高温差し湯式浴槽用出湯具
【課題】供給されるお湯の流量にかかわらず、遮断弁が適切に作動する高温差し湯式浴槽用出湯具を提供する。
【解決手段】本出湯具は、浴槽外から供給されるお湯を導入する吐出流路Aと、吐出流路Aを通過したお湯を浴槽内に吐出する吐出口45と、作動時に吐出流路Aを遮断してお湯の供給を停止する遮断弁53と、吐出口45の下流側における一側方に配置され、かつ所定の温度以上のお湯を感知した際に遮断弁53を作動させる形状記憶部材55と、を備える。吐出口45の内部に、吐出口45から吐出されるお湯の一部を他側方に誘導してお湯を拡散させるための拡散誘導部46が設けられる。
【解決手段】本出湯具は、浴槽外から供給されるお湯を導入する吐出流路Aと、吐出流路Aを通過したお湯を浴槽内に吐出する吐出口45と、作動時に吐出流路Aを遮断してお湯の供給を停止する遮断弁53と、吐出口45の下流側における一側方に配置され、かつ所定の温度以上のお湯を感知した際に遮断弁53を作動させる形状記憶部材55と、を備える。吐出口45の内部に、吐出口45から吐出されるお湯の一部を他側方に誘導してお湯を拡散させるための拡散誘導部46が設けられる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、浴槽に取り付けられる高温差し湯式浴槽用出湯具に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な浴槽設備においては、浴室外の給湯器で加熱されたお湯を、浴槽の側壁に設置された給湯口アダプター等の出湯具から、浴槽内に供給するようになっている。
【0003】
浴槽設備の中でも高温差し湯式のものは、空の浴槽内にお湯を供給する際の湯はり時には、40℃前後の適温のお湯が出湯具から供給される一方、浴槽内のお湯(水)が残った状態でその残り湯の温度を上昇させるために高温のお湯を注ぎ足す際の差し湯時(追い焚き時)には、出湯具から、80℃以上の高温のお湯が浴槽内に供給されるようになっている。
【0004】
このような高温差し湯式の浴槽設備においては、湯はり時に謝って、高温のお湯の供給(高温出湯)を行った場合には、遮断弁が作動して、お湯の供給が停止されるようになっている。
【0005】
例えば下記特許文献1〜3に示す高温差し湯式出湯具は、吐出口の下流側における側方に形状記憶バネが設けられ、そのバネによって高温異常が検知された際に、バネが伸縮して上記遮断弁が作動するようになっている。例えば、湯はり時、つまり吐出口周辺にお湯がないときに、高温出湯を行った場合、吐出口から吐出された高温のお湯が、外部カバー内面等で跳ね返って上記形状記憶バネに接触することにより、そのバネにより高温が検知されて、遮断弁が作動するようになっている。なお、通常の差し湯時、つまり吐出口周辺までお湯があるときに、吐出口から高温のお湯が吐出された場合には、そのお湯は、吐出口周辺のお湯と混ざり合って温度が低下することにより、所要量以上の高温のお湯が、形状記憶バネ周辺に供給されず、浴槽内の温度が規定温度に到達する前に、高温異常が検知されないようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2586832号
【特許文献2】特許第2643891号
【特許文献3】特開平8−247556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような高温差し湯式の浴槽設備に用いられる給湯機は、例えば機種によって、供給されるお湯の流量が大きく異なっている。ところが、従来の高温差し湯式出湯具においては、お湯の流量に応じて、以下の課題が発生する。
【0008】
まず、通常の差し湯時(追い焚き時)において、流量が多い場合、吐出口から吐出されるお湯の勢いが強くなるため、吐出口周辺の広い範囲に高温のお湯が流れ込み易く、そのお湯の熱が形状記憶バネに伝わって反応することにより、浴槽内の温度が規定温度に到達していないのに、遮断弁が作動してお湯の供給が中断されてしまう場合がある。
【0009】
一方、この中断を防止するために、形状記憶バネを吐出口から大きく離間させて配置すると、お湯の流量が少ない場合に不具合が生じる。すなわち湯はり時に謝って高温出湯を行ってしまった場合、流量が少ないと、吐出口から吐出される高温のお湯の勢いが弱いため、その高温のお湯が、形状記憶バネまで飛散し難くなってしまう。このため、形状記憶バネによって高温異常が検知され難くなり、お湯の供給が直ちに停止されないという不具合が発生する。
【0010】
このように従来において、高流量のお湯に対応させた出湯具では、低流量の給湯機に接続すると、遮断が必要なときに遮断弁が作動しないおそれがあり、逆に、低流量のお湯に対応させた出湯具では、高流量の給湯機に接続すると、遮断が不要なときに遮断弁が作動するおそれがあるという課題があった。
【0011】
この発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、供給されるお湯の流量にかかわらず、遮断弁を適切に作動させて、お湯の供給および停止を的確に行うことができる高温差し湯式浴槽用出湯具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の手段を備えるものである。
【0013】
[1]浴槽の側壁に貫通状態に取り付けられる高温差し湯式浴槽用出湯具であって、
浴槽外から供給されるお湯を導入する吐出流路と、
前記吐出流路を通過したお湯を浴槽内に吐出する吐出口と、
作動時に前記吐出流路を遮断してお湯の供給を停止する遮断弁と、
前記吐出口の下流側における一側方に配置され、かつ所定の温度以上のお湯を感知した際に前記遮断弁を作動させる形状記憶部材と、を備え、
前記吐出口の内部に、前記吐出口から吐出されるお湯の一部を他側方に誘導してお湯を拡散させるための拡散誘導部が設けられることを特徴とする高温差し湯式浴槽用出湯具。
【0014】
[2]前記拡散誘導部は、前記吐出口の内周側面のうち一側方の側面に設けられ、かつ下流側に向かうに従って他側方に向かうように傾斜する傾斜面によって構成される前項1に記載の高温差し湯式浴槽用出湯具。
【0015】
[3]前記吐出口および前記形状記憶部材を覆い、かつ前記吐出口から吐出されるお湯を流出させる開口部が形成されたカバー部材を備え、
前記吐出口と前記カバー部材の開口部との間に、前記吐出口から吐出したお湯を分流して他側方に誘導する分流部が設けられる前項1または2に記載の高温差し湯式浴槽用出湯具。
【0016】
[4]浴槽の側壁に貫通状態に取り付けられる高温差し湯式浴槽用出湯具であって、
浴槽外から供給されるお湯を導入する吐出流路と、
前記吐出流路を通過したお湯を浴槽内に吐出する吐出口と、
作動時に前記吐出流路を遮断してお湯の供給を停止する遮断弁と、
前記吐出口の下流側における一側方に配置され、かつ所定の温度以上のお湯を感知した際に前記遮断弁を作動させる形状記憶部材と、
前記吐出口および前記形状記憶部材を覆い、かつ前記吐出口から吐出されるお湯を流出させる開口部が形成されたカバー部材と、を備え、
前記吐出口と前記カバー部材の開口部との間に、前記吐出口から吐出したお湯を分流して他側方に誘導する分流部が設けられることを特徴とする高温差し湯式浴槽用出湯具。
【0017】
[5]前記吐出口は、前記形状記憶部材を挟んだ両側にそれぞれ設けられる前項1〜4のいずれか1項に記載の高温差し湯式浴槽用出湯具。
【0018】
[6]前記吐出口は、下向きに配置される前項1〜5のいずれか1項に記載の高温差し湯式浴槽用出湯具。
【0019】
[7]前記カバー部材の開口部に格子部材が設けられるとともに、その格子部材に対応して前記分流部が配置される前項3または4に記載の高温差し湯式浴槽用出湯具。
【0020】
[8]前記形状記憶部材と前記吐出口との間に下流側に延びる仕切壁が設けられ、
前記仕切壁の下端縁に、その下端面における前記吐出口側のコーナー部が面取状に形成されて、回り込み誘導面が形成される前項1〜7のいずれか1項に記載の高温差し湯式浴槽用出湯具。
【0021】
[9]前記仕切壁の前記吐出口側に、下流側に向かうに従って他側方に向かうように傾斜する他側方向誘導面が形成される前項8に記載の高温差し湯式浴槽用出湯具。
【発明の効果】
【0022】
発明[1]の高温差し湯式浴槽用出湯具によれば、高流量の場合には、吐出口から吐出されるお湯を形状記憶バネから遠ざかる方向である他側方に分散させることができるとともに、低流量の場合には、分散させずにまとまった状態で下流側に流出させることができる。このため、お湯の流量にかかわらず、必要量のみ高温のお湯を形状記憶部材側に導くことができ、遮断弁を適切に作動させることができ、お湯の供給および停止を的確に行うことができる。
【0023】
発明[2]の高温差し湯式浴槽用出湯具によれば、高流量の場合に、吐出口から吐出されるお湯をより確実に分散させることができる。
【0024】
発明[3]の高温差し湯式浴槽用出湯具によれば、高流量の場合に、吐出口から吐出されるお湯をさらに分散させることができる。
【0025】
発明[4]の高温差し湯式浴槽用出湯具によれば、高流量の場合には、吐出口から吐出されるお湯を他側方に分散させることができるとともに、低流量の場合には、分散させずにまとまった状態で下流側に流出させることができる。このため、お湯の流量にかかわらず、遮断弁を適切に作動させることができ、お湯の供給および停止を的確に行うことができる。
【0026】
発明[5]の高温差し湯式浴槽用出湯具によれば、低流量の場合に、吐出口から吐出されるお湯の流速を十分に確保できるとともに、高流量の場合にお湯の流量を十分に確保することができる。
【0027】
発明[6]の高温差し湯式浴槽用出湯具によれば、特に吐出口が形状記憶部材の両側に配置されているような場合に、出湯具が傾いて取り付けられたとしても、形状記憶部材の上側に配置された一方の吐出口からのお湯は、形状記憶部材側に供給され易く、下側に配置される他方の吐出口からのお湯は、形状記憶部材側に供給され難くなる。つまり、一方では形状記憶部材側へのお湯の供給が多くなるものの、他方では少なくなるため、互いの欠点が相殺される。従って、出湯具が傾いて配置された場合でも、形状記憶部材により、高精度でお湯を感知することができる。
【0028】
発明[7]の高温差し湯式浴槽用出湯具によれば、高流量での差し湯時に、分流部によって分流されたお湯が、格子部材に勢い良く当接するのを防止することができる。このため通常の差し湯時に、不用意に高温のお湯が格子部材で跳ね返って形状記憶部材側に向かうのを防止することができる。
【0029】
