説明

高炉への還元材吹込み装置および方法

【課題】高炉への還元材吹込みを行うに際して、吹込みランスの逆流等を的確に防止し、高炉に安定かつ確実に還元材を吹込むことができる還元材吹込み装置および方法を提供する。
【解決手段】吹込みランス10Aにおいては、ランス管11内にオリフィス12が取り付けられていて、それによって、オリフィス12の下流側から上流側に逆流することが的確に防止されるようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉への還元材吹込み装置および方法に関し、特に吹込みランスへの逆流等を防止して、高炉に安定かつ確実に還元材を吹込むための還元材吹込み装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、最近の高炉においては、高出銑比、低コークス比操業を達成する手段として、都市ガス(LNG)等の気体還元材の炉内への吹込みが行われていることが多く、また同時に微粉炭等の固体(粉粒)還元材の吹込みも行われていることも多い。これら還元材吹込みは上記のような操業上の利点のみならず、CO発生の抑制効果による地球環境への負荷低減の観点からも重要である。
【0003】
一般に、高炉への還元材の吹込みは、図1(a)に高炉の全体図、図1(b)に図1(a)の部分拡大図、図1(c)に図1(b)の部分拡大図を示すように、高炉1の炉壁2に取り付けられているブローパイプ4内へ吹込みランス(以下、単に「ランス」ともいう)10から還元材を吹込むことによって達成される。ブローパイプ4は羽口5と直結しており、熱風炉(図示せず)から環状管3を経由して供給された高温高速空気が流れているパイプである。還元材の吹込みは炉内圧力との関係で達成されることになるため、吹込み圧力不足等による操業上の不具合発生、およびランス10内への高温高速空気の逆流等による異常燃焼発生等の危険現象の回避については十分に考慮する必要がある。
【0004】
そこで、高炉に安定かつ確実に還元材を吹込むために、これまで、特許文献1、2等に記載の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−241585号公報
【特許文献2】特開2006−274341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らが検討したところによれば、上記特許文献1、2に記載の技術には以下のような問題点があることが分かった。
【0007】
特許文献1については、基本的にランスの配置について述べられているが、吹込むための前提となる還元材供給圧力、流量等についてはほとんど述べられておらず、また、通常操業の範囲において炉内圧力等の操業状況が変化した場合にも当該ランス配置が必ずしも最適であるとは言い切れない。
【0008】
特許文献2については、炉内圧力に対して還元性ガスの所定吹込み圧力を維持すること、吹込み圧力が所定値を下回った場合の実施内容等について述べられているが、吹込み圧力が低下する状況に至る原因そのものの解消方法については述べられていないため、対処療法的である。また、仮にランスが何らかの原因により閉塞した場合、実際は吹込みが不可能な状況になっているにも関わらず、吹込み圧力が所定値を上回っているように検知される可能性もあり、その場合には何ら対応できない。
【0009】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、高炉への還元材吹込みを行うに際して、吹込みランスへの高温高速空気の逆流等を的確に防止し、高炉に安定かつ確実に還元材を吹込むことができる還元材吹込み装置および方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決するために様々な検討を行った結果、以下の知見を得た。
【0011】
すなわち、まず、高温高速空気が逆流することなくランスから還元材が炉内に吹き込まれるための前提条件として、常に「ランス先端圧力>炉内圧力」の関係を満たす必要がある。その上で、ランスへの高温高速空気の逆流を的確に防止するためには、ランス自体もしくはランス上流の配管系統に絞り機構を設ければ良い。さらに、還元材を断続的ではなく連続的に吹込めば良く、加えて、還元材の供給量に応じて還元材を吹込むランスの本数を増減させれば良い。
【0012】
本発明は、上記の知見に基づいたものであり、以下のような特徴を有している。
【0013】
[1]高炉のブローパイプ内に還元材を吹込む装置であって、吹込みランス自体もしくはランス上流の配管系統に絞り機構を備えていることを特徴とする高炉への還元材吹込み装置。
【0014】
[2]還元材を連続的に吹込むことを特徴とする前記[1]に記載の高炉への還元材吹込み装置。
【0015】
[3]ランス先端圧力が炉内圧力より大きくなるように、還元材の供給量に応じて還元材を吹込むランスの本数を増減することを特徴とする前記[1]または[2]に記載の高炉への還元材吹込み装置。
