説明

高強度アルミニウム合金および高強度アルミニウム合金材ならびに該合金材の製造方法。

【課題】 高強度アルミニウム合金材を効率よく加工でき、かつ、製品として十分に高い強度を得ることを可能にする。
【解決手段】 質量%で、Zn:5〜8%、Mg:1〜2%、Cu:0.25〜0.6%、Ti:0.001〜0.05%、Fe:0.15超〜0.35%を含み、さらにMn:0.05〜0.5%、Cr:0.05〜0.15%、Zr:0.05〜0.25%のうち1種以上を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金を溶体化焼入れ処理後に時効処理を行い、耐力を270〜350MPaとする。その後、必要に応じて第二の時効処理を行う。生産性が良く、軽量、高強度で加工性に優れた材料を効率的に製造することが可能になる。得られた材料は、メッキ性、耐SCC性にも優れている。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
自転車のギヤ材などでは、軽量で強度の高い高強度アルミニウム合金の使用が主となっており、該高強度アルミニウム材としては、Al−Zn−Mg−Cu系の7075合金(例えば特許文献1)、Al−Cu−Mg系の2014、2024合金などが用いられている。また、強度レベルは落ちるものの生産性に優れることからAl−Zn−Mg系の7N01合金等が用いられる場合もある。自転車のギヤ材では、上記のような高強度アルミニウム合金を用いて、図2に示すように、鋳造、熱間圧延、冷間圧延を経て、シート状にカッティングした板材10をバッチ炉11による溶体化処理を1〜2時間をかけて行い、その後、水冷を行うことで所定の強度を得ている。その後、前記板材10を打ち抜いてギア粗材12とし、該ギア粗材12に切削加工を行って所定の形状に加工し、さらに時効処理を行うことで所望の強度のギア材13を得ている。その後、所望によりメッキ処理を行って表面への装飾を施して製品化している。
【特許文献1】特開平9−31688号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
しかし、前記したAl−Cu−Mg系高強度アルミニウム合金は鋳造割れが生じやすく、圧延時にはサイドクラックの発生が多いことから歩留りが悪くなるという問題がある。また、Al−Zn−Mg系に前記問題は生じにくいが、強度が低いことおよびメッキ性が良好でないという問題がある。また、上記した各高強度アルミニウム合金では、溶体化処理後にそのまま、もしくは10%以下の冷間加工を行った後に打ち抜きや切削を伴うギア等の製作を行うと、強度が低いために平面度の悪化や切削時に切粉が連続して作業性を損なうことがあり、逆に製品としての必要強度を板材であるうちに付与しておくと、工具摩耗が速いなどの弊害が出るため、製造効率に劣るという問題がある。また、上記高強度アルミニウム合金からなるギア材などでは、耐応力腐食割れ性(以下耐SCC性という)に劣っているという問題もある。
【0003】
本発明は、上記事情を背景としてなされたものであり、鋳造割れなどがなくて生産性に優れ、さらに加工性、メッキ性、耐応力腐食割れ性などに優れた高強度アルミニウム合金および高強度アルミニウム合金材ならびに該合金材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
すなわち、請求項1記載の本発明の高強度アルミニウム合金は、質量%で、Zn:5〜8%、Mg:1〜2%、Cu:0.25〜0.6%、Ti:0.001〜0.05%、Fe:0.15超〜0.35%を含み、さらにMn:0.05〜0.5%、Cr:0.05〜0.15%、Zr:0.05〜0.25%のうち1種以上を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなることを特徴とする。
【0005】
請求項2記載の高強度アルミニウム合金材の発明は、請求項1記載の組成を有し、結晶粒組織が繊維状組織であり、該結晶粒の長径側が平均で50μm以下であることを特徴とする。
【0006】
請求項3記載の高強度アルミニウム合金材の製造方法の発明は、請求項1記載の高強度アルミニウム合金に溶体化焼入れ処理後に時効処理を行い、耐力を270〜350MPaとすることを特徴とする。
【0007】
請求項4記載の高強度アルミニウム合金材の製造方法の発明は、請求項3記載の発明において、前記溶体化焼入処理は、460〜540℃で30〜120秒保持した後、強制空冷30〜600℃/分の冷却速度で冷却することを特徴とする。
【0008】
請求項5記載の高強度アルミニウム合金材の製造方法の発明は、請求項3または4に記載の発明において、前記時効処理は、80〜120℃で5〜8時間加熱保持することを特徴とする。
