説明

高圧放電ランプおよび照明装置

【課題】
キセノンの封入圧が比較的低圧であっても実用的な高いランプ電圧を有する水銀フリーの高圧放電ランプおよびこれを用いた照明装置を提供する。
【解決手段】
高圧放電ランプは、内部に放電空間1cを備えた透光性気密容器1と、放電空間に臨在するように透光性気密容器内に配設された一対の電極2、2と、希ガスおよび金属ハロゲン化物を含み、金属ハロゲン化物がツリウム(Tm)およびホルミウム(Ho)の少なくとも一種のハロゲン化物を含み、希ガスが室温換算で1〜5気圧のキセノン主体であり、かつ水銀を含まないで透光性気密容器内に封入されたイオン化媒体とを具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水銀を本質的に含まない水銀フリーの高圧放電ランプおよびこれを備えた照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛などの可視域の発光が少なくてランプ電圧を形成するのに効果的な金属のハロゲン化物を水銀に代えて封入して水銀フリーにした高圧放電ランプは既知である(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1には、気密容器の内容積0.05cc、電極間距離4.2mm、キセノン1気圧、ScI0.14mg、NaI0.86mg、FeI1mgの放電媒体を封入した入力電力35Wで、再始動電圧が7kVの実施例が記載されている。また、キセノン5気圧、ScI0.14mg、NaI0.7mg、GaI0.4mgの放電媒体を封入した入力電力35Wで、再始動電圧が8.3kVの実施例が記載されている。
【0003】
水銀フリーの高圧放電ランプについては、上記の他にも特許文献2のように多数の特許文献が存在するが、それらには希ガスの封入圧は0.1〜25気圧程度まで幅広く開示されている。そして、適性とされる希ガス圧は5〜7気圧以上と述べられているものが多く、この場合高圧放電ランプを始動させるために印加する始動用高電圧は8kV以上、キセノンが10気圧では始動用高電圧が15〜20kVになってしまう。
【0004】
【特許文献1】特開平11−238488号公報(段落0216−0230、0370−0380)
【特許文献2】WO 2006/046704号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、亜鉛などの可視域の発光が少なくてランプ電圧を形成するのに効果的な金属のハロゲン化物は、その封入量が増加するにしたがいランプ電圧を増大させる反面、高圧放電ランプの発光効率が低下するとともに色度偏差も大きくなり、放電が不安定になるという問題がある。
【0006】
これに対して、ツリウム(Tm)およびホルミウム(Ho)のハロゲン化物は、他の希土類金属のハロゲン化物と違って、高い発光効率に加えて高いランプ電圧増大効果が得られる。このため、ZnIなどのランプ電圧形成用の金属ハロゲン化物の封入量を低減して上記問題を抑制し、結果的にキセノン封入圧が比較的低いにもかかわらず高い発光効率を維持することができる。
【0007】
また、発光効率は、ランプ電圧にある程度影響される。始動ガスとしてキセノン主体の希ガスの封入圧が1〜5気圧の場合、電極間の電位傾度が定格ランプ電力100Wクラスで5V/mm、30Wクラスで9V/mmを下回ると発光効率が顕著に低下する傾向がある。そこで、発光金属としてツリウム(Tm)およびホルミウム(Ho)の少なくとも一種の金属ハロゲン化物を封入すれば、ランプ電圧形成用の金属ハロゲン化物の封入量を低減しても電極間の電位傾度を100Wクラスでえ5V/mmより高く、好ましくは7V/mm以上、また30Wクラスで9V/mmより高く、好ましくは9.5V/mm以上のランプ電圧を実現することが可能になり、実用的なランプ電圧を得ることが可能になる。
【0008】
一方、水銀フリーにした高圧放電ランプを一般照明用途に適合させるためには、E形口金が広く普及しているため、この口金を装着している必要があるが、この口金は耐電圧が低いので、5kV以下の始動用高電圧で始動可能であることが望ましい。ところが、従来の水銀フリーにした高圧放電ランプは、上述から推察すると始動電圧が明らかに5kVを超えるため、水銀入りの高圧放電ランプ、これを用いる照明器具および配線との互換性が得られない。したがって、専用の口金を採用することになり、照明システムのコストアップを招く。
【0009】
本発明者が、キセノン10気圧程度の既知の水銀フリー高圧放電ランプと同じ透光性気密容器、電極およびイオン化媒体を用いて試験を行った結果、0.1〜5気圧程度まではランプ電圧および発光効率が低く実用上問題が生じやすい。特に1気圧未満で問題が顕著であるが、水銀フリー高圧放電ランプにおいては、キセノン封入圧が1〜5気圧であれば他のランプパラメータ設計により実用最低限レベルを維持できることが確認された。また、最大5気圧までならば、適正な始動補助手段を用いることにより、5kVまでの始動用高電圧で始動可能であり、さらに透光性セラミックス気密容器を用いた水銀フリーの高圧放電ランプにおいて、従来の一般照明用セラミックメタルハライドランプでは不可能であった瞬時再点灯さえも可能になることが判明し、本発明をなすに至った。
【0010】
また、高圧放電ランプが水銀フリーであると、イオン化媒体としてツリウムおよびホルミウムなどの希土類金属のハロゲン化物を封入すると、蒸発しないで液相状態で滞留するこれらのハロゲン化物が、希土類金属ではない金属のハロゲン化物に比較して分散しやすいことが分かった。そこで、液相状態で滞留する上記希土類金属ハロゲン化物が相対的に温度が高い位置に付着させれば、最冷部温度を高くすることが可能になる。最冷部温度が上昇すれば、ランプ電圧が高くなり、発光効率の上昇も見込まれる。これにより、封入比率が比較的少なくてもランプ電圧上昇効果を奏し得る。そのため、希土類金属の封入量に相応してランプ電圧形成用の金属ハロゲン化物の封入量を低減して、主としてランプ電圧形成用の金属ハロゲン化物の封入による弊害を抑制することが可能になる。
【0011】
さらに、始動電圧が5kVを超えても差し支えない場合にはキセノンを10気圧までであれば、主としてランプ電圧形成用の金属ハロゲン化物を、その弊害が現れるように過剰に封入しなくてもランプ電圧を実用的な値まで高くすることができることが分かった。これにより、発光効率を向上させるとともに、経済的なバラスト設計が可能になる。また、ランプ電圧形成用の金属ハロゲン化物の封入量を低減して、ランプ電圧形成用の金属ハロゲン化物の封入による弊害が現れないよう抑制することができる。
【0012】
本発明は、キセノン主体の希ガスの封入圧が比較的低圧であっても実用的な高いランプ電圧を有する水銀フリーの高圧放電ランプおよびこれを用いた照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の高圧放電ランプは、内部に放電空間を備えた透光性気密容器と;放電空間に臨在するように透光性気密容器内に配設された一対の電極と;希ガスおよび金属ハロゲン化物を含み、金属ハロゲン化物が主として発光に寄与する金属ハロゲン化物としてツリウム(Tm)およびホルミウム(Ho)の少なくとも一種のハロゲン化物を含み、希ガスが室温換算で1〜5気圧のキセノン主体であり、かつ水銀を含まないで透光性気密容器内に封入されたイオン化媒体と;を具備していることを特徴としている。
【0014】
〔透光性気密容器について〕 透光性気密容器は、放電によって発生した所望波長域の可視光を外部に導出することが可能な気密容器を意味し、透光性を有していて、ランプの通常の作動温度に十分耐える耐火性の材料であれば、どのようなもので作られていてもよい。例えば、石英ガラスや透光性セラミックスなどを用いることができる。しかし、透光性セラミックスからなる透光性気密容器は、最冷部温度を高く設定して、ランプ電圧を高くするとともに、発光効率を向上させることができるので、本発明においては特に好適である。なお、透光性セラミックスとしては、透光性アルミナ、イットリウム−アルミニウム−ガーネット(YAG)、イットリウム酸化物(YOX)と、多結晶非酸化物、例えばアルミニウム窒化物(AlN)などの多結晶または単結晶のセラミックスなどを用いることができる。なお、必要に応じて、気密容器の内面に耐ハロゲン性または耐金属性の透明性被膜を形成するか、透光性気密容器の内面を改質することが許容される。
【0015】
また、透光性気密容器は、その内部に放電空間を有している。そして、放電空間を包囲するために、透光性気密容器は、包囲部を備えている。包囲部は、その内部が適当な形状、例えば球状、楕円球状、ほぼ円柱状などの形状をなしている。放電空間の容積は、高圧放電ランプの定格ランプ電力、電極間距離などに応じてさまざまな値が選択され得る。例えば、一般照明用ランプの場合、定格ランプ電力に応じて0.1cc以上および以下のいずれにすることもできる。また、透光性気密容器の最大内径は、ランプ電力100W級で4〜13mm、センター11mmとし、35W級で3〜8mm、センター6mmに設定すれば、最冷部の温度を高く維持して発光効率を高く維持するのに効果的である。
【0016】
また、包囲部の両端に一対の封止部を備えていることが許容される。一対の封止部は、包囲部を封止するとともに、電極の軸部がここに支持され、かつ点灯回路から電流を電極へ気密に導入するのに寄与する手段であり、一般的には包囲部の両端に配設されている。気密容器の材質が石英ガラスの場合、電極を封装し、かつ点灯回路から電流を電極へ気密に導入するために、好適には封止部の内部に適当な気密封止導通手段として封着金属箔を気密に埋設した構造を採用することができる。なお、封着金属箔は、封止部の内部に埋設されて封止部が透光性気密容器の包囲部の内部を気密に維持するのに封止部と協働しながら電流導通導体として機能するための手段であり、透光性気密容器が石英ガラスからなる場合、材料としてはモリブデン(Mo)が最適である。封着金属箔を封止部に埋設する方法は、特段限定されないが、例えば減圧封止法、ピンチシール法およびこれらの組み合わせ法などの中から適宜選択して採用することができる。