発明[8]の高温差し湯式浴槽用出湯具によれば、特に低流量の場合に、吐出口から吐出されたお湯が、回り込み誘導面に沿って形状記憶部材側に回り込むようになる。このため、湯はり時に高温出湯を行った場合、低流量であっても、高温のお湯を形状記憶部材側に確実に導くことができる。
【0030】
発明[9]の高温差し湯式浴槽用出湯具によれば、高流量の場合に、吐出口から吐出されるお湯をより一層分散させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1はこの発明の実施形態の高温差し湯式浴槽用出湯具を示す側面図である。
【図2】図2は実施形態の出湯具を分解して示す斜視図である。
【図3】図3は実施形態の出湯具を流路導通状態で示す正面断面図である。
【図4】図4は実施形態の出湯具を流路遮断状態で示す正面断面図である。
【図5】図5は実施形態における出湯器の流路仕切部材を示す正面図である。
【図6】図6は実施形態の流路仕切部材を示す側面図である。
【図7】図7は実施形態の流路仕切部材を示す下面図である。
【図8】図8は実施形態の流路仕切部材を分解して示す斜視図である。
【図9】図9は実施形態の流路仕切部材を示す正面断面図である。
【図10】図10は実施形態の流路仕切部材を示す側面断面図である。
【図11】図11は実施形態の出湯具においてお湯の流れを説明するための片側半分の正面断面図であって、同図(a)は高流量時の正面断面図、同図(b)は低流量時の正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1はこの発明の実施形態である高温差し湯式浴槽用出湯具を示す側面図、図2はその出湯具の分解斜視図である。
【0033】
両図に示すように、この出湯具は、浴槽の側壁Wに設けられた取付孔Hに組み付けられて、室外の給湯機から供給されるお湯を浴槽内に供給するものである。本実施形態において、室外給湯機は高温差し湯機能付きのものであり、空の浴槽内にお湯を供給する際の湯はり時には、40℃前後の適温のお湯を供給できるとともに、浴槽内に低温のお湯(水)が残った状態で高温のお湯を注ぎ足す際の差し湯時(追い焚き時)には、80℃以上の高温のお湯を供給できるようになっている。
【0034】
本実施形態の出湯具は、槽外取付具1と、雄ねじ部材2と、流路仕切部材3と、フィルター9とを基本的な構成要素として備えている。なお、本明細書においては、出湯具の軸心方向に沿って浴槽に対し内側(図1の左側)を「前側」または「正面側」とし、浴槽に対し外側(図1の右側)を「後側」または「裏面側」として説明する。
【0035】
図1,2に示すように槽外取付部材1は、前面側が開放され、かつ後面側が閉塞された有底円筒形状の外筒部12と、その外筒部12の内部に同軸心上に配置される円筒形状の内筒部11と、外筒部12の前端外周に設けられた平板リング状のフランジ部15と、外周部12の周壁後端に側方に突出するように一体に設けられるパイプ状の外管接続部13とを一体に有している。
【0036】
内筒部11の内部空間は、外管接続部13の内部空間に連通接続されており、内筒部11および外管接続部13の両内部空間が共に、後述の吐出流路Aの一部として構成されている。内筒部11の軸心に対し、外管接続部13の軸心はほぼ直交しており、後述するように、外管接続部13に導入されるお湯が、外管接続部13から内筒部11に流入される際に、ほぼ90°方向転換するようになっている。
【0037】
本実施形態においては、内筒部11によってパイプ接続部が構成されている。
【0038】
外筒部12の前部内周面には、雄ねじ部材2に組み付けるための雌ねじが刻設されている。
【0039】
なお、槽外取付部材1のフランジ部15の外周縁部には、そのフランジ部15と浴槽外壁面との間の水密を図るための合成樹脂製のパッキンが取り付けられる。
【0040】
図1,2に示すように雄ねじ部材2は、前後両端が開放された円筒形状の胴部21と、その胴部21の前端外周に設けられた平板リング状のフランジ部25とを一体に有する鍔付き円筒形状の成形品をもって構成されている。
【0041】
胴部21の外周側面には、上記槽外取付部材1における外筒部12の雌ねじに対応して、雄ねじが刻設されており、胴部21を槽外取付部材1の外筒部12内にねじ込んで固定できるようになっている。
【0042】
この雄ねじ部材2が上記槽外取付部材1と共に、浴槽の側壁Wに固定されるものである。すなわち槽外取付部材1のフランジ部15が、浴槽の外壁面における取付孔Hの周縁部に沿うように配置された状態で、雄ねじ部材2のフランジ部25が、合成ゴム製のリング状パッキン(図示省略)を介して浴槽内壁面における取付孔Hの周縁部に圧接されるようにして、雄ねじ部材2の胴部21が取付孔Hを通じて、槽外取付部材1の外筒部12にねじ込まれて固定される。これにより両部材1,2のフランジ部15,25によって、浴槽の側壁Wにおける取付孔周縁部が挟持されて、両部材1,2が側壁Wに貫通状態に組み付けられる。
【0043】
図5〜10は流路仕切部材3を示す図である。これらの図に示すように、流路仕切部材3は、軸心方向(前後方向)に沿って直線状に延びる細長い円筒形状のパイプ部31と、そのパイプ部31の前端部に設けられた円板状の円板部41とを有している。
【0044】
円板部41の前面には、前方に突出するように弁ケーシング本体42が形成されている。この弁ケーシング本体42は、中空構造で上端が開放されており、その上端開口部に、弁ケーシング蓋43がねじ44によって固定されている。
【0045】
本実施形態においては、円板部41の一部、弁ケーシング本体42および弁ケーシング蓋43によって中空構造のケーシング部が構成されるとともに、それらによって囲まれた部分が、弁室4として構成されている。そしてこの弁室4は、吐出流路Aの一部を構成するものである。
【0046】
パイプ部31はその内部が吐出流路Aの一部として構成されている。パイプ部31の内部は、パイプ部31の前端開口を介して、弁室4の内部と連通されている。
【0047】
弁ケーシング本体42の下壁両側には、矩形状の吐出口45,45がそれぞれ形成されている。正面視(正面断面視)の状態の状態で、吐出口45,45は、パイプ部31を挟んだ両側に配置されている。
【0048】
本実施形態において、吐出口45,45は、上下方向に長さを有するものであり、その上端が弁室4に開放されるととに、下端が弁ケーシング本体42の下端面において外部に開放されている。
【0049】
各吐出口45,45は、それぞれ下向きに開放されており、軸心がそれぞれ上下方向に沿うように配置されている。
【0050】
吐出口45,45の下端部における内周四側面のうち、内側(一側方)の側面には、拡散誘導部46が形成されている。この拡散誘導部46は、斜め外側に向かう傾斜面、具体的には、下方(下流側)に向かうに従って次第に、外側(他側方)に向かう傾斜面によって構成されている。
【0051】
ここで本実施形態において、「一側方」「他側方」という場合、吐出口45,45の軸心の位置を基準として、出湯具の中心側(後述の形状記憶バネ55が配置される側)の方向を、一側方(内側)とし、出湯具の中心から遠ざかる方向(形状記憶バネ55から遠ざかる方向)を他側方(外側)としている。
【0052】
図3,4,8等に示すように、弁室4内に設けられる弁軸51は、両側の吐出口45,45間における弁室4の左右方向中間位置において上下方向に沿って配置されている。この弁軸51は、その下側が弁ケーシング本体42の下端壁を上下方向にスライド可能に貫通し、上端部が弁ケーシング蓋43に上下方向にスライド自在に取り付けられることにより、弁ケーシング本体31に対し上下方向(軸方向)にスライド可能に構成されている。
【0053】
弁室4内において、弁軸51には、弁軸51と共にスライド移動する弁部材52の中間部が固定されている。弁部材52の両側部は、遮断弁53,53としてそれぞれ構成されており、各遮断弁53,53が、各吐出口45,45に対応して配置されている。
【0054】
弁室4の内周面における吐出口45,45の開口縁部は、弁座として構成されている。そして図3に示すように、弁軸51が上方にスライドした位置に配置された状態では、遮断弁53,53が吐出口45,45から離間して、吐出口45,45が開放される。この状態は、お湯が吐出口45,45を通過できるため、お湯の供給が可能な吐出流路Aが導通された状態である。
【0055】
また図4に示すように、弁軸51が下方にスライドした際には、遮断弁53,53によって吐出口45,45が閉塞される。この状態は、お湯が吐出口45,45を通過できないため、お湯の供給が不可能な吐出流路Aが遮断された状態である。
【0056】
弁軸51における弁部材52と弁室4の下面との間には、圧縮コイルバネ54が外嵌されている。この圧縮コイルバネ54の付勢力は伸長方向に作用しており、この付勢力によって、通常状態では図3に示すように、弁部材52が弁軸51と共に上方に押し上げられて、遮断弁53,53が吐出口45,45から離間して、吐出口45,45が開放されている。
【0057】
円板部41の下端中央部には、下方に延びてから前方に突出するバネ受け片47が形成されている。このバネ受け片47の前方突出部には、形状記憶部材としての形状記憶合金からなる形状記憶バネ55の下端が取り付けられるとともに、その形状記憶バネ55の上端が弁軸51の下端に取り付けられる。
【0058】
この形状記憶バネ55は、快適に入浴できるお湯の温度よりも高い温度を感知すると、収縮するとともに、その温度未満の温度環境下では、伸長状態が維持されるように形状記憶されている。
【0059】
従って、この形状記憶バネ55に高温のお湯が触れると、図4に示すように形状記憶バネ55が収縮して、弁軸51が弁部材52と共に圧縮コイルバネ54の付勢力に抗して下方にスライドすることにより、遮断弁53,53によって吐出口45,45が閉塞される。
【0060】
円板部41における形状記憶バネ55の両側において、形状記憶バネ55と、両側吐出口45,45との間には、下方に延びる仕切壁56,56が形成されている。
【0061】
仕切壁56,56は、その上端が弁ケーシング本体42における吐出口45,45の内側に接続されるとともに、下端が円板部41の外周縁部における形状記憶バネ55の下端近傍に配置されている。
【0062】
図5,9に示す正面視の状態において、仕切壁56,56の下端縁には、その下端面における吐出口45,45側のコーナー部、換言すれば下端面と吐出口45,45側の側面(外側面)との間のコーナー部が面取り状に形成されて、回り込み誘導面561,561が形成されている。
