説明

高温摩耗寿命を評価するための方法

高温での高摩耗条件下における使用が意図されたポリマー試験体の相対的な摩耗寿命を評価するための方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2008年8月20日に出願された米国特許仮出願第61/189,632号の利益を請求しており、上記米国特許仮出願は参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0002】
発明の属する技術分野
本開示は、高温での高摩耗条件下における使用または化学的腐食環境での高摩耗条件下における使用が意図された、ポリマー試験体、より具体的にはポリイミド試験体、および部品の相対的な摩耗寿命を決定するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
高耐摩耗性が要求される、特に高温、高圧、高速および/または化学的劣化もしくは腐食の条件での用途には、ストレス下および高温で長時間にわたって機能し得る材料が必要である。航空宇宙市場におけるそのような用途の例には、航空エンジン部品および航空機用摩耗パッドがある。また、自動車市場におけるそのような用途の例には、自動変速機ブッシュおよびシールリング、テンターフレームパッドおよびブッシュ、材料加工装置部品、ならびにポンプブッシュおよびシールがある。
【0004】
典型的に、上記のような用途にある部品は、犠牲または消耗部品として機能し、嵌合または隣接するより高価な部品が、それをストレスまたは酸化的ストレス下において何か他の部品に嵌合させたならば経時的に被るであろう摩耗または損傷を防止または低減することが意図されている。部品は犠牲摩耗低減材(sacrificial wear reducer)としての効果を失う。しかし、この部品が摩耗すると、結果として生ずるクリアランスの増大は有害な結果(例えば、(気圧または流体の)漏れの増加またはノイズの増大)をもたらし得、それにより、その摩耗した部品が含まれるシステム全体の動作効率を低減する。最終的にこの部品は、嵌合または隣接するより高価な部品への摩耗または損傷を防止または低減する能力を失う。システムをその本来の動作効率に回復させるには、その摩耗した部品を新しい未使用の部品と取替える必要があるであろう。取替えは、システムの分解、再組立、試験および再較正(「点検」)を必要とし、ダウンタイムおよび労働の点からかなりの費用を生じ得る。したがって、取替え頻度を減らし、それにより費用を削減するために、より低い摩耗速度を示す部品が望ましい。
【0005】
特定の用途のための候補材料の中から選択する際に、どの候補が最も長い摩耗寿命を有する部品をもたらす可能性が最も高いかを予測することは有効であろう。異なる材料で作製された部品、または異なるやり方で同じ材料で作製された部品の摩耗寿命を、そうした高温、高摩耗用途について評価し比較することは困難である。当業者は、典型的に、例えばASTM規格G133に記載されるような摩耗速度、および適宜、熱酸化安定性(TOS)の測定値を用いて2つの材料を比較する。
【0006】
熱酸化安定性試験の欠点は、ある温度での経時的な損失重量に関する情報を提供するが、ある温度での摩耗寿命に関する直接的な情報を提供しないということである。ジェットエンジンの設計者らは、VV TOS試験における損失重量が大きいほどある温度での寿命は短くなる可能性があると理論的に判断し、TOS情報から推論を行う。同様に、摩耗試験は、材料の摩耗速度に関する情報を設計者に提供するが、限られた期間のものに過ぎず、設計者らはある温度での時間の関数としての摩耗速度の変化について推論を行わざるを得ない。しかしながら、摩耗速度、熱酸化安定性、および摩耗寿命の間の関係は、明確に定義されていない。2つの材料が同様の熱酸化安定性値を有し、かつASTM G133により決定される同様の摩耗速度を有していても、非常に異なる摩耗寿命または寿命を有することがあり得る。他の当業者は、関心のある材料で作製された部品または試験体を熱老化させ、次いで、機械的性質の変化を測定する。さらに他の当業者は、材料を熱老化させ、次いで、熱酸化安定性値の変化を測定する。これらのアプローチはいずれも、摩耗寿命の直接的な比較を提供しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
高温での高耐摩耗性が要求される用途における使用が意図された材料の相対的な摩耗寿命の直接的な信頼性の高い比較を提供する好都合な方法に対する必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書に開示されているのは、
