説明

高圧二酸化炭素を用いた無電解メッキ法

【課題】超臨界二酸化炭素などの高圧二酸化炭素と無電解メッキ液とを混合した浴で形成するメッキ膜の品質ばらつきを抑え、これにより量産時においても一定且つ高品質のメッキ膜を形成できる高圧二酸化炭素を用いた無電解メッキ法を提供する。
【解決手段】無電解メッキ液と高圧二酸化炭素とを用いてメッキの対象物をメッキする無電解メッキ法であって、高圧容器内で無電解メッキ液および高圧二酸化炭素をメッキの対象物と接触させて、対象物をメッキすることと、無電解メッキ液からメッキされた対象物を離脱させることと、無電解メッキ液からメッキされた対象物を離脱させた後に、高圧容器から高圧二酸化炭素を排気させることと、を含む高圧二酸化炭素を用いた無電解メッキ法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧二酸化炭素を用いた無電解メッキ法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、超臨界状態の二酸化炭素を用いたメッキ法を開示する。具体的には、超臨界状態の二酸化炭素を電解メッキ液あるいは無電解メッキ液に含浸し、この浴中でメッキの対象物(以下、単に「対象物」という)にメッキ膜を形成する。メッキ反応では水素が発生し、この水素が対象物の表面に残留すると、メッキ膜にピンホールが形成される。この水素は、超臨界状態の二酸化炭素に溶解するので、特許文献1のメッキ法では、メッキ反応中に対象物の表面から二酸化炭素により水素を除去することができ、結果としてピンホールのない平滑なメッキ膜が得られる。特許文献1はさらに、メッキ液に界面活性剤を添加することでメッキ液を乳濁状態とし、その乳濁液の中でメッキ反応を行うことを開示する。これにより、水系のメッキ液と二酸化炭素とを相溶させることができる。
【0003】
【特許文献1】特開2003−321791号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者らは、独自の研究を鋭意に重ねるにつれて、メッキ液に超臨界二酸化炭素を混合した場合、量産化において、以下の問題があることがわかった。すなわち、たとえば、量産化においては多数の対象物を一度に、超臨界二酸化炭素と無電解メッキ液の浴に浸すことになるが、その同一条件で形成したはずの複数のメッキ膜の品質に、製品間ばらつきが生じていた。また、対象物が大型である場合にも、各部位でのメッキ膜の品質にばらつきが生じていた。
【0005】
このメッキ膜の品質ばらつきの原因を探るべくさらなる研究を重ねたところ、本発明者らは、所望のメッキ反応処理後に高圧容器から超臨界二酸化炭素を排気し、その後、高圧容器中のメッキ液からメッキされた対象物を取り出す過程にその原因があることをつきとめ、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明は上記問題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、超臨界二酸化炭素などの高圧二酸化炭素と無電解メッキ液とを混合した浴で形成するメッキ膜の品質ばらつきを抑え、これにより量産時においても一定且つ高品質のメッキ膜を形成できる高圧二酸化炭素を用いた無電解メッキ法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に従えば、無電解メッキ液と高圧二酸化炭素とを用いてメッキの対象物をメッキする無電解メッキ法であって、高圧容器内で無電解メッキ液および高圧二酸化炭素をメッキの対象物と接触させて、対象物をメッキすることと、無電解メッキ液からメッキされた対象物を離脱させることと、無電解メッキ液からメッキされた対象物を離脱させた後に、高圧容器から高圧二酸化炭素を排気させることと、を含む高圧二酸化炭素を用いた無電解メッキ法が提供される。
【0008】
本発明では、メッキ反応が終わると、先ずメッキされた対象物をメッキ液から離脱し、その後に高圧容器から高圧二酸化炭素を排気する。これに対して、従来の方法では、メッキ反応が終わると、メッキ反応後に高圧容器から高圧二酸化炭素を排気し、その後、高圧容器中のメッキ液からメッキされた対象物を取り出す。なぜなら、この手順とすることで、高圧容器からメッキ液を排出しなくて済むので、続けて次のメッキ処理が可能となり、生産性を向上できると考えられるからである。
【0009】
しかしながら、高圧二酸化炭素の圧力は極めて高圧であるため、高圧二酸化炭素の排気には時間がかかる。しかも、急速に減圧すると、たとえばメッキされた対象物に浸透している高圧二酸化炭素などが気泡化し、これによりメッキされた対象物が損傷してしまうので、たとえば5〜10分程度の時間をかける必要がある。また、高圧二酸化炭素は、メッキ液の液面側から抜け易いが、容器の底側に滞留するメッキ液からは抜け難い。そのため、高圧容器の底に置かれた対象物のメッキ反応は、高圧二酸化炭素の排気を開始した後でも続いている。また、たとえば対象物中にメッキ反応の核となる触媒が浸透されていると、対象物の内部において触媒と二酸化炭素とメッキ液とによる反応相が不安定になっているので、この状態で減圧すると、対象物の内部で発泡が生じやすい。その結果、高圧二酸化炭素と無電解メッキ液とを混合した浴で形成するメッキ膜には、高圧二酸化炭素の排気中に、品質ばらつきが生じる。
【0010】
これに対して、本発明では、メッキ反応が終わると、高圧二酸化炭素を除去する前に、メッキ液から対象物を離脱する。なお、対象物は、高圧容器内で、メッキされた対象物を無電解メッキ液から離脱するように移動させることによりメッキ液から離脱しても、無電解メッキ液を高圧容器から排出することによりメッキ液から離脱してもよい。
【0011】
