説明

高減衰組成物

【課題】生産性や高減衰部材を形成する際の加工性等に優れる上、建築用の制震用ダンパ等として十分に使用できるだけの高い減衰性能や大きな切断時伸びを有する高減衰部材を形成しうる高減衰組成物を提供する。
【解決手段】メタクリル系重合体ブロック(M)とアクリル系重合体ブロック(A)とのブロック共重合体であって、アクリル系重合体ブロック(A)の割合が55質量%以上、90質量%以下であるブロック共重合体に、さらに未加硫ゴムを配合した高減衰組成物である。前記高減衰組成物には、さらに炭酸カルシウムを配合してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動エネルギーの伝達を緩和したり吸収したりする高減衰部材のもとになる高減衰組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばビルや橋梁等の建築物、産業機械、航空機、自動車、鉄道車両、コンピュータやその周辺機器類、家庭用電気機器類、さらには自動車用タイヤ等の幅広い分野において高減衰部材が用いられる。前記高減衰部材を用いることで、振動エネルギーの伝達を緩和したり吸収したりする、すなわち免震、制震、制振、防振等をすることができる。
前記高減衰部材は、種々のベースポリマを含む高減衰組成物によって形成される。
【0003】
例えばメタクリル酸エステルを構成単量体として少なくとも含むメタクリル系重合体ブロック(M)(ハードセグメント)と、アクリル酸エステルを構成単量体として含むアクリル系重合体ブロック(A)(ソフトセグメント)とのブロック共重合体は、いわゆる熱可塑性エラストマ(アクリル系熱可塑性エラストマ)であって、その構造から減衰性能に優れる上、耐候性等にも優れた高減衰部材を形成できることが期待されるため、前記高減衰組成物のベースポリマとしての実用化が検討されている(例えば特許文献1〜3等参照)。
【0004】
前記ブロック共重合体としては、例えば1つのアクリル系重合体ブロック(A)を2つのメタクリル系重合体ブロック(M)で挟んだ構造を有するM−A−Mトリブロック共重合体や、アクリル系重合体ブロック(A)とメタクリル系重合体ブロック(M)とを1つずつ直鎖状に連結した構造を有するM−Aジブロック共重合体等が挙げられる。またメタクリル系重合体ブロック(M)を構成するメタクリル酸エステルとしては、前記ブロック共重合体に良好な耐候性等を付与することができるメタクリル酸メチル等が挙げられる。さらにアクリル系重合体ブロック(A)を構成するアクリル酸エステルとしては、前記ブロック共重合体に良好な柔軟性等を付与することができる、アクリル酸−n−ブチル、および/またはアクリル酸−2−メトキシエチルが挙げられる。
【0005】
しかし、前記ブロック共重合体をベースポリマとして単独で使用した場合には、十分な減衰性能を有する高減衰部材を形成することはできない。
そこで、ベースポリマとしてのブロック共重合体に、例えば熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマ、ゴム、熱硬化性樹脂等を配合することが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−287253号公報
【特許文献2】特開2009−79119号公報
【特許文献3】特開2009−79120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明者の検討によると、前記ブロック共重合体に未加硫ゴムを配合して調製した高減衰組成物を所定の高減衰部材の形状に成形すると、従来に比べて高い減衰性能を有する高減衰部材を形成することが可能である。
しかし、前記両者を併用した高減衰組成物は加工性が低く、所望の立体形状を有する高減衰部材を製造するために前記高減衰組成物を混練したり、前記立体形状に成形加工したりするのが容易でない場合がある。
【0008】
特に工場レベルで高減衰部材を量産する場合、前記加工性の低さは高減衰部材の生産性を大きく低下させ、生産に要するエネルギーを増大させ、さらには生産コストを高騰させる原因となるため望ましくない。
また、前記高減衰組成物を用いて形成した高減衰部材は引張応力が加わった際に切断に至るまでの伸び量、すなわち切断時伸びが小さく、特に地震等が発生した際に大きく変形することが求められる制震用ダンパとして適さない場合がある。
【0009】
本発明の目的は、生産性や高減衰部材を形成する際の加工性等に優れる上、建築用の制震用ダンパ等として十分に使用できるだけの高い減衰性能や大きな切断時伸びを有する高減衰部材を形成しうる高減衰組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者の検討によると、前記ブロック共重合体を構成するメタクリル系重合体ブロック(M)およびアクリル系重合体ブロック(A)の量比が、高減衰組成物の加工性や高減衰部材の切断時伸び等に大きく係わっている。
すなわちメタクリル系重合体ブロック(M)が多くなると、高減衰組成物を用いて形成した高減衰部材の切断時伸びが小さくなって、制震用ダンパとして適さなくなる傾向がある。一方、アクリル系重合体ブロック(A)が多くなると、高減衰組成物の加工性が低下して、所望の立体形状を有する高減衰部材を製造するために前記高減衰組成物を混練したり、前記立体形状に成形加工したりするのが容易でなくなる傾向がある。
【0011】
そこで発明者は、両重合体ブロック(M)および(A)の量比の範囲についてさらに検討した。
その結果、前記量比を、前記両重合体ブロック(M)および(A)の総量中に占めるアクリル系重合体ブロック(A)の割合(質量%)で表して55質量%以上、90質量%以下の範囲内とすると、生産性や高減衰部材を形成する際の加工性等に優れる上、建築用の制震用ダンパ等として十分に使用できるだけの高い減衰性能や大きな切断時伸びを有する高減衰部材を形成しうる高減衰組成物を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