a)少なくとも2組のポリマー試験体を提供する工程であって、
(i)各組中の各試験体は、同じ組成物および同じやり方で作製されるか、
(ii)各組中の各試験体は、少なくとも1つの他の組と同じ組成物で作製され、かつ異なるやり方で作製されるか、
(iii)各組中の各試験体は、少なくとも1つの他の組と異なる組成物で作製され、かつ同じやり方で作製されるか、または
(iv)各組中の各試験体は、少なくとも1つの他の組と異なる組成物で作製され、かつ異なるやり方で作製される
工程と、
b)各組について、
(i)少なくとも1つの試験体を非老化コントロールとして取っておくことと、
(ii)各残りの試験体を、特定の雰囲気下で、特定の温度にて、特定の老化時間の間、加熱することによって老化させることと、
(iii)非老化試験体および老化試験体の摩耗速度を経時的に測定することと
により老化時間の関数として摩耗速度を決定する工程と、
c)試験体の各組について工程(b)において決定された摩耗速度を比較する工程と
を含む、ポリマー試験体の相対的な摩耗寿命を評価するための方法である。
【0009】
本発明の種々の特徴および/または実施形態を、下記のように図面に示す。これらの特徴および/または実施形態は代表的であるに過ぎず、これらの特徴および/または実施形態を図面に含めることについての選択は、図面に含まれていない主題が本発明を実施するのに適していないこと、または図面に含まれていない主題が添付の特許請求の範囲およびその均等物の範囲から除外されることを示していると解されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、2つの異なるポリマー試験体AおよびBについての空気中800°F(427℃)での老化時間に対する摩耗速度のグラフである。
【図2】図2は、3つの異なるポリマー試験体A、BおよびCについての空気中900°F(482℃)での老化時間に対する摩耗速度のグラフである。
【図3】図3は、2つの異なるポリマー試験体BおよびDについての空気中750°F(482℃)での老化時間に対する摩耗速度のグラフである。
【図4】図4は、2つの異なるポリマー試験体BおよびEについての空気中750°F(482℃)での老化時間に対する摩耗速度のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書に記載される方法は、同じもしくは異なるポリマー材料で作製されており、かつ/または異なる仕方で調製されたポリマー試験体または部品の、高温、高摩耗条件下での相対的な性能を評価する好都合な方法を提供する。そうした材料の評価は、意図される使用に利用された場合のポリマー材料の性能の予測を助けるのに有用である。
【0012】
本明細書に記載された方法における使用に適した材料は、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリケトン(例えば、ポリエーテルエーテルケトンおよびポリエーテルケトンケトン)、ポリベンゾキサゾール、ポリベンズイミダゾール、ポリアラミド、ポリアリーレン、ポリエーテルスルホン、ポリアリーレンスルフィド、ポリイミドチオエーテル、ポリオキサミド、ポリイミン、ポリスルホンアミド、ポリスルホンイミド、ポリイミジン、ポリピラゾール、ポリイソキサゾール、ポリチアゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリオキサジアゾール、ポリトリアゾール、ポリトリアゾリン、ポリテトラゾール、ポリキノリン、ポリアントラゾリン(polyanthrazoline)、ポリピラジン、ポリキノキサリン、ポリキノキサロン、ポリキナゾロン、ポリトリアジン、ポリテトラジン、ポリチアゾン(polythiazone)、ポリピロン、ポリフェナントロリン、ポリカルボシラン、ポリシロキサン、ポリアミドイミド、およびそれらのコポリマーまたはブレンドからなる群より選択される充填剤入りおよび無充填の高温ポリマーである。
【0013】
ストレス下でのポリマー材料に特有の性能、特にストレス下および高温でのポリイミド組成物に特有の性能が、それらをそうした用途において特に有用にしてきた。本明細書において使用される場合、用語「ポリイミド」は、少なくとも約80%の反復単位間の連結基がイミド基−CONRCO−であるポリマーを意味する。ポリイミドの合成および特性は、例えば、R.G.Bryantにより、「Polyimides」、Encyclopedia of Polymer Science and Technology、第3版、J.I.Kroschwitz編、第7巻、第529頁〜第554頁に概説されている。
