説明

高感度電気化学式の特異結合分析方法およびデバイス

【課題】対象試料中の分析対象物を高感度に、かつ、手軽に測定することができる測定方法及びそれを用いた測定装置を提供する。
【解決手段】前記従来の課題を解決するもので、分析対象物と反応した抗体量をカプセルに内包する多数の電子伝達体を外部刺激によりカプセル破壊、電子伝達体遊離させることで、測定したい抗体量検出時の応答増幅が可能となり、対象試料中の分析対象物を簡便な方法で高感度に測定することが可能となる測定方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は試料中の微量な分析対象物を高感度に測定するための測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、健康志向の高まりにより、病院内での専門家による臨床検査に加え、専門家ではなくとも在宅で簡便に検査を実施し、病期の予兆を捉えたいというニーズが高まっている。
【0003】
病期の予兆を捉えるためには、測定する試料中に含まれる微量の分析対象物を正確に計測することが必要である。
このように、微量の分析対象物に対して、特異的に結合し分析する方法としては、抗原抗体反応を応用したイムノアッセイ、受容体を用いたレセプターアッセイ、及び相補的核酸配列のハイブリダイゼーションを用いた核酸プローブアッセイなどの多くの方法が知られており、その特異性の高さから、臨床検査をはじめとする広い分野で汎用されている。
【0004】
更に、イムノアッセイの1 種であるクロマトグラフ分析法においては、例えば、特異結合物質が不溶化ないし固定化された多孔性担体または微粒子充填型担体からなるマトリクスに液状試料を接触させ、液状試料がマトリクスに沿って毛細管現象による浸透力によって流出する現象を利用することにより試料中の分析対象物の存否を分析する。
【0005】
具体的には、光学的方法などにより任意に検知できる標識材によって標識された特異結合物質と、分析対象物とを特異結合反応させる。そして、分析対象物と特異結合反応した特異結合物質をマトリクス上に固定化された結合材に結合させ、マトリクス上に固定された標識量に応じて、最終的に試料中の分析対象物の存否を分析する。このクロマトグラフ分析法は、マトリクスにおける担体の表面積が大きいため、多量の特異結合物質を不溶化させることができ、特異結合反応を引き起こしうる反応分子間の衝突頻度が液相中における反応の場合に比して大きいため、計測感度および計測時間の面から有利である。
【0006】
在宅で簡便に測定を実施することが必要であることから、測定器の小型化や簡便な操作での測定が望まれている。上記に示したような光学的方法を用いた標識材を用いると、光学測定が可能な測定装置を用いなければならず、測定装置が大型化する。
【0007】
近年、抗原抗体反応を応用したイムノアッセイにおいて電気化学的に測定することを目的とし、標識材として電気化学メディエーターを用いる方法が提案されている。例えば、対象となる分析対象物に特定的に結合する抗体に、電極で反応する電気化学メディエーターであるフェロセンを結合させる方法が開示されている(非特許文献1参照)。このように電気化学メディエーターを結合した抗体を用いると、測定装置の小型化、簡便測定が可能となり、特に在宅での測定で有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平3−206963号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Biosensors and Bioelectronics 22 (2007) 2051-2056、P2052 「2.2. Preparation of anti-human Hb IgG labeled with Fc-COOH」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記文献での抗体に結合した電気化学メディエーターは抗体に対して2.6個と少なく、分析対象物が微量しか存在しない場合、電気化学メディエーターの変化量が小さいことから、必要感度が得られない場合がある。抗体に対して多くの電気化学メディエーターを結合させると、抗体抗原反応に悪影響を及ぼし、測定感度が低下する場合がある。
【0011】
そこで本発明は、前記従来の課題を解決するもので、対象試料中の分析対象物を高感度に、かつ、手軽に測定することができる測定方法及びそれを用いた測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記従来の課題を解決するために、本発明の特異結合分析方法は、(A)標識物質が電子伝達体であり、前記標識物質を内包したカプセルを結合した第一の特異結合物質に分析対象物を含む試料を接触させ、第一特異結合物質に前記分析対象物を結合させて、標識物質内包カプセル−第一の特異結合物質−分析対象物の結合体を得る工程、