なお、高圧容器内で対象物を無電解メッキ液から離間する位置へ移動する処理は、たとえば対象物を高速で移動させるステージ(放置台)やピストンを使うことで即座に完了できる。また、無電解メッキ液を高圧容器から排出する処理は、吸引排出することで高速に行なうことができる。このように短時間で対象物をメッキ液から離脱することで、高圧容器内のすべての対象物あるいは1つの対象物のすべての領域においてメッキ反応を略同時に終了できる。そして、すべての対象物におけるメッキ反応を終えた状態で高圧二酸化炭素を排気するので、排気に時間がかかってもその排気中に対象物においてメッキ反応は生じない。また、たとえば対象物中にメッキ反応の核となる触媒が浸透されている場合でも、対象物の内部の相を安定化させた状態で高圧二酸化炭素を排気するので、樹脂成形体内部の発泡を抑制できる。その結果、複数の対象物におけるメッキ膜の品質ばらつきを抑え、量産時においても安定した品質のメッキ膜を形成できる。高い密着性を有するメッキ膜を、複数の対象物に対して安定して形成できる。
【0012】
また、高圧容器内で、メッキされた対象物を無電解メッキ液から離脱するように移動させることで対象物をメッキ液から離脱する場合、具体的にはたとえば、対象物を高圧容器内で別の収容容器に収容し、この収容容器が無電解メッキ液の液面より上へ持ち上げられるようにすればよい。なお、収容容器は、多孔化されることでメッキ液等の流出入が可能である。
【0013】
また、無電解メッキ液を高圧容器から排出することによりメッキ液から対象物を離脱する場合、具体的にはたとえば、高圧容器として、メッキの対象物を放置する放置台と、この放置台よりも容器底側に設けられたドレンを有する高圧容器を用い、高圧容器へ高圧二酸化炭素を導入しながら、無電解メッキ液をドレンから排出させればよい。これにより、メッキ液をたとえば1分程度の短い時間で高速に排出したとしても、圧力を保持することで、メッキ液排出中での高圧容器内の高圧二酸化炭素の濃度を保つことができ、メッキされた対象物に浸透している高圧二酸化炭素の気泡化による損傷などを防止できる。生産性を向上できる。
【0014】
本発明において、高圧二酸化炭素は、高圧容器内で超臨界状態とならない圧力でもよい。これにより、高圧二酸化炭素が超臨界状態である場合に比べて減圧開始圧力が低くなるで、高圧二酸化炭素の排気時間(減圧時間)を短くできる。生産性を向上できる。また、高圧二酸化炭素を超臨界状態でない圧力とすることで、高圧二酸化炭素の使用量は、超臨界状態である場合に比べて1/7〜1/8倍になる。
【0015】
本発明者らの実験によると、従来の超臨界二酸化炭素を用いた無電解メッキ法では、均一な乳濁状態を得るために激しく機械攪拌することが必要であるという問題が分かった。この問題は、反応温度が高いほど顕著であった。二酸化炭素の圧力が例えば10〜15MPa程度である場合、40〜50℃以下の低温度であれば二酸化炭素の密度が0.8g/cm程度に高くなるので、高圧容器内で二酸化炭素はメッキ液と均一に混合しやすい。しかし、ニッケルリン無電解メッキ液等の反応温度は60℃以上である。この温度での二酸化炭素の密度は0.7g/cm以下まで低下する。その結果、機械攪拌をしただけでは、高圧二酸化炭素とメッキ液との均一な乳濁状態が得られなくなる。また、高温度による高圧二酸化炭素の密度低下を抑制するために圧力を上げることが考えられるが、実際には、二酸化炭素の圧力が高くなるほど、金属を溶出する反応が大きくなり、メッキが反応しなくなるという問題が発生することが明らかとなった。このように、10〜15MPaの圧力範囲で且つ60〜90℃の温度範囲において、超臨界二酸化炭素とニッケルリンなどの無電解メッキ液との均一な乳濁状態を形成することは困難であった。その結果、浴内の二酸化炭素濃度が不均一となり、複数の対象物の間あるいは1つの対象物の複数の部位の間でメッキ反応のばらつきが生じた。
【0016】
このような二酸化炭素濃度の不均一を解消するためには、たとえば、高圧二酸化炭素を超臨界状態に至らない圧力にするのがよい。これにより、温度を上げても二酸化炭素の密度が、不均一性を生じるほどに低下しなくなる。
【0017】
また、高圧容器内で無電解メッキ液および高圧二酸化炭素をメッキの対象物と接触させる際、高圧容器内でメッキの対象物をメッキ反応が生じる温度に制御し、且つ、高圧容器をメッキ反応が生じない温度に制御してもよい。このメッキ液の温度差により、メッキ液中で高圧二酸化炭素が流動する。これにより、メッキ液中での二酸化炭素の密度差を大きくでき、その密度差に起因する大きな対流を生じさせ、メッキ液中での二酸化炭素の濃度を均一化できる。しかも、この対流により、メッキ液と高圧二酸化炭素とを均一に混合でき、また、高圧容器中の位置の違いによるメッキ膜の品質ばらつきを抑えることができる。しかも、高圧容器をメッキ反応が生じない温度とすることにより、高圧容器の壁面にメッキが成長しなくなる。その結果、高圧容器の壁面で成長したメッキ膜が剥離し、これがメッキ膜に異物として混入したり、または、高圧容器の壁面での反応性が高まってメッキ液が不安定になることが防止される。また、高圧容器のメンテナンスも容易になる。
【0018】
また、高圧容器内で無電解メッキ液および高圧二酸化炭素をメッキの対象物と接触させる際、メッキの対象物を、それを収容する収容容器とともに高圧容器内で上下方向に揺動させてもよい。収容容器の上下への揺動により、メッキ液も上下に移動し、メッキ液中で高圧二酸化炭素が流動する。これにより、メッキ液中での二酸化炭素の濃度を均一化できる。しかも、この対流により、メッキ液と高圧二酸化炭素とを均一に混合できる。また、高圧容器中の位置の違いによるメッキ膜の品質ばらつきを抑えることができる。しかも、対象物を上下に動かすことで、対象物の表面に残存する異物や水素を効果的に除去できる。また、対象物が複雑な形状であったとしても、その対象物が揺動にしたがって動くことになるので、たとえば複雑な形状をした複数の対象物が互いに重なり合うように設置されたとしても、メッキ膜がつきまわらない場所が発生しなくなる。
【0019】
