説明

高周波センサ装置

【課題】低放射電力において物体の検知が可能な高周波センサ装置を提供する。
【解決手段】ミキサ回路は、送信波と反射波とを含む高周波信号を入力する入力端子と、前記入力端子に縦続接続され、前記送信波と反射波とを混合して周波数変換する変換素子と、前記変換素子に縦続接続された高域通過素子と、前記高域通過素子を通過した前記高周波信号を吸収するように一方の端部が前記高域通過素子に接続され、他方の端部が接地された抵抗性素子と、前記変換素子により周波数変換されて生じるドップラー周波数信号を、前記変換素子と前記高域通過素子との間の分岐点を介して出力する出力端子と、を含み、前記入力端子において、前記ミキサ回路の入力インピーダンスは、前記入力端子と接続される外部の回路の特性インピーダンスに整合される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波センサ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波センサ装置は、移動物体及び静止物体の検知が可能である。このうち、送信波と反射波との間のドップラー効果を利用した高周波センサ装置は、移動物体の検知及び速度測定が可能である。このような高周波センサ装置は、浴室及びトイレなどにおける人体検出、小便器自動洗浄、自動ドア、自動車のバックセンサなどに広く使用される。
【0003】
この場合、10GHz帯及び24GHz帯などの電波を使用するので、電波法に適合させるためにスプリアス発射強度を規制値以下に抑えることが必要である。すなわち、スプリアス発射強度を抑制するために低放射電力とし、低放射電力においても検知可能なセンサ装置であることが要求される。
【0004】
このためには、アンテナの指向性を精度良く制御するとともに、受信回路の感度改善が重要である。高周波センサ装置の受信回路には、通常ミキサダイオードやFETなどの非線形性を有した変換素子を用いたミキサ回路が使用される。
【0005】
しかし、マイクロ波を用いた高周波ドップラーセンサ装置の場合、ドップラー周波数は例えば数千ヘルツ以下と低く、数十メガヘルツ以上のIF周波数を有する通信機用途のミキサ回路ではセンサ装置としての特性が不十分である。
【0006】
ローカル発振用FETの高周波特性及び実装ばらつきに対して安定した特性が得られる小型のマイクロ波ミキサー回路に関する技術開示例がある(特許文献1)。
【特許文献1】特開平10−107549号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、低放射電力において物体の検知が可能な高周波センサ装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、送信波を発生する発振器と、前記送信波を放射する送信アンテナと、前記送信波が被検知物体により反射されて生じた反射波を受信する受信アンテナと、ミキサ回路と、を備え、前記ミキサ回路は、前記送信波と、前記反射波と、を含む高周波信号を入力する入力端子と、前記入力端子に縦続接続され、前記送信波と前記反射波とを混合して周波数変換する変換素子と、前記変換素子に縦続接続された高域通過素子と、前記高域通過素子を通過した前記高周波信号を吸収するように一方の端部が前記高域通過素子に接続され、他方の端部が接地された抵抗性素子と、前記変換素子により周波数変換されて生じるドップラー周波数信号を、前記変換素子と前記高域通過素子との間の分岐点を介して出力する出力端子と、を含み、前記入力端子において、前記ミキサ回路の入力インピーダンスは、前記入力端子と接続される外部の回路の特性インピーダンスに整合されたことを特徴とする高周波センサ装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、低放射電力において物体の検知が可能な高周波センサ装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の実施の形態にかかる高周波センサ装置に用いるミキサ回路の構成を表す回路図である。高周波信号入力端子10には、発振器、アンテナなどの信号源6から特性インピーダンスZである伝送線路8を介して信号波G1及び物体からの反射波G2が入力される。物体が移動しない場合には、G1及びG2の周波数は一致する。一方、物体が移動していると、反射波G2の周波数は移動速度により変化する。
また、物体が静止している場合にも、その物体との距離に応じて反射波の強度が変化する。この特性を利用すれば、静止物体の検知も可能である。
【0011】
いずれの場合であっても、G1及びG2はマイクロストリップ線路のような伝送線路12を通り、ミキサダイオードのような変換素子14に入力される。この変換素子14は、非線形性を有しており、G1及びG2を混合して様々な周波数成分を有した信号を生じる。G1及びG2の差分周波数を有する信号は、分岐点17から低域通過フィルタ(LPF:Low Pass Filter)30を介して、中間周波数(IF)信号出力端子40から取り出すことができ、被検知物体を検知することができる。