(B)第一の固定部に固定した第二の特異結合物質に前記試料を接触させ、前記結合体を第二の特異結合物質に結合させて、固定部に固定する工程、
(C)試料の移動方向に沿って前記第一の固定部よりも下流位置で、前記第一の固定部で固定されなかった第一の結合物質と結合している標識物質内包カプセルを認識し、外部刺激をカプセルに与えることによりカプセルを破砕し、カプセル内に内包されていた標識物質を遊離する工程、
(D)検出部が少なくとも作用極及び対極から成る電極系を含み、前記遊離した標識物質を前記検出部で計測する工程、
(E)前記検出部で検出した信号強度に基づいて、前記試料中の分析対象物を定量する工程
とを含む。
【0013】
このことから、試料中に含まれる微量の分析対象物と反応した第一の特異結合物質の量を定量する際、カプセルに内包された多数の標識物質を外部刺激によりカプセル破壊することで遊離した多数の標識物質を測定することが出来ることから、増幅した応答として検知することが可能となる。よって、微量の分析対象物を応答増幅し検出するため、高感度な測定が可能となる。更に、分析対象物を電気化学的に検出することが可能となるため、簡便で小型な測定システムの構築も容易となる。
【0014】
前記第一の特異結合物質、及び第二の特異結合物質が抗体であることが好ましい。あるいは、前記第一の特異結合物質が抗原であり、第二の特異結合物質が抗体であってもよい。
【0015】
前記(c)の工程で、カプセルに与える外部刺激が超音波刺激であることが好ましい。これは、カプセルの強度を超音波刺激により破砕可能な状態に制御しておくことで、反応に必要なカプセルを容易、かつ効率よく破砕することが可能となる。受信部を設けておき、カプセルの位置を特定し、超音波刺激を送信、カプセル破壊することで、より効率のよいカプセル破壊が可能となり、微量の分析対象物に対しても高感度に測定することが可能となる。
【0016】
前記(c)の工程で、固定部よりも下流位置で外部刺激を与える機構を有し、前記第一の固定部で固定されなかった第一の結合物質に結合するカプセルに対して外部刺激を与えることでカプセル内に内包されていた標識物質を遊離することが可能であるためである。
【0017】
前記標識物質に含まれる前記電子伝達体がフェロセンであることが好ましい。
【0018】
本発明の特異結合分析センサは、試料を供給する試料供給口と、前記試料供給口より供給された試料を一時的に保持する空間形成部と、前記空間形成部に保持された第一の特異結合物質と、第二の特異結合物質を固定化した第一の固定化部と、前記第一の特異結合物質に結合した標識物質内包カプセルを外部刺激により破砕するための空間と、前記カプセル破壊により遊離された標識物質を検出する検出部とを備える。
【0019】
更に、本発明の特異結合分析デバイスは、前記特異結合分析センサを装着する装着部と、前記特異結合分析センサに対する外部刺激を与え、制御するための外部刺激送受信部及び外部刺激制御部と、装着された前記特異結合分析センサの検出部の信号強度から前記試料中の分析対象物を定量する演算部と、前記演算部で定量された結果を表示する表示部とを備えるとよい。
【0020】
このようにすると、簡便で小型な分析デバイスを構築することが可能となる。
【0021】
あるいは、本発明の特異結合分析デバイスは、前記特異結合分析センサを装着する装着部と、前記特異結合分析センサに対する外部刺激を与え、制御するための外部刺激送受信部及び外部刺激制御部と、装着された前記特異結合分析センサの検出部の信号強度及び外部刺激送受信部における受信信号強度から前記試料中の分析対象物を定量する演算部と、前記演算部で定量された結果を表示する表示部とを備えていてもよい。
【0022】
このようにすると、外部刺激送信に対する応答を受信した結果、カプセルの位置や量を特定することができるため、効率よくカプセル破砕することが可能になる。カプセルが存在するときのみ、カプセルを破砕するための外部刺激送信を行うことが可能となり、より効率かつ正確な測定が可能になる。更には、その際のカプセル量を用いて応答を補正することで、定量結果をより正確に測定することが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、分析対象物と反応した抗体量をカプセルに内包した多数の電子伝達体の量で評価する事で、応答増幅が可能となり、対象試料中の分析対象物を簡便な方法で高感度に測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施の形態に係る特異結合分析センサの分解斜視図
