説明

高周波誘導加熱アンカー除去装置

【課題】 低コスト、且つ短時間に、しかも確実に施工できるPC鋼撚線の除去方法及びその装置を提供することを課題とする。
【解決手段】 耐荷体に固定連結された1本または複数本のアンボンドPC鋼撚線1の外周に被せる所定直径の円筒状に巻かれた高周波誘導コイル10と、該高周波誘導コイルのコイル端子10cに接続されたリード線11と、高周波誘導コイルに前記リード線を介して高周波電流を印加する所定周波数の高周波電流を発生させる高周波電源装置12とから構成し、建設工事施工後に前記アンボンドPC鋼撚線を地中から取り除く際、前記リード線11を高周波電源装置12に接続し、前記高周波誘導コイル10に高周波電流を印加し、高周波誘導コイル内部に位置する前記アンボンドPC鋼撚線1に発生する誘導電流によりPC鋼撚線を発熱させ、緊張状態のアンボンドPC鋼撚線1を切断させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設工事施工におけるアンカーのPC(prestressed concrete)鋼撚線の除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、土留めなどの建設工事施工において、施工後に、アンボンドPC(prestressed concrete)鋼撚線などの引張り鋼材を土中に残留させることのない除去式アンカーが広く知られている。
【0003】
特許文献1には、複数のアンボンドPC鋼撚線を結束して構成する芯抜き除去方式が開示されている。この発明では、従来複数のアンボンドPC鋼撚線を引き抜き、定着されたPC鋼撚線の縁切りスペースを確保していた際の問題を解決するため、アンボンド加工した大径鋼材を可撓性のスペーサ筒体内に配置したアンカーの定着部を、複数のアンボンド加工を除去したPC鋼撚線で覆い定着部を形成することにより、施工後に中心の大径鋼材を引き抜き、定着されたPC鋼撚線をその引き抜かれた空隙により縁切りさせて、地上からの引き抜き除去を容易にするものである。
【0004】
この方式では、大径の除去空間を確保できるため、比較的小さな引張力で、定着面の縁切りができるメリットがあるが、大径のアンボンドPC鋼材を用いるため、資材費用が嵩む問題があった。
【0005】
また、特許文献2には、アンカー孔内に、アンボンドPC鋼撚線を耐荷体でUターンさせて挿入すると共に、グラウト材(セメントミルクなどの固結材)を充填して、耐荷体とアンボンドPC鋼撚線を地盤中に固定し、アンボンドPC鋼撚線の両端を孔外より所定の荷重のもとで緊張・定着させ、その緊張・定着力によって山留め壁や擁壁を支持する除去式アンカーが従来技術として記載されている。このアンボンドPC鋼撚線のUターン方式では、施工後に地上の定着具を取り外し、アンボンドPC鋼撚線の一方の端部をジャッキやレッカー等で引くことにより、Uターン部を介してアンボンドされているPC鋼撚線を引き抜き除去するものである。
【0006】
この方法では、シース管内に潤滑油を充填して入るものの、PC鋼撚線のUターン部分での摩擦係数が高く、ある程度大きな力を用いなければ抜き取ることができない問題があった。又、中にはUターン部で捩れなどの変形で、ゆるみが無くなり、引き抜けなくなる問題があった。
【0007】
これらの問題を解決するものとして、特許文献3は耐荷体との係留方式に係らず、確実に、且つ短時間でPC鋼撚線を除去できる方法と装置の発明で、予めPC鋼撚線の埋設先端側に、シースを除去したPC鋼撚線と対向する液密にシールされた陰電極を設け、建設工事施工後に、該陰電極に電解質溶液を循環させ、直流電源からPC鋼撚線に陽極を、陰電極に陰極を接続して電圧を印加し、PC鋼撚線をアノード溶解して切断し、引き抜き可能としている。
【0008】
しかし、この方法では、従来の技術に較べて設置の制約もなく確実に除去できる利点があったが、電解質溶液の水槽、送液ポンプ、送液管の配管が必要で、設備規模が比較的大掛かりとなり、コストがかかる問題があった。