【0063】
さらに仕切壁56,56の吐出口45,45側の側面(外側面)における上記回り込み誘導面561,561よりも上方には、下方(下流側)に向かうに従って外側(他側方)に向かうように傾斜する外側誘導面57,57が形成されている。
【0064】
ここで本実施形態においては、図7等に示すように、回り込み誘導面561,561および外側誘導面57,57を含む仕切壁56,56の前端位置は、吐出口45,45よりも前方に配置されている。
【0065】
図3〜5に示すように、円板部41における吐出口45,45の下流側には、仕切壁56,56から外側に離間して、分流部58,58が形成されている。
【0066】
分流部58,58は、吐出口45,45に対向する側の面が、下方(下流側)に向かうに従って外側(他側方)に向かうように傾斜する外側誘導面581,581として構成されている。
【0067】
ここで本実施形態においては、図7等に示すように、外側誘導面581,581を含む分流部58,58の前端位置は、吐出口45,45よりも前方に配置されている。
【0068】
以上の構成の流路仕切部材3は、浴槽の側壁Wに槽外取付部材1と共に組み付けられた上記の雄ねじ部材2に、周知の係合手段によって着脱自在に係合されるとともに、その係合状態で、前面側から、ねじ35(図2参照)が流路仕切部材3の円板部41および雄ねじ部材2のフランジ部25にねじ込まれて固定される。
【0069】
この組付状態では、流路仕切部材3におけるパイプ部31が、雄ねじ部材2の内部に配置される槽外取付部材1の内筒部11に挿入されて、浴槽の側壁Wを貫通するような状態に配置されている。
【0070】
さらにこの組付状態では、槽外取付部材1の内筒部11と流路仕切部材3のパイプ部31との間に配置されたOリング(図示省略)によって、両部材11,31間の水密が図られるとともに、流路仕切部材3の円板部41の後面に設けられたパッキン(図示省略)によって、流路仕切部材3の円板部41と、雄ねじ部材2のフランジ部25との間の水密が図られるようになっている。
【0071】
ここで本実施形態において、槽外取付部材1の外管接続部13、内筒部11、流路仕切部材3のパイプ部31、弁室4の各内部が連通接続されて、吐出流路Aが形成される。そして外管接続部13から吐出流路A内に導入されたお湯は、吐出流路Aを通って吐出口45,45から吐出されるようになっている。
【0072】
図1〜4に示すように、フィルター9は、流路仕切部材3の前面側を覆うように配置される。本実施形態において、フィルター9は、カバー部材を構成するものである。
【0073】
フィルター9は、正面視において縦長の長円形状を有しており、周側壁91と、その周側壁91の前面側を閉塞する前壁92とを備えている。
【0074】
周側壁91には、その上部を除いて、開口部93が形成されるとともに、開口部93には、縦横に格子部材94が形成されている。そして吐出口45,45から吐出されたお湯が開口部93を通って浴槽内に供給されるようになっている。
【0075】
このフィルター9が、流路形成部材3を覆うようにして、周知の係合手段によって流路形成部材3に着脱自在に取り付けられている。
【0076】
このフィルター組付状態において、フィルター9の格子部材94のうち、前後方向に延びる格子部材のいずれかの格子部材941が、上記流路仕切部材3の分流部58に対応して配置されている。換言すれば、分流部58は、格子部材941に対応する位置に形成されている。
【0077】
さらにこの組付状態においては、フィルター9の前壁92と、流路仕切部材3の仕切壁56との間には隙間が形成されている。
【0078】
言うまでもなく、本発明において、出湯具の浴槽への組付手順は、限定されるものではなく、どのような手順で行っても良い。
【0079】
浴槽に組み付けられた出湯具は、槽外取付部材1の外管接続部13と、室外給湯機とが外管によって配管接続される。
【0080】
そして給湯機から外管接続部13を介して吐出流路Aに導入されたお湯は、吐出流路Aを通って、吐出口45,45から吐出されて、フィルター9の開口部93を介して浴槽内に供給されるようになっている。
【0081】
ところで、高温差し湯型の給湯機は、機種等によって、供給されるお湯の流量が異なるが、本実施形態の出湯具は、流量が多い場合(高流量の場合)と、流量が少ない場合(低流量の場合)とでは、吐出口45,45から吐出されるお湯の流れ方(流動特性)が異なっている。
【0082】
まず高流量の場合には、図11(a)に示すように、吐出流路A内を流れるお湯の勢いが強いため、吐出口45,45から吐出されるお湯は、その一部が拡散誘導部46,46に案内されて、外側(他側方)、つまり形状記憶バネ55から遠ざかる方向に誘導されることにより、全体として周方向に拡散して吐出される。なお、同図においては、破線の矢印でお湯の流れを概略的に示している。
【0083】
さらに本実施形態においては、吐出口45,45の下流側に分流部58,58を形成しているため、吐出口45,45から吐出されるお湯は、その一部が分流部58,58の外側誘導面581,581によって外側に分流することにより、全体としてさらに拡散するようになる。
【0084】
このように本実施形態の出湯具は、高流量の場合には、吐出口45,45から吐出されるお湯が外側に放射状に拡散するように流動し、部分的に見れば流量が少なく勢いも軽減されている。
【0085】
なお、図11(a)においては、右側半分のみを示しているが、言うまでもなく、高流量の場合のお湯の流れ方は、左側半分も右側半分と実質的に同じである。
【0086】
一方、低流量の場合には、図11(b)に示すように、吐出流路Aを流れるお湯の勢いが弱いため、吐出口45,45内の拡散誘導部46,46や、仕切壁56,57の外側誘導面57,57に沿って流れるお湯は、外側に飛散することなく自重により下方に流下する。このため、お湯は、外側に拡散せず、仕切壁56,56の近傍(形状記憶バネ55の周辺)において、まとまった状態で下方に流動するようになる。なお、同図においては、破線の矢印でお湯の流れを概略的に示している。
【0087】
さらに吐出口45,45から吐出されるお湯は、拡散せずに、まとまって下方に流動するため、分流部58,58の内側を通過する。このため、お湯が分流部58,58による影響を受けることがなく、この点においても、お湯の拡散が防止されている。たとえお湯が分流部58,58の周辺を通過したとしても、お湯の勢いが弱いため、上記と同様、お湯が必要以上に拡散するようなことはない。
【0088】
このように低流量の場合には、吐出口45,45から吐出されるお湯は、外側に拡散せずにまとまって下方に流動し、部分的に見れば所定の流量を確保でき、勢いもある程度確保されている。
【0089】
なお、図11(b)においては、左側半分のみを示しているが、言うまでもなく、低流量の場合のお湯の流れ方は、右側半分も左側半分と実質的に同じである。
【0090】
本実施形態において、差し湯(追い焚き)を行う場合、つまり低温のお湯(水)が浴槽内に残っている状態で浴槽内のお湯を入浴に適切な温度に調整する場合には、給湯機から80℃以上の高温のお湯が外管に供給され、そのお湯が外管接続部13を介して吐出流路Aに導入され、さらに図3に示すようにそのお湯が吐出流路Aを通って、吐出口45,45から吐出されて、フィルター9の開口部93を介して浴槽内に供給される。こうして供給される高温のお湯と、浴槽内の低温のお湯とが混ざり合って、浴槽内のお湯の温度が所定の温度になるまで、高温のお湯の供給が行われる。
【0091】
本実施形態において、湯はりを行う場合、つまり空の浴槽にお湯を溜める場合、給湯機から入浴に適切な温度のお湯が外管に供給され、そのお湯が外嵌接続部13を介して吐出流路Aに導入され、さらに図3に示すようにそのお湯が吐出流路Aを通って、吐出口45,45から吐出されて、フィルター9の開口部93を介して浴槽内に供給される。こうして浴槽内に適量のお湯が溜まるまで、適温のお湯の供給が行われる。
【0092】
また湯はりを行うに際して、差し湯と間違って高温のお湯を供給(高温出湯)した場合には、出湯具の吐出流路Aを通って吐出口45,45から吐出される高温のお湯は、フィルター92内の部位、例えばフィルター92の前壁92、周側壁93(格子部材94,941や開口部93の周縁部)等のフィルター内面や、バネ受け片47等に、跳ね返って飛散する。さらにその飛散した高温のお湯の一部が、両側仕切壁56,56の下端間の隙間や、両側仕切壁56,56の前端とフィルター92の前壁92との間の隙間等から、両側仕切壁56,56間に流入して、形状記憶バネ55に接触する。これにより図4に示すように、形状記憶バネ55が高温を感知して収縮し、弁部材52が圧縮コイルバネ54の付勢力に抗して降下し、遮断弁53,53が吐出口45,45を閉塞する。こうして、お湯の供給が停止されて、高温のお湯の供給が直ちに停止される。
【0093】
ここで、本実施形態の出湯具においては、特に高流量の場合、通常の差し湯時に浴槽内の温度が規定温度に到達する前に、不用意に形状記憶バネ55が高温異常を感知してしまうという不具合を確実に防止することができる。
【0094】
すなわち、差し湯を行う場合、高流量であると、吐出口45,45から吐出される高温のお湯は勢いが強いため、その高温のお湯が形状記憶バネ55の周辺部に供給され易く、浴槽内の温度が規定温度に到達する前に、形状記憶バネ55により高温異常を感知するおそれがある。
【0095】
これに対し上記図11(a)で説明したように、本実施形態の出湯具において、高流量の場合、吐出口45,45から吐出されるお湯は、外側(他側方)に大きく拡散して吐出されるため、仕切壁56,56の近傍(形状記憶バネ55の周辺)においては部分的に、お湯の勢いが軽減され、流量も少なくなっている。このため、仕切壁56,56近傍において、高温のお湯は残り湯にスムーズに混ざり合って温度が低下することにより、高温のお湯が形状記憶バネ55側に所要量以上導入されることがなく、形状記憶バネ55の周辺温度が必要以上に高温になることはない。従って通常の差し湯時に、浴槽内の温度が規定温度に到達する前に、形状記憶バネ55により高温異常が感知されるという不具合を確実に防止することができる。
【0096】
その上さらに、本実施形態においては、分流部58,58を、格子部材941,941に対応させた位置に形成しているため、差し湯時に、お湯が、格子部材941,941を避けるように分流部58,58によって分流されるため、お湯が、格子部材941,941に勢い良く当接するのを防止することができる。このため、高温のお湯が格子部材941,941で跳ね返って方向転換し形状記憶バネ55等に向かうのを適度に防止でき、通常の差し湯時に、浴槽内の温度が規定温度に到達する前に、形状記憶バネ55により高温異常が感知されるのをより一層確実に防止することができる。
