説明

高周波融着可能な熱可塑性樹脂組成物

【課題】 新規な高周波融着が可能であり、かつ、長期保存安定性に優れる熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 (A)熱可塑性樹脂 100重量部および(B)分子鎖中に水酸基を有する化合物 0.01〜30重量部からなる高周波融着可能な熱可塑性樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、高周波融着が可能であり、かつ、長期保存安定性に優れる熱可塑性樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】ポリオレフィン系樹脂は、ポリ塩化ビニル樹脂などと異なり、その分子中に極性基を持たないため、マイクロ波や高周波を利用した融着が困難であった。そこで、従来からポリオレフィン樹脂などの無極性樹脂に高周波融着性を付与するために、極性化合物を添加する方法が提案されている。例えば、フェライトなどの電波吸収体を配合および/叉は塗布する方法(特開平6−182876号公報)、液状の極性物質を吸着させた無機多孔質粉を添加する方法(特開平6−228368号公報)、超高分子量ポリエチレンに酸化亜鉛、ベントナイトおよびアルカリ金属若しくはアルカリ土類金属のアルミノケイ酸塩からなる無線周波増感剤からなる群から選択されるものを、吸着水及び/または他の揮発性物質を除去するように処理した無機無線周波増感剤と無線周波感度の向上に適する物質との混合物を無線周波エネルギーに当てる成形品の製造方法(特公平5−42982号公報:欧州特許EP193902A号公報)、N−エチルトルエンスルホンアミドを配合した無線周波エネルギー増感剤と熱可塑性ポリマーとの混合物からなる成形物品の製造方法(特開平2−182419号公報:米国特許US−4840758号公報)、結晶水を有する無機粉末をポリオレフィン樹脂に配合した成形体(特開平2−129243号公報)、アルミノ珪酸ナトリウムと超高分子量ポリエチレンとの組成物(Q.X.Nguyen,R.Gauvin,Y.Belanger;ANTEC '91,p2245-2247 )などが挙げられる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、これらの方法では高周波融着性が未だ不十分であった。また、フェライトを配合する方法では、成形体が着色するという問題があった。本発明は、かかる状況に鑑みてなされたものであり、高周波融着性および長期保存安定性に優れる熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らの検討によると、特定の分子鎖中に水酸基を有する化合物を配合することにより、上記目的を達成しうることを見いだし、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は(A)熱可塑性樹脂 100重量部および(B)分子鎖中に水酸基を有する化合物 0.01〜30重量部からなる高周波融着可能な熱可塑性樹脂組成物を提供するものである。
【0005】
【発明の実施の形態】本発明における(A)熱可塑性樹脂とは、ポリエチレン系樹脂,ポリプロピレン系樹脂,ポリブテン樹脂,ポリメチルペンテン樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンエーテル、ポリイミド等の熱可塑性樹脂をいう。これらの中でも、ポリオレフィン系樹脂の改善効果が著しい。本発明に用いるポリオレフィン系樹脂としては、示差走査型熱量計(DSC)を用いて測定される結晶化エネルギー(△HC )が85J/g以下、とりわけ75J/g以下であるものが好ましい。好ましいポリオレフィン系樹脂の例としては、例えば、密度が0.920g/cm3 以下の低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、シンジオタクチックポリプロピレン、アタクチックポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体などが挙げられる。α−オレフィンとしては、エチレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−ジメチル−1−ペンテン、ビニルシクロペンタン、ビニルシクロヘキサンなど炭素数が12以下のものが用いられる。その共重合割合としては3重量%以上が好ましい。
【0006】一方、(B)分子鎖中に水酸基を有する化合物としては、多価アルコール化合物、末端水酸基含有樹脂、フェノール系樹脂および水酸基含有化合物グラフトポリオレフィン系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0007】本発明に用いる多価アルコール化合物は、グリセリン類、グリコール類およびジオール類を除く化合物であり、具体例としては、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、無水エンネアヘプチトール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、ペンチトール類(リビトール、アラビニトール、D−アラビニトール、L−アラビニトール、D,L−アラビニトール、キシリトールなど)、ヘキシトール類(アリトール、ダルシトール、ガラクチトール、グルシトール、D−グルシトール、L−グルシトール、D,L−グルシトール、D−マンニトール、L−マンニトール、D,L−マンニトール、アリトリトール、D−アリトリトール、L−アリトリトール、D,L−アリトリトール、イジトール、D−イジトール、L−イジトールなど)、テトリトール類(エリトリトール、スレイトール、D−スレイトール、L−スレイトール、D,L−スレイトール)、マルチトール、ラクチトールなどが挙げられる。これらの中でもペンタエリスリトール類、トリメチロールエタンおよびトリメチロールプロパンが好ましい。
