説明

高屈曲絶縁電線

【課題】より高い屈曲性を有することが可能な高屈曲絶縁電線を提供する。
【解決手段】高屈曲絶縁電線1は、導電性の素線11,12を撚って形成された導体部10上に絶縁被覆材20を被覆したものであって、導体部10は、素線11を集合撚りした内層と、当該内層の外周にて素線12を円周状に配置した最外層とからなる。最外層の素線12の半径をrとし、内層の半径をdとし、360°を2θ(θは、sin−1(r/d+r))で割った自然数をnとした場合、最外層に配置される素線12の数はnー1である。また、最外層の素線12の半径は、内層の素線11の半径よりも小さくされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高屈曲絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人型ロボットの手や足などのような可動部に用いられる電線が提案されている(特許文献1及び2参照)。このような電線は、複雑な動きをする部位に用いられるため、高い屈曲性が求められるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−35541号公報
【特許文献2】特開平5−47237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1及び特許文献2に記載の電線において、集合撚りされると以下の問題が発生する。すなわち、集合撚りは素線数が多いため、最外層の素線が内層に入り込み易く、入り込んだ場合には屈曲特性が低下する原因となってしまう。
【0005】
本発明はこのような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、より高い屈曲性を有することが可能な高屈曲絶縁電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の高屈曲絶縁電線は、導電性の素線を撚って形成された導体部上に絶縁被覆材を被覆した高屈曲絶縁電線であって、導体部は、素線を集合撚りした内層と、当該内層の外周にて素線を円周状に配置した最外層とからなることを特徴とする。
【0007】
本発明の高屈曲絶縁電線によれば、導体部は、内層が素線を集合撚りしているため、素線間に空間が生まれ屈曲時に導体歪みを緩和するように素線が移動することとなり屈曲特性が向上する。また、最外層は内層の外周にて素線を円周状に配置しているため、最外層が別に撚られることとなり素線が内層に入り込むことが防がれる。従って、より高い屈曲性を有することが可能な高屈曲絶縁電線を提供することができる。
【0008】
また、本発明において高屈曲絶縁電線は、最外層の素線の半径をrとし、内層の半径をdとし、360°を2θ(θは、sin−1(r/d+r))で割った自然数をnとした場合、最外層に配置される素線の数はnー1であることが好ましい。
【0009】
この高屈曲絶縁電線によれば、最外層の素線の半径をrとし、内層の半径をdとし、360°を2θ(θは、sin−1(r/d+r))で割った自然数をnとした場合、最外層に配置される素線の数はn−1である。このため、最外層の素線数が少なくなり、最外層の素線間に隙間ができ、屈曲時に最外層の素線が導体歪みを緩和するように移動することとなり屈曲特性が向上する。
【0010】
また、本発明において高屈曲絶縁電線は、最外層の素線の半径は、内層の素線の半径よりも小さくされていることが好ましい。
【0011】
この高屈曲絶縁電線によれば、最外層の素線の半径は内層の素線の半径よりも小さくされているため、絶縁被覆材の内径が固定されている場合、最外層の素線と絶縁被覆材の内側とに隙間が発生して、屈曲時に最外層の素線が導体歪みを緩和するように移動することとなり屈曲特性が向上する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、より高い屈曲性を有することが可能な高屈曲絶縁電線を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る高屈曲絶縁電線を示す断面図である。
【図2】導体部の内層を示す断面図である。
【図3】図1に示した最外層の素線の本数を説明する図である。
【図4】本実施形態に係る高屈曲絶縁電線と、従来の高屈曲絶縁電線とを比較した図表である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の実施形態に係る高屈曲絶縁電線を示す断面図であり、図2は、導体部の内層を示す断面図である。図1に示す高屈曲絶縁電線1は、導電性の素線11,12を撚って形成された導体部10と、導体部10上に被覆された絶縁被覆材20とを備えている。
【0015】
また、図1及び図2に示すように、導体部10は、例えば銅合金線などの導電性部材からなる素線11,12を複数本撚って構成されている。また、導体部10は、内層と最外層とからなり、内層は複数本の素線11を集合撚りして形成されている。また、最外層は、内層の外周にて素線12を円周状に配置して形成されている。このように、本実施形態において導体部10は、内層と最外層とで撚り方が異なっており、屈曲性を向上させている。
【0016】
すなわち、導体部10は、内層が素線11を集合撚りしているため、素線11間に空間が生まれ屈曲時に導体歪みを緩和するように素線11が移動することとなり屈曲特性が向上する。また、最外層は内層の外周にて素線12を円周状に配置しているため、最外層が別に撚られることとなり内層に入り込むことが防がれる。
【0017】
また、最外層の素線12の本数は以下のようにされている。図3は、図1に示した最外層の素線12の本数を説明する図である。まず、図3において最外層の素線12の半径をrとし、内層の半径をdとする。このとき、高屈曲絶縁電線1の中心Oから最外層の素線12に向かう接線は、中心Oから2θの角度範囲で延びる線となる。このため、360°を2θで割った自然数をnとした場合、最外層では素線12をn本使用することにより丁度収まることとなる。
【0018】