【0097】
なお言うまでもなく、低量流で差し湯を行った場合には、吐出口45,45から吐出されるお湯の勢いが弱く、流量も少ないため、高温のお湯は浴槽内の残り湯にスムーズに混ざり合って温度が低下することにより、高温のお湯が形状記憶バネ55の周辺に所要量以上供給されれることがない。従って上記の高流量の場合と同様、通常の差し湯時に、浴槽内の温度が規定温度に到達する前に、形状記憶バネ55により高温異常が感知されるという不具合を確実に防止することができる。
【0098】
一方、本実施形態の出湯具において、低流量で湯はり時に高温出湯を行った場合、直ちにお湯の供給が停止される。
【0099】
すなわち、湯はり時に高温出湯を行った場合、低流量であると、吐出口45,45から吐出される高温のお湯の勢いが弱いため、高温のお湯がフィルター内の部位等で十分に跳ね返らず、高温のお湯が形状記憶バネ55に接触せず、不用意にも高温のお湯の供給が停止されないおそれがある。
【0100】
これに対し上記図11(b)で説明したように、本実施形態の出湯具において、低流量の場合、吐出口45,45から吐出されるお湯は、外側に拡散することなく、まとまった状態で下方に流動するため、仕切壁56,56の近傍(形状記憶バネ55の周辺)においては部分的に、所定の流量を確保でき、勢いもある程度確保することができる。このため、お湯の一部が、フィルター内の部位で十分に跳ね返って形状記憶バネ55に到達することにより、形状記憶バネ55が高温を感知して、お湯の供給が停止される。このように湯はり時に高温出湯を行った際には、お湯の供給を確実に停止させることができる。
【0101】
しかも本実施形態においては、仕切壁56,56の下流側端部に回り込み誘導面561,561を形成しているため、仕切壁56,56に沿って流動するお湯は、勢いが弱いため、表面張力の影響によって、回り込み誘導面561,561に沿って内側に回り込む。このため、湯はり時の高温のお湯は、形状記憶バネ55側に確実に導かれ、お湯の供給を確実に停止させることができる。
【0102】
なお高流量で差し湯を行う際には、回り込み誘導面561,561によって、お湯が内側に回り込むのが防止される。すなわち、回り込み誘導面561,561の上流には、外側誘導面57,57が配置されているため、高流量で勢いが強いお湯は、その外側誘導面57,57によって、外側に誘導されることにより、お湯は回り込み誘導面561,561側に少量しか行き渡らない。このため、高流量で差し湯を行った際に、お湯が回り込み誘導面561,561に沿って内側に回り込むのが防止される。
【0103】
また言うまでもなく、高流量の場合に、湯はり時に高温出湯を行ったとしても、吐出口45,45から吐出されるお湯の勢いが強く、流量も多いため、お湯の一部がフィルター内の部位で跳ね返って形状記憶バネ55に確実に到達してバネ55が高温を感知することにより、お湯の供給を確実に停止できる。
【0104】
以上のように、本実施形態の出湯具によれば、高流量の場合には、吐出口45,45から吐出されるお湯を外側に分散させることができるとともに、低流量の場合には、分散させずに、まとまった状態で下方に流出させることができる。このため、お湯の流量にかかわらず、湯はり時に高温出湯を行った場合等の緊急時に、高温のお湯が確実に形状記憶バネ55側に導かれるとともに、通常の差し湯時に、所要量以上の高温のお湯が不用意に形状記憶バネ55側に導かれるようなことがなく、遮断弁53,53を適切に作動させることができる。このため、お湯の供給および停止を的確に行うことができ、出湯具として高い信頼性を得ることができる。
【0105】
また本実施形態においては、両側仕切壁56,56の前端とフィルター前壁92との間に隙間が形成されているが、この隙間から、所要量以上の高温のお湯が両側仕切壁56,56内に流入するようなことはなく、必要時以外に形状記憶バネ55により高温が検知されるのを防止することができる。すなわち、本実施形態においては、両側仕切壁56,56の前端位置を、吐出口45,45の前端位置よりも前方に配置しているため、吐出口45,45から吐出されるお湯は、通常の差し湯時には、両側仕切壁56,56よりも後方位置(低位置)を流通することになり、差し湯時に、所要量以上の高温のお湯が両側仕切壁56,56の前側を乗り越えて、両側仕切壁56,56間に流入することがない。もっとも、湯はり時に高温出湯を行った場合には、吐出口45,45から吐出されるお湯は、フィルター内の部位に跳ね返って、両側仕切壁56,56の前側を乗り越えて、両側仕切壁56,56間に流入されることもある。
【0106】
また本実施形態においては、吐出口45,45を2つ形成するものであるため、吐出口を1つだけにする場合と比較して、吐出口45,45の各開口寸法(孔径)を小さくすることができる。このため低流量で、湯はり時に高温出湯を行った場合、各吐出口45,45毎においてお湯の勢いをある程度確保することができる。さらに吐出口45,45を2つ形成するため、高流量の状態においては、流路抵抗を少なくすることができ、十分な流量を確保することができる。つまり、低流量の場合には流速を確保できるとともに、高流量の場合には流量を十分に確保することができる。
【0107】
また本実施形態においては、形状記憶バネ55の両側に下向きの吐出口45,45を配置しているため、出湯具自体の取付状態が周方向(回転方向)に位置ずれして、吐出口45,45が斜め下向きに傾いて配置されたとしても、高精度で高温のお湯を感知することができる。
【0108】
すなわち、形状記憶バネの片側に1つの吐出口を形成した場合、出湯具が、その形状記憶バネの下側に吐出口が位置するように傾いて取り付けられると、吐出口から吐出される高温のお湯は、形状記憶バネ側に供給され難くなり、高温のお湯を十分に感知できないおそれがある。逆に、出湯具が、その形状記憶バネの上側に吐出口が位置するように傾いて取り付けられると、吐出口から吐出される高温のお湯は、形状記憶バネ側に供給され易くなり、高温のお湯を必要以上に感知してしまうおそれがある。このように吐出口が1つだけの場合には、出湯具の傾きによって、形状記憶バネに対してお湯のかかり具合が異なり、形状記憶バネによるお湯の感知精度が低下してしまう。
【0109】
これに対し、本実施形態においては、形状記憶バネ55の両側に吐出口45,45を配置しているため、出湯具が傾いて取り付けられた場合、形状記憶バネ55の上側に配置された一方の吐出口45からのお湯は、形状記憶バネ55側に供給され易く、下側に配置される他方の吐出口45からのお湯は、形状記憶バネ55側に供給され難くなる。つまり、一方では形状記憶バネ55側へのお湯の供給が多くなるものの、他方では少なくため、2つの吐出口45,45が傾いて配置された際の互いの欠点が相殺される。従って、出湯具が傾いて配置された場合でも、形状記憶バネ55により、高精度でお湯を感知することができ、出湯具の傾きにかかわらず、お湯の感知性能を維持でき、信頼性をより一層向上させることができる。
【0110】
なお上記実施形態においては、吐出口を下向きに配置しているが、それだけに限られず、本発明においては、斜め下向きに配置するようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0111】
この発明の高温差し湯式浴槽用出湯具は、例えば一般家庭の浴槽に適用することができる。
【符号の説明】
【0112】
45:吐出口
46:拡散誘導部
53:遮断弁
55:形状記憶バネ(形状記憶部材)
56:仕切壁
561:回り込み誘導面
57:外側誘導面
58:分流部
9:フィルター(カバー部材)
93:開口部
94,941:格子部材
A:吐出流路
W:浴槽の側壁
【技術分野】
【0001】
この発明は、浴槽に取り付けられる高温差し湯式浴槽用出湯具に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な浴槽設備においては、浴室外の給湯器で加熱されたお湯を、浴槽の側壁に設置された給湯口アダプター等の出湯具から、浴槽内に供給するようになっている。
【0003】
浴槽設備の中でも高温差し湯式のものは、空の浴槽内にお湯を供給する際の湯はり時には、40℃前後の適温のお湯が出湯具から供給される一方、浴槽内のお湯(水)が残った状態でその残り湯の温度を上昇させるために高温のお湯を注ぎ足す際の差し湯時(追い焚き時)には、出湯具から、80℃以上の高温のお湯が浴槽内に供給されるようになっている。
【0004】
このような高温差し湯式の浴槽設備においては、湯はり時に謝って、高温のお湯の供給(高温出湯)を行った場合には、遮断弁が作動して、お湯の供給が停止されるようになっている。
【0005】
例えば下記特許文献1〜3に示す高温差し湯式出湯具は、吐出口の下流側における側方に形状記憶バネが設けられ、そのバネによって高温異常が検知された際に、バネが伸縮して上記遮断弁が作動するようになっている。例えば、湯はり時、つまり吐出口周辺にお湯がないときに、高温出湯を行った場合、吐出口から吐出された高温のお湯が、外部カバー内面等で跳ね返って上記形状記憶バネに接触することにより、そのバネにより高温が検知されて、遮断弁が作動するようになっている。なお、通常の差し湯時、つまり吐出口周辺までお湯があるときに、吐出口から高温のお湯が吐出された場合には、そのお湯は、吐出口周辺のお湯と混ざり合って温度が低下することにより、所要量以上の高温のお湯が、形状記憶バネ周辺に供給されず、浴槽内の温度が規定温度に到達する前に、高温異常が検知されないようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2586832号
【特許文献2】特許第2643891号
【特許文献3】特開平8−247556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような高温差し湯式の浴槽設備に用いられる給湯機は、例えば機種によって、供給されるお湯の流量が大きく異なっている。ところが、従来の高温差し湯式出湯具においては、お湯の流量に応じて、以下の課題が発生する。
【0008】
まず、通常の差し湯時(追い焚き時)において、流量が多い場合、吐出口から吐出されるお湯の勢いが強くなるため、吐出口周辺の広い範囲に高温のお湯が流れ込み易く、そのお湯の熱が形状記憶バネに伝わって反応することにより、浴槽内の温度が規定温度に到達していないのに、遮断弁が作動してお湯の供給が中断されてしまう場合がある。