したがって本発明は、ベースポリマとしての、
(i) メタクリル酸エステルを構成単量体として少なくとも含むメタクリル系重合体ブロック(M)と、アクリル酸−n−ブチル、およびアクリル酸−2−メトキシエチルからなる群より選ばれた少なくとも1種を構成単量体として含むアクリル系重合体ブロック(A)との、M−A−Mトリブロック共重合体、およびM−Aジブロック共重合体からなる群より選ばれた少なくとも1種のブロック共重合体であって、前記両重合体ブロックの総量中に占めるアクリル系重合体ブロック(A)の割合が55質量%以上、90質量%以下であるブロック共重合体に、
(ii) 未加硫ゴム
を配合したことを特徴とする高減衰組成物である。
【0013】
前記未加硫ゴムの配合割合は、ブロック共重合体100質量部に対して5質量部以上、100質量部以下であるのが好ましい。
未加硫ゴムの配合割合が前記範囲未満では、当該未加硫ゴムを配合することによる、高減衰部材の減衰性能を向上する効果が不十分になるおそれがある。一方、前記範囲を超える場合には高減衰組成物の加工性が低下して、所望の立体形状を有する高減衰部材を製造するために前記高減衰組成物を混練したり、前記立体形状に成形加工したりするのが容易でなくなるおそれがある。
【0014】
また高減衰部材の切断時伸びをできるだけ大きくすることを考慮すると、前記未加硫ゴムは、前記ブロック共重合体中に粒子状に分散されているのが好ましい。
ただし、その平均粒子径は20μm以下であるのが好ましい。平均粒子径が前記範囲を超える場合には、前記の分散構造としたことによる、高減衰部材の切断時伸びを大きくする効果が十分に得られないためである。
【0015】
さらに未加硫ゴムとしては、液状イソプレンゴム、液状水素化イソプレンゴム、液状イソプレン−スチレン共重合ゴム、液状ブタジエンゴム、および液状イソプレン−ブタジエン共重合ゴムからなる群より選ばれた少なくとも1種の液状ゴムが好ましい。
これらの液状ゴムは軟化剤として機能するため、高減衰組成物の加工性を高める効果を得ることもできる。
【0016】
さらに炭酸カルシウムを配合すると、高減衰部材の減衰性能をより一層向上することができる。
前記本発明の高減衰組成物を形成材料として用いて、高減衰部材としての建築物の制震用ダンパを形成した場合には、当該制震用ダンパが減衰性能に優れるため、1つの建築物中に組み込む前記制震用ダンパの数量を減らすことができる。また、前記制震用ダンパは制震性能の温度依存性が小さいことから、例えば温度差の大きい建築物の外壁付近にも前記制震用ダンパを設置することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、生産性や高減衰部材を形成する際の加工性等に優れる上、建築用の制震用ダンパ等として十分に使用できるだけの高い減衰性能や大きな切断時伸びを有する高減衰部材を形成しうる高減衰組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例、比較例の高減衰組成物からなる高減衰部材の減衰性能を評価するために作製する、前記高減衰部材のモデルとしての試験体を分解して示す分解斜視図である。
【図2】同図(a)(b)は、前記試験体を変位させて変位量と荷重との関係を求めるための試験機の概略を説明する図である。
【図3】前記試験機を用いて試験体を変位させて求められる、変位量と荷重との関係を示すヒステリシスループの一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
《高減衰組成物》
本発明は、ベースポリマとしての、
(i) メタクリル酸エステルを構成単量体として少なくとも含むメタクリル系重合体ブロック(M)と、アクリル酸−n−ブチル、およびアクリル酸−2−メトキシエチルからなる群より選ばれた少なくとも1種を構成単量体として含むアクリル系重合体ブロック(A)との、M−A−Mトリブロック共重合体、およびM−Aジブロック共重合体からなる群より選ばれた少なくとも1種のブロック共重合体であって、前記両重合体ブロックの総量中に占めるアクリル系重合体ブロック(A)の割合が55質量%以上、90質量%以下であるブロック共重合体に、
(ii) 未加硫ゴム
を配合したことを特徴とする高減衰組成物である。
【0020】
〈ブロック共重合体〉
前記ブロック共重合体としては、前記のようにM−A−Mトリブロック共重合体、およびM−Aジブロック共重合体からなる群より選ばれた少なくとも1種が挙げられる。このうちM−A−Mトリブロック共重合体は、先に説明したように1つのアクリル系重合体ブロック(A)を2つのメタクリル系重合体ブロック(M)で挟んだ構造を有するブロック共重合体である。またM−Aジブロック共重合体は、アクリル系重合体ブロック(A)とメタクリル系重合体ブロック(M)とを1つずつ直鎖状に連結した構造を有するブロック共重合体である。
【0021】
前記ブロック共重合体におけるアクリル系重合体ブロック(A)の割合が前記55質量%以上、90質量%以下の範囲内に限定されるのは、下記の理由による。
すなわち、ソフトセグメントとして機能するアクリル系重合体ブロック(A)の割合が前記範囲未満では、高減衰組成物を用いて形成した高減衰部材の切断時伸びが小さくなって、制震用ダンパとして適さなくなるという問題を生じる。
【0022】
一方、アクリル系重合体ブロック(A)の割合が前記範囲を超える場合には、高減衰組成物の加工性が低下して、所望の立体形状を有する高減衰部材を製造するために前記高減衰組成物を混練したり、前記立体形状に成形加工したりするのが容易でなくなるという問題を生じる。
