説明

高減衰組成物

【課題】安価でかつ汎用の材料を使用して、なおかつ良好な加工性を維持しながら、温度依存性の問題を解消するとともに、現状よりも減衰性能に優れた高減衰部材を形成しうる高減衰組成物を提供する。
【解決手段】極性基を有しないジエン系ゴムに、無機充てん剤、および少なくともデンプンを含む植物性製粉を配合した。前記植物性製粉としては、小麦粉、および馬鈴薯粉からなる群より選ばれた少なくとも1種が好ましい。小麦粉を使用する場合は、さらに水を配合するのが好ましい。小麦粉と水は、あらかじめ混練した状態で他の成分と配合するのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動エネルギーの伝達を緩和したり吸収したりする高減衰部材のもとになる高減衰組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばビルや橋梁等の建築物、産業機械、航空機、自動車、鉄道車両、コンピュータやその周辺機器類、家庭用電気機器類、さらには自動車用タイヤ等の幅広い分野において高減衰部材が用いられる。前記高減衰部材を用いることで、振動エネルギーの伝達を緩和したり吸収したりする、すなわち免震、制震、制振、防振等をすることができる。
前記高減衰部材は、天然ゴム等をベースポリマとして含む高減衰組成物によって形成される。
【0003】
前記高減衰組成物には、振動が加えられた際のヒステリシスロスを大きくして前記振動のエネルギーを効率よく速やかに減衰する性能、すなわち減衰性能を高めるために、カーボンブラック、シリカ等の無機充てん剤、あるいはロジン、石油樹脂等の粘着性付与剤等を配合するのが一般的である(例えば特許文献1等参照)。
しかし、かかる従来の高減衰組成物では、高減衰部材の減衰性能を十分に高めることはできない。
【0004】
高減衰部材の減衰性能を現状よりもさらに高めるためには、無機充てん剤や粘着性付与剤等の配合割合をさらに増加させること等が考えられる。ところが、多量の無機充てん剤や粘着性付与剤を配合した高減衰組成物は加工性が低下して、所望の立体形状を有する高減衰部材を製造するために前記高減衰組成物を混練したり、前記立体形状に成形加工したりするのが容易でないという問題がある。
【0005】
特に工場レベルで高減衰部材を量産する場合、前記加工性の低さは高減衰部材の生産性を大きく低下させ、生産に要するエネルギーを増大させ、さらには生産コストを高騰させる原因となるため望ましくない。
そこで、加工性を低下させずに減衰性能を向上するため、特許文献2では、極性側鎖を有するベースポリマに、2以上の極性基を有する減衰性付与剤等を配合することが検討されている。
【0006】
しかし前記極性側鎖を有するもの等の、分子中に極性基を有するベースポリマは、一般にガラス転移温度Tgが室温(3〜35℃)付近に存在することから、前記ベースポリマを含む高減衰組成物を用いて形成した高減衰部材は、最も一般的な使用温度域である前記室温付近において、特に剛性等の特性の温度依存性が大きくなる傾向がある。
特許文献3では、極性側鎖を有しないベースポリマに、無機充てん剤としてのシリカと、2以上の極性基を有する減衰性付与剤等とを配合することが検討されている。かかる構成によれば、シリカを併用することで良好な減衰性能を維持しながら、ベースポリマとして極性基を有しないものを用いることで、室温付近での特性の温度依存性を小さくすることができる。
【0007】
しかし、前記2以上の極性基を有する減衰性付与剤としては特殊でかつ高価な材料を用いる必要がある上、現状よりも減衰性能をさらに向上するために前記減衰性付与剤の配合割合を増加させた場合には、高減衰組成物の粘着性が増すため前記加工性が低下するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−41603号公報
【特許文献2】特開2000−44813号公報
【特許文献3】特開2009−138053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、安価でかつ汎用の材料を使用して、なおかつ良好な加工性を維持しながら、温度依存性の問題を解消するとともに、現状よりも減衰性能に優れた高減衰部材を形成しうる高減衰組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、極性基を有しないジエン系ゴムに、無機充てん剤、および少なくともデンプンを含む植物性製粉を配合したことを特徴とする高減衰組成物である。