ここで、本実施形態では最外層に用いられる素線12の数をn−1とする。これにより、最外層の素線12の本数が少なくなり、最外層の素線12間に隙間ができる。故に、屈曲時に最外層の素線が導体歪みを緩和するように素線が移動することとなり屈曲特性が向上させることとなる。
【0019】
さらに、本実施形態において最外層の素線12の半径rは、内層の素線11の半径よりも小さくされている。ここで、絶縁被覆材20の内径が固定されている場合、最外層の素線12と絶縁被覆材20の内側とに隙間が発生することとなる。これにより、屈曲時に最外層の素線12が導体歪みを緩和するように移動することとなり屈曲特性が向上させることとなる。
【0020】
図4は、本実施形態に係る高屈曲絶縁電線1と、従来の高屈曲絶縁電線とを比較した図表である。本実施形態に係る高屈曲絶縁電線1は、導体部10の材質が銅合金であり、導体構成が0.08/19(mm/本)であり、導体外径の平均が0.454mmである。また、絶縁被覆材20は、材料がPVC(polyvinyl chloride)であり、平均肉厚が0.206mmであり、仕上外径の平均が0.86mmである。また、高屈曲絶縁電線1の重量の平均は1.5g/mである。
【0021】
一方、従来の高屈曲絶縁電線は、導体部の材質が銅合金であり、導体構成が0.08/30(mm/本)であり、導体外径の平均が0.559mmである。また、絶縁被覆材は、材料がETFE(Ethylene Tetrafluoroethylene Copolymer)であり、平均肉厚が0.18mmであり、仕上外径の平均が0.92mmである。また、高屈曲絶縁電線の重量の平均は2.2g/mである。
【0022】
上記のような本実施形態に係る高屈曲絶縁電線1と従来の高屈曲絶縁電線とで180度屈曲試験を行った。この際、φ25のマンドレルを使用し、荷重を400gfとした。
【0023】
このとき、本実施形態に係る高屈曲絶縁電線1では147028回にて初期の導体抵抗から10%の抵抗値の上昇が発生した。一方、従来品に係る高屈曲絶縁電線では138970回にて初期の導体抵抗から10%の抵抗値の上昇が発生した。このように、本実施形態に係る高屈曲絶縁電線1は、導体部10を内層と最外層とに分け、内層にて素線11を集合撚りとし、最外層にて素線12を円周状に配置することで導体歪みを緩和でき、耐屈曲性が向上することがわかった。
【0024】
次に、本実施形態に係る高屈曲絶縁電線1の製造方法について説明する。まず、内層に用いる素線11を所定本数用意し、これを集合撚りする。次に、最外層に用いる素線12を上記したn−1本用意する。そして、内層の外周に円周状に配置する。これにより、導体部10が形成される。このとき、素線12は、内層の素線11よりも半径が小さいことが望ましい。
【0025】
次いで、絶縁被覆材20をチューブ状に押出成形し、これを上記導体部10上に設ける。これにより、本実施形態に係る高屈曲絶縁電線1が製造される。
【0026】
このようにして、本実施形態に係る高屈曲絶縁電線1によれば、導体部10は、内層が素線11を集合撚りしているため、素線11間に空間が生まれ屈曲時に導体歪みを緩和するように素線11が移動することとなり屈曲特性が向上する。また、最外層は内層の外周にて素線12を円周状に配置しているため、最外層が別に撚られることとなり素線12が内層に入り込むことが防がれる。従って、より高い屈曲性を有することが可能な高屈曲絶縁電線1を提供することができる。
【0027】
また、最外層の素線12の半径をrとし、内層の半径をdとし、360°を2θ(θは、sin−1(r/d+r))で割った自然数をnとした場合、最外層に配置される素線12の数はn−1である。このため、最外層の素線12の本数が少なくなり、最外層の素線12間に隙間ができ、屈曲時に最外層の素線12が導体歪みを緩和するように移動することとなり屈曲特性が向上する。
【0028】
また、最外層の素線12の半径は内層の素線11の半径よりも小さくされているため、絶縁被覆材20の内径が固定されている場合、最外層の素線12と絶縁被覆材20の内側とに隙間が発生して、屈曲時に最外層の素線12が導体歪みを緩和するように移動することとなり屈曲特性が向上する。
【0029】
また、図4に示すように、本実施形態に係る高屈曲絶縁電線1は、従来品と比較して軽量化及び細径化されているにも拘わらず、屈曲特性が向上させることができる。
【0030】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよい。
【0031】
例えば、本実施形態に係る高屈曲絶縁電線1は、素線11,12が銅合金であるが、これに限らず軟銅線など他の素材であってもよい。なお、素線11,12が銅合金(特に強度500MPa以上)であると、高屈曲絶縁電線1をコネクタに接続した場合において、高屈曲絶縁電線1が引っ張られたとしてもコネクタ抜けが発生し難くなり好適である。
【符号の説明】
【0032】
1…高屈曲絶縁電線
10…導体部
11…内層の素線
12…最外層の素線
20…絶縁被覆材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の素線を撚って形成された導体部上に絶縁被覆材を被覆した高屈曲絶縁電線であって、
前記導体部は、素線を集合撚りした内層と、当該内層の外周にて素線を円周状に配置した最外層とからなる
ことを特徴とする高屈曲絶縁電線。
【請求項2】
最外層の素線の半径をrとし、内層の半径をdとし、360°を2θ(θは、sin−1(r/d+r))で割った自然数をnとした場合、前記最外層に配置される素線の数はnー1である
ことを特徴とする請求項1に記載の高屈曲絶縁電線。
【請求項3】
前記最外層の素線の半径は、前記内層の素線の半径よりも小さくされている
ことを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の高屈曲絶縁電線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−174337(P2012−174337A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31795(P2011−31795)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】