【0009】
請求項6記載の高強度アルミニウム合金材の製造方法の発明は、請求項3〜5のいずれかに記載の発明において、前記時効処理後に加工を行い、その後、さらに第二の時効処理を行うことを特徴とする。
【0010】
請求項7記載の高強度アルミニウム合金材の製造方法の発明は、請求項6記載の発明において、前記第二の時効処理は、140〜170℃で4〜16時間加熱保持することを特徴とする。
【0011】
請求項8記載の高強度アルミニウム合金材の製造方法の発明は、請求項3〜7のいずれかに記載の発明において、前記高強度アルミニウム合金材が自転車用ギヤ材であることを特徴とする。
【0012】
以下に、本発明で規定する内容について以下に説明する。なお、以下で示す含有量は、いずれも質量%で示されるものである。
【0013】
(高強度アルミニウム合金)
Zn:5.0〜8.0%
ZnはMgと共存してMgZnを形成し強度を向上させる。また、この化合物がメッキ処理前の酸洗い時に溶解して均一微細なエッチピットを形成し、メッキ層の密着性を向上させる。ただし、下限未満ではこれらの効果が少なく、上限を超えると粒界に優先析出する量が多くなりメッキ性が低下するので、Zn含有量を5.0〜8.0%に定める。なお、同様の理由で下限を6.0%、上限を8.0%とするのが望ましい。
【0014】
Mg:1.0〜2.0
MgはZnと共存してMgZnを形成し強度を向上させる。また、この化合物がメッキ処理前の酸洗い時に溶解して均一微細なエッチピットを形成し、メッキ層の密着性を向上させる。下限未満ではこれらの効果が少なく、上限を超えると熱間加工性が著しく低下するので、Mg含有量を1.0〜2.0%に定める。
【0015】
Cu:0.25〜0.6%
CuはMgやZnと同様に強度を向上させると共に他の元素と化合物を形成し、酸洗い時のエッチピットの形成に寄与する。また、粒界に優先析出するMgZnに対して作用し顕著な粒界エッチングを抑止する効果があるため、均一なエッチングに寄与する。下限未満ではこれらの効果が無く、上限を超えると鋳造割れを生じ易くなる。Cu量の高い合金は、メッキ性は良好であるが鋳造割れを起こす可能性が高いため、鋳塊の製造が非常に難しくなるため、Cu量を上限以下とすれば低コストの製品を製造できるようになる。これら理由によりCu量を0.25〜0.6%に定める。
【0016】
Ti:0.001〜0.05%
Tiは鋳造組織を微細にする。ただし、下限未満ではこの効果が小さく、上限を超えるとその効果が飽和するばかりか巨大な金属間化合物を生成しメッキ性を悪化させるので、Ti量を0.001〜0.05%に定める。なお、同様の理由で下限を0.02%、上限を0.04%とするのが望ましい。
【0017】
Fe:0.15超〜0.35%
Feはアルミニウム合金中では不純物として扱われることも多いが、鋳造割れを抑止する効果があることがわかった。アルミニウム中へのFeの最大固溶度は655℃平衡状態で0.052%であるので、そのほとんどは金属間化合物として鋳造時に晶出する。下限未満ではその鋳造割れ抑止効果が小さく、上限を超えると粗大な金属間化合物を形成しメッキ欠陥の原因となったり、鋳塊製造時に特徴的なマクロ組織を生成し、それに起因した帯状の表面欠陥として圧延後の板表面に現れたりすることがあるので、Fe量を0.15超〜0.35%に定める。なお、同様の理由で下限を0.25%、上限を0.35%とするのが望ましい。
【0018】
Mn:0.05〜0.5%
Cr:0.05〜0.15%
Zr:0.05〜0.25%
Mn、Cr、Zrは、均質化処理時に微細な金属間化合物を形成し、再結晶を抑止して製品の結晶粒を繊維状組織とするので1種以上を含有させる。各成分で、下限未満ではその効果が不充分であり、上限を超えるとその効果が飽和するばかりか粗大な金属間化合物を形成しメッキ欠陥の原因となるので、Mn、Cr、Zrの含有量をそれぞれ上記に定める。なお、同様の理由でMnの下限を0.25%、上限を0.35%とするのが望ましく、Crの下限を0.05%、上限を0.10%とするのが望ましく、Zrの下限を0.15%、上限を0.25%とするのが望ましい。
その他の不純物はおのおの0.05%以下であることが望ましい。
【0019】
(高強度アルミニウム合金材)
結晶粒組織が繊維状組織、該結晶粒の長径側が平均で50μm以下
結晶粒組織の長径側の平均粒径が50μmを超えると強度に及ぼす結晶粒径の影響が小さくなる為に所望の強度が得られないばかりか、耐SCC性が劣化する。なお、長径側の平均粒径は、1μm以上が望ましい。1μm未満となると、部品製造時の耐力が350MPaを超えてしまい工具の摩耗が顕著になる。
【0020】