【図2】本発明の一実施の形態に係る特異結合分析デバイスのブロック図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。
【0026】
(実施の形態1)
ここでは、分析対象物としてヒト血清アルブミン(hsA)、第一の特異結合物質、および第二の特異結合物質として抗hsAモノクローナル抗体、 第一の特異結合物質に結合するカプセルとしてリポソームを、リポソーム内に内包する標識物質としてフェロセンカルボン酸を例に、本発明の一実施の形態を説明する。
【0027】
<特異結合分析センサの構成>
図1に特異結合分析センサ1の分解斜視図を示す。特異結合分析センサ1は、刺激送受信用孔31を有する第一の基板30、第二の基板32、スペーサ20、マトリックス22、液回収部42、電極基板10を図1のような順で張り合わせることで作成する。スペーサ20の厚みとマトリックス22、液回収部42の厚みをそろえることで、試料空間40が形成される。電極基板10に試料点着孔43及び空気孔41に設けることで、試料点着孔43部分で外部に露出している試料点着部21に試料を点着すると、空気孔41の下方にある液回収部に向かい試料がマトリックス内を流れる構成となる。第二の基板は、測定装置における外部刺激送受信部と接触し、外部刺激を送信ために最適な素材で構成される。本実施の形態では、外部刺激として、超音波刺激を用いるため、超音波送受信への影響が少ない材料、たとえばウレタン樹脂などを成形し用いる。そのほかの材料としては、超音波測定のためのファントムに用いられる材料を用いてもよい。その材料の音響特性も明確であり、外部刺激制御が容易に行えるからである。
【0028】
<電極基板の作成>
電極基板10は次のように作成する。まず、ポリエチレンテレフタレ−ト等からなる電気絶縁性の基板上にパラジウムをスパッタリングし、次にトリミングを行うことで、作用極14、作用極リード12、対極15、及び対極リード13からなる電極系を作製する。電極基板に、センサに試料を導入するための空間である試料点着孔43と、試料がセンサ内のマトリックスを流れるための空気孔41をあらかじめ設けている。
【0029】
<マトリックス部の作成>
マトリックス22は、分析対象物および特異結合物質が展開される場であればよく、多孔性担体やゲル担体などが挙げられる。ここでは、ニトロセルロースを使用する。
【0030】
まず、第一の固定部24に第二の特異結合物質である抗hsAモノクローナル抗体を固定化する。次にマトリクスをブロッキングし、マトリクスへの非特異吸着を低減させることが好ましい。ブロッキングは、タンパク質(例えば、牛血清アルブミン、もしくは乳蛋白質など)、ポリビニルアルコール、エタノールアミン、またはこれの組み合わせなどを用いて処理することができる。
次に、マトリックス22の担持部23に、第一の特異結合物質として、電子伝達体であるフェロセンカルボン酸を内包したカプセルが結合している抗hsAモノクローナル抗体(以後、フェロセン内包カプセル修飾抗hsA抗体と略す)を担持する。この時、乾燥状態で担持することが好ましい。例えば、ブロッキング後のマトリクスに第一の特異結合物質を含む試薬を塗布し、凍結乾燥させる。
【0031】
カプセルとして、リポソームを使用する。フェロセン内包カプセル修飾抗hsA抗体は、以下のように準備する。
【0032】
一般的にリポソームを構築する物質としては両親媒性を有している物質を用いればよく、例えばレシチン(フォスファチジルコリン)、コレステロール、リン脂質などがある。フェロセン内包カプセル修飾抗hsA抗体を構築するためには、カプセルの外側に分析対象部を認識する特異結合物質を配置する必要がある。このために、特定結合物質と結合する官能基を持つリン脂質誘導体を使用し、そのリン脂質誘導体と抗hsAモノクローナル抗体を結合することで、抗hsAモノクローナル抗体結合リン脂質を合成する。
【0033】
次に、リポソーム調整時の溶液として、フェロセンカルボン酸水溶液中を用い、フォスファチジルコリンと抗hsAモノクローナル抗体結合リン脂質を混合し、分散させた溶液からリポソームを調整すると、調整溶液中のフェロセンカルボン酸を内包し抗hsAモノクローナル抗体が外部に露出したリポソーム、すなわちフェロセン内包カプセル修飾抗hsA抗体を得ることができる。
【0034】
液回収部42は、マトリクス22と同じ素材で構成しておくとよい。この液回収部は、マトリクス内を流れる溶液がデバイス側にまで進むことを防ぐ役割がある。
