説明

高周波空洞

【課題】 主として、組立精度の問題を解決した高周波空洞を提供する。
【解決手段】 複数の電極18と、リッジ14と、複数の電極18をそれぞれリッジ14に支持するステム16と、電極18、ステム16及びリッジ14を固定するセンターフレームと、複数の電極18と、リッジ14と、ステム16及びセンターフレームを収容する空洞とを備えた高周波空洞10において、高周波空洞10は、一部又は全部が一体型加工により成形されている構成とした。
この場合、複数の電極18と、ステム16と、リッジ14とが、一体型加工により成形されている構成とすると、加工効率に優れた高周波空洞となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波空洞及びこれを用いた線形加速器又はバンチャー空洞に係り、特に、組立精度を飛躍的に向上させた高周波空洞の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、高周波空洞は、イオンを加速する加速空洞と、イオンを加速しないでバンチングを目的としたバンチャー空洞に大別できる。
また、特許文献1に示されるように、医療、原子核研究等のためにイオンを加速する高周波空洞(加速空洞)を備えた線形加速器が実用に共されている。
この高周波空洞の一例として、ドリフトチューブ型線形加速器の高周波空洞100の構造及びイオンを加速する加速原理について、図2及び図3を用いて説明する。
図2は、ドリフトチューブ型線形加速器の高周波空洞100の内部構造を示す一部裁断斜視図である。
図3は、図2の一部裁断拡大図である。
【0003】
ドリフトチューブ型線形加速器は、高周波加速器の一種で、それに用いられる高周波空洞100の主要構成は、空洞102内に、リッジ104と、ステム106を介して、複数の電極(以下、「ドリフトチューブ電極」或いは単に「ドリフトチューブ」という場合がある。)108が配置され、誘導電流により、この電極108間に発生する強力な高周波電場を利用して、イオンを加速するものである。
なお、109は、ステム106をリッジ104に固定するベースフランジで、図3の110は、電極108、ステム106及びリッジ104を固定するセンターフレームである。
【0004】
イオンが加速される高周波の位相の時に、イオンが丁度、電極108の間隙に来るように、高周波電場を上手く同期させることによって、矢印方向にイオンを加速する。
なお、イオンは加速されるとその速さが増大するので、それに合わせて、図2に示すように、ドリフトチューブ電極108の長さも、ギャップ間隔も合わせて長くなるように工夫されている。
【0005】
【特許文献1】特開平05−290997号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来の高周波空洞において、ドリフトチューブ電極を空洞内にセットする方法及び従来の高周波空洞の製造法を図3を用いて説明する。
図3は従来の高周波空洞100の製造法を説明するための一部裁断斜視図である。
【0007】
図3に示すように、従来の高周波空洞100において、正確な加速構造にするためには、空洞内のドリフトチューブ電極108、ステム106、ベースフランジ109を精度良く、リッジ104及びセンターフレーム110に配置する必要がある。
【0008】
これまでの高周波空洞100の製作法では、電極108、ステム106、ベースフランジ109を別々に銀ロウ溶接し、その後ベースフランジ109を上下のセンターフレーム104にネジ固定していた。
また、上下、左右の電極108のギャップ間隔と軸合わせを、ギャップゲージ、ゲージ・ロッドまたは光学ゲージにより、人間がアライメント作業を行っていた。
【0009】
しかし、従来の高周波空洞の製作法では、それぞれの工作部品に5乃至25ミクロン程度の誤差が有るため、組み立て後±50乃至100ミクロンの誤差が発生してしまう。
更に、ロウ付けされた銅材は焼き生っているため、非常に柔らかくなっており、少しの力で歪んでしまうという問題があった。
【0010】
このため、従来の高周波空洞においては、電極、ステム、ベースフランジをそれぞれ精度良くセットしても、最終的には設置精度に大きな狂いが生じてしまうことが多かった。
また、従来の高周波空洞の製造においては、この3次元アライメント作業には高度の熟練と長時間の作業時間を要するという問題を備えていた。
【0011】
本発明は、上記従来の組立精度の問題を解決した高周波空洞、及び、それを用いた線形加速器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の高周波空洞は、請求項1に記載のものでは、複数の電極と、リッジと、前記複数の電極をそれぞれ前記リッジに支持するステムと、前記電極、前記ステム及び前記リッジを固定するセンターフレームと、前記複数の電極と、前記リッジと、前記ステム及び前記センターフレームを収容する空洞とを備えた高周波空洞において、前記高周波空洞は、一部又は全部が一体型加工により成形されている構成とした。
【0013】
請求項2記載の高周波空洞は、前記複数の電極と、前記ステムと、前記ステムを前記リッジに固定するベースフランジとが、一体型加工により成形されている構成とした。
【0014】
請求項3記載の高周波空洞は、前記複数の電極と、前記ステムと、前記リッジと前記センターフレームとが、一体型加工により成形されている構成とした。
【0015】
請求項4記載の高周波空洞は、前記複数の電極と、前記ステムと、前記リッジと前記センターフレーム及び前記空洞とが、一体型加工により成形されている構成とした。
【0016】
請求項5記載の線形加速器は、請求項1乃至4のいずれかに記載の高周波空洞を具備した構成とした。
【0017】
請求項6記載のバンチャー空洞は、請求項1乃至4のいずれかに記載の高周波空洞を具備した構成とした。
【発明の効果】
【0018】
本発明の高周波空洞は、上述のように構成したために、以下のような優れた効果を有する。
(1)請求項1乃至4に記載したように構成すると、組立精度を飛躍的に向上させることができる。