これに対し、アクリル系重合体ブロック(A)の割合を前記55質量%以上、90質量%以下の範囲内とすることにより、前記の問題をいずれも解消して、生産性や高減衰部材を形成する際の加工性等に優れる上、建築用の制震用ダンパ等として十分に使用できるだけの高い減衰性能や大きな切断時伸びを有する高減衰部材を形成しうる高減衰組成物を提供することが可能となる。
【0023】
なお、高減衰部材の切断時伸びをさらに向上することを考慮すると、アクリル系重合体ブロック(A)の割合は、前記範囲内でも70質量%以上であるのが好ましい。また、高減衰部材を形成する際の加工性等をより一層向上することを考慮すると、前記アクリル系重合体ブロック(A)の割合は、前記範囲内でも85質量%以下であるのが好ましい。
なお本発明では、前記ブロック共重合体として、M−A−Mトリブロック共重合体とM−Aジブロック共重合体とを併用したり、アクリル系重合体ブロック(A)の割合の異なる2種以上のM−A−Mトリブロック共重合体を併用したり、あるいはアクリル系重合体ブロック(A)の割合の異なる2種以上のM−Aジブロック共重合体を併用したりしてもよい。
【0024】
その場合は、それぞれのブロック共重合体を構成する両重合体ブロック(M)および(A)の全総量中に占める、アクリル系重合体ブロック(A)の合計の割合が前記55質量%以上、90質量%以下の範囲内であればよい。
併用する個々のブロック共重合体としては、アクリル系重合体ブロック(A)の割合が前記範囲外であるものを用いてもよい。
【0025】
特にブロック共重合体としては、高減衰部材の減衰性能をより一層向上することを考慮すると、M−A−Mトリブロック共重合体の1種を単独で使用するか、2種以上を併用するか、あるいはM−A−Mトリブロック共重合体とM−Aジブロック共重合体とを併用するのが好ましい。
ブロック共重合体の、その他の特性等は任意に設定することができるが、数平均分子量Mnは15000以上であるのが好ましく、300000以下であるのが好ましい。また重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mnで表される分子量分布の分散は1.8以下であるのが好ましい。
【0026】
前記ブロック共重合体のうちM−A−Mブロック共重合体は、常法に従って合成することができる。
例えば、まずメタクリル系重合体ブロック(M)のもとになる構成単量体を重合反応させ、次いで前記反応系に、アクリル系重合体ブロック(A)のもとになる構成単量体を加えてさらに重合反応させることにより、先に重合されたメタクリル系重合体ブロック(M)の両端にアクリル系重合体ブロック(A)が直鎖状に連結されたM−A−Mブロック共重合体を合成することができる。
【0027】
前記合成方法においては、両重合体ブロック(M)および(A)のもとになる構成単量体の仕込量を制御することで、前記両重合体ブロック(M)および(A)の総量中に占めるアクリル系重合体ブロック(A)の割合(質量%)を調整することができる。
またM−Aジブロック共重合体も、同様に常法に従って合成することができる。
例えば、まずメタクリル系重合体ブロック(M)、およびアクリル系重合体ブロック(A)のいずれか一方のもとになる構成単量体をチオールカルボン酸、2−アセチルチオエチルチオール、10−アセチルチオデカンチオール等の、分子中にチオエステルとチオール基とを含む化合物の存在下で重合反応させ、得られた重合体を水酸化ナトリウムやアンモニア等のアルカリで処理して片末端にチオール基を有する重合体とし、この重合体の存在下、他方の単量体を重合反応させることにより、前記両ブロックが直鎖状に連結されたM−Aジブロック共重合体を合成することができる。
【0028】
前記合成方法においては、両重合体ブロック(M)および(A)のもとになる構成単量体の仕込量を制御することで、前記両重合体ブロック(M)および(A)の総量中に占めるアクリル系重合体ブロック(A)の割合(質量%)を調整することができる。
(メタクリル系重合体ブロック(M))
メタクリル系重合体ブロック(M)は、メタクリル酸エステルを構成単量体として少なくとも含んでいる。
【0029】
前記メタクリル酸エステルとしては、例えばメタクリル酸脂肪族炭化水素エステル、メタクリル酸脂環式炭化水素エステル、メタクリル酸アラルキルエステル、メタクリル酸芳香族炭化水素エステル、メタクリル酸とエーテル性酸素を有する官能基含有アルコールとのエステル、メタクリル酸フッ化アルキルエステル等の1種または2種以上が挙げられる。
【0030】
またメタクリル酸脂肪族炭化水素エステルとしては、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸−n−プロピル、メタクリル酸−n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸−n−ペンチル、メタクリル酸−n−ヘキシル、メタクリル酸−n−ヘプチル、メタクリル酸−n−オクチル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸ノニル、メタクリル酸デシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸ステアリル等の1種または2種以上が挙げられる。
【0031】
メタクリル酸脂環式炭化水素エステルとしては、例えばメタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸イソボルニル等の1種または2種以上が挙げられる。
メタクリル酸アラルキルエステルとしては、例えばメタクリル酸ベンジル等が挙げられる。
メタクリル酸芳香族炭化水素エステルとしては、例えばメタクリル酸フェニル、メタクリル酸トルイル等の1種または2種が挙げられる。
【0032】
メタクリル酸とエーテル性酸素を有する官能基含有アルコールとのエステルとしては、例えばメタクリル酸−2−メトキシエチル、メタクリル酸−3−メトキシブチル等の1種または2種が挙げられる。