なお、これらの高圧二酸化炭素を超臨界状態に至らない程度の高圧状態に維持したり、攪拌したりすることにより、以下の効果も生じる。すなわち、多数の複雑な形状の成形品を一度にメッキ処理する場合、機械攪拌だけでは二酸化炭素濃度が不均一になりやすく、メッキつきまわりの悪化する対象品や部位が発生し、歩留まりが低下した。これを防止するためには、複数の対象物の間に適当な間隔を設ける必要が生じ、その調整などに手間がかかった。これに対して、高圧二酸化炭素を超臨界状態に至らない高圧状態に調整したり、攪拌したりすると、機械攪拌だけでは均一な膜を形成することが難しかった部位にまで高圧二酸化炭素が行き渡り、歩留まりを向上することができた。
【0020】
また、これらのメッキ液と高圧二酸化炭素とを混合する技術は、高圧二酸化炭素が超臨界二酸化炭素の場合でも採用でき、メッキ液と高圧二酸化炭素とをより均一に混合できる。
【0021】
本発明において、メッキの対象物として、金属微粒子が浸透した樹脂の成形体を用いてもよい。樹脂の成形体に金属微粒子を浸透することで、無電解メッキができる。しかも、高圧二酸化炭素とともにメッキ液が成形体内へ浸透して、金属微粒子をメッキ触媒核としてメッキ膜が成長するので、高い密着強度を有するメッキ膜を形成できる。
【0022】
また、触媒である金属微粒子が浸透した成形品に無電解メッキを施した場合、高圧二酸化炭素の排気期間において、次の問題が発生することが明らかとなった。上述したように、メッキ液の液面近くの成形品と底に近い成形品とでは、メッキ液からの高圧二酸化炭素の排気速度が異なる。そのため、減圧時には、排気されにくい場所(容器の底に近い場所)に配置された成形品またはその部位では、メッキ密着性が低下する問題が発生した。また、成形品内部でメッキ反応が生じている最中においては、樹脂内部で二酸化炭素とメッキ液とメッキ反応核の相が不安定となっているので、高圧二酸化炭素を排気により減圧した場合、発泡しやすいことが分かった。本発明では、メッキ反応を停止させてから減圧するので、成形品での反応停止時間を安定化できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、超臨界二酸化炭素などの高圧二酸化炭素と無電解メッキ液とを混合した浴を用いて形成するメッキ膜の品質ばらつきを抑え、これにより量産時においても安定した品質のメッキ膜を形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態に係る高圧二酸化炭素を用いた無電解メッキ法を、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【実施例1】
【0025】
本実施例では、高圧二酸化炭素を用いた無電解メッキ法を、成形品の製造方法の一部として説明する。まず、図1の射出成形装置を用いて、射出成形時に高圧二酸化炭素を用いて、金属微粒子が浸透した樹脂の成形体を形成し、次に、図2の無電解メッキ装置を用いて、高圧二酸化炭素雰囲気にてその成形体にメッキ膜を形成した。
【0026】
図1の射出成形装置は、2本の可塑化シリンダ10,18を有し、成形品の表皮(表皮部)と内皮(内部)をそれぞれの可塑化シリンダ10,18で打ち分けるサンドイッチ射出成形機である。表皮を形成する可塑化シリンダ10には、金属錯体およびフッソ化合物の助剤をそれぞれ飽和溶解度以下で溶解させた高圧二酸化炭素が導入(供給)され、これらが溶融樹脂に溶解する。高圧二酸化炭素等と溶融樹脂とは、可塑化スクリュー34により混練される。金属錯体は、溶融樹脂の熱により金属微粒子へ変成する。成形時には、まず、スクリュー34により、この表皮を形成する可塑化スクリュー10から金型30,33へ溶融樹脂を射出し、次に、スクリュー19により、内皮を形成する可塑化スクリュー18から金型30,33へ溶融樹脂を射出する。これにより、金型30,33内に射出成形される熱可塑性樹脂の表面近傍に、メッキ膜の核触媒となる金属微粒子が偏析した。金属微粒子あるいは金属触媒が表皮の外側近傍にのみに浸透したサンドイッチ成形品を得た。
【0027】
なお、本実施例では、図1の射出成形装置において、溶融樹脂に導入される高圧二酸化炭素には、常温(24〜26℃)且つ15MPaの圧力の液体の二酸化炭素を用いた。高圧二酸化炭素に溶解させる金属錯体としては、ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)金属錯体を用いた。また、高圧二酸化炭素に溶解させる助剤としては、フッソ化合物であるPerfluorotripentylamine(分子式 C1836、シンクエスト・ラボラトリー製、分子量:821.1、沸点:220℃)を用いた。熱可塑性樹脂としては、ガラス繊維15%入りのポリアミド6(ナイロン6、三菱エンジニアリングプラスチックス製、ノバミッドGH10)を用いた。
【0028】
図2の無電解メッキ装置は、この成形品の表面に、無電解メッキ法によりメッキ膜を形成する。無電解メッキは高圧二酸化炭素雰囲気で行った。高圧二酸化炭素雰囲気で無電解メッキを行うことで、成形品の表層近傍の内部(金属微粒子あるいは金属触媒)からメッキが成長し、密着性の高いメッキ膜が形成できた。以下、各装置および各工程について詳しく説明する。
【0029】
[射出成形装置]
図1は、実施例1で用いたプラスチック射出成形装置の概略構成を示す。このプラスチック射出成形装置は、サンドイッチ射出成形機部201と、高圧二酸化炭素供給部202とから構成される。射出成形機部201は、射出ユニット204と、型締めユニット205とからなる。
【0030】
型締めユニット205は、可動プラテン32’と、可動プラテン32’に取り付けられた可動金型30と、固定プラテン32と、固定プラテン32に取り付けられた固定金型33とから構成される。可動金型30が固定金型33に突き当たることにより、2個の板状のキャビティ29、29’が形成される。また、この射出成形機部201では、図示しない電動トグル型締め機構の動きに連動して、可動プラテン32’および可動金型30が図面中で上下方向へ移動し、これにより金型30,33が開閉する。
【0031】
