高周波トランスのコイル組立体
【課題】漏れ磁束を微細なところまで的確に微調整できるようにし、その調整、制御範囲を小さな値から大きな値まで大幅に広げることができるようにし、かつ、結合係数の調整、制御もできるようにし、共振の調整も可能にし、内部静電容量を小さくし、電流容量の大きなものにも適用できるようにし、高い安定性、高性能高特性が得られるようにし、構造を簡潔にして簡単かつ生産性よく低コストで製作できるようにし、もって、広範な顧客の要望を満たすことができるようにする。
【解決手段】軸方向に併設する筒状の一次コイル11と二次コイル12との一部乃至全部の巻線相互を噛合状態に並行に重ね、この重なりの長さを変えることにより上記課題を解決できるようにした。
【解決手段】軸方向に併設する筒状の一次コイル11と二次コイル12との一部乃至全部の巻線相互を噛合状態に並行に重ね、この重なりの長さを変えることにより上記課題を解決できるようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漏れ磁束を制御できる高周波トランスのコイル組立体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高周波トランスのコイル組立体の一つに下記特許文献1の図13に示されているものがある。この高周波トランスのコイル組立体は、U状に形成した複数枚の平板状導体を端部同士で順次螺旋状に当接接続させながら絶縁材を介して積み重ねて、巻数の多い単数の一次コイルと巻数の少ない複数の二次コイルを形成し、これら複数の二次コイルを電気的に並列に結線して上記一次コイルの間に挟みこませ、全体を複数のボルト・ナットにより締め付けたものである。
【0003】
しかし、この特許文献1の図13のような構造では、ボルト・ナットの締め具合でコイル間の相互インダクタンスも結合係数も漏洩インダクタンスも甚だしくは自己インダクタンスまでもが変動して安定性が悪く、また、漏れ磁束の調整、制御が困難で、それらのインダクタンスや結合係数を十分良好なものにできず、高性能の高周波トランスは得られない。更に、部品点数が多くなり、製作が容易でなく、生産性が悪く、コスト高を招く。
【0004】
次に、下記特許文献2に示されているものがある。この高周波トランスのコイル組立体は、一次コイルのパターンを形成した適数の誘電体基板と、二次コイルのパターンを形成した適数の誘電体基板とを積層し、それらを各々電気的に適宜に接続したものである。
【0005】
しかし、この特許文献2の場合、そのような構造では結合係数や漏洩インダクタンス等を良好なものにできず、漏れ磁束の調整、制御は不可能であり、高性能の高周波トランスは得られない。勿論、電流容量の大きなものにすることは極めて困難である。
【0006】
この点、下記特許文献3に示されているものでは、同一の基板に一次コイルと二次コイルのパターンを並行させて渦巻き状に形成したものを複数積層しているので、結合係数を高めることは可能である。
【0007】
しかし、この特許文献3の場合でも、そのような構造では漏れ磁束の調整、制御は不可能であり、電流容量の大きなものにすることは極めて困難である。
【0008】
【特許文献1】特開2000−150259号公報
【特許文献2】特開2001−6941号公報
【特許文献3】特開2002−141228号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、一次コイルと二次コイルとの間の巻線相互の重なり具合を変えることで、漏れ磁束したがって漏洩インダクタンスを微細なところまで的確に微調整できるようにするとともに、その漏れ磁束したがって漏洩インダクタンスの調整、制御範囲をゼロに近い小さな値から大きな値まで大幅に広げることができるようにし、かつ、結合係数の調整、制御も行えるようにし、また、それらの調整、制御を容易に行えるようにし、更には、トランス内部乃至外部接続回路に存在する静電容量との共振等の調整も可能にし、電流容量の大きなものにも難なく適用できるようにして、加えて、トランス内部の静電容量を小さくできるようにし、高い安定性を呈し高性能高特性が期待できる優れた高周波トランスを提供できるようにし、しかも、構造を簡潔にして簡単かつ生産性よく低コストで製作できるようにし、もって、広範な顧客の要望を支障なく容易かつ迅速に満たすことができるようにすることをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