【0017】
一方、透光性気密容器が透光性セラミックスからなる場合の封止手段としては、例えばフリットガラスを透光性セラミックスと後述する電流導入導体の間に流し込んで封止するフリット封着やフリットガラスに代えて金属を用いる金属封着および透光性セラミックス気密容器の封止予定の開口部を溶融させて電流導入導体に直接または間接的に封着する手段などの各種封止手段を所望により適宜選択的に採用することができる。また、透光性気密容器の封止部を所要の比較的低い温度に保持しながら透光性気密容器内に形成される放電空間の最冷部温度を所望の比較的高い温度に維持するために、包囲部に連通する小径筒部を形成することができる。この構造の場合、封止部は小径筒部の端部部分に配設されるとともに、小径筒部内に電極軸を延在させて電極軸と小径筒部の内面との間にキャピラリーと称されるわずかな隙間を小径筒部の軸方向に沿って形成する。
【0018】
〔電流導入導体について〕 電流導入導体は、透光性気密容器の内部に電流を導入するための手段であるとともに、透光性気密容器が透光性セラミックス気密容器からなる場合には小径筒部と一緒に透光性セラミックス気密容器を封止し、かつ電極を支持する手段として機能する。以下、透光性セラミックス気密容器における電流導入導体について説明する。
【0019】
すなわち、電流導入導体は、その先端が電極の基端部に接続してこれを支持し、基端が透光性セラミックス気密容器の外部に露出している。また、電流導入導体は、一般的には封着性部分および耐火性部分を備えている。封着性部分は、透光性セラミックス気密容器の小径筒部と協働して透光性セラミックス気密容器を封止する部分である。したがって、封着性部分は、透光性セラミックス気密容器の材質に応じて熱伝導係数が近似している導電性材料が選択される。例えば、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)およびバナジウム(V)などの封着性金属を用いることができる。透光性セラミックス気密容器がアルミナセラミックスからなる場合、ニオブおよびタンタルは、平均熱膨張係数がアルミナセラミックスとほぼ同一でるから、封着性部分として最適である。また、イットリウム酸化物およびYAGの場合も差が少ない。窒化アルミニウムを透光性セラミックス気密容器に用いる場合には、電流導入導体の封着性部分にジルコニウムを用いるのがよい。
【0020】
耐火性部分は、封着性部分の先端に接続して電極を支持する部分である。したがって、電極の熱膨張係数と封着性部分の熱膨張係数とのそれぞれに対して中間の熱膨張係数を有する材料が用いられ、例えばモリブデン(Mo)、タングステン(W)またはサーメットなどを用いることができる。しかし、要すれば、耐火性部分を省略して電極の基端を直接封着性部分の先端に接続してもよい。このことは、電流導入導体に付加する耐火性部分の少なくとも先端部分をタングステンで構成すれば、耐火性部分を電極として用いることができることを意味する。また、反対に電極の基端部を耐火性部分として用いることができることにもなり、実質的に両者は同じである。
【0021】
〔一対の電極について〕 一対の電極は、透光性気密容器内に封装されて放電空間に離間して臨むように配設されて有電極形放電を生起させる形式の高圧放電ランプを構成する。一対の電極の先端間に形成される電極間距離は、一般照明用ランプでは、主としてランプ電圧形成用の金属ハロゲン化物としてイオン化エネルギーが8eV以上で、かつ融点が500℃以下の金属ハロゲン化物、例えばZnIなどを封入する場合、水銀フリーであるため、水銀入りの場合ほどランプ電圧が高くならないが、実用可能なランプ電圧を得る目的で電極間距離を以下のように設定するのが好ましい。
【0022】
すなわち、例えばランプ電力100W級では電極間距離5〜38mm、好適には6〜18mm、より好適には16〜18mm、35W級で同じく4〜22mm、好適には4〜8mm、より好適には4〜9mmである。また、ZnIなどのランプ電圧形成用の上記金属ハロゲン化物を気密容器の内容積に対して0.3〜4.0mg/cc、好適には0.3〜1.6mg/cc封入すれば、さらに高い所望のランプ電圧を得ることができる。これらの電極間距離に加えて、気密容器の最大内径を、ランプ電力100W級で4〜7mmとし、35W級で3〜5mmに設定すれば、発光管の最冷部の温度を高く維持して発光効率を高く維持することができる。
【0023】
また、電極の構成材としては、耐火性で、導電性の金属、例えば純タングステン(W)、ドープ剤(例えばスカンジウム(Sc)、アルミニウム(Al)、カリウム(K)およびケイ素(Si)などのグループから選択された一種または複数種)を含有するドープドタングステン、酸化トリウムを含有するトリエーテッドタングステン、レニウム(Re)またはタングステン−レニウム(W−Re)合金などを用いて形成することができる。
【0024】
さらに、小形のランプの場合、直棒状の線材や先端部に径大部を形成した線材を電極として用いることができる。中形ないし大形の電極の場合、電極軸の先端部に電極構成材製のコイルを巻回したりすることができる。なお、一対の電極は、交流で作動する場合、同一構造とするが、直流で作動する場合、一般に陽極は温度上昇が激しいから、陰極より放熱面積の大きい、したがって主部が太いものを用いることができる。
【0025】
さらにまた、透光性気密容器が小径筒部を備えた透光性セラミックス気密容器であって、しかも小径筒部の内部にキャピラリーと称されるわずかな隙間を形成する場合、所望により電極軸部の周囲に電極と同様の耐熱金属、例えばタングステン、モリブデンなどの電極マウントサブコイルを巻装することができる。そして、この電極マウントサブコイルの包囲部側の終端位置を、包囲部と小径筒部との境界部から包囲部内へ0.05mm以上、好ましくは0.1mm以上延出して配設するのがよい。なお、本発明において、包囲部と小径筒部との境界が曲面をなしている場合のように境界部が必ずしも明確でない透光性セラミックス気密容器を用いる態様の場合は、小径筒部の直線状部分をなす部分の内径に対して内径が1.1倍に拡大されている部位をもって包囲部と小径筒部との境界部とする。なお、電極マウントサブコイルの基端は、電極軸部の基端が電流導入導体の電極軸部と同径の耐火性部分の先端に接続する場合、耐火性部分の周囲まで延長して巻装されているのが好ましい。
【0026】
そうして、電極マウントサブコイルの終端を所定位置に規定する本発明の上記態様によれば、水銀フリーの高圧放電ランプにおいて電極マウントサブコイルを最適化することができる。すなわり、その1として、高圧放電ランプの寿命中に小径筒部の内面が侵食されるのを効果的に抑制できる。なお、上記侵食は、小径筒部の軸方向の中央より包囲部側の部位に発生する傾向がある。上記侵食が生じると、その侵食により生成される物質がキャピラリーを閉塞したり、イオン化媒体と反応してイオン化媒体中の金属ハロゲン化物の組成を変化させたりする。その結果、高圧放電ランプの光束維持率、色度および/またはランプ電圧などが不所望に変化し、ついには透光性セラミックス気密容器のリークに至るという問題を生じさせる。
【0027】
また、その2として、希土類金属ハロゲン化物のキャピラリー内における滞留位置が温度のより高い位置すなわち電極先端側へ相対的に接近した電極マウントサブコイルの終端位置へと広がる。そのために、最冷部温度が高くなり、封入されている金属ハロゲン化物の蒸気圧が高くなる。その結果、電極マウントサブコイルの終端位置が従来のように小径筒部内に位置している場合に比較してランプ電圧が顕著に上昇し、発光効率が向上する。これに対して、ランプ電圧形成用媒体として水銀を封入した以外は本発明の上記態様と同じ仕様の比較例の場合には、金属ハロゲン化物の滞留位置が終端側にまで広がって分布することがなく、むしろキャピラリーの奥方の部位に集合する傾向を示し、そのためランプ電圧上昇効果が小さかった。
【0028】
電極マウントサブコイルを最適化したことによる以下の効果は、希ガスの封入圧力が室温換算で10気圧以下、好ましくは5気圧以下のときに特に顕著になることが分かった。希ガスの封入圧力が10気圧を超えている場合には、キセノンによりランプ電圧が形成される比率が高くなるため、本発明の上記の態様を採用しなくても実用下限の35〜37Vのランプ電圧以上を実現できる。また、希ガスの封入圧力が10気圧を超えている場合には、本発明の上記の態様を採用してもランプ電圧向上比率が10気圧以下の場合に比較して低下する傾向にある。
【0029】
さらに、包囲部側の終端位置の如何にかかわらず電極マウントサブコイルを配設することにより、電極の伝熱抵抗を増大させることができる。その結果、透光性セラミックス気密容器の小径筒部の端部に形成される封止部の温度を所望の程度に低下させやすくなる。そして、金属ハロゲン化物と電極マウントとの反応を抑制して高圧放電ランプを長寿命にすることができる。なお、電極マウントは、電極および電流導入導体の組立体である。また、電極マウントサブコイルを配設することで、金属ハロゲン化物がキャピラリー内に滞留しやすくなり、最冷部を所望に形成しやすくなる。
【0030】
なお、電極マウントサブコイルを電極に配設する態様において、電極マウントサブコイルと小径筒部の内面との間に形成されるキャピラリーの平均隙間は、0.01〜0.15mmの範囲であるのが好ましい。
【0031】
〔イオン化媒体について〕 イオン化媒体は、金属ハロゲン化物および希ガスを含んでいるが、水銀は含まない。本発明において、金属ハロゲン化物は、ツリウム(Tm)およびホルミウム(Ho)の少なくとも一種を含む。希ガスは、キセノン主体で、かつその封入圧が雰囲気温度25℃のときに1〜5気圧である。以下、詳細に説明する。
