説明

高強度ゼオライトビーズ成型体の製造方法

【課題】転動造粒によるゼオライトと粘土バインダーのビーズ成型体では、強度、耐磨耗性が低く、使用時に粉化するという問題があった。
【解決手段】ゼオライトと粘土バインダー合わせて100重量部に対し、水分35重量部以上の混合物を転動造粒によりビーズ成型し、当該成型体の水分を一旦35重量部未満とした後に、さらに成型体の水分量を35重量部以上として転動整粒し、乾燥、焼成することにより水和耐圧強度70N以上、耐磨耗率1.5%以下のゼオライトビーズ成型体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度で、特に耐摩耗性の高いゼオライトビーズ成型体の製造方法に関するものである。例えば、自動車のエアコン用のフロン乾燥剤に用いられるゼオライトビーズ成型体は、エンジン駆動の振動によって粉化しない様に、特に高い強度及び耐磨耗性が要求されている。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトビーズ成型体は広く乾燥剤として用いられているが、最近では自動車用エアコンの乾燥剤としての需要が増大している。自動車用エアコンは使用時に振動にさらされるため、強度、磨耗性が低いと粉化すると目詰まりの原因となり、高強度、高耐磨耗性の乾燥剤が求められている。
【0003】
高強度、高耐磨耗性の乾燥剤を得る方法としては、例えばバインダーに縮合リン酸塩等の添加物を用いる方法、バインダーとして特殊な針状結晶のバインダーを用いる方法(特許文献2)、アルカリ性化合物で処理する方法(特許文献3、特許文献4)等が提案されている。しかし、いずれも特殊な原料や、特別の処理工程を必要とする方法であり、乾燥剤のコストアップの原因となっていた。
【0004】
いずれの方法においても得られた成型体粒子を整粒し、成型体表面を滑らかにしたり、真球度を上げたりする効果が指摘されているが、十分な効果は得られていなかった。
【0005】
他にも高強度のペレット成型体を転動整粒によって角をとる方法(特許文献5)も知られている。その様な方法では強度の高い粒子は得られるが、真球度の高い成型体は得られないため、自動車用のフロン乾燥剤には使用できなかった。
【0006】
【特許文献1】特開2001−261330
【特許文献2】特開平11−314913号
【特許文献3】特開平4−198012号
【特許文献4】特開平6−327968号
【特許文献5】特開平10−87322号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、特殊な原料や工程を用いることなく、ゼオライト、特に3A型ゼオライイト(Kイオン交換A型ゼオライト)と粘土バインダーのビーズ成型体の強度及び耐摩耗性を向上する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、ゼオライトビーズ成型体の強度(水和耐圧強度)及び耐磨耗性の向上について鋭意検討を重ねた結果、造粒後のビーズ成型体の水分含有量を35重量部(成型体中のゼオライト及び粘土バインダー100重量部に対して)未満とした後に、整粒時の水分量を35重量部以上(成型体中のゼオライト及び粘土バインダー100重量部に対して)で整粒することにより、成型体の水和耐圧強度及び耐磨耗性が著しく向上することを見出し、本発明を完成させるに到ったものである。
【0009】
以下、本発明のゼオライトビーズ成型体の製造方法を説明する。
【0010】
本発明のゼオライトビーズ成型体の製造方法は、ゼオライトと粘土バインダーを合わせて100重量部に対して、水分35重量部以上含有する組成物を転動造粒によってビーズ(球状)成型体とし、当該ビーズ成型体の水分を35重量部未満とした後、さらに水分を添加して水分量を35〜45重量部で転動整粒し、乾燥、焼成するものである。
【0011】
転動造粒時におけるゼオライトと粘土バインダーに対する水分量が少なすぎると成型体が得られず、多すぎると成型体同士が付着して異常成長する。造粒時のゼオライトと粘土バインダー合わせて100重量部に対する水分量は、用いる粘土バインダーの粒径、表面積にもよりある程度の調整幅はあるが、35重量部以上、特に35〜60重量部の範囲が好ましい。
【0012】
本発明では、まず上記の水分量の組成物を球状(ビーズ状)に転動造粒し、一旦水分量が35重量部未満の成型体を得る。
【0013】
本発明の方法では、成型体表面の剥離、粉化が生じない条件で転動造粒の後、成型体中の水分を35重量部(成型体のゼオライト及び粘土バインダー100部に対して)未満、特に30〜35重量部の範囲にまで一旦調整する。水分調整法は特に限定されないが、例えば静置による自然乾燥、或いは乾燥機での熱風乾燥をすればよいが、特に自然乾燥が好ましい。
【0014】
