説明

高度に同位体標識された二次微生物代謝産物の生産および対応する代謝産物

本発明は、液体合成培地において菌類または細菌類の同位体標識された二次代謝産物を生産するための方法に関する。本方法によれば、該合成は、炭素原子、窒素原子および/または硫黄原子の本質的にすべてが安定同位体に置き換えられた液体合成培地を添加しつつ、菌類または細菌類を不活性担体に固定化することによって実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体合成培地において菌類または細菌類の同位体標識された二次代謝産物を生産するための方法、および菌類または細菌類の同位体標識された二次代謝産物に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、同位体標識された物質は、特に、高製品処理能力で効率的な分光分析を可能とする質量分析検出を備えた液体クロマトグラフィー(LCMS)の技術において重要性が増している。この技術は、分子質量に関していかなる制限を課すことなく多くの様々な潜在的被検体に対して使用することができるが、個々の物質の検出において、分解スペクトルおよび個々の分子ピークの両方を適宜特定しなければならないという問題が生じる可能性がある。信頼性のあるLCMSの利用および方法を確実にするために、いわゆる内部標準物質の使用がますます重要になってきた。内部標準は、標的被検体そのものに極めて似ている、すなわち、特に、同じ分子構造を有する可能性があるが、分子量が異なる物質である。それゆえ、標的被検体の同位体標識した分子、すなわち、分子内の1個または数個の原子がこれらの同位体に置き換えられている分子は、理想的な内部標準であることがわかった。現在、このような物質は、例えば、水素または炭素を対応するより重い同位体で置換することによる有機合成によって生成されている。
【0003】
しかし、この文脈において、内部標準として使用する同位体標識した物質は、標的被検体からの明確な分離を可能とするためには少なくとも3の分子量の差を有すること、および可能ならば、できるだけ少ないアイソトポマーを含有する物質を使用することが望ましいことがLCMS分析において明らかとなった。
【0004】
同位体標識した植物または微生物の代謝産物を生産する方法は、各植物および/または微生物の生合成経路を介している。そうすることにおいて、培地には放射性標識した栄養物を補い、培地成分は、微生物もしくは植物培養の同化サイクルおよび代謝サイクルに特定の割合まで組み入れられて、同位体が代謝産物に取り込まれる。この方法では不完全な標識しか実現可能でなく、種々のアイソトポマーの混合物が通常形成され、このため、このような物質の使用に関して1つの標準だけでなく、アイソトポマーの広いスペクトルが適用され、それはそれでLCMS分光分析における標的物質の選択的検出をまったくできなくするか、または非常な困難を伴ってのみ可能にさせるので、このような同位体標識した物質、すなわち同位体標識された植物代謝産物もしくは微生物代謝産物を内部標準として使用するのにほとんど適さないものとするという欠点を有する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、出発物質に含まれる炭素原子、窒素原子もしくは硫黄原子のすべて、またはほとんどすべてが、安定同位体によって置換され、その結果分光分析処理、特にLCMSにおいて容易に、信頼性を有して検出可能な、単一の同位体標識された最終生産物を提供する、菌類または細菌類の同位体標識された二次代謝産物を生産するための方法を提供することを目的とする。本発明はさらに、分光分析プロセス、特にLCMSにおいて内部標準として安全に信頼性を有して使用することができる代謝産物を生産することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
これらの目的を解決するために、本発明による方法は、炭素原子、窒素原子および/または硫黄原子の実質的にすべてが安定同位体によって置換された液体合成培地を添加しつつ、菌類または細菌類を不活性担体に固定化することによって実施される仕方で、合成を行う。炭素原子、窒素原子および/または硫黄原子の実質的にすべてが安定同位体で置換された液体合成培地を添加しつつ、菌類もしくは細菌類を不活性担体に固定化することにより該合成を実現することによって、増殖による培地から得られる原子のすべて、または少なくとも95%が、すなわち、炭素、窒素もしくは硫黄原子が、従来技術においてしばしば記載されたように、様々な数の同位体原子を有する異なるホモログの混合物ではなく、選択的で、同位体標識された産物の回収を可能にするために培地中に含まれる同位体標識された栄養物のさらに安定した同位体によって置換された、菌類および細菌類の同位体標識された代謝産物を生産することが可能となった。したがって、この生産方法によって、選択的に使用でき、任意の分析、特に代謝の研究において明確に、疑いなく検出することができる同位体標識された二次代謝産物を得ることが可能である。