【0032】
最初に、金属ハロゲン化物について説明する。本発明において、ツリウム(Tm)およびホルミウム(Ho)の少なくとも一種は、主として発光に寄与する金属のハロゲン化物として用いられる。金属ハロゲン化物は、主として発光に寄与する金属のハロゲン化物のみでなく、好ましくはこれに加えてイオン化エネルギーが8eV以上で、かつ融点が500℃以下の金属のハロゲン化物が主としてランプ電圧形成用の金属ハロゲン化物として封入される。
【0033】
ツリウム(Tm)は、放電時に視感度特性曲線のピーク波長付近に多数の輝線スペクトルを放射し、その発光のピークが視感度曲線のピークに一致するので、発光効率を向上させるのに極めて効果的な発光金属である。しかし、これらの金属ハロゲン化物は、主として発光に寄与する金属のハロゲン化物であるばかりでなく、水銀フリーにおいてランプ電圧を高める作用もある。このため、主としてランプ電圧形成用の金属ハロゲン化物の封入量を削減できる。そして、その結果、主としてランプ電圧形成用の金属ハロゲン化物の相対的に過剰な量の封入に伴って発生する弊害(色偏差の増大、発光効率の低下)を回避することができる。ホルミウムもツリウムの上述した性質に類似した性質を有している。
【0034】
なお、主として発光に寄与する金属とは、高圧放電ランプとしての発光に対して寄与することが明らかな金属であり、ランプ電圧形成作用の有無については問わない。したがって、発光に寄与する金属は、後述する主としてランプ電圧形成用の金属ハロゲン化物を除いた発光金属でもある。しかしながら、ツリウムおよびホルミウムは、前述のように可視域における発光が多いために、発光に寄与する金属に該当するが、前述のようにこれに加えてランプ電圧形成作用もある。
【0035】
また、ツリウム(Tm)およびホルミウム(Ho)の少なくとも一種のハロゲン化物を主として発光に寄与する金属のハロゲン化物の主成分として含み、かつキセノン主体の希ガスが雰囲気温度25℃のときに1〜3気圧封入されている本発明の好ましい態様においては、光束立上がり時の色度偏差duv.の変化幅が0.0150以下となり良好である。また、この態様においては、キセノン主体の希ガスの封入圧が上記より高い場合よりは青色域発光量が大幅に少なくなるために、発光効率が高くなるとともに、上記より低い場合よりは青色域発光が低減しすぎないので、色度偏差が実用レベルを越えて悪化することがない。
【0036】
さらに、本発明においては、ツリウム(Tm)およびホルミウム(Ho)のハロゲン化物の少なくとも一種を封入するに際して、後述する主としてランプ電圧形成用の金属ハロゲン化物を除いた、したがって主として発光に寄与する金属のハロゲン化物の総量に対して一般的には10質量%以上封入すれば、期待効果を得ることができる。すなわち、10質量%以上封入されていれば、例えば電極マウントサブコイルの包囲部側の終端位置を前述のように0.05mm以上、好ましくは0.1mm以上包囲部内へ延出して配設する本発明の態様において、希土類金属金属ハロゲン化物の電極マウントサブコイルへの付着部位が放電空間側の高温領域まで広がるために、前述の電極マウントサブコイル最適化の効果が生じてランプ電圧が高くなる。そのため、ランプ電圧形成用のハロゲン化物の封入に頼ることなしに、したがって上記ハロゲン化物の封入に伴う弊害なしに、実用的なランプ電圧を得るのが容易になる。なお、上記希土類金属金属ハロゲン化物の付着部位の広がりは水銀フリーの場合における特有の現象であり、場合によっては包囲部の内面にまで至ることもある。
【0037】
また、他の態様において、または上述の態様に加えて、キセノン主体の希ガスの温度25℃における封入圧を5気圧超で、10気圧以下にすることにより、ランプ電圧が応分に上昇するので、ツリウム(Tm)およびホルミウム(Ho)のハロゲン化物の少なくとも一種の上記封入比率が10質量%以上、35質量%未満の態様においても実用的なランプ電圧を得ることができる。
【0038】
なお、上述の電極コイル最適化の効果は、キセノン主体の希ガスの封入圧が10気圧以下、好ましくは5気圧以下のときに特に顕著に現れるが、10気圧を超えると上記電極コイル最適化の効果は低減傾向を示す。
【0039】
さらに、ツリウム(Tm)およびホルミウム(Ho)のハロゲン化物の少なくとも一種が、主として発光に寄与する金属ハロゲン化物の総量に対して35質量%以上封入されている態様であれば、ツリウム(Tm)およびホルミウム(Ho)がランプ電圧を十分に実用範囲まで高める作用を発揮するとともに高い発光効率が得られるので、本発明において好適である。このため、例えばZnIなどランプ電圧形成用の金属ハロゲン化物の封入量を例えば従来の1/5のように少なくしても、少なくする前の封入量におけるのと同等のランプ電圧を得ることができる。ランプ電圧形成用の金属ハロゲン化物の封入量が多くなるにしたがって色偏差が増大するので、ランプ電圧形成用金属ハロゲン化物の封入量が少なくなることにより、色偏差が著しく改善される。
【0040】
さらにまた、ツリウム(Tm)およびホルミウム(Ho)のハロゲン化物の合計が主として発光に寄与する金属のハロゲン化物の総量に対して50質量%以上封入されていれば、より高いランプ電圧とより高い発光効率を得ることができるので、より一層好適である。しかしながら、上記封入比率が80質量%を超えると、ツリウム(Tm)およびホルミウム(Ho)以外の金属ハロゲン化物を封入し得る比率が相応して低下してしまう。その結果、所望の白色発光が得られなくなるので、白色発光を得る目的に対しては好ましくない。また、ツリウム(Tm)およびホルミウム(Ho)のハロゲン化物の封入比率が50〜70質量%の範囲のときには、特に高い発光効率が得られる。
【0041】
所望によりタリウム(Tl)を添加することが許容される。タリウムは、これを主として発光に寄与するイオン化媒体中のハロゲン化物の副成分としてタリウムハロゲン化物または金属タリウムの形で封入することができる。しかし、主として発光に寄与する金属のハロゲン化物としてツリウム(Tm)およびホルミウム(Ho)の少なくとも一種のハロゲン化物を主成分として含む本発明においては、その封入量をヨウ化タリウム(TlI)に換算した値で透光性気密容器の内容積に対し0〜0.8mg/cc、好適には0〜0.2mg/cc規制することが好ましい。これにより、青色発光抑制が生じるのを効果的に抑制できる。なお、タリウム(Tl)のハロゲン化物または金属タリウムを封入すると、タリウム(Tl)の緑色発光がツリウム(Tm)およびホルミウム(Ho)の少なくとも一種の発光に加算されるので、高圧放電ランプの発光効率が高くなる。
【0042】
上述以外のその他の金属のハロゲン化物を、白色発光を得る目的の他にも、例えば発光の色度を調整する、または発光効率を高くするなどの目的で適宜選択的に添加することができる。以下、その他の金属のハロゲン化物を添加する場合の主な例について説明する。
【0043】
ナトリウム(Na)などのアルカリ金属を主として発光する金属のハロゲン化物を封入する場合には、その封入量を主として発光する金属のハロゲン化物の総量に対して30質量%以下に抑制することにより、ランプ電圧を高めに維持することができる。また、25質量%以下にすることにより、本発明においては、アルカリ金属の発光が弱くなり、反対に上記希土類金属の発光比率が増大するので、平均演色評価数Raが高くなる。
【0044】
さらに、アルカリ金属を、発光特性や製造性などの諸条件が許容される場合には3質量%未満の範囲内で封入することによって、ランプ電圧の低下は最小限に抑制される一方、発光効率、ランプ寿命改善および光色調整、特に色偏差改善が可能になる。以上のような観点から、アルカリ金属のハロゲン化物の封入は、所要のランプ電圧を確保できる範囲内において許容される。その封入量は、好ましくは2〜8質量%、より好ましくは3〜7質量%、なお一層好ましくは4〜6質量%である。また、ナトリウム以外のアルカリ金属としては、セシウム(Cs)およびリチウム(Li)のグループの一種または複数種を選択的に封入することができる。
【0045】
希土類金属のハロゲン化物としては、ツリウム(Tm)およびホルミウム(Ho)の少なくとも一種を主成分としたとき、副成分としてプラセオジム(Pr)、セリウム(Ce)、ジスプロシウム(Dy)およびサマリウム(Sm)の一種または複数種のハロゲン化物を添加することができる。上記希土類金属は、ツリウムハロゲン化物およびホルミウムハロゲン化物に次いで発光金属として有用であり、副成分としての封入比率で封入することが許容される。なお、上記希土類金属は、そのいずれも視感度特性曲線のピーク波長付近で無数の輝線スペクトルを有するため、発光効率向上に寄与することができる。
【0046】
インジウム(In)のハロゲン化物は、これを所望の演色性および/または色温度などを得るなどの目的で副成分として選択的に封入することが許容される。
【0047】
以上の各ハロゲン化物を形成するハロゲンとしては、適度の反応性を有していることからヨウ素が好適であるが、所望により臭素および塩素のいずれかでもよく、またヨウ素、臭素および塩素のうち所望の二種以上を用いてもよい。
【0048】
次に、主としてランプ電圧形成用の金属ハロゲン化物について説明する。本発明において、主としてランプ電圧形成用の金属ハロゲン化物としては、イオン化エネルギーが8eV以上で、かつ融点が500℃以下の金属のハロゲン化物がこれに含まれることが多い。なお、具体的な金属については後述するが、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)およびマンガン(Mn)のハロゲン化物などがある。なお、主としてランプ電圧形成用の金属ハロゲン化物とは、ランプ電圧形成に寄与する緩衝体であるが、それを構成する金属による可視光の発生が許容されることを意味する。しかし、可視光の発生量は、主として発光に寄与する金属のハロゲン化物のそれに比較して明らかに少ないという共通的な特徴がある。