【0009】
また、特許文献4には、引張り部材を切断位置において管状に囲むコイルを備えて、そのコイルに5〜30KHzの周波数の電気エネルギーと500〜800Vの電圧を作用させて引張り部材内を渦電流により加熱して切断するアンカーの引張り部材を所定の位置で切断する装置が開示されている。しかし、必要な熱を発生させるため1次巻線としてのコイルのほかに耐高熱性の熱緩衝層と、2次誘導電流を発生させる常磁性の管状の心(担持管体7)を設ける必要があり、構造が複雑であった。
【0010】
特許文献4について以下にさらに詳細に説明する。この明細書の段落7には、「・・・引張り部材の切断位置において囲繞していて、且つ一本或いは多数本の引張り部材内で、誘導により熱を発生させるための電流が供給されるコイルを使用して行われる(スイス特許第603919号公報(特許文献5)参照)。この際、熱緩衝層が設けられているにもかかわらず、供給された熱の大部分が既に熱伝導により引張り部材自体を移動するので、引張り部材の確実な切断を行うのに十分な温度を得ることができないことが分かった。」と記載されている。
すなわち、特許文献4は、その問題を解決するため所定長さの担持管体7(図1参照)の構成を必要としていた。この担持管体7により引張り部材の軸方向への熱伝導は無く、その担持管体7だけ温度が蓄積される構造となる。
【0011】
【特許文献1】特開平9−41371号公報(第2、3頁、第1、2図)
【特許文献2】特願2002−97638号公報(第2頁、第4、6図)
【特許文献3】特願2005−180001号公報(第2頁、第1図)
【特許文献4】特許第3163207号公報(第2頁、第1図)
【特許文献5】特開平6−158656号公報(スイス特許第603919号公報)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、前記の問題に鑑みてなされたもので、前記熱緩衝層及び前記担持管体などを必要とせず、高周波誘導コイルにより低コスト、且つ短時間に、しかも確実に施工できるPC鋼撚線の除去装置を提供することを課題とする。
【0013】
また、耐荷体に連結固定された複数本のアンボンドPC鋼撚線に対して1個の除去装置で一括して同時に切断除去可能な装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するため、本発明の高周波誘導加熱アンカー除去装置は、合成樹脂シースで被覆されたアンボンドPC鋼撚線の埋設先端側にそのPC鋼撚線終端を圧着クリップで固定し、それに連結された耐荷体を備え、その耐荷体を地盤の孔内に埋設し孔内に固結材を注入してアンカー定着部を形成し、PC鋼撚線の基端を地上側で緊張するアースアンカーとして用いた建設工事施工におけるPC鋼撚線の除去装置であって、
前記PC鋼撚線は単条又は複数条からなり、前記耐荷体は前記各線条に前記固結材注入による固定連結を確実に形成するため、前記各線条を挿入する線条溝又は孔と、
前記線条溝又は孔に挿入セットされた各線条を高周波磁界で誘導加熱するための前記各線条を総て内周側に位置するようにして、その線条方向に沿って円筒状に巻かれた高周波誘導コイルと、
地上側に設置された高周波電源装置からツイスト構成の電力供給線を介して、前記高周波誘導コイルに高周波電流を印加するための高周波電流入出力端子と、を備え、
前記高周波誘導コイルのインダクタンスLsと前記高周波電源装置に内蔵された調整用コンデンサーの直列容量Csとから定まる共振周波数f(1/2π(Ls・Cs)1/2)の高周波共振電流をその誘導コイルに流して、前記コイルの円筒状の内周側にある各線条の周方向に誘導される渦電流の2次誘導電流を最大にして線条方向に流れる熱量が少ない短時間内でその線条の破断時間を最小にすることを特徴とする。
【0015】