【0007】
さらなる展開によれば、本方法は、該液体合成培地において、糖もしくは糖アルコール、特にD−[U−13]−グルコース、13C−スクロース、13C−グリセロールおよび/または13C−アセテートを炭素源として使用し、15N−アミノ酸、15N−硝酸塩、15N−アンモニウム化合物または15N−尿素を窒素源として使用し、33Sもしくは34S−硫酸塩、33Sもしくは34S−硫化物、33Sもしくは34S−アミノ酸を硫黄源として使用する仕方で行われる。菌類または細菌類の代謝産物を増加させる場合、該液体合成培地に含まれている完全に標識された炭素、窒素および/または硫黄源のために、菌類または細菌類は、それぞれ、菌類または細菌類の二次代謝産物がそれぞれの同位体で標識されるか、または完全ではないが、高度に、各同位体によって置換されることを確実にするように、それぞれ標識された同位体を、代謝産物中に強制的に取り込ませる。
【0008】
菌類または細菌類の同位体標識された二次代謝産物の収率を改善するために、さらなる展開による本方法は、該液体合成培地が、Na、K、Ca++、Mg++、Fe+++、Zn++、Cu++、B+++、およびCO−−、SO−−、PO−−−、NOのイオンを有する無機塩類または、無機酸類および無機塩基類から選択される混合物をさらに含有する仕方で行われる。Na、K、Ca++、Mg++、Fe+++、Zn++、Cu++、B+++、およびCO−−、SO−−、PO−−−、NOのイオンを有する塩または酸および塩基が該液体合成培地に含まれているため、炭素、水素、窒素および硫黄に加えて菌類または細菌類に場合によって存在する任意の外来イオンは、迅速な増殖の他に高収率を確保するために十分な量で安全に与えられることが保証される。
【0009】
収率をさらに改善するために、大きな内部表面積を有する天然担体または合成担体、特にケイ酸塩、層状ケイ酸塩、ゼオライト、ベントナイト、焼成クレー、珪藻土、化学合成物などを該不活性担体として使用する。大きな内部表面積を有する不活性担体を使用することによって、大きな内部表面積を有する不活性担体を用いないで実施される従来の方法に対して、本発明による方法における収率を少なくとも50%改善することが可能である。収率におけるこのような増加は、本方法をより経済的にするだけでなく、同位体標識された二次代謝産物が分析、またはさらに代謝研究において内部標準として好適な仕方で使用されることを可能とするための該同位体標識された二次代謝産物の所望の最終生産物の十分な量が生産されることを確実にする。
【0010】
本発明によれば、特に、収率における最も大きな改善は、ケイ酸アルミニウム、例えば珪藻土、特にはkieselguhr、isolute HM−Nもしくはゼオライト、または層状ケイ酸塩、特には、雲母鉱物の群のバーミキュライトを該不活性担体として天然形態もしくは処理形態において使用することにおいて得られる。これらの物質に関して、表面張力、気孔率などの表面特性は、特に、担体表面上でとりわけ良好な回転速度を達成するために好適である。同様に、発泡材料、ポリアミド、シリコーン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエステルなどから選択され得る不活性合成担体の使用によって、収率におけるそれ相応に大きな改善が可能とされ、それによって大きな内部表面積を有する天然担体の使用、または合成担体の使用により、生産される代謝産物に応じて同様に向上した収率がもたらされる。
【0011】
高収率であると同時に、できる限り迅速な方法制御のために、本発明はさらに、生産を3℃から45℃、特に10℃から35℃の範囲の温度で実現することに展開される。この文脈において、生産方法は常に一定温度で行われないことだけでなく、示された制限内の温度変化がまた、改善された収率や加速された反応速度、または高い代謝回転数をももたらし得ることが好ましいことが一部明らかになった。
【0012】
