説明

高滑性絶縁電線

【課題】整列巻線の更なる高速化に対応が可能で、各種コイル、例えばスピンドルモーターコイル等を製造するのに好適な高滑性絶縁電線を提供する。
【解決手段】導体1の外周にエナメル線用絶縁塗料を塗布・焼付けして絶縁皮膜2を設け、この外周に、6−ナイロン系樹脂を有機溶剤に溶解した樹脂溶液に該溶液の樹脂重量分に対して脂肪酸系の滑剤を0.5〜5.0重量%添加・混合して得られた滑性付与塗料を塗布・焼付けして滑性皮膜3を形成し高滑性絶縁電線5とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は絶縁電線に関する。更に詳しくは各種コイル、例えばスピンドルモーターコイル、電源トランスコイル、ファンモーター、リレーコイル等を製造するのに好適な整列巻線性、高速巻線性に優れた高滑性絶縁電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
絶縁電線はポリウレタン絶縁塗料、ポリエステル絶縁塗料、ポリエステルイミド絶縁塗料、ポリアミドイミド絶縁塗料、或はポリイミド絶縁塗料等のエナメル線用絶縁塗料を銅線、アルミ線等の導体に塗布・焼付けを行い製造している。また絶縁電線は各種コイル、例えばスピンドルモーターコイル、電源トランスコイル等に幅広く使用されている。これら各種コイルは通常、自動巻線機を用い絶縁電線の整列巻線を行って製造されている。近年、コイルの生産効率の向上を図るために自動巻線機による整列巻線が高速化している。しかしながら前記絶縁電線は絶縁皮膜の滑り性に劣り、整列巻線の高速化には対応出来なかった。そのため絶縁皮膜の滑り性に優れ、整列巻線の高速化に対応が可能な滑性絶縁電線が要求されている。なお下記特許文献1に示すように、絶縁電線に滑り性を付与するために、絶縁皮膜の表面に流動パラフィンを塗布する方法が知られている。
【特許文献1】特開昭60−158507
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記絶縁皮膜の表面に流動パラフィンを塗布する方法を用いても、絶縁皮膜の滑り性は不十分であり、近年の自動巻線機による整列巻線の更なる高速化には対応出来ないという問題点があった。
本発明は、上記従来技術が有する各種問題点を解決するためになされたものであり、整列巻線の更なる高速化に対応が可能で、各種コイル、例えばスピンドルモーターコイル、電源トランスコイル等を製造するのに好適な高滑性絶縁電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
第1の観点として本発明は、導体の外周にエナメル線用絶縁塗料を塗布・焼付けを行って絶縁皮膜を設け、この外周に、6−ナイロン系樹脂を有機溶剤に溶解した樹脂溶液に該溶液の樹脂重量分に対して脂肪酸系の滑剤を0.5〜5.0重量%添加・混合して得られた滑性付与塗料を塗布・焼付けして滑性皮膜を形成した高滑性絶縁電線にある。
前記エナメル線用絶縁塗料としては、例えばポリウレタン絶縁塗料、ポリエステル絶縁塗料、ポリエステルイミド絶縁塗料、ポリアミドイミド絶縁塗料、或はポリイミド絶縁塗料等が挙げられる。
前記6―ナイロン系樹脂としては、例えばアミラン(登録商標)CM1014(融点225℃ 東レ社商品名)やアミランCM1007(融点225℃ 東レ社商品名)等の樹脂が挙げられる。
前記脂肪酸系の滑剤は皮膜の滑性向上に寄与するために添加される樹脂であり、例えばルナックS−40T(ステアリン酸系滑剤 花王社商品名)、ルナックO−A(オレイン酸系滑剤 花王社商品名)等の滑剤が挙げられる。
前記脂肪酸系の滑剤の添加量を0.5〜5.0重量%と限定した理由は、0.5重量%未満では皮膜の滑性向上に寄与する効果が少ないためであり、また5.0重量%を超えても滑性向上に寄与する効果が飽和してしまうためである。
また前記滑性皮膜の厚さは0.005mm〜0.003mmあれば十分である。
なお、前記滑性付与塗料を調製する際、6−ナイロン系樹脂を有機溶剤に溶解して樹脂溶液とした後、脂肪酸系の滑剤を添加・混合している理由は、6−ナイロン系樹脂の溶解には例えば80℃で3時間攪拌する必要があり、この高温度と長時間では6−ナイロン系樹脂と脂肪酸系の滑剤を一緒に溶解・混合した場合、脂肪酸系滑剤が分解する危険性があるためである。
