説明

高抗酸化活性味噌の製造方法

【課題】メラノイジンを高含有させて抗酸化活性の高い味噌を製造することを目的とする。
【解決手段】仕込み時にプロテアーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼを添加して熟成する。さらにこれを加熱する。また、熟成後の味噌に糖を添加して加熱する方法により、メラノイジンを高含有させて、抗酸化活性の高い味噌を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、味噌の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
味噌は伝統的な発酵食品であり、原料となる麹別に、米味噌、麦味噌、豆味噌などに分類される。さらに、米味噌と麦味噌は、味(甘、甘口、辛)や味噌の色調(白、淡色、赤)により分類される。
味噌の色調は、アミノ酸と糖の反応であるメイラード反応により生成されるメラノイジンと呼ばれる褐色の色素成分に起因しており、一般に味噌は熟成期間が長いほどメラノイジンの含有量が多く、赤味の濃いものとなる。
このメラノイジンは、メイラード反応生成物からなる高分子化合物と定義され、抗酸化活性、抗変異原性、食物繊維類似の作用など様々な機能を有することが知られている(非特許文献1、2、3、4)。
このうち抗酸化活性とは、酸素を消費しエネルギーに変換する過程で生産される有毒性の活性酸素及び各種フリーラジカルを消去する活性である。活性酸素および各種フリーラジカルは、老化や動脈硬化、または脳神経疾患、呼吸器疾患、循環器疾患、消化器疾患などの各種疾患、及び癌にも影響することが明らかとなっている(非特許文献5)。
【0003】
【非特許文献1】褐変反応生成物の食品機能 日本醤油研究所雑誌,18,1 (1992)
【非特許文献2】食品中のメイラード反応生成物と機能性 日本醸造協会雑誌,88,421 (1993)
【非特許文献3】講談社:食品の性質と成分間反応,244−251
【非特許文献4】サイエンスフォーラム:色から見た食品のサイエンス,183−191 298−301
【非特許文献5】講談社:フリーラジカルの化学,125−191
【非特許文献6】味噌の着色と色調 味噌の化学と技術,41,267 (1993)
【非特許文献7】味噌のDPPHラジカル補足能に関する研究 味噌の化学と技術,52,218 (2004)
【非特許文献8】The use response surface methodology to optimize the mailard reaction to produce melanoidins with high antioxidative and antimutagenic activities International Journal of Food Science &Technology,33,(1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
昨今の味噌の消費者は、色の薄い、白っぽい味噌を好む傾向があり、味噌においてメラノイジンは色調による分類の指標として注目されるだけで、その機能性、特に抗酸化活性に着目し、メラノイジンを高含有させ味噌を高機能食品として提供するという試みは従来なかった。
【0005】
そこで、本発明は上記課題を解決すべくなされたものであり、その目的とするところは、メラノイジンの含有量を増やして、抗酸化活性の高い、高抗酸化活性味噌を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記目的を達成するため次の構成を備える。
すなわち、本発明は、味噌仕込み混合物にプロテアーゼを添加して熟成させることを特徴とする。これによれば、メラノイジン生成に必要なアミノ酸、ペプチドを増やし、メラノイジンを高含有した、抗酸化活性の高い、高抗酸化活性味噌を効率良く製造できる。
また、味噌仕込み混合物にセルラーゼとヘミセルラーゼを添加して熟成させることを特徴とする。これによれば、メラノイジン生成に必要な糖を増やし、メラノイジンを高含有した、抗酸化活性の高い、高抗酸化活性味噌を効率良く製造できる。
また、味噌仕込み混合物にプロテアーゼ、セルラーゼ及びヘミセルラーゼを添加して熟成させることを特徴とする。これによれば、メラノイジン生成に必要なアミノ酸、ペプチド及び糖を増やすことにより、メラノイジンを高含有した、抗酸化活性の高い高抗酸化活性味噌を効率良く製造できる。
また、熟成させた後、加熱することを特徴とする。これによれば、メイラード反応が熱により進むことで、メラノイジンを高含有した抗酸化活性の高い、高抗酸化活性味噌を効率良く製造できる。
また、熟成させて得られた味噌に糖を添加した後、加熱することを特徴とする。これによれば、メイラード反応に不足している糖を添加することでメラノイジンを多く生産することができる。
この際の糖としては、キシロースが好適であり、熟成させて得られた味噌にキシロースを内掛け割合で10重量%以下添加するとよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、メラノイジンの含有量を増やして抗酸化活性の高い味噌を効率良く製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
味噌の中で最も抗酸化活性の高い味噌は豆味噌である。豆味噌を作る際の豆麹は、大豆多糖類を分解しペントースを生成する力が優れている。そのペントースとアミノ酸との反応が最も色調に寄与するため、豆味噌は味噌のなかで最も色調が赤く、着色が進んでおり、その着色と相関して抗酸化活性が高いものとなる(非特許文献6、7)。この原理から、アミノ酸とペントースが多くあれば、メイラード反応が促進され、メラノイジンが多く生成されることになる。