できるだけ純粋な最終産物を得るために、本発明による方法は、同位体標識された二次代謝産物を、抽出および濃縮、例えば、固/液−液/液抽出、遠心分離、ろ過および蒸発のようなステップの組合せによって、該液体合成培地から回収する仕方で行われる。同位体標識された二次代謝産物の回収後、本発明によれば、クロマトグラフィー法、および特に、カラムクロマトグラフィー、分取薄層クロマトグラフィー、イオンクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、排除クロマトグラフィーおよび/または分取高圧液体クロマトグラフィーが精製操作として好ましく使用される、さらなる精製操作にこれら産物を供することが有利であることがわかった。このような再処理方法および精製操作は、炭素原子、窒素原子および/または硫黄原子の少なくとも95%がそれぞれの安定同位体で置換され、このように、例えば質量分光分析検出を備えた液体クロマトグラフィー(LCMS)において、天然起源の、重い同位体から十分区別できるために、これらの天然被検体に比べて適当な質量の差を有する産物の回収を可能にさせ、およびそれゆえに、例えば、このような分析において安定した、明確に同定可能な内部標準の提供を可能にする、菌類および細菌類の同位体標識された二次代謝産物の回収を可能にさせる。
【0013】
本発明は、安定同位体によって置換された、炭素原子、窒素原子および/または硫黄原子の実質的にすべて、特に少なくとも95%を含む、菌類および細菌類の同位体標識された二次代謝産物を提供することをさらに目的とする。
【0014】
本発明のさらなる展開によれば、菌類または細菌類のこのような同位体標識された二次代謝産物は、動物摂食試験における代謝研究、代謝研究、代謝サイクル、分解経路および/または分解期間ならびにインターカレーションの解明のための分析における内部標準として使用できる。述べられた使用目的のすべてにとって、個々の方法もしくは処理ステップを正確に再現することができるためには、試験スキームもしくは分解スキームにおいて、安定して明確に検出可能な標準、または、明確に検出でき追跡可能な物質を得たことが最も重要である。
【0015】
さらなる展開によれば、マイコトキシン類、特にニバレノール、デオキシニバレノール、3−アセチル−デオキシニバレノール、15−アセチルデオキシニバレノール、フサレノン−X、T−2毒素、HT−2毒素、DASなどのトリコテセン、フモニシンB1、B2もしくはB3などのフモニシン、オクラトキシンA、B、CもしくはDなどのオクラトキシン、ゼアラレノン、モニリホルミンまたはアフラトキシンB1、B2、G1もしくはG2などのアフラトキシンを、分析方法または分解経路などの代謝研究において代謝産物として使用する。マイコトキシン類は、動物疾患の病因学において重要性が増しており、できるだけ明確に区別でき、純粋な化学物質を使用することによって、それぞれの毒物学的獣医試験をその後に実施することができるために、このような物質の十分な量を工業的に生産することが必要である。マイコトキシンはヒトおよび動物に対する深刻な健康リスクを構成するので、特に多くの国が既にこのような物質の許容範囲に対するガイド値および制限値を設定してきて以来、これらの分析論は、地球規模で重要なテーマである。正確に検出でき、それゆえ、それぞれの毒素の量的分析を可能にする内部標準の使用によるこのようなマイコトキシンの検出および定量は、このような有害物質の検出において重要な進歩を構成している。
【0016】
同様にまた、毒素の定量的検出または追跡、および特に、本発明のさらなる展開に合致するように、内毒素および外毒素、特に大腸菌種、サルモネラ種、クロストリジウム種、バチルス種もしくはスタフィロコッカス種の細菌毒素が、公衆衛生ならびに食品および半高級食品における有害物質の検出のために非常に重要である。また、抗生物質などの代謝産物の使用および、特に、テトラサイクリン、ストレプトマイシンもしくはアミノグリコシドなどのアクチノマイセテスから作られる抗生物質、バシトラシンもしくはポリミキシンなどのバチルス種から作られる抗生物質、ペニシリンもしくはグリセオフルビンなどのペニシリウムから作られる抗生物質、またはセファロスポリウムから作られるセファロスポリン類が、特に疾患の事象において、または食品および半高級食品におけるこのような物質の検出のために重要性が増しており、ここでまた、抗生物質のような代謝産物の定量的検出を可能にさせる物質が一般社会にとって極めて重要であることが、これらの物質にとってあてはまる。
【0017】
さらなる展開によれば、13C、15N、または33Sもしくは34Sの標識度を有する純物質が代謝産物として使用され、それゆえ、一方で、非標識物質もしくは代謝産物からの明確な区別を可能とし、他方でまた、天然同位体からの区別を安全に確実にし、および最後に、分析および検出処理において正確に追跡可能である物質を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下において、高度に同位体標識された代謝産物の生産を説明する実施例により本発明をより詳細に説明する。