本発明によれば、ベースポリマとして、極性基を有しないジエン系ゴムを選択して用いることにより、高減衰部材の特性の、室温付近での温度依存性を小さくして、前記温度依存性の問題を解消することができる。そのため、広い温度範囲で安定した減衰性能を示す高減衰部材を形成することができる。
【0011】
また植物性製粉を配合すると、当該植物性製粉に含まれるデンプンの構成単位−(C10)−中の極性基、すなわち−OH基が、無機充てん剤、およびジエン系ゴムと相互作用を生じて、高減衰部材の減衰性能を向上する働きをする。
しかも前記植物性製粉は食材等として安価に供給され、汎用されている上、多量に配合しても、従来の減衰性付与剤のように高減衰組成物の粘着性を増加させて加工性を低下させることなしに、高減衰部材の減衰性能を現状よりも向上することができる。
【0012】
したがって本発明の高減衰組成物によれば、前記植物性製粉をはじめとする安価でかつ汎用の材料を使用して、なおかつ良好な加工性を維持しながら、温度依存性の問題を解消するとともに、現状よりも減衰性能に優れた高減衰部材を形成することが可能となる。
前記植物性製粉としては、前記粘度上昇による加工性の低下を生じることなしに高減衰部材の減衰性能を向上する効果と、汎用性等との兼ね合いを考慮すると、小麦粉、および馬鈴薯粉からなる群より選ばれた少なくとも1種が好適に使用される。特に小麦粉が好ましい。
【0013】
前記小麦粉を用いる場合、高減衰組成物には、さらに水を配合するのが好ましい。配合した水が、デンプンとともに小麦粉中に含まれるタンパク質のうちグリアジン、グルテニンに吸収されて、当該グリアジン、グルテニンから、高い粘弾性を有し、高減衰部材の減衰性能を向上するために機能するグルテンが生成される。
そのため、先に説明したデンプンの機能と相まって、高減衰部材の減衰性能をさらに向上することができる。
【0014】
前記小麦粉と水は、グルテンの生成を促進して高減衰部材の減衰性能をより一層向上することを考慮すると、あらかじめ両者を混練してグルテンを生成させた後に、ジエン系ゴムその他の成分と配合するのが好ましい。
前記無機充てん剤、および植物性製粉の総量中に占める前記植物性製粉の割合は5質量%以上、50質量%以下であるのが好ましい。
【0015】
植物性製粉の割合が前記範囲未満では、先に説明した、当該植物性製粉中のデンプンを無機充てん剤、およびジエン系ゴムと相互作用させて、高減衰部材の減衰性能を向上する効果が十分に得られないおそれがある。
一方、前記範囲を超えてもそれ以上の効果が得られないだけでなく、高減衰組成物の加工性が低下して、特に高減衰部材の立体形状に成形加工したりするのが容易でなくなるおそれがある。
【0016】
また、前記無機充てん剤、および植物性製粉の合計の配合割合は、前記ジエン系ゴム100質量部あたり50質量部以上、200質量部以下であるのが好ましい。
無機充てん剤、および植物性製粉の合計の配合割合が前記範囲未満では、前記無機充てん剤、植物性製粉中のデンプン、およびジエン系ゴムを相互作用させて、高減衰部材の減衰性能を向上する効果が十分に得られないおそれがある。
【0017】
一方、前記範囲を超えてもそれ以上の効果が得られないだけでなく、特に高減衰組成物を調製するべく各成分を混練したりするのが容易でなくなるおそれがある。
前記本発明の高減衰組成物を形成材料として用いて、高減衰部材としての建築物の制震用ダンパを形成した場合には、当該制震用ダンパが減衰性能に優れるため、1つの建築物中に組み込む前記制震用ダンパの数量を減らすことができる。また温度依存性が小さいことから、例えば温度差の大きい建築物の外壁付近にも前記制震用ダンパを設置することができ、前記建築物の制震設計の自由度を向上することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、安価でかつ汎用の材料を使用して、なおかつ良好な加工性を維持しながら、温度依存性の問題を解消するとともに、現状よりも減衰性能に優れた高減衰部材を形成しうる高減衰組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施例、比較例の高減衰組成物からなる高減衰部材の減衰性能を評価するために作製する、前記高減衰部材のモデルとしての試験体を分解して示す分解斜視図である。
【図2】同図(a)(b)は、前記試験体を変位させて変位量と荷重との関係を求めるための試験機の概略を説明する図である。