メタクリル酸フッ化アルキルエステルとしては、例えばメタクリル酸トリフルオロメチル、メタクリル酸トリフルオロメチルメチル、メタクリル酸−2−トリフルオロメチルエチル、メタクリル酸−2−トリフルオロエチル、メタクリル酸−2−パーフルオロエチルエチル、メタクリル酸−2−パーフルオロエチル−2−パーフルオロブチルエチル、メタクリル酸−2−パーフルオロエチル、メタクリル酸パーフルオロメチル、メタクリル酸ジパーフルオロメチルメチル、メタクリル酸−2−パーフルオロメチル−2−パーフルオロエチルメチル、メタクリル酸−2−パーフルオロヘキシルエチル、メタクリル酸−2−パーフルオロデシルエチル、メタクリル酸−2−パーフルオロヘキサデシルエチル等の1種または2種以上が挙げられる。
【0033】
特にブロック共重合体に良好な耐候性等を付与することができる点や、あるいは加工性、コスト、入手のしやすさ等の点でメタクリル酸メチルが好ましい。
メタクリル系重合体ブロック(M)は、前記メタクリル酸エステルの1種のみの重合体、または2種以上の共重合体であってもよいし、さらに前記メタクリル酸と共重合可能な他のビニル系単量体との共重合体であってもよい。
【0034】
ただし、メタクリル酸エステルの特徴である耐候性等を有効に発現させることを考慮すると、他のビニル系単量体をも含む場合、当該他のビニル系単量体の割合は50質量%以下であるのが好ましい。
前記他のビニル系単量体としては、例えばアクリル酸エステル、芳香族アルケニル化合物、シアン化ビニル化合物、共役ジエン系化合物、ハロゲン含有不飽和化合物、ケイ素含有不飽和化合物、不飽和カルボン酸化合物、不飽和ジカルボン酸化合物、ビニルエステル化合物、マレイミド系化合物等の1種または2種以上が挙げられる。
【0035】
またアクリル酸エステルとしては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−n−プロピル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸−n−ペンチル、アクリル酸−n−ヘキシル、アクリル酸−n−ヘプチル、アクリル酸−n−オクチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸ノニル、アクリル酸デシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ステアリル等のアクリル酸脂肪族炭化水素エステル;アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸イソボルニル等のアクリル酸脂環式炭化水素エステル;アクリル酸フェニル、アクリル酸トルイル等のアクリル酸芳香族炭化水素エステル;アクリル酸ベンジル等のアクリル酸アラルキルエステル;アクリル酸−2−メトキシエチル、アクリル酸3−メトキシブチル等のアクリル酸とエーテル性酸素を有する官能基含有アルコールとのエステル;アクリル酸トリフルオロメチルメチル、アクリル酸−2−トリフルオロメチルエチル、アクリル酸−2−パーフルオロエチルエチル、アクリル酸−2−パーフルオロエチル−2−パーフルオロブチルエチル、アクリル酸−2−パーフルオロエチル、アクリル酸パーフルオロメチル、アクリル酸ジパーフルオロメチルメチル、アクリル酸−2−パーフルオロメチル−2−パーフルオロエチルメチル、アクリル酸−2−パーフルオロヘキシルエチル、アクリル酸−2−パーフルオロデシルエチル、アクリル酸−2−パーフルオロヘキサデシルエチル等のアクリル酸フッ化アルキルエステルなどの1種または2種以上が挙げられる。
【0036】
芳香族アルケニル化合物としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、p−メ
チルスチレン、p−メトキシスチレン等の1種または2種以上が挙げられる。
シアン化ビニル化合物としては、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル等の1種または2種が挙げられる。
共役ジエン系化合物としては、例えばブタジエン、イソプレン等の1種または2種が挙げられる。
【0037】
ハロゲン含有不飽和化合物としては、例えば塩化ビニル、塩化ビニリデン、パーフルオロエチレン、パーフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン等の1種または2種以上が挙げられる。
ビニルエステル化合物としては、例えば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等の1種または2種以上が挙げられる。
【0038】
さらにマレイミド系化合物としては、例えばマレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、プロピルマレイミド、ブチルマレイミド、ヘキシルマレイミド、オクチルマレイミド、ドデシルマレイミド、ステアリルマレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等の1種または2種以上が挙げられる。
(アクリル系重合体ブロック(A))
アクリル系重合体ブロック(A)は、アクリル酸−n−ブチル、およびアクリル酸−2−メトキシエチルからなる群より選ばれた少なくとも1種を構成単量体として含んでいる。
【0039】
すなわちアクリル系重合体ブロック(A)としては、前記2種のアクリル酸エステルのうちいずれか1種の重合体、あるいは2種の共重合体が挙げられる。
またアクリル系重合体ブロック(A)は、前記2種のアクリル酸エステルのうちの1種または2種と、当該アクリル酸エステルと共重合可能な他のビニル系単量体との共重合体であってもよい。
【0040】
ただし、前記2種のアクリル酸エステルの特徴である柔軟性等を有効に発現させることを考慮すると、他のビニル系単量体をも含む場合、当該他のビニル系単量体の割合は50質量%以下であるのが好ましい。