そこで本発明は、味噌仕込み混合物にプロテアーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼの酵素を添加して熟成させることで、メラノイジンを高含有し、抗酸化活性の高い、高抗酸化活性味噌を製造する。プロテアーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼのうちの少なくとも1つの酵素を添加する。つまり、プロテアーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼをそれぞれ単独で添加してもよいし、これらを組み合せて添加してもよい。
味噌仕込み混合物は通常のものでよく、味噌の原材料を混合して作製される。つまり、麹、蒸煮大豆、塩を混合することで作製され、これに必要に応じて酵母、乳酸菌を混合してもよい。
味噌は麹によって米味噌、麦味噌、豆味噌に分類されるが、ここでは特に種類は限定されない。従って、麹としては米麹、麦麹、豆麹のいずれも使用できるが、メイラード反応に関与するペントースを生成する力に優れている点で豆麹が好適である。
【0009】
そして、味噌仕込み混合物中にアミノ酸やペントースの含有量を積極的に増やすため、これらの生成に関与する酵素を味噌仕込み混合物に添加する。
具体的には、蛋白質分解酵素であるプロテアーゼを味噌仕込み混合物に添加して、味噌仕込み混合物中の大豆の蛋白質を分解し、アミノ酸の含有量を増やす。プロテアーゼとしては、中性または酸性プロテアーゼが好適である。
【0010】
また、味噌仕込み混合物中に含まれる大豆多糖類を分解し、ペントースの含有量を増やすため、セルラーゼやヘミセルラーゼを味噌仕込み混合物に添加する。
大豆多糖類であるセルロースはグルコースがβ1、4結合した多糖類であり、中にヘミセルロースやリグニン等を複合する。ヘミセルロースはセルロース、ペクチン以外の水に溶けない多糖類と定義され、加水分解するとペントース(キシロースを含む)、ヘキソース、ウロン酸等を生じる。
そこで、ヘミセルロースの加水分解酵素であるヘミセルラーゼをセルラーゼと共に添加すると、セルロースの分解力がより一層高まり、ペントースの含有量を効率良く増やすことができる。
【0011】
これら酵素を添加した味噌仕込み混合物を熟成させることで、抗酸化活性の高い高抗酸化活性味噌を製造することができる。
メイラード反応は非常に複雑な反応であるが、温度が高く、時間が長いほど進むことが知られている(非特許文献8)。従って、熟成期間については、長期であるほど抗酸化活性上昇にとって好ましいが、熟成温度が30℃の場合、4〜5ヶ月が好適である。熟成温度が30℃であれば4〜5ヶ月ほどである程度のピークを向え、以降緩やかにしか抗酸化活性は上昇しないからである。
【0012】
また、熟成させて得られた味噌を加熱することでさらにメイラード反応を進め、メラノイジンの含有量を高めて高抗酸化活性味噌を製造することができる。ここで味噌としては、通常の製法によって製造された味噌は勿論のこと、味噌仕込み混合物に前記酵素を添加して熟成させて得た高抗酸化活性味噌を用いてもよい。
加熱温度は、100℃を超えると不溶性成分が多く生産されるため100℃以下での加熱が好ましい。しかし、低温であるとメイラード反応が進みにくいため、加熱温度は80〜100℃が好適である。加熱時間については、長いほど味噌の風味が悪くなるため1時間以内が好ましい。
【0013】
また、熟成させて得られた味噌に糖を添加して加熱することでも高抗酸化活性味噌を製造できる。
ここで味噌としては、通常の製法によって製造された味噌は勿論のこと、味噌仕込み混合物に前記酵素を添加して熟成させて得た高抗酸化活性味噌を用いてもよい。この場合も、味噌の種類は限定されないが、糖と反応する遊離アミノ酸の量が多い点では豆麹を用いた豆味噌が好適である。また、加熱後の風味が優れている点では、グルコースなどの甘みのある糖の多い米麹を用いた米味噌が好適である。
【0014】
添加する糖は、メイラード反応に最も寄与の高いペントースがよく、ペントースのなかでもキシロースが好ましい。キシロースの添加量は、味噌に対して内掛け割合で10重量%以下が好ましい。添加割合が10重量%を超えても糖と反応するアミノ酸が不足するため大きな効果は得られないからである。
加熱については、前述の加熱時間、加熱温度が適用できる。
【実施例】
【0015】
次に、本発明を実施例により詳しく説明するが本発明はこれに限定されるものではない。
(酵素添加熟成豆味噌の未加熱、加熱後の抗酸化活性)
仕込み水分47重量%、塩分11重量%の豆味噌の仕込み混合物に対し、それぞれ次の酵素を添加して実施例1〜3とした。また、比較例1として酵素無添加のものを作製した。
実施例1では、プロテアーゼ(スミチームFP:0.5重量%)を添加した。
実施例2では、セルラーゼ(スミチームAC:0.5重量%、スミチームC:0.33重量%)とヘミセルラーゼ(スミチームX:0.02重量%、スミチームACH:0.1重量%)を添加した。
実施例3では、プロテアーゼ(スミチームFP:0.5重量%)、セルラーゼ(スミチームAC:0.5重量%、スミチームC:0.33重量%)及びヘミセルラーゼ(スミチームX:0.02重量%、スミチームACH:0.1重量%)を添加した。
尚、上記酵素は全て新日本化学工業株式会社製である。
実施例1〜3及び比較例1の味噌仕込み混合物を30℃で120日間熟成し、得られた味噌の抗酸化活性評価を行った。
さらに、実施例1〜3及び比較例1で得られた味噌を90℃、50分の条件下で加熱し、加熱後の味噌の抗酸化活性評価を行った。
評価結果を次の表1に示す。
【0016】
【表1】

