説明

高次高調波共振周波数特性推定方法

【課題】新たにパワーエレクトロニクス機器を系統に連系しようとした場合の高次高調波の共振周波数特性を精度よく把握できるようにすることである。
【解決手段】
電力系統の線路インピーダンス及び前記電力系統の力率改善用コンデンサを線形回路素子RLCよりなる解析モデルで模擬して電力系統の状態微分方程式を導き、状態微分方程式の係数行列の固有値で定まる時定数及び固有周波数を持つRLC回路による等価回路を導き、その等価回路の力率改善用コンデンサ電流の高次高調波電流源の電流に対する電流増幅率に基づいて電力系統における高次高調波の共振周波数特性を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力系統における高次高調波の共振周波数特性を推定する高次高調波共振周波数特性推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パワーエレクトロニクスによる制御には、高速スイッチングによるPWM方式を採用する機器が多い。例えば、風力発電や燃料電池などにおいては直流電力を発電し、パワーエレクトロニクス機器によるPWM方式で直流電力を交流電力に変換して電力系統に供給する。
【0003】
パワーエレクトロニクス機器は、PWM方式による交直変換の際に周波数fの高次高調波電流を発生し電力系統に流出する。一方、電力系統には、力率改善用コンデンサが設置されており、パワーエレクトロニクス機器が発生する周波数fと近隣の電力系統の力率改善用コンデンサによる固有周波数fnとが近接している場合には、共振によりパワーエレクトロニクス機器が発生する周波数fの電流が増幅され、力率改善用コンデンサの過電流を誘起し電磁騒音や過熱など電力品質問題が生ずる。
【0004】
このため、パワーエレクトロニクス機器の系統連系時には、電力品質問題が生ずるか否かを事前に把握することが重要となってきている。なお、ここでの高次高調波は次数が13次を越え、上限を10kHzとする周波数領域としている。
【0005】
高次高調波共振を解析的に検討する手法としては、高次高調波電流を発生するパワーエレクトロニクス機器の連系点に等価な電流源を置き、周波数応答法で力率改善用コンデンサの電流の増幅特性を得る方法がある。また、高調波発生源の特定方法として、配電系統を数値的に模擬した模擬回路を設定し、この模擬回路の固有値とその固有ベクトルを算出し、固有値の複素数部からその固有モードの共振周波数を、それぞれの固有ベクトルの各要素の絶対値からその固有モードにおける各ノードの感度を算出し、一方、配電系統に並列に接続されている力率改善用コンデンサの内の一つの充電波形に基づいて周波数分析を行って実際の発生モードでの共振周波数とその強度を求め、これらを比較して転流振動を発生させる整流器負荷を特定し、高調波発生源と見なすようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平4−67727号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1のものでは、模擬回路の固有値及びその固有ベクトルから求めた共振周波数及び感度と、配電系統で実際に発生している発生モードでの共振周波数及びその強度を求めて、転流振動を発生させる整流器負荷を特定して高調波発生源を特定するものであり、新たにパワーエレクトロニクス機器を系統に連系しようとした場合の高次高調波の共振周波数特性を把握することはできない。従って、新たにパワーエレクトロニクス機器を系統に連系しようとする際に、その連系に問題がないか否かの判定に用いることができない。
【0007】
一方、新たに系統連系しようとするパワーエレクトロニクス機器の連系点に等価な電流源を置き、周波数応答法で力率改善用コンデンサの電流の増幅特性を得る方法では、多数の周波数に対する計算例が必要となり煩雑である。
【0008】
また、線路インピーダンスRLは表皮効果などで周波数により変化する。高次高調波の領域では、特に抵抗分Rが急激に増大する。この抵抗分Rの増大を無視すると精度の良い周波数応答を得ることができず実用性に乏しくなるので、これを考慮した解析手法が望まれている。
【0009】
本発明の目的は、新たにパワーエレクトロニクス機器を系統に連系しようとした場合に高次高調波の共振周波数特性を精度よく把握できる高次高調波共振周波数特性推定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明に係わる高次高調波共振周波数特性推定方法は、電力系統の線路インピーダンス及び前記電力系統の力率改善用コンデンサを線形回路素子RLCよりなる解析モデルで模擬して電力系統の状態微分方程式を導き、前記状態微分方程式の係数行列の固有値で定まる時定数及び固有周波数を持つRLC回路による等価回路を導き、前記等価回路の力率改善用コンデンサ電流の高次高調波電流源の電流に対する電流増幅率に基づいて電力系統における高次高調波の共振周波数特性を推定することを特徴とする。