また、前記高周波誘導コイルの中の磁束の変化により、前記各線条の周方向に誘導される2次誘導電流は、表皮効果により各線条の表面ほど電流密度が多いのを利用して、高周波電源装置から供給させる電力をその表面側より多く集中するように、前記共振周波数fを少なくとも20KHz以上の高い範囲で動作させることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の高周波誘導加熱アンカー除去装置は、合成樹脂シースで被覆されたアンボンドPC鋼撚線を複数条備え、そのPC鋼撚線の埋設先端側で、それらPC鋼撚線終端を圧着グリップに固定し、それに連結された複数の耐荷体を備え、
それら耐荷体を地盤の孔内の複数個所に埋設して、その孔内に固結材を注入して複数箇所のアンカー定着部を形成し、それらPC鋼撚線の基端を地上側で緊張するアースアンカーとして用いた建設工事におけるそれらPC鋼撚線の除去装置であって、
それら耐荷体は、予め耐荷体毎に、それぞれ分けられたPC鋼撚線に対して前記固結材注入による固定連結を確実に形成するため、前記各線条に挿入する複数の線条溝または孔と、
前記複数の耐荷体にそれぞれ設けられ、前記線条溝又は孔に挿入セットされた各線条を高周波磁界で誘導加熱するための前記各線条を内周側に位置するようにして、その線条方向に沿って円筒状に巻かれた高周波誘導コイルと、
前記耐荷体にそれぞれ設けられた前記高周波誘導コイルの入出力端子を総て直列に接続して、地上側に設置された高周波電源装置からツイスト構成の電力供給線を介して、前記高周波誘導コイルに高周波電流を印加するための高周波電流入出力端子と、を備え、
前記複数の高周波誘導コイルの各インダクタンスL,L、・・・と、前記高周波電源装置に内蔵された調整用コンデンサーの直列容量Csとから定まる共振周波数f(1/2π{(L+L・・・・)Cs}1/2)の高周波共振電流をその誘導コイルに流して、前記コイルの円筒状の内周側にある各線条の周方向に誘導される渦電流である2次誘導電流を最大にして、線径方向に流れる熱量が少ない短い時間内でその線条の破断時間を最小にすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の構成は、高周波誘導コイルと高周波電源内蔵のコンデンサーにより定まる共振周波数による高周波電流をそのコイルに流し、コイルで囲繞しているPC鋼撚線に、それぞれその表面に2次誘導電流を最大になるように流すことになるので、短時間でPC鋼撚線は温度上昇し、破断することになる。大電流・短時間なのでPC鋼撚線自体から線方向へ流れ出す熱量は少なくなり、担持管体の必要はなくなる。
さらに、共振周波数fを高くすれば、表皮作用によりそれだけ2次誘導電流は表面側の密度を高くして同一時間の温度上昇が高くなり、より短い時間でPC鋼撚線を切断できる。
従って、本構成は、担持管体を必要としないので、構造が単純化され、製造コストが少なくなる効果がある。しかも、担持管体とPC鋼撚線間の中間領域に発泡ポリウレタンなどの防水用充填或いはモルタル、固結材の侵入を防ぐパッキンなどの構成を考える必要は無い。
【0018】
また、担持管体は熱の発生の効率はよいが、その発生熱はその内側になるPC鋼撚線へ熱伝導されて伝えられなければ効率が低下するので、それらの間の中間領域の媒体を何にするかの構成を定める必要があるが、本発明の構成の熱の発生源はPC鋼撚線自体にあるので、そのような考慮を払う必要はない。
【0019】
本発明によれば、アンカーの埋設先端側で、高周波誘導コイルに流れる高周波電流による誘導電流でPC鋼撚線本体を直接発熱させ、地上との緊張によりプレロードがかかった状態のPC鋼撚線本体の断面積が減少し切断される。このため、切断されたPC鋼撚線本体は、確実に耐荷体と切り離され、また、耐荷体の先端をUターンさせることがないため、ジャッキやクレーンなど強力な引き抜き設備を用いることなくスムーズに、且つ確実に引き抜き除去することができる。このため、引き抜き不能のために地中に放置される問題が起きることを防止することができる。