而して、本発明の高周波トランスのコイル組立体は、軸方向に併設する筒状の一次コイルと二次コイルとの一部乃至全部の巻線相互を噛合状態に並行に重ねたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、その構成により、一次コイルと二次コイルとにおいて、巻線相互が重なっていない部分で漏れ磁束が生じ、漏洩インダクタンスが生じるから、その重なりの長さを変えることだけで極めて容易に漏れ磁束及び漏洩インダクタンスを変化させることができ、コイル相互間の結合係数をも変えることができ、かつ、トランス内部の静電容量を小さくできる。したがって、上述の課題を解決することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
軸方向に併設する筒状の一次コイルと二次コイルとの一部乃至全部の巻線相互を噛合状態に並行に重ねて成る高周波トランスのコイル組立体にあって、上記一次コイルと上記二次コイルとを、それぞれ絶縁被覆平角導電帯のエッジワイズ巻きにより螺状コイルに形成するとともに、当該コイル相互を一部乃至全部で螺合させる。これについては実施例で詳細に説明する。
【0013】
また、他の一つは、軸方向に併設する筒状の一次コイルと二次コイルとの一部乃至全部の巻線相互を噛合状態に並行に重ねて成る高周波トランスのコイル組立体にあって、上記一次コイルと上記二次コイルとにおける噛合状態に並行に重ねる巻線相互の一部乃至全部を捻り合わせる。つまり、試作試験によって一次コイルと二次コイルとの巻線相互で噛合状態に並行に重ねる部分の長さが寸法的に既に明らかになっている場合には、その巻線の巻回前に巻線相互の重なる部分同士を予め捻り合わせておけば、一次コイルと二次コイルの巻線が一つに連なった状態となるので、これを単に一つのコイルとして筒状に巻回すれば、結果的に、一次コイルと二次コイルとの巻線相互が要部で噛合状態に重なっているコイル組立体と同様のものに形成されることとなるのである。したがって、より一層簡単迅速に製作でき、コストダウンできる。
【実施例1】
【0014】
図1乃至図3は、本発明に係るコイル組立体を備えた有鉄心の高周波トランスを示しており、この高周波トランスは、高さ方向に長いロ字状の閉磁路を形成したフェライトコア1の下部に一対の支持脚2をボルト・ナット3と締結バンド4で固定し、そのフェライトコア1の両側辺5に同一のコイル組立体6を1個宛都合2個装着している。
【0015】
双方のコイル組立体6は、各々絶縁被覆平角導電帯7,8をエッジワイズ巻きして内径同士と外径同士が同径の螺状コイル9,10に形成した一次コイル11と二次コイル12とを進退可動に螺合させるとともに、一次コイル11相互と二次コイル12相互とを一対の圧着端子13,14を介して電気的に並列又は直列に結線して成る。なお、絶縁被覆平角導電帯7,8には、ポリエステル樹脂被覆平角銅帯等を用いるとよい。
【0016】
(1)実験その1
如上の構成において、双方のコイル組立体6の一次コイル11と二次コイル12をいずれも巻数10Tに形成し、双方の一次コイル11相互と二次コイル12相互とを電気的に並列に結線し、一次コイル11と二次コイル12との螺合によって重なる双方の巻数を共々10T(図4参照)から0Tまで1T宛変化させて、周波数が20kHz、50kHz、100kHzの各々の場合についてインダクタンスLと漏洩インダクタンスLlとを測定したところ、次の結果を得た。
フェライトコア1 : UU120×160×120
絶縁被覆平角導電帯7,8 : 2×5.5 PEW
使用測定機器 : HP製 4194A
IMPEDANCE/GAIN−PHASE ANALYZER
INTEG TIME : MED
AVERAGING : 8
【0017】
【表1】
分離1 : 一次コイル11と二次コイル12とが分離しただけのもの
分離2 : 分離した各コイルの隙間を軸方向に圧縮したもの
【0018】
この表1より、インダクタンスLは、いずれの場合も大きく変動しないことがわかる。
【0019】
【表2】
分離1 : 一次コイル11と二次コイル12とが分離しただけのもの
分離2 : 分離した各コイルの隙間を軸方向に圧縮したもの
【0020】