【0016】
[4]高炉のブローパイプ内に還元材を吹込む方法であって、吹込みランス自体もしくはランス上流の配管系統に絞り機構を設けることを特徴とする高炉への還元材吹込み方法。
【0017】
[5]還元材は連続的に吹込むことを特徴とする前記[4]に記載の高炉への還元材吹込み方法。
【0018】
[6]ランス先端圧力が炉内圧力より大きくなるように、還元材の供給量に応じて還元材を吹込むランスの本数を増減することを特徴とする前記[4]または[5]に記載の高炉への還元材吹込み方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明においては、ランスへの逆流を的確に防止して、高炉に安定かつ確実に還元材を吹込むことができるようになる。その結果、炉況がより安定化する。また、ランス関係のトラブル頻度も大幅に低下するため、トラブル発生による高炉減風すなわち出銑量低下の回避、および破損箇所の補修費の削減というメリットもある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】高炉設備において本発明が関係する部分を説明する図である。
【図2】本発明の一実施形態で用いる吹込みランスと従来の吹込みランスの相違を説明する図である。
【図3】本発明の一実施形態において、還元材の流量調整弁の設置箇所を説明する図である。
【図4】本発明の実施例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0022】
図1に示したように、一般に、高炉1においては、熱風炉から環状管3を経由して供給される高温空気を、ブローパイプ4を通じて炉体下部の円周上に均等配置された羽口5から炉内に吹き込んでいる。本発明においても、炉内への還元材供給はブローパイプ4内に差し込んだランス10を通じて行うものとする。
【0023】
高炉においては、基本的に炉頂より原料を投入、下部より高温空気および還元材を供給している。原料は最終的に炉床より溶銑として出銑され、高温空気および還元材は最終的に炉頂より高炉ガスとして排出される。炉内は大まかには鉱石とコークスが交互に積み重なった充填層となっており(ただし、炉内下部では各層の融着が進行しているため明確に層があるわけではない)、安定した炉内状態を維持するための操業パラメータの1つとして炉内圧力PBFがある。現実の操業においては、充填層の状態は時々刻々と変化するので、それに伴い充填層の通気抵抗も変化し、その結果として炉内圧力PBFは、
ave−ΔP≦PBF≦Pave+ΔP
の範囲で変動する。ここで、Pave:炉内圧力平均値、ΔP:炉内圧力変動幅の1/2である。
【0024】
そこで、まず、ランス先端圧力Pは常に、以下の関係を満たすようにする必要がある。
ランス先端圧力P>炉内圧力PBF
【0025】
なぜなら、流体は圧力勾配に沿って流れるため、もし、
ランス先端圧力P<炉内圧力PBF
となった場合、高温高速空気がランス内に逆流、還元材供給配管系統で逆火する可能性があるからである。
【0026】
その上で、本発明においては、ランス10に絞り機構を設けることによって、ランス10への高温高速空気の逆流を的確に防止するようにしている。
【0027】
図2に、本発明で用いる吹込みランス10Aと従来の吹込みランス10Zとの比較を示す。図2(a)に示す従来の吹込みランス10Zは、ランス管11単体であるが、図2(b)に示す本発明で用いる吹込みランス10Aは、ランス管11の内部に絞り機構12を備えている。絞り機構12は単純には制限オリフィスで良い。絞り機構(オリフィス)12は言い換えれば圧損ΔPであり、オリフィス12の設置により、上流側圧力PBF+ΔPに対し下流側圧力はPBFとなる。その結果、図2(b)のようにオリフィス12の下流側から上流側に逆流することがなくなるため、逆流防止装置の役割を果たすことになる。オリフィス12の設置位置については、上述の理由よりランス管11の先端が最も望ましい。ランス管11内部への逆流を効果的に抑制できるからである。
【0028】
なお、本発明ではランス10自体に絞り機構12を設けているが、ランス10の上流の還元材供給配管系統に絞り機構12を設けることでもよい。
【0029】
そして、本発明においては、還元材を断続的ではなく連続的に吹込むようにしている。還元材を断続的に吹込む場合、吹込みを停止した瞬間もしくは吹込み停止中に、ブローパイプ4内の圧力変動によりランス管11内に微粉炭が逆流し、融着が発生する頻度が高くなる可能性がある。微粉炭以外の還元材の逆流による不具合発生の頻度が高まる可能性についても然りである。さらには、還元材は常温であることが多く、還元材吹込みそのものにランス冷却効果も期待していることが多いため、吹込み停止中はランス冷却ができず、ランス管11の温度が送風温度の1100℃程度まで上昇、材質劣化し溶損してしまう(なお、還元材吹込み停止中は、ランス冷却のために不活性ガスを替わりに吹込んでいることが多い)。この点からも還元材は連続吹込みが望ましい。
