説明

高温腐食試験装置

【課題】
精度のよい腐食試験が可能でしかも耐久性に優れた高温腐食試験装置を提供する。
【解決手段】 高温腐食試験装置1は、試験片Sの温度を調整ガスGの温度よりも低いものとする試験片温度調節手段5を備えている。試験片温度調節手段5は、上面に試験片Sが載置される箱体11と、箱体11内に熱媒体Hを導入する導入管12と、箱体11内から熱媒体Hを排出する排出管13と、熱媒体Hを所定の温度に加熱する熱媒体温度制御手段15と、箱体11、導入管12および排出管13を保持する保持部材14とを有している。箱体11、導入管12および排出管13は、箱体11の上面だけを露出させて、保持部材14に埋設されている。熱媒体Hは、耐熱合成油とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば都市ごみ焼却施設に使用するボイラの水管に使用される材料を適正な条件で試験するための高温腐食試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、都市ごみ焼却施設ではボイラーが設置され、熱回収や発電などの余熱利用が行われている。この用途のボイラーでは、焼却炉の運転に伴って燃焼ガス中の飛灰が水管表面に付着し、付着飛灰で水管外表面が覆われることにより、水管外表面を腐食させる場合がある。したがって、ボイラーの水管に使用する材料を選定するためには、高温下で試験を行うだけではなく、灰が付着した状態で高温の燃焼ガスに曝され、かつボイラーの水管に使用する材料の温度が燃焼ガスの温度に比べて低温に保たれる環境を再現した高温腐食試験が必要となっている。
【0003】
そこで、特許文献1には、電気炉内に配置された加熱管と、加熱管内に高温の調整ガスを供給する調整ガス供給手段と、テスト管(試験片)に適当量の冷却空気を通過させる冷却空気供給手段とを備えており、調整ガスの温度700℃に対して、冷却空気の温度を500℃にすることで、試験片の温度が調整ガスの温度よりも低く保たれるようになされた高温腐食試験装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭63−101857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1のものでは、冷却空気の温度調節が難しく、したがって、試験片の温度変化が大きく、精度よく腐食試験を行うことが難しいという問題があり、また、テスト管と称されている試験片の保持部材が腐食することで、耐久性に劣るという問題もあった。
【0006】
この発明の目的は、精度のよい腐食試験が可能でしかも耐久性に優れた高温腐食試験装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明による高温腐食試験装置は、電気炉内に配置された加熱管と、加熱管内に高温の調整ガスを供給する調整ガス供給手段と、試験片の温度を調整ガスの温度よりも低いものとする試験片温度調節手段とを備えている高温腐食試験装置において、試験片温度調節手段は、上面に試験片が載置される箱体と、箱体内に熱媒体を導入する導入管と、箱体内から熱媒体を排出する排出管と、熱媒体を所定の温度に加熱する熱媒体温度制御手段と、箱体、導入管および排出管を保持する保持部材とを有しており、箱体、導入管および排出管は、箱体の上面だけを露出させて、保持部材に埋設されており、熱媒体が耐熱合成油とされていることを特徴とするものである。
【0008】
試験片は、通常は金属製とされ、その形状は、方形などの板状とされる(管状とする必要はない)。
【0009】
箱体、導入管および排出管は、金属製とすることが好ましいが、この場合には、調整ガスに曝されて腐食しやすいことから、耐久性が低下する可能性がある。そこで、この発明の高温腐食試験装置では、これらの箱体、導入管および排出管が保持部材に埋設されているものとされ、これにより、箱体、導入管および排出管は、調整ガスから保護されて、腐食しにくいものとなり、繰り返し使用することができる。
【0010】
保持部材は、箱体、導入管および排出管を埋設するのに適した(耐熱性が高く取扱いが容易な)材料製とされることが好ましく、例えば、耐熱ジルコンセメント製とされる。