この表2を周波数毎のグラフにして見ると、図5乃至図7のようになり、漏洩インダクタンスLlは、重ねた巻数に対応して変化する滑らかな曲線となることがわかる。また、0T分離1の場合と0T分離2の場合とを比較するとその差は歴然としており、一次コイル11と二次コイル12とが重なっていない状態での各コイルの隙間が漏洩インダクタンスLlに大きく係わっていることがわかる。結果として、並列結線によるときは、一次コイル11と二次コイル12とのコイル間の螺動進退と漏洩インダクタンスLlの増減に関する特性は頗る安定で、漏洩インダクタンスLlすなわち漏れ磁束をコイル間の機械的な螺動進退でスムーズに微調整できるとともに、広範囲に的確に調整できることがわかり、コイル間の結合係数も同様にして調整できることがわかる。
【0021】
(2)実験その2
前述の構成において、双方のコイル組立体6の一次コイル11と二次コイル12をいずれも巻数72Tに形成し、双方の一次コイル11相互と二次コイル12相互とを電気的に直列に結線し、一次コイル11と二次コイル12の螺合によって重なる一方のコイル組立体6の巻数を72T{100%}(図8A参照)の一定に、また、他方のコイル組立体6の巻数を72T{100%}、71T{99%}(図8B参照)、70T{98%}、68T{95%}、65T{90%}、61T{85%}、57T{80%}と変化させて、周波数が20kHz、50kHz、100kHzの各々の場合についてインダクタンスLと漏洩インダクタンスLlとを測定したところ、次の結果を得た。
フェライトコア1 : UU120×160×120
絶縁被覆平角導電帯7,8 : 0.9×9 PEW
使用測定機器 : HP製 4194A
IMPEDANCE/GAIN−PHASE ANALYZER
INTEG TIME : MED
AVERAGING : 8
【0022】
【表3】
【0023】
この表3によれば、インダクタンスLは直列結線による高い値を呈するとともに、重ねた巻数が少なくなりかつ周波数が高くなるにつれてそのインダクタンスLが増大して行くことがわかる。結果として、直列結線によるときは、インダクタンスLの値を高くすることができるだけでなく、一次コイル11と二次コイル12とのコイル間の機械的な螺動進退でそのインダクタンスLの大きさを微調整できるとともに、広い範囲に的確に調整できることがわかる。
【0024】
【表4】
【0025】
この表4を周波数毎のグラフにして見ると、図9乃至図11のようになり、漏洩インダクタンスLlは、重ねた巻数に対応して変化する滑らかな曲線となることがわかる。結果として、直列結線によるときは、一次コイル11と二次コイル12とのコイル間の螺動進退と漏洩インダクタンスLlの増減に関する特性は頗る安定で、漏洩インダクタンスLlすなわち漏れ磁束をコイル間の機械的な螺動進退でスムーズに微調整できるとともに、並列結線の場合よりも更に広い範囲に的確に調整できることがわかり、コイル間の結合係数も同様にして調整できることがわかる。
【0026】
したがって、実施例1によれば、所期の課題を解決でき、所期の効果を発揮する。
【0027】
なお、図示の実施例1では、コイル組立体6をフェライトコア1の両側辺5にだけ装着しているが、コイル組立体6の一次コイル11と二次コイル12とが各々絶縁被覆平角導電帯7,8をエッジワイズ巻きして螺状コイル9,10に形成しているので、フェライトコア1のコーナー部及び上辺、下辺にも進出させることが可能で、これにより効率、性能を一層向上させることができる。
【実施例2】
【0028】
図12、図13は、本発明に係るコイル組立体1個だけから成る空芯型の高周波トランスを示している。この場合の一個のコイル組立体6は、実施例1と同様に構成するので実施例1の説明をもって多くを省略するが、更に具体的には、一次コイル11と二次コイル12は、例えば0.8×8 PEW の絶縁被覆平角導電帯を用いて巻数7Tに形成して、進退可動に螺合させる。このようにして空芯型であっても単なるコイル相互の螺動進退により漏れ磁束したがって漏洩インダクタンスの調整ができ、コイル間の結合係数も調整ができる。したがって、この実施例2の場合も、所期の課題を解決でき、所期の効果を発揮する。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の高周波トランスのコイル組立体は、コンバータ用トランス、絶縁用トランス、インピーダンス変換器等に広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係るコイル組立体の実施例1を示す平面図である。
