説明

高圧放電ランプ

【課題】耐圧特性の優れた高圧放電ランプを提供することである。
【解決手段】発光部(2)とその両端に封止部(3)よりなる発光管と、少なくとも一方の封止部(3)の内部に埋設された柱状ガラス部材(32)と、この柱状ガラス部材(32)の外周であって当該柱状ガラス部材の長手方向に沿って伸びるよう配置された複数の帯状の金属箔(4)とよりなる高圧放電ランプ(1)において、前記柱状ガラス部材(32)は、発光部側端部に向かって縮径する円錐台部を有し、当該円錐台部の斜面部分に段差が形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は高圧放電ランプに関する。特に、大電流用高圧放電ランプの封止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
放電ランプのうち、高圧放電ランプは、これより放射される紫外線を利用する分野、例えば、半導体デバイスの製造分野、光化学産業分野、照明分野などで広く用いられている。
【0003】
例えば、大電流用高圧水銀ランプにおいては、水銀封入量が大きいため、点灯時における発光管内の水銀蒸気圧(内圧)も非常に高くなる。しかも、点灯時の発熱量も大きいため、封止部は高い耐熱性とともに耐圧性にも優れた構造が要求される。このような理由から、従来の高圧放電ランプは、発光管を形成するガラスを、給電用リード棒に直接溶着して封止部を形成する、いわゆる‘ロッドシール構造'ではなく、封止部の内部に封着用の金属箔を用いた、いわゆる‘箔シール構造'が一般的に採用されていた。
【0004】
箔シール構造の放電ランプは、発光空間が形成された発光部と、この発光部の両端に繋がる封止部を備えている。封止部の内部には金属箔が埋設されており、金属箔の一端は電極と電気的に接続するとともに、他端は外部リードに電気的に接続する。大電流タイプの放電ランプにあっては、金属箔を複数枚使う構造も提案されている。
【特許文献1】実用新案登録第2583317号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記構成を有する高圧放電ランプには、より一層の高照度化、高効率化が求められており、水銀量や希ガス量もますます高くなりつつある。このため、発光部の内圧もますます高くなり、封止部ではリーク(ガス漏れ)や破損の問題が起きつつある。
【0006】
この発明が解決しようとする課題は、耐圧特性の優れた高圧放電ランプを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る高圧放電ランプは、内部に一対の電極を有する発光部とその両端に封止部を有する発光管と、少なくとも一方の封止部の内部に埋設された柱状ガラス部材と、この柱状ガラス部材の外周であって当該柱状ガラス部材の長手方向に沿って伸びるよう配置された複数の帯状の金属箔とよりなる高圧放電ランプにおいて、前記柱状ガラス部材は、発光部側端部に向かって縮径する円錐台部を有し、当該円錐台部の斜面部分に段差が形成されていることを特徴とする。
【0008】
さらに、前記放電ランプは直流点灯型ランプであって、前記柱状ガラス部材は陰極側の封止部に形成されたことを特徴とする。
【0009】
さらに、前記柱状ガラス部材の電極側端面には金属ディスクが配置されており、前記金属箔の一端が当該金属ディスクに接合するとともに、前記電極の基端が当該金属ディスクと電気的に接続していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、上記の構成を有することで、金属箔とガラスの密着を強固にでき、これにより箔浮きの進行を抑えることできて、結果として、封止部におけるリーク(ガス漏れ)や破損を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は本発明に係る高圧放電ランプの全体の断面構造を示す。放電ランプ1は略球状の発光部2とその両端に繋がる封止部3よりなる石英ガラス製発光管により全体が構成される。発光部2の内部には、陰極11と陽極12が、一対の電極として例えば5.0mmの間隔で対向配置している。陰極11は、例えば、トリウムタングステンよりなる柱状ロッドであって、先端は円錐形に形成されており、後端は内部リード110に支持されている。陽極12は、例えば、タングステンを主成分としてよりなり、全体が柱状ロッドであるとともに、先端に曲面構造を有する略砲弾形状をなす。後端は陰極同様に内部リード120に支持されている。
【0012】