【0011】
試験片が載置された箱体の上面に、試験片が載置されていない面および試験片の側面を覆う保護部材が取替え可能に設けられていることが好ましい。
【0012】
実際のボイラーの水管は外表面しかガスと接触しないので、その腐食試験に際しても、試験片の側面をガスに曝す必要はなく、このようにすることで、試験片の側面および上面に灰を被せた場合に比較して、実際の条件により近い試験が可能となる。
【0013】
取替え可能な保護部材は、試験後に試料を取り易くするために焼結・硬化しにくく、試験毎に取り替えやすいものを使用するのが望ましく、耐熱性も考慮して、例えばアルミナセメント製とすることが好ましい。
【0014】
箱体、導入管および排出管が保持部材に埋設されたものは、試験片支持台として繰り返し使用され、保護部材は、試験片が変わるごとに、新しいものが使用される。
【0015】
試験片の上面には、ボイラーの水管表面に付着する飛灰に相当するものとしての灰が塗布される。灰の塗布は、取替え可能な保護部材が設けられた後に行われることが好ましい。
【0016】
灰は、試験片の長辺および短辺の各寸法に対し5〜15%大きい広さとなるように塗布されていることが好ましい。このようにすると、灰が焼結および収縮しても試験片が調整ガスに直接曝されることが防止され、試験片形状を簡素化して、しかも、実際の使用条件により近い状態での試験が可能となる。
【0017】
試験片の温度が熱電対で測定されて、熱媒体温度制御手段により、この測定結果に基づいて熱媒体の温度が調節されていることが好ましい。
【0018】
熱媒体温度制御手段により熱媒体温度を一定に保持するには、例えば、熱媒体が循環する経路の途中に一定量の容積を持つタンクを設置しておき、そのタンクの外側からヒータで加熱するか、またはファンで冷却することで温度調節すればよい。この際、試験片の温度を熱電対で検知して、試験片の温度によりヒータやファンを制御して、熱媒体の温度を調節することがより好ましい。
【発明の効果】
【0019】
この発明の高温腐食試験装置によると、熱媒体が耐熱合成油とされているので、耐熱合成油の温度の調節によって試験片を調整ガスの温度よりも低い任意の温度に精度よく調整することができ、ボイラーの水管に使用する材質の評価において、これまで実験的に確かめることができなかった腐食挙動の把握が可能となり、既存材料の評価および新材料の開発の進展に寄与できる。また、箱体、導入管および排出管は、箱体の上面だけを露出させて、保持部材に埋設されているので、箱体、導入管および排出管の腐食が防止され、試験装置の耐久性が優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、この発明による高温腐食試験装置を示す縦断面図である。
【図2】図2は、この発明による高温腐食試験装置の要部(試験片温度調節手段)のブロック図付きの拡大縦断面図である。
【図3】図3は、同横断面図である。
【図4】図4は、同平面図である。
【図5】図5は、この発明による高温腐食試験装置で実現されるテスト条件(試験中の温度推移)を示すグラフである。
【図6】図6は、この発明による高温腐食試験装置で実現される他のテスト条件(試験片の垂線方向の温度勾配)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、この発明の実施形態について説明する。
【0022】
高温腐食試験装置(1)は、図1に示すように、水平方向にのびる円筒状の電気炉(2)と、電気炉(2)内に配置された水平方向にのびる管状の加熱管(3)と、加熱管(3)の一端開口を閉鎖するように設けられて加熱管(3)内に高温の調整ガス(G)を供給する調整ガス供給手段(4)と、試験片(S)の温度を調整ガス(G)の温度よりも低いものとする試験片温度調節手段(5)とを備えている。
【0023】