【0017】
抗酸化活性評価は、DPPH(1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl)法によって測定したラジカル消去能を、合成の抗酸化剤であるBHT(ブチルヒドロキシトルエン)の相当量で表す方法を用いている。
酵素を添加した実施例1〜3は、比較例1に比べて抗酸化活性が高くなっている。また、さらに加熱することで全て抗酸化活性が高くなり、特にプロテアーゼとセルラーゼの両方を添加した実施例3の上昇率が高かった。
【0018】
(キシロース添加米味噌の加熱による抗酸化活性の上昇)
麹割合6.5割、水分43.3重量%、塩分12重量%の米味噌の仕込み混合物を30℃で40日間熟成して得た米味噌に、キシロースを0、3、5、7、10重量%の内掛け割合で添加し、90℃で50分加熱して味噌を得た。比較例2として、キシロース無添加の未加熱の味噌を用意し、これらの味噌の抗酸化活性評価を行った。結果を表2に示す。尚、抗酸化活性評価は、前記同様の測定方法によりBHTの相当量で表している。
【0019】
【表2】

【0020】
キシロースを添加加熱することで、比較例2と比べて大きく抗酸化活性が上昇した。最も抗酸化活性が高かったのは、キシロースを7重量%以上添加したもので、比較例2と比べて約5.1倍以上であったが、7重量%以上10重量%以下の添加量で十分であることがわかった。
【0021】
(キシロース添加豆味噌の加熱による抗酸化活性の上昇)
水分53.0重量%、塩分9.8重量%の天然醸造で1年熟成して得られた豆味噌に、キシロースを0、3、5、7、10重量%の内掛け割合で添加し、90℃で50分間加熱した。比較例3としてキシロース無添加の未加熱の味噌を用意した。
前記同様の方法により、BHTの相当量で表した抗酸化活性評価の測定結果を次の表3に示す。
【0022】
【表3】

【0023】
キシロース7重量%以上の添加で、比較例3と比較して約3.5倍の抗酸化活性の上昇となった。しかし、表2の米味噌での結果と同様、キシロースの添加量は7重量%以上10重量%以下で十分であることがわかった。また、キシロース添加豆味噌の加熱後の抗酸化活性は、表2に示した米味噌の場合と比較して1.3倍となった。
【0024】
(SOD活性測定)
上記サンプルのうち、比較例2、3、実施例3の未加熱、加熱のサンプル、実施例4、8、9、13について、抗酸化活性評価を活性酸素消去能で行った。活性酸素消去能(SOD活性)は電子スピン共鳴装置(ESR)を用いて測定した。その結果を表4に示す。ここでは活性酸素消去能を、活性酸素を消去する酵素SOD(スーパーオキシドジスムターゼ)相当量で表している。
【0025】
【表4】

【0026】
ESRを用いたSOD活性測定から、従来の醸造法による味噌(比較例2、3)よりも、プロテアーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼを添加し、熟成させた味噌及びこれを加熱したもの、また熟成した味噌にキシロースを添加して加熱したものは、いずれも活性酸素消去能が高いことがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
味噌仕込み混合物にプロテアーゼを添加して熟成させることを特徴とする高抗酸化活性味噌の製造方法。
【請求項2】
味噌仕込み混合物にセルラーゼとヘミセルラーゼを添加して熟成させることを特徴とする高抗酸化活性味噌の製造方法。
【請求項3】
味噌仕込み混合物にプロテアーゼ、セルラーゼ及びヘミセルラーゼを添加して熟成させることを特徴とする高抗酸化活性味噌の製造方法。
【請求項4】
熟成させた後、加熱することを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項記載の高抗酸化活性味噌の製造方法。
【請求項5】
熟成させて得られた味噌に糖を添加した後、加熱することを特徴とする高抗酸化活性味噌の製造方法。
【請求項6】
前記糖は、キシロースであることを特徴とする請求項5記載の高抗酸化活性味噌の製造方法。
【請求項7】
熟成させて得られた味噌にキシロースを内掛け割合で10重量%以下添加することを特徴とする請求項6記載の高抗酸化活性味噌の製造方法。