【図3】前記試験機を用いて試験体を変位させて求められる、変位量と荷重との関係を示すヒステリシスループの一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、極性基を有しないジエン系ゴムに、無機充てん剤、および少なくともデンプンを含む植物性製粉を配合したことを特徴とする高減衰組成物である。
(ジエン系ゴム)
極性基を有しないジエン系ゴムとしては、例えば天然ゴム、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)等の1種または2種以上が挙げられる。特に、入手が容易でコスト安価に高減衰組成物を形成しうる天然ゴムが好ましい。
【0021】
(無機充てん剤)
無機充てん剤としては、特に高減衰部材の減衰性能を向上する効果に優れたシリカが、少なくとも用いられる。
前記シリカとしては、その製法によって分類される湿式法シリカ、乾式法シリカのいずれを用いてもよい。またシリカとしては、充てん剤として十分に機能して高減衰部材の減衰性能を向上する効果を向上することを考慮すると、BET比表面積が100m/g以上、特に200m/g以上であるものを用いるのが好ましく、400m/g以下、特に270m/g以下であるものを用いるのが好ましい。
【0022】
BET比表面積は、例えば柴田化学器械工業(株)製の迅速表面積測定装置SA−1000等を使用して、吸着気体として窒素ガスを用いる気相吸着法によって測定した値でもって表すこととする。
前記シリカとしては、例えば東ソー・シリカ(株)製のNipsil(登録商標)KQ、VN3、AQ、ER等の1種または2種以上が挙げられる。
【0023】
無機充てん剤としては、前記シリカのみを単独で用いてもよいし、シリカと他の無機充てん剤とを併用してもよい。
前記他の無機充てん剤としては、例えば炭酸カルシウムやカーボンブラックが挙げられる。
このうち炭酸カルシウムとしては、その製造方法等によって分類される合成炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム等のうち、充てん剤として機能しうる粉末状の炭酸カルシウムがいずれも使用可能である。また炭酸カルシウムとしては、ベースポリマやクマロンインデン樹脂等に対する親和性、分散性等を向上するために表面処理を施したものを用いてもよい。
【0024】
またカーボンブラックとしては、その製造方法等によって分類される種々のカーボンブラックのうち、充てん剤として機能しうる種々のカーボンブラックがいずれも使用可能である。
(植物性製粉)
少なくともデンプンを含む植物性製粉としては、例えば小麦、米、大麦、ライ麦、トウモロコシ等の穀類;大豆、エンドウ豆、ソラマメ、緑豆、小豆等の豆類;ソバ等の擬穀類;馬鈴薯(ジャガイモ)、甘藷(サツマイモ)、タピオカ等のイモ類などの各種植物から製造される、少なくともデンプンを含む粉がいずれも使用可能である。
【0025】
中でも馬鈴薯から製造される馬鈴薯粉(現在は片栗粉としても市販されている)、および小麦から製粉される小麦粉が好ましい。
このうち馬鈴薯粉は安価で入手が容易である上、前記馬鈴薯粉中に含まれる馬鈴薯デンプンは、植物性製粉に含まれるデンプンの中で最大級の粒径を有するため、先に説明した、ジエン系ゴム、および無機充てん剤と相互作用して高減衰部材の減衰性能を向上する効果に優れている。
【0026】
また小麦粉は、やはり安価で入手が容易である上、水を加えると、前記小麦粉中にデンプンとともに含まれるタンパク質のうちグリアジン、グルテニンが前記水を吸収することで、高い粘弾性を有し、高減衰部材の減衰性能を向上するために機能するグルテンが生成される。そのためデンプンの機能と相まって、高減衰部材の減衰性能をさらに向上することができる。
【0027】
前記小麦粉としては、含まれるタンパク質の割合、および形成されるグルテンの性質によって分類される強力粉、中力粉、薄力粉、浮き粉等や、あるいは製粉状態等の違い等によって分類される全粒粉、グラハム粉、セモリナ粉等がいずれも使用可能である。
中でも特に、グルテンのもとになるタンパク質の割合が最も多い上、デンプンとタンパク質以外の成分を多量に含まない強力粉が好ましい。
【0028】
(配合割合等)
前記無機充てん剤、および植物性製粉の総量中に占める前記植物性製粉の割合は5質量%以上、特に10質量%以上であるのが好ましく、50質量%以下、特に40質量%以下であるのが好ましい。