射出ユニット204は、高圧二酸化炭素を溶解させて、成形品の表皮を射出する可塑化シリンダー10と、内皮を形成する可塑化シリンダー18とから構成される。可塑化シリンダー10の第一のスクリュー34を前進させて外皮の溶融樹脂を射出し、スクリュー切り替えバルブ31により第二のスクリュー19を選択させて第二のスクリュー19から金型30,33への経路を開き、第二のスクリュー19の第二のスクリュー19を前進させて内皮の溶融樹脂を射出する。
【0032】
また、可塑化シリンダー10内のスクリュー34は、第一のベント部11および第二のベント部12を有する。ホッパー28から可塑化シリンダー10へ供給された図示しない樹脂ペレットは、可塑化シリンダー10内で加圧可塑化される。可塑化溶融した樹脂は、計量時のスクリュー34の回転により、可塑化シリンダー10の先端側へ移動する。この移動中に、溶融樹脂は、2箇所のベント部11,12において、物理的に減圧される。
【0033】
可塑化計量中の任意のタイミングで、高圧二酸化炭素導入機構7のピストン8(図中右)が上昇し、同時に高圧二酸化炭素供給部202から高圧二酸化炭素およびそれに溶解した材料が可塑化シリンダー10へ導入(供給)される。これにより、第一のベント部11において減圧された溶融樹脂に、高圧二酸化炭素およびそれに溶解した材料(金属錯体および助剤)が導入される。なお、高圧二酸化炭素導入機構7は、高圧二酸化炭素に溶解する金属錯体が、樹脂接触前(導入前)に熱分解してしまうことを抑制するため、図示しない冷却回路を流通する冷却水により30℃に保持される。
【0034】
高圧二酸化炭素およびそれに溶解した材料(金属錯体および助剤)が導入された溶融樹脂は、スクリュー34の回転により混練されながら、第一のベント部11と第二のベント部12との間において再び加圧される。金属錯体および助剤は高圧二酸化炭素とともに溶融樹脂内に分散する。また、金属錯体は、溶融樹脂の熱により金属微粒子へ変成する。
【0035】
その後、溶融樹脂は、第二のベント部12で減圧される。この減圧により、高圧二酸化炭素が減圧され、高圧二酸化炭素に溶解していた材料は過飽和状態となって溶融樹脂内に析出する。エアーオペレートバルブ39を開放すると、減圧されてガス化した高圧二酸化炭素は、フィルター23を通過し、ガス化した状態でトラップ容器16および真空ポンプ15を介して、大気排気される。なお、第二のベント部12は、図示しない冷却回路を流通する冷却水により60℃に保持される。これにより、溶融樹脂内に分散する金属錯体の昇華が抑制される。なお、各ベント部11,12の樹脂内圧は、樹脂内圧センサー14,13により監視されている。
【0036】
高圧二酸化炭素供給装置部202は、可塑化シリンダー10内の溶融樹脂へ導入する高圧二酸化炭素に、金属錯体および助剤を溶解する。そして、図1に示すように、3台の公知のシリンジポンプ1、1’、1”と、二酸化炭素ボンベ17と、2台の溶解槽6,6’と、成形機部201と連動して自動で開閉する6台のエアーオペレートバルブ4、4’、4”、5、5’、5”と、3個の逆止弁22、22’、22”とから構成される。
【0037】
二酸化炭素ボンベ17の高圧二酸化炭素は、次の手順により各シリンジポンプ1、1’、1”へ供給される。手動バルブ26を開放し、供給側エアーオペレートバルブ5、5’、5”を閉鎖し、さらに吸引側エアーオペレートバルブ4、4’、4”を開放した状態で、ポンプ1、1’、1”内の図示しないピストンを後退させる。これにより、二酸化炭素ボンベ17の高圧二酸化炭素は、フィルター27を通過して各シリンジポンプ1、1’、1”内へ吸引される。また、シリンジポンプ1、1’、1”のヘッドは、チラーにより冷却されている。したがって、高圧二酸化炭素は、10℃に冷却された液体の二酸化炭素として吸引される。高圧二酸化炭素は、温度が低い液体の二酸化炭素として計量した方が密度が高いので、温度が高くて気体となった二酸化炭素として計量する場合より正確に計測できる。そして、供給量は安定する。高圧二酸化炭素の各シリンジポンプ1、1’、1”への補給は、射出成形毎(成形ショット毎)に実施される。吸引後、各シリンジポンプ1、1’、1”は、ピストンを前進させて、高圧二酸化炭素を共通の所定の圧力にする。
【0038】
成形機部201への高圧二酸化炭素の供給(可塑化シリンダ10への高圧二酸化炭素の導入)は、吸引側エアーオペレートバルブ4〜4”が閉鎖され、供給側エアーオペレートバルブ5〜5”が開放された状態にて行われる。可塑化計量中に成形機部201が出力するトリガー信号を基準として、図示しない遅延タイマーの所定の計測時間後に、3台のシリンジポンプ1、1’、1”は、互いに独立した制御により、一定流量にて一定時間駆動する。
【0039】
これにより、第一の溶解槽6に過飽和状態にて仕込まれた材料を溶解した高圧二酸化炭素は、シリンジポンプ1の駆動により送りだされ、第二の溶解槽6’の材料も同様にシリンジポンプ1’の駆動により送りだされ、材料を含まない高圧二酸化炭素がシリンジポンプ1”から送り出される。この3つの二酸化炭素は、逆止弁22、22’、22”を経て合流する。3つの二酸化炭素は、同圧力とされていることから、それぞれの流量の比で混合される。この混合流体は、配管3を通じて可塑化シリンダ10へ供給される。なお、本発明においては、異なる材料が溶解した複数の高圧二酸化炭素を合流させた後、配管3の途中においてマグネチックスタラー等で機械攪拌したり、攪拌機能を有する配管2を用いて攪拌してもよい。
【0040】
これらの材料が溶解した高圧二酸化炭素が流動を開始する前後の任意のタイミングにおいて、成形機部201では、高圧二酸化炭素導入機構7のピストン8が上昇する。これにより、高圧二酸化炭素供給装置部202で生成された二酸化炭素は、第一のベント部11で減圧された溶融樹脂に供給(導入)される。また、可塑化シリンダ10へ供給される高圧二酸化炭素の圧力は、背圧弁9により一定に制御される。これにより、二酸化炭素は、一定量で供給される。なお、背圧弁25から成形機部201間の圧力は、圧力計25でモニターされている。二酸化炭素が安定に供給されている場合には、ピストン8の開期間およびその前後の閉期間において、この圧力は安定する。
【0041】