【0012】
ここでミキサ回路を用いたセンサの構成について説明する。
図2は、本実施形態のミキサ回路50を用いた高周波センサ装置の構成を表し、図2(a)は送信アンテナ及び受信アンテナを別とする場合、図2(b)は共通の送受信アンテナを有する場合である。
【0013】
図2(a)の場合、発振器52からの送信波G1の周波数は、例えば10.525または24.15GHzとする。一部は送信アンテナ54から放射され、他は方向性結合器などで分岐されて高周波信号入力端子10を経由してミキサ回路50へ入力される。また、物体からの反射波G2は受信アンテナ56、高周波信号入力端子10を経由してミキサ回路50へ入力される。ミキサ回路50内で生じたIF信号G10はIF信号出力端子40から出力され、外部のIF増幅器(図示せず)へ入力される。
【0014】
また、図2(b)の場合、発振器52からの送信波G1の一部は送受信アンテナ58から放射され、他は高周波信号入力端子10を経由してミキサ回路50へ入力される。また、物体からの反射波G2は送受信アンテナ58、高周波信号入力端子10を経由してミキサ回路50へ入力される。図2(b)の構成の方が簡素であるが、送受信を分離する回路が必要である。なお、発振器52は、HEMT(High Electron Mobility Transistor)などのトランジスタ及び誘電体共振器などによる構成とすると小型化できる。
【0015】
発振器52及びアンテナは、例えば50Ωのような特性インピーダンスZである伝送線路系を構成する。この結果、図1の高周波信号入力端子10から電源をみたインピーダンスZoutはZとなるよう構成される。また、いずれの構成においても、信号波G1及び反射波G2の差分周波数を有するIF信号G10はIF信号出力端子40から取り出される。
【0016】
次にドップラー周波数について説明をする。G1の周波数をf1とし、G2の周波数をf2とすると、差分である(f1−f2)なるドップラー周波数近傍の中間周波数(IF)信号G10を生じる。移動物体の場合、f2は移動速度に応じて変化し、ドップラー周波数Δfは式(1)により表される。

Δf=f1−f2=2×f1×v/c 式(1)

但し、f1:送信周波数(Hz)
f2:反射周波数(Hz)
v :物体移動速度(m/s)
c :光速(=300×10m/s)

例えば高周波センサを移動している人体や液流に向けると、式(1)で表されるように、その流速vに比例したドップラー周波数Δf近傍の出力信号がIF信号出力端子40から出力される。出力信号G10は、周波数スペクトラムを有し、スペクトラムのピークであるドップラー周波数と速度vとの間には相関関係がある。従って、ドップラー周波数Δfを測定することにより速度vを求めることができる。例えばf1を24GHzとし、vを10m/sとすると、Δfは1600Hzとなる。
【0017】
また、非線形性を有する変換素子14は、ドップラー周波数Δfを有する信号の他に、f1の整数倍の周波数である高調波成分などを含むスプリアスを生じる。G1はこれらのスプリアスが加わったスペクトルとなる。G1,G2にスプリアスが加わって生じたG3、G4は伝送線路12,キャパシタなどの高域通過素子20を通って終端の抵抗性素子22に入力される。
【0018】
G3及びG4は抵抗性素子22により消費され殆ど熱または光などに変換され、反射されるのはごくわずかである。抵抗性素子22に信号G3,G4が吸収されることによって変換素子14及び高周波信号入力端子10への高周波信号の反射は低減される。なお、本明細書において、吸収とは熱や光に変換されて消費されるものを含む。
【0019】
G3の反射波G5,G4の反射波G6は変換素子14、伝送線路12、高周波信号入力端子10を通過して逆方向へ進み、IF信号G10はLPF 30に入力される。反射波G5及びG6は、抵抗性素子がない限り減衰しないので、伝送線路12及び高周波信号入力端子10から外部への高周波信号の放射を生じる。
【0020】
図3は、ミキサ回路50の入力インピーダンスを説明する図である。図3(a)はS11をインピーダンス表示したスミス図であり、図3(b)は本実施形態の構成、図3(c)は比較例の構成である。図3(a)は、9〜11GHzの周波数範囲において、高周波信号入力端子10から見たインピーダンス軌跡である。本実施形態では、VSWR(Voltage Standing Wave Ratio:電圧定在波比)が1.4以下に収まっており整合が良く取れた状態である。このために、ミキサ回路50の内外における反射波G5,G6の放射を低減できている。
【0021】