試験片温度調節手段(5)は、図2から図4までに示すように、上面に試験片(S)が載せられる箱体(11)と、箱体(11)内に熱媒体(H)を導入する導入管(12)と、箱体(11)内から熱媒体(H)を排出する排出管(13)と、試験片(S)の温度を測定する熱電対(14)と、箱体(11)、導入管(12)および排出管(13)を保持する耐熱セメント(保持部材)(16)とを有しているとともに、図1に示すように、加熱管(3)外部において熱媒体(H)を所定の温度に加熱する熱媒体温度制御手段(15)を有している。
【0024】
この高温腐食試験装置(1)は、高温の調整ガス(G)による試験片(S)の耐腐食性について、試験片(S)の上面に灰(煤塵)(A)が塗布されるとともに、試験片(S)の温度が調整ガス(G)の温度よりも低く保持されることにより、ボイラーの水管として使用される金属材料を実際の使用条件で評価するものである。
【0025】
調整ガス(G)としては、塩化水素などの腐食性成分を含有する高温のガスが適している。試験片(S)は、方形の板状とされており、試験片(S)には、熱電対(14)を挿入するための孔があけられている。この実施形態では、箱体(11)は、2枚の試験片(S)の試験が同時に可能な大きさとされている。
【0026】
熱媒体温度制御手段(15)は、導入管(12)および排出管(13)を介して箱体(11)に連通するタンク(17)と、このタンク(17)を加熱または冷却する加熱・冷却手段(18)と、熱電対(14)の測定値およびタンク(17)内の熱媒体(H)の温度に基づいて加熱・冷却手段(18)に加熱または冷却を指示する処理手段(19)とを有している。
【0027】
試験片温度調節手段(5)は、その熱媒体温度制御手段(15)によって、試験片(S)の温度が目標値よりも高くなると、例えば冷却手段としてのファンを作動させて、タンク(17)内の熱媒体(H)の温度を低くし、試験片(S)の温度が目標値よりも低くなると、例えば加熱手段としてのヒータを作動させて、タンク(17)内の熱媒体(H)の温度を高くする操作を行い、これにより、試験片(S)の温度を目標値に維持するようにする。
【0028】
熱媒体(H)としては、耐熱合成油が使用されている。耐熱合成油は、温度制御の幅を高域側に広く調整でき、耐熱合成油の温度の調節によって試験片(S)を調整ガス(G)の温度よりも低い任意の温度に精度よく調整することができる。
【0029】
耐熱セメント(16)は、図3に示すように、加熱管(3)の下部に充填されており、箱体(11)は、その上面だけを露出させて、耐熱セメント(16)に埋設されている。導入管(12)および排出管(13)は、その加熱管(3)内にある部分すべてが耐熱セメント(16)に埋設されている。これにより、箱体(11)、導入管(12)および排出管(13)は、調整ガス(G)によって劣化することから防止されている。
【0030】
箱体(11)に試験片(S)が載置された状態で、耐熱セメント(16)の上面においては、箱体(11)の上面のうちの試験片(S)で覆われていない部分が露出している。この露出した部分に対し、試験片(S)の上面を除いて、アルミナセメントのような耐熱セメント製の保護部材(20)が充填され、この後に、灰(A)が塗布される。保護部材(20)は、試験片(S)の4方の側面も覆うようになされ、この保護部材(20)によって、箱体(11)の上面および試験片(S)の側面が調整ガス(G)に曝されることが防止されている。保護部材(20)がアルミナセメント製とされていることで、保護部材(20)は、焼結・硬化しにくく、試験ごとに除去しやすく、なおかつ、次の試験時に成形しやすいものとなっている。
【0031】
図3において、試験片(S)が2枚配置されていることに対応して、箱体(11)の上面の周縁部だけでなく、2枚の試験片(S)間にできた隙間にも保護部材(20)が充填されている。
【0032】
灰(A)を塗布するに際しては、灰(A)は、試験片(S)の長辺および短辺の各寸法に対し5〜15%大きい広さとなるように塗布される。このようにすると、高温下で灰(A)が焼結および収縮した場合でも、試験片(S)が調整ガス(G)に直接曝されることが防止される。
【0033】
図5は、上記高温腐食試験装置(1)において、試験片(S)の温度:331(℃)、熱媒体(H)の温度:166(℃)、調整ガス(G)の温度900(℃)および試験時間:100(時間)として、調整ガス(G)、灰(A)および試験片(S)の温度推移を調べた結果を示すグラフで、このグラフから、この発明の高温腐食試験装置(1)によると、調整ガス(G)、灰(A)および試験片(S)がそれぞれ一定の温度に維持されることが分かる。