【0009】
一方、この中断を防止するために、形状記憶バネを吐出口から大きく離間させて配置すると、お湯の流量が少ない場合に不具合が生じる。すなわち湯はり時に謝って高温出湯を行ってしまった場合、流量が少ないと、吐出口から吐出される高温のお湯の勢いが弱いため、その高温のお湯が、形状記憶バネまで飛散し難くなってしまう。このため、形状記憶バネによって高温異常が検知され難くなり、お湯の供給が直ちに停止されないという不具合が発生する。
【0010】
このように従来において、高流量のお湯に対応させた出湯具では、低流量の給湯機に接続すると、遮断が必要なときに遮断弁が作動しないおそれがあり、逆に、低流量のお湯に対応させた出湯具では、高流量の給湯機に接続すると、遮断が不要なときに遮断弁が作動するおそれがあるという課題があった。
【0011】
この発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、供給されるお湯の流量にかかわらず、遮断弁を適切に作動させて、お湯の供給および停止を的確に行うことができる高温差し湯式浴槽用出湯具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の手段を備えるものである。
【0013】
[1]浴槽の側壁に貫通状態に取り付けられる高温差し湯式浴槽用出湯具であって、
浴槽外から供給されるお湯を導入する吐出流路と、
前記吐出流路を通過したお湯を浴槽内に吐出する吐出口と、
作動時に前記吐出流路を遮断してお湯の供給を停止する遮断弁と、
前記吐出口の下流側における一側方に配置され、かつ所定の温度以上のお湯を感知した際に前記遮断弁を作動させる形状記憶部材と、を備え、
前記吐出口の内部に、前記吐出口から吐出されるお湯の一部を他側方に誘導してお湯を拡散させるための拡散誘導部が設けられることを特徴とする高温差し湯式浴槽用出湯具。
【0014】
[2]前記拡散誘導部は、前記吐出口の内周側面のうち一側方の側面に設けられ、かつ下流側に向かうに従って他側方に向かうように傾斜する傾斜面によって構成される前項1に記載の高温差し湯式浴槽用出湯具。
【0015】
[3]前記吐出口および前記形状記憶部材を覆い、かつ前記吐出口から吐出されるお湯を流出させる開口部が形成されたカバー部材を備え、
前記吐出口と前記カバー部材の開口部との間に、前記吐出口から吐出したお湯を分流して他側方に誘導する分流部が設けられる前項1または2に記載の高温差し湯式浴槽用出湯具。
【0016】
[4]浴槽の側壁に貫通状態に取り付けられる高温差し湯式浴槽用出湯具であって、
浴槽外から供給されるお湯を導入する吐出流路と、
前記吐出流路を通過したお湯を浴槽内に吐出する吐出口と、
作動時に前記吐出流路を遮断してお湯の供給を停止する遮断弁と、
前記吐出口の下流側における一側方に配置され、かつ所定の温度以上のお湯を感知した際に前記遮断弁を作動させる形状記憶部材と、
前記吐出口および前記形状記憶部材を覆い、かつ前記吐出口から吐出されるお湯を流出させる開口部が形成されたカバー部材と、を備え、
前記吐出口と前記カバー部材の開口部との間に、前記吐出口から吐出したお湯を分流して他側方に誘導する分流部が設けられることを特徴とする高温差し湯式浴槽用出湯具。
【0017】
[5]前記吐出口は、前記形状記憶部材を挟んだ両側にそれぞれ設けられる前項1〜4のいずれか1項に記載の高温差し湯式浴槽用出湯具。
【0018】
[6]前記吐出口は、下向きに配置される前項1〜5のいずれか1項に記載の高温差し湯式浴槽用出湯具。
【0019】
[7]前記カバー部材の開口部に格子部材が設けられるとともに、その格子部材に対応して前記分流部が配置される前項3または4に記載の高温差し湯式浴槽用出湯具。
【0020】
[8]前記形状記憶部材と前記吐出口との間に下流側に延びる仕切壁が設けられ、
前記仕切壁の下端縁に、その下端面における前記吐出口側のコーナー部が面取状に形成されて、回り込み誘導面が形成される前項1〜7のいずれか1項に記載の高温差し湯式浴槽用出湯具。
【0021】
[9]前記仕切壁の前記吐出口側に、下流側に向かうに従って他側方に向かうように傾斜する他側方向誘導面が形成される前項8に記載の高温差し湯式浴槽用出湯具。
【発明の効果】
【0022】
発明[1]の高温差し湯式浴槽用出湯具によれば、高流量の場合には、吐出口から吐出されるお湯を形状記憶バネから遠ざかる方向である他側方に分散させることができるとともに、低流量の場合には、分散させずにまとまった状態で下流側に流出させることができる。このため、お湯の流量にかかわらず、必要量のみ高温のお湯を形状記憶部材側に導くことができ、遮断弁を適切に作動させることができ、お湯の供給および停止を的確に行うことができる。
【0023】
発明[2]の高温差し湯式浴槽用出湯具によれば、高流量の場合に、吐出口から吐出されるお湯をより確実に分散させることができる。
【0024】
発明[3]の高温差し湯式浴槽用出湯具によれば、高流量の場合に、吐出口から吐出されるお湯をさらに分散させることができる。
【0025】
発明[4]の高温差し湯式浴槽用出湯具によれば、高流量の場合には、吐出口から吐出されるお湯を他側方に分散させることができるとともに、低流量の場合には、分散させずにまとまった状態で下流側に流出させることができる。このため、お湯の流量にかかわらず、遮断弁を適切に作動させることができ、お湯の供給および停止を的確に行うことができる。
【0026】
発明[5]の高温差し湯式浴槽用出湯具によれば、低流量の場合に、吐出口から吐出されるお湯の流速を十分に確保できるとともに、高流量の場合にお湯の流量を十分に確保することができる。
【0027】
発明[6]の高温差し湯式浴槽用出湯具によれば、特に吐出口が形状記憶部材の両側に配置されているような場合に、出湯具が傾いて取り付けられたとしても、形状記憶部材の上側に配置された一方の吐出口からのお湯は、形状記憶部材側に供給され易く、下側に配置される他方の吐出口からのお湯は、形状記憶部材側に供給され難くなる。つまり、一方では形状記憶部材側へのお湯の供給が多くなるものの、他方では少なくなるため、互いの欠点が相殺される。従って、出湯具が傾いて配置された場合でも、形状記憶部材により、高精度でお湯を感知することができる。
【0028】
発明[7]の高温差し湯式浴槽用出湯具によれば、高流量での差し湯時に、分流部によって分流されたお湯が、格子部材に勢い良く当接するのを防止することができる。このため通常の差し湯時に、不用意に高温のお湯が格子部材で跳ね返って形状記憶部材側に向かうのを防止することができる。
【0029】
発明[8]の高温差し湯式浴槽用出湯具によれば、特に低流量の場合に、吐出口から吐出されたお湯が、回り込み誘導面に沿って形状記憶部材側に回り込むようになる。このため、湯はり時に高温出湯を行った場合、低流量であっても、高温のお湯を形状記憶部材側に確実に導くことができる。
【0030】
発明[9]の高温差し湯式浴槽用出湯具によれば、高流量の場合に、吐出口から吐出されるお湯をより一層分散させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1はこの発明の実施形態の高温差し湯式浴槽用出湯具を示す側面図である。
【図2】図2は実施形態の出湯具を分解して示す斜視図である。
【図3】図3は実施形態の出湯具を流路導通状態で示す正面断面図である。
【図4】図4は実施形態の出湯具を流路遮断状態で示す正面断面図である。
【図5】図5は実施形態における出湯器の流路仕切部材を示す正面図である。
【図6】図6は実施形態の流路仕切部材を示す側面図である。
【図7】図7は実施形態の流路仕切部材を示す下面図である。
【図8】図8は実施形態の流路仕切部材を分解して示す斜視図である。
【図9】図9は実施形態の流路仕切部材を示す正面断面図である。
【図10】図10は実施形態の流路仕切部材を示す側面断面図である。
【図11】図11は実施形態の出湯具においてお湯の流れを説明するための片側半分の正面断面図であって、同図(a)は高流量時の正面断面図、同図(b)は低流量時の正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1はこの発明の実施形態である高温差し湯式浴槽用出湯具を示す側面図、図2はその出湯具の分解斜視図である。
【0033】
両図に示すように、この出湯具は、浴槽の側壁Wに設けられた取付孔Hに組み付けられて、室外の給湯機から供給されるお湯を浴槽内に供給するものである。本実施形態において、室外給湯機は高温差し湯機能付きのものであり、空の浴槽内にお湯を供給する際の湯はり時には、40℃前後の適温のお湯を供給できるとともに、浴槽内に低温のお湯(水)が残った状態で高温のお湯を注ぎ足す際の差し湯時(追い焚き時)には、80℃以上の高温のお湯を供給できるようになっている。
【0034】
本実施形態の出湯具は、槽外取付具1と、雄ねじ部材2と、流路仕切部材3と、フィルター9とを基本的な構成要素として備えている。なお、本明細書においては、出湯具の軸心方向に沿って浴槽に対し内側(図1の左側)を「前側」または「正面側」とし、浴槽に対し外側(図1の右側)を「後側」または「裏面側」として説明する。
【0035】
図1,2に示すように槽外取付部材1は、前面側が開放され、かつ後面側が閉塞された有底円筒形状の外筒部12と、その外筒部12の内部に同軸心上に配置される円筒形状の内筒部11と、外筒部12の前端外周に設けられた平板リング状のフランジ部15と、外周部12の周壁後端に側方に突出するように一体に設けられるパイプ状の外管接続部13とを一体に有している。
【0036】
内筒部11の内部空間は、外管接続部13の内部空間に連通接続されており、内筒部11および外管接続部13の両内部空間が共に、後述の吐出流路Aの一部として構成されている。内筒部11の軸心に対し、外管接続部13の軸心はほぼ直交しており、後述するように、外管接続部13に導入されるお湯が、外管接続部13から内筒部11に流入される際に、ほぼ90°方向転換するようになっている。
【0037】
本実施形態においては、内筒部11によってパイプ接続部が構成されている。
【0038】
外筒部12の前部内周面には、雄ねじ部材2に組み付けるための雌ねじが刻設されている。
【0039】
なお、槽外取付部材1のフランジ部15の外周縁部には、そのフランジ部15と浴槽外壁面との間の水密を図るための合成樹脂製のパッキンが取り付けられる。
【0040】