【図2】同実施例1の正面図である。
【図3】同実施例1の一部截断側面図である。
【図4】同実施例1の実験その1についての説明図である。
【図5】上記実施例1の表2についての測定周波数20kHzにおける漏洩インダクタンスを示すグラフである。
【図6】同実施例1の表2についての測定周波数50kHzにおける漏洩インダクタンスを示すグラフである。
【図7】同実施例1の表2についての測定周波数100kHzにおける漏洩インダクタンスを示すグラフである。
【図8】同実施例1の実験その2についての説明図である。
【図9】上記実施例1の表4についての測定周波数20kHzにおける漏洩インダクタンスを示すグラフである。
【図10】同実施例1の表4についての測定周波数50kHzにおける漏洩インダクタンスを示すグラフである。
【図11】同実施例1の表4についての測定周波数100kHzにおける漏洩インダクタンスを示すグラフである。
【図12】本発明に係る高周波トランスのコイル組立体の実施例2を示す平面図である。
【図13】同実施例2の正面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 フェライトコア
2 支持脚
3 ボルト・ナット
4 締結バンド
5 側辺
6 コイル組立体
・ 絶縁被覆平角導電帯
9,10 螺状コイル
11 一次コイル
12 二次コイル
13,14 圧着端子
【技術分野】
【0001】
本発明は、漏れ磁束を制御できる高周波トランスのコイル組立体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高周波トランスのコイル組立体の一つに下記特許文献1の図13に示されているものがある。この高周波トランスのコイル組立体は、U状に形成した複数枚の平板状導体を端部同士で順次螺旋状に当接接続させながら絶縁材を介して積み重ねて、巻数の多い単数の一次コイルと巻数の少ない複数の二次コイルを形成し、これら複数の二次コイルを電気的に並列に結線して上記一次コイルの間に挟みこませ、全体を複数のボルト・ナットにより締め付けたものである。
【0003】
しかし、この特許文献1の図13のような構造では、ボルト・ナットの締め具合でコイル間の相互インダクタンスも結合係数も漏洩インダクタンスも甚だしくは自己インダクタンスまでもが変動して安定性が悪く、また、漏れ磁束の調整、制御が困難で、それらのインダクタンスや結合係数を十分良好なものにできず、高性能の高周波トランスは得られない。更に、部品点数が多くなり、製作が容易でなく、生産性が悪く、コスト高を招く。
【0004】
次に、下記特許文献2に示されているものがある。この高周波トランスのコイル組立体は、一次コイルのパターンを形成した適数の誘電体基板と、二次コイルのパターンを形成した適数の誘電体基板とを積層し、それらを各々電気的に適宜に接続したものである。
【0005】
しかし、この特許文献2の場合、そのような構造では結合係数や漏洩インダクタンス等を良好なものにできず、漏れ磁束の調整、制御は不可能であり、高性能の高周波トランスは得られない。勿論、電流容量の大きなものにすることは極めて困難である。
【0006】
この点、下記特許文献3に示されているものでは、同一の基板に一次コイルと二次コイルのパターンを並行させて渦巻き状に形成したものを複数積層しているので、結合係数を高めることは可能である。
【0007】
しかし、この特許文献3の場合でも、そのような構造では漏れ磁束の調整、制御は不可能であり、電流容量の大きなものにすることは極めて困難である。
【0008】
【特許文献1】特開2000−150259号公報
【特許文献2】特開2001−6941号公報