【0020】
また、誘導加熱コイルの高周波によりPC鋼撚線に発生する高周波で変化する磁束から発生する誘導電流による発熱であるため、アンボンドPC鋼撚線に対する加工は不要であり、さらに、円筒状の高周波誘導コイルの内部を貫通させた複数条のアンボンドPC鋼撚線を同時に発熱させて所望の位置で切断させることができる。このため、施工時間が数十秒で完了し、作業期間を大幅に短縮させることができ、従来、ある程度の工事期間を見込まねばならなかったアンカー除去が、いつでもその場ですぐに完了させることができる。
【0021】
また、円筒状の高周波誘導コイルを設けた耐荷体にアンボンドPC鋼撚線を耐荷体に設けた溝又は孔に挿通させ、切断予定部に高周波誘導コイルを設けた耐荷体を配置させればよいため、アンカーの先端部(耐荷体の直後)に設ることが容易にできるので、地中のPC鋼撚線の、ほとんどを地上に回収除去することができ、地中残留物を最小に留めることができる。その耐荷体が複数であっても同様である。耐荷体が複数の場合はそれだけアースアンカーとしての緊張力を増加させ、施工を確実にする効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1、図2、図3は本発明の第1の実施例の高周波誘導加熱アンカー除去装置の構成を示す模式図である。
【0023】
本発明の高周波誘導加熱アンカー除去装置は、円筒状の高周波誘導コイル10と、高周波誘導コイル10の両端から延長したリード線11と、そのリード線11に高周波電流を供給する高周波電源装置12とから構成される。
【0024】
本発明の高周波誘導加熱アンカー除去装置を用いるには、まず、耐荷体2に先端が固定された複数本のアンボンドPC鋼撚線1が高周波誘導コイル10のコイル内周側を貫通するように、耐荷体2とアンボンドPC鋼撚線1を固結材を注入して固定する前にアンボンドPC鋼撚線1の束の1条を高周波誘導コイル10に挿通させて、耐荷体2の直後に配設しておく。
【0025】
次に、地中に削孔したアンカー孔5内に耐荷体2と共に高周波誘導コイル10が取り付けられたアンボンドPC鋼撚線1を挿入する。その際、高周波誘導コイル10のリード線11を地上まで延出しておき、固結剤(グラウド)6を流し込み固化してアンカー定着部を形成する。
【0026】
次に、アンボンドPC鋼撚線1に所定の緊張力を加え、地上の山止め壁3を押さえる定着金具4に固定する。アンカーで定着された空間で、建設工事を進める。
【0027】
建設工事施工後、地上に高周波電源装置12を設置し、前記リード線11をその高周波電源装置12の出力端子に接続し、地中の高周波誘導コイル10に高周波電流を印加する。
【0028】
高周波誘導コイル10に流された高周波電流によりPC鋼撚線に高周波磁束が発生し、この磁束がアンボンドPC鋼撚線1を通過することによりそのPC鋼撚線の周方向の2次誘導電流によりアンボンドPC鋼撚線1にジュール熱が発生して急激に加熱され、緊張状態にあるアンボンドPC鋼撚線1が切断する。
【0029】
最後に、定着金具4をはずし、先端で切断されたアンボンドPC鋼撚線1を地上から引き抜く。
【0030】
図2は、本発明の高周波誘導コイル10の第1の実施例(耐荷体1段)の配置状態を説明する断面図である。
【0031】
アンボンドPC鋼撚線1は耐荷体2に差し込まれ、先端がクサビ2aで固定されている。この図では、4本のアンボンドPC鋼撚線1を耐荷体2に固定している。図2では手前の2本のみが図示されている。
【0032】
高周波誘導コイル10は、そのコイル内側にアンボンドPC鋼撚線1が挿通された状態で、耐荷体2の直後に配置される。
【0033】
図3は、アンボンドPC鋼撚線1に装着された高周波誘導コイル10の断面図で、(a)は図2のA−A断面図、(b)はアンボンドPC鋼撚線1本のみの場合の断面図である。