図1,2に示すように雄ねじ部材2は、前後両端が開放された円筒形状の胴部21と、その胴部21の前端外周に設けられた平板リング状のフランジ部25とを一体に有する鍔付き円筒形状の成形品をもって構成されている。
【0041】
胴部21の外周側面には、上記槽外取付部材1における外筒部12の雌ねじに対応して、雄ねじが刻設されており、胴部21を槽外取付部材1の外筒部12内にねじ込んで固定できるようになっている。
【0042】
この雄ねじ部材2が上記槽外取付部材1と共に、浴槽の側壁Wに固定されるものである。すなわち槽外取付部材1のフランジ部15が、浴槽の外壁面における取付孔Hの周縁部に沿うように配置された状態で、雄ねじ部材2のフランジ部25が、合成ゴム製のリング状パッキン(図示省略)を介して浴槽内壁面における取付孔Hの周縁部に圧接されるようにして、雄ねじ部材2の胴部21が取付孔Hを通じて、槽外取付部材1の外筒部12にねじ込まれて固定される。これにより両部材1,2のフランジ部15,25によって、浴槽の側壁Wにおける取付孔周縁部が挟持されて、両部材1,2が側壁Wに貫通状態に組み付けられる。
【0043】
図5〜10は流路仕切部材3を示す図である。これらの図に示すように、流路仕切部材3は、軸心方向(前後方向)に沿って直線状に延びる細長い円筒形状のパイプ部31と、そのパイプ部31の前端部に設けられた円板状の円板部41とを有している。
【0044】
円板部41の前面には、前方に突出するように弁ケーシング本体42が形成されている。この弁ケーシング本体42は、中空構造で上端が開放されており、その上端開口部に、弁ケーシング蓋43がねじ44によって固定されている。
【0045】
本実施形態においては、円板部41の一部、弁ケーシング本体42および弁ケーシング蓋43によって中空構造のケーシング部が構成されるとともに、それらによって囲まれた部分が、弁室4として構成されている。そしてこの弁室4は、吐出流路Aの一部を構成するものである。
【0046】
パイプ部31はその内部が吐出流路Aの一部として構成されている。パイプ部31の内部は、パイプ部31の前端開口を介して、弁室4の内部と連通されている。
【0047】
弁ケーシング本体42の下壁両側には、矩形状の吐出口45,45がそれぞれ形成されている。正面視(正面断面視)の状態の状態で、吐出口45,45は、パイプ部31を挟んだ両側に配置されている。
【0048】
本実施形態において、吐出口45,45は、上下方向に長さを有するものであり、その上端が弁室4に開放されるととに、下端が弁ケーシング本体42の下端面において外部に開放されている。
【0049】
各吐出口45,45は、それぞれ下向きに開放されており、軸心がそれぞれ上下方向に沿うように配置されている。
【0050】
吐出口45,45の下端部における内周四側面のうち、内側(一側方)の側面には、拡散誘導部46が形成されている。この拡散誘導部46は、斜め外側に向かう傾斜面、具体的には、下方(下流側)に向かうに従って次第に、外側(他側方)に向かう傾斜面によって構成されている。
【0051】
ここで本実施形態において、「一側方」「他側方」という場合、吐出口45,45の軸心の位置を基準として、出湯具の中心側(後述の形状記憶バネ55が配置される側)の方向を、一側方(内側)とし、出湯具の中心から遠ざかる方向(形状記憶バネ55から遠ざかる方向)を他側方(外側)としている。
【0052】
図3,4,8等に示すように、弁室4内に設けられる弁軸51は、両側の吐出口45,45間における弁室4の左右方向中間位置において上下方向に沿って配置されている。この弁軸51は、その下側が弁ケーシング本体42の下端壁を上下方向にスライド可能に貫通し、上端部が弁ケーシング蓋43に上下方向にスライド自在に取り付けられることにより、弁ケーシング本体31に対し上下方向(軸方向)にスライド可能に構成されている。
【0053】
弁室4内において、弁軸51には、弁軸51と共にスライド移動する弁部材52の中間部が固定されている。弁部材52の両側部は、遮断弁53,53としてそれぞれ構成されており、各遮断弁53,53が、各吐出口45,45に対応して配置されている。
【0054】
弁室4の内周面における吐出口45,45の開口縁部は、弁座として構成されている。そして図3に示すように、弁軸51が上方にスライドした位置に配置された状態では、遮断弁53,53が吐出口45,45から離間して、吐出口45,45が開放される。この状態は、お湯が吐出口45,45を通過できるため、お湯の供給が可能な吐出流路Aが導通された状態である。
【0055】
また図4に示すように、弁軸51が下方にスライドした際には、遮断弁53,53によって吐出口45,45が閉塞される。この状態は、お湯が吐出口45,45を通過できないため、お湯の供給が不可能な吐出流路Aが遮断された状態である。
【0056】
弁軸51における弁部材52と弁室4の下面との間には、圧縮コイルバネ54が外嵌されている。この圧縮コイルバネ54の付勢力は伸長方向に作用しており、この付勢力によって、通常状態では図3に示すように、弁部材52が弁軸51と共に上方に押し上げられて、遮断弁53,53が吐出口45,45から離間して、吐出口45,45が開放されている。
【0057】
円板部41の下端中央部には、下方に延びてから前方に突出するバネ受け片47が形成されている。このバネ受け片47の前方突出部には、形状記憶部材としての形状記憶合金からなる形状記憶バネ55の下端が取り付けられるとともに、その形状記憶バネ55の上端が弁軸51の下端に取り付けられる。
【0058】
この形状記憶バネ55は、快適に入浴できるお湯の温度よりも高い温度を感知すると、収縮するとともに、その温度未満の温度環境下では、伸長状態が維持されるように形状記憶されている。
【0059】
従って、この形状記憶バネ55に高温のお湯が触れると、図4に示すように形状記憶バネ55が収縮して、弁軸51が弁部材52と共に圧縮コイルバネ54の付勢力に抗して下方にスライドすることにより、遮断弁53,53によって吐出口45,45が閉塞される。
【0060】
円板部41における形状記憶バネ55の両側において、形状記憶バネ55と、両側吐出口45,45との間には、下方に延びる仕切壁56,56が形成されている。
【0061】
仕切壁56,56は、その上端が弁ケーシング本体42における吐出口45,45の内側に接続されるとともに、下端が円板部41の外周縁部における形状記憶バネ55の下端近傍に配置されている。
【0062】
図5,9に示す正面視の状態において、仕切壁56,56の下端縁には、その下端面における吐出口45,45側のコーナー部、換言すれば下端面と吐出口45,45側の側面(外側面)との間のコーナー部が面取り状に形成されて、回り込み誘導面561,561が形成されている。
【0063】
さらに仕切壁56,56の吐出口45,45側の側面(外側面)における上記回り込み誘導面561,561よりも上方には、下方(下流側)に向かうに従って外側(他側方)に向かうように傾斜する外側誘導面57,57が形成されている。
【0064】
ここで本実施形態においては、図7等に示すように、回り込み誘導面561,561および外側誘導面57,57を含む仕切壁56,56の前端位置は、吐出口45,45よりも前方に配置されている。
【0065】
図3〜5に示すように、円板部41における吐出口45,45の下流側には、仕切壁56,56から外側に離間して、分流部58,58が形成されている。
【0066】
分流部58,58は、吐出口45,45に対向する側の面が、下方(下流側)に向かうに従って外側(他側方)に向かうように傾斜する外側誘導面581,581として構成されている。
【0067】
ここで本実施形態においては、図7等に示すように、外側誘導面581,581を含む分流部58,58の前端位置は、吐出口45,45よりも前方に配置されている。
【0068】
以上の構成の流路仕切部材3は、浴槽の側壁Wに槽外取付部材1と共に組み付けられた上記の雄ねじ部材2に、周知の係合手段によって着脱自在に係合されるとともに、その係合状態で、前面側から、ねじ35(図2参照)が流路仕切部材3の円板部41および雄ねじ部材2のフランジ部25にねじ込まれて固定される。
【0069】
この組付状態では、流路仕切部材3におけるパイプ部31が、雄ねじ部材2の内部に配置される槽外取付部材1の内筒部11に挿入されて、浴槽の側壁Wを貫通するような状態に配置されている。
【0070】
さらにこの組付状態では、槽外取付部材1の内筒部11と流路仕切部材3のパイプ部31との間に配置されたOリング(図示省略)によって、両部材11,31間の水密が図られるとともに、流路仕切部材3の円板部41の後面に設けられたパッキン(図示省略)によって、流路仕切部材3の円板部41と、雄ねじ部材2のフランジ部25との間の水密が図られるようになっている。
【0071】
ここで本実施形態において、槽外取付部材1の外管接続部13、内筒部11、流路仕切部材3のパイプ部31、弁室4の各内部が連通接続されて、吐出流路Aが形成される。そして外管接続部13から吐出流路A内に導入されたお湯は、吐出流路Aを通って吐出口45,45から吐出されるようになっている。
【0072】
図1〜4に示すように、フィルター9は、流路仕切部材3の前面側を覆うように配置される。本実施形態において、フィルター9は、カバー部材を構成するものである。
【0073】
フィルター9は、正面視において縦長の長円形状を有しており、周側壁91と、その周側壁91の前面側を閉塞する前壁92とを備えている。
【0074】
周側壁91には、その上部を除いて、開口部93が形成されるとともに、開口部93には、縦横に格子部材94が形成されている。そして吐出口45,45から吐出されたお湯が開口部93を通って浴槽内に供給されるようになっている。
【0075】
このフィルター9が、流路形成部材3を覆うようにして、周知の係合手段によって流路形成部材3に着脱自在に取り付けられている。
【0076】
このフィルター組付状態において、フィルター9の格子部材94のうち、前後方向に延びる格子部材のいずれかの格子部材941が、上記流路仕切部材3の分流部58に対応して配置されている。換言すれば、分流部58は、格子部材941に対応する位置に形成されている。
【0077】
さらにこの組付状態においては、フィルター9の前壁92と、流路仕切部材3の仕切壁56との間には隙間が形成されている。
【0078】
言うまでもなく、本発明において、出湯具の浴槽への組付手順は、限定されるものではなく、どのような手順で行っても良い。
【0079】
浴槽に組み付けられた出湯具は、槽外取付部材1の外管接続部13と、室外給湯機とが外管によって配管接続される。
【0080】
