説明

高発色性芯鞘型複合繊維

【課題】鮮明性がよく高発色性に染色でき、かつ堅牢度が良好であるポリエステル繊維を提供することを目的とする。
【解決手段】芯鞘型複合繊維であって、芯部がポリエーテルエステルエラストマーからなり、鞘部が特定のカチオン可染モノマーを共重合したポリエステルで形成されたポリエステル繊維であり、かつ芯/鞘比率が30/70〜70/30の範囲の常圧カチオン可染性芯鞘複合繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芯成分にポリエーテルエステルエラストマーからなり、鞘成分にポリエステルを配した芯鞘型複合繊維に関する。更に詳細には、染色した際に高発色性を呈する芯鞘型ポリエステル複合繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエーテルエステルエラストマー繊維はストレッチ性が良くスポーツ、カジュアル用として評価が高く生産量が拡大している。しかしながら分散染料、アゾイック染料で染色したとき、濃染性が悪く鮮明且つ深みのある色相が得られにくいという欠点があり、染料濃度を上げて染色すると堅牢度が低下するという問題が付きまとうものであった。
【0003】
従来よりポリエステルの濃染性を向上させるために、様々な方法が提案されている。例えばポリエステルにスルホイソフタル酸の金属塩を2〜3モル%共重合する方法が提案されている(例えば特許文献1、2参照)。しかしながら、ポリエーテルエステルエラストマーにおいてスルホネート基による増粘効果から、重合度を高くすることができず、溶融紡糸にて得られる繊維の強度が著しく低下し、さらに紡糸操業性が著しく悪化するという問題がある。
【0004】
またイオン結合性分子間力の小さいカチオン可染モノマーを共重合する技術が開示されている(例えば特許文献3、4参照)。イオン結合性分子間力の小さいカチオン可染モノマーとしては、5−スルホイソフタル酸テトラブチルホスホネートなどが例示されているが、これらのカチオン可染モノマー共重合させた場合熱安定性が悪く、重合反応途中で熱分解が進行し、高分子量化させることが困難であった。さらに溶融紡糸する際の熱履歴による分解が大きく、結果として得られる糸の強度が弱くなるという欠点を有していた。
【0005】
他の方法として、スルホイソフタル酸の金属塩に加え、アジピン酸、セバシン酸などの直鎖炭化水素のジカルボン酸を共重合する方法、あるいはジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノールのようなグリコール成分を共重合する方法が提案されている。(例えば特許文献5、6参照)
しかしながら、これらいずれの方法でも得られたポリエーテルエステルエラストマーを溶融紡糸して得られるカチオン可染性繊維は強度が低くなり、強いては得られる布帛の引き裂き強度が低下する、更には染色堅牢度が低いなどの問題があった。
【0006】
また、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を共重合したポリエステルを鞘部に配した複合繊維が考えられる(例えば特許文献7参照)。しかしながら、鞘部を構成する共重合ポリエステル中のスルホイソフタル酸成分の共重合量には、前述と同様の理由で限界があり、十分な染着性を得ることが困難であること、並びに複合繊維とすることで紡糸工程での設備コストが増加、または繊維断面形状などに制約が生じるなどの課題がある。
この問題を解決するため、後加工剤を用いて繊維を被覆する方法が提案されているが、風合いが硬くなり十分なものではなかった。(特許文献8)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭34−10497号公報
【特許文献2】特開昭62−89725号公報
【特許文献3】特開平1−162822号公報
【特許文献4】特開2006−176628号公報
【特許文献5】特開2002−284863号公報
【特許文献6】特開2006−200064号公報
【特許文献7】特開平7−126920号公報
【特許文献8】特開2003−003372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ストレッチバック性に優れ、且つ鮮明な色に染色でき、かつ堅牢度が良好であるポリエステル繊維を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明によれば、
芯鞘型ポリエステル複合繊維であって、下記要件を満足することを特徴とする常圧カチオン可染性芯鞘複合繊維。