発光部2の内部には放電空間(発光空間)が密閉状態で形成されており、発光物質として水銀が封入されている。水銀は、ランプ消灯時は液体状態であるが、ランプ点灯時は気体状態となって波長365nmなどの紫外線を放射する。水銀の封入量は、発光空間の実内容積あたり例えば10〜60mg/ccであり、これは点灯時において10〜30気圧程度の高圧力になる。また、キセノン、アルゴン、クリプトンなどの希ガス、もしくはこれらの混合ガスが始動性補助ガスとして、あるいは発光ガスとして封入している。
【0013】
陰極側封止部3の内部には、内部リード110を保持する保持用筒体31と、ロッド状のガラス部材32が埋設されている。保持用筒体31は、石英ガラスよりなり、ほぼ中心に貫通孔が形成された全体略円筒体であって、貫通孔部分を、陰極の内部リード110が貫通している。ガラス部材32も石英ガラスからなり、中実のロッド部材であって、その外周に帯状(短冊状)のモリブデンよりなる金属箔4が、均等に間隔をあけて、複数枚、例えば6枚配置している。金属箔4の電極側端部は、ガラス部材32の電極側端面に配置された金属製ディスク33に、例えばスポット溶接などで接合しており、また、金属箔4の外方端部は外部金属部材34にスポット溶接などで接合している。外部金属部材34は導電性のリング状部材であって、リングの中心孔に外部リード5が貫通する形で両者は電気的に接続している。なお、外部リード5には図示略の給電機構を接続されており、これにより、外部リード5、外部金属部材34、金属箔4、金属製ディスク33、内部リード110を介して、陰極11まで電気経路を形成される。この際、金属箔4は、複数枚で形成されているので、陰極11から流れてきた電流は、金属箔の枚数分だけ分流し、外部金属部材34で再び合流するような経路となる。なお、陰極11、内部リード110、保持用筒体31、ディスク33、ガラス部材32、金属箔4、外部金属部材34、外部リード5をまとめて‘電極マウント’とも称される。また、陽極12についても、基本的に同様の構成が採用されている。このような高圧放電ランプは、一例をあげると、例えば、定格85V、5000Wで点灯される。
【0014】
図2は、図1に示した陰極側封止部の金属製ディスク33近傍の部分拡大構造を示す。ガラス部材32の電極側端部の構造は、金属製ディスク33側から、先端部320、第1傾斜部321a、段差の一形態である平坦部322、第2傾斜部321bから構成されており、第2傾斜部321bが円柱状胴体部323に続いている。これらは、物理的には一体物であり、円柱状石英ガラスの端部を切削加工することで形成されるものである。第1傾斜部321a及び第2傾斜部321bは、外径が徐々に小さくなるような円錐台構造(円錐台部)をなしている。第1傾斜部321aと第2傾斜部321bの間に平坦部322を有することで、両者の間に段差が形成されるが、段差は平坦構造に限定されるわけではない。
【0015】
金属箔4は、前記したように細長い帯状(短冊状)であり、互いに離間して、ガラス部材32の軸方向に伸びるように配置している。従って、ガラス部材32の電極側端部においても、金属箔4は、円柱状部分323、第2傾斜部321b、平坦部322、第1傾斜部321aの表面形状に沿って、それぞれの形状に対応するように外表面に密着しながら伸びることになり、先端において、金属製ディスク33と例えばスポット溶接により接合する。数値例をあげると、金属箔4の幅は5〜15mmであり、例えば10mm、ガラス部材32の円柱状部分323の外径はφ15〜35mmであり、例えば25mm、金属製ディスク33の外径は10〜25mmであり、例えば15mmである。
【0016】
なお、ガラス部材32の電極側端部に傾斜部を設ける理由は、金属箔が直角に曲げられることを回避するためであり、傾斜に沿って金属箔を緩やかに曲げながら、ディスクに向かわせることで金属箔自体が切断しにくい構造となっている。
【0017】
そして、本願発明は、第1傾斜部321a及び第2傾斜部321bというように、傾斜部を複数に分けて構成するとともに、その間に、ガラス部材32の軸方向に直角な方向に伸びる段差(平坦部322)を介在させることを特徴としている。
すなわち、保持用筒体31と内部リード110の間には、両者が接触することによるクラック発生を防止するために、微小な間隙が形成されている。このため、発光空間内部で発生する高い圧力は、この微小な間隙を介して、ガラス部材32の先端部320まで到達することになる。そもそも封止部とは、金属箔が石英ガラス同士の間で密着することで気密封止と電気的接続を可能にするものであるが、金属箔とディスクの接合部分にまで、発光空間内部で生じる高圧力が到達してしまうと、金属箔4をガラス部材32から剥がす方向の力(図2の矢印F1,F2)が生じてしまう。