【0034】
図6は、上記高温腐食試験装置(1)において、試験片(S)の垂線方向の温度勾配を測定した結果を示しており、同図のグラフにおいて、試験片(S)は、厚み方向の5〜7mmのところに位置しており、試験片(S)の下(厚み方向の7〜8mm)に箱体(11)の壁があり、さらにその下(厚み方向の8〜12mm)が箱体(11)内に収容されている熱媒体(H)であり、試験片(S)の上(厚み方向の0〜5mm)に灰(A)があり、さらにその上(厚み方向の−2〜0mm)が調整ガス(G)となっている。このグラフから、調整ガス(G)の温度を900(℃)かつ試験片(S)の温度を331(℃)としたい場合には、熱媒体温度制御手段(15)は、熱媒体(H)の温度を166(℃)に制御すればよいことが分かる。
【0035】
上記のことから、この発明の高温腐食試験装置(1)は、高温の燃焼ガスと水管に付着した灰が水管の腐食に影響するような系であって、水管の内面と外面とで温度勾配を持つ環境が再現できるので、特にボイラー水管に使用する材料の評価に適しており、この高温腐食試験装置(1)を使用することで、これまで実験的に確かめることができなかった腐食挙動の把握が可能となり、既存材料の評価および新材料の開発の進展に寄与することができる。
【符号の説明】
【0036】
(1) 高温腐食試験装置
(2) 電気炉
(3) 加熱管
(4) 調整ガス供給手段
(5) 試験片温度調節手段
(11) 箱体
(12) 導入管
(13) 排出管
(14) 熱電対
(15) 熱媒体温度制御手段
(16) 耐熱セメント(保持部材)
(20) 保護部材
(G) 調整ガス
(S) 試験片
(H) 熱媒体
(A) 灰

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気炉内に配置された加熱管と、加熱管内に高温の調整ガスを供給する調整ガス供給手段と、試験片の温度を調整ガスの温度よりも低いものとする試験片温度調節手段とを備えている高温腐食試験装置において、
試験片温度調節手段は、上面に試験片が載置される箱体と、箱体内に熱媒体を導入する導入管と、箱体内から熱媒体を排出する排出管と、熱媒体を所定の温度に加熱する熱媒体温度制御手段と、箱体、導入管および排出管を保持する保持部材とを有しており、箱体、導入管および排出管は、箱体の上面だけを露出させて、保持部材に埋設されており、熱媒体が耐熱合成油とされていることを特徴とする高温腐食試験装置。
【請求項2】
保持部材は、耐熱ジルコンセメント製とされていることを特徴とする請求項1に記載の高温腐食試験装置。
【請求項3】
試験片が板状とされており、試験片が載置された箱体の上面に、試験片が載置されていない面および試験片の側面を覆う保護部材が取替え可能に設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の高温腐食試験装置。
【請求項4】
保護部材は、アルミナセメント製とされていることを特徴とする請求項3に記載の高温腐食試験装置。
【請求項5】
取替え可能な保護部材が設けられた後に、試験片の上面に灰が塗布されていることを特徴とする請求項3または4に記載の高温腐食試験装置。
【請求項6】
灰は、試験片の長辺および短辺の各寸法に対し5〜15%大きい広さとなるように塗布されていることを特徴とする請求項5に記載の高温腐食試験装置。
【請求項7】
試験片の温度が熱電対で測定されて、この測定結果に基づいて熱媒体の温度が調節されていることを特徴とする請求項1から6までのいずれかに記載の高温腐食試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−2694(P2012−2694A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138496(P2010−138496)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】