2台の溶解槽6、6’は、それぞれ10ml、100mlである。第一の溶解槽6には金属錯体を仕込んだ。第二の溶解槽6’には助剤を仕込んだ。両溶解槽6、6’ともに、下部にマグネチックスタラー24、24’を有し、この駆動により攪拌子35、35’が300rpmで常時回転する。これにより、溶解槽6、6’の内部の材料濃度は均一に維持される。また、溶解槽6、6’には、過飽和状態が常に維持されるように十分な量の材料が仕込まれている。なお、材料の仕込み作業は、4個の手動弁20、21’、21、21’を閉鎖し、さらに図示しない手動弁で溶解槽6、6’の圧力を開放した状態で行なえる。飽和状態で溶解した両材料は、高圧二酸化炭素に飽和濃度で溶解し、シリンジポンプ1、1’の駆動によりフィルター36、36’を通過して成形機部201へ供給される。
【0042】
可塑化シリンダ10への高圧二酸化炭素などの供給を開始してから、所定の時間が経過すると、成形機部201の高圧二酸化炭素導入機構7のピストンが閉鎖する。また、それと相前後して、供給タイマーの計測時間に基づいて、3台のシリンジポンプ1、1’、1”は停止する。これにより、高圧二酸化炭素などが所定量にて可塑化シリンダ10内の溶融樹脂へ供給できる。
【0043】
供給を停止すると、上記した方法により、各シリンジポンプ1、1’、1”には二酸化炭素が補給される。供給側エアーオペレートバルブ5、5’、5”を閉鎖し、吸引側バルブ4、4’、4”を開放し、さらに各シリンジポンプ1、1’、1”のピストンを後退させる。これにより、シリンジポンプ1、1’、1”内が減圧されて、ポンプ1、1’、1”に液体の高圧二酸化炭素が充填される。吸引側エアーオペレートバルブ4、4’、4”が閉鎖した後、シリンジポンプ1、1’、1”はピストンを前進させ、ポンプ1、1’、1”を所定の圧力まで昇圧する。
【0044】
なお、本発明においてこの高圧二酸化炭素の温度および圧力は任意であるが、本実施例において圧力を15MPaとした。各溶解槽6,6’および配管3の温度は常温とした。ポンプ1、1’、1”の圧力、各溶解槽6、6’から背圧弁9までの圧力、並びに、背圧弁9から高圧二酸化炭素導入機構7までの圧力は、15MPaと一定に保持され、この状態において高圧二酸化炭素供給部202は、成形機部201からのトリガー信号を待機する。高圧二酸化炭素供給部202は、可塑化計量時のトリガー信号毎に、高圧二酸化炭素を一定量供給するシステムである。
【0045】
[射出成形方法]
まず、次のようにして樹脂材料を可塑化した。樹脂材料となるペレット(不図示)は乾燥機(不図示)にて乾燥脱水された後、図1中のホッパー28、(シリンダー18のホッパーは不図示)から可塑化シリンダー10,18内へ供給される。2台の可塑化シリンダー10、18は図示しないバンドヒーターによって240℃に昇温されており、樹脂ペレットは、従来の射出成形装置での可塑化処理と同様にスクリュー34、19の回転によりスクリュー溝内部を通り、可塑化溶融されながらスクリュー34、19の前方方向(キャビティ側)へ押し出される。
【0046】
内皮を形成する可塑化シリンダー18では、所定の射出分を計量した後、スクリュー19が停止する。外皮を形成する可塑化シリンダー10では、スクリュー34による計量中に、第一のベント部11に、金属錯体および助剤が未飽和濃度で混合された高圧二酸化炭素が導入される。この導入処理では、高圧二酸化炭素導入機構7のピストン8が上昇すると同時に、トリガー信号に基づいて3台のシリンジポンプ1,1’,1”がそれぞれの所定の流量制御により一定時間動作する。
【0047】
本実施例では、金属錯体が飽和濃度で溶解した第一のシリンジポンプ1の流量と、助剤が飽和濃度で溶解した第二のシリンジポンプ1’の流量と、これらの溶解材料が溶解していない第三のシリンジポンプ1”の流量との比は、1:4:5とした。この3つの高圧二酸化炭素が混合されるため、金属錯体および助剤の濃度は希釈され、これらの溶解材料は、未飽和濃度で高圧二酸化炭素に混合されて、溶融樹脂へ導入される。また、配管3などの温度が常温である一方で溶融樹脂が240度と高温であるため、高圧二酸化炭素は可塑化シリンダ10に導入されると膨張する。高圧二酸化炭素が膨張すると、金属錯体および助剤が析出し易くなるが、これらを未飽和濃度としているため、そのような導入時点での析出を防止できる。そのため、溶融樹脂には、上記未飽和濃度、流量および導入時間で判断される量の金属錯体および助剤が高圧二酸化炭素に溶解した状態のまま安定的に導入される。
【0048】
そして、本実施例での成形品の表皮の重量はおよそ20gであり、調整された高圧二酸化炭素は成形品の3wt%である約0.6gで浸透させた。また、この実施例での圧力および温度における高圧二酸化炭素の比重は約0.8g/cmであり、1ショットあたりの混合流体の送り量は0.5mlとした。この場合、金属錯体が溶解した二酸化炭素は0.05ml、フッソ化合物の助剤が溶解した二酸化炭素は0.2ml、二酸化炭素のみは0.25mlにて溶融樹脂へ供給される。
【0049】
なお、本発明者らが抽出法や可視化観察等により常温且つ15MPaの高圧二酸化炭素に対する溶解材料の溶解度を測定したところ、金属錯体では30g/L(リットル)(容量10mlの溶解槽6では0.3gに相当)、フッソ化合物では200g/L(容量100mlの溶解槽6’では20gに相当)であった。各溶解槽6、6’には、それら溶解度に相当する量の10倍の量の溶解材料を仕込んだ。また、1ショットあたりの高圧二酸化炭素に溶解させて導入する溶解材料の使用量は、金属錯体では1.5mg、助剤では40mgとなる。
【0050】
高圧二酸化炭素とともに金属錯体および助剤が導入された溶融樹脂はスクリュー34により混練され、高圧二酸化炭素、金属錯体および助剤は溶融樹脂内に分散する。この状態で、溶融樹脂は、第二のベント部12へ到達する。第二のベント部12において減圧されると、二酸化炭素はガス化する。
【0051】