上記第1観点の高滑性絶縁電線では、前記滑性付与塗料中の脂肪酸系滑剤が焼付時において滑性皮膜の表面にブリードアウト(滲出)して該滑性皮膜の表面を覆うことにより摩擦を低減する作用があるため滑性皮膜に高滑性が付与される。
以上のように、本発明の高滑性絶縁電線は最外層の滑性皮膜に高滑性が付与されるため、コイル巻線時に電線の整列性が向上することにより、自動巻線機による整列巻線の更なる高速化に極めて好適となる。
【0005】
第2の観点として本発明は前記脂肪酸系の滑剤がステアリン酸系滑剤またはオレイン酸系滑剤であることを特徴とする高滑性絶縁電線にある。
上記第2観点の高滑性絶縁電線では、脂肪酸系の滑剤としてはステアリン酸系滑剤またはオレイン酸系滑剤が線の表面に優れた滑性を付与するので好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明の高滑性絶縁電線によれば、最外層の滑性皮膜に高滑性が付与されるので自動巻線機による整列巻線の更なる高速化が可能となり、各種コイル、例えばスピンドルモーターコイル、電源トランスコイル等を製造するのに好適となる。
従って、本発明は産業上に寄与する効果が極めて大である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の内容を、図に示す実施の形態により更に詳細に説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
図1は、本発明の高滑性絶縁電線の一例を示す断面図である。また図2は、本発明の高滑性絶縁電線の滑り性を評価するための動摩擦試験用治具を示す斜視図である。(試験中の状態を示す)
これらの図において、1は導体(銅線)、2は絶縁皮膜、3は滑性皮膜、5は高滑性絶縁電線(試験線)、10は動摩擦係数試験用治具、10aは固定台、10bは移動台、Fは治具引っ張り用糸、Kは滑車、またWは分銅である。
【0008】
(1)滑性付与塗料の調製
本発明の滑性付与塗料の調製について、下記表1を用いて説明する。なお表1は実施調製例1〜6の滑性付与塗料の配合組成表である。
【0009】
【表1】

【0010】
―実施調製例1―
撹拌機、温度計及び冷却管をつけた2000mlのセパラブル丸底フラスコに、表1の配合組成表に従って、主成分の6−ナイロン系樹脂としてCM1007を100.0g、有機溶剤としてクレゾール/キシレン=1/1混合溶剤を900.0g入れ、60〜80℃の温度で3時間加熱撹拌し、溶解して樹脂溶液とした後、この溶液を室温まで冷却した。
次いで、前記樹脂溶液に脂肪酸系の滑剤としてステアリン酸系滑剤のルナックS−40Tを0.5g(樹脂溶液の樹脂重量分に対して0.5重量%)添加し、攪拌して濃度10%の滑性付与塗料を調製した。
【0011】
―実施調製例2〜6―
実施調製例2〜6のそれぞれの樹脂溶液としては上記実施調製例1と同じ樹脂溶液を用いた。
次いで、表1の配合組成表に従って、それぞれの樹脂溶液にルナックS−40Tを1.0g(樹脂溶液の樹脂分に対して1.0重量%)(実施調製例2)、2.0g(樹脂溶液の樹脂分に対して2.0重量%)(実施調製例3)、3.0g(樹脂溶液の樹脂分に対して3.0重量%)(実施調製例4)、4.0g(樹脂溶液の樹脂分に対して4.0重量%)(実施調製例5)、5.0g(樹脂溶液の樹脂重量分に対して5.0重量%)(実施調製例6)添加し、攪拌してそれぞれ濃度10%の滑性付与塗料を調製した。
【0012】
(2)高滑性絶縁電線(比較例は絶縁電線)の製造
本発明の高滑性絶縁電線の実施形態(実施例)について図1を用いて説明する。また比較例の絶縁電線についても同時に説明する。
【実施例1】
【0013】
導体径0.200mmの銅線(1)にポリウレタン絶縁塗料を外径が0.220mmとなるように塗布・焼付して絶縁皮膜(2)を設け、さらに絶縁導体上に、上記実施調製例1の滑性付与塗料をダイスにより塗布焼付けして滑性皮膜(3)を設け、高滑性絶縁電線(5)を製造してボビン(図示せず)に巻き取った。