【0014】
ポリマー材料に加え、添加剤が試験対象の試験体中に含まれ得る。例えば、例示的かつ非排他的ではあるが、含まれ得る添加剤を列挙すると、顔料、酸化防止剤、熱膨張係数を制御する材料、潤滑性(lubricious)および/または非潤滑性の充填剤などがある。これらの添加剤の例としては、黒鉛、カオリナイト、TiO、ヒンダードフェノール、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、窒化ホウ素(BN)などが挙げられる。
【0015】
本明細書に開示される方法は、特定の温度での老化時間の関数としてポリマー試験体またはポリマー部品の摩耗を決定するための方法を含む。不融性のポリマーについては、試験用の試験体は、関心のある組成物中の各成分の粉末混合物に熱および圧力を加えることにより、当該ポリマーから作製され得る。例えば、米国特許第4,360,626号明細書を参照されたい。これらの粉末混合物は、単に粉末をブレンドすることにより作製され得る。無機粉末成分は、ポリイミドポリマーを作製するための合成工程に加えられて、当該ポリマーおよび他の成分の混合物が得られ得る。ポリマーが熱可塑性である場合は、試験体または試験部品は、熱可塑性部品の成形に典型的に用いられる溶融成形法(例えば、押出成形または射出成型)により成形され得る。
【0016】
本明細書に記載される方法において、各々の規定された関心のある状態(例えば、組成、調製のやり方、後処理など)について、いくつもの成形部品または試験体が試験試料として作製される。試験試料はASTM G133の円筒形を有し得るか、または、それらは例えば引張試験片であり得る。
【0017】
本明細書に開示される方法において、試験体の摩耗性能は、非老化ポリマー試験体の組と、特定の条件に供された老化ポリマー試験体の組とを比較することにより決定される。少なくとも1つの試験体が各組に含まれるが、選択されるだけの数の試験体を各組において用い得る。少なくとも1組のポリマー試験体が非老化コントロールとして取っておかれ、残りの組の試験体または部品は、特定の温度にて、特定の長さの時間にわたり、特定の雰囲気で加熱することにより老化される。これは、好都合には、例えば、老化されるべき全ての試験体または部品をある温度でオーブンに入れ、次に、所定の老化時間にそれらを取り出すことにより行われる。温度、雰囲気、および老化時間の選択は、対象用途の性質に依存することになる。例えば、航空宇宙用途が意図された部品の材料または形状を代表する試験体は、750〜900°F(399〜482℃)の範囲内の温度にて、空気中で1〜300時間またはそれ以上の間、老化され得る。老化時間は、好ましくは、摩耗速度測定値の標準偏差の少なくとも約3倍の摩耗速度の変化を誘発するのに十分に長くなければならない。
【0018】
試験試料を老化させた後、各々について摩耗速度が決定される。用いられる具体的な摩耗試験は、その材料の意図された用途の性質、および試験体の形状に依存することになる。例えば、回転金属リング上にポリマーブロックを用いる摩耗試験機は自動車用途に適しており、航空宇宙用途についての試験は、一般的に振動モードで行われ、温度が制御される。当該技術分野の製造業者により用いられる試験は、例えば、実際の焼結ブッシュを用いて長時間にわたって実施され得る。ASTM G133−05(2005)の「Standard Test Method for Linearly Reciprocating Ball−on−Flat Sliding Wear」は、ボール(例えば、鋼球)を水平面上で直線的に往復させる構造を用いて窯業製品、金属および他の候補耐摩耗性材料の滑り摩耗を決定するための有用な実験手順を含む。
【0019】
市販の試験機の1つの例が、Bud Labs,Inc.(Rochester,NY)により販売されており、ASTM G133の修正版を実行する。この試験機は、約0.5cmの厚さを有する直径1インチ(2.5cm)の試験体に対するクロム鋼(AISI E52100高炭素鋼、ロックウェル硬度64)またはチタニウムのいずれかの直径3/8インチ(0.95cm)の金属球による振動摩耗に関わる。典型的な実施において、試験体に2lb(0.91kg)重を掛けるアームにボールを取り付け、このアームを300サイクル/分で54000サイクル(3時間)にわたって振動させる。このボールおよび試験体はオーブンで試験温度に予熱され、その組立体は試験期間の間オーブン内に維持される。この試験から時間に対する力のプロットが得られ、このプロットからおおよその摩擦係数が推定され得る。摩耗疵の体積は、実験の最後に測定される。この体積は、例えば、触針プロフィルメトリー(stylus profilometry)または光学的プロフィルメトリーによって測定され得る。したがって、摩耗速度は、試験時間(本発明においては3時間)で除した体積である。試験体の目視検査は、必ずというわけではないが、所与の組成物についての耐摩耗性の有効期間の終わり近くに剥落、亀裂、点蝕または他の破損形態を明らかにすることがある。