前記他のビニル系単量体としては、先にメタクリル系重合体ブロック(M)の項で例示したアクリル酸エステルのうち前記2種以外の他のアクリル酸エステルが挙げられる。
【0041】
また、同じくメタクリル系重合体ブロック(M)の項で例示したメタクリル酸エステル、芳香族アルケニル化合物、シアン化ビニル化合物、共役ジエン系化合物、ハロゲン含有不飽和化合物、ケイ素含有不飽和化合物、不飽和カルボン酸化合物、不飽和ジカルボン酸化合物、ビニルエステル化合物、マレイミド系化合物等も、他のビニル系単量体として挙げられる。
【0042】
これら他のビニル系単量体は1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記ブロック共重合体の具体例としては、これに限定されないが、例えば下記のブロック共重合体の1種または2種以上が挙げられる。
(1) メタクリル系重合体ブロック(M)の構成単量体がメタクリル酸メチル、アクリル系重合体ブロック(A)の構成単量体がアクリル酸−n−ブチルで、かつ両重合体ブロック(M)および(A)の総量中に占めるアクリル系重合体ブロック(A)の割合が80質量%であるM−A−Mトリブロック共重合体〔(株)カネカ製のNABSTAR(ナブスター、登録商標) N800AS〕。
【0043】
(2) メタクリル系重合体ブロック(M)の構成単量体がメタクリル酸メチル、アクリル系重合体ブロック(A)の構成単量体がアクリル酸−n−ブチルで、かつ両重合体ブロック(M)および(A)の総量中に占めるアクリル系重合体ブロック(A)の割合が65質量%であるM−A−Mトリブロック共重合体〔(株)カネカ製のNABSTAR N650AS〕。
【0044】
(3) メタクリル系重合体ブロック(M)の構成単量体がメタクリル酸メチル、アクリル系重合体ブロック(A)の構成単量体がアクリル酸−n−ブチルで、かつ両重合体ブロック(M)および(A)の総量中に占めるアクリル系重合体ブロック(A)の割合が50質量%であるM−A−Mトリブロック共重合体〔(株)クラレ製のクラリティ(登録商標) 4285〕。
【0045】
(4) メタクリル系重合体ブロック(M)の構成単量体がメタクリル酸メチル、アクリル系重合体ブロック(A)の構成単量体がアクリル酸−n−ブチルで、かつ両重合体ブロック(M)および(A)の総量中に占めるアクリル系重合体ブロック(A)の割合が93質量%であるM−Aジブロック共重合体〔(株)クラレ製のクラリティ 1114〕。
前記のうちアクリル系共重合体ブロック(A)の割合が本願発明で規定した55質量%以上、90質量%以下の範囲を外れる(3)(4)のブロック共重合体は、先に説明したように他のブロック共重合体と併用して、ブロック共重合体の全体でのアクリル系共重合体ブロック(A)の割合が前記範囲内となるようにすればよい。
【0046】
〈未加硫ゴム〉
未加硫ゴムとしては、種々の未加硫のゴムが使用可能である。かかる未加硫ゴムとしては、例えば天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ノルボルネンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、エピクロロヒドリンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、多硫化ゴム等の1種または2種以上が挙げられる。
【0047】
中でも特に、室温で流動性を有する液状ゴムが、ブロック共重合体に対する分散性や、あるいは高減衰部材の減衰性能を向上する効果に優れる上、軟化剤として機能して高減衰組成物の加工性を高める効果をも有するため、未加硫ゴムとして好適に使用される。
かかる液状ゴムとしては、例えば液状イソプレンゴム、液状水素化イソプレンゴム、液状イソプレン−スチレン共重合ゴム、液状ブタジエンゴム、および液状イソプレン−ブタジエン共重合ゴムからなる群より選ばれた少なくとも1種が挙げられる。
【0048】
前記液状ゴムの具体例としては、これに限定されないが、例えば下記の液状ゴムの1種または2種以上が挙げられる。
(a) (株)クラレ製のクラプレン(登録商標) LBR−390〔液状イソプレン−ブタジエン共重合ゴム、数平均分子量Mn:48000、ガラス転移点:−95℃〕。
(b) (株)クラレ製のクラプレン LIR−50〔液状イソプレンゴム、数平均分子量Mn:54000、ガラス転移点:−63℃〕。
【0049】
(c) (株)クラレ製のクラプレン LBR−300〔液状ブタジエンゴム、数平均分子量Mn:44000、ガラス転移点:−95℃〕
かかる液状ゴムは、以下に説明するようにブロック共重合体と所定の割合で配合して混練等することで、ブロック共重合体中に微細な粒子状に分散させることができる。
これにより、高減衰組成物を所定の高減衰部材の形状に成形して得られる高減衰部材の切断時伸びをできるだけ大きくすることができる。
【0050】
粒子状に分散した未加硫ゴムの平均粒子径は20μm以下であるのが好ましい。
平均粒子径が前記範囲を超える場合には、前記の分散構造としたことによる、高減衰部材の切断時伸びを大きくする効果が十分に得られないためである。
なお前記平均粒子径は、小さければ小さいほど、ブロック共重合体と液状ゴムとの相溶性が高いことになるため、その下限は特に限定されない。つまり本発明の構成としては、ブロック共重合体と液状ゴムとが完全に相溶して前記の分散構造を呈さない場合をも含みうる。
【0051】
未加硫ゴムの平均粒子径を前記範囲内に調整するためには、組み合わせるブロック共重合体、および未加硫ゴムの種類を調整したり、混練速度等の混練の条件を調整したりすればよい。
なお本発明では、ブロック共重合体中に粒子状に分散した未加硫ゴムの平均粒子径を、顕微FTIRイメージング装置を用いて、内部標準ピーク(トータルCH、2980cm−1)に対するブロック共重合体成分のピーク(エステル、1720cm−1)の相対強度を描写し、そこに含まれる、前記ブロック共重合体成分に由来する強度の弱い部分(未加硫ゴムに相当)のドメインの大きさを計測した値の平均値でもって表すこととする。