本発明の方法では、上記の方法によって成型体中の水分を35重量部未満とした後に、あらためて水分を添加して転動整粒する。転動整粒時の水分量は35重量部以上、特に35〜45重量部(成型体のゼオライト及び粘土バインダー100部に対して)の範囲が好ましい。
【0015】
粘土バインダーを含むゼオライトビーズ成型体は、整粒(転動整粒)によって成型体表面を滑らかにして強度や耐摩耗性がある程度改善することは知られている。しかし、従来の整粒は、成型体表面に付着した異物の除去や、表面を平滑化するものであり、その効果は限定的なものであった。
【0016】
一般に転動造粒時には、ビーズ成型体の成型及び緻密化に伴い、主に成型体同士の摩擦によって温度が上昇し、水分含有量は低下する。水分含有量が低下した状態で転動造粒を続けると、成型体の乾燥表面が剥離して粉化が生じ、成型体の強度及び耐摩耗性が低下する。一方、造粒から転動整粒の過程で揮発する水分を別途添加することによって水分含有量を一定範囲で維持して造粒及び整粒を行う場合、乾燥による粉化、表面剥離は防げるが、成型体中の水分によってゼオライトと粘土バインダーの結合及び細孔収縮が阻害され、整粒による強度及び耐摩耗性の向上が十分に得られない。
【0017】
本発明では、造粒時にはバインダーとして働いていた水分を造粒後に一旦成型体内部から排除した後、整粒時に改めて別途水分を添加して整粒することにより、整粒操作による成型体の強度及び耐磨耗性が格段に向上するものである。
【0018】
本発明における成型及び整粒はビーズ成型体を成型できるものであれば特に限定はなく、一般的な転動整粒器、ドラム造粒器、回転式の筒状造粒器いずれも使用できる。
【0019】
本発明で用いるゼオライトは特に限定はないが、自動車用エアコンの乾燥剤として用いる場合、フロンを吸着せず、水分のみを選択的に吸着するKイオン交換型A型ゼオライトであることが好ましい。
【0020】
3A型ゼオライト粉末は、公知の方法、すなわちアルミン酸ナトリウムおよびケイ酸ナトリウムとから合成されたナトリウムA型ゼオライト粉末を塩化カリウム水溶液中で、ゼオライト中のナトリウムイオンの35%以上をカリウムイオンで交換し、有効細孔径が3オングストロームの3A型ゼオライト粉末とすることができる。
【0021】
本発明に用いるゼオライトに対する粘土バインダーは特に限定されるものでないが、カオリン系、ベントナイト系、タルク系、バイロフィライト系、モリサイト系、バーキュロライト系、モンモリロナイト系、クロライト系、ハロイサイト系等の粘土が例示でき、特に汎用的なカオリン粘土が例示できる。またゼオライトに対する粘土バインダーの添加量はゼオライト100重量部(水分除く)に対して10重量部以上50重量部以下、特に30重量部以上45重量部以下が好ましい。バインダー量が少なすぎると強度が不十分であり、多すぎると単位重量当りの乾燥剤としての性能が低下する。
【0022】
本発明のビーズ成型体の径としては、その直径が1.0〜3.0mm、特に1.4〜2.5mmが好ましい。直径が1.0mm未満では十分な強度が得られず、3.0mmを越える場合には十分な吸脱着速度が得られないため吸着剤としての性能が低くなり、好ましくない。
【0023】
本発明では、乾燥剤としての性能に悪影響をしない限りにおいて、粘土バインダーの他に分散剤や、成型助剤(CMC等の助剤)を含んでもよい。
【0024】
本発明の製造法における乾燥、焼成の条件は特に制限されるものではないが、水分の含有量が多い乾燥状態での焼成や、高温での焼成ではゼオライトが水熱劣化し、乾燥剤としての性能が低下する。乾燥時の水分含有量はig−loss換算で10〜25%、焼成温度は600〜700℃の範囲で数時間〜10時間焼成する方法が例示できる。
【0025】
乾燥、活性化の方法としては公知の方法を用い実施することができ、例えば、熱風乾燥機、電気マッフル炉、管状炉、回転炉などを用いればよい。
【0026】
本発明の方法では、ゼオライト結晶径が5μm以下、粘土バインダーが10重量部以上50重量部未満、水和耐圧強度70N以上(=7.14kgf以上)、耐磨耗率が1.5%以下、平均径が1.0〜3.0mmの範囲のゼオライトビーズ成型体を得ることができる。
【0027】
ゼオライト結晶径は5μm以下、特に3〜5μmであることが好ましい。ゼオライト結晶径はSEM観察によって確認することができる。ゼオライト結晶径が5μmより大きくなると、耐磨耗性が低下し易い。
【0028】
粘土バインダーは、ゼオライト(水分除く)100重量部に対して10重量部以上50重量部以下であり、特に30重量部以上45重量部以下であることが好ましい。また用いる粘土バインダーは板状結晶で、ゼオライト粒子と同程度、あるいはそれより小さい結晶サイズのものが好ましい。バインダーが10重量部未満では強度、耐磨耗性が不十分であり、50重量部を超えると、乾燥剤(吸着剤)としての性能が低下する。
【0029】
ゼオライトビーズ成型体の粒径は、1.0〜3.0mmの範囲であり、特に1.4〜2.5mmの範囲であることが好ましい。