一方、図3(c)の比較例においては変換素子14には終端開放の4分の1波長の伝送線路14が接続されるが抵抗性素子は接続されない。4分の1波長の終端開放伝送線路では、変換素子14近傍でインピーダンスをゼロ近傍とし、変換素子14により大きな高周波電流を流す。しかしながらこの構成の場合、ミキサ回路50のVSWRが5〜10と高く、反射波G5及びG6が大きい。図3(c)の構成ではLPF30の高域遮断周波数以上の信号は吸収されない。このような状態であるとミキサ回路50の内外において反射波G5及びG6の外部への放射が大きく、ノイズ源となってセンサ装置の検知特性を低下させる。
【0022】
また、入力端子10及び伝送線路8を介してアンテナや発振器を含む信号源6に向かった反射波は、信号源6の性能を劣化させ設計値とは異なるものとする。本実施形態においては反射波が低減されているので、信号源6など入力端子10の外部にある回路の性能を安定に維持できる。
【0023】
次に、IF信号G10について説明する。人体の動き、洗浄水などの液流を、10.525GHzまたは24.15GHzで検知する場合、式(1)からΔfは3000Hz以下と考えられる。従って、図1(a)のLPF30は、例えば3000Hz以下の周波数通過帯域とすればよい。
【0024】
歪みを含んだ反射波G5及びG6が変換素子14に再び入射すると、変換素子14内での非線形性によりIF信号G10はさらに変化する。この反射波G5及びG6により生ずるIF信号のさらなる変化は、送信波G1及び移動物体からの反射波G2による本来検知すべきIF信号を乱すので低減することが好ましい。
【0025】
図4は、ノイズ特性を表すグラフ図であり、図4(a)は本実施形態、図4(b)は比較例である。いずれも発振器の出力は8mWとし、一定距離における一定速度の移動物体を検知したIF信号を表す。縦軸は振幅値(V),横軸は時間(s)である。比較例では0.025Vのノイズ成分が生じているが、本実施形態では不要な高周波信号の反射がないため、0.014V以下のノイズ成分とできる。
【0026】
図5は、IF信号特性を表すグラフ図であり、図4(a)は本実施形態、図4(b)は比較例である。図3と同様、いずれも発振器の出力は8mWとし、一定距離における一定速度の移動物体を検知したIF信号を表す。縦軸は振幅値(V),横軸は時間(s)である。比較例では振幅値がマイナス0.2〜プラス0.28Vである。一方、本実施形態では、不要な高周波信号の反射がないため、入力端子10から入力される局部発振器への信号及び高周波信号の減衰を低減でき、これらの高周波信号を効率よく変換素子14へ入力でき、マイナス0.4〜プラス0.4V以上と大きな振幅とできる。
【0027】
反射波G5及びG6が大きい、すなわちVSWRが大きい比較例の場合のIF信号は、ノイズが大きく信号の振幅値が小さい。この結果、物体を検知するIF信号振幅の下限値を得るための放射電力を高くすることが必要となるが、電波法によるスプリアス発射強度規制以下にするために限界がある。また、送信波を大きくすると消費電力も増加する。これに対して本実施例ではより低い放射電力において、スプリアスの影響が低減されたIF信号を得ることができ、精度良く物体を検知することができる。また、消費電力低減が可能である。
【0028】
次に、図1のミキサ回路50の各構成要素について説明を補足する。高域通過素子20は、キャパシタまたはストリップライン型のパターンフィルタとすることができる。10GHz帯の場合、集中定数型キャパシタが小型にできる。一方、24GHz帯の場合、高精度エッチング工程を用いることにより、パターンフィルタの方が、特性が均一で小型化も容易である。
【0029】
また、人体の検知や液流の測定を目的とする高周波センサ装置においては、IF周波数は3000Hz以下となり、高域通過素子20の帯域を3000Hzより大きくするとIF信号G10を出力端子40から出力できる。この場合、3000Hz以下の通過帯域を有する低域通過フィルタ30の高域特性を3000Hz以上で急峻に減衰させることは容易である。このようにすると、変換素子14で発生する信号のうち、検知したいIF信号のみを出力端子40から効率良く出力できる。
【0030】
ミキサ回路50の入力インピーダンスZinを、特性インピーダンスZである伝送線路8を介した外部インピーダンスZoutと整合させる場合、ミキサ回路50の各構成素子の間の伝送線路を整合素子として用いることができる。
【0031】
例えば、抵抗性素子22を10Ωとし、高域通過素子20との距離を、スミスチャートにおけるr=1の円と交差する近傍までの伝送線路長L1とする。この線路長L1は4分の1波長より短くできるので小型とできる。さらに、変換素子12のリアクタンス分を打ち消すように高域通過素子20を集中定数型のキャパシタとし、そのキャパシタンスC1及び変換素子14までの伝送線路長L2を変換素子14のインピーダンスと整合させることによりVSWRを改善できる。
【0032】
変換素子14としては、半導体からなるpn接合ダイオード、ショットキーバリアダイオード、FET,HEMTなどを用いることができる。周波数が高くなるほどシリコンより化合物半導体のほうが好ましい。なお、このような半導体からなる変換素子14の場合、直流電源により順方向にバイアス電流を変化させ、非線形性を制御し、より大きなIF信号振幅を得ることができる。