そして給湯機から外管接続部13を介して吐出流路Aに導入されたお湯は、吐出流路Aを通って、吐出口45,45から吐出されて、フィルター9の開口部93を介して浴槽内に供給されるようになっている。
【0081】
ところで、高温差し湯型の給湯機は、機種等によって、供給されるお湯の流量が異なるが、本実施形態の出湯具は、流量が多い場合(高流量の場合)と、流量が少ない場合(低流量の場合)とでは、吐出口45,45から吐出されるお湯の流れ方(流動特性)が異なっている。
【0082】
まず高流量の場合には、図11(a)に示すように、吐出流路A内を流れるお湯の勢いが強いため、吐出口45,45から吐出されるお湯は、その一部が拡散誘導部46,46に案内されて、外側(他側方)、つまり形状記憶バネ55から遠ざかる方向に誘導されることにより、全体として周方向に拡散して吐出される。なお、同図においては、破線の矢印でお湯の流れを概略的に示している。
【0083】
さらに本実施形態においては、吐出口45,45の下流側に分流部58,58を形成しているため、吐出口45,45から吐出されるお湯は、その一部が分流部58,58の外側誘導面581,581によって外側に分流することにより、全体としてさらに拡散するようになる。
【0084】
このように本実施形態の出湯具は、高流量の場合には、吐出口45,45から吐出されるお湯が外側に放射状に拡散するように流動し、部分的に見れば流量が少なく勢いも軽減されている。
【0085】
なお、図11(a)においては、右側半分のみを示しているが、言うまでもなく、高流量の場合のお湯の流れ方は、左側半分も右側半分と実質的に同じである。
【0086】
一方、低流量の場合には、図11(b)に示すように、吐出流路Aを流れるお湯の勢いが弱いため、吐出口45,45内の拡散誘導部46,46や、仕切壁56,57の外側誘導面57,57に沿って流れるお湯は、外側に飛散することなく自重により下方に流下する。このため、お湯は、外側に拡散せず、仕切壁56,56の近傍(形状記憶バネ55の周辺)において、まとまった状態で下方に流動するようになる。なお、同図においては、破線の矢印でお湯の流れを概略的に示している。
【0087】
さらに吐出口45,45から吐出されるお湯は、拡散せずに、まとまって下方に流動するため、分流部58,58の内側を通過する。このため、お湯が分流部58,58による影響を受けることがなく、この点においても、お湯の拡散が防止されている。たとえお湯が分流部58,58の周辺を通過したとしても、お湯の勢いが弱いため、上記と同様、お湯が必要以上に拡散するようなことはない。
【0088】
このように低流量の場合には、吐出口45,45から吐出されるお湯は、外側に拡散せずにまとまって下方に流動し、部分的に見れば所定の流量を確保でき、勢いもある程度確保されている。
【0089】
なお、図11(b)においては、左側半分のみを示しているが、言うまでもなく、低流量の場合のお湯の流れ方は、右側半分も左側半分と実質的に同じである。
【0090】
本実施形態において、差し湯(追い焚き)を行う場合、つまり低温のお湯(水)が浴槽内に残っている状態で浴槽内のお湯を入浴に適切な温度に調整する場合には、給湯機から80℃以上の高温のお湯が外管に供給され、そのお湯が外管接続部13を介して吐出流路Aに導入され、さらに図3に示すようにそのお湯が吐出流路Aを通って、吐出口45,45から吐出されて、フィルター9の開口部93を介して浴槽内に供給される。こうして供給される高温のお湯と、浴槽内の低温のお湯とが混ざり合って、浴槽内のお湯の温度が所定の温度になるまで、高温のお湯の供給が行われる。
【0091】
本実施形態において、湯はりを行う場合、つまり空の浴槽にお湯を溜める場合、給湯機から入浴に適切な温度のお湯が外管に供給され、そのお湯が外嵌接続部13を介して吐出流路Aに導入され、さらに図3に示すようにそのお湯が吐出流路Aを通って、吐出口45,45から吐出されて、フィルター9の開口部93を介して浴槽内に供給される。こうして浴槽内に適量のお湯が溜まるまで、適温のお湯の供給が行われる。
【0092】
また湯はりを行うに際して、差し湯と間違って高温のお湯を供給(高温出湯)した場合には、出湯具の吐出流路Aを通って吐出口45,45から吐出される高温のお湯は、フィルター92内の部位、例えばフィルター92の前壁92、周側壁93(格子部材94,941や開口部93の周縁部)等のフィルター内面や、バネ受け片47等に、跳ね返って飛散する。さらにその飛散した高温のお湯の一部が、両側仕切壁56,56の下端間の隙間や、両側仕切壁56,56の前端とフィルター92の前壁92との間の隙間等から、両側仕切壁56,56間に流入して、形状記憶バネ55に接触する。これにより図4に示すように、形状記憶バネ55が高温を感知して収縮し、弁部材52が圧縮コイルバネ54の付勢力に抗して降下し、遮断弁53,53が吐出口45,45を閉塞する。こうして、お湯の供給が停止されて、高温のお湯の供給が直ちに停止される。
【0093】
ここで、本実施形態の出湯具においては、特に高流量の場合、通常の差し湯時に浴槽内の温度が規定温度に到達する前に、不用意に形状記憶バネ55が高温異常を感知してしまうという不具合を確実に防止することができる。
【0094】
すなわち、差し湯を行う場合、高流量であると、吐出口45,45から吐出される高温のお湯は勢いが強いため、その高温のお湯が形状記憶バネ55の周辺部に供給され易く、浴槽内の温度が規定温度に到達する前に、形状記憶バネ55により高温異常を感知するおそれがある。
【0095】
これに対し上記図11(a)で説明したように、本実施形態の出湯具において、高流量の場合、吐出口45,45から吐出されるお湯は、外側(他側方)に大きく拡散して吐出されるため、仕切壁56,56の近傍(形状記憶バネ55の周辺)においては部分的に、お湯の勢いが軽減され、流量も少なくなっている。このため、仕切壁56,56近傍において、高温のお湯は残り湯にスムーズに混ざり合って温度が低下することにより、高温のお湯が形状記憶バネ55側に所要量以上導入されることがなく、形状記憶バネ55の周辺温度が必要以上に高温になることはない。従って通常の差し湯時に、浴槽内の温度が規定温度に到達する前に、形状記憶バネ55により高温異常が感知されるという不具合を確実に防止することができる。
【0096】
その上さらに、本実施形態においては、分流部58,58を、格子部材941,941に対応させた位置に形成しているため、差し湯時に、お湯が、格子部材941,941を避けるように分流部58,58によって分流されるため、お湯が、格子部材941,941に勢い良く当接するのを防止することができる。このため、高温のお湯が格子部材941,941で跳ね返って方向転換し形状記憶バネ55等に向かうのを適度に防止でき、通常の差し湯時に、浴槽内の温度が規定温度に到達する前に、形状記憶バネ55により高温異常が感知されるのをより一層確実に防止することができる。
【0097】
なお言うまでもなく、低量流で差し湯を行った場合には、吐出口45,45から吐出されるお湯の勢いが弱く、流量も少ないため、高温のお湯は浴槽内の残り湯にスムーズに混ざり合って温度が低下することにより、高温のお湯が形状記憶バネ55の周辺に所要量以上供給されれることがない。従って上記の高流量の場合と同様、通常の差し湯時に、浴槽内の温度が規定温度に到達する前に、形状記憶バネ55により高温異常が感知されるという不具合を確実に防止することができる。
【0098】
一方、本実施形態の出湯具において、低流量で湯はり時に高温出湯を行った場合、直ちにお湯の供給が停止される。
【0099】
すなわち、湯はり時に高温出湯を行った場合、低流量であると、吐出口45,45から吐出される高温のお湯の勢いが弱いため、高温のお湯がフィルター内の部位等で十分に跳ね返らず、高温のお湯が形状記憶バネ55に接触せず、不用意にも高温のお湯の供給が停止されないおそれがある。
【0100】
これに対し上記図11(b)で説明したように、本実施形態の出湯具において、低流量の場合、吐出口45,45から吐出されるお湯は、外側に拡散することなく、まとまった状態で下方に流動するため、仕切壁56,56の近傍(形状記憶バネ55の周辺)においては部分的に、所定の流量を確保でき、勢いもある程度確保することができる。このため、お湯の一部が、フィルター内の部位で十分に跳ね返って形状記憶バネ55に到達することにより、形状記憶バネ55が高温を感知して、お湯の供給が停止される。このように湯はり時に高温出湯を行った際には、お湯の供給を確実に停止させることができる。
【0101】
しかも本実施形態においては、仕切壁56,56の下流側端部に回り込み誘導面561,561を形成しているため、仕切壁56,56に沿って流動するお湯は、勢いが弱いため、表面張力の影響によって、回り込み誘導面561,561に沿って内側に回り込む。このため、湯はり時の高温のお湯は、形状記憶バネ55側に確実に導かれ、お湯の供給を確実に停止させることができる。
【0102】
なお高流量で差し湯を行う際には、回り込み誘導面561,561によって、お湯が内側に回り込むのが防止される。すなわち、回り込み誘導面561,561の上流には、外側誘導面57,57が配置されているため、高流量で勢いが強いお湯は、その外側誘導面57,57によって、外側に誘導されることにより、お湯は回り込み誘導面561,561側に少量しか行き渡らない。このため、高流量で差し湯を行った際に、お湯が回り込み誘導面561,561に沿って内側に回り込むのが防止される。
【0103】
また言うまでもなく、高流量の場合に、湯はり時に高温出湯を行ったとしても、吐出口45,45から吐出されるお湯の勢いが強く、流量も多いため、お湯の一部がフィルター内の部位で跳ね返って形状記憶バネ55に確実に到達してバネ55が高温を感知することにより、お湯の供給を確実に停止できる。
【0104】
以上のように、本実施形態の出湯具によれば、高流量の場合には、吐出口45,45から吐出されるお湯を外側に分散させることができるとともに、低流量の場合には、分散させずに、まとまった状態で下方に流出させることができる。このため、お湯の流量にかかわらず、湯はり時に高温出湯を行った場合等の緊急時に、高温のお湯が確実に形状記憶バネ55側に導かれるとともに、通常の差し湯時に、所要量以上の高温のお湯が不用意に形状記憶バネ55側に導かれるようなことがなく、遮断弁53,53を適切に作動させることができる。このため、お湯の供給および停止を的確に行うことができ、出湯具として高い信頼性を得ることができる。
【0105】