【0020】
摩耗速度が決定されると、それらは老化時間の関数として、各々の規定された状態について1つの曲線がプロットされる。次いで、これらの曲線が互いに比較されて、ポリマー材料もしくは部品の用途または意図された使用において期待された相対的な性能が予測される。
【0021】
曲線が図1におけると同様に「ホッケー用スティック」形状を有する場合、相対的な摩耗寿命は、目視により、摩耗速度が急に上昇する時の老化時間として特定され得る。この急上昇は、部品の破滅的な破損を示している。より一般的には、相対的な摩耗寿命または寿命は、それを過ぎると摩耗速度が摩耗速度測定値の標準偏差の約3倍を超えるような老化時間として特定され得る。図1中のデータについては、ポリマー試験体Aおよびポリマー試験体Bという組成物で作製された試験体についての相対的な寿命は、空気中800°F(427℃)で、それぞれ約90時間および約180時間である。
【0022】
老化時間に対する摩耗速度のプロットが、例えば図2におけると同様に、「ホッケー用スティック」形状を有さない曲線である場合は、各曲線の下の面積を比較することによって相対的な性能を評価する方が有効であり、より大きな面積はより劣る性能を示す。多くの場合、これは目視によって評価され得る。図2において、ポリマー試験体Bについての曲線の下の面積は、ポリイミド組成物であるポリマー試験体Aについての曲線の下の面積よりも明らかに大きく、同様に、ポリマー試験体Aについての曲線の下の面積は、ポリイミド組成物であるポリマー試験体Cについての曲線の下の面積よりも大きい。したがって、ポリマー試験体Bで作製された部品または成形試験体の性能は、空気中900°F(482℃)での高摩耗条件において、ポリマー試験体Aで作製された部品または成形試験体よりも性能が劣ることが予想され、同様に、ポリマー試験体Aで作製された部品または成形試験体は、ポリマー試験体Bで作製された部品よりも性能が劣ることが予想される。
【実施例】
【0023】
本発明は、以下の実施例においてさらに明確に説明される。これらの実施例は、本発明の好ましい実施形態を示すものではあるが、単に説明のためだけに与えられるものであると理解されるべきである。上記の検討およびこれらの実施例から、当業者は、本発明の本質的な特徴を確認し得、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、本発明を様々な使用および条件に適合させるために本発明に種々の変更および修正を加え得る。
【0024】
材料
「BPDA」は、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を意味する。
【0025】
「MPD」は、−m−フェニレンジアミンを意味する。
【0026】
「PPD」は、p−フェニレンジアミンを意味する。
【0027】
「PMDA」は、ピロメリト酸二無水物を意味する。
【0028】
「ODA」は、ジアミノジフェニルエーテルを意味する。
【0029】
ポリマー試験体Aは、BPDAおよびPPDから調製されたポリイミドであり、2.5重量%の黒鉛を含有する。
【0030】
ポリマー試験体Bは、BPDAおよび70/30の比率のPPD/MPDから調製されたポリイミドであり、50重量%の黒鉛を含有する。
【0031】
ポリマー試験体Cは、BPDAおよび70/30の比率のPPD/MPDから調製されたポリイミドであり、9重量%の黒鉛および1重量%のカオリナイトを含有する。
【0032】
ポリマー試験体Dは、BPDAおよび70/30の比率のPPD/MPDから調製されたポリイミドである。
【0033】
ポリマー試験体Eは、PMDAおよびODAから調製されたポリイミドであり、30重量%の黒鉛を含有する。
【0034】
ポリマー試験体A、B、C、DおよびEの各々を、E.l.du Pont de Nemours & Co.,Inc.(Wilmington,Delaware,USA)から入手した。ポリマー試験体CおよびDは、開示された方法を無充填ポリマー試験体について例示する。ポリマー試験体A、BおよびEは、開示された方法を充填ポリマー試験体について例示する。