【特許文献3】特開2002−141228号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、一次コイルと二次コイルとの間の巻線相互の重なり具合を変えることで、漏れ磁束したがって漏洩インダクタンスを微細なところまで的確に微調整できるようにするとともに、その漏れ磁束したがって漏洩インダクタンスの調整、制御範囲をゼロに近い小さな値から大きな値まで大幅に広げることができるようにし、かつ、結合係数の調整、制御も行えるようにし、また、それらの調整、制御を容易に行えるようにし、更には、トランス内部乃至外部接続回路に存在する静電容量との共振等の調整も可能にし、電流容量の大きなものにも難なく適用できるようにして、加えて、トランス内部の静電容量を小さくできるようにし、高い安定性を呈し高性能高特性が期待できる優れた高周波トランスを提供できるようにし、しかも、構造を簡潔にして簡単かつ生産性よく低コストで製作できるようにし、もって、広範な顧客の要望を支障なく容易かつ迅速に満たすことができるようにすることをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
而して、本発明の高周波トランスのコイル組立体は、軸方向に併設する筒状の一次コイルと二次コイルとの一部乃至全部の巻線相互を噛合状態に並行に重ねたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、その構成により、一次コイルと二次コイルとにおいて、巻線相互が重なっていない部分で漏れ磁束が生じ、漏洩インダクタンスが生じるから、その重なりの長さを変えることだけで極めて容易に漏れ磁束及び漏洩インダクタンスを変化させることができ、コイル相互間の結合係数をも変えることができ、かつ、トランス内部の静電容量を小さくできる。したがって、上述の課題を解決することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
軸方向に併設する筒状の一次コイルと二次コイルとの一部乃至全部の巻線相互を噛合状態に並行に重ねて成る高周波トランスのコイル組立体にあって、上記一次コイルと上記二次コイルとを、それぞれ絶縁被覆平角導電帯のエッジワイズ巻きにより螺状コイルに形成するとともに、当該コイル相互を一部乃至全部で螺合させる。これについては実施例で詳細に説明する。
【0013】
また、他の一つは、軸方向に併設する筒状の一次コイルと二次コイルとの一部乃至全部の巻線相互を噛合状態に並行に重ねて成る高周波トランスのコイル組立体にあって、上記一次コイルと上記二次コイルとにおける噛合状態に並行に重ねる巻線相互の一部乃至全部を捻り合わせる。つまり、試作試験によって一次コイルと二次コイルとの巻線相互で噛合状態に並行に重ねる部分の長さが寸法的に既に明らかになっている場合には、その巻線の巻回前に巻線相互の重なる部分同士を予め捻り合わせておけば、一次コイルと二次コイルの巻線が一つに連なった状態となるので、これを単に一つのコイルとして筒状に巻回すれば、結果的に、一次コイルと二次コイルとの巻線相互が要部で噛合状態に重なっているコイル組立体と同様のものに形成されることとなるのである。したがって、より一層簡単迅速に製作でき、コストダウンできる。
【実施例1】
【0014】
図1乃至図3は、本発明に係るコイル組立体を備えた有鉄心の高周波トランスを示しており、この高周波トランスは、高さ方向に長いロ字状の閉磁路を形成したフェライトコア1の下部に一対の支持脚2をボルト・ナット3と締結バンド4で固定し、そのフェライトコア1の両側辺5に同一のコイル組立体6を1個宛都合2個装着している。
【0015】
双方のコイル組立体6は、各々絶縁被覆平角導電帯7,8をエッジワイズ巻きして内径同士と外径同士が同径の螺状コイル9,10に形成した一次コイル11と二次コイル12とを進退可動に螺合させるとともに、一次コイル11相互と二次コイル12相互とを一対の圧着端子13,14を介して電気的に並列又は直列に結線して成る。なお、絶縁被覆平角導電帯7,8には、ポリエステル樹脂被覆平角銅帯等を用いるとよい。
【0016】
(1)実験その1
如上の構成において、双方のコイル組立体6の一次コイル11と二次コイル12をいずれも巻数10Tに形成し、双方の一次コイル11相互と二次コイル12相互とを電気的に並列に結線し、一次コイル11と二次コイル12との螺合によって重なる双方の巻数を共々10T(図4参照)から0Tまで1T宛変化させて、周波数が20kHz、50kHz、100kHzの各々の場合についてインダクタンスLと漏洩インダクタンスLlとを測定したところ、次の結果を得た。
フェライトコア1 : UU120×160×120
絶縁被覆平角導電帯7,8 : 2×5.5 PEW
使用測定機器 : HP製 4194A
IMPEDANCE/GAIN−PHASE ANALYZER