【0035】
<特異結合分析センサの作成>
上記で作成した第二の基板32、第一の基板30、スペーサ20、マトリックス22、液回収部42、電極基板10を図1のような順で張り合わせることで特異結合分析センサ1を作成する。
【0036】
<特異結合分析デバイスの構成>
図2に特異結合分析デバイス100のブロック図を示す。装着部200、外部刺激送受信部101、外部刺激制御部102、演算部202、表示部203から構成される。装着部200に特異結合分析センサ1を装着し、試料を点着後、反応溶液中に存在する測定したいフェロセン内包カプセル修飾抗hsA抗体のカプセルを外部刺激送受信部101から送信される超音波刺激により破砕し、遊離した電子伝達体であるフェロセンの量を特異結合分析センサ1に設けられた電極系および特異結合分析デバイス1の測定部201で測定し、得られた結果を演算部202で解析し、解析結果を表示部203に表示する。外部刺激制御部101は、外部刺激制御部102により制御される。
【0037】
<特異結合分析センサを用いた分析対象物の測定>
次に、特異結合分析センサ1の測定方法について、以下説明する。
【0038】
まず、hsAを含む試料溶液を準備する。hsAを緩衝液に溶解させた標準液でも、尿や血液のサンプルでもよい。
【0039】
hsA標準液を特異結合分析センサ1の試料点着部21から供給すると、まずマトリックス22内を毛管現象で浸透展開しながら担持部23に流入する。そこで、試料液中のhsAと担持部23に担持しているフェロセン内包カプセル修飾抗hsA抗体とが結合する。結合したhsA−フェロセン内包カプセル修飾抗hsA抗体複合体及び、未反応のフェロセン内包カプセル修飾抗hsA抗体は、更にマトリックス上を進み、第一の固定部24に流入する。そこで、hsA−フェロセン内包カプセル修飾抗hsA抗体複合体は、第一の固定部24に固定化されている抗hsAモノクローナル抗体と更に複合体を形成する。一方、抗原であるhsAと結合していないフェロセン内包カプセル修飾抗hsA抗体は、第一の固定部24に固定化されている抗hsAモノクローナル抗体と反応せずそのまま試料空間41に進む。
【0040】
次に、試料空間40に到達したフェロセン内包カプセル修飾抗hsA抗体は、センサをデバイスに装着した際、刺激送受信孔31の下にもうけられている外部刺激送受信部101からの超音波刺激により、カプセルであるリポソームを破壊する。このとき、超音波刺激の強さは、使用するリポソームを破壊するのに十分な強さがあり、かつ内包するフェロセンカルボン酸を分解しない程度の強さで外部刺激制御部102にて制御する。このように超音波刺激によりカプセルが破壊されることで、内包するフェロセンカルボン酸が遊離する。遊離したフェロセンカルボン酸の電気化学的な検出から、フェロセン内包カプセル修飾抗hsA抗体の量を推定する。遊離した標識物は電気化学活性なフェロセンであるため、十分な酸化電位を作用極14に引加することで、作用極上でフェロセンの酸化電流を測定し、その電流値の変化から濃度を推定する。
【0041】
つまり、本法では、試料中のhsA量が減少するほど、試料空間に流出するカプセル量が多くなり、その結果、遊離するフェロセンカルボン酸が増加するため、作用極で測定する酸化電流値は増大することになる。
【0042】
本発明の特長は、フェロセン内包カプセル修飾抗体を用いることで、電極で検出する標識物を大量にかつ、抗体への反応サイトが少ない状態でフェロセン内包カプセル修飾抗体として配置させることから、抗体1分子の応答を数十倍のフェロセンの放出に増幅させることが可能であることである。つまり、従来からの抗体に多量の標識物を保持させることで抗体の抗原との反応性が低下するという課題に対し、今回の構成では抗体に反応させる箇所は少なくかつ多量の標識物を保持させることが可能であることから、抗体の抗原との反応性を落とすことなく、高感度でかつ簡便な計測系を構築することが可能になる。
【0043】
(実施の形態2) (補足:測定原理がアロステリック脱離)
実施の形態1においては、フェロセン内包カプセル修飾抗hsA抗体をサンプルと同時にマトリックス上を流し、サンプル中の抗原であるhSAと反応した抗体以外のフェロセン内包カプセル修飾抗hsA抗体の量をカプセル破壊による遊離フェロセンを用いて測定する系を示しているが、その測定方法に限定されるものではない。
【0044】