植物性製粉の割合が前記範囲未満では、先に説明した、当該植物性製粉中のデンプンを無機充てん剤、およびジエン系ゴムと相互作用させて、高減衰部材の減衰性能を向上する効果が十分に得られないおそれがある。
【0029】
一方、前記範囲を超えてもそれ以上の効果が得られないだけでなく、高減衰組成物の加工性が低下して、特に高減衰部材の立体形状に成形加工したりするのが容易でなくなるおそれがある。
また、前記無機充てん剤、および植物性製粉の合計の配合割合は、前記ジエン系ゴム100質量部あたり50質量部以上、特に60質量部以上であるのが好ましく、200質量部以下、特に150質量部以下であるのが好ましい。
【0030】
無機充てん剤、および植物性製粉の合計の配合割合が前記範囲未満では、前記無機充てん剤、植物性製粉中のデンプン、およびジエン系ゴムを相互作用させて、高減衰部材の減衰性能を向上する効果が十分に得られないおそれがある。
一方、前記範囲を超えてもそれ以上の効果が得られないだけでなく、特に高減衰組成物を調製するべく各成分を混練したりするのが容易でなくなるおそれがある。
【0031】
(水)
植物性製粉が小麦粉であるとき、高減衰組成物には、先に説明したように小麦粉中のグリアジン、グルテニンからグルテンを生成させるために、さらに水を配合するのが好ましい。また水は、前記グルテンの生成を促進して高減衰部材の減衰性能をより一層向上することを考慮すると、あらかじめ小麦粉と混練してグルテンを生成させた後に、ジエン系ゴムその他の成分と配合するのが好ましい。
【0032】
水の配合割合は、小麦粉100質量部あたり50質量部以上、特に60質量部以上であるのが好ましく、100質量部以下、特に70質量部以下であるのが好ましい。
水の配合割合が前記範囲未満では、十分な量のグルテンを生成できないため、高減衰部材の減衰性能を十分に向上できないおそれがある。
一方、前記範囲を超える場合には、あらかじめ小麦粉と混練した混練物が柔らかくなりすぎて、前記混練物を他の成分と均一に混練できないため、高減衰部材の減衰性能を十分に向上できないおそれがある。
【0033】
(その他の成分)
本発明の高減衰組成物には、さらに加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤等の、ジエン系ゴムを加硫させるための加硫系の添加剤や、シラン化合物、軟化剤、粘着性付与剤、老化防止剤等の各種添加剤を、適宜の割合で配合してもよい。
このうちシラン化合物としては、式(a):
【0034】
【化1】

【0035】
〔式中、R、R、R、およびRのうちの少なくとも1つはアルコキシ基を示す。ただしR、R、R、およびRが同時にアルコキシ基であることはなく、他はアルキル基またはアリール基を示す。〕
で表され、シランカップリング剤やシリル化剤等の、無機充てん剤としてのシリカの分散剤として機能しうる種々のシラン化合物が挙げられる。
【0036】
特にヘキシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン等のアルコキシシランが好ましい。
前記シラン化合物としては、例えば信越化学工業(株)製のKBE−103(フェニルトリエトキシシラン)等が挙げられる。
シラン化合物の配合割合は特に限定されないが、シリカ100質量部あたり5質量部以上であるのが好ましく、25質量部以下であるのが好ましい。
【0037】
軟化剤としては、クマロンインデン樹脂、液状ゴム等の1種または2種以上が挙げられる。
このうちクマロンインデン樹脂としては、主にクマロンとインデンの重合物からなり、平均分子量1000以下程度の比較的低分子量であって、軟化剤として機能しうる種々のクマロンインデン樹脂が挙げられる。
【0038】
前記クマロンインデン樹脂としては、例えば日塗化学(株)製のニットレジン(登録商標)クマロンG−90〔平均分子量:770、軟化点:90℃、酸価:1.0KOHmg/g以下、水酸基価:25KOHmg/g、臭素価9g/100g〕、G−100N〔平均分子量:730、軟化点:100℃、酸価:1.0KOHmg/g以下、水酸基価:25KOHmg/g、臭素価11g/100g〕、V−120〔平均分子量:960、軟化点:120℃、酸価:1.0KOHmg/g以下、水酸基価:30KOHmg/g、臭素価6g/100g〕、V−120S〔平均分子量:950、軟化点:120℃、酸価:1.0KOHmg/g以下、水酸基価:30KOHmg/g、臭素価7g/100g〕等の1種または2種以上が挙げられる。