【0030】
本発明の方法で得られるゼオライトビーズ成型体は、従来の珪酸ソーダ等のガラス化剤を添加(含浸)したものではないため、靭性に優れ、なおかつガラス化剤による成型体細孔の閉塞がないため、吸着性能に優れている。珪酸ソーダ等のガラス化剤を添加した成型体であるかどうかは、電子顕微鏡で組織を確認することでできる。
【0031】
本発明のゼオライトビーズ成型体の水和耐圧強度は70N以上(=7.14kgf以上)、耐摩耗性は1.5%以下である。耐摩耗性は特に1%以下であることが好ましい。本発明の耐圧強度、耐摩耗性はいずれも水和(相体湿度80%)した状態での強度である。乾燥(非水和)状態であればさらに高い耐圧強度、耐摩耗性は発揮されるが、実用において強度、磨耗が問題となるのは水和が進んだ状態である。本発明では、水和状態で強度、耐磨耗性が高いことに意義がある。
【0032】
本発明での水和耐圧強度は、相対湿度80%で水和した試料をJIS−Z−8841に記載の造粒物−強度試験方法に記載されている造粒物の圧壊強度試験方法に基づき測定した値であり、耐摩耗性の測定は同じく水和した試料100mlと有機溶媒(トリクロルエチレン)55mlを試験用として汎用的なペイントコンディショナーで1時間振とうによる重量減少比によって測定した値である。
【発明の効果】
【0033】
本発明の方法では、水和強度が高く、摩耗率の著しく小さいゼオライトビーズ成型体が得られる。
【実施例】
【0034】
以下発明を実施例で説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0035】
(強度(水和耐圧強度)の測定方法)
相対湿度80%で水和したゼオライトビーズ成型体をJIS−Z−8841に記載の造粒物−強度試験方法に記載されている造粒物の圧壊強度試験方法に基づき測定する。硬度計を用い、常温、常圧の雰囲気において、試験片である粒状物の直径方向に、一定速度で加圧板を押し付けて圧縮負荷を加えたとき、ゼオライトビーズ成型体が耐えることができる最大荷重を測定する。
【0036】
本発明では、木屋式デジタル硬度計(KHT−20型)により、直径1.4mm〜2.4mmの焼成後のゼオライトビーズ成型体を用い、直径方向の耐圧強度を、直径5mmの円柱状の加圧板によって測定した。加圧板はステンレス製のものを使用し、25個の耐圧強度測定を行った。
【0037】
(摩耗率の測定方法)
相対湿度80%で水和したゼオライトビーズ成型体100mlとトリクロルエチレン55mlをネジ口瓶(130ml)に装填し、ペイントシェーカー(東洋精機製作所製)で1時間振とうさせた後の減少重量率を測定した。振とう後、1mmの篩で摩耗粉を分離し、重量変化を測定する。
【0038】
実施例1
ゼオライト(Kイオン交換A型ゼオライト)100重量部にカオリン粘土を40重量部混合し、ゼオライトと粘土合わせて100重量部に対して50重量部の水を混合し、転動造粒によって成型し、篩分けによって1.7mmφの予備成型体を得た。成型後の予備成型体の水分量(900℃焼成時のig−loss換算)は36重量部であった。当該成型体を静置乾燥し、水分量を30重量部とした後、あらためて水を噴霧することによって水分を37重量部として転動整粒を行った。転動整粒にはポットミキサー(460mmφ)を用い26rpmで70分行った。その後、さらに乾燥し、680℃で5時間焼成した。
【0039】
得られたビーズ成型体の特性を表1に示した。
【0040】
比較例1
実施例1で得られた予備成型体をそのまま乾燥し、実施例1と同様の条件で焼成した。
【0041】
得られたビーズ成型体の特性を表1に示した。水和耐圧強度、耐摩耗性の低い成型体しか得られなかった。
【0042】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライトと粘土バインダー合わせて100重量部に対して、水分35重量部以上含有する組成物を転動造粒によってビーズ成型体とし、当該ビーズ成型体の水分含有量を35重量部未満とした後、さらに水分を添加して水分量を35〜45重量部として転動整粒し、乾燥、焼成することを特徴とするゼオライトビーズ成型体の製造法。
【請求項2】
転動整粒の前に成型体を乾燥する請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
ゼオライトに対する粘土バインダーが10重量部以上50重量部以下である請求項1乃至3に記載の製造方法。
【請求項4】
ゼオライトがKイオン交換型A型ゼオライトである請求項1乃至3に記載の製造方法。

【公開番号】特開2010−105852(P2010−105852A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−279409(P2008−279409)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】