例えば、フェロセン内包カプセル修飾抗hsA抗体をマトリックス内に固定化しておき、サンプル中の抗原であえるhSAと反応したフェロセン内包カプセル修飾抗hsA抗体のみが固定化していたマトリックスから解離する測定系を用いる場合は、その後、解離したフェロセン内包カプセル修飾抗hsA抗体を測定する系としてもよい。すなわち、試料空間40にて超音波刺激によるカプセル破壊を行い、遊離するフェロセンカルボン酸の量を電極反応にて測定することで、サンプル中の抗原濃度を特定するという系である。
【0045】
本発明の特長は、フェロセン内包カプセル修飾抗hsA抗体を用いることで、電極で検出する標識物を大量にかつ、抗体への反応サイトが少ない状態でフェロセン内包カプセル修飾抗hsA抗体として配置させることから、抗体1分子の応答を数十倍以上のフェロセンの放出に増幅させることが可能であることであり、高感度でかつ簡便な計測系を構築することが可能になる。
【0046】
ここで、本発明の特異結合分析方法に用いられる試料は、分析対象物が含まれると予測される液状の試料である。例えば、尿、血清、血漿、全血、唾液、涙液、髄液、および乳頭などからの分泌液などが挙げられる。粘液、体組織または細胞などの固形状、ゲル状またはゾル状物を、緩衝液、抽出液または溶解液などの液体に懸濁または溶解させて得られる試料であってもよい。
【0047】
本発明における分析対象物は、当該分析対象物と特異的に結合する特性を有する特異結合物質が存在するものであればよく、例えば、抗体や抗原として機能する各種蛋白質、ポリペプチド、糖蛋白質、多糖類、複合糖脂質、核酸、エフェクター分子、レセプター分子、酵素およびインヒビターなどが挙げられる。さらに具体的には、α ― フェトプロテイン、癌胎児性抗原( C E A ) 、C A 1 2 5 、C A 1 9 − 9 などの腫瘍マーカー、アディポネクチンやレプチンなどのメタボリックマーカー、β 2 −ミクログロブリン( β 2 m ) 、フェリチンなどの各種蛋白質、糖蛋白質または複合糖脂質、エストラジオール( E 2 ) 、エストリオール( E 3 ) 、ヒト絨毛性性線刺激ホルモン(h C G ) 、黄体形成ホルモン( L H ) 、ヒト胎盤ラクトゲン( h P L ) などの各種ホルモン、H B s 抗原、H B s 抗体、H B c 抗原、H B c 抗体、H C V 抗体、H I V 抗体などの各種ウィルス関連抗原およびウィルス関連抗体、各種アレルゲンおよびこれに対応するIg E 抗体、麻薬性薬物、医療性薬物およびこれらの代謝産物、ウィルスおよび腫瘍関連ポリヌクレオチド配列の核酸などが挙げられる。
【0048】
標識物はフェロセンカルボン酸を使用する例を示したが、これに限定されるものではなく、酸化還元活性を有する物質であればよい。例えば、フェロセン化合物、カテコールアミン化合物、金属ビピリジン錯体、金属フェナントロリン錯体あるいはビオローゲン化合物であることが好ましく、特に電化還元特性および安定性からフェロセン化合物であることが特に好ましい。
【0049】
本実施の形態では、カプセルとしてリポソームを使用する系を示しているが、それに限定されるものではない。例えば、ナノカプセルや中空カプセルなど、内部に標識物質を内包することが可能であり、かつ、外部に測定対象物質と特異的に結合する物質を配置することが可能であればよい。
【0050】
本実施の形態では、フェロセン内包カプセル修飾抗hsA抗体の形成方法として抗体を修飾したリン脂質とフォスファチジルコリンを混合する系を用いているがこれに限定されるのではない。例えば、リポソームを先に形成し、その後抗体を外部に結合するという系を用いることも可能である。
【0051】
フェロセンの内包方法もこれに限定されるものではなく、一般的なDDSを調整するためのカプセル内への試薬の内包方法を使用してもよい。
【0052】
本実施の形態では、外部刺激として超音波刺激を用いる系を示しているが、これに限定される訳ではない。外部刺激によりカプセル材料が破砕する系であればよく、例えば、熱刺激や光刺激を用いる系でもよい。この時、外部刺激に応じたカプセル材料の選択が必要となる。
【0053】
超音波刺激を用いる系では、サンプルを導入後、一定時間後に超音波によるカプセル破砕を行うのではなく、サンプル導入後、超音波測定を行うことで、カプセルの量や位置を把握し、その位置に対して適切な強度で超音波刺激を入力することが可能となるため、より効率よくカプセル破壊を行うことが可能になる。
【0054】