【0039】
クマロンインデン樹脂の配合割合は特に限定されないが、ジエン系ゴム100質量部あたり5質量部以上であるのが好ましく、50質量部以下であるのが好ましい。
また液状ゴムとしては、室温(3〜35℃)で液状を呈する種々のゴムが挙げられる。前記液状ゴムとしては、例えば液状ポリイソプレンゴム、液状ニトリルゴム(液状NBR)、液状スチレンブタジエンゴム(液状SBR)等の1種または2種以上が挙げられる。
【0040】
このうち液状ポリイソプレンゴムが好ましい。前記液状ポリイソプレンゴムとしては、例えば(株)クラレ製のクラプレン(登録商標)LIR−50等が挙げられる。
液状ポリイソプレンゴムの配合割合は特に限定されないが、ジエン系ゴム100質量部あたり5質量部以上であるのが好ましく、80質量部以下であるのが好ましい。
粘着性付与剤としては、例えば石油樹脂等が挙げられる。また石油樹脂としては、例えば丸善石油化学(株)製のマルカレッツ(登録商標)M890A〔ジシクロペンタジエン系石油樹脂、軟化点:105℃〕等が好ましい。
【0041】
前記石油樹脂の配合割合は特に限定されないが、ジエン系ゴム100質量部あたり3質量部以上であるのが好ましく、50質量部以下であるのが好ましい。
老化防止剤としては、例えばベンズイミダゾール系、キノン系、ポリフェノール系、アミン系等の各種老化防止剤の1種または2種以上が挙げられる。特にベンズイミダゾール系老化防止剤とキノン系老化防止剤を併用するのが好ましい。
【0042】
このうちベンズイミダゾール系老化防止剤としては、例えば大内新興化学工業(株)製のノクラック(登録商標)MB〔2−メルカプトベンズイミダゾール〕等が挙げられる。またキノン系老化防止剤としては、例えば丸石化学品(株)製のアンチゲンFR〔芳香族ケトン−アミン縮合物〕等が挙げられる。
両老化防止剤の配合割合は特に限定されないが、ベンズイミダゾール系老化防止剤は、ジエン系ゴム100質量部あたり0.5質量部以上であるのが好ましく、5質量部以下であるのが好ましい。またキノン系老化防止剤は、ジエン系ゴム100質量部あたり0.5質量部以上であるのが好ましく、5質量部以下であるのが好ましい。
【0043】
加硫剤としては、例えば硫黄や含硫黄有機化合物等が挙げられる。特に硫黄が好ましい。
加硫促進剤としては、例えばスルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤等が挙げられる。加硫促進剤は、種類によって加硫促進のメカニズムが異なるため前記両者を併用するのが好ましい。
【0044】
このうちスルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えば大内新興化学工業(株)製のノクセラー(登録商標)NS〔N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド〕等が挙げられる。またチウラム系加硫促進剤としては、例えば大内新興化学工業(株)製のノクセラーTBT〔テトラブチルチウラムジスルフィド〕等が挙げられる。
加硫促進助剤としては例えば亜鉛華、ステアリン酸等が挙げられる。通常は両者を加硫促進助剤として併用するのが好ましい。
【0045】
前記加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤の配合割合は、高減衰部材の用途等によって異なる減衰性能やゴム硬さ等の特性に応じて適宜調整すればよい。
本発明の高減衰組成物は、前記の各成分を任意の混練機を用いて混練して調製され、前記高減衰組成物を所望の立体形状に成形加工するとともにジエン系ゴムを加硫することで、所定の減衰性能を有する高減衰部材が製造される。
【0046】
本発明の高減衰組成物を用いて製造できる高減衰部材としては、例えばビル等の建築物の基礎に組み込まれる免震用ダンパ、建築物の構造中に組み込まれる制震(制振)用ダンパ、吊橋や斜張橋等のケーブルの制振部材、産業機械や航空機、自動車、鉄道車両等の防振部材、コンピュータやその周辺機器類、あるいは家庭用電気機器類等の防振部材、さらには自動車用タイヤのトレッド等が挙げられる。
【0047】
本発明によれば、前記ジエン系ゴム、シリカ等の無機充てん剤、少なくともデンプンを含む植物性製粉その他、各種成分の種類とその組み合わせおよび配合割合を調整することにより、前記それぞれの用途に適した優れた減衰性能を有する高減衰部材を得ることができる。