溶融樹脂に高圧二酸化炭素を導入した後、本実施例では、さらに計量中にエアーオペレートバルブ39を開放した。これにより、ガス化した二酸化炭素は、冷却されたフィルター23およびバッファータンク16を経て、真空ポンプ15から排気される。これにより、成形品の表面を悪化させる一因になる二酸化炭素を排気できるとともに、樹脂内に残留するガスも排気できる。一方、金属錯体は熱分解して金属微粒子へ変成するので、昇華し難くなり、溶融樹脂内に残留する。また、フッソ化合物は二酸化炭素に不溶となり、また、樹脂内部に分解せずに分散しているため、樹脂の温度がその沸点をこえているにもかかわらず、そのほとんどが残存する。これにより、金属錯体および助剤は、樹脂内部に均一に分散して残留する。
【0052】
なお、本発明では、必ずしも高圧二酸化炭素を排気する必要はない。二酸化炭素を含む溶融樹脂を射出成形した場合、成形中に、成形品の表面から高圧二酸化炭素がガス化して排気される。この排気により、二酸化炭素に溶解していた材料を、成形品の表面部に偏析できる。
【0053】
表皮を形成するスクリュー34において可塑化計量が完了した後、この金属微粒子および助剤が分散した溶融樹脂を、金型キャビティ29、29’内に高速で射出充填した。樹脂内部の金属微粒子および助剤を噴水効果により成形品の表面に偏析させるため、および表皮を薄くするためには、射出速度を高速にすることが望ましい。望ましくは150mm/s〜1000mm/sであり、本実施例では300mm/sで射出充填した。この表皮の溶融樹脂を射出充填した後、切り替えバルブ31を切り替え、内皮を成形するスクリュー19を前進させて、サンドイッチ成形品を形成した。
【0054】
[メッキ装置]
本発明で用いることができる無電解メッキ液は、pH1〜6程度の酸性浴で働くメッキ液であることが必要である。無電解メッキ液には二酸化炭素が含浸されて、この二酸化炭素の含浸によりpHが低下するので、アルカリ浴では安定とならないからである。具体的には、次亜燐酸ナトリウムを還元剤として用いるニッケルリンメッキ液、スズメッキ液、パラジウムメッキ液などを用いることができる。本実施例ではニッケルリンメッキ液を用いた。
【0055】
実施例1で用いた無電解メッキ装置の概略構成を図2に示す。このメッキ装置は、高圧二酸化炭素雰囲気にて無電解メッキを行う。高圧二酸化炭素の供給装置208と、高圧メッキ容器209と、排気装置210とから構成される。
【0056】
二酸化炭素ボンベ73の二酸化炭素は、手動バルブ74を通過した後に図示しないバッファー容器でガス化され、ポンプ61で昇圧され、減圧弁75の設定圧力とされる。本実施例では、設定圧力を15MPaとした。高圧メッキ容器209への供給は、自動のエアーオペレートバルブ77により制御される。
【0057】
高圧メッキ容器209は、主に、図示しない温調水により85℃に温調されたメッキステージ59と、図示しない冷却水により25℃に保持された容器本体60と、容器蓋63とを有する。メッキステージ59と容器本体60との隙間は、シール64により高圧シールされ、メッキステージ59は上下方向(図2では左右方向)へ駆動可能である。メッキステージ59はステージ支持体62と連結し、ステージ支持体62はボールリティーナ67により容器本体支持体66と調芯されている。この構造により、メッキステージ59が上下に駆動する際に、シール64に偏加重が作用して破損してしまうことを抑制できる。
【0058】
容器本体60には、その内容積の半分程度の量のニッケルリンのメッキ液69を満たした。メッキステージ59の上には、サンプル容器68を載置した。サンプル容器68は、図示しない成形品を多数収容する。サンプル容器68は、メッキされ難いテフロン(登録商標)製である。また、サンプル容器68の側面には多数の孔が形成されており、サンプル容器68の内部へメッキ液が循環しやすくなっている。
【0059】
容器本体60は低温に制御されており、容器本体60の壁面に接する付近のメッキ液69は低温となり、この付近のメッキ液69に浸透した高圧二酸化炭素の密度は高くなる。一方、メッキステージ59はメッキ反応温度に制御されており、メッキステージ59の周囲のメッキ液69は高温となり、この周囲のメッキ液69に浸透した高圧二酸化炭素の密度は低くなる。このような密度差が生じると、高圧二酸化炭素は大きく対流する。この対流により、メッキ液および高圧二酸化炭素が攪拌される。また、容器本体60は、メッキ反応温度より低い温度に制御されているので、60℃以上でメッキ反応がおきるニッケルリンのメッキ膜は成長しない。容器本体60のメンテナンスは容易である。
【0060】
さらに、本発明の高圧メッキ容器209では、メッキ時に、モーターのカム91の回転にしたがってステージ支持体62が上下へ揺動した。メッキステージ59およびサンプル容器68は、このステージ支持体62の揺動に追従して、上下へ揺動する。これにより、サンプル容器68に収容されているサンプル成形品が攪拌され、サンプル容器68内に新たに入り込んた高圧二酸化炭素およびメッキ液は、成形品サンプルの全体に対して均等に接触できる。
【0061】
また、本発明のメッキ容器209では、SUS製のメッキステージ59にメッキがつきまわらないように、メッキ液69とメッキステージ59の間にメッキ反応とは逆の電解をかけた。無電解メッキ(化学メッキ)反応は、硫酸ニッケル等の金属イオンに還元剤の酸化反応により電子が供与され金属粒子が析出する反応である。対象物に電子が供与されるとメッキが成長する。そのため、メッキ液中に浸漬するように電極72を設け、直流電源90により、この電極72とメッキステージ59との間に電圧を印加した。また、直流電源90は、メッキステージ59から電子が放出される向きの電流を流した。メッキ反応に相当する電界をかけることで、メッキステージ59でのメッキ成長が抑制される。なお、電極72は、容器本体60と絶縁されている。
【0062】
所定のメッキ反応処理後、本発明のメッキ装置では、メッキ液69の浴中からメッキステージ59を出した。具体的には、図3に示すように、エアーシリンダー86に内蔵されたピストン87を上昇させ、このピストン87でステージ支持体62およびメッキステージ59を持ち上げて、メッキステージ59をメッキ液69の液面より上に上昇させた。それにより、成形品サンプルの周囲にはメッキ液がほとんど残存しなくなり、成形品サンプルでのメッキ成長が停止する。
