説明

高圧放電ランプ

【課題】照度の高いプラズマ放電を好適に利用した高圧放電ランプを提供することを目的としている。
【解決手段】本発明の高圧放電ランプ10は、細長の内部空間を形成した袋形状の放電容器20と、前記放電容器20の開口に形成した一対の電極30と、前記放電容器20の内部空間の長手方向に沿って接合した仕切り壁40と、を備え、前記仕切り壁40は、一端で前記内部空間20の前記一対の電極30を互いに分割するとともに、他端と前記放電容器20の底部の間に隙間50を開けたことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に紫外線硬化インキを用いた印刷装置に適用可能な高圧放電ランプに関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線の照射によって硬化するUVインキ(紫外線硬化型インキ)は、人体に悪影響を及ぼすおそれのある溶剤を用いることなく、瞬時に硬化するなどの特徴があり、各種の印刷物に適用されている。UVインキを用いた印刷装置は、紫外線を照射する放電ランプを備えている。従来の放電ランプは、高圧水銀ランプを用いており、UVインキを硬化させる波長域の紫外線をインキに照射している。
【0003】
高圧放電ランプは、製造の際に通常、放電ランプ内部に不活性ガスを入れて所定のガス圧を得ることにより電極を保護することができる。また水銀以外の鉄や錫などの鉱物を放電ランプ内部に入れることにより、UVインキを硬化させるための目標とする紫外線の中心波長及び周囲の照度の積分値のエネルギーを増加させることができる。
【0004】
このとき規定量に対し過剰量のFe、Snなどの鉱物のハロゲン化合物、水銀を入れた場合、水銀は水銀蒸気となり、通常のアーク放電となる。しかし、過剰量の水銀、鉱物のハロゲン化合物のうち水銀蒸気とならず交じり合わないものがありこれがエネルギーの塊となって、陰極から陽極に向かって流れ出て、石英管の管壁に沿ってぐるぐると螺旋状に旋回するスネーク現象が生じる。スネーク現象が生じている間の電圧を測定すると電圧の高低差が激しい不規則な変動が生じている。
【0005】
このようなスネーク現象は、エネルギーが強く石英ガラス管内の管壁を破損するため放電ランプとして用いることができない。またスネーク現象は電力に係らず発生する。
従来、スネーク現象による不具合を解消する方法として特許文献1,2が開示されている。
【0006】
特許文献1には、電極に形成された酸化膜により電極の通電不良が生じる。このため放電ランプの初期点灯時にガラス管の長さ方向に暗い筋が這う現象であるスネーク不良が発生し、歩留まりが低下し、放電ランプの輝度を向上できない。そこで電極に高周波パルスを印加して酸化膜を除去する放電ランプの製法が開示されている。
【0007】
特許文献2には、放電ランプの水銀の封入に伴う不純ガスが悪影響を及ぼし一対の電極間に波状の明暗部分となるスネーク放電現象が生じる。そこで不純ガスを吸着する不純ガス吸着体を用いた放電ランプの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−59409号公報
【特許文献2】特開2003−346656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながらスネーク現象が生じている放電ランプを照度計により計測すると、管壁を旋回する放電状態によって高い測定値が得られることがある。このため、電圧を安定させることができれば、スネーク現象の高い照度を紫外線照射としてUVインキの硬化・乾燥に利用価値がある。また従来、スネーク現象が生じた放電ランプは廃棄処分となり、積極的に放電ランプに適用した例はない。
そこで本発明は、照度の高いスネーク放電(プラズマ放電)を好適に利用した高圧放電ランプを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の高圧放電ランプは、細長の内部空間を形成した袋形状の放電容器と、前記放電容器の開口に形成した一対の電極と、前記放電容器の内部空間の長手方向に沿って接合した仕切り壁と、を備え、前記仕切り壁は、一端で前記内部空間の前記一対の電極を互いに分割するとともに、他端と前記放電容器の底部の間に隙間を開けたことを特徴としている。
【0011】