特に本発明の高減衰組成物を用いて建築物の構造中に組み込まれる制震用ダンパを形成した場合には、当該制震用ダンパが減衰性能に優れるため、1つの建築物中に組み込む前記制震用ダンパの数量を減らすことができる。また温度依存性が小さいことから、例えば温度差の大きい建築物の外壁付近にも前記制震用ダンパを設置することができ、前記建築物の制震設計の自由度を向上することができる。
【実施例】
【0048】
〈実施例1〉
ベースポリマとしての天然ゴム〔SMR(Standard Malaysian Rubber)−CV60〕:100質量部に、
* シリカ〔東ソー・シリカ(株)製のNipsil(ニップシール)KQ〕:115質量部、
* 強力粉:20質量部、および
* 水13質量部
と、下記表1に示す各成分とを配合し、密閉式混練機を用いて混練して高減衰組成物を調製した。なお強力粉と水とは別個に密閉式混練機に投入した。
【0049】
【表1】

【0050】
表1中の各成分は下記のとおり。
フェニルトリエトキシシラン:信越化学工業(株)製のKBE−103
液状ポリイソプレンゴム:軟化剤、(株)クラレ製のLIR50
ベンズイミダゾール系老化防止剤:2−メルカプトベンズイミダゾール、大内新興化学工業(株)製のノクラックMB
キノン系老化防止剤:丸石化学品(株)製のアンチゲンFR
酸化亜鉛2種:三井金属鉱業(株)製
ステアリン酸:日油(株)製の「つばき」
ジシクロペンタジエン系石油樹脂:軟化点105℃、丸善石油化学(株)製のマルカレッツ(登録商標)M890A
クマロン樹脂:軟化点90℃、日塗化学(株)製のエスクロン(登録商標)G-90
5%オイル処理粉末硫黄:加硫剤、鶴見化学工業(株)製
スルフェンアミド系加硫促進剤:N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、大内新興化学工業(株)製のノクセラー(登録商標)NS
チウラム系加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーTBT−N
前記各成分のうち無機充てん剤としてのシリカ、および植物性製粉としての強力粉の総量中に占める前記強力粉の割合は14.81質量%、前記シリカ、および強力粉の合計の配合割合は、ジエン系ゴムとしての天然ゴム100質量部あたり135質量部であった。
【0051】
〈実施例2〉
前記強力粉20質量部と水13質量部とを、混練物が粘弾性を生じる、つまりグルテンを生成するまであらかじめ混練したのち、他の成分とともに密閉式混練機に投入して混練したこと以外は実施例1と同様にして高減衰組成物を調製した。
無機充てん剤としてのシリカ、および植物性製粉としての強力粉の総量中に占める前記強力粉の割合は14.81質量%、前記シリカ、および強力粉の合計の配合割合は、ジエン系ゴムとしての天然ゴム100質量部あたり135質量部であった。
【0052】
〈比較例1〉
天然ゴム100質量部あたりの配合割合を、シリカ:135質量部、フェニルトリエトキシシラン:23質量部とし、かつ強力粉、および水を配合しなかったこと以外は実施例1と同様にして高減衰組成物を調製した。
無機充てん剤としてのシリカ、および植物性製粉としての強力粉の総量中に占める前記強力粉の割合は0質量%、前記シリカ、および強力粉の合計の配合割合は、ジエン系ゴムとしての天然ゴム100質量部あたり135質量部であった。
【0053】
〈比較例2〉
強力粉に代えて炭酸カルシウム〔白石カルシウム(株)製の白艶華(登録商標)BF−300、重質炭酸カルシウム、平均粒子径:8.00μm、比表面積:2700cm/g、見かけ比重:1.26g/ml、DOP吸油量:26ml/100g〕を、天然ゴム100質量部あたり20質量部の割合で配合するとともに、水を配合しなかったこと以外は実施例1と同様にして高減衰組成物を調製した。
【0054】
〈減衰特性試験〉
(試験体の作製)
実施例、比較例で調製した高減衰組成物をシート状に押出成形したのち打ち抜いて、図1に示すように円板1(厚み5mm×直径25mm)を作製し、前記円板1の表裏両面に、それぞれ加硫接着剤を介して厚み6mm×縦44mm×横44mmの矩形平板状の鋼板2を重ねて積層方向に加圧しながら150℃に加熱して円板1を形成する高減衰組成物を加硫させるとともに、前記円板1を2枚の鋼板2と加硫接着させて、高減衰部材のモデルとしての減衰特性評価用の試験体3を作製した。
【0055】
(変位試験)