【実施例2】
【0014】
導体径0.200mmの銅線(1)にポリウレタン絶縁塗料を外径が0.220mmとなるように塗布・焼付して絶縁皮膜(2)を設け、さらに絶縁導体上に、上記実施調製例3の滑性付与塗料をダイスにより塗布焼付けして滑性皮膜(3)を設け、高滑性絶縁電線(5)を製造してボビン(図示せず)に巻き取った。
【実施例3】
【0015】
導体径0.200mmの銅線(1)にポリエステル絶縁塗料を外径が0.220mmとなるように塗布・焼付して絶縁皮膜(2)を設け、さらに絶縁導体上に、上記実施調製例6の滑性付与塗料をダイスにより塗布焼付けして滑性皮膜(3)を設け、高滑性絶縁電線(5)を製造してボビン(図示せず)に巻き取った。
【0016】
―比較例1―
特に図示はしないが、導体径0.200mmの銅線にポリウレタン絶縁塗料を外径が0.220mmとなるように塗布・焼付して絶縁皮膜を設けた絶縁電線に流動パラフィンを塗布してボビンに巻き取った。
【0017】
―比較例2―
特に図示はしないが、導体径0.200mmの銅線にポリエステル絶縁塗料を外径が0.220mmとなるように塗布・焼付して絶縁皮膜を設けた絶縁電線に流動パラフィンを塗布してボビンに巻き取った。
【0018】
(3)高滑性絶縁電線(比較例は絶縁電線)の一般特性および滑り性評価試験
前記実施例1〜3の高滑性絶縁電線ならびに比較例1、2の絶縁電線について一般特性および滑り性評価試験を行った。その結果を下記表2に示す。なお、滑り性については動摩擦係数により評価した。また、この動摩擦係数は図2に示す動摩擦係数試験用治具を用いて試験を行った。
表2より明らかな様に、上記実施例1〜3により得られた本発明の高滑性絶縁電線は一般特性が良好で、また比較例1、2の絶縁電線と比較して動摩擦係数が約半分と低いため滑り性が極めて優れていることが分かる。
なお前記実施調製例2、4、5の滑性付与塗料を用いて上記実施例1と同様に製造した高滑性絶縁電線も上記実施例1〜3の高滑性絶縁電線と同様に一般特性が良好で、また滑り性が極めて優れていた。
【0019】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明の高滑性絶縁電線は整列巻線の更なる高速化に対応が可能で、各種コイル、例えばスピンドルモーターコイル、電源トランスコイル等を製造するのに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の高滑性絶縁電線の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の高滑性絶縁電線の滑り性を評価するための動摩擦試験用治具を示す斜視図である。(試験中の状態を示す)
【符号の説明】
【0022】
1 導体(銅線)
2 絶縁皮膜
3 滑性皮膜
5 高滑性絶縁電線(試験線)
10 動摩擦係数試験用治具
10a 固定台
10b 移動台
F 治具引っ張り用糸
K 滑車
W 分銅


【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体の外周にエナメル線用絶縁塗料を塗布・焼付けを行って絶縁皮膜を設け、この外周に、6−ナイロン系樹脂を有機溶剤に溶解した樹脂溶液に該溶液の樹脂重量分に対して脂肪酸系の滑剤を0.5〜5.0重量%添加・混合して得られた滑性付与塗料を塗布・焼付けして滑性皮膜を形成したことを特徴とする高滑性絶縁電線。
【請求項2】
前記脂肪酸系の滑剤がステアリン酸系滑剤またはオレイン酸系滑剤であることを特徴とする請求項1記載の高滑性絶縁電線。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−272191(P2009−272191A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−122821(P2008−122821)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(000003414)東京特殊電線株式会社 (173)
【Fターム(参考)】