【0034】
図3(a)に示すように、この実施の形態では、高周波誘導コイル10の内側に4条のアンボンドPC鋼撚線1を貫通させている。この実施の形態では4条の場合を示したが、さらに多数条であってもよい。
【0035】
また、図3(b)に示すようにアンボンドPC鋼撚線1条毎に高周波誘導コイル10を設けてもよい。例えば、アンカー定着部に複数の耐荷体2を配置する場合2段目以降の耐荷体2に固定されたアンボンドPC鋼撚線1を切断させたい場合、1条ずつ個別に高周波誘導コイルを装着させる。この実施例(第2実施例)については、図6、図7、図8に図示して説明する。
【0036】
図3において、10cはコイル端子、1aはPC鋼撚線、1bはPC鋼撚線1aを被覆する合成樹脂シースである。
【0037】
図4は、本発明の実施の一つの形態の高周波誘導コイル10の断面図である。図に示すように、高周波誘導コイル10は600Vビニル(ゴム)絶縁電線の5.5mm2〜8.0mm2の断面積を有する銅線を10端から20端巻き円筒形状としコイル端にコイル端子10cを接続し、コイルの周囲に粘着ビニールテープなどの絶縁被覆を巻いてコイル形状の崩れを防止した構造である。なお、リード線11は、インダクタンスの影響をキャンセルするためツイスト構成とする。
【0038】
次に、高周波誘導コイル10とその高周波電源装置12の関係について説明する。
【0039】
高周波誘導コイル10のインダクタンスLsと、前記高周波電源装置12に内蔵されている可変調整用コンデンサーの直列容量Csとから定まる共振周波数f(1/2π(Ls・Cs)1/2)の高周波共振電流をその誘導コイル10に流して、前記コイル円筒状の内周側にある各線条の周方向に誘導される2次誘導電流を最大にすることができる。(図5参照)
【0040】
図5には、コイル10がLs=13.9μH、調整用の直列容量Cs=4.8μFとしたとき、共振周波数f=約20KHzとなり、その際の実施例の実験データを示す。なお、PC鋼撚線は4条の場合の実験例である。
【0041】
横軸は高周波電源装置12の出力高周波電流の周波数f(KHz)、縦軸はその周波数fにおける高周波電流(A)/破断時間(S)及び共振回路のインピーダンスの逆数(1/Ω)を示す。
【0042】
図5においては、fが20KHzのときは丁度共振して2次誘導電流を最大にすることができる。
【0043】
表皮効果を利用して、同一時間内になるべく多くの電流をPC鋼撚線の表面近くに流して短時間にその金属表面の温度を上昇させ(PC鋼撚線方向の熱の流れを少なくさせるため)そのPC鋼撚線の破断を容易にさせるためには高周波誘導コイル10のインダクタンスLsを、より小さな値にして、共振周波数fを高い周波数(例えば50KHz或いはそれ以上)にすればよい。
【0044】
次に、図6、7、8に本発明の高周波誘導加熱アンカー除去装置の第2の実施例について説明する。
【0045】
第2実施例は、いずれも耐荷体が複数2個の場合を示す。図において、21、22はそれぞれ第1、第2の耐荷体を示す。23、24はそれぞれ第1及び第2の加熱コイルであり、いずれも図4に示した構造の高周波誘導コイル10である。
【0046】
25、26はそれぞれ第1及び第2の圧着グリップである。27、28はそれぞれ先端キャップである。
【0047】
この実施例ではPC鋼撚線は図7の詳細図に示すように6条の線からなり、3条は第1耐荷体21bの補助支圧板21bと支圧板21aの溝を通過して、それぞれの先端を第1圧着グリップ25に圧着し、3条が線方向へ移動しないように固定してから補助支圧板21b、支圧板21a、先端キャップ27を一体として固定ボルト3組で固定する。
【0048】
第2耐荷体22は、6条とも補助支圧板22bと支圧板22aの溝を通過させて、第2耐荷体22に固定したい3条のみ第2圧着グリップ26で圧着し、その3条のみ線方向へ移動しないように固定し、残りの3条は次の第1耐荷体21に接続される。