図2(a)に示すように前記試験体3を2個用意し、前記2個の試験体3を、一方の鋼板2を介して1枚の中央固定治具4にボルトで固定するとともに、それぞれの試験体3の他方の鋼板2に、1枚ずつの左右固定治具5をボルトで固定した。そして中央固定治具4を、図示しない試験機の上側の固定アーム6に、ジョイント7を介してボルトで固定し、かつ2枚の左右固定治具5を、前記試験機の下側の可動盤8に、ジョイント9を介してボルトで固定した。
【0056】
次にこの状態で、可動盤8を図中に白抜きの矢印で示すように固定アーム6の方向に押し上げるように変位させて、試験体3のうち円板1を、図2(b)に示すように前記試験体3の積層方向と直交方向に歪み変形させた状態とし、次いでこの状態から、可動盤8を図中に白抜きの矢印で示すように固定アーム6の方向と反対方向に引き下げるように変位させて、前記図2(a)に示す状態に戻す操作を1サイクルとして、前記試験体3のうち円板1を繰り返し歪み変形、すなわち振動させた際の、前記試験体3の積層方向と直交方向への円板1の変位量(mm)と荷重(N)との関係を示すヒステリシスループH(図3参照)を求めた。
【0057】
測定は、前記操作を3サイクル行って3回目の値を求めた。また最大変位量は、円板1を挟む2枚の鋼板2の、前記積層方向と直交方向のずれ量が、前記円板1の厚みの100%となるように設定した。
次いで、前記測定により求めた図3に示すヒステリシスループHのうち最大変位点と最小変位点とを結ぶ、図中に太線の実線で示す直線Lの傾きKeq(N/mm)を求め、前記傾きKeq(N/mm)と、円板1の厚みT(mm)と、円板1の断面積A(mm)とから、式(1):
【0058】
【数1】

【0059】
により等価せん断弾性率Geq(N/mm)を求めた。
また図3中に斜線を付して示した、ヒステリシスループHの全表面積で表される吸収エネルギー量ΔWと、同図中に網線を付して示した、前記直線Lと、グラフの横軸と、直線LとヒステリシスループHとの交点から前記横軸におろした垂線Lとで囲まれた領域の表面積で表される弾性歪みエネルギーWとから、式(2):
【0060】
【数2】

【0061】
により等価減衰定数Heqを求めた。等価減衰定数Heqが大きいほど、試験体3は減衰性能に優れていると判定できる。
そこで、比較例1における等価減衰定数Heqを1.00としたときの、各実施例、比較例の等価減衰定数Heqの相対値を求め、前記相対値が1.05以上のものを良好、1.05未満のものを不良と評価した。
【0062】
以上の結果を表2に示す。
【0063】
【表2】

【0064】
表2の実施例1、2、比較例1、2の結果より、無機充てん剤であるシリカと、少なくともデンプンを含む植物性製粉である強力粉とを併用することで、前記シリカ単独、あるいはシリカと炭酸カルシウムとの併用系に比べて、高減衰部材の減衰性能を大きく向上できることが判った。
また実施例1、2の結果より、前記強力粉を、あらかじめ水と混練してグルテンを生成させた状態で密閉式混練機に投入して他の成分と混練することにより、前記両者を別個に投入する場合に比べて、高減衰部材の減衰性能をさらに向上できることが判った。
【0065】
〈実施例3〉
天然ゴム100質量部あたりの配合割合を、シリカ:40質量部、フェニルトリエトキシシラン:6.6質量部、液状ポリイソプレンゴム:30質量部とし、かつ水、ジシクロペンタジエン系石油樹脂、およびチウラム系加硫促進剤を配合しなかったこと以外は実施例1と同様にして高減衰組成物を調製した。
【0066】
無機充てん剤としてのシリカ、および植物性製粉としての強力粉の総量中に占める前記強力粉の割合は33.33質量%、前記シリカ、および強力粉の合計の配合割合は、ジエン系ゴムとしての天然ゴム100質量部あたり60質量部であった。
〈実施例4〉
強力粉に代えて馬鈴薯粉を、天然ゴム100質量部あたり20質量部の割合で配合したこと以外は実施例3と同様にして高減衰組成物を調製した。
【0067】
無機充てん剤としてのシリカ、および植物性製粉としての馬鈴薯粉の総量中に占める前記馬鈴薯粉の割合は33.33質量%、前記シリカ、および馬鈴薯粉の合計の配合割合は、ジエン系ゴムとしての天然ゴム100質量部あたり60質量部であった。
〈実施例5〉
さらに水を、天然ゴム100質量部あたり13質量部の割合で配合したこと以外は実施例3と同様にして高減衰組成物を調製した。水は、強力粉とは別個に密閉式混練機に投入した。
【0068】