(高強度アルミニウム材の製造方法)
溶体化焼入れ処理、時効処理後の耐力:270〜350MPa
溶体化焼入処理、時効処理を行って耐力270〜350MPaに調整することにより、その後の打ち抜き、切削加工などの加工処理を円滑に行うことができ、切削工具などへの負担も小さくすることができる。耐力が270MPa未満であると、加工処理を円滑に行うことが困難になり、また350MPaを超えると、強度が高すぎて加工が難しくなり、切削工具の摩耗などが顕著になる。
【0021】
溶体化焼入れ処理:460〜540℃×30〜120秒加熱
強制空冷
溶体化処理は、焼入処理の前処理として、添加元素を固溶させることを目的として行う。溶体化処理によって固溶した元素がその後の時効処理によって析出して、高強度化が可能になる。溶体化処理に際し、加熱温度が460℃未満では、溶体化が十分になされず、一方、540℃を超えると、局部的な溶融が起こり欠陥となるため上記温度範囲が望ましい。また、溶体化処理時の加熱保持時間は、溶体化が十分になされるように、30秒以上とするのが望ましい。本発明法では、特定組成のアルミニウム合金を対象にして溶体化処理を行っており、該組成においては、30秒の加熱時間によって必要な固溶がなされる。一方、120秒を超えると、結晶粒が粗大化して十分な強度が得られないため、上記加熱時間が望ましい。
また、溶体化処理後に急速に冷却することで、溶体化処理で固溶した元素がそのまま冷却される。このため、溶体化処理における冷却速度は30℃/分以上とするのが望ましい。一方、強制空冷を超える冷却速度(600℃/分超)で冷却を行うと、耐SCC性が低下する。これは粒界の析出物が細かくなり腐食しやすくなるためと考えられる。
【0022】
時効処理:80〜120℃×5〜8時間
溶体化処理を行ったままでは、材料の強度は十分ではなく、その後、打ち抜き、切削などの加工を行うと、材料が柔らかすぎて良好な加工を行うことが困難である。したがって溶体化処理後時効処理を行って耐力270〜350MPaの強度を得ることで良好な加工が可能になる。
時効処理では、温度が80℃未満であると、時効が十分になされず強度向上作用が不十分であり、一方、120℃を超えると強度が高くなりすぎるので、時効処理温度を80〜120℃とするのが望ましい。また、時効処理時間は、5時間未満であると時効が十分になされず強度向上作用が不十分であり、一方、8時間を超えても効果は飽和し、生産上現実的でないので、上記時間範囲が望ましい。
【0023】
溶体化処理および時効処理後には、所望の加工が施される。代表的には、打ち抜き、切削の加工が例示される。本発明としては当該加工方法および加工内容が特に限定されるものではなく、最終品の種別に応じて必要な加工が選定される。
【0024】
第二の時効処理:140〜170℃×4〜16時間
上記加工処理後、必要に応じて第二の時効処理を実施することができる。上記した第一の時効処理では、最終品としての強度が十分でないような場合に第二の時効処理を行う。このように、加工後に第二の時効処理を行うことにより、加工時に強度が高すぎて加工が困難になるのを回避できる。
第二の時効処理では、最終品の種別によっても異なるが、400〜500MPaの0.2%耐力とすることができる。
第二の時効処理では、加熱温度を140℃以上とするのが望ましい。温度が140℃未満であると、時効が不足した亜時効状態になるため、強度向上作用が不十分であり、耐SCC性にも劣る。一方、170℃を超えると過時効が行過ぎて、却って強度が低下するので、第二の時効処理の温度を140〜170℃とするのが望ましい。また、時効処理時間は、4時間未満であると時効が十分になされず強度向上作用が不十分であり、一方、16時間を超えても効果は飽和し、生産上現実的でないので、上記時間範囲が望ましい。
【0025】
本発明のアルミニウム合金材は、その用途が特に限定されるものではないが、好適には軽量、高強度で耐SCC性などの耐腐食性に優れた自転車用ギア材として用いることができる。
また、本発明のアルミニウム合金材は、必要に応じてメッキなどの表面処理を行うことができる。メッキ方法としては、電解メッキ、無電解メッキなどが挙げられる。
【発明の効果】
【0026】
以上、説明したように、本発明の高強度アルミニウム合金によれば、質量%で、Zn:5.0〜8.0%、Mg:1.0〜2.0%、Cu:0.25〜0.6%、Ti:0.001〜0.05%、Fe:0.15超〜0.35%を含み、さらにMn:0.05〜0.5%、Cr:0.05〜0.15%、Zr:0.05〜0.25%のうち1種以上を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなることを特徴とするので、鋳塊割れが抑止されるため生産性が良く、軽量、高強度で加工性に優れた材料を効率的に製造することが可能になる。