【0035】
方法
[試験試料の製造]乾燥ポリイミド樹脂から調製されたポリマー試験体を、実質的に米国特許第4,360,626号明細書(特に第2欄第54行〜第60行)に記載された手順に従う手順を用いて直接成形により、直径1インチ(2.5cm)および厚さ約0.5cmのディスクへと加工し、引張試験片を、米国特許第4,360,626号明細書に示された方法により調製した。上記米国特許明細書は、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0036】
[熱老化方法]上記試験片を、Thermolyne 1300マッフル炉(Barnstead International(Dubuque,Iowa,USA)、Thermo Fisher Scientific,Inc.(Waltham,Massachusetts,USA)の一部)内のステンレス鋼ワイヤメッシュラック上にランダムに配置した。この炉は、空気または窒素パージが供給され得るように、入口および出口を備えるように改良された。試料を配置後、この炉を閉じ、加熱を開始する前に30分間窒素(10〜15scfh、流量0.28〜0.42m/時間)でパージした。この炉を窒素下で3〜6時間の間350℃に加熱した。炉温を350℃で3〜16時間の間維持した。次いで、この炉を、ワイヤメッシュラックの中段の中心に配置された熱電対により測定される所望の試験温度にモニタリングしながら加熱した。試験温度を窒素下で0〜30分間維持した後、空気(10〜15scfh、流量0.28〜0.42m/時間)に切り替えた。時間0を、空気に切り替えた時の時間として規定した。ディスクを様々な間隔をおいて炉から取り出し、窒素パージ室(nitrogen−purged enclosure)に入れて冷却した。
【0037】
炉内のゾーン温度を、試験期間中、様々な位置でモニタリングした。2%の温度変動をこの炉の最上部から底部にかけて観測し、炉チャンバーの最上部および側部は概して底部およびドア表面よりも温度が高かった。この変動値は、炉内のディスクの数に依存した。均一な熱酸化暴露を確保するために、オーブン内のゾーン温度を常にモニタリングすること、および老化調査期間中に全てのディスクが様々なゾーンに曝されるようにディスクの位置を移し変えることが必要であった。
【0038】
摩耗速度を、ASTM G133の修正版を用いて決定した。これは、試験体に対するクロム鋼(AISI E52100高炭素鋼、ロックウェル硬度64)の直径3/8インチ(0.95cm)の金属球による振動摩耗に関わる。試験体に2lb(0.91kg)重を掛けるアームにボールを取り付け、このアームを300サイクル/分で54000サイクル(3時間)にわたって振動させた。このボールおよび試験体をオーブンで試験温度に予熱し、その組立体を試験期間の間オーブン内に維持した。摩耗疵の体積を、光学プロフィルメーター(ZYGO Corporation,Middlefield,Connecticut,USA)によって、または代替的に触針プロフィルメトリーにより、実験の最後に測定した。これらの実施例において、3時間の間隔にわたる摩耗速度として、摩耗体積が求められる。摩耗測定値の標準偏差は、試験された具体的なポリイミド組成物にわずかに依存したが、典型的には、摩耗速度の約2〜8%であった。
【0039】
これらの実施例において示されるデータは、ASTM G133摩耗試験機を用いて収集されたが、他の摩耗評価方法で行われる類似の実験が類似の結果を生ずるであろうと想定するのは妥当である。これには、ピンオンディスク試験が含まれる。
【0040】
実施例1
ポリマー試験体AおよびBそれぞれの、直径1インチ(2.5cm)×厚さ0.5cmの円筒形に成形されたディスクを、空気中800°F(427℃)で老化させた。摩耗速度を、非老化試料および老化試料について測定した。それを表1に示し、図1において老化時間に対してプロットする。図1におけるプロットは、試験体Bについて、約180時間まで摩耗速度がかなり小さいままであることを示している。この時点においては、熱酸化劣化が著しい速度で起こっており、試験体は、その摩耗速度が目覚ましく加速するほどに構造的完全性を失いつつある。曲線の「ホッケー用スティック」状の外観が特徴的である。試験体Bで作製されたエンジンブッシュが現場のエンジン内で連続的に800°F(427℃)で維持されると仮定した状況において、それが約180時間持つことが予想されるであろうと想定することは恐らく妥当である。これは、熱酸化安定性が摩耗寿命を800°F(427℃)で約180時間に制限すると言っているものと見なされ得る。同様に、試験体Aで作製されたエンジンブッシュが現場のエンジン内で連続的に800°F(427℃)で維持されると仮定した状況においては、それが約90時間しか持たないことが予想されるであろう。