【0018】
そして、本願発明は、ガラス部材32の電極側端部における傾斜構造を複数に分けるとともに、その間に平坦部322を介在させることで、金属箔4がガラス部材32から剥がれる作用を大きく低減させている。この点をもう少し詳しく説明すると、金属箔を引き剥がす力は、金属箔に対して垂直方向の力の合力であり、段差を設けない従来構造では、そこまでに浮いた部分のガラスにかかる力すべてが箔を引き剥がす駆動力となる。図2において、金属箔に垂直方向に働く力F1、F2が合力になり、仮に、平坦部322が存在しないとするなら、傾斜部全体に発生する力の総和が引き剥がし力になる。これに対して、本願発明のように平坦部322を介在させた構造では、平坦部322で箔にかかる力f1の方向が、第1傾斜部321aにかかる力F1、F2と異なるため、第2傾斜部321bには、第1傾斜部321aにかかる力が直接作用するわけではない。具体的には、平坦部322に生じる力f1により、第2傾斜部321bには金属箔を長手方向に引っ張る力f2が生じ、これにより、金属箔を引き剥がすように働く力F3は低減する。
【0019】
なお、本発明のような高圧放電ランプ、特に、点灯時内圧25気圧以上であって前記した数値例の金属箔やガラス部材を用いた場合においては、先端部320に続く第1傾斜部321aの斜辺の長さが、およそ10mm程度で、金属箔がガラス部材から剥がれて、いわゆる‘箔剥がれ’を生じさせる。従って、先端部320に続く第1傾斜部321aの斜辺の長さが10mmより小さい位置、より好ましくは5mm以内の位置に平坦部322を設けることが望ましい。
【0020】
傾斜部321は2つに限定されるものではなく、3つ以上設けてもかまわない。図3は傾斜部を3つ有する構造を示す。すなわち、先端部320、第1傾斜部321a、第1平坦部322a、第2傾斜部321b、第二平坦部322b、第3傾斜部321cを有する。
なお、傾斜部の数は4つ以上であってもかまわない。
【0021】
本願発明に係るガラス部材の構造、すなわち、電極側端部の傾斜部に段差を介在させる構造は、陰極側封止部に埋設されたガラス部材に形成させることが特に有効である。陰極側封止部では、ガラス部材32や封止部を構成するガラス材に含まれるアルカリイオン、あるいは電極に含まれるアルカリイオンが、逆極性の金属箔に引き付けられて、金属箔4とガラス部材32の接触部分に集中するからである。
しかしながら、陽極側封止部のガラス部材に採用することを除外しているわけではなく、両封止部に設けることで、より高い耐圧特性を持たせることができる。
【0022】
図4は本発明に係る高圧放電ランプのガラス部材の他の実施例を示す。
(a)は第1傾斜部321aの傾斜角度θ1と、第2傾斜部321bの傾斜角度θ2が同じである実施形態を示す。この場合の傾斜角度は、例えば15〜30°の範囲から選択される数値であって、具体的に20°である。この構造の利点は、ガラス部材32の形状加工が容易であることである。
【0023】
(b)は第1傾斜部321aの傾斜角度θ1が、第2傾斜部321bの傾斜角度θ2よりも小さい実施形態を示す。数値例を示すと、第1傾斜部321aの傾斜角度θ1は10°であり、第2傾斜部321bの傾斜角度θ2は20°である。この構造の利点は、第1傾斜部321aに生じる力(図2でいうF1)が第2傾斜部321bに生じる力(図2でいうF3)に対して、より浅い方向に力になり、第2傾斜部321bに対する第1傾斜部321aに生じる力の影響はさらに軽減される。従って、より内圧の高いランプにとって有効な構造となる。
【0024】
(c)は第1傾斜部321aの傾斜角度θ1が、第2傾斜部321bの傾斜角度θ2よりも大きい実施形態を示す。数値例を示すと、第1傾斜部321aの傾斜角度θ1は60°であり、第2傾斜部321bの傾斜角度θ2は30°となる。この構造の利点は、金属箔が折れ曲がる角度が段階的に変化することにより、よりガラス部材に沿いやすくなり、箔のシワの発生防止に有効になる。
【0025】
(d)は第2傾斜部321bの傾斜角度θ2がゼロ、もしくは180°である実施施形態を示す。数値例を示すと、第1傾斜部321の傾斜角度θ1は20°となる。この構造の利点は、傾斜部の軸方向の長さが短縮されることにより、装置からの寸法制約上、封止部を短くしたい場合に有効である。
図4の(a)〜(d)は、傾斜角度の大小関係のバリュエーションを示すためのものであり、図面上の角度そのものは、必ずしも上記記載の数値と一致しているわけではない。