【0027】
また、本発明の高強度アルミニウム合金材によれば、上記組成を有し、結晶粒組織が繊維状組織であり、該結晶粒の長径側が平均で50μm以下であるので、高い強度が得られ、さらに優れた耐SCC性と加工性とを兼ね備えるという効果が得られる。
【0028】
さらに、本発明の高強度アルミニウム合金材の製造方法によれば、前記組成の高強度アルミニウム合金を溶体化焼入れ処理後に時効処理を行い、耐力を270〜350MPaとするので、適度な強度を有することにより優れた加工性を得ることができる。加工後、さらに第二の時効処理を施すことでさらに高強度とすることができ、加工性を損なうことなく高強度の製品を得ることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下に、本発明の一実施形態を図1に基づいて説明する。
本発明のアルミニウム合金組成に調整し、常法により溶製することができる。鋳造に際しては、鋳造割れが効果的に防止される。これにより大型鋳塊の製造が可能になり、低コストの素材の製作が可能となる。
その後、熱間圧延、冷間圧延などを経て溶体化処理に供することができる。圧延時には、サイドクラックの発生も少なく効率よく圧延がなされる。
また、連続鋳造圧延によって板材を得て溶体化処理に供することもできる。すなわち、本発明においては、その組成が特定されるものの、溶体化処理に至る製造過程は特定に限定されるものではなく、必要に応じて適宜の製造過程を経ることができる。
溶体化焼入処理では、前述したように、好適には、460〜540℃×30〜120秒の加熱条件により溶体化を行い、その後、強制空冷により焼入を行うことができる。上記溶体化処理は、急速加熱、急速冷却が可能な連続炉により行うのが望ましく、コイル状としたアルミニウム合金材1を連続炉2で急速加熱、急速冷却し、コイル状に巻き取って効率よく次工程に供することができる。なお、強制空冷は、例えば冷却速度として上限を5℃/秒として示すことができる。
上記溶体化焼入処理を行ったアルミニウム合金材には、好適には80〜120℃×5〜8時間の加熱条件によって時効処理を行い、耐力270〜350MPaとする。なお、上記時効処理は、既知の加熱炉などを用いて行うことができる。
【0030】
上記溶体化焼入処理および時効処理を施したアルミニウム合金材は、製品形状に従って打ち抜き加工を行ってギア粗材3を得て、さらに該ギア粗材3に歯車型性のために切削加工を施してギア材4を得る。該加工工程では、円滑に打ち抜き、切削加工を行うことができる。
該ギア材4は、製品としてさらに高い強度が必要とされるため、第二の時効処理を好適には140〜170℃×4〜16時間の加熱条件で施して、ギア材としては引張強さで430MPa以上、ギアの耐久性をより満足するには450MPa以上の引張強さを有するものとするのが望ましい。
該ギア材は、必要に応じて、電解メッキ、無電解メッキなどによりメッキなどの表面処理を行って製品化する。メッキ処理では、前処理としてのエッチング処理でギア材にピットが良好に形成され、メッキ皮膜が良好に形成される。得られたギア材は、軽量で高い強度を有しており、さらに耐SCC性にも優れている。なお、本発明としては表面処理の内容が特定のものに限定されるものではなく、表面処理を行わないものであっても良い。
【実施例1】
【0031】
以下に、本発明の実施例を説明する。表1に示す合金成分を有する大型鋳塊を半連続鋳造により製造した。この鋳塊を480℃×12hrの均質化処理後に390℃で熱間圧延を開始し板厚6mmに圧延し、その後、冷間圧延して2.8mmの板とした。続いて表2に示す条件で溶体化処理と、一部材料には表2に示す時効処理を施し、それぞれ耐力の測定を行った。これら供試材については以下に示す切削性評価試験を行った。
【0032】
さらに、上記中間熱処理を施した供試材について、表2に示す最終の時効処理を施し引張強さを測定した。
上記処理を行ったそれぞれの供試材についてめっき処理を施し、耐SCC性の評価試験を行った。メッキ処理は前処理として基材を脱脂、水洗する表面活性化処理を施した後に、ジンケート処理を行った。次いで、下記条件の電気めっき法により、板材の表面に電気Ni−Pめっき層を形成した。
めっき浴:NiSO・6HO200g/l、NiCl・6HO50g/l、HPO440g/l、HPO50g/l、HBO0.5〜3g/l、サッカリン0〜1.0g/l、温度:60±5℃、pH:1±0.5、電流密度:5〜30A/dm撹拌方法:エアー撹拌
【0033】
上記各供試材について、鋳造時の割れ、圧延時のサイドクラック発生、切削性、めっき性、組織観察、耐SCC性について以下の方法で評価を行った。