【0011】
請求項2の発明に係わる高次高調波共振周波数特性推定方法は、請求項1の発明において、表皮効果による前記線路インピーダンスの周波数特性を線形素子RLのRL並列回路よりなる解析モデルで追加模擬して前記状態微分方程式を導くことを特徴とする。
【0012】
請求項3の発明に係わる高次高調波共振周波数特性推定方法は、請求項2の発明において、前記解析モデルは、前記RL並列回路を直列多段接続し、模擬可能な周波数領域を拡大したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電力系統の状態微分方程式の係数行列の固有値で定まる時定数及び固有周波数を持つRLC回路による等価回路を導き、その等価回路の力率改善用コンデンサ電流の高次高調波電流源の電流に対する電流増幅率に基づいて電力系統における高次高調波の共振周波数特性を推定するので、高次高調波電流源であるパワーエレクトロニクス機器を新たに系統に連系しようとする際に、その連系に問題がないか否かの判定を容易に行うことができる。
【0014】
また、表皮効果による線路インピーダンスの周波数特性を線形素子RLのRL並列回路からなる解析モデルで追加模擬して電力系統の状態微分方程式を導くので、表皮効果を考慮に入れた線路インピーダンスの高次高調波の共振周波数特性を精度よく推定できる。さらに、RL並列回路を直列多段接続した解析モデルを用いることにより、模擬可能な周波数領域を拡大できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
まず、本発明に至るまでの検討事項について説明する。電力系統の高次高調波共振を検討するあたっては、電力系統の解析モデルを作成し、その解析モデルを用いて固有値及びその固有ベクトルを求めて共振周波数及びその感度を得ることはできる。しかし、解析モデルの固有値及びその固有ベクトルでは、振動が発生する周波数及び振動の強弱は分かるが、新たにパワーエレクトロニクス機器を系統に連系した場合に、そのパワーエレクトロニクス機器が発生する高次高調波電流が力率改善用コンデンサによりどの程度電流増幅されるかどうかを把握することはできない。
【0016】
そこで、力率改善用コンデンサ電流の高次高調波電流源の電流に対する電流増幅率を求めるあたり、本発明では、解析モデルの固有値は電力系統では一般に複素数であり、その固有値の実数部は時定数、虚数部は固有周波数となることに着目し、固有値で定まる時定数及び固有周波数を持つRLC回路による等価回路を導くこととした。そして、導き出した等価回路に高次高調波電流源を接続して高次高調波電流を変化させ、等価回路での力率改善用コンデンサ電流の高次高調波電流源の電流に対する電流増幅率を求め、その電流増幅率に基づいて電力系統における高次高調波の共振周波数特性を推定するようにした。
【0017】
図1は本発明の実施の形態に係わる高次高調波共振周波数特性推定方法の内容を示すフローチャートである。まず、電力系統の解析モデルの固有値を求めるために電力系統の状態微分方程式を求める(S1)。以下、電力系統の一例として高圧配電系統について説明する。また、電力系統の解析モデルを簡潔化するため、次のような仮定を設定する。
【0018】
(1)線路インピーダンスは三相平衡であるとする。
【0019】
(2)線路キャパシタンスは力率改善用コンデンサCに比べ十分小であるので無視する。
【0020】
これにより、解析モデルは、図2に示すように、作用インダクタンスL、抵抗R、力率改善用コンデンサCなどの定数からなる単相回路となる。また、解析時の変数は、上位系や線路インピーダンスRLのブランチ11a〜11nのブランチ電流I(I、I…I)と、力率改善用コンデンサC(C、C…C)の接続点におけるブランチ12a〜12nのノード電圧V(V、V…V)とを採用する。また、電源は高次高調波の等価電流源Jのみとする。以上の条件下で電力系統の状態微分方程式を求める。
【0021】
図2に示す力率改善用コンデンサC(C、C…C)の接続点であるノード12a〜12nでの電流バランス(ノード電流平衡式)を求め、ブランチ11a〜11nでの電圧バランス(ブランチ電圧平衡式)を求める。ノード電流平衡式は下記(1)式で示され、ブランチ電圧平衡式は下記(2)式で示される。
【数1】