【0026】
図1及び図2に示した実施例では、電極を支持する内部リード110が、端面において、金属製ディスク33に固着されていたが、このような構造に限定されるものではなく、内部リードの先端が、金属ディスク33を貫通してガラス部材32の内部にまで挿入した構造であってもかまわない。
また、内部リード110を保持する保持用筒体31は全体が円筒形状であることに限定されるものではなく、ガラス部材32側端部を徐々に縮径する構造にしてもかまわない。
【0027】
図5は、本発明の高圧放電ランプの製造工程の一部である封止部形成工程を表す。封止部3は、電極マウントを形成させた後に、当該電極マウントをガラス管材料(ガラス管を発光部と封止部の形状まで作られたもの)の封止部相当位置に挿入配置させる。その状態において、当該ガラス管材料を旋盤で高速回転させながら、外部からバーナで約2000℃の高温で溶融加熱させる。金属箔を構成するモリブデンの熱膨張係数は、室温から2000℃の範囲で平均5.8×10−6(1/deg)であるため、当該溶融加熱において、金属箔は長さ方向に約1%伸びることとなる((2000−20)×5.8×10−6=0.01)。
従って、ガラス部材32の軸方向における金属箔の長さが、仮に50mmであるとするならば、封止部製造工程である溶融加熱時において、金属箔は約0.5mm膨張することになる。
本発明は、ガラス部材32の傾斜部に段差(平坦部)を設けることで、金属箔がガラス部材から剥がれることを防止することができるが、上記のように、金属箔の膨張を吸収(図5の矢印)することができ、不所望なシワの発生を防止できるという製造工程上の利点も有する。
【0028】
以上、説明したように、本発明に係る高圧放電ランプは、内部に一対の電極を有する発光部とその両端に封止部よりなる発光管と、少なくとも一方の封止部の内部に埋設された柱状ガラス部材と、この柱状ガラス部材の外周であって当該柱状ガラス部材の長手方向に沿って伸びるよう配置された複数の帯状の金属箔とよりなる構成において、前記柱状ガラス部材は、発光部側端部に向かって縮径する円錐台部を有し、当該円錐台部の斜面部分に段差が形成されていることを特徴とするので、金属箔とガラスの密着を強固にでき、これにより箔浮きの進行を抑えることできて、結果として、封止部におけるリーク(ガス漏れ)や破損を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る高圧放電ランプの全体の概略構成を示す。
【図2】本発明に係る高圧放電ランプの部分拡大図を示す。
【図3】本発明に係る高圧放電ランプの部分拡大図を示す。
【図4】本発明に係る高圧放電ランプの他の実施形態を示す。
【図5】本発明に係る放電ランプの原理を説明する模式図を示す。
【符号の説明】
【0030】
1 放電ランプ
2 発光部
3 封止部
4 金属箔
5 外部リード
11 陰極
12 陽極
31 保持用筒体
32 ガラス部材
33 ディスク
34 金属部材
320 先端部
321 傾斜部
322 平坦部
323 円柱状部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に一対の電極を有する発光部とその両端に封止部を有する発光管と、
少なくとも一方の封止部の内部に埋設された柱状ガラス部材と、
この柱状ガラス部材の外周であって当該柱状ガラス部材の長手方向に沿って伸びるよう配置された複数の帯状の金属箔とよりなる高圧放電ランプにおいて、
前記柱状ガラス部材は、発光部側端部に向かって縮径する円錐台部を有し、当該円錐台部の斜面部分に段差が形成されていることを特徴とする高圧放電ランプ。
【請求項2】
前記放電ランプは直流点灯型ランプであって、
前記柱状ガラス部材は、陰極側の封止部に形成されたことを特徴とする請求項1に記載の高圧放電ランプ。
【請求項3】
前記柱状ガラス部材の電極側端面には金属ディスクが配置されており、前記金属箔の一端が当該金属ディスクに接合するとともに、前記電極の基端が当該金属ディスクと電気的に接続していることを特徴とする請求項1に記載の高圧放電ランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−33864(P2010−33864A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−194362(P2008−194362)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】