【0063】
メッキ液中の高圧二酸化炭素は、液面に近いところから排気される。そのため、メッキ液に深く沈んだ成形品サンプルと、液面に近い成形品サンプルとでは、高圧二酸化炭素の排気速度が異なる。この状況下では、メッキ液と成形体との界面で発生するストレスが変化し、その結果、メッキ膜の密着性にばらつきが生じるという問題があった。本発明の方法では、排気前に事前に成形品サンプルをメッキ液から取り出しているので、成形品サンプルの周囲にメッキ液が残存しておらず、成形品サンプルの内部からの高圧二酸化炭素の排気にばらつきが生じにくい。よって複数の成形品サンプルの間で、メッキ膜の密着性が安定する。
【0064】
本発明において、高圧二酸化炭素の排気は、排気装置210で行う。高圧二酸化炭素導入時および無電解メッキ時には、エアーオペレートバルブ83は開放されている。また、背圧弁79の調整により、圧力計78の表示が常時15MPaになるようにした。また、高圧二酸化炭素の排気時は、メッキステージ59が上昇した後、自動のエアーオペレートバルブ80が開放される。高圧メッキ容器209内の二酸化炭素は、減圧弁81により減圧され、流量計84の制御により任意の流量にて排気される。減圧速度を制御することにより、樹脂の発泡等による物性低下を抑制できる。圧力計82の表示が1MPaになるまでこの減圧速度制御により排気した後、自動のバルブ83を開放する。これにより、高圧メッキ容器209内は大気開放される。排気された二酸化炭素は、回収容器85でトラップ容器89にてメッキ液と分離され、排気口88を通り、再利用のために回収される。高圧二酸化炭素とともに排出された一部のメッキ液およびアルコールは、トラップ容器89に回収される。なお、この排気処理には、たとえば1分程度の時間がかかった。
【0065】
[メッキ方法]
本実施例で成形した成形品に、図2に示す無電解メッキ装置を用いて無電解メッキ膜を形成した。無電解メッキ液は、アルコール(エタノール)を40vol%含有するニッケルリンメッキ液とした。アルコールを添加することで、メッキ液と二酸化炭素との親和性が改善され、メッキ液の表面張力を低減し、メッキ液の樹脂内部への浸透が促進される。
【0066】
まず、多数の成形品をサンプル容器68に収容し、このサンプル容器68を、メッキ液が入れられたメッキ容器209に収容した。サンプル容器68は、図示しない温水により85℃に温調されたメッキステージ59に載置した。成形品にはあらかじめ50℃の余熱を与えた。その後、クラッチ71を勘合して容器蓋63を閉め、自動バルブ77を開放し、高圧二酸化炭素を導入した。高圧二酸化炭素が導入されると、メッキ液では、その温度差に起因して高圧二酸化炭素に密度差が生じ、高圧二酸化炭素およびメッキ液は激しく対流する。また、カム91が回転し、ステージ支持体62およびメッキステージ59は一定の周期で上下に揺動した。
【0067】
これにより、高圧二酸化炭素とメッキ液とは、均一に混合される。また、サンプル容器68内には常に新たな高圧二酸化炭素およびメッキ液が入り込み、この均質な高圧二酸化炭素およびメッキ液が複数の成形品サンプルの全面と均一に接触する。高圧二酸化炭素とともに、メッキ液は、複数の成形品サンプルの全面からそれらの内部へ浸透する。
【0068】
成形品の内部へ浸透したメッキ液は、成形品とともに、メッキステージ59からの熱伝達により温度が上昇する。メッキ液は、そのメッキ反応温度以上となると、メッキ反応を開始する。それにより、メッキ膜が、成形品に分散する金属微粒子をメッキ触媒核として成長する。成形品の表面近傍の内部からメッキ膜が成長し始めるため、高い密着性を有するメッキ膜が形成される。
【0069】
なお、金属錯体の助剤として成形品に浸透させたフッソ化合物は、メッキ反応時に、成形品の内部へ浸透した高圧二酸化炭素に溶解し、成形品から抽出される。濡れ性およびメッキ密着性に悪影響を及ぼすフッソ化合物は、成形品の温度がメッキ反応温度以上になる前に、成形品の表面部から排出される。また、フッソ化合物が取り除かれることで、成形品の表面部には多数の微細隙間が形成されるので、高圧二酸化炭素およびメッキ液は、成形品の内部深くへさらに浸透できる。
【0070】
所定のメッキ膜形成処理により、成形品の表面にメッキ膜を形成した後、図3に示すように、エアーシリンダー86のピストン87を上昇させ、メッキステージ支持体62およびメッキステージ59とともに、サンプル容器68およびその内部に収容された図示しない成形品は、メッキ液69の外へ出される。成形品はメッキ液69から離脱され、メッキ反応が終了する。すなわち、同時にメッキ処理が施される複数の成形品では、略同時に且つ即座にメッキ反応が終了する。
【0071】
その後、自動エアーオペレートバルブ80を開放する。容器209内の二酸化炭素は、1MPaの圧力差で緩やかに流量制御されつつ排気される。その後、バルブ83を開き、二酸化炭素を容器209から完全に排気し、容器209から成形品を取り出した。また、この成形品の表面に、さらに、常圧にて、公知の電解メッキ法によりCu電解メッキ膜を40μmの厚さで形成し、公知のメッキ法によりニッケルメッキ膜を1μmの厚さで形成した。
【0072】
以上の製造方法により形成した複数の成形品について、−40℃と150℃との間で温度を切り替えるヒートサイクル試験を実施したところ、メッキ膜がはがれたり、膨れたりする成形品は皆無であった。また、垂直引っ張り試験(JISH8630)にて、複数の成形品の平坦部のメッキ膜の密着強度を測定したところ、8〜13N/cmであった。従来のABS/エッチングメッキの指標であり、今回の目標値である10N/cmは、ほぼ達成できた。
【0073】
これにより、本発明の高圧二酸化炭素を用いた無電解メッキ法では、高圧二酸化炭素と無電解メッキ液とを混合した浴を用いて、複数の成形品に対して同時に無電解メッキを形成でき、しかも、その複数のメッキ膜として高い密着性に品質が揃ったものを形成できた。
【実施例2】
【0074】