【0049】
各支圧板21a、22a、補助支圧板21b、22bはいずれもその中心に摩擦棒21c、22cを有し、固結材が注入されたとき充分に接着固定されるようにする。
【0050】
また、各支圧板21a、22aはそれぞれ所定の長さの摩擦棒21c、22cにして、前記固定ボルト3組で固定されたとき支圧板と補助支圧板の間隔を所定長に維持し、その間にそれぞれ第1、第2の加熱コイル23、24が設けられるようにする。
【0051】
なお、図7にも図示されているように、第2の加熱コイル24は、第2の耐荷体22に固定されたPC鋼撚線3条のみ内周側になるように囲繞して円筒状の第2の加熱コイル24に巻かれている。
【0052】
また、残りのPC鋼撚線3条は、第2耐荷体22では円筒状の第2の加熱コイル24の外側にあり、誘導加熱されることはない。
【0053】
図8は、2段式の第1、第2耐荷体21、22の場合の共振周波数fについて図示している。第1、第2の耐荷体21、22のインダクタンスをL、Lとすると共振周波数fは(1/2π{(L+L)Cs}1/2)となる。LとLの値はなるべく同一の方がよい。高周波共振周波数により第1、第2耐荷体21、22の合計6条のPC鋼撚線は同時に加熱破断される。
【0054】
図9は、本発明の高周波誘導過熱アンカー除去装置の望ましい実施の形態であって、アンカー建て込みに際し削孔用ケーシングを引抜く際に加熱コイルの損傷を防ぐために、第1、第2耐荷体21、22の外周を覆うようにコイル防護管29を被せたものである。コイル防護管29は、アンカー固定のために流しこまれる固結剤6(グラウド)がコイル配設部分にも流れ込み、固定されるように円筒側面に複数の開口窓29aが穿設されたものを用いる。尚、コイル防護管29の材質は、所定の強度を有するものであれば金属に限らず他の材料を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明のPC鋼撚線の除去装置の構成を示す模式図である。
【図2】本発明の高周波誘導コイルの配置状態を説明する断面図である。
【図3】アンボンドPC鋼撚線1に装着された高周波誘導コイル10の断面図で、(a)は図2のA−A断面図、(b)はアンボンドPC鋼撚線1本のみの場合の断面図である。
【図4】本発明の一つの実施の形態の高周波誘導コイル10の断面図である。
【図5】印加周波数と高周波電流、破断時間との関係を示す実験例である。
【図6】本発明の第2の実施例の高周波誘導加熱アンカー装置の模式図である。
【図7】図6の要部の詳細を示す図である。
【図8】耐荷体2段の場合のコイルの接続を示す回路図である。
【図9】コイル防護管を備えた要部の詳細を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
1 アンボンドPC鋼撚線
1a PC鋼撚線
1b 合成樹脂シース
2 耐荷体
2a クサビ
3 山止め壁
4 定着金具
5 アンカー孔
6 固結剤(グラウド)
10 高周波誘導コイル、誘導コイル、コイル
10a コイル銅線
10b 絶縁被覆
10c コイル端子
11 リード線
12 高周波電源装置
13 AC電源(商用電源)
21 第1耐荷体
21a 支圧板
21b 補助支圧板
21c 摩擦棒
22 第2耐荷体
22a 支圧板
22b 補助支圧板
22c 摩擦棒
23 第1の加熱コイル
24 第2の加熱コイル
25 圧着グリップ
26 圧着グリップ
27 先端キャップ
28 先端キャップ
29 コイル防護管
29a 開口窓
31 第1の耐荷体用のPC鋼撚線
32 第2の耐荷体用のPC鋼撚線