【実施例1】
【0019】
高度に同位体標識された[U−1315]−デオキシニバレノール(DON)の生成
完全に標識された13C−DONを生成するために、フサリウム菌類、すなわちFusarium graminearumを、不活性担体物質、すなわちバーミキュライトに接種し、KHPO0.5g、NaNO2.0g、MgSO・7HO0.7g、KCl2.0g、D−[U−13]グルコース15g、NHPO1.5g、Fe(II)SO・7H015mgまたはZnSO・7HO20mgからなり、D−[U−13]グルコースを唯一の炭素源として含む合成培地においてインキュベートする。約28℃で5週間後に、毒素含有物質を酢酸エチルで抽出し、その後、抽出、クロマトグラフィーおよび結晶化によって標準品質(純度>98%)まで精製する。
【0020】
約40mlのインキュベーション培地を生成処方毎に用意する。この後、プールした毒素含有物質をさらに処理する。1000mlの処方またはバッチから、5から50mg[7.5から17.5mg]の完全に標識された[U−1315]−DONが得られる。
【0021】
精製された生成物を、以下の分析処理によって特徴付けした。
【0022】
H NMRおよび13C−NMR
13C同位体部分を決定するためのLC−MS/MS Qトラップ
UV/VISおよびHPLC−DADを使用する参照物質に対する純度および濃度の決定
濃度の調整
【0023】
UV/VIS、HPLC−DAD、LC−MS/MS Aトラップを使用する品質管理
このように高度に同位体標識した1315−デオキシニバレノール(1315−DON)は、例えば、内部標準として使用でき得る。このような内部標準は、厳密に15g/モルだけ重い分子質量を有し、質量スペクトルにおけるその信号(図1)は、その結果、被検体の信号より厳密に15amu高く現れる。13C−標識されたDONの他の化学的および物理的特性はすべて、被検体のものと同一であるので、このような内部標準は、被検体と同じフラグメンテーションを正確に示し、また、該物質のイオン化も同一であり、それゆえ、さらにイオン化収率も同一である。これは、フラグメントもしくは物質イオンの信号高さが内部標準および被検体の間で同じになり、内部標準の濃度は分析において既知であるので、被検体の濃度に関して、直接の結論を導くことができ、このことがこのような高度に標識されたデオキシニバレノールがほとんど理想的な内部標準を構成する理由である。
【0024】
図1は、収集された質量スペクトルにおける12C−DONおよび13C−DONを示す。それぞれ295.2および310.2での12C−DONおよび1315−DONの分子ピークに加えて、図1はまた、C原子のすべてが標識されておらず、それゆえ、1つの同位体種(アイソトポマー)から成っていない化合物の分布を示す。天然デオキシニバレノールの場合、これは、12Cおよび13C間の自然分布に相当する13−DONである。
【実施例2】
【0025】
高度に同位体標識した13C−フモニシンの生成
13Cで完全に標識したフモニシンを生成するために、KHPO0.5g、KNO0.5g、MgSO・7HO0.7g、KCl2.0g、D−[U−13]グルコース17.5g、NHPO1.5g、Fe(II)SO・7H015mgおよびZnSO・7H020mgからなり、唯一の炭素源としてD−[U−13]グルコースを用いて、1×1×1cmのフォーム立方体に塗布された液体培地1000mlにFusarium moniliformeを接種し、28℃、相対湿度70%のインキュベータにおいてインキュベートする。3週間後、毒素含有物質を1:1のアセトニトリル:水を含有する溶媒混合物で抽出し、その後、抽出ステップならびに、イオン交換クロマトグラフィー、シリカゲルを用いたフラッシュカラムクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィーおよび分取HPLCなどのクロマトグラフィーステップによって標準品質(純度>98%)まで精製する。
【0026】
このように、1000ml処方当たり、80から240mgの13C−フモニシンを得る(HPLC−FLD)。
【実施例3】
【0027】
高度に同位体標識した[U−1317]−3−アセチルデオキシニバレノールの生成