図4は、実施例2で使用した無電解メッキ装置を示す。この無電解メッキ装置は、図2のものと比べて、高圧メッキ容器209の下部に、排液バルブ401および背圧弁402を有するドレン403が接続されている点で異なる。ドレン403は、容器本体60の底面に接続されている。
【0075】
そして、この実施例では、所望のメッキ反応処理を終えたら、高圧二酸化炭素を高圧メッキ容器209へ導入しながら、排液バルブ401を開いた。これにより、高圧メッキ容器209内の無電解メッキ液は、排液バルブ401および背圧弁402を通じて高圧メッキ容器209から廃液される。なお、高圧メッキ容器209内の無電解メッキ液69は、たとえば1分程度の時間をかけて抜いた。無電解メッキ液69が排出されると、樹脂の成形品がメッキ液69から離脱し、成形品のメッキ反応が終了する。
【0076】
また、図4の無電解メッキ装置を用いて形成した複数の成形品のメッキ膜について、実施例1と同様ヒートサイクル試験および垂直引っ張り試験(JISH8630)を実施したところ、実施例1と同等の結果を得ることができた。また、同時に成形した複数の成形品の間での密着強度のばらつきも、実施例1と同等であった。
【0077】
[比較例]
本比較例では、上記実施例1と同じ装置を用いて、上記実施例1と同じ工程で成形品を形成し、さらにメッキ処理を施した。そして、所望のメッキ反応処理後に、ステージ59を上昇させることなく、高圧二酸化炭素を排気した。また、この成形品の表面に、さらに、常圧にて、公知の電解メッキ法によりCu電解メッキ膜を40μmの厚さで形成し、公知のメッキ法によりニッケルメッキ膜を1μmの厚さで形成した。
【0078】
以上の製造方法により形成した複数の成形品について、−40℃と150℃との間で温度を切り替えるヒートサイクル試験を実施したところ、一部の成形品にメッキ膜のふくれが発生した。また、垂直引っ張り試験(JISH8630)にて、複数の成形品の平坦部のメッキ膜の密着強度を測定したところ、1〜10N/cmであった。上記実施例と比較すると、同時に成形した複数の成形品の間での密着強度が大きくばらついた。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の高圧二酸化炭素を用いた無電解メッキ法では、所望のメッキ反応が終わると、高圧二酸化炭素を排気する前に、高圧容器内で、メッキされた対象物をメッキ液から離脱してメッキ反応を強制的に終了させる。したがって、超臨界二酸化炭素などの高圧二酸化炭素と無電解メッキ液とを混合した浴で形成するメッキ膜の品質ばらつきを抑え、量産時においても安定した品質のメッキ膜を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】図1は、実施例1の成形装置の要部の概略構成図である。
【図2】図2は、実施例1の無電解メッキ装置の要部の概略構成図である。
【図3】図3は、図2の無電解メッキ装置でのメッキ終了時の状態を示す図である。
【図4】図4は、実施例2の無電解メッキ装置を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0081】
69 無電解メッキ液
59 メッキステージ(放置台)
60 容器本体(高圧容器)
68 サンプル容器
403 ドレン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無電解メッキ液と高圧二酸化炭素とを用いてメッキの対象物をメッキする無電解メッキ法であって、
高圧容器内で上記無電解メッキ液および上記高圧二酸化炭素を上記メッキの対象物と接触させて、上記対象物をメッキすることと、
上記無電解メッキ液から上記メッキされた対象物を離脱させることと、
上記無電解メッキ液から上記メッキされた対象物を離脱させた後に、上記高圧容器から上記高圧二酸化炭素を排気させることと、
を含む高圧二酸化炭素を用いた無電解メッキ法。
【請求項2】
上記無電解メッキ液から上記メッキされた対象物を離脱させることが、
上記無電解メッキ液を上記高圧容器から排出させることを含む請求項1記載の高圧二酸化炭素を用いた無電解メッキ法。
【請求項3】
上記高圧容器として、上記メッキの対象物を放置する放置台と、この放置台よりも容器底側に設けられたドレンを有する高圧容器を用い、上記高圧容器へ高圧二酸化炭素を導入しながら、上記無電解メッキ液を上記ドレンから排出させる請求項2記載の高圧二酸化炭素を用いた無電解メッキ法。
【請求項4】
上記無電解メッキ液から上記メッキされた対象物を離脱させることが、
上記高圧容器内で、上記メッキされた対象物を上記無電解メッキ液から離脱するように移動させることを含む請求項1記載の高圧二酸化炭素を用いた無電解メッキ法。
【請求項5】
上記高圧容器内で上記無電解メッキ液および上記高圧二酸化炭素を上記メッキの対象物と接触させる際、
上記高圧容器内で上記メッキの対象物をメッキ反応が起きる温度に制御し、且つ、上記高圧容器をメッキ反応が起きない温度に制御する請求項1〜4のいずれか1項記載の高圧二酸化炭素を用いた無電解メッキ法。
【請求項6】
上記高圧容器内で上記無電解メッキ液および上記高圧二酸化炭素を上記メッキの対象物と接触させる際、
上記メッキの対象物を、それを収容する収容容器とともに上記高圧容器内で上下方向に揺動させる請求項1〜5のいずれか1項記載の高圧二酸化炭素を用いた無電解メッキ法。
【請求項7】
上記高圧容器内で上記無電解メッキ液および上記高圧二酸化炭素を上記メッキの対象物と接触させる際、
上記高圧二酸化炭素を、上記高圧容器内で超臨界状態とならない圧力に維持する請求項1〜6のいずれか1項記載の高圧二酸化炭素を用いた無電解メッキ法。
【請求項8】
上記メッキの対象物として、金属微粒子が浸透した樹脂の成形体を用いる請求項1〜7のいずれか1項記載の高圧二酸化炭素を用いた無電解メッキ法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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