【0052】
未加硫ゴムの配合割合は、ブロック共重合体100質量部に対して5質量部以上、100質量部以下であるのが好ましい。
未加硫ゴムの配合割合が前記範囲未満では、当該未加硫ゴムを配合することによる、高減衰部材の減衰性能を向上する効果が不十分になるおそれがある。一方、前記範囲を超える場合には高減衰組成物の加工性が低下して、所望の立体形状を有する高減衰部材を製造するために前記高減衰組成物を混練したり、前記立体形状に成形加工したりするのが容易でなくなるおそれがある。
【0053】
これに対し、未加硫ゴムの配合割合を前記5質量部以上、100質量部以下の範囲内とすることで、高減衰組成物の良好な加工性を維持しながら、前記高減衰組成物を用いて形成する高減衰部材の減衰性能をできるだけ向上することが可能となる。
なお、かかる効果をさらに向上することを考慮すると、未加硫ゴムの配合割合は、前記範囲内でも30質量部以上であるのが好ましく、50質量部以下であるのが好ましい。
【0054】
〈炭酸カルシウム〉
本発明の高減衰組成物に、さらに炭酸カルシウムを配合すると、前記高減衰組成物を用いて形成する高減衰部材の減衰性能をより一層向上することができる。
炭酸カルシウムとしては、例えば製造方法によって分類される、種々の粒子径を有する合成炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウムや、あるいはこれらの表面を脂肪酸、4級アンモニウム塩、ロジン酸、おおびリグニン等の1種または2種以上で表面処理した表面処理炭酸カルシウム等の1種または2種以上が挙げられる。
【0055】
前記炭酸カルシウムの配合割合は、ブロック共重合体100質量部に対して10質量部以上であるのが好ましい。
配合割合が前記範囲未満では、充填剤として炭酸カルシウムを配合することによる、高減衰部材の減衰性能を向上する効果が十分に得られないおそれがある。
なお前記効果をより一層向上することを考慮すると、炭酸カルシウムの配合割合は、前記範囲内でも50質量部以上であるのが好ましい。
【0056】
また炭酸カルシウムの配合割合は、前記範囲内でも120質量部以下、特に110質量部以下であるのが好ましい。
配合割合が前記範囲を超える場合には、高減衰部材の切断時伸びが小さくなるおそれがある。また、環境温度によって高減衰部材の減衰性能が大きく変化する、つまり減衰性能の温度依存性が大きくなるおそれもある。
【0057】
〈その他の成分〉
本発明の高減衰組成物には、さらに必要に応じて液状ゴム以外の他の軟化剤、オイル、粘着性付与剤等の各種添加剤を、適宜の割合で配合してもよい。
このうち他の軟化剤としては、例えばクマロンインデン樹脂等が挙げられる。またオイルとしては、例えばパラフィン系オイル等が挙げられる。さらに粘着性付与剤としては、例えば石油樹脂、水素化石油樹脂、ロジン誘導体等の1種または2種以上が挙げられる。
【0058】
《高減衰部材》
前記本発明の高減衰組成物を所望の立体形状に成形加工することで、所定の減衰性能を有する高減衰部材が製造される。
本発明の高減衰組成物を用いて製造できる高減衰部材としては、例えばビル等の建築物の基礎に組み込まれる免震用ダンパ、建築物の構造中に組み込まれる制震(制振)用ダンパ、吊橋や斜張橋等のケーブルの制振部材、産業機械や航空機、自動車、鉄道車両等の防振部材、コンピュータやその周辺機器類、あるいは家庭用電気機器類等の防振部材、さらには自動車用タイヤのトレッド等が挙げられる。
【0059】
本発明によれば、前記ベースポリマ、シリカその他、各種成分の種類とその組み合わせおよび配合割合を調整することにより、前記それぞれの用途に適した優れた減衰性能を有する高減衰部材を得ることができる。
特に本発明の高減衰組成物を用いて建築物の構造中に組み込まれる制震用ダンパを形成した場合には、当該制震用ダンパが減衰性能に優れるため、1つの建築物中に組み込む前記制震用ダンパの数量を減らすことができる。また、前記制震用ダンパは制震性能の温度依存性が小さいことから、例えば温度差の大きい建築物の外壁付近にも前記制震用ダンパを設置することができる。
【実施例】
【0060】
〈実施例1〉
ブロック共重合体として、先に説明した(1)のM−A−Mトリブロック共重合体〔(株)カネカ製のNABSTAR(ナブスター、登録商標) N800AS、アクリル系重合体ブロック(A)の割合:80質量%、ブロック共重合体(1)とする〕を用いた。
前記ブロック共重合体(1)100質量部に、未加硫ゴムとしての液状イソプレン−ブタジエン共重合ゴム〔前出の(株)クラレ製のクラプレン(登録商標) LBR−390、数平均分子量Mn:48000、ガラス転移点:−95℃〕40質量部を配合し、密閉式混練機を用いて混練して高減衰組成物を調製した。
【0061】
〈実施例2〉
さらに表面処理炭酸カルシウム〔白石カルシウム(株)製の白艶華(登録商標)DD、剛性炭酸カルシウムをロジン酸で表面処理したもの。一次粒子径50nm〕100質量部を配合したこと以外は実施例1と同様にして高減衰組成物を調製した。
〈実施例3〉
ブロック共重合体として、
・ 実施例1で使用したのと同じブロック共重合体(1)〔(株)カネカ製のNABSTAR N800AS、アクリル系重合体ブロック(A)の割合:80質量%〕、および
・ 先に説明した(3)のM−A−Mトリブロック共重合体〔(株)クラレ製のクラリティ(登録商標) 4285、アクリル系重合体ブロック(A)の割合:50質量%、ブロック共重合体(3)とする〕
の2種を質量比〔ブロック共重合体(1)〕:〔ブロック共重合体(3)〕=80:20で併用した。
【0062】
前記2種のブロック共重合体(1)(3)を構成する両重合体ブロック(M)および(A)の全総量中に占める、アクリル系重合体ブロック(A)の合計の割合は74質量%であった。