【0049】
本発明において、ツリウムハロゲン化物およびホルミウムハロゲン化物の少なくとも1種を所定比率封入し、かつキセノン主体を3〜5気圧封入する態様であれば、所望のランプ電圧が形成されるので、主としてランプ電圧形成用のハロゲン化物を封入しなくてもよい。しかし、本発明においては、封入するツリウムハロゲン化物およびホルミウムハロゲン化物の少なくとも1種の封入量が特段限定されないとともに、キセノン主体の希ガスの雰囲気温度25℃での封入圧が1〜5気圧の範囲内で許容されているから、一対の電極間に7V/mm以上の電位傾度を形成するために必要であれば、主としてランプ電圧形成用の金属ハロゲン化物を所要量封入することが許容される。この場合、透光性気密容器の内容積に対して0.3〜4mg/ccの範囲内で封入するのが好ましい。
【0050】
また、ランプ電圧形成用の金属ハロゲン化物は、本発明において透光性気密容器内に封入する前述の主として発光に寄与する金属のハロゲン化物に比較して蒸気圧が高くて、高圧放電ランプにおけるランプ電圧を主として決定する作用がある。なお、「蒸気圧が大きい」とは、点灯中の蒸気圧が高いことを意味するが、水銀のように大きすぎる必要はなく、好ましくは点灯中の気密容器内の圧力は5気圧程度以下である。したがって、上記の条件を備えていれば特定の金属のハロゲン化物に限定されない。
【0051】
また、ランプ電圧を形成する金属ハロゲン化物は、例えばマグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、アンチモン(Sb)、ベリリウム(Be)、レニウム(Re)、ガリウム(Ga)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)およびハフニウム(Hf)からなるグループから選択された一種または複数種の金属のハロゲン化物を主体として用いることができる。そして、その殆どが水銀より蒸気圧が低く、またランプ電圧の調整範囲が水銀より狭い。しかし、必要に応じてこれらを複数種混合して封入することにより、ランプ電圧の調整範囲を拡大することができる。例えば、AlI3が不完全蒸発の状態になっていて、しかも所望のランプ電圧が得られていない場合にAlI3を追加してもランプ電圧は変わらない。
【0052】
これに対して、AlI3の追加に代えてZnI2を添加すれば、ZnI2の作用により生じる分のランプ電圧が加算されるので、ランプ電圧を増加させることができる。さらに、他のランプ電圧形成用のハロゲン化物を添加すれば、より高いランプ電圧を得ることができる。
【0053】
さらに、ランプ電圧形成用のハロゲン化物は、透光性気密容器内に封入される主として発光する前述のハロゲン化物の金属に比較して可視域に発光しにくい金属のハロゲン化物でもある。「前記ハロゲン化物の金属に比較して可視域に発光しにくい」とは、絶対的な意味で可視光の発光が少ないという意味ではなく、相対的な意味である。なぜなら、確かにFeやNiは、紫外域発光の方が可視域発光より多いが、Ti、AlおよびZnなどは可視域に発光が多い。したがって、これらの可視域発光の多い金属を単独で発光させると、エネルギーが当該金属に集中するので、可視域発光が多い。ランプ電圧形成用ハロゲン化物の中で、鉄(Fe)やニッケル(Ni)は紫外域発光が多いが、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)および亜鉛(Zn)などは単独で発光させた場合には可視光域に発光が多い。しかし、上記チタン(Ti)、アルミニウム(Al)および亜鉛(Zn)といった主としてランプ電圧形成用の金属は、発光させるのに必要なエネルギー準位がツリウム(Tm)およびホルミウム(Ho)などの主として発光に寄与するハロゲン化物の金属を発光させるに必要なエネルギー準位より高い。そのため、両者を一緒に封入して高圧放電ランプを点灯させた場合には、エネルギー準位の低い主として発光に寄与するハロゲン化物の金属による発光が相対的に支配的となり、ランプ電圧形成用ハロゲン化物の金属による発光は少なくなる。
【0054】
したがって、ランプ電圧形成用の金属ハロゲン化物は、その金属による可視光の発光が禁止されるものではなく、放電ランプが放射する全可視光に対する割合が小さくて影響が少ないものである。
【0055】
次に、希ガスについて説明する。希ガスは、前述のように雰囲気温度が25℃のときに1〜5気圧のキセノン(Xe)主体が封入される。キセノン主体の希ガスの封入圧を上記のように規定する理由は、主に始動電圧を低下させて水銀入りの一般照明用の高圧放電ランプ、照明器具および配線と互換性を得るために必要な前提であるからである。しかし、好ましくは1〜3気圧である。
【0056】
しかし、始動電圧5kV以下でなくてもよい場合には、キセノン主体の希ガスの封入圧は10気圧以下まで高く設定することができる。この範囲内であれば、例えば前述の電極マウントサブコイルの最適化によるランプ電圧上昇効果を実用的な意味で得ることができる。その結果、発光特性を劣化させることなしにランプ電圧を高くすることができる。
【0057】
なお、キセノン主体とは、キセノンの体積が80%以上であればよいことを意味する。キセノンに混合し得る希ガスとしてはアルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)およびネオン(Ne)などである。
【0058】
水銀について説明する。本発明は、水銀フリーの高圧放電ランプであり、したがって水銀は封入しない。
【0059】
〔その他の構成について〕 本発明においては、所望により以下の構成の一部または全部をその内部に少なくとも発光管および後述する始動補助手
【0060】
1.(外管) 外管は、以上説明した透光性気密容器、一対の電極およびイオン化媒体を備えた発光管をその内部に収納するための手段である。また、所要により発光管に加えて後述する始動補助手段などを収納することができる。
【0061】
また、外管は、任意所望の形状および大きさにすることができるが、水銀入りの一般照明用の高圧放電ランプとの互換を容易にするためには、それと同様の形状および大きさにすることを許容する。また、外管の内部を外部に対して気密にし、かつ真空ないし減圧状態に保持すれば、発光管の最冷部温度を高めて発光効率を高くすることができる。外気に対して気密にする場合、必要に応じて外気に代えてアルゴン、窒素などの不活性ガスを封入することができる。しかし、所望により発光管の材質が外気に連通させてもよい。さらに、外管は、石英ガラス、硬質ガラスや軟質ガラスなどの透光性材料を用いて形成することができる。
【0062】
さらに、外管には、ソケットに装着するために口金が一端側に装着されている。一般照明用の高圧放電ランプとしての口金は、ねじ形(E形)口金であるから、本発明においてはこのねじ形(E形)口金を用いるのが好ましい。
【0063】
2.(始動補助手段) 始動補助手段は、外管内に配設され、透光性気密容器の内部に配設された一対の電極間に始動用高電圧を印加したときに発光管内にイオン化媒体の放電が開始するように始動を補助する手段である。本発明においては、始動補助手段を具備することにより、始動時に5kV以下の始動用高電圧を発光管の一対の電極間に印加して始動させることが可能になる。また、始動補助手段として、例えば既知の近接導体および紫外線放射手段の少なくとも一方を採用することを許容する。また、所望により始動器など既知の他の始動補助手段を併用することができる。
【0064】
近接導体は、耐熱性の導体からなり、透光性気密容器の外面側において、基端が一対の電極の一方に導電的に接続し、先端が、他方の電極に透光性気密容器の壁面を介して、かつ透光性気密容器に外面に近接して対向する位置に配置される。耐熱性の導体としては、例えばモリブデン、ステンレス鋼、ニッケルなどの導電性を有する金属またはそれらの合金の導線であって、トリガーワイヤと称される導体や透光性気密容器の外面に被着された導電性金属を主体とする導電膜などであることを許容する。
【0065】
そうして、近接導体は、その先端と対向する他方の電極との間の短い距離に大きな電位傾度を形成するように配設される。近接導体を配設していることにより、高圧放電ランプは、始動用高電圧印加時に絶縁破壊されやすくなってその始動が促進される。なお、高圧放電ランプが始動して発光管内にグロー放電が発生し、さらにアーク放電に転移すると、近接導体は、発光管によって短絡されるので、点灯に支障を来たすことはない。
【0066】
紫外線放射手段は、発光管に対して並列接続され、かつ少なくとも発光管の一方の電極付近に配設されて、高圧放電ランプの始動時に接近している電極近傍に紫外線を放射するのであれば、その余の構成は問わない。例えば、紫外線エンハンサと称される紫外線放射放電管やグロー放電点灯管などであることを許容する。いずれの場合も、放電容器は紫外線透過性を有していて、その内部に放電が生起した際に発生する紫外線を放電容器の外部へ導出することができる。
【0067】
そうして、紫外線放射手段は、高圧放電ランプの始動時に作動して紫外線を発生し、それを発光管の一方の電極近傍に照射する。その結果、電極や場合によっては透光性気密容器の内面から光電効果による電子放出が行われて初期電子となり、透光性気密容器の内部のイオン化媒体を励起させて高圧放電ランプの始動が促進される。なお、高圧放電ランプが始動すると、紫外線放射手段は、発光管内に発生したアークにより高電圧が印加されなくなるので、点灯に支障を来たすことはない。
【0068】