a)芯成分ポリエステルがポリエーテルエステルエラストマーであること。
b)鞘成分のポリエステルが、主たる繰返し単位がエチレンテレフタレートより構成される共重合ポリエステルであり、該共重合ポリエステルを構成する酸成分中にスルホイソフタル酸の金属塩(A)及び下記式(1)で表される化合物(B)を下記数式(1)及び(2)を同時に満足する条件で含有すること。
c)芯成分/鞘成分比率が重量比で30/70〜70/30の範囲であること。
【化1】

[上記式中、Rは水素原子又は炭素数1〜10個のアルキル基を表し、Xは4級ホスホニウムイオン又は4級アンモニウムイオンを表す。]
3.0≦A+B≦5.0 数式(1)
0.3≦B/(A+B)≦0.7 数式(2)
[上記数式中、Aは共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準としたスルホイソフタル酸の金属塩(A)の共重合量(モル%)を、Bは共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準とした上記式(1)で表される化合物(B)の共重合量(モル%)を表す。]
が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来にない鮮明性かつ高い堅牢度を有するストレッチバック性ポリエステル繊維を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の芯鞘型ポリエステル複合繊維は芯成分にポリエーテルエステルエラストマー、鞘成分に深色性ポリエステルを配した構造のものを指しており、その芯鞘比率は30/70〜70/30が強度、堅牢度、染色性の観点から好ましい。
【0012】
(芯成分ポリエーテルエステルエラストマー)
本発明で芯成分に使用するポリエーテルエステルエラストマーは、ハードセグメントがテレフタル酸分とブチレングリコール成分とからなるポリブチレンテレフタレートからなり、ソフトセグメントがポリオキシブチレングリコールからなるものを主たる対象とする。
【0013】
ここでポリブチレンテレフタレートの酸成分の一部、通常30モル%以下をテレフタル酸成分以外のジカルボン酸成分やオキシカルボン酸成分で置き換えても及び/又はグリコール成分の一部、通常30モル%以下をブチレングリコール成分以外のジオキシ成分で置き換えたポリブチレンテレフタレートであってもよい。繊維化後にアルカリ減量処理するのでポリエーテルエステルエラストマーは非水膨潤性であることが望ましい。
また、ポリオキシブチレングリコールは、その構成単位の30%以下をブチレングリコール成分以外のグリコール成分で置き換えたポリエーテルであってもよい。
【0014】
本発明に使用されるポリエーテルエステルエラストマーを製造するには任意の方法が採用される。通常テレフタル酸又はテレフタル酸ジメチルとブチレングリコールとポリオキシブチレングリコールとを加熱反応させるか、又は予めブチレンテレフタレートを合成し、これとポリオキシブチレングリコールとを加熱反応させる方法が採用される。この際、必要に応じて任意の触媒を使用でき、また各種安定剤、紫外線吸収剤、増粘分岐剤、艶消剤、着色剤、その他各種改質剤なども必要に応じて任意に使用できる。
【0015】
(鞘成分ポリエステル)
本発明に使用される鞘成分ポリエステルは、テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体と、エチレングリコール成分とを重縮合反応せしめて得られるエチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とする共重合ポリエステルである。さらに好ましくは、その共重合成分がスルホイソフタル酸の金属塩(A)及び下記式(1)で表される化合物(B)を下記数式(1)及び(2)を同時に満足する条件で含有する共重合ポリエステルである。該共重合ポリエステルのガラス転移温度が70〜85℃の範囲にあり、且つ得られる共重合ポリエステルの固有粘度が0.55〜1.00dL/gの範囲にあることがより好ましい共重合ポリエステルである。
【0016】
【化2】

[上記式中、Rは水素原子又は炭素数1〜10個のアルキル基を表し、Xは4級ホスホニウムイオン又は4級アンモニウムイオンを表す]
3.0≦A+B≦5.0 (1)
0.3≦B/(A+B)≦0.7 (2)
[上記数式中、Aは共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準としたスルホイソフタル酸の金属塩(A)の共重合量(モル%)を、Bは共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準とした上記式(1)で表される化合物(B)の共重合量(モル%)を表す。]