前記2種のブロック共重合体(1)(3)の合計100質量部に、実施例1で使用したのと同じ液状イソプレン−ブタジエン共重合ゴム40質量部、および実施例2で使用したのと同じ表面処理炭酸カルシウム100質量部を配合し、密閉式混練機を用いて混練して高減衰組成物を調製した。
【0063】
〈実施例4〉
ブロック共重合体(1)に代えて、先に説明した(2)のM−A−Mトリブロック共重合体〔(株)カネカ製のNABSTAR N650AS、アクリル系重合体ブロック(A)の割合:65質量%、ブロック共重合体(2)とする〕を単独で使用し、前記ブロック共重合体(2)100質量部に、実施例1で使用したのと同じ液状イソプレン−ブタジエン共重合ゴム40質量部、および実施例2で使用したのと同じ表面処理炭酸カルシウム100質量部を配合し、密閉式混練機を用いて混練して高減衰組成物を調製した。
【0064】
〈実施例5〉
ブロック共重合体として、
・ 実施例3で使用したのと同じブロック共重合体(3)〔(株)クラレ製のクラリティ 4285、アクリル系重合体ブロック(A)の割合:50質量%〕、および
・ 先に説明した(4)のM−Aジブロック共重合体〔(株)クラレ製のクラリティ 1114、アクリル系重合体ブロック(A)の割合:93質量%、ブロック共重合体(4)とする〕
の2種を質量比〔ブロック共重合体(3)〕:〔ブロック共重合体(4)〕=50:50で併用した。
【0065】
前記2種のブロック共重合体(3)(4)を構成する両重合体ブロック(M)および(A)の全総量中に占める、アクリル系重合体ブロック(A)の合計の割合は71.5質量%であった。
前記2種のブロック共重合体(3)(4)の合計100質量部に、実施例1で使用したのと同じ液状イソプレン−ブタジエン共重合ゴム40質量部を配合し、密閉式混練機を用いて混練して高減衰組成物を調製した。
【0066】
〈実施例6〉
液状イソプレン−ブタジエン共重合ゴムに代えて、液状イソプレンゴム〔前出の(株)クラレ製のクラプレン LIR−50、数平均分子量Mn:54000、ガラス転移点:−63℃〕40質量部を配合したこと以外は実施例1と同様にして高減衰組成物を調製した。
【0067】
〈実施例7〉
液状イソプレン−ブタジエン共重合ゴムに代えて、液状ブタジエンゴム〔前出の(株)クラレ製のクラプレン LBR−300、数平均分子量Mn:44000、ガラス転移点:−95℃〕40質量部を配合したこと以外は実施例1と同様にして高減衰組成物を調製した。
【0068】
〈比較例1〉
液状イソプレン−ブタジエン共重合ゴムを配合しなかったこと以外は実施例1と同様にして高減衰組成物を調製した。
〈比較例2〉
ブロック共重合体(1)に代えてブロック共重合体(3)〔(株)クラレ製のクラリティ 4285、アクリル系重合体ブロック(A)の割合:50質量%〕を単独で使用し、前記ブロック共重合体(3)100質量部に、実施例1で使用したのと同じ液状イソプレン−ブタジエン共重合ゴム40質量部、および実施例2で使用したのと同じ表面処理炭酸カルシウム100質量部を配合し、密閉式混練機を用いて混練して高減衰組成物を調製した。
【0069】
〈比較例3〉
ブロック共重合体(1)に代えてブロック共重合体(4)〔(株)クラレ製のクラリティ 1114、アクリル系重合体ブロック(A)の割合:93質量%〕を単独で使用し、前記ブロック共重合体(4)100質量部に、実施例1で使用したのと同じ液状イソプレン−ブタジエン共重合ゴム40質量部、および実施例2で使用したのと同じ表面処理炭酸カルシウム100質量部を配合し、密閉式混練機を用いて混練して高減衰組成物を調製した。
【0070】
しかし比較例3の高減衰組成物は加工性が悪く、次に説明する減衰特性試験用の試験体の円板の形状にプレス成形したり、引張特性試験用の試験片を作製したりできなかったため、以下の評価試験は実施しなかった。
〈減衰特性試験〉
(試験体の作製)
前記各実施例、比較例で調製した高減衰組成物を180℃でプレス成形して、図1に示すように円板1(厚み5mm×直径25mm)を作製し、前記円板1の表裏両面に、それぞれシアノアクリレート系接着剤を介して厚み6mm×縦44mm×横44mmの矩形平板状の鋼板2を重ねて積層方向に加圧することで、前記円板1を2枚の鋼板2と接着させて、高減衰部材のモデルとしての減衰特性評価用の試験体3を作製した。
【0071】
(変位試験)
図2(a)に示すように前記試験体3を2個用意し、前記2個の試験体3を、一方の鋼板2を介して1枚の中央固定治具4にボルトで固定するとともに、それぞれの試験体3の他方の鋼板2に、1枚ずつの左右固定治具5をボルトで固定した。そして中央固定治具4を、図示しない試験機の上側の固定アーム6に、ジョイント7を介してボルトで固定し、かつ2枚の左右固定治具5を、前記試験機の下側の可動盤8に、ジョイント9を介してボルトで固定した。
【0072】
次にこの状態で、可動盤8を図中に白抜きの矢印で示すように固定アーム6の方向に押し上げるように変位させて、試験体3のうち円板1を、図2(b)に示すように前記試験体3の積層方向と直交方向に歪み変形させた状態とし、次いでこの状態から、可動盤8を図中に白抜きの矢印で示すように固定アーム6の方向と反対方向に引き下げるように変位させて、前記図2(a)に示す状態に戻す操作を1サイクルとして、前記試験体3のうち円板1を繰り返し歪み変形、すなわち振動させた際の、前記試験体3の積層方向と直交方向への円板1の変位量(mm)と荷重(N)との関係を示すヒステリシスループH(図3参照)を求めた。
【0073】
測定は、温度20℃の環境下、前記操作を3サイクル実施して3回目の値を求める。また最大変位量は、円板1を挟む2枚の鋼板2の、前記積層方向と直交方向のずれ量が、前記円板1の厚みの100%となるように設定した。
次いで、前記測定により求めた図3に示すヒステリシスループHのうち最大変位点と最小変位点とを結ぶ、図中に太線の実線で示す直線Lの傾きKeq(N/mm)を求め、前記傾きKeq(N/mm)と、円板1の厚みT(mm)と、円板1の断面積A(mm)とから、式(1):