始動器は、グロースタータ、バイメタルスイッチまたは非線形コンデンサなどのスイッチング手段を備えて構成されていて、外管内に配設されて、電源投入時に急速なスイッチング動作を行い、その際に安定器に発生した始動用高電圧を発光管の電極間に印加して、金属蒸気放電ランプの始動を容易にする。
【0069】
本発明において、イオン化媒体の希ガスの封入圧が許容範囲内で相対的に低い場合は、比較的始動電圧が低下するので、近接導体のみを配設するのであっても5kV以下の始動用高電圧の印加で始動させることができる。これに対して、希ガスの封入圧が許容範囲内で相対的に高い場合は、比較的始動電圧が高くなるので、近接導体および紫外線放射手段の両方を併用すれば、5kV以下の始動用高電圧の印加で始動させることができる。なお、所望により近接導体および紫外線放射手段に加えて、それ以外の始動補助手段を併用することも許容される。
【0070】
3.(始動用高電圧印加手段) 本発明の高圧放電ランプに始動補助手段を具備した場合、5kV以下の始動用高電圧であっても、これを印加して高圧放電ランプを始動させることができる。もちろん、5kVを超える始動用高電圧を印加して本発明の高圧放電ランプを点灯させることができる。始動用高電圧印加手段としては、例えばイグナイタと称される高電圧パルス発生器を高圧放電ランプと組み合わせて、ここから発生する高電圧パルスを印加する態様および安定器を用いて高圧放電ランプを点灯する際に、ここから発生するいわゆるキック電圧を高圧放電ランプの外部から発光管に印加する態様のいずれでもよい。また、イグナイタなどの始動用高電圧発生器は、これを安定器のケース内に収納した態様、口金内に収納した態様および外管内に収容した態様などのいずれであってもよい。なお、キック電圧を発生させるために、所望により外管内に熱応動スイッチや電圧応動スイッチなどの始動スイッチを高圧放電ランプの外管の内部に配設することが許容される。
【0071】
4.(高圧放電ランプの定格ランプ電力) 本発明において、高圧放電ランプの定格ランプ電力は、広範囲にわたり自由に設定することができる。しかし、好適には約30〜250W程度である。なお、高圧放電ランプの用途は、多様であることを許容されるが、好適には一般照明用である。したがって、定格ランプ電力および用途に応じて適当な形状および大きさの透光性気密容器、適当な値の電極間距離ならびにツリウムおよびホルミウムの少なくとも1種の適当な封入比率を有するイオン化媒体およびその封入量、キセノン主体の許容範囲内での封入圧を適宜組み合わせて選択することができる。
【0072】
5.(管壁負荷と透光性気密容器の温度の関係) 本発明において、高圧放電ランプの透光性気密容器の管壁負荷は、特段限定されないが、好適には22〜35W/cmである。なお、管壁負荷は、ランプ電力を透光性気密容器の放電空間を包囲する包囲部の内面積で除算した値である。このような管壁負荷であっても、希ガスの封入圧が雰囲気温度25℃のときに1〜3気圧であると、希ガスの封入圧が雰囲気温度25℃のときに0.2〜20気圧の範囲の中では最も透光性気密容器の最高温度が低くなるということが判明した。
【0073】
したがって、本発明の高圧放電ランプは、その希ガス封入圧以外の値で、かつ同等の管壁負荷の場合より透光性気密容器の包囲部および小径筒部の動作温度を低く維持することができる。その結果、高圧放電ランプが長寿命になる。その動作温度差の一例を示せば、次のとおりである。すなわち、キセノンの封入圧が2.4気圧で、ランプ電力が30Wの本発明の高圧放電ランプの態様における動作温度は、包囲部中央の温度が、キセノンの封入圧が雰囲気温度25℃のときに16気圧である以外は本発明の高圧放電ランプと同じ仕様の比較例の動作温度より90℃低くなる。
【0074】
6.(発光管破裂時の保護手段) 本発明において、高圧放電ランプの発光管が破裂した際に生じる破片の飛散から保護するために、既知の保護手段を用いることができる。例えば、シュラウドと称される石英ガラス筒を発光管の主として透光性気密容器の包囲部を中心として包囲するように外管内に保持する。または外管全体をさらにその外側から保護ガラス管で包囲することができる。さらに、発光管破裂の際に所要の防爆性能を満たすために、所望によりガラスの厚みを大きくしたり、補強のための金属または無機質繊維からなる紐条体をシュラウドの外側に巻き付けたりすることができる。
【0075】
〔本発明により得られる高圧放電ランプのその他の特性〕 本発明により得られる高圧放電ランプに、以下に示す特性を付与することができる。
【0076】
1.(点灯方向) 本発明の高圧放電ランプは、キセノン主体の希ガスが、雰囲気温度が25℃のときに1〜5気圧、好適には1〜3気圧であり、かつ主としてランプ電圧形成用の金属ハロゲン化物を封入する態様であっても、その封入量を少なくすることが可能なので、アークが湾曲しにくくなるため、水平点灯をおこなっても長寿命になる。なお、垂直点灯も可である。
【0077】
2.(光束立ち上がり) 本発明の高圧放電ランプは、ランプ電力30〜70W級で光束50%の立ち上がりが1分以内、ランプ電力100〜250W級で同じく2分以内であり、立ち上がりが早い。
【0078】
3.(ランプ電圧立ち上がり) 本発明の高圧放電ランプは、ランプ電力30〜70W級でランプ電圧50%までの立ち上がりが1分以内、ランプ電力100〜250W級で同じく2分以内であり、立ち上がりが早い。
【0079】
4.(立ち上がり時の色度変化) 本発明の高圧放電ランプは、立ち上がり時の色度の変化幅がduv.−0.020〜+0.015と良好である。
【0080】
5.(調光) 本発明の高圧放電ランプは、水銀フリーなので調光が可能である。また、ツリウムおよびホルミウムの少なくとも一種を主として発光する金属ハロゲン化物の主成分とし、かつキセノン主体の希ガスの封入圧が雰囲気温度25℃のときに1〜3気圧であることにより、調光時の色温度変化が小さくなる。
【0081】
6.(アーク転移時間) 本発明の高圧放電ランプは、水銀フリーで、かつキセノン主体の希ガスを1〜3気圧封入することにより、始動時および瞬時再点灯時のアーク転移時間転移時間が短くなる。その結果、電極の消耗が少なくて、しかも透光性気密容器の黒化が低減するので、高圧放電ランプが長寿命になる。
【0082】
7.(グロー放電時間) 本発明の高圧放電ランプは、水銀フリーで、かつキセノン主体の希ガスの封入圧が雰囲気温度25℃のときに1〜3気圧であることにより、始動時および瞬時再点灯時のグロー放電時間が短くなる。その結果、電極の消耗が少なくて、しかも透光性気密容器の黒化が低減するので、高圧放電ランプが長寿命になる。
【0083】
〔高圧放電ランプの点灯装置について〕 本発明において、高圧放電ランプの点灯装置は、鉄心およびコイルを主体とする安定器および電子化点灯装置のいずれであってもよい。本発明の高圧放電ランプは、開放電圧260V(または290V)以上の点灯装置を用いることにより、始動時の絶縁破壊後に確実にグロー放電からアーク放電に転移させることができ、しかも高温再始動が可能である。また、希ガスの封入圧を2気圧以下にしたり、始動補助手段を複数組み合わせて配設したり、始動補助手段の構成を最適化したりすれば、開放電圧240V(または220V)以下の点灯装置を用いても始動および瞬時再始動が可能になる。
【0084】
また、点灯装置は、高圧放電ランプを付勢して点灯するための点灯回路と、5kV以下の始動用高電圧を発生して高圧放電ランプを始動させる始動用高電圧発生器とにより構成することができる。本発明において、点灯回路としては、既知の各種点灯回路を採用することができる。例えば、フルブリッジ形インバータ回路またはハーフブリッジ形インバータ回路などの好ましくは低周波の矩形波交流電圧を発生する矩形波交流発生回路を主体とする回路構成などを用いることができる。これに代えるか、またはこれに加えて、昇圧チョッパまたは降圧チョッパなどの直流電圧変換回路を電源電圧調整および/またはアクティブフィルタ機能用としてインバータ回路の直流電源に付設したり、これらの回路を直流点灯装置として用いたりすることができる。
【0085】
〔照明装置について〕 本発明の照明装置は、照明装置本体と;照明装置本体内に配設された請求項1ないし3のいずれか一記載の高圧放電ランプと;高圧放電ランプを点灯する点灯装置と;を具備していることを特徴としている。
【0086】
本発明において、照明装置とは、本発明の高圧放電ランプを光源とする装置を含む概念であり、例えば照明器具、標識灯、表示灯、光化学反応装置などである。また、照明装置本体とは、照明装置から高圧放電ランプを除外した残余の全てをいう。
【発明の効果】
【0087】
本発明によれば、主として発光する金属のハロゲン化物としてツリウムおよびホルミウムの少なくとも一種のハロゲン化物を含み、雰囲気温度が25℃のときに1〜5気圧のキセノン主体の希ガスを封入したことにより、ランプ電圧が高くなり、発光効率が改善され、るとともにて実用的な水銀フリーの高圧放電ランプを提供することができる。
【0088】
また、ツリウムおよびホルミウムの少なくとも一種のハロゲン化物の主として発光に寄与する金属のハロゲン化物の総量に対する封入比率が10質量%以上である態様によれば、電極マウントサブコイル最適化の効果または/およびキセノン主体の希ガスを5気圧超で、かつ10気圧以下の圧力で封入する態様によれば、ランプ特性を劣化させることなくランプ電圧を高くすることができ、これにより発光効率とバラスト設計が改善された水銀フリーの高圧放電ランプを提供することができる。
【0089】
さらに、ツリウムおよびホルミウムの少なくとも一種のハロゲン化物の主として発光に寄与する金属のハロゲン化物の総量に対する封入比率が35質量%以上である態様によれば、加えてツリウムおよびホルミウムの少なくとも一種のハロゲン化物によるランプ電圧を十分に実用範囲まで高める作用を発揮するとともに高い発光効率が得られる水銀フリーの高圧放電ランプを提供することができる。