【0033】
抵抗性素子22としては、電気エネルギーを熱や光に変化する抵抗及びLED(Light Emitting Diode)などとすることができる。
【0034】
以上、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれら実施の形態に限定されない。ミキサ回路及び高周波センサ装置を構成する変換素子、抵抗性素子、高域通過素子、伝送線路、低域通過フィルタ、発振器、アンテナ、などに関して、当業者が各種の設計変更を行ったものであっても本発明の主旨を逸脱しない限り本発明の範囲に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施の形態にかかる高周波センサ装置に用いるミキサ回路の構成を表す図である。
【図2】本発明の実施の形態にかかる高周波センサ装置の構成を表す図である。
【図3】ミキサ回路の入力インピーダンスを説明する図である。
【図4】ノイズ特性を表すグラフ図である。
【図5】IF信号特性を表すグラフ図である。
【符号の説明】
【0036】
8 伝送線路、10 高周波信号入力端子、12 伝送線路、14 変換素子、20 高域通過素子、22 抵抗性素子、30 低域通過フィルタ、40 IF信号出力端子、50 ミキサ回路、52 発振器、54 送信アンテナ、56 受信アンテナ、58 送受信アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信波を発生する発振器と、
前記送信波を放射する送信アンテナと、
前記送信波が被検知物体により反射されて生じた反射波を受信する受信アンテナと、
ミキサ回路と、
を備え、
前記ミキサ回路は、
前記送信波と、前記反射波と、を含む高周波信号を入力する入力端子と、
前記入力端子に縦続接続され、前記送信波と前記反射波とを混合して周波数変換する変換素子と、
前記変換素子に縦続接続された高域通過素子と、
前記高域通過素子を通過した前記高周波信号を吸収するように一方の端部が前記高域通過素子に接続され、他方の端部が接地された抵抗性素子と、
前記変換素子により周波数変換されて生じるドップラー周波数信号を、前記変換素子と前記高域通過素子との間の分岐点を介して出力する出力端子と、
を含み、
前記入力端子において、前記ミキサ回路の入力インピーダンスは、前記入力端子と接続される外部の回路の特性インピーダンスに整合されたことを特徴とする高周波センサ装置。
【請求項2】
前記送信アンテナ及び前記受信アンテナは同一であることを特徴とする請求項1に記載の高周波センサ装置。
【請求項3】
特性インピーダンス及び線路長を変化させた伝送線路からなる整合回路をさらに備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の高周波センサ装置。
【請求項4】
前記入力端子と前記変換素子との間、前記変換素子と前記高域通過素子との間、前記高域通過素子と前記抵抗性素子との間には、前記整合回路がそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項3記載の高周波センサ装置。
【請求項5】
前記整合回路は、マイクロストリップ線路から構成されることを特徴とする請求項3または4に記載の高周波センサ装置。
【請求項6】
前記高域通過素子は、キャパシタまたはパターンフィルタであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の高周波センサ装置。
【請求項7】
前記分岐点と、前記出力端子と、の間に接続された低域通過フィルタをさらに備えたことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の高周波センサ装置。
【請求項8】
前記変換素子は、直流電圧により非線形性が制御されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つに記載の高周波センサ装置。
【請求項9】
前記抵抗性素子は、抵抗またはLEDであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つに記載の高周波センサ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−232982(P2008−232982A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−76197(P2007−76197)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【特許番号】特許第4041997号(P4041997)
【特許公報発行日】平成20年2月6日(2008.2.6)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】