【0017】
ここでテレフタル酸のエステル形成性誘導体とは、テレフタル酸の、ジメチルエステル、ジエチルエステル、ジプロピルエステル、ジブチルエステル、ジヘキシルエステル、ジオクチルエステル、ジデシルエステル、若しくはジフェニルエステル又はテレフタル酸ジクロライド、若しくはテレフタル酸ジブロマイドを挙げる事ができるが、これらの中でもテレフタル酸ジメチルエステルが好ましい。
【0018】
(スルホイソフタル酸の金属塩(A))
本発明で使用されるスルホイソフタル酸の金属塩(A)としては、5−スルホイソフタル酸のアルカリ金属塩(リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩、セシウム塩)を例示することができる。必要に応じて5−スルホイソフタル酸のマグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩を併用しても良い。また、これらのエステル形成性誘導体も好ましく例示される。エステル形成性誘導体としては5−スルホイソフタル酸金属塩のジメチルエステル、ジエチルエステル、ジプロピルエステル、ジブチルエステル、ジヘキシルエステル、ジオクチルエステル、ジデシルエステル、ジフェニルエステル、又は5−スルホイソフタル酸金属塩の酸ハロゲン化物を挙げる事ができる。これらの中でも5−スルホイソフタル酸金属塩のジメチルエステルが好ましい。これらの化合物群の中では、熱安定性、コストなどの面から、5−スルホイソフタル酸のアルカリ金属塩が好ましく例示され、特に5−ナトリウムスルホイソフタル酸又はそのジメチルエステルである5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルが特に好ましく例示される。これらの条件を満たす化合物である場合に、ポリエステル繊維とした場合の充分な常圧カチオン可染性と充分な繊維強度の両立が可能となる。
【0019】
(化合物(B))
また、上記式(1)で表される化合物(B)としては、5−スルホイソフタル酸若しくはその低級アルキルエステルの4級ホスホニウム塩又は5−スルホイソフタル酸若しくはその低級アルキルエステルの4級アンモニウム塩を挙げることができる。4級ホスホニウム塩、4級アンモニウム塩としては、リン原子又は窒素原子にアルキル基、ベンジル基又はフェニル基が結合した4級ホスホニウム塩、4級アンモニウム塩が好ましく、特に4級ホスホニウム塩であることが好ましい。また、リン原子又は窒素原子に結合している4つの置換基は同一であっても異なっていても良い。上記式(1)で表される化合物の具体例としては、5−スルホイソフタル酸テトラメチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸テトラエチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸テトラブチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸エチルトリブチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸ベンジルトリブチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸フェニルトリブチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸テトラフェニルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸ブチルトリフェニルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸ベンジルトリフェニルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸テトラメチルアンモニウム塩、5−スルホイソフタル酸テトラエチルアンモニウム塩、5−スルホイソフタル酸テトラブチルアンモニウム塩、5−スルホイソフタル酸テトラフェニルアンモニウム塩、5−スルホイソフタル酸フェニルトリブチルアンモニウム塩、5−スルホイソフタル酸ベンジルトリメチルアンモニウム塩、又は5−スルホイソフタル酸ベンジルトリブチルアンモニウム塩を挙げることができる。あるいはこれらイソフタル酸誘導体のホスホニウム塩、アンモニウム塩のジメチルエステル、ジエチルエステル、ジプロプルエステル、ジブチルエステル、ジへキシルエステル、ジオクチルエステル、又はジデシルエステルが好ましく例示される。