【0090】
さらにまた、イオン化エネルギーが8eV以上で、かつ融点が500℃以下の金属のハロゲン化物を含んでいる態様によれば、加えてこの金属ハロゲン化物の封入によりランプ電圧がさらに高い水銀フリーの高圧放電ランプを提供することができる。
【0091】
さらにまた、水銀フリーで、かつ室温換算でキセノン主体の希ガスの封入圧が10気圧以下、好ましくは5気圧以下において、電極マウントサブコイルの透光性セラミックス気密容器の包囲部側の終端が小径筒部と包囲部の境界部から包囲部内へ0.05mm以上延出している態様によれば、加えて電極マウントサブコイルが最適化されて希土類金属金属ハロゲン化物の電極マウントサブコイルへの付着部がより高温領域まで広がるために、希土類金属金属ハロゲン化物の蒸気圧が高くなり、その結果ランプ電圧が顕著に高くなる水銀フリーの高圧放電ランプを提供することができる。
【0092】
さらにまた、外管および始動補助手段を具備している態様によれば、加えて一対の電極間に印加する始動用高電圧が5kV以下であっても確実に始動できて、水銀を封入した一般照明用の高圧放電ランプと互換性を有する水銀フリーの高圧放電ランプを提供することができる。
【0093】
さらにまた、本発明の高圧放電ランプを備えた照明装置であることにより、以上の各効果を奏する照明装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0094】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態を説明する。
【0095】
図1は、本発明の高圧放電ランプを実施するための第1の形態を示す断面図である。本形態の高圧放電ランプは、透光性気密容器1、一対の電極2、2、一対の電流導入導体3、3、一対のシール材4、4およびイオン化媒体を具備し、発光管ITを構成する。
【0096】
透光性気密容器1は、透光性セラミックス、例えば透光性多結晶アルミナセラミックスからなる。そして、包囲部1aおよび一対の小径筒状部1b、1bを備えていて、一体成形された構造をなしている。包囲部1aは、俵形をなし、中間の円筒部とその両端に連続する一対の半球部からなる。小径筒状部1bは、細長いパイプ状をなしていて、先端が包囲部1aの半球部の頂部に連通している。
【0097】
電極2は、ドープドタングステンの棒状体からなり、先端が透光性セラミックス気密容器1の包囲部1aの内部に臨み、基端が電流導入導体3の先端に突合せ溶接され、中間部が小径筒状部1bの内部に周囲に僅かな隙間であるキャピラリーを形成しながら挿通している。なお、小径筒部1bの内部に位置する電極2の電極軸部および電極軸部と同径の電流導入導体の耐火性部分との周囲に、タングステンなどの細線を巻回して電極マウントサブコイルを形成することができる。
【0098】
電流導入導体3は、直列に接続した封着性部分3aおよび耐ハロゲン性部分3bを備えている。封着性部分3aは、二オブの棒状体からなり、後述するシール材4と協働して透光性気密容器1を封止しているとともに、基端が透光性気密容器1の外部に露出している。耐ハロゲン性部分3bは、モリブデンの棒状体からなり、その基端が封着性部分3aの先端に突合せ溶接されて透光性気密容器1の小径筒部1bの内部に挿入されている。また、その先端部に電極2の基端が溶接されている。
【0099】
シール材4は、フリットガラスすなわちセラミックスコンパウンドの溶融固化体からなり、小径筒状部1b内に進入して、小径筒状部1b内に位置する電流導入導体3の封着性部分3aと小径筒状部1b内面との間の隙間に充填されるとともに、封着性部分3aの表面が透光性気密容器1内に露出しないように耐ハロゲン性部分の基端をも包囲している。
【0100】
イオン化媒体は、金属ハロゲン化物および希ガスからなる。
【0101】
金属ハロゲン化物は、少なくとも主として発光に寄与する金属のハロゲン化物を含む。本形態においては、主として発光に寄与する金属のハロゲン化物がツリウム(Tm)およびホルミウム(Ho)の少なくとも一種のハロゲン化物を含んでいる。なお、所望により上記の他にタリウム(Tl)を添加する場合には、透光性気密容器1の内容積に対して0.8mg/cc未満に規制すると、青色発光抑制現象を効果的に低減することができる。また、本形態においては、主としてランプ電圧形成用の金属ハロゲン化物を含んでいるが、水銀は本質的に含んでいない。
【0102】
希ガスは、雰囲気温度25℃のときに1〜5気圧のキセノン主体の希ガスからなる。
図2は、本発明の高圧放電ランプを実施するための第2の形態を示す正面図である。本形態の高圧放電ランプは、一般照明用途に適応し得る定格ランプ電力100W形のメタルハライドランプであり、発光管IT、外管OT、始動補助手段としての近接導体TWおよび紫外線エンハンサUVEを具備している。なお、図中、SGは保護ガラス管、SFは発光管支持部材、Gはゲッタ、Bは口金である。
【0103】
発光管ITは、図1に示す本発明における第1の形態の高圧放電ランプである。
【0104】
外管OTは、硬質ガラスからなる。そして、内部に発光管IT、始動補助手段としての近接導体TWおよび紫外線エンハンサUVE、保護ガラス管SG、発光管支持部材SFおよびゲッタGなどの部材を所定の位置に収納し、内部が真空になっている。また、外管OTは、図において下部に位置するネック部にフレアステム5を封着して備えている。フレアステム5は、一対の内部導入線6a、6bを外管OT内へ気密に突出させて備えている。
【0105】
また、外管OTは、発光管ITを、その内部の中心軸に沿って外管OTのほぼ中央部に配置していて、上部の電流導入導体3が後述する接続片10に溶接されて支持されるとともに、発光管支持部材SFを介して内部導入線6aに接続している。また、発光管ITの下部の電流導入導体3が、接続導体7に溶接されて支持されているとともに、接続導体7を介して内部導入線6bに接続している。
【0106】
近接導体TWは、その一端が発光管ITの図1において上方の電流導入導体3に溶接されている。そして、中間部が上方の小径筒部1bと包囲部1aとの境界部近傍において透光性セラミックス気密容器1に巻き付けられてリング部r1を形成し、さらに包囲部1aの外周に近接して管軸方向に沿って下方へ延在している。また、先端が下方の小径筒部1bと包囲部1aとの境界部近傍において透光性気密容器1に巻き付けられてリング部r2を形成している。
【0107】
したがって、図2において、発光管ITの上方の図示されていない電極の電位が同じく下方の電極の近傍において透光性気密容器1を介して近接導体TWに印加されるので、そのリング部r2と下方の電極との間には大きな電位傾度が生まれる。そのため、5kV以下の始動用高電圧が一対の電極2、2間に印加されると、高圧放電ランプの始動が促進される。
【0108】
紫外線エンハンサUVEは、小形で紫外線透過性の気密容器内に一方の導体l1の先端が封装されて内部電極を形成している。一方の導体l1は、発光管ITの図1において下方の電流導入導体3に溶接されている。そして、紫外線透過性の気密容器を抱持する他方の導体l2が後述する発光管支持部材SFの支持枠8に溶接されて外部電極を形成している。したがって、紫外線エンハンサUVEは、発光管ITに並列接続している。紫外線透過性の気密容器内には紫外線放射性の希ガスなどが封入されている。
【0109】
そうして、高圧放電ランプの始動に先立って始動用高電圧が紫外線エンハンサUVEの一対の電極2、2間に印加されると、最初に放電開始し、発生した紫外線を発光管ITの下方の電極近傍に照射する。これにより電極2から光電効果によって電子が放出され、これが初期電子となって発光管IT内のイオン化媒体が励起されて始動しやすくなる。
【0110】
保護ガラス管SGは、石英ガラス製の円筒体からなり、発光管ITの周囲を離間状態にして包囲することで、発光管ITの破裂時に破片の飛散を抑制する。そして、後述のように発光管支持部材SFに支持されている。
【0111】
発光管支持部材SFは、支持枠8、一対の支持プレート9、9および接続片10からなる。支持枠8は、ステンレス鋼棒を縦長の変形コ字形に屈曲してなり、内部導入線6aに接続している。一対の支持プレート9、9は、ステンレス鋼板をほぼ円盤状に形成してなり、支持枠8に固定されている。また、一対の支持プレート9、9の中央部には通孔が形成されており、透光性気密容器1の一対の小径筒部1b、1bを上記通孔に挿通させることにより、発光管ITを外管OTの管軸位置に定置しているとともに、発光管ITをその管軸方向に支持している。接続片10は、支持枠8の上部に溶接されていて、発光管ITの図において上方の電流導入導体3に接続している。1対の支持プレート9、9は、保護ガラス管SGの上下端面に嵌合してそれらの間に保護ガラス管SGを挟持するとともに、発光管支持部材SFに固定されている。したがって、保護ガラス管SGは、1対の支持プレート9、9を介して発光管支持部材SFに支持されている。
【0112】
ゲッタGは、発光管支持部材SFの図において上部に支持されているパフォーマンスゲッタである。
【0113】
口金Bは、ねじ形口金であり、図1において外管OTの下部に装着され、一対の内部導入線6a、6bに接続している。
【実施例1】
【0114】
実施例1は、図2に示すメタルハライドランプである。
【0115】
透光性気密容器 :多結晶アルミナセラミックス一体成形、最大内径6mm、肉厚0.5mm、
全長34mm、内容積0.12cc
一対の電極 :電極間距離4.2mm
イオン化媒体 :TmI3-NaI=4mg(TmI3の含有比率75質量%)、ZnI=0.1mg、
Xe5気圧
始動用高電圧 :4.5kV
口金、システム :市販一般照明HID用口金、一般照明HID用器具、専用安定器
電気特性 :ランプ電圧45V、ランプ電力30W、安定器は専用安定器使用
発光特性 :発光効率90 lm/W