【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂シースで被覆されたアンボンドPC鋼撚線の埋設先端側にそのPC鋼撚線終端を圧着クリップで固定し、それに連結された耐荷体を備え、その耐荷体を地盤の孔内に埋設し孔内に固結材を注入してアンカー定着部を形成し、PC鋼撚線の基端を地上側で緊張するアースアンカーとして用いた建設工事施工におけるPC鋼撚線の除去装置であって、
前記PC鋼撚線は単条又は複数条からなり、前記耐荷体は前記各線条に前記固結材注入による固定連結を確実に形成するため、前記各線条を挿入する線条溝又は孔と、
前記線条溝又は孔に挿入セットされた各線条を高周波磁界で誘導加熱するための前記各線条を総て内周側に位置するようにして、その線条方向に沿って円筒状に巻かれた高周波誘導コイルと、
地上側に設置された高周波電源装置からツイスト構成の電力供給線を介して、前記高周波誘導コイルに高周波電流を印加するための高周波電流入出力端子と、を備え、
前記高周波誘導コイルのインダクタンスLsと前記高周波電源装置に内蔵された調整用コンデンサーの直列容量Csとから定まる共振周波数f(1/2π(Ls・Cs)1/2)の高周波共振電流をその誘導コイルに流して、前記コイルの円筒状の内周側にある各線条の周方向に誘導される渦電流の2次誘導電流を最大にして線条方向に流れる熱量が少ない短時間内でその線条の破断時間を最小にすることを特徴とする高周波誘導加熱アンカー除去装置。
【請求項2】
前記高周波誘導コイルの中の磁束の変化により、前記各線条の周方向に誘導される2次誘導電流は、表皮効果により各線条の表面ほど電流密度が多いのを利用して、高周波電源装置から供給させる電力をその表面側より多く集中するように、前記共振周波数fを少なくとも20KHz以上の高い範囲で動作させることを特徴とする請求項1記載の高周波誘導加熱アンカー除去装置。
【請求項3】
合成樹脂シースで被覆されたアンボンドPC鋼撚線を複数条備え、そのPC鋼撚線の埋設先端側で、それらPC鋼撚線終端を圧着グリップに固定し、それに連結された複数の耐荷体を備え、
それら耐荷体を地盤の孔内の複数個所に埋設して、その孔内に固結材を注入して複数箇所のアンカー定着部を形成し、それらPC鋼撚線の基端を地上側で緊張するアースアンカーとして用いた建設工事におけるそれらPC鋼撚線の除去装置であって、
それら耐荷体は、予め耐荷体毎に、それぞれ分けられたPC鋼撚線に対して前記固結材注入による固定連結を確実に形成するため、前記各線条に挿入する複数の線条溝または孔と、
前記複数の耐荷体にそれぞれ設けられ、前記線条溝又は孔に挿入セットされた各線条を高周波磁界で誘導加熱するための前記各線条を内周側に位置するようにして、その線条方向に沿って円筒状に巻かれた高周波誘導コイルと、
前記耐荷体にそれぞれ設けられた前記高周波誘導コイルの入出力端子を総て直列に接続して、地上側に設置された高周波電源装置からツイスト構成の電力供給線を介して、前記高周波誘導コイルに高周波電流を印加するための高周波電流入出力端子と、を備え、
前記複数の高周波誘導コイルの各インダクタンスL、L、・・・と、前記高周波電源装置に内蔵された調整用コンデンサーの直列容量Csとから定まる共振周波数f(1/2π{(L+L・・・・)Cs}1/2)の高周波共振電流をその誘導コイルに流して、前記コイルの円筒状の内周側にある各線条の周方向に誘導される渦電流である2次誘導電流を最大にして、線径方向に流れる熱量が少ない短い時間内でその線条の破断時間を最小にすることを特徴とする高周波誘導加熱アンカー除去装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−88772(P2008−88772A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−273795(P2006−273795)
【出願日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(000235543)飛島建設株式会社 (132)
【Fターム(参考)】