【数2】

【0022】
(1)、(2)式により、電力系統の状態微分方程式は(3)式で示される。
【数3】

【0023】
次に、(3)式で示される状態微分方程式の係数行列の固有値λを求める(S2)。この(3)式の係数行列の固有値λは、電力系統では一般に複素数となり、よく知られるように、時定数T、固有周波数fとしたとき、実数部及び虚数部は(4)式で示すような関係となる。
【数4】

【0024】
この固有値λは一般に複数個求まるので、固有値λごとに時定数T及び固有振動数fを求める(S3)。
【0025】
次に、時定数T及び固有周波数fを持つRLC回路による等価回路を求める(S4)。この等価回路は固有値λの個数だけ求め、各固有値λの固有モードでの現象を個々のモード別に考察することで、その物理的評価が容易かつ明確となる。
【0026】
図3は、時定数T及び固有周波数fを持つRLC回路による等価回路の回路図である。等価回路は、線路インピーダンスR、L、力率改善用コンデンサCのRLC回路であり、力率改善用コンデンサCに高次高調波の電流源Jλが並列配置されている。この等価回路の抵抗R、作用インダクタンスL、力率改善用コンデンサCと、時定数T、固有周波数ω(ω=2πf)との関係は、次の(5)式のようになる。
【数5】

【0027】
そして、得られた等価回路の力率改善用コンデンサCの電流icを求め、この電流icの電流源Jλに対する増幅率Q(ω)を求める(S5)。この増幅率Q(ω)の特性により、共振周波数特性を推定する(S6)。
【0028】
すなわち、図3に示す等価回路の方程式は下記の(6)式で示される。
【数6】

【0029】
この(6)式より増幅率Q(ω)は(7)式で示される。
【数7】

【0030】
また、(7)式内のLC、CRは(5)式から(8)式で示される。
【数8】

【0031】
従って、(7)式のLC、CRに(8)式を代入すると、各固有モードの増幅率Q(ω)は、角周波数ωと、時定数Tと固有角周波数ωとの簡潔な式で示されるので、各固有モードの増幅率Q(ω)は計算で容易に求まる。
【0032】
このように、電力系統の状態微分方程式の係数行列の固有値λで定まる時定数T及び固有周波数fを持つRLC回路による等価回路を導き、その等価回路の力率改善用コンデンサ電流iの高次高調波電流源Jλの電流に対する増幅率Q(ω)に基づいて電力系統における高次高調波の共振周波数特性を推定するので、高次高調波電流源であるパワーエレクトロニクス機器を新たに系統に連系しようとする際に、その連系に問題がないか否かの判定を容易に行うことができる。
【0033】
次に、線路インピーダンスRLの表皮効果の考慮について説明する。線路インピーダンスRLは図4に示すように周波数特性を持っており、特に抵抗Rは周波数fの上昇により急激に増大する一方、作用インダクタンスLは僅かながら低下する。共振による電流増幅は(L/R)に比例するため、これを無視しては実用的な精度確保ができない。そこで、次に抵抗R及び作用インダクタンスLの周波数f依存性の模擬方法について検討する。
【0034】
周波数fの依存性を考慮する場合のポイントは、固有モード法の利点を生かせる線形の状態微分方程式となる模擬法が必須のことにある。関数の近似法に多く用いるラグランジェ補間など多項式近似では、方程式は非線形となり固有値などは得られない。
【0035】
そこで、状態微分方程式を線形に保つ模擬方法として、図5に示す線形素子R、LのRL並列回路を考える。このRL並列回路の等価抵抗R、等価インダクタンスLは、よく知られるように次の(9)式で与えられる。
【数9】

【0036】
(9)式より周波数fとともに等価抵抗Rは増大し、等価インダクタンスLは減少するので、線路インピーダンスRLの対周波数特性は模擬可能となる。これより図6に示すように、模擬回路は、ベース分を抵抗R及び作用インダクタンスLの直列RL回路で、対周波数特性を等価抵抗R及び等価インダクタンスLのRL並列回路で分担する回路となる。
【0037】
一方、等価抵抗Rは図7のように変曲点fを境にして増大率は低下するので、模擬すべき周波数領域が広い場合には、変曲点fより高い周波数領域の近似精度は低下する。変曲点fは(10)式で示される。
【数10】