INTEG TIME : MED
AVERAGING : 8
【0017】
【表1】
分離1 : 一次コイル11と二次コイル12とが分離しただけのもの
分離2 : 分離した各コイルの隙間を軸方向に圧縮したもの
【0018】
この表1より、インダクタンスLは、いずれの場合も大きく変動しないことがわかる。
【0019】
【表2】
分離1 : 一次コイル11と二次コイル12とが分離しただけのもの
分離2 : 分離した各コイルの隙間を軸方向に圧縮したもの
【0020】
この表2を周波数毎のグラフにして見ると、図5乃至図7のようになり、漏洩インダクタンスLlは、重ねた巻数に対応して変化する滑らかな曲線となることがわかる。また、0T分離1の場合と0T分離2の場合とを比較するとその差は歴然としており、一次コイル11と二次コイル12とが重なっていない状態での各コイルの隙間が漏洩インダクタンスLlに大きく係わっていることがわかる。結果として、並列結線によるときは、一次コイル11と二次コイル12とのコイル間の螺動進退と漏洩インダクタンスLlの増減に関する特性は頗る安定で、漏洩インダクタンスLlすなわち漏れ磁束をコイル間の機械的な螺動進退でスムーズに微調整できるとともに、広範囲に的確に調整できることがわかり、コイル間の結合係数も同様にして調整できることがわかる。
【0021】
(2)実験その2
前述の構成において、双方のコイル組立体6の一次コイル11と二次コイル12をいずれも巻数72Tに形成し、双方の一次コイル11相互と二次コイル12相互とを電気的に直列に結線し、一次コイル11と二次コイル12の螺合によって重なる一方のコイル組立体6の巻数を72T{100%}(図8A参照)の一定に、また、他方のコイル組立体6の巻数を72T{100%}、71T{99%}(図8B参照)、70T{98%}、68T{95%}、65T{90%}、61T{85%}、57T{80%}と変化させて、周波数が20kHz、50kHz、100kHzの各々の場合についてインダクタンスLと漏洩インダクタンスLlとを測定したところ、次の結果を得た。
フェライトコア1 : UU120×160×120
絶縁被覆平角導電帯7,8 : 0.9×9 PEW
使用測定機器 : HP製 4194A
IMPEDANCE/GAIN−PHASE ANALYZER
INTEG TIME : MED
AVERAGING : 8
【0022】
【表3】
【0023】
この表3によれば、インダクタンスLは直列結線による高い値を呈するとともに、重ねた巻数が少なくなりかつ周波数が高くなるにつれてそのインダクタンスLが増大して行くことがわかる。結果として、直列結線によるときは、インダクタンスLの値を高くすることができるだけでなく、一次コイル11と二次コイル12とのコイル間の機械的な螺動進退でそのインダクタンスLの大きさを微調整できるとともに、広い範囲に的確に調整できることがわかる。
【0024】
【表4】
【0025】
この表4を周波数毎のグラフにして見ると、図9乃至図11のようになり、漏洩インダクタンスLlは、重ねた巻数に対応して変化する滑らかな曲線となることがわかる。結果として、直列結線によるときは、一次コイル11と二次コイル12とのコイル間の螺動進退と漏洩インダクタンスLlの増減に関する特性は頗る安定で、漏洩インダクタンスLlすなわち漏れ磁束をコイル間の機械的な螺動進退でスムーズに微調整できるとともに、並列結線の場合よりも更に広い範囲に的確に調整できることがわかり、コイル間の結合係数も同様にして調整できることがわかる。
【0026】
したがって、実施例1によれば、所期の課題を解決でき、所期の効果を発揮する。
【0027】
なお、図示の実施例1では、コイル組立体6をフェライトコア1の両側辺5にだけ装着しているが、コイル組立体6の一次コイル11と二次コイル12とが各々絶縁被覆平角導電帯7,8をエッジワイズ巻きして螺状コイル9,10に形成しているので、フェライトコア1のコーナー部及び上辺、下辺にも進出させることが可能で、これにより効率、性能を一層向上させることができる。
【実施例2】
【0028】