作用極としては、電子伝達体を酸化する際にそれ自身が酸化されない導電性材料であれば用いることができる。対極としては、パラジウム、金、白金等の貴金属やカーボン等の一般的に用いられる導電性材料であれば用いることができる。この中で、作用極、対極が貴金属を主成分とすることが好ましい。このようにすると、電極をより微細に加工することが可能となるため、高精度化及び検体量の削減が可能となる。電極反応を妨げない程度に、タンパク質の吸着を防ぐ表面処理を実施すれば、より高感度化が期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明にかかる高感度電気化学式の特異結合分析方法およびデバイスは、試料中の微量な分析対象物を小型で簡便に、かつ高感度に測定することが可能になり、例えば、在宅で使用する健康管理用途としての尿、血液センサとして有用である。更に、この在宅センサを用いることで、健康増進を促進するツールを提供することも可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 センサ
10 電極基板
12 作用極リード
13 対極リード
14 作用極
15 対極
20 スペーサ
21 試料点着部
22 マトリックス
23 担持部
24 第一の固定部
30 第一の基板
31 刺激送受信用孔
32 第二の基板
40 試料空間
41 空気孔
42 液回収部
43 試料点着孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)標識物質が電子伝達体であり、前記標識物質を内包したカプセルを結合した第一の特異結合物質に分析対象物を含む試料を接触させ、第一特異結合物質に前記分析対象物を結合させて、標識物質内包カプセル−第一の特異結合物質−分析対象物の結合体を得る工程、
(B)第一の固定部に固定した第二の特異結合物質に前記試料を接触させ、前記結合体を第二の特異結合物質に結合させて、固定部に固定する工程、
(C)試料の移動方向に沿って前記第一の固定部よりも下流位置で、前記第一の固定部で固定されなかった第一の結合物質と結合している標識物質内包カプセルを認識し、外部刺激をカプセルに与えることによりカプセルを破砕し、カプセル内に内包されていた標識物質を遊離する工程、
(D)検出部が少なくとも作用極及び対極から成る電極系を含み、前記遊離した標識物質を前記検出部で計測する工程、
(E)前記検出部で検出した信号強度に基づいて、前記試料中の分析対象物を定量する工程
を有する、特異結合分析方法。
【請求項2】
更に、前記第一の特異結合物質、及び第二の特異結合物質が抗体である、請求項1記載の特異結合分析方法。
【請求項3】
更に、前記第一の特異結合物質が抗原であり、第二の特異結合物質が抗体である、請求項1記載の特異結合分析方法。
【請求項4】
更に、前記(c)の工程で、カプセルに与える外部刺激が超音波刺激である、請求項1記載の特異結合分析方法。
【請求項5】
更に、前記(c)の工程で、固定部よりも下流位置で外部刺激を与える機構を有し、前記第一の固定部で固定されなかった第一の結合物質に結合するカプセルに対して外部刺激を与えることでカプセル内に内包されていた標識物質を遊離する、請求項1記載の特異結合分析方法。
【請求項6】
更に、前記標識物質に含まれる前記電子伝達体がフェロセンである、請求項1記載の特異結合分析方法。
【請求項7】
更に、前記標識物質内包カプセルを構成するカプセルがリポソームである、請求項1記載の特異結合分析方法。
【請求項8】
試料を供給する試料供給口と、前記試料供給口より供給された試料を一時的に保持する空間形成部と、前記空間形成部に保持された第一の特異結合物質と、第二の特異結合物質を固定化した第一の固定化部と、前記第一の特異結合物質に結合した標識物質内包カプセルを外部刺激により破砕するための空間と、前記カプセル破壊により遊離された標識物質を検出する少なくとも作用極及び対極から成る電極系を含む検出部とを備えた特異結合分析センサ。
【請求項9】
請求項8記載の前記特異結合分析センサを装着する装着部と、前記特異結合分析センサに対する外部刺激を与え、制御するための外部刺激送受信部及び外部刺激制御部と、装着された前記特異結合分析センサの検出部の信号強度から前記試料中の分析対象物を定量する演算部と、前記演算部で定量された結果を表示する表示部とを備えた特異結合分析デバイス。
【請求項10】
請求項8記載の前記特異結合分析センサを装着する装着部と、前記特異結合分析センサに対する外部刺激を与え、制御するための外部刺激送受信部及び外部刺激制御部と、装着された前記特異結合分析センサの検出部の信号強度及び外部刺激送受信部における受信信号強度から前記試料中の分析対象物を定量する演算部と、前記演算部で定量された結果を表示する表示部とを備えた特異結合分析デバイス。

【図1】
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【図2】
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