無機充てん剤としてのシリカ、および植物性製粉としての強力粉の総量中に占める前記強力粉の割合は33.33質量%、前記シリカ、および強力粉の合計の配合割合は、ジエン系ゴムとしての天然ゴム100質量部あたり60質量部であった。
〈実施例6〉
前記強力粉20質量部と水13質量部とを、混練物が粘弾性を生じる、つまりグルテンを生成するまであらかじめ混練したのち、他の成分とともに密閉式混練機を用いて混練したこと以外は実施例3と同様にして高減衰組成物を調製した。
【0069】
無機充てん剤としてのシリカ、および植物性製粉としての強力粉の総量中に占める前記強力粉の割合は33.33質量%、前記シリカ、および強力粉の合計の配合割合は、ジエン系ゴムとしての天然ゴム100質量部あたり60質量部であった。
〈比較例3〉
天然ゴム100質量部あたりの配合割合を、シリカ:60質量部、フェニルトリエトキシシラン10質量部とし、かつ強力粉、および水を配合しなかったこと以外は実施例3と同様にして高減衰組成物を調製した。
【0070】
無機充てん剤としてのシリカ、および植物性製粉としての強力粉の総量中に占める前記強力粉の割合は0質量%、前記シリカ、および強力粉の合計の配合割合は、ジエン系ゴムとしての天然ゴム100質量部あたり60質量部であった。
前記各実施例、比較例で調製した高減衰組成物について、先の減衰特性試験を実施した。結果を表3に示す。なお表3では、比較例3における等価減衰定数Heqを1.00としたときの、各実施例、比較例の等価減衰定数Heqの相対値を求め、前記相対値が1.05以上のものを良好、1.05未満のものを不良と評価した。
【0071】
【表3】

【0072】
表3の実施例4〜6、比較例3の結果より、無機充てん剤であるシリカと、少なくともデンプンを含む植物性製粉である強力粉、または馬鈴薯粉とを併用することで、前記シリカ単独に比べて、高減衰部材の減衰性能を大きく向上できることが判った。
また実施例3〜5の結果より、水を配合しない系ではデンプンの含有率が高い馬鈴薯粉の方が高減衰部材の減衰性能を向上できること、強力粉を用いる場合には、水を配合することで前記減衰性能をさらに向上できることが判った。
【0073】
さらに実施例5、6の結果より、前記強力粉を、あらかじめ水と混練してグルテンを生成させた状態で密閉式混練機に投入して他の成分と混練することにより、前記両者を別個に投入する場合に比べて、高減衰部材の減衰性能をより一層向上できることが判った。
【符号の説明】
【0074】
1 円板
2 鋼板
3 試験体
4 中央固定治具
5 左右固定治具
6 固定アーム
7 ジョイント
8 可動盤
9 ジョイント
H ヒステリシスループ
Keq 傾き
直線
垂線
W エネルギー
ΔW 吸収エネルギー量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極性基を有しないジエン系ゴムに、無機充てん剤、および少なくともデンプンを含む植物性製粉を配合したことを特徴とする高減衰組成物。
【請求項2】
前記植物性製粉は小麦粉、および馬鈴薯粉からなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項1に記載の高減衰組成物。
【請求項3】
前記植物性製粉は小麦粉であり、さらに水を配合した請求項1または2に記載の高減衰組成物。
【請求項4】
前記植物性製粉は小麦粉であり、前記小麦粉をあらかじめ水と混練した状態で配合した請求項1ないし3のいずれか1項に記載の高減衰組成物。
【請求項5】
前記無機充てん剤、および植物性製粉の総量中に占める前記植物性製粉の割合は5質量%以上、50質量%以下で、かつ前記無機充てん剤、および植物性製粉の合計の配合割合は、前記ジエン系ゴム100質量部あたり50質量部以上、200質量部以下である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の高減衰組成物。
【請求項6】
建築物の制震用ダンパの形成材料として用いる請求項1ないし5のいずれか1項に記載の高減衰組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−28718(P2013−28718A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165733(P2011−165733)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】