図12、図13は、本発明に係るコイル組立体1個だけから成る空芯型の高周波トランスを示している。この場合の一個のコイル組立体6は、実施例1と同様に構成するので実施例1の説明をもって多くを省略するが、更に具体的には、一次コイル11と二次コイル12は、例えば0.8×8 PEW の絶縁被覆平角導電帯を用いて巻数7Tに形成して、進退可動に螺合させる。このようにして空芯型であっても単なるコイル相互の螺動進退により漏れ磁束したがって漏洩インダクタンスの調整ができ、コイル間の結合係数も調整ができる。したがって、この実施例2の場合も、所期の課題を解決でき、所期の効果を発揮する。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の高周波トランスのコイル組立体は、コンバータ用トランス、絶縁用トランス、インピーダンス変換器等に広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係るコイル組立体の実施例1を示す平面図である。
【図2】同実施例1の正面図である。
【図3】同実施例1の一部截断側面図である。
【図4】同実施例1の実験その1についての説明図である。
【図5】上記実施例1の表2についての測定周波数20kHzにおける漏洩インダクタンスを示すグラフである。
【図6】同実施例1の表2についての測定周波数50kHzにおける漏洩インダクタンスを示すグラフである。
【図7】同実施例1の表2についての測定周波数100kHzにおける漏洩インダクタンスを示すグラフである。
【図8】同実施例1の実験その2についての説明図である。
【図9】上記実施例1の表4についての測定周波数20kHzにおける漏洩インダクタンスを示すグラフである。
【図10】同実施例1の表4についての測定周波数50kHzにおける漏洩インダクタンスを示すグラフである。
【図11】同実施例1の表4についての測定周波数100kHzにおける漏洩インダクタンスを示すグラフである。
【図12】本発明に係る高周波トランスのコイル組立体の実施例2を示す平面図である。
【図13】同実施例2の正面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 フェライトコア
2 支持脚
3 ボルト・ナット
4 締結バンド
5 側辺
6 コイル組立体
・ 絶縁被覆平角導電帯
9,10 螺状コイル
11 一次コイル
12 二次コイル
13,14 圧着端子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に併設する筒状の一次コイルと二次コイルとの一部乃至全部の巻線相互を噛合状態に並行に重ねたことを特徴とする高周波トランスのコイル組立体。
【請求項2】
上記一次コイルと上記二次コイルとを、それぞれ絶縁被覆平角導電帯のエッジワイズ巻きにより螺状コイルに形成するとともに、当該コイル相互を一部乃至全部で螺合させた請求項1記載の高周波トランスのコイル組立体。
【請求項3】
上記一次コイルと上記二次コイルとにおける噛合状態に並行に重ねる一部乃至全部の巻線相互を捻り合わせた請求項1記載の高周波トランスのコイル組立体。
【請求項1】
軸方向に併設する筒状の一次コイルと二次コイルとの一部乃至全部の巻線相互を噛合状態に並行に重ねたことを特徴とする高周波トランスのコイル組立体。
【請求項2】
上記一次コイルと上記二次コイルとを、それぞれ絶縁被覆平角導電帯のエッジワイズ巻きにより螺状コイルに形成するとともに、当該コイル相互を一部乃至全部で螺合させた請求項1記載の高周波トランスのコイル組立体。
【請求項3】
上記一次コイルと上記二次コイルとにおける噛合状態に並行に重ねる一部乃至全部の巻線相互を捻り合わせた請求項1記載の高周波トランスのコイル組立体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2007−180352(P2007−180352A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−378536(P2005−378536)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(391032819)株式会社アイキューフォー (7)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(391032819)株式会社アイキューフォー (7)
【Fターム(参考)】
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