・鋳造割れは、500mm厚さの鋳塊を一般的な条件で製造したときに生じる割れの有無で判断した。
・板製造時のサイドクラックは、両サイドに生じるクラックの最大長さをコイル長手方向
の先端部、中央部、終端部で測定した。尚、一般に30mm未満が好ましいとされている。
・ミクロ組織観察は圧延平行方向断面にて光学顕微鏡を用いて行った。観察前に#1000研磨紙、3μmアルミナ粒子を使用したバフ研磨を行い、ケラー試液にて腐食させて結晶粒組織を現出したものを試料とし、切断法にて結晶粒径(長径側)を測定した。
・メッキ性の評価はメッキ層の均一性を目視にて全体に均一を○、一部不均一を△、全体
に不均一を×として評価した。
・耐SCC性は3点曲げにて応力(耐力の90%)を負荷して、沸騰クロム酸混液(CrO:36g/l、KCr:30g/l、NaCl:3g/l)中に浸漬し、6hr後に割れが生じていないものを○、割れが生じたものを×とした。
・中間熱処理後の耐力、及び最終熱処理後の引張強度をJIS:Z2241に準拠し、常温大気中で引張方向はL方向、引張速度は5mm/minで行った。
・切削性の評価は、板表面を施削することにより生じる切粉の最大長さで評価した。40mm以上の長さになると施削工具への巻き付きが多くなる。
【0034】
表1のNo.1〜12が本発明の成分を有する材料で、No.13〜15は比較材で網掛け部が本発明の成分範囲から外れている。
表2に示したように、本発明の成分を用いた実施例1〜23は、鋳造割れとサイドクラックに対して良好な特性を示した。一方、比較材を用いた比較例1〜3は、これら特性が明らかに劣る結果が得られた。
また本発明は、制御された熱処理工程を実施することにより、中間熱処理後の平均粒径や耐力を適切な数値に収めることで、より切削性や高強度、高耐SCC性に優れた材料が得られた。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施形態の製造方法の工程を示すフロー図である。
【図2】従来の製造方法の工程を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0038】
1 アルミニウム合金材
2 連続炉
3 ギア粗材
4 ギア材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Zn:5.0〜8.0%、Mg:1.0〜2.0%、Cu:0.25〜0.6%、Ti:0.001〜0.05%、Fe:0.15超〜0.35%を含み、さらにMn:0.05〜0.5%、Cr:0.05〜0.15%、Zr:0.05〜0.25%のうち1種以上を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなることを特徴とする高強度アルミニウム合金。
【請求項2】
請求項1記載の組成を有し、結晶粒組織が繊維状組織であり、該結晶粒の長径側が平均で50μm以下であることを特徴とする高強度アルミニウム合金材。
【請求項3】
請求項1記載の高強度アルミニウム合金に溶体化焼入れ処理後に時効処理を行い、耐力を270〜350MPaとすることを特徴とする高強度アルミニウム合金材の製造方法。
【請求項4】
前記溶体化焼入処理は、460〜540℃で30〜120秒保持した後、強制空冷30〜600℃/分の冷却速度で冷却することを特徴とする請求項3記載の高強度アルミニウム合金材の製造方法。
【請求項5】
前記時効処理は、80〜120℃で5〜8時間加熱保持して行うことを特徴とする請求項3または4に記載の高強度アルミニウム合金材の製造方法。
【請求項6】
前記時効処理後に加工を行い、その後、さらに第二の時効処理を行うことを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の高強度アルミニウム合金材の製造方法。
【請求項7】
前記第二の時効処理は、140〜170℃で4〜16時間加熱保持して行うことを特徴とする請求項6記載の高強度アルミニウム合金材の製造方法。
【請求項8】
前記高強度アルミニウム合金材が自転車用ギヤ材であることを特徴とする請求項3〜7のいずれかに記載の高強度アルミニウム合金材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−100157(P2007−100157A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−290675(P2005−290675)
【出願日】平成17年10月4日(2005.10.4)
【出願人】(000176707)三菱アルミニウム株式会社 (446)
【Fターム(参考)】