(2)また、従来必要であった、アライメント作業における高度の熟練が不要になり、長時間の作業時間を要するという問題が解決できる。
【0019】
本発明の線形加速器及びバンチャー空洞は、上述のように構成したために、以下のような優れた効果を有する。
(1)請求項5又は請求項6に記載したように構成すると、組立精度を飛躍的に向上させることができる。
(2)また、従来必要であった、アライメント作業における高度の熟練が不要になり、長時間の作業時間を要するという問題が解決できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明のイオン注入装置の一実施の形態を図1を用いて説明する。
図1は、本発明の高周波空洞10の特徴を説明するための一部裁断斜視図である。
【0021】
先ず、本発明の高周波空洞10における、リッジ14及び空洞12の一体型加工の特長について説明する。
近年、5軸のNC工作機械の発達によりかなり多くの製品を一体加工することが可能となってきた。
そこで、銅、アルミブロックから当初より、本発明の高周波空洞10における各電極18内の穴加工18aを行い、それを基準として、電極18外径、ステム16、ベースフランジ19、リッジ14、センターフレームを掘削加工する。
なお、センターフレームについては図3と同様なので、図示は省略する。
【0022】
この方法では、全ての工作精度は、NC工作機械の精度である5乃至25ミクロンとすることができる。
即ち、従来の方法では、上記したように、高周波空洞100(図2参照)の組立精度は±50乃至100ミクロンの誤差が不可避的であったが、これに対して、本発明の高周波空洞10では、組立精度を、5乃至25ミクロンの誤差に、飛躍的に精度を上げることができる。
【0023】
また、一体加工により、高周波空洞10を形成する際に、従来より必要であった、部品をロウ付けし、それをリッジ14にアラインメントしてセットすることが不要になる。
またリッジ14に付いたステム16、電極18を一体加工(一体加工のときは後に分離する)、又は、上下別々にNC工作機械で製作する。
本実施の形態では、高周波空洞10の各構成全てを一体加工するのでは無いため、より複雑な工作が可能となる。
そして、各工作された上下リッジ14をアライメントしセットすることで全てのアライメントが完了する。
【0024】
従って、本発明の高周波空洞10では、組立精度を飛躍的に向上させることができる。
また、従来必要であった、アライメント作業における高度の熟練が不要になり、長時間の作業時間を要するという問題が解決できる。
【0025】
更に、以上の本発明による製作方法は結合部分がなく、電気伝導率が銅やアルミの素材と同じとなるため、電力効率が良いという効果も有する。
また、結合部分がないため、熱伝導率が銅やアルミの素材と同じになるため、熱発散効率が良いく、局所的に温度が上がり電気伝導度が悪化することもない。
【0026】
本発明は上記実施の形態に限定されず、種々の変更が可能である。
上記実施の形態では、電極、ステム、リッジ、センターフレームをNCマシンで掘削加工する例で説明したが、本発明には、局部的に電極、ステム、リッジ、ベースフランジを一体加工した場合、或いは、高周波空洞全体を一体加工した場合も含まれる。
また、本願の高周波空洞の特徴は、一体加工による組立精度向上であり、従って、一体加工法も、NCマシンでの掘削加工に限定されず、他の一体加工法、例えば鋳造加工等の一体加工法一切、その他、精度向上を達成する一体加工法を含むのはもちろんのことである。
【産業上の利用可能性】
【0027】
以上より、本発明の高周波空洞を線形加速器やバンチャー空洞用として、さらに一般産業製品にもこの方法は応用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の高周波空洞の特徴を説明するための一部裁断斜視図である。
【図2】ドリフトチューブ型線形加速器の従来の高周波空洞の内部構造を示す一部裁断斜視図である。
【図3】従来の高周波空洞の問題を説明するための一部裁断斜視図である。
【符号の説明】
【0029】
10:高周波空洞
14:リッジ
16:ステム
18:電極(ドリフトチューブ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電極と、
リッジと、
前記複数の電極をそれぞれ前記リッジに支持するステムと、
前記電極、前記ステム及び前記リッジを固定するセンターフレームと、
前記複数の電極と、前記リッジと、前記ステム及び前記センターフレームを収容する空洞と、
を備えた高周波空洞において、
前記高周波空洞は、一部又は全部が一体型加工により成形されていることを特徴とする高周波空洞。
【請求項2】
前記複数の電極と、前記ステムと、前記ステムを前記リッジに固定するベースフランジとが、一体型加工により成形されていることを特徴とする請求項1に記載の高周波空洞。
【請求項3】
前記複数の電極と、前記ステムと、前記リッジと前記センターフレームとが、一体型加工により成形されていることを特徴とする請求項1に記載の高周波空洞。
【請求項4】
前記複数の電極と、前記ステムと、前記リッジと前記センターフレーム及び前記空洞とが、一体型加工により成形されていることを特徴とする請求項1に記載の高周波空洞。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の高周波空洞を具備したことを特徴とする線形加速器。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれかに記載の高周波空洞を具備したことを特徴とするバンチャー空洞。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−123916(P2012−123916A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−271117(P2010−271117)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【出願人】(508323311)タイム株式会社 (3)
【Fターム(参考)】