この場合において、前記仕切り壁は、高温プラズマ粒子の弾性衝突に耐えうる蛍石で形成しているとよい。
また前記放電容器は、水銀、Se、Cdのハロゲン化合物と、不活性ガスを内部に封入するとよい。
【発明の効果】
【0012】
上記構成による本発明の高圧放電ランプによれば、従来電圧が一定せず、石英管の管壁を破壊していたスネーク放電現象の電圧、電流、電力を一定値に安定化させることができる。また内部空間のスネーク放電によりランプの照度を高くすることができる。さらに放電ランプの消費電力を高圧放電ランプに比べて低減することができる。
【0013】
本発明の高圧放電ランプは仕切り壁にプラズマ放電の発熱温度に耐えうる蛍石を用いている。このため、従来管壁をらせん状に旋回していたスネーク現象(陽光柱プラズマ粒子)を仕切り壁を構築することで、放電容器を破損することがない。
【0014】
また一対の電極が細長の放電容器の一方に形成されているため、電極を放電容器の両側に形成した構成に比べて放電ランプの設置が容易となる。
本発明の高圧放電ランプは、内部に水銀、Se、Cdのハロゲン化合物を封入している。Cd、Seは水銀と蒸気化する温度が略等しいため、安定化したスネーク放電を発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の高圧放電ランプの構成概略を示す図である。
【図2】本発明の高圧放電ランプの電圧、電流、電力と時間の関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の放電ランプの実施形態を添付の図面を参照しながら、以下詳細に説明する。図1は本発明の放電ランプの構成概略を示す図である。図示のように本発明の高圧放電ランプ10は、放電容器20と、電極30と、仕切り壁40を主な構成要件としている。
【0017】
放電容器20は、細長の内部空間を形成した袋状の石英ガラス管である。放電容器20は断面略円形に形成している。放電容器20の内部には、過剰のハロゲン化した水銀と、この水銀と蒸気化する温度が略等しいSe(SeBr)、Cd(CdI)と、不活性ガスを封入している。
【0018】
水銀は、蒸気化して水銀蒸気となり、水銀蒸気粒子に電子が衝突することにより紫外線が発生する。また水銀と蒸気化する温度が略等しいSe、Cdを封入することによりスネーク現象が生じ易くなる。また封入するハロゲン化合物の量は、放電ランプに封入する規定量以上となる過剰量入れている。例えば、設定電圧200V、電流10Aの放電ランプに設計した場合、約10μlの水銀に対し、0.2%以下のSe(SeBr)、Cd(CdI)が規定量となる。本発明では0.2%以上の過剰量を封入している。
【0019】
不活性ガスとしては一例としてAr(アルゴン)、Ne(ネオン)ガスを用いている。また放電容器20の開口には、後述する電極30を取り付けている。
電極30は、一対の電極30A,30Bからなり、放電容器20の開口に取り付けるようにしている。電極30は材質に一例としてタングステン、トリウム等を用いることができる。電極30は放電容器20の端部に口金32を介して取り付けている。
【0020】
仕切り壁40は、平面視矩形の平板であって、短辺の長さを放電容器20の直径と略一致するように形成している。仕切り壁40は、放電容器20の内部空間に挿入している。このとき放電容器20の軸心と仕切り壁40の中心を一致させるとともに、一端で一対の電極30を互いに分割するように、長辺を放電容器20の内壁に溶接により接合させている。そして袋状の放電容器20の底面と、仕切り壁40の先端(他端)との間に隙間50を形成している。本発明の高圧放電ランプ10は、一例として前記隙間50を2mmに設定している。仕切り壁40は、プラズマ放電に伴うエネルギーに耐えうる材質を用いている。仕切り壁40は、一例として蛍石を用いることができる。
【0021】
ところで放電容器20の圧力を上げるためには電流値を上げる方法があるが、電流値を上げた場合には、電極30が劣化して金属疲労を起因し紫外光減衰誘因する。このため、仕切り壁40を設けることにより、放電容器20を分割して内部圧力を上げることができる。
上記構成による高圧放電ランプ10は、一例として図1に示す仕様とすることができる。
【0022】
放電容器20の底面から一対の電極先端までの距離(L)250mm、容器の直径(M)30mm、放電容器20を仕切り壁で分割したときの半円状の空間の高さ(半径)(N)11.5mm、仕切り壁の板厚2mm、仕切り壁の先端と放電容器との隙間を2mmとする。