【0038】
また、等価抵抗Rは(11)式で示される。
【数11】

【0039】
変曲点fを高く設定すれば、(11)式より等価抵抗Rは、増大開始の周波数fが高くなり低い周波数領域の近似精度が低下する。図8は1つのRL並列回路を用いた抵抗Rの対周波数特性を示す特性図である。点線は抵抗R(R=R+R)の対周波数特性、実線は抵抗R(R=R)の対周波数特性である。点線の抵抗R(R=R+R)の対周波数特性から分かるように、模擬可能な周波数fは3kHzまで達していない。
【0040】
これにより、1つのRL並列回路で近似可能な周波数領域は限定されるのが分かる。そこで、変曲点fmがより高い第2のRL並列回路を追加し直列接続することで、より高い周波数領域を模擬する。
【0041】
図9は対周波数特性を模擬する2つのRL並列回路を直列接続した模擬回路図である。この場合の、10kHzまでの周波数領域で、最大誤差は一般に約2%程度であり、十分な実用性を有している。さらに、精度向上や模擬周波数領域を拡大する場合には、RL並列回路の直列段数を増すことで対応可能である。
【0042】
次に、RL並列回路の追加により、周波数特性を模擬した場合の回路方程式が線形であることを、2つのRL並列回路を直列接続した場合を例に取り説明する。RL並列回路の追加による状態微分方程式への影響はインダクタンスと抵抗の係数行列に現れる。
【0043】
いま、図9において、ブランチnの両端ノードをj、kとし、電流Iはjからkに流れるとする。そして、第1のRL並列回路の抵抗Rp1を流れる電流をIp1,n、第2のRL並列回路の抵抗Rp2を流れる電流をIp2,n、とする。この場合、電圧平衡式は(12)式で示される。
【数12】

【0044】
これを全ブランチ体で表記すれば、(13)式で示される。
【数13】

【0045】
これより、全体の回路方程式は次の(14)式のように、固有値計算可能な線形の状態微分方程式になり、RL並列回路が2つ以上に増えた場合でも、一般性を失わない。
【数14】

【0046】
前述の(3)式の場合と同様に、(14)式で示される状態微分方程式の係数行列の固有値λを求め、固有値λごとに時定数T及び固有振動数fを求め、時定数T及び固有周波数fを持つRLC回路による等価回路を求める。そして、得られた等価回路の力率改善用コンデンサCの電流iを求め、この電流iの電流源Jλに対する増幅率Q(ω)を求め、この増幅率Q(ω)の特性により共振周波数特性を推定する(S6)。
【0047】
このように、線路インピーダンスRLの表皮効果による周波数特性を線形素子RLのRL並列回路よりなる解析モデルで追加模擬して電力系統の状態微分方程式を導くので、線路インピーダンスRLの表皮効果を考慮に入れた高次高調波の共振周波数特性を推定できる。さらに、線形素子RLのRL並列回路を直列多段接続した解析モデルを用いることにより、模擬可能な周波数領域を拡大できる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施の形態に係わる高次高調波共振周波数特性推定方法の内容を示すフローチャート。
【図2】本発明の実施の形態における電力系統の解析モデルの一例を示す模擬図。
【図3】本発明の実施の形態における電力系統の解析モデルの時定数及び固有周波数を持つRLC回路による等価回路の回路図。
【図4】電力系統の線路インピーダンスRLの周波数特性図。
【図5】電力系統の線路インピーダンスRLの対周波数特性を模擬するRL並列回路の回路図。
【図6】対周波数特性を模擬するRL並列回路を備えた電力系統の線路インピーダンスRLの模擬回路。
【図7】対周波数特性を模擬するRL並列回路の等価抵抗の周波数特性図。
【図8】1つのRL並列回路を用いた抵抗Rの対周波数特性を示す特性図。
【図9】対周波数特性を模擬する2つのRL並列回路を直列接続した模擬回路図。
【符号の説明】
【0049】
11…ブランチ、12…ノード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統の線路インピーダンス及び前記電力系統の力率改善用コンデンサを線形回路素子RLCよりなる解析モデルで模擬して電力系統の状態微分方程式を導き、
前記状態微分方程式の係数行列の固有値で定まる時定数及び固有周波数を持つRLC回路による等価回路を導き、
前記等価回路の力率改善用コンデンサ電流の高次高調波電流源の電流に対する電流増幅率に基づいて電力系統における高次高調波の共振周波数特性を推定することを特徴とする高次高調波共振周波数特性推定方法。
【請求項2】
表皮効果による前記線路インピーダンスの周波数特性を線形素子RLのRL並列回路よりなる解析モデルで追加模擬して前記状態微分方程式を導くことを特徴とする請求項1記載の高次高調波共振周波数特性推定方法。
【請求項3】
前記解析モデルは、前記RL並列回路を直列多段接続し、模擬可能な周波数領域を拡大したことを特徴とする請求項2記載の高次高調波共振周波数特性推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−44782(P2009−44782A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−204002(P2007−204002)
【出願日】平成19年8月6日(2007.8.6)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(504193837)国立大学法人室蘭工業大学 (70)
【Fターム(参考)】