【0041】
【表1】

【0042】
実施例2
試験体B、AおよびCそれぞれの、直径1インチ(2.5cm)×厚さ0.5cmの円筒形に成形されたディスクを、空気中900°F(482℃)で老化させた。摩耗速度を、非老化試料および老化試料について測定した。それを表2に示し、図2において老化時間に対してプロットする。
【0043】
図2において、ポリイミド組成物試験体Bについての曲線の下の面積は、ポリイミド組成物試験体Aについての曲線の下の面積よりも明らかに大きく、同様に、ポリイミド組成物試験体Aについての曲線の下の面積は、ポリイミド組成物試験体Cについての曲線の下の面積よりも大きい。したがって、試験体Bで作製された部品または成形試験体の性能は、空気中900°F(482℃)での高摩耗条件において、試験体Aで作製された部品または成形試験体よりも性能が劣ることが予想され、同様に、試験体Aで作製された部品または成形試験体は、試験体Bで作製された部品または成形試験体よりも性能が劣ることが予想される。
【0044】
【表2】

【0045】
実施例3
試験体DおよびBそれぞれの、直径1インチ(2.5cm)×厚さ0.5cmの円筒形に成形されたディスクを、空気中750°F(399℃)で老化させた。摩耗速度を、非老化試料および老化試料について測定した。それを表3に示し、図3において老化時間に対してプロットする。
【0046】
【表3】

【0047】
図3において、ポリイミド組成物試験体Dについての曲線の下の面積は、ポリイミド組成物試験体Bについての曲線の下の面積よりも明らかに大きい。したがって、試験体Dで作製された部品または成形試験体の性能は、空気中750°F(399℃)での高摩耗条件において、試験体Bで作製された部品または成形試験体よりも性能が劣ることが予想される。
【0048】
実施例4
試験体EおよびBそれぞれの、直径1インチ(2.5cm)×厚さ0.5cmの円筒形に成形されたディスクを、空気中750°F(399℃)で老化させた。摩耗速度を、非老化試料および老化試料について測定した。それを表4に示し、図4において老化時間に対してプロットする。空気中750°F(399℃)にて、試験体Eは97時間までに破滅的に壊れたが、600時間経って試験体Bは破滅的損傷の形跡を全く示さず、摩耗速度は時間0でのその値よりも39%高いに過ぎなかった。
【0049】
【表4】

【0050】
本明細書において数値範囲が記載される場合、その範囲は、その端点およびその範囲内の全ての個々の整数および端数を含み、明記された範囲内の値のより大きな群の下位群を形成するそれら端点および内側の整数および端数の種々の可能な組み合わせの全てによって形成されるより狭い範囲の各々も、そのより狭い範囲の各々が明示的に記載されている場合と同程度にその範囲に含む。明記された値よりも大きいものとして数値範囲が本明細書に明記される場合、その範囲はそれにもかかわらず有限であり、本明細書に記載された発明の文脈内で実施され得る値によりその上限が制限される。明記された値よりも小さいものとして数値範囲が本明細書に明記される場合、その範囲はそれにもかかわらず、ゼロでない値によりその下限が制限される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー試験体の相対的な摩耗寿命を評価するための方法であって、
a)少なくとも2組のポリマー試験体を提供する工程であって、
(i)各組中の各試験体は、同じ組成物および同じやり方で作製されるか、
(ii)各組中の各試験体は、少なくとも1つの他の組と同じ組成物で作製され、かつ異なるやり方で作製されるか、
(iii)各組中の各試験体は、少なくとも1つの他の組と異なる組成物で作製され、かつ同じやり方で作製されるか、
(iv)各組中の各試験体は、少なくとも1つの他の組と異なる組成物で作製され、かつ異なるやり方で作製される、
工程と、
b)各組について、
(i)少なくとも1つの試験体を非老化コントロールとして取っておくことと、
(ii)各残りの試験体を、特定の雰囲気下で、特定の温度にて、特定の老化時間の間、加熱することによって老化させることと、
(iii)前記非老化試験体および前記老化試験体の摩耗速度を経時的に測定することと、