上記構成による本発明の高圧放電ランプ10は以下のように作用する。
【0023】
高圧放電ランプ10の電極30と電気的に接続させた電源60から一対の電極30A,30B間に電圧を印加させると、電極から電子が放出される。放出された電子は、放電容器20内に封入したハロゲン化合物の水銀蒸気の水銀原子又は分子に衝突して紫外線を発生させている。
【0024】
本発明の高圧放電ランプ10は、放電容器20の底面と仕切り壁40との間に隙間50を形成してあり、放電容器20の断面方向Aの仕切り壁40と内壁の間の管径Nが直径Mの管径と比べて極端に絞られている。このため放電容器20の内部空間の圧力が上がる。そして内部空間では、過剰量のハロゲン化合物の水銀、Se、Cdが水銀蒸気とならず混ざり合わないものがエネルギーの塊となって一対の電極30A,30Bのそれぞれからプラズマ放電となるスネーク現象が生じる。
【0025】
このとき本発明の高圧放電ランプ10は、いわゆる強誘電体充填層放電(細管放電)を構成する。仕切り壁40によって管径幅を絞り込むことで狭い隙間の中で、高周波放電により、高密度電子雲とイオン層を構成した顆粒状の隙間に強誘電物質を作り出し細管径状電流方向に対し、電磁波を生成し、その電磁波に沿い電子は時計回りのスピンを繰り返し、イオンは反時計回りのスピンを繰り返すサイクロトロン運動となり、回転する速さに合わせた交流電場を加えると、共鳴現象が生じ、電子を加速させてさらに大きなエネルギー動を生成して安定する。
【0026】
本発明の高圧放電ランプ10は、仕切り壁40により円形の放電容器20が半円となる。このため、スネーク現象は、電極30A,30Bからそれぞれ放電容器20の管壁と仕切り壁40の間を略半円状に旋回しながら放電容器20の底面に向かって進む。このとき発生したプラズマは従来の断面円形の放電ランプのように管壁を旋回せず、仕切り壁40にぶつかる。仕切り壁40はプラズマ放電のエネルギーに耐えうる材質となる蛍石で形成しているため、プラズマ放電により劣化することがない。
【0027】
図2は本発明の高圧放電ランプの電圧〔V〕、電流〔A〕、電力〔W〕と時間の関係を示した図である。同図横軸は経過時間〔t〕を示し、縦軸は、上から電流〔A〕、電圧〔V〕、電力〔W〕を示している。
図示のように本発明の高圧放電ランプ10は、電源に接続した後、約3分で電圧〔V〕、電流〔A〕、電力〔W〕のいずれも略一定している。
【0028】
また従来の消費電力160W、UV印刷に必要な波長365nmが72mWの高圧放電ランプに対し、本発明の高圧放電ランプ10によれば、消費電力30W・CM、波長365nmが100mW以上の光量を有する実験データが得られた。
このように本発明の高圧放電ランプは、プラズマ放電(スネーク放電)により消費電力を低減化し、かつ照度を高くすることができる。
【符号の説明】
【0029】
10………高圧放電ランプ、20………放電容器、30………電極、32………口金、40………仕切り壁、50………隙間、60………電源。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細長の内部空間を形成した袋形状の放電容器と、
前記放電容器の開口に形成した一対の電極と、
前記放電容器の内部空間の長手方向に沿って接合した仕切り壁と、
を備え、
前記仕切り壁は、一端で前記内部空間の前記一対の電極を互いに分割するとともに、他端と前記放電容器の底部の間に隙間を開けたことを特徴とする高圧放電ランプ。
【請求項2】
前記仕切り壁は、高温プラズマ粒子の弾性衝突に耐えうる蛍石で形成したことを特徴とする請求項1に記載の高圧放電ランプ。
【請求項3】
前記放電容器は、水銀、Se、Cdのハロゲン化合物と、不活性ガスを内部に封入したことを特徴とする請求項1又は2に記載の高圧放電ランプ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−251110(P2010−251110A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−99119(P2009−99119)
【出願日】平成21年4月15日(2009.4.15)
【出願人】(502154452)株式会社東通研 (8)
【Fターム(参考)】