これらのイソフタル酸誘導体の中でも、5−スルホイソフタル酸ジメチルテトラブチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸ジメチルベンジルトリブチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸ジメチルテトラフェニルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸ジメチルテトラメチルアンモニウム塩、5−スルホイソフタル酸ジメチルテトラエチルアンモニウム塩、5−スルホイソフタル酸ジメチルテトラブチルアンモニウム塩、5−スルホイソフタル酸ジメチルベンジルトリメチルアンモニウム塩がより好ましく例示される。これらの条件を満たす化合物である場合に、ポリエステル繊維とした場合の充分な常圧カチオン可染性と充分な繊維強度の両立が可能となる。
【0020】
(数式(1))
本発明において、ポリエステルに共重合させる上記のスルホイソフタル酸の金属塩(A)と上記の化合物(B)の共重合量の合計は共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準として、(A)成分と(B)成分の和A+Bが3.0〜5.0モル%の範囲である必要がある。3.0モル%より少ないと、常圧下でのカチオン染色条件では十分な染着を得ることができない。一方、5.0モル%より多くなると、得られるポリエステル糸の強度が低下するため実用に適さない。さらに染料を過剰に消費するため、コスト面でも不利である。好ましくは3.2〜4.8モル%であり、より好ましくは3.3〜4.7モル%である。
【0021】
(数式(2))
また、スルホイソフタル酸の金属塩(A)と化合物(B)の成分比率は上記のモル%の値にて、B/(A+B)が0.3〜0.7の範囲にある必要がある。成分比率が0.3未満、つまり成分(A)の比率が多い状態では、スルホイソフタル酸金属塩による増粘効果により、得られる共重合ポリエステルの重合度を上げることが困難になる。一方、成分比率が0.7を超えると、つまり化合物(B)の割合が多い状態では、重縮合反応速度が遅くなり、さらに化合物(B)の比率が多くなると熱分解反応が進むため重合度を上げることが困難となる。さらに、化合物(B)の比率が多くなると共重合ポリエステルの熱安定性が悪化し、溶融紡糸段階で再溶融した際の熱分解反応による分子量の低下が大きくなるため、得られるポリエステル糸の強度が低下するため好ましくない。好ましくはこの成分比率は0.32〜0.65であり、より好ましくは0.35〜0.60である。
【0022】
スルホイソフタル酸の金属塩(A)をポリエステルに共重合することにより常圧カチオン可染性は付与する事ができるが、スルホン酸金属塩基間のイオン結合に由来すると思われる共重合ポリエステルの溶融粘度の増粘効果のため、従来共重合ポリエステルを高重合度化することが困難であった。そのため十分に高い重合度、高い固有粘度を有する共重合ポリエステルが得られず、その高い固有粘度でない共重合ポリエステルから得られるポリエステル繊維は、繊維強度が著しく低下する問題があった。一方その問題を解消するためにスルホイソフタル酸のテトラアルキルアンモニウム塩又はスルホイソフタル酸のテトラアルキルホスホニウム塩、即ち化合物(B)をポリエステルに共重合することが開示されている。しかし、当該化合物は重縮合反応中に熱分解を起こしやすいため、共重合量を上げようとすると熱分解反応が進みやすい問題があり、ポリエステル繊維強度を高い値にすることが依然として困難であった。本発明の共重合ポリエステルにおいては、これらのスルホイソフタル酸の金属塩(A)と化合物(B)を併用し、双方の化合物の共重合量、共重合比率を特定の範囲に設定することによって、充分な常圧カチオン染料による染色性と高い繊維強度を両立させ、且つ熱セット性が良好で捲縮を固定しやすいと言った物性をも同時に有する事を見出し本発明に至ったものである。
【0023】
(鞘成分ポリエステルの製造方法)