【実施例2】
【0116】
イオン化媒体 :HoI3-NaI=4mg(HoI3の含有比率75質量%)、ZnI=0.1mg、
Xe5気圧
始動用高電圧 :4.5kV
【0117】
その他は実施例1と同じ。
電気特性 :ランプ電圧45V、ランプ電力30W、安定器は専用安定器使用
発光特性 :発光効率88 lm/W

【実施例3】
【0118】
イオン化媒体 :TmI3-NaI=4mg(TmI3の含有比率75質量%)、ZnI=0.1mg、Xe1.5気圧
始動用高電圧 :3.4kV
【0119】
その他は実施例1と同じ。
【0120】
電気特性 :ランプ電圧40V、ランプ電力30W、安定器は専用安定器使用
発光特性 :発光効率86 lm/W

【実施例4】
【0121】
イオン化媒体 :TmI3-NaI=4mg(TmI3の含有比率75質量%)、ZnI=0.1mg、
Xe1.5気圧
始動用高電圧 :3kV
【0122】
その他は実施例1と同じ。
【0123】
電気特性 :ランプ電圧38V、ランプ電力30W、安定器は専用安定器使用
発光特性 :発光効率82 lm/W

【実施例5】
【0124】
イオン化媒体 :TmI3-NaI=4mg(TmI3の含有比率75質量%)、ZnI=0.1mg、
Xe1気圧
始動用高電圧 :2.8kV
【0125】
その他は実施例1と同じ。
【0126】
電気特性 :ランプ電圧37V、ランプ電力30W、安定器は専用安定器使用
発光特性 :発光効率80 lm/W

[比較例1]
イオン化媒体 :TmI3-NaI=4mg(TmI3の含有比率75質量%)、ZnI2=0.1mg、
Xe16気圧
始動用高電圧 :14kV
口金、システム :専用高耐電圧口金、専用HID器具、専用安定器
【0127】
その他は実施例1と同じ。
【0128】
電気特性 :ランプ電圧70V、ランプ電力30W
発光特性 :発光効率100 lm/W

[比較例2]
イオン化媒体 :HoI3-NaI=4mg(HoI3の含有比率75質量%)、ZnI2=0.1mg、
Xe16気圧
始動用高電圧 :14kV
【0129】
その他は比較例1と同じ。
【0130】
電気特性 :ランプ電圧70V、ランプ電力30W
発光特性 :発光効率97 lm/W

上記実施例1〜5は、比較例1、2と対比して明らかなように、ランプ電圧および発光効率が十分実用レベルにあり、また始動用高電圧が3〜5kVで始動する。
【0131】
図3は、本発明の高圧放電ランプを実施するための第3の形態を示す要部断面図である。本形態は、第1の形態との対比において、電極2が最適化された電極マウントサブコイル2bを備えている点に特徴を有している。
すなわち、本形態においては、電極2は、電極軸部2aおよび電極マウントサブコイル2bにより構成されている。電極軸部2aは、ドープドタングステンの棒状体からなる。電極マウントサブコイル2bは、ドープドタングステンの細線が電極軸部2aおよびこれと同径の電流導入導体3の耐火性部分3bの周囲に巻装されて形成されている。そして、その包囲部1a側の終端および小径筒部1bと包囲部1aとの境界部1dの間の距離Lが0.05mm以上である。すなわち、電極マウントサブコイル2bの包囲部1a側の終端が0.05mm以上包囲部1a内へ延出している。なお、電極軸部2aの先端部は、電極マウントサブコイル2bが巻装されないで露出した状態になっている。
【実施例6】
【0132】
実施例6は、図3に示すメタルハライドランプである。
【0133】
透光性気密容器 :多結晶アルミナセラミックス一体成形、最大内径6mm、肉厚0.5mm、
全長34mm、内容積0.13cc
一対の電極 :電極間距離4.2mm、電極マウントサブコイルは、Moマンドレル軸径
0.30mm、コイル線径0.18mm、コイルピッチ120%、
包囲部側の終端位置は境界部1dから0.5mm包囲部内へ延出してい る。
【0134】
キャピラリー間隙:平均0.02mm
イオン化媒体 :DyI3-HoI3-TmI3-NaI-LiI-TlI=4mg(TmI3+HoI3:0.4mg=10質量%)、
ZnI=1.2mg、Xe2.4気圧、金属ハロゲン化物の滞留が電極マウント サブコイルの終端側にも多く分布する傾向であった。
【0135】
始動用高電圧 :3.9kV
電気特性 :ランプ電圧35V、ランプ電力30W
発光特性 :発光効率80 lm/W、duv.+0.0000
小径筒部の侵食 :最大侵食部の肉厚は点灯500h時点で初期値の99.5%であった。
【0136】
その他は実施例1と同じ。

【実施例7】
【0137】
イオン化媒体 :TmI3-NaI=4mg(TmI33mg、含有比率75質量%)、ZnI=0.2mg、
Xe2.4気圧、金属ハロゲン化物が電極マウントサブコイルの
終端側に多く滞留する傾向であった。
【0138】
始動用高電圧 :3.9kV
電気特性 :ランプ電圧37V、ランプ電力30W
発光特性 :発光効率88 lm/W、duv +0.0100
小径筒部の侵食 :最大侵食部の肉厚は点灯500h時点で初期値の99.5%であった。
【0139】
その他は実施例6と同じ。

【実施例8】
【0140】
イオン化媒体 :TmI3-NaI-LiI=4mg(TmI:1.4mg=35質量%)、
ZnI=0.2mg、Xe2.4気圧、金属ハロゲン化物の滞留が電極
サブコイルの終端側へ多く分布する傾向であった。
【0141】
始動用高電圧 :3.9kV
電気特性 :ランプ電圧36V、ランプ電力30W
発光特性 :発光効率80 lm/W、duv +0.0050
小径筒部の侵食 :最大侵食部の肉厚は点灯500h時点で初期値の99.5%であった。
【0142】
その他は実施例6と同じ。