また本実施形態においては、両側仕切壁56,56の前端とフィルター前壁92との間に隙間が形成されているが、この隙間から、所要量以上の高温のお湯が両側仕切壁56,56内に流入するようなことはなく、必要時以外に形状記憶バネ55により高温が検知されるのを防止することができる。すなわち、本実施形態においては、両側仕切壁56,56の前端位置を、吐出口45,45の前端位置よりも前方に配置しているため、吐出口45,45から吐出されるお湯は、通常の差し湯時には、両側仕切壁56,56よりも後方位置(低位置)を流通することになり、差し湯時に、所要量以上の高温のお湯が両側仕切壁56,56の前側を乗り越えて、両側仕切壁56,56間に流入することがない。もっとも、湯はり時に高温出湯を行った場合には、吐出口45,45から吐出されるお湯は、フィルター内の部位に跳ね返って、両側仕切壁56,56の前側を乗り越えて、両側仕切壁56,56間に流入されることもある。
【0106】
また本実施形態においては、吐出口45,45を2つ形成するものであるため、吐出口を1つだけにする場合と比較して、吐出口45,45の各開口寸法(孔径)を小さくすることができる。このため低流量で、湯はり時に高温出湯を行った場合、各吐出口45,45毎においてお湯の勢いをある程度確保することができる。さらに吐出口45,45を2つ形成するため、高流量の状態においては、流路抵抗を少なくすることができ、十分な流量を確保することができる。つまり、低流量の場合には流速を確保できるとともに、高流量の場合には流量を十分に確保することができる。
【0107】
また本実施形態においては、形状記憶バネ55の両側に下向きの吐出口45,45を配置しているため、出湯具自体の取付状態が周方向(回転方向)に位置ずれして、吐出口45,45が斜め下向きに傾いて配置されたとしても、高精度で高温のお湯を感知することができる。
【0108】
すなわち、形状記憶バネの片側に1つの吐出口を形成した場合、出湯具が、その形状記憶バネの下側に吐出口が位置するように傾いて取り付けられると、吐出口から吐出される高温のお湯は、形状記憶バネ側に供給され難くなり、高温のお湯を十分に感知できないおそれがある。逆に、出湯具が、その形状記憶バネの上側に吐出口が位置するように傾いて取り付けられると、吐出口から吐出される高温のお湯は、形状記憶バネ側に供給され易くなり、高温のお湯を必要以上に感知してしまうおそれがある。このように吐出口が1つだけの場合には、出湯具の傾きによって、形状記憶バネに対してお湯のかかり具合が異なり、形状記憶バネによるお湯の感知精度が低下してしまう。
【0109】
これに対し、本実施形態においては、形状記憶バネ55の両側に吐出口45,45を配置しているため、出湯具が傾いて取り付けられた場合、形状記憶バネ55の上側に配置された一方の吐出口45からのお湯は、形状記憶バネ55側に供給され易く、下側に配置される他方の吐出口45からのお湯は、形状記憶バネ55側に供給され難くなる。つまり、一方では形状記憶バネ55側へのお湯の供給が多くなるものの、他方では少なくため、2つの吐出口45,45が傾いて配置された際の互いの欠点が相殺される。従って、出湯具が傾いて配置された場合でも、形状記憶バネ55により、高精度でお湯を感知することができ、出湯具の傾きにかかわらず、お湯の感知性能を維持でき、信頼性をより一層向上させることができる。
【0110】
なお上記実施形態においては、吐出口を下向きに配置しているが、それだけに限られず、本発明においては、斜め下向きに配置するようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0111】
この発明の高温差し湯式浴槽用出湯具は、例えば一般家庭の浴槽に適用することができる。
【符号の説明】
【0112】
45:吐出口
46:拡散誘導部
53:遮断弁
55:形状記憶バネ(形状記憶部材)
56:仕切壁
561:回り込み誘導面
57:外側誘導面
58:分流部
9:フィルター(カバー部材)
93:開口部
94,941:格子部材
A:吐出流路
W:浴槽の側壁
【特許請求の範囲】
【請求項1】
浴槽の側壁に貫通状態に取り付けられる高温差し湯式浴槽用出湯具であって、
浴槽外から供給されるお湯を導入する吐出流路と、
前記吐出流路を通過したお湯を浴槽内に吐出する吐出口と、
作動時に前記吐出流路を遮断してお湯の供給を停止する遮断弁と、
前記吐出口の下流側における一側方に配置され、かつ所定の温度以上のお湯を感知した際に前記遮断弁を作動させる形状記憶部材と、を備え、
前記吐出口の内部に、前記吐出口から吐出されるお湯の一部を他側方に誘導してお湯を拡散させるための拡散誘導部が設けられることを特徴とする高温差し湯式浴槽用出湯具。
【請求項2】
前記拡散誘導部は、前記吐出口の内周側面のうち一側方の側面に設けられ、かつ下流側に向かうに従って他側方に向かうように傾斜する傾斜面によって構成される請求項1に記載の高温差し湯式浴槽用出湯具。
【請求項3】
前記吐出口および前記形状記憶部材を覆い、かつ前記吐出口から吐出されるお湯を流出させる開口部が形成されたカバー部材を備え、
前記吐出口と前記カバー部材の開口部との間に、前記吐出口から吐出したお湯を分流して他側方に誘導する分流部が設けられる請求項1または2に記載の高温差し湯式浴槽用出湯具。
【請求項4】
浴槽の側壁に貫通状態に取り付けられる高温差し湯式浴槽用出湯具であって、
浴槽外から供給されるお湯を導入する吐出流路と、
前記吐出流路を通過したお湯を浴槽内に吐出する吐出口と、
作動時に前記吐出流路を遮断してお湯の供給を停止する遮断弁と、
前記吐出口の下流側における一側方に配置され、かつ所定の温度以上のお湯を感知した際に前記遮断弁を作動させる形状記憶部材と、
前記吐出口および前記形状記憶部材を覆い、かつ前記吐出口から吐出されるお湯を流出させる開口部が形成されたカバー部材と、を備え、
前記吐出口と前記カバー部材の開口部との間に、前記吐出口から吐出したお湯を分流して他側方に誘導する分流部が設けられることを特徴とする高温差し湯式浴槽用出湯具。
【請求項5】
前記吐出口は、前記形状記憶部材を挟んだ両側にそれぞれ設けられる請求項1〜4のいずれか1項に記載の高温差し湯式浴槽用出湯具。
【請求項6】
前記吐出口は、下向きに配置される請求項1〜5のいずれか1項に記載の高温差し湯式浴槽用出湯具。
【請求項7】
前記カバー部材の開口部に格子部材が設けられるとともに、その格子部材に対応して前記分流部が配置される請求項3または4に記載の高温差し湯式浴槽用出湯具。
【請求項8】
前記形状記憶部材と前記吐出口との間に下流側に延びる仕切壁が設けられ、
前記仕切壁の下端縁に、その下端面における前記吐出口側のコーナー部が面取状に形成されて、回り込み誘導面が形成される請求項1〜7のいずれか1項に記載の高温差し湯式浴槽用出湯具。
【請求項9】
前記仕切壁の前記吐出口側に、下流側に向かうに従って他側方に向かうように傾斜する他側方向誘導面が形成される請求項8に記載の高温差し湯式浴槽用出湯具。
【請求項1】
浴槽の側壁に貫通状態に取り付けられる高温差し湯式浴槽用出湯具であって、
浴槽外から供給されるお湯を導入する吐出流路と、
前記吐出流路を通過したお湯を浴槽内に吐出する吐出口と、
作動時に前記吐出流路を遮断してお湯の供給を停止する遮断弁と、
前記吐出口の下流側における一側方に配置され、かつ所定の温度以上のお湯を感知した際に前記遮断弁を作動させる形状記憶部材と、を備え、
前記吐出口の内部に、前記吐出口から吐出されるお湯の一部を他側方に誘導してお湯を拡散させるための拡散誘導部が設けられることを特徴とする高温差し湯式浴槽用出湯具。
【請求項2】
前記拡散誘導部は、前記吐出口の内周側面のうち一側方の側面に設けられ、かつ下流側に向かうに従って他側方に向かうように傾斜する傾斜面によって構成される請求項1に記載の高温差し湯式浴槽用出湯具。
【請求項3】
前記吐出口および前記形状記憶部材を覆い、かつ前記吐出口から吐出されるお湯を流出させる開口部が形成されたカバー部材を備え、
前記吐出口と前記カバー部材の開口部との間に、前記吐出口から吐出したお湯を分流して他側方に誘導する分流部が設けられる請求項1または2に記載の高温差し湯式浴槽用出湯具。
【請求項4】
浴槽の側壁に貫通状態に取り付けられる高温差し湯式浴槽用出湯具であって、
浴槽外から供給されるお湯を導入する吐出流路と、
前記吐出流路を通過したお湯を浴槽内に吐出する吐出口と、
作動時に前記吐出流路を遮断してお湯の供給を停止する遮断弁と、
前記吐出口の下流側における一側方に配置され、かつ所定の温度以上のお湯を感知した際に前記遮断弁を作動させる形状記憶部材と、
前記吐出口および前記形状記憶部材を覆い、かつ前記吐出口から吐出されるお湯を流出させる開口部が形成されたカバー部材と、を備え、
前記吐出口と前記カバー部材の開口部との間に、前記吐出口から吐出したお湯を分流して他側方に誘導する分流部が設けられることを特徴とする高温差し湯式浴槽用出湯具。
【請求項5】
前記吐出口は、前記形状記憶部材を挟んだ両側にそれぞれ設けられる請求項1〜4のいずれか1項に記載の高温差し湯式浴槽用出湯具。
【請求項6】
前記吐出口は、下向きに配置される請求項1〜5のいずれか1項に記載の高温差し湯式浴槽用出湯具。
【請求項7】
前記カバー部材の開口部に格子部材が設けられるとともに、その格子部材に対応して前記分流部が配置される請求項3または4に記載の高温差し湯式浴槽用出湯具。
【請求項8】
前記形状記憶部材と前記吐出口との間に下流側に延びる仕切壁が設けられ、
前記仕切壁の下端縁に、その下端面における前記吐出口側のコーナー部が面取状に形成されて、回り込み誘導面が形成される請求項1〜7のいずれか1項に記載の高温差し湯式浴槽用出湯具。
【請求項9】
前記仕切壁の前記吐出口側に、下流側に向かうに従って他側方に向かうように傾斜する他側方向誘導面が形成される請求項8に記載の高温差し湯式浴槽用出湯具。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−57444(P2013−57444A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195957(P2011−195957)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(594107103)株式会社ハタノ製作所 (40)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(594107103)株式会社ハタノ製作所 (40)
【Fターム(参考)】
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