【0030】
また、操業状況に応じて還元材の供給量も変更する必要があるが、本発明においては、供給量に応じて吹込むランスの本数を選択可能にしている。
【0031】
一般に、高炉1にはその内容積に応じて数十本の羽口5が設置されており、ランス10は基本的には羽口5すなわちブローパイプ4毎に設置される。還元材供給量が低下する際、数十本のランス10の全てに還元材を均等に供給していたのでは、ランス10毎の流量が少なくなりすぎて、炉内圧力PBFが変動した際にランス管11内に逆流する可能性がある。
【0032】
そこで、それを回避するためには、本発明においては、還元材供給量の低下に応じて、所定のランス10Aのみから還元材を供給することとし、ランス10Aの1本あたりの最低流量を下回らないように、すなわち、ランス先端圧力Pが炉内圧力PBFより大きくなるようにしている。そのために、図3に示すように、数十本のランス10Aのそれぞれに流量調整弁24を設けるか、もしくはランス10Aを何本かをまとめたグループ毎に流量調整弁23を設けるようにしている。なお、図3において、21は還元材供給配管であり、22は何本かのランス10Aをまとめてヘッダとなるリング管である。
【0033】
このようにして、本発明においては、ランス管11内に絞り機構(オリフィス)12を備えたランス10Aを用いているので、ランス管11への逆流が防止されて、高炉に安定かつ確実に還元材を吹込むことができるようになる。
【0034】
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されるものでなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【実施例1】
【0035】
本発明の実施例を以下に示す。
【0036】
まず、従来例として、図2(a)に示したような従来のランス10Zを用いて、還元材の吹込みを行った。その際に、ランス10Zの上流には手動の流量調整弁を設置した。また、ランス先端圧力P<炉内圧力PBFとなるタイミングがあり、還元材の吹込みは断続的であり(停止中は不活性ガスを吹込んでいた)、還元材供給量が変化しても全てのランス10Zから還元材の吹込みを実施した。
【0037】
これに対して、本発明例として、図2(b)に示したようなランス10Aを用いて、還元材の吹込みを行った。その際に、図4(a)に全体図、図4(b)に部分拡大図を示すように、ランス10A群について、リング管22をヘッダとして5グループに分け、リング管22上流の還元材供給配管21に高炉運転室から操作も可能な自動の流量調整弁23を設置した。さらに、ランス先端圧力P>炉内圧力PBFの関係を常に保つものとし、還元材の吹込みは連続的とし、還元材供給量が所定値を下回る場合には、自動の流量調整弁23により特定のランス10Aを自動で停止する条件とした。それ以外は従来例と同等の操業条件とした。
【0038】
その結果、本発明例では従来例に比べて逆流の発生を的確に防止することができた。その結果、高炉の安定操業に大きく寄与することができた。
【符号の説明】
【0039】
1 高炉
2 炉壁
3 環状管
4 ブローパイプ
5 羽口
10 吹込みランス
10A 吹込みランス
10Z 吹込みランス
11 ランス管
12 絞り機構(オリフィス)
21 還元材供給配管
22 リング管
23 流量調整弁
24 流量調整弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉のブローパイプ内に還元材を吹込む装置であって、吹込みランス自体もしくはランス上流の配管系統に絞り機構を備えていることを特徴とする高炉への還元材吹込み装置。
【請求項2】
還元材を連続的に吹込むことを特徴とする請求項1に記載の高炉への還元材吹込み装置。
【請求項3】
ランス先端圧力が炉内圧力より大きくなるように、還元材の供給量に応じて還元材を吹込むランスの本数を増減することを特徴とする請求項1または2に記載の高炉への還元材吹込み装置。
【請求項4】
高炉のブローパイプ内に還元材を吹込む方法であって、吹込みランス自体もしくはランス上流の配管系統に絞り機構を設けることを特徴とする高炉への還元材吹込み方法。
【請求項5】
還元材は連続的に吹込むことを特徴とする請求項4に記載の高炉への還元材吹込み方法。
【請求項6】
ランス先端圧力が炉内圧力より大きくなるように、還元材の供給量に応じて還元材を吹込むランスの本数を増減することを特徴とする請求項4または5に記載の高炉への還元材吹込み方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−1933(P2013−1933A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132749(P2011−132749)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】