[U−1317]−3−アセチルデオキシニバレノールを生成するために、KHPO0.5g、KNO0.5g、MgSO・7HO0.7g、KCl2.0g、D−[U−13]グルコース17.5g、NHPO1.5g、Fe(II)SO・7HO15mgおよびZnSO・7HO20mgからなり、唯一の炭素源として完全に同位体標識した[U−13]−グルコースを含み、珪藻土、すなわちIsolute HM−Nに塗布した合成液体培地1000mlに、Fusarium graminearumを接種し、インキュベータ中28℃で9日間インキュベートする。9日後に、毒素含有物質を収集し、アセトニトリル/水共沸混合物で抽出し、その後、抽出、クロマトグラフィー、結晶化、Buchi−MPLCおよび再結晶化によって標準品質(純度>98%)まで精製する。1バッチから、高純度最終生産物約15〜50mgを得ることができる。純度の試験は、C18−キャピラリーカラムを使用してLC−UV分析によって行う。
【0028】
このように生成された同位体標識した3−アセチルデオキシニバレノールは、非標識の、または完全には標識されていないもしくは不完全に標識された3−アセチルデオキシニバレノールの分子質量よりも17g/モル重い分子質量を有する。不完全に標識された3−アセチルデオキシニバレノールは、M/z=338の分子質量を有し、一方完全に同位体標識された生成物は、355の分子質量を有する。図2は、純13C−3−アセチル−デオキシニバレノールの質量スペクトルを示し、これから、生成物が75%標識され、生成物の同位体分布が明らかであることがわかる。この事例における生成物および不完全に標識されたアイソトポマーの分布は、出発物質の13−グルコースの同位体純度に依存し、完全に純粋な13−グルコースを使用する場合は、完全に標識された生成物へ明らかになおシフトできる。しかし、図2から、13個未満の13C−原子を有するアイソトポマーが事実上存在せず、13C−3−アセチル−デオキシニバレノールはまた、内部標準として完全に使用できることが疑いなく明らかである。
【実施例4】
【0029】
高度に同位体標識された[U−1317]−15−アセチルデオキシニバレノールの生成
高度に同位体標識された[U−1317]−15−アセチルデオキシニバレノールを生成するために、KHPO0.5g、NaNO2.0g、MgSO・7HO0.7g、KCl2.0g、D−[U−13]グルコース15g、NHPO1.5g、Fe(II)SO・7HO15mgおよびZnSO・7HO20mgからなる培地に、粗い粒子のフィロケイ酸塩担体上のFusarium graminearumを接種し、インキュベータ中28℃でインキュベートする。9日後に、毒素含有物質を収穫し、酢酸エチルで抽出し、その後、抽出、クロマトグラフィーおよび結晶化によって標準品質(純度>98%)まで精製する。結晶化に代えて、分取HPLCを使用するさらなる精製ステップもまた適用され得る。
【0030】
約30から60mgの高純度の標的生成物を1発酵バッチから得ることができる。
【実施例5】
【0031】
高度に同位体標識された[U−1315]−ニバレノールまたは[U−1317]−フサレノン−Xの生成
高度に同位体標識された[U−1315]−ニバレノールまたは[U−1317]−フサレノン−Xを生成するために、KHPO0.5g、NaNO2.0g、MgSO・7HO0.7g、KCl2.0g、D−[U−13]グルコース15g、NHPO1.5g、Fe(II)SO・7HO15mgまたはZnSO・7HO20mgからなり、唯一の炭素源として[U−13]−グルコースを用いた液体培地および不活性フィロケイ酸塩にFusarium nivaleを接種し、28℃で5週間インキュベートする。この後、毒素含有物質をメタノールおよびメチレンクロライドで抽出し、その後、抽出、クロマトグラフィーおよび結晶化によって標準品質(純度>98%)まで精製する。結晶化に代えて、分取HPLCを使用するさらなる精製ステップもまた適用され得る。
【実施例6】
【0032】
高度に同位体標識された[U−1320]−オクラトキシンAの生成
該標的物質を得るために、不活性フィロケイ酸塩担体上の真菌Petromyces albertensisを、KHPO0.5g、NaNO2.0g、MgSO・7HO0.7g、KCl2.0g、D−[U−13]グルコース15g、NHPO1.5g、Fe(II)SO・7HO15mgまたはZnSO・7HO20mgからなり、唯一の炭素源として完全に13C標識されたグルコースを含む合成液体培地を用いて発酵する。次いで、フラスコを28℃、70%大気湿度で6週間インキュベータ中でインキュベートし、その後トルエンで抽出する。標的物質を、前述の実施例におけるようなカラムクロマトグラフィーおよび再結晶化によって精製する。
【実施例7】
【0033】
高度に同位体標識された[U−1318]−ゼアラレノンの生成