本発明における鞘成分ポリエステルの製造法は特に限定されず、スルホイソフタル酸の金属塩(A)(以下化合物Aと略称することがある。)及び化合物(B)を上記の数式(1)、(2)を同時に満足する条件を満たすように用いることに留意する他は、通常知られているポリエステルの製造方法が用いられる。すなわち、初めにテレフタル酸とエチレングリコールを直接エステル化反応させて低重合体を製造する、あるいはテレフタル酸ジメチルに代表されるテレフタル酸のエステル形成性誘導体とエチレングリコールとをエステル交換反応させて低重合体を製造する。次いでこの反応生成物である低重合体を重縮合触媒の存在下で減圧加熱して所定の重合度になるまで重縮合反応させることにより製造することができる。スルホイソフタル酸の金属塩(A)及び化合物(B)をポリエステルに共重合する方法についても通常知られている製造方法を用いる事ができる。これらの化合物の反応工程への添加時期は、エステル交換反応又はエステル化反応の開始当初から重縮合反応の開始までの任意の時期に添加することができる。熱分解を起こしやすい化合物(B)についてはエステル化反応又はエステル交換反応が終了し、重縮合反応が開始するまでに添加することが好ましく選択できる。
【0024】
またエステル交換反応時の触媒についても通常のエステル交換反応を行う際に用いられる触媒化合物を用いる事ができる。重縮合触媒についても通常用いられるアンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、チタン化合物を用いる事ができる。またチタン化合物と、芳香族多価カルボン酸若しくは芳香族多価カルボン酸の無水物との反応生成物、又はチタン化合物とリン化合物の反応生成物を用いても良い。
【0025】
(その他添加剤)
また、本発明の芯鞘型ポリエステル複合繊維は、必要に応じて少量の添加剤、例えば酸化防止剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、遮光剤又は艶消し剤などを含んでいても良い。特に酸化防止剤、艶消し剤などは特に好ましく添加される。
【0026】
(製糸方法)
本発明の芯鞘型ポリエステル複合繊維の製糸方法は、特に制限は無く、鞘成分ポリエステルと、芯成分にポリエーテルエステルエラストマーを用いることに留意する他は、通常知られている芯鞘型複合繊維の製造方法が用いられる。
【0027】
すなわち、乾燥した鞘成分ポリエステルを270℃〜300℃、芯成分ポリエーテルエステルエラストマーを250〜290℃の範囲で公知の複合紡糸装置を用い溶融紡糸して製造することが好ましく、溶融紡糸を行うときの紡糸速度は400〜5000m/分で紡糸することが好ましい。紡糸速度がこの範囲にあると、得られる芯鞘型複合繊維の強度も十分なものであると共に、安定して巻取りを行うこともできる。さらに、上述の方法で得られた未延伸糸若しくは部分延伸糸を、延伸工程にて1.2倍〜6.0倍程度の範囲で延伸することが好ましい。この延伸工程は未延伸ポリエステル繊維を一旦巻き取ってから行ってもよく、一旦巻き取ることなく連続的に行ってもよい。また、紡糸時に使用する紡糸口金の形状については特に限定する必要はないが、芯鞘形成性の観点から、好ましくは丸断面である。
【0028】
本発明の芯鞘型ポリエステル複合繊維においては、単糸繊度が7dtex以下で束ねられた単糸の数が24本以上、且つ強度が1.0cN/dtex以上、熱水収縮率が22%以下とすることが好ましい。ここで熱水とは98℃、若しくは98℃〜100℃の水のことを表す。より好ましくは強度が1.5cN/dtex以上であることである。単糸繊度が7dtexを超える場合は風合いが硬くなり好ましくなく、単糸数が24本未満であれば布帛のボリューム感が低下し好ましくない。
【実施例】
【0029】
(1)固有粘度
オルソ−クロルフェノールに溶解し、ウベローデ粘度管を用い、35℃で測定した。
(2)延伸糸の強度、伸度
JIS L―1013―75に準じて測定した。
(3)染色性
得られたポリエステル糸を常法により布帛(筒編み)とし、下記の条件で染色し、以下の方法で明度L値及び彩度C値を測定した。
染色条件 染色温度 100℃
染色時間 60分
染料 Kayalon Polyester Rubine
BL−S 200
染料濃度 2%owf
浴比 1:50
浴pH 4.5
マクベス カラーアイ(Macbeth COLOR−EYE)モデルM−2020PLを使用し、JISZ8729−1980に規定された、国際照明委員会(CIE)推奨のL*a*b*系色表示により表される明度L*値及び彩度C*値を測定した。L*をもって染色性を評価した。
【0030】
[実施例1]
芯成分に用いるポリエーテルエステルエラストマーの製造法は以下の通りである。テレフタル酸ジメチル230部、テトラメチレングリコール159部、数平均分子量2000のポリオキシブチレングリコール105部、ペンタエリスリトール0.11部、チタニウムテトラブトキシド0.26部を反応釜へ入れ、内温170℃でエステル交換反応を行い、理論量の65%のメタノールを留出させた後、内部を200〜245℃に昇温し、弱真空下で60分、次いで高真空下で200分反応させた。ここで安定剤としてイルガノックス1010(チバガイギー社製)3.5部、チヌビン327(チバガイギー社製)0.21部を添加し、20分撹拌後反応を終了させた。