【0008】なお、グリセリン類、グリコール類およびジオール類は、ブリードアウトおよびカレンダ加工性などを阻害するので本発明の多価アルコール化合物には含まれない。
【0009】本発明に用いる末端水酸基含有樹脂とは、ポリブタジエン(重合様式は1,2−または1,4−のどちらでもよく、後者の場合は2重結合がシス、トランスのいずれであってもよい)、ポリイソプレン、ブチルゴム、ポリブテン、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体(ブロック、ランダムのいずれでもよい)石油樹脂などの少なくとも一方の末端に水酸基を有する数平均分子量が1万以下の樹脂である。数平均分子量としては、500〜8000が好ましく、特に500〜6000が好ましい。水酸基の含有量を表す水酸基価(KOH mg/g)としては、20以上が好ましく、特に30以上が好適である。
【0010】末端水酸基含有樹脂の具体例としては、例えば、三菱化学社製「ポリテールH」、「ポリテールHA」、出光石油化学社製「エポール」、日本曹達社製「NISSO−PBG−1000」(以上いずれも商品名)などが挙げられる。本発明に用いるフェノール系樹脂は、フェノール類とホルムアルデヒドとの反応により得られる熱硬化性樹脂であり、フェノール類の中でも、特にクレゾールを主原料にしたものはクレゾール樹脂、キシレノールを主原料としたものはキシレノール樹脂と呼ばれることもある。フェノール系樹脂の具体例としては、フェノール、ο−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、3,5−キシレノール、カルバクロール、チモール、α−ナフトール、β−ナフトール、カテコール、レゾルシン、ヒドロキノン、ピロガロール、フロログルシン、アルキルフェノールなどを原料にして得られるビスフェノール系フェノール樹脂、レゾール系フェノール樹脂、オクチルフェノール樹脂、アルキルフェノール系樹脂、ノニルフェノール系樹脂、p−フェニルフェノール樹脂などが挙げられる。これらの中でもアルキルフェノール系樹脂が好ましい。
【0011】水酸基含有化合物グラフトポリオレフィン系樹脂としては、ポリオレフィンに水酸基含有化合物を有機過酸化物と一緒に溶液あるいは押出機中で処理してグラフト反応させることにより得られるものである。該水酸基含有化合物としては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシ(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、さらには一般式が次式で示されるポリアルキレングリコールモノ(メタ)アルコールなどが挙げられる。
CH2 =C(R)COO(A1 O)X (A2 O)Y (A3 O)Z R’(式中、Rは水素またはメチル基、R’は水素または炭素数1〜10のアルキル基、A1 、A2 およびA3 は各々独立した炭素数2〜4のアルキレン基であり、Xは1以上の整数、YおよびZは0または1以上の整数であってX+Y+Z=1〜20を表す。また、A1 O、A2 OおよびA3 Oはいずれも任意の順序でブロックまたはランダムに結合している。)
【0012】これらの中でも、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートおよびポリアルキレングリコールモノ(メタ)アルコールが好ましい。水酸基含有化合物グラフトポリオレフィン系樹脂の具体例としては、「ユーメックス1210」(三洋化成工業社製)が挙げられる。
【0013】本発明の樹脂組成物は、(A)成分100重量部と(B)成分0.01〜30重量部からなるものである。(B)成分は好ましくは0.05〜25重量部であり、とりわけ0.1〜20重量部が好適である。(B)成分の配合割合が0.01重量部未満では高周波融着性が劣る。一方、30重量部を超えると長期保存安定性が劣るので好ましくない。
【0014】本発明の熱可塑性樹脂組成物に対しては、慣用の添加剤(例えば、酸化防止剤、耐候性安定剤、帯電防止剤、滑剤、ブロックキング防止剤、防曇剤、染料、顔料、オイル、ワックス、充填剤等)を本発明の目的を損なわない範囲で適宜量配合できる。
【0015】例えば、このような添加剤の例としては、酸化防止剤として2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、4,4’−チオビス−(6−t−ブチルフェノール)、2,2−メチレン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−1’−ヒドロキシフェニル)プロピネート、4,4’−チオビス−(6−ブチルフェノール)、紫外線吸収剤としてはエチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、2−(2’−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、可塑剤としてフタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、ワックス、流動パラフィン、りん酸エステル、帯電防止剤としてはペンタエリスリットモノステアレート、ソルビタンモノパルミテート、硫酸化オレイン酸、ポリエチレンオキシド、カーボンワックス、滑剤としてエチレンビスステアロアミド、ブチルステアレート等、着色剤としてカーボンブラック、フタロシアニン、キナクリドン、インドリン、アゾ系顔料、酸化チタン、ベンガラ等、充填剤としてグラスファイバー、アスベスト、マイカ、ワラストナイト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、又、他の多くの高分子化合物も本発明の作用効果が阻害されない程度にブレンドすることもできる。
【0016】これらの中でも、分子内にアミノ基、水酸基等に極性基を有する化合物と併用すると本発明の効果が促進される傾向にあり好ましい。