【0074】
【数1】

【0075】
により等価せん断弾性率Geq(N/mm)を求めた。
また図3中に斜線を付して示した、ヒステリシスループHの全表面積で表される吸収エネルギー量ΔWと、同図中に網線を付して示した、前記直線Lと、グラフの横軸と、直線LとヒステリシスループHとの交点から前記横軸におろした垂線Lとで囲まれた領域の表面積で表される弾性歪みエネルギーWとから、式(2):
【0076】
【数2】

【0077】
により等価減衰定数Heqを求めた。
そして等価減衰定数Heqが0.30以上のものを良好、0.30未満のものを不良と評価した。
〈引張特性評価〉
温度20℃の環境下、実施例、比較例で調製した高減衰組成物を用いて、日本工業規格JIS K6251:2010「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張特性の求め方」に規定されたダンベル状1号形試験片を作製し、前記試験片を用いて、同規格に規定された試験方法に則って試験速度300mm/minの条件で引張試験を実施して、切断時伸びE(%)を求めた。
【0078】
そして切断時伸びEが200%以上のものを良好、200%未満のものを不良と評価した。
以上の結果を表1、表2に示す。
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】

【0081】
表2の比較例1の結果より、ブロック共重合体に、未加硫ゴムを配合しない場合には、十分な減衰性能を有する高減衰部材を形成できないことが判った。
また比較例2の結果より、前記ブロック共重合体としてアクリル系重合体ブロック(A)の割合が55質量%未満のものを用いた場合には、未加硫ゴムを配合したとしても、高減衰部材の切断時伸びが小さくなって、制震用ダンパ等として適さなくなることが判った。
【0082】
さらに比較例3の結果より、前記ブロック共重合体としてアクリル系重合体ブロック(A)の割合が90質量%を超えるものを用いた場合には、未加硫ゴムを配合したとしても、高減衰組成物の加工性が低下して、所望の立体形状を有する高減衰部材を製造するために前記高減衰組成物を混練したり、前記立体形状に成形加工したりするのが容易でなくなることが判った。
【0083】
これに対し実施例1〜3の結果より、前記ブロック共重合体としてアクリル系重合体ブロック(A)の割合が55質量%以上、90質量%以下であるものを用いるとともに、未加硫ゴムを配合することにより、生産性や高減衰部材を形成する際の加工性等に優れる上、建築用の制震用ダンパ等として十分に使用できるだけの高い減衰性能や大きな切断時伸びを有する高減衰部材を形成しうる高減衰組成物が得られることが判った。
【0084】
また実施例1、2の結果より、前記高減衰組成物にさらに炭酸カルシウムを配合することで、高減衰部材の減衰性能をより一層向上できることが判った。
また実施例1〜5の結果より、ブロック共重合体としては、アクリル系重合体ブロック(A)の割合が前記範囲内であるものを1種単独で使用する場合の他、アクリル系重合体ブロック(A)の割合の異なる2種以上を併用するとともに、そのトータルでのアクリル系重合体ブロック(A)の割合を前記範囲内としても同等の効果が得られることが判った。
【0085】
さらに実施例1、6、7の結果より未加硫ゴムとしては種々の液状ゴムが使用可能であることが判った。
【符号の説明】
【0086】
1 円板
2 鋼板
3 試験体
4 中央固定治具
5 左右固定治具
6 固定アーム
7 ジョイント
8 可動盤
9 ジョイント
H ヒステリシスループ
直線
Keq 傾き
垂線
W エネルギー
ΔW 吸収エネルギー量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースポリマとしての、
(i) メタクリル酸エステルを構成単量体として少なくとも含むメタクリル系重合体ブロック(M)と、アクリル酸−n−ブチル、およびアクリル酸−2−メトキシエチルからなる群より選ばれた少なくとも1種を構成単量体として含むアクリル系重合体ブロック(A)との、M−A−Mトリブロック共重合体、およびM−Aジブロック共重合体からなる群より選ばれた少なくとも1種のブロック共重合体であって、前記両重合体ブロックの総量中に占めるアクリル系重合体ブロック(A)の割合が55質量%以上、90質量%以下であるブロック共重合体に、
(ii) 未加硫ゴム
を配合したことを特徴とする高減衰組成物。
【請求項2】
前記未加硫ゴムの配合割合は、前記ブロック共重合体100質量部に対して5質量部以上、100質量部以下である請求項1に記載の高減衰組成物。
【請求項3】
前記未加硫ゴムは、前記ブロック共重合体中に粒子状に分散されており、その平均粒子径は20μm以下である請求項1または2に記載の高減衰組成物。
【請求項4】
前記未加硫ゴムは、液状イソプレンゴム、液状水素化イソプレンゴム、液状イソプレン−スチレン共重合ゴム、液状ブタジエンゴム、および液状イソプレン−ブタジエン共重合ゴムからなる群より選ばれた少なくとも1種の液状ゴムである請求項1ないし3のいずれか1項に記載の高減衰組成物。
【請求項5】
さらに炭酸カルシウムを配合した請求項1ないし4のいずれか1項に記載の高減衰組成物。
【請求項6】
建築物の制震用ダンパの形成材料として用いる請求項1ないし5のいずれか1項に記載の高減衰組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−108013(P2013−108013A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255385(P2011−255385)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】