【実施例9】
【0143】
一対の電極 :電極間距離4.2mm、電極マウントサブコイルの包囲部側の終端位置は
境界部1dから0.1mm包囲部内へ延出している。
キャピラリー間隙:平均0.1mm
【0144】
イオン化媒体 :TmI3-NaI-LiI=4mg(TmI:3mg=75質量%)、
ZnI=0.2mg、Xe2.4気圧、金属ハロゲン化物の滞留が電極マウント サブコイルの基端側へ若干分布する傾向であった。
【0145】
始動用高電圧 :3.9kV
電気特性 :ランプ電圧35V、ランプ電力30W
発光特性 :発光効率86 lm/W、duv +0.0050
小径筒部の侵食 :最大侵食部の肉厚は点灯500h時点で初期値の95%であった。
【0146】
その他は実施例6と同じ。

【0147】
[比較例3]
一対の電極 :電極間距離4.2mm、電極マウントサブコイルの包囲部側の終端位置は
境界部1dから封止部側へ1mm後退している。
【0148】
イオン化媒体 :TmI3-NaI=4mg(TmI3の含有比率75質量%)、ZnI=0.2mg、
Xe2.4気圧、金属ハロゲン化物が電極マウントサブコイルの基端側に
多く滞留する傾向であった。
【0149】
始動用高電圧 :3.9kV
電気特性 :ランプ電圧25V、ランプ電力30W
発光特性 :発光効率70lm/W、duv 0.0100
小径筒部の侵食 :最大侵食部の肉厚は点灯500h時点で初期値の65%であった。
【0150】
その他は実施例6と同じ。

【0151】
[比較例4]
一対の電極 :電極間距離4.2mm、電極サブコイルの包囲部側の終端位置は境界部1d
から包囲部内へ0.5mm延出している。
【0152】
キャピラリー間隙:平均0.02mm
イオン化媒体 :TmI3-NaI=4mg(TmI3の含有比率75質量%)、Hg=0.5mg、Ar0.2気圧、
金属ハロゲン化物が電極サブコイルの基端側へ多く滞留する傾向
であった。
【0153】
始動用高電圧 :2.7kV
電気特性 :ランプ電圧90V、ランプ電力30W
発光特性 :発光効率90 lm/W、duv 0.0000
小径筒部の侵食 :最大侵食部の肉厚は点灯500h時点で初期値の100%であった。
【0154】
その他は実施例6と同じ。

【0155】
図4は、以上説明した本発明の実施の形態における各構成要件の許容し得る範囲を説明するグラフである。図において、横軸の「Xe封入圧」はキセノン主体の希ガスとしてキセノンを封入したときの室温(25℃)換算の封入圧力(気圧)を、縦軸は左側の「効率lm/W、ランプ電圧V」が発光効率(lm/W)およびランプ電圧(V)、右側の絶縁破壊始動電圧(kV)」が絶縁破壊電圧/始動電圧(kV)を、それぞれ示す。また、図中の曲線は、希ガス封入圧力5気圧における上下方向の位置で上から下へ以下の特性を示している。
(1)「TmHo75% 効率」は、Tm(Ho)ハロゲン化物の発光金属ハロゲン化物総量に対する封入比率が75%における発光効率
(2)「TmHo45% 効率」は、同じく45%における発光効率
(3)「TmHo75% 電圧」は、上記封入比率75%における始動電圧
(4)「TmHo45% 電圧」は、同じく45%における始動電圧
(5)「共通 絶縁破壊電」は、絶縁破壊電圧(上記封入比率45%、75%共通)
【0156】
図4から分かるように、Tm(Ho)ハロゲン化物の発光金属ハロゲン化物総量に対する封入比率が75%における発光効率は、上記希ガス封入圧が0.7気圧で76lm/Wであり、ランプ電圧は35Vである。また、同じく5気圧で発光効率90lm/W、ランプ電圧45V、絶縁破壊電圧/始動電圧4.5kVである。さらに、10気圧で同じく約98lm/W、ランプ電圧約55V、絶縁破壊電圧/始動電圧5.3kVである。さらにまた、上記希ガス封入圧が1気圧で同じく80lm/W、ランプ電圧37V、絶縁破壊電圧/始動電圧3.2kVである。
【0157】
そうして、実用下限発光効率を70lm/W、実用下限ランプ電圧を35V、実用上限絶縁破壊電圧/始動電圧を6.3kVと設定して図中に横線を記入してある。キセノン主体の希ガス封入圧が1〜5気圧であれば、発光効率およびランプ電圧が実用下限以上であり、絶縁破壊電圧/始動電圧が実用上限以下であることが分かる。また、絶縁破壊電圧/始動電圧が実用上限を若干超えることが許容される場合には、キセノン主体の希ガス封入圧が5気圧を超えて10気圧以下で、十分に高い発光効率およびランプ電圧が得られることが分かる。
【0158】
図5は、本発明の照明装置を実施するための一形態としての天井埋込形ダウンライトを示す断面図である。
【0159】
図において、11は高圧放電ランプ、12は照明器具本体である。
【0160】
高圧放電ランプ11は、図2に示す本発明の高圧放電ランプを実施するための第2の形態におけるのと同じである。
【0161】
照明器具本体12は、天井埋込形ダウンライトを構成するもので、基体12a、反射板12bを具備している。基体12aは、天井に埋め込まれるために、下端に天井当接縁12a1を備えている。反射板12bは、基体12aに支持されているとともに、高圧放電ランプ11の発光中心がそのほぼ焦点に位置するように包囲している。
【0162】
高圧放電ランプ11を点灯させるための高圧放電ランプ点灯装置(図示を省略している。)は、これを照明器具本体12に配設したり、照明器具本体12に隣接する位置または遠隔した位置に別置きとしたりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0163】
【図1】本発明の高圧放電ランプを実施するための第1の形態を示す断面図
【図2】本発明の高圧放電ランプを実施するための第2の形態を示す正面図
【図3】本発明の高圧放電ランプを実施するための第3の形態を示す要部断面図
【図4】本発明の実施の形態における各構成要件の許容し得る範囲を説明するグラフ
【図5】本発明の照明装置を実施するための一形態としての天井埋込ダウンライトを示す断面図
【符号の説明】
【0164】
1…透光性気密容器、1a…包囲部、1b…小径筒部、1c…放電空間、2…電極、2a…電極軸部、2b…電極マウントサブコイル、3…電流導入導体、3a…封着性部分、3b…耐ハロゲン性部分、4…シール材、5…ステム、B…口金、IT…発光管、OT…外管、SF…支持枠、SG…保護ガラス、TW…近接導体、UVE…紫外線エンハンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に放電空間を備えた透光性気密容器と;
放電空間に臨在するように透光性気密容器内に配設された一対の電極と;
希ガスおよび金属ハロゲン化物を含み、金属ハロゲン化物が主として発光に寄与する金属のハロゲン化物としてツリウム(Tm)およびホルミウム(Ho)の少なくとも一種のハロゲン化物を含み、希ガスが室温換算で1〜5気圧のキセノン主体であり、かつ水銀を含まないで透光性気密容器内に封入されたイオン化媒体と;
を具備していることを特徴とする高圧放電ランプ。
【請求項2】
ツリウム(Tm)およびホルミウム(Ho)の少なくとも一種のハロゲン化物は、主として発光に寄与する金属のハロゲン化物の総量に対して10質量%以上であることを特徴とする請求項1記載の高圧放電ランプ。
【請求項3】
イオン化媒体は、主として発光に寄与する金属のハロゲン化物に加えて、主としてランプ電圧形成用の金属ハロゲン化物としてイオン化エネルギーが8eV以上で、かつ融点が500℃以下の金属のハロゲン化物を含んでいることを特徴とする請求項1または2記載の高圧放電ランプ。
【請求項4】
透光性気密容器は、内部に放電空間が形成される包囲部、包囲部の内部に連通して包囲部の両端から管軸方向に延在する一対の小径筒部を備えるとともに、小径筒部の内部に電流導入導体の先端部が挿入され基端部が外部に露出し、かつ小径筒部の端部で電流導入導体と一緒に封止された透光性セラミックス気密容器であり;
一対の電極は、電極軸部および電極マウントサブコイルを備えて透光性セラミックス気密容器の小径筒部内にその内面との間にわずかな隙間を形成して挿通し、電極軸部は基端が電流導入導体の先端部に支持され先端が包囲部内に露出し、電極マウントサブコイルは電極軸部の中間部から基端部にかけて電極軸部の周囲に巻装されているとともに、電極マウントサブコイルの包囲部側の終端が小径筒部と包囲部との境界部から包囲部内へ0.05mm以上延出して配設されている;
ことを特徴とする1ないし3のいずれか一記載の高圧放電ランプ。
【請求項5】
内部に発光管を収容しているとともに一端に口金を備えている外管と;
一対の電極間に3〜5kVの始動用高電圧を印加したときに発光管内に放電が開始するように外管の内部に配設されて始動を補助する始動補助手段と;
を具備していることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一記載の高圧放電ランプ。
【請求項6】
照明装置本体と;
照明装置本体に配設された請求項1ないし5のいずれか一記載の高圧放電ランプと;
を具備していることを特徴とする照明装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−283433(P2009−283433A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−242552(P2008−242552)
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【出願人】(000003757)東芝ライテック株式会社 (2,710)
【Fターム(参考)】