高度の同位体標識された[U−1318]−ゼアラレノンを生成するために、KHPO0.5g、KNO0.5g、MgSO・7HO0.7g、KCl2.0g、D−[U−13]グルコース17.5g、NHPO1.5g、Fe(II)SO・7HO15mgおよびZnSO・7HO20mgからなり、唯一の炭素源としてD−[U−13]グルコースを用いて、粒状形態における多孔性焼成クレー、いわゆるセラミス(Seramis)またはレッカ(Lecca)上に塗布された液体培地1000mlに、Fusarium semitectrumを接種し、28℃、70%相対湿度で、インキュベータ中でインキュベートする。3週間後に、毒素含有物質を純石油エーテルおよび石油エーテル/酢酸エチル(4/1および2/1)の混合物を用いて抽出し、その後、抽出ステップ、ならびに、イオン交換クロマトグラフィー、シリカゲルを用いたフラッシュカラムクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィーおよび分取HPLCなどのクロマトグラフィーステップによって、標準品質(純度>98%)まで精製する。
【実施例8】
【0034】
高度に同位体標識された15−ロクェフォルチンCの生成
窒素同位体15Nで完全に標識されたロクェフォルチンCを生成するために、KHPO0.8g、MgSO・7HO0.7g、KCl1.0g、D−グルコース17.5g、15NH15NO1.0g、NaHPO1.5g、Fe(II)SO・7HO15mg、ZnSO・7HO20mgからなり、唯一の窒素源として15NH15NOを用いて、粗い珪藻土(kieselguhr)上に塗布した液体培地1000mlに、Penicillium communeを接種し、12℃、70%の大気湿度で、インキュベータ中でインキュベートする。48日後に、毒素含有物質を9:1のクロロホルム:メタノールからなる有機溶媒で抽出し、その後、液−液抽出、シリカゲルを用いたフラッシュカラムクロマトグラフィー、および分取HPLCによって標準品質(純度>98%)まで精製する。1000mlの処方当たり、300mgの15−ロクェフォルチンCが得られる(HPLC−FLD)。
【実施例9】
【0035】
高度に同位体標識された1533S−ペニシリンの生成
窒素同位体15Nおよび硫黄同位体33Sで完全に標識されたペニシリンを生成するために、KHPO1.0g、MgCl0.2g、D−グルコース20.0g、15NH15NO1.0g、Na33SO0.5g、NaHPO1.5g、Fe(II)Cl5mg、ZnCl5mgからなり、唯一の窒素源として15NH15NO、および唯一の硫黄源としてNa33SOを用いて、小さな発泡体の立方体上に塗布した液体培地1000mlに、Penicillium notatumを接種し、インキュベータにおいて28℃、70%大気湿度でインキュベートした。30日後、毒素含有物質を酢酸エチルで抽出し、その後、液−液抽出、シリカゲルを用いたフラッシュカラムクロマトグラフィー、および分取HPLCによって標準品質(純度>98%)まで精製する。処方1000ml当たり、500mgの1533S−ペニシリンが得られる(HPLC−FLD)。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】収集スペクトルにおける12C−DONおよび13C−DON
【図2】純13C−3−アセチル−デオキシニバレノールの質量スペクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素原子、窒素原子および/または硫黄原子の実質的にすべてが安定同位体によって置換された液体合成培地を添加しつつ、菌類または細菌類を不活性担体上に固定化することによって合成を実施することを特徴とする、液体合成培地において菌類または細菌類の同位体標識された二次代謝産物を生産する方法。
【請求項2】
液体合成培地において、多糖または糖アルコール、特にはD−[U−13]−グルコース、13C−スクロース、13C−グリセロールおよび/または13C−アセテートを炭素源として使用し、15N−アミノ酸、−硝酸塩、−アンモニウム化合物または15N−尿素を窒素源として使用し、33S−もしくは34S−硫酸塩、−硫化物、または−アミノ酸を硫黄源として使用することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
