポーツ衣料などに好ましく用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種類の重合体が横断面においてサイドバイサイド型に複合された複合繊維からなる捲縮糸であって、該2種類の重合体がポリエーテルエステルアミドブロック共重合体とポリアミド重合体であり、複合比率が重量を基準として70/30〜30/70であることを特徴とする高吸湿自己伸長捲縮糸。
【請求項2】
捲縮糸の温度20℃、湿度65%RHにおける捲縮率が5〜10%、この減縮率と温度30℃、湿度95%RHにおける捲縮率との差が2%以下であり、温度20℃、湿度65%RHから温度30℃、湿度95%RHに雰囲気を変化させたときの捲縮糸の自己伸長率が3〜7%である請求項1記載の高吸湿自己伸長捲縮糸。
【請求項3】
温度20℃、湿度65%RHにおける吸湿率が2〜12%、温度35℃、湿度95%RHにおける吸湿率が8〜20%である請求項1に記載の高吸湿自己伸長捲縮糸。
【請求項4】
ポリエーテルエステルアミドブロック共重合体が、ε−カプロラクタムとテレフタル酸からなる両端にCOOH基を持つポリアミド成分と、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物とがエステル結合してなるブロック共重合体である請求項1に記載の高吸湿自己伸長捲縮糸。

【公開番号】特開2008−144326(P2008−144326A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−335709(P2006−335709)
【出願日】平成18年12月13日(2006.12.13)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】