により老化時間の関数として摩耗速度を決定する工程と、
(c)試験体の各組について工程(b)において決定された前記摩耗速度を比較する工程と
を含む方法。
【請求項2】
前記ポリマー試験体が、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリケトン、ポリベンゾキサゾール、ポリベンズイミダゾール、ポリアラミド、ポリアリーレン、ポリエーテルスルホン、ポリアリーレンスルフィド、ポリイミドチオエーテル、ポリオキサミド、ポリイミン、ポリスルホンアミド、ポリスルホンイミド、ポリイミジン、ポリピラゾール、ポリイソキサゾール、ポリチアゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリオキサジアゾール、ポリトリアゾール、ポリトリアゾリン、ポリテトラゾール、ポリキノリン、ポリアントラゾリン、ポリピラジン、ポリキノキサリン、ポリキノキサロン、ポリキナゾロン、ポリトリアジン、ポリテトラジン、ポリチアゾン、ポリピロン、ポリフェナントロリン、ポリカルボシラン、ポリシロキサン、ポリアミドイミド、およびそれらのコポリマーまたはブレンドからなる群より選択される充填ポリマーまたは無充填ポリマーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ポリマー試験体の相対的な性能を高温、高摩耗条件下で評価するための方法であって、
a)少なくとも2組の試験体を提供する工程であって、
(i)各組中の各試験体は、同じ組成物および同じやり方で作製されるか、
(ii)各組中の各試験体は、少なくとも1つの他の組と同じ組成物で作製され、かつ異なるやり方で作製されるか、
(iii)各組中の各試験体は、少なくとも1つの他の組と異なる組成物で作製され、かつ同じやり方で作製されるか、
(iv)各組中の各試験体は、少なくとも1つの他の組と異なる組成物で作製され、かつ異なるやり方で作製される、
工程と、
b)各組について、
(i)少なくとも1つの試験体を非老化コントロールとして取っておくことと、
(ii)各残りの試験体を、特定の雰囲気下、特定の温度にて、特定の老化時間の間、加熱することによって老化させることと、
(iii)前記非老化試験体および前記老化試験体の摩耗速度を経時的に測定することと、
により老化時間の関数として摩耗速度を決定する工程と、
c)試験体の各組について工程(b)において決定された摩耗速度を比較する工程と、
を含む方法。
【請求項4】
前記ポリマー試験体が、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリケトン、ポリベンゾキサゾール、ポリベンズイミダゾール、ポリアラミド、ポリアリーレン、ポリエーテルスルホン、ポリアリーレンスルフィド、ポリイミドチオエーテル、ポリオキサミド、ポリイミン、ポリスルホンアミド、ポリスルホンイミド、ポリイミジン、ポリピラゾール、ポリイソキサゾール、ポリチアゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリオキサジアゾール、ポリトリアゾール、ポリトリアゾリン、ポリテトラゾール、ポリキノリン、ポリアントラゾリン、ポリピラジン、ポリキノキサリン、ポリキノキサロン、ポリキナゾロン、ポリトリアジン、ポリテトラジン、ポリチアゾン、ポリピロン、ポリフェナントロリン、ポリカルボシラン、ポリシロキサン、ポリアミドイミド、およびそれらのコポリマーまたはブレンドからなる群より選択される充填ポリマーまたは無充填ポリマーを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ポリマー試験体が、少なくとも1つの添加剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ポリマー試験体が、少なくとも1つの添加剤を含む、請求項3に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−500404(P2012−500404A)
【公表日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−523986(P2011−523986)
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際出願番号】PCT/US2009/054435
【国際公開番号】WO2010/022222
【国際公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】