液体合成培地が、イオンNa、K、Ca++、Mg++、Fe+++、Zn++、Cu++、B+++、およびCO−−、SO−−、PO−−−、NOを有する無機塩または酸および塩基から選択される混合物をさらに含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記不活性担体として、大きい内部表面積を有する天然または合成担体、特にケイ酸塩、層状ケイ酸塩、ゼオライト、ベントナイト、焼成クレー、珪藻土、化学合成物などを使用することを特徴とする、請求項1、2、または3に記載の方法。
【請求項5】
前記不活性担体として、珪酸アルミニウム、例えば、ゼオライトもしくは層状ケイ酸塩、特に、雲母鉱物の群のバーミキュライトを、天然もしくは処理形態で使用することを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記不活性合成担体として、発泡材料、ポリアミド、シリコーン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエステルなどが使用されることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
生産を、3から45℃、特に10から35℃の範囲の温度で実現することを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
同位体標識された二次代謝産物を、抽出および濃縮、例えば、固/液−液/液抽出、遠心分離、ろ過および蒸発のようなステップの組合せによって液体合成培地から回収することを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
精製プロセスとして、クロマトグラフィー法、ならびに特に、カラムクロマトグラフィー、分取薄層クロマトグラフィー、イオンクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、排除クロマトグラフィーおよび/または分取高圧液体クロマトグラフィーを使用することを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
分析における内部標準の生産と、動物飼育試験における代謝研究と、代謝研究と、代謝サイクル、分解経路および/または分解期間、ならびにインターカレーションを明らかにすることのための、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法によって生産される、菌および細菌の同位体標識された二次代謝産物。
【請求項11】
代謝産物として、マイコトキシン、特に、ニバレノール、デオキシニバレノール、3−アセチル−デオキシニバレノール、15−アセチルデオキシニバレノール、フサレノン−X、T−2毒素、HT−2毒素、DASなどのトリコテセン、フモニシンB1、B2もしくはB3などのフモニシン、オクラトキシンA、B、CもしくはDなどのオクラトキシン、ゼアラレノン、モニリホルミン、またはアフラトキシンB1、B2、G1もしくはG2などのアフラトキシンを使用することを特徴とする、請求項10に記載の代謝産物。
【請求項12】
代謝産物として、内毒素類および外毒素類などの毒素、特に大腸菌種、サルモネラ種、クロストリジウム種、バチルス種、またはスタフィロコッカス種の細菌毒素を使用することを特徴とする、請求項10に記載の代謝産物。
【請求項13】
代謝産物として、抗生物質、および特に、テトラサイクリン、ストレプトマイシンもしくはアミノグリコシドのようなアクチノマイセテスから作られる抗生物質、バシトラシンもしくはポリミキシンのようなバチルス種から作られる抗生物質、ペニシリンもしくはグリセオフルビンのようなペニシリウムから作られる抗生物質、またはセファロスポリウムから作られるセファロスポリンを使用することを特徴とする、請求項10に記載の代謝産物。
【請求項14】
少なくとも95%の、13C、15N、または33Sもしくは34Sを用いた標識度を有する純物質としての、請求項10から13のいずれか一項に記載の代謝産物。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−534027(P2008−534027A)
【公表日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−507631(P2008−507631)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【国際出願番号】PCT/AT2006/000129
【国際公開番号】WO2006/105563
【国際公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(500303696)エルベル・アクチエンゲゼルシヤフト (6)
【Fターム(参考)】