【0017】本発明の熱可塑性樹脂組成物の配合方法は特に制限されるものではなく、公知の方法を使用できる。例えば、ミキシングロール、バンバリミキサーおよびヘンシェル、タンブラー、リボンブレンダー等の混合機で各成分を混合した後、押出機などを用いペレット化する方法等が挙げられる。
【0018】本発明の熱可塑性樹脂組成物のメルトフロレート(MFR;JIS K7210により荷重2.16Kg、温度230℃の条件で測定)については、特に制限されるものはなく、成形法によって選ばれるが、通常の成形に用いられるMFRは、0.1〜300g/10分が適当である。好ましくは、0.2〜200g/10分、特に好ましくは0.3〜150g/10分である。
【0019】本発明の熱可塑性樹脂組成物は、公知の成形法および成形機を用い、成形体とすることができる。また、公知の多層共押出成形機や押出ラミネート成形機およびドライラミネート成形機等を用い、その他の材料を積層することができる。
【0020】
【実施例】以下、本発明を実施例によりさらに詳しく説明する。なお、物性の測定方法を以下に示す。
■結晶化エネルギー(ΔHC
装 置:PERKIN−ELMER社製DSC7型試料重量:約3〜5mg測定方法:試料を0℃〜230℃まで昇温し、5分間保持した後、20℃/分の速度で0℃まで降温し結晶化温度曲線を得た。得られた結晶化温度曲線より結晶化エネルギーを求めた。なお、ポリエチレンの場合の降温速度は10℃/分である。
■MFRJIS K7210に準拠し、タカラ社製メルトインデクサーを用い測定した。
■接着強度試験片(15mm幅)をオリンテック社製引張試験機(RTA−100型)を用いて、引張速度300mm/分の条件で180°剥離強度を求めた。
■長期保存安定性フィルムを温度23℃、湿度50%RHの恒温室に1か月保存した後、目視にて次の3段階で外観変化を評価した。
・・・・ ブリードアウトによる表面のベタツキおよび斑点の発生なし。
・・・・ ベタツキはなく、極く一部に斑点の発生が見られるが使用可。
× ・・・・ ベタツキおよび斑点の発生が著しく使用に耐えない。
また、(A)成分として、下記のものを用いた。
PP1:ホモポリプロピレン(MFR;8.2g/10分、ΔHC =97.5J/g)
PP2:エチレン−プロピレンランダム共重合体(エチレン含有量;4.8重量%、MFR;6.8g/10分、ΔHC =68.2g/10分)
PP3:エチレン−プロピレンランダム共重合体(エチレン含有量;6.8重量%、MFR;7.6g/10分、ΔHC =52.1g/10分)
PE1:低密度ポリエチレン(密度;0.921g/cm3 、MFR;2.8g/10分、ΔHC =81.1g/10分)
PE2:低密度ポリエチレン(密度;0.910g/cm3 、MFR;1.6g/10分、ΔHC =75.3g/10分)
【0021】(B)成分として、次の化合物を用いた。
PET:ペンタエリスリトールJMF:「ジメチロールフェノール」(昭和高分子社製)
PTL:「ポリテールH」(三菱化学社製)
OGP:「ユーメックス1201H」(三洋化成工業社製)
【0022】実施例1〜14、比較例1〜6表1に示す種類および配合量、ならびに安定剤としてジ−t−ブチル−p−クレゾール0.05重量部、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)]プロピオネート0.10重量部およびカルシウムステアレート0.10重量部、紫外線安定剤HALS944を0.4重量部を配合し、川田製作所製スーパーミキサー(SMV20型)を用いて混合し、神戸製鋼所社製二軸押出機(KTX37型)を用いてペレットにした。
【0023】得られたペレットについて、PPは吉井鉄工社製40mmφTダイ押出機を用いてダイス温度230℃の条件で厚さ80μmのフィルムを、PEはプラコ社製40mmφ空冷インフレーション成形機を用いて、ダイス温度180℃、ブローアップ比3.2の条件で厚さ80μmのフィルムをそれぞれ得た。得られた各フィルムを高周波ウエルダー(精電舎電子社製KV3000TA型;周波数40.68MHZ 、出力1KW)を用いて圧力1kg/cm2 の条件で5秒間印加し、高周波シールを行った。得られたシールフィルムについて接着強度および長期保存安定性を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0024】
【表1】


【0025】
【発明の効果】本発明の熱可塑性樹脂樹脂組成物は、高周波熱融着性に優れ、かつ長期保存によるブリードアウトがないので、各種土木分野、各種建築分野、自動車等の車両部品、食品、医療用を含む各種包装材料、家電などの電気部品、各種産業用資材等として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 (A)熱可塑性樹脂 100重量部および(B)分子鎖中に水酸基を有する化合物 0.01〜30重量部からなる高周波融着可能な熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】 (A)熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂である請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】 ポリオレフィン系樹脂が、示差走査型熱量計を用いて測定される結晶化エネルギーが85J/g以下である請求項1または請求項2記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】 (B)分子鎖中に水酸基を有する化合物が、多価アルコール化合物、末端水酸基含有樹脂、フェノール系樹脂および水酸基含有化合物グラフトポリオレフィン系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】 請求項1〜4のいずれか1項記載の熱可塑性樹脂組成物を押出成形して得られる成形体。