このようにして得たポリマーはソフトセグメント成分が全ポリマー重量に対し30重量%で、還元比粘度1.811、融点210℃であった。
【0031】
鞘成分に用いたポリエステルの製造法は以下の通りである。テレフタル酸ジメチル100重量部、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル2.9重量部(1.75mol%)とエチレングリコール60重量部の混合物に、酢酸マンガン0.03重量部、酢酸ナトリウム三水和物0.12重量部を添加し、140℃から240℃まで徐々に昇温しつつ、反応の結果生成するメタノールを反応器外に留出させながらエステル交換反応を行った。その後、正リン酸0.03重量部を添加し、エステル交換反応を終了させた。
その後、エステル交換反応の反応生成物に三酸化アンチモン0.05重量部、5−スルホイソフタル酸テトラブチルホスホニウム4.7重量部(1.75mol%)、水酸化テトラエチルアンモニウム0.3重量部及びトリエチルアミン0.003重量部を添加して重縮合槽に移した。重縮合槽の内部を285℃まで昇温し、重縮合槽の内部を30Pa以下の高真空に保って重縮合反応を行った。重縮合槽の攪拌機電力の値が所定電力に到達した段階若しくは所定時間を経過した段階で重縮合反応を終了させ、常法に従い得られた共重合ポリエステルをチップ化した。
【0032】
上記の鞘成分ポリエステルと、芯成分であるエラストマーのペレットとを、それぞれ280℃、260℃で溶融し、前者を鞘成分、後者を芯成分となるように、芯鞘型複合繊維用口金(ノズル孔直径(D)0.3mm×ノズル長(L)0.6mm、孔数15ホール)に導入し、芯成分:鞘成分の面積比率は20:80、トータル吐出量48g/minとなるよう押し出し、吐出糸条を3000m/minで引き取り未延伸糸を得た。得られた未延伸糸を、65℃で2.37倍に延伸し、さらに180℃で熱処理することにより84dtex/15filの芯鞘ポリエステル複合繊維を得た。
【0033】
[実施例2〜5、比較例1〜2、4]
実施例1において、鞘成分ポリエステルのAとBの比率を表1のように変化させた以外は実施例1と同様に実施した。評価結果の詳細を表1に示した。
【0034】
[比較例3]
実施例1で芯成分ポリエステルの代わりに鞘成分ポリエステルを用いた以外は同様に行なった。結果を表1に示した。
【0035】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の芯鞘型複合繊維はストレッチバック性に富み、また鮮明性で高発色性に優れるのでスポーツ衣料、紳士婦人衣料、その他幅広い用途に適用出来るものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯鞘型ポリエステル複合繊維であって、下記要件を満足することを特徴とする常圧カチオン可染性芯鞘複合繊維。
a)芯成分ポリエステルがポリエーテルエステルエラストマーである。
b)鞘成分のポリエステルが、主たる繰返し単位がエチレンテレフタレートより構成される共重合ポリエステルであり、該共重合ポリエステルを構成する酸成分中にスルホイソフタル酸の金属塩(A)及び下記式(1)で表される化合物(B)を下記数式(1)及び(2)を同時に満足する条件で含有すること。
c)芯成分/鞘成分比率が重量比で30/70〜70/30の範囲であること。
【化1】

[上記式中、Rは水素原子又は炭素数1〜10個のアルキル基を表し、Xは4級ホスホニウムイオン又は4級アンモニウムイオンを表す。]
3.0≦A+B≦5.0 数式(1)
0.3≦B/(A+B)≦0.7 数式(2)
[上記数式中、Aは共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準としたスルホイソフタル酸の金属塩(A)の共重合量(モル%)を、Bは共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準とした上記式(1)で表される化合物(B)の共重合量(モル%)を表す。]

【公開番号】特開2011−21288(P2011−21288A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166757(P2009−166757)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】