説明

高純度アルカリ金属炭酸塩水溶液の製造方法

【課題】粗アルカリ金属炭酸塩水溶液中に含有される重金属分を除去し、精製することができる高純度アルカリ金属炭酸塩水溶液の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の高純度アルカリ金属炭酸塩水溶液の製造方法では、官能基としてアミジノ基を有するキレート樹脂を用いて、粗アルカリ金属炭酸塩水溶液中の重金属を除去する。重金属としては、鉄、銅、ニッケル、鉛、アルミニウム、マンガン、チタン、コバルト、亜鉛、カドミウムのうちの少なくとも1種が挙げられる。粗アルカリ金属炭酸塩水溶液に含まれるアルカリ金属炭酸塩の濃度は、粗アルカリ金属炭酸塩水溶液全体を100質量%とした場合に、15〜60質量%であり、重金属は、5000ng/g以下であることが好ましい。高純度アルカリ金属炭酸塩水溶液に含まれる重金属は500ng/g以下とすることができる。アミジノ基を有するキレート樹脂は0.1〜20質量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粗アルカリ金属炭酸塩水溶液中の重金属分を効果的に除去することができる高純度アルカリ金属炭酸塩水溶液の製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、官能基としてアミジノ基を有するキレート樹脂を用いて、粗アルカリ金属炭酸塩水溶液中の重金属分を効果的に除去することができる高純度アルカリ金属炭酸塩水溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェーハやカラーフィルター等の電子部品の製造においては、ウェーハ表面のエッチングによる平面化、レジスト材の現像と除去、あるいは表面の洗浄等を目的として水酸化アルカリとアルカリ金属炭酸塩の水溶液が使用されている。これらの電子部品の製造に使用されるアルカリ金属炭酸塩は、半導体ウェーハの劣化、半導体デバイスの特性の低下等を防ぐため、鉄や銅等の金属不純物を含まない高純度のアルカリ金属炭酸塩であることが要求されている。また、これらの用途では、使用中にアルカリ金属炭酸塩が適宜追加されるが、追加時に希薄溶液を用いると全体の水分が多くなり組成が大きく変化してしまうため、通常、濃厚溶液が追加される。また、この他、医療用や化粧品等においても、金属不純物等を含まない高純度の薬剤の要求が高まっている。
【0003】
高純度のアルカリ金属炭酸塩水溶液の製法としては、例えば、イオン交換膜により水酸化アルカリを精製した後、二酸化炭素と反応させる方法が知られている。この際に使用する高純度水酸化アルカリの製造方法としては、陽イオン交換膜により陽極室と陰極室とに区画された電解槽を用いて不純物濃度の低いアルカリ溶液を生成させる方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。この他、高純度水酸化アルカリの製造方法としては、活性炭により水酸化カリウム中のニッケルを除去する方法(例えば、特許文献2参照。)、活性炭により水酸化ナトリウム中の鉄やニッケルを除去する方法(例えば、特許文献3参照。)、オキシン基等の特定の構造を有するキレート性官能基を有する樹脂により、水酸化アルカリ中の鉄、クロム、ニッケルを除去する方法(例えば、特許文献4参照。)、イオン交換樹脂、キレート樹脂及び活性炭を組み合わせて使用し、重金属を除去する方法(例えば、特許文献5参照。)が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平09−078276号公報
【特許文献2】特開2000−203828号公報
【特許文献3】特開2005−001955号公報
【特許文献4】特開平01−027648号公報
【特許文献5】国際公開WO2007/148552号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載された方法では、精製精度は十分に高いものの設備化に比較的手間がかかり、何処でも簡単に高純度に精製された水酸化アルカリが得られない状況である。また、特許文献2〜4の方法では、比較的簡単な設備で対応でき、高度な精製が可能であるが、除去することができる金属種が限られており、更に、設備等から水溶液に一部溶出する金属種もあり、この溶出を防ぐための前処理に労力がかかる場合もある。また、特許文献5のように、イオン交換樹脂、キレート樹脂及び活性炭を組み合わせても、重金属、特に鉄やアルミニウムの除去は不十分である。このように、高純度水酸化アルカリを容易に得ることができず、従って、高純度アルカリ金属炭酸塩水溶液の製造も容易ではなかった。
【0006】
本発明は、上記の従来の状況に鑑みてなされたものであり、アルカリ金属炭酸塩水溶液を高濃度の状態のままで、この中に含有される重金属分を除去し、精製することができる高純度アルカリ金属炭酸塩水溶液の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
アルカリ金属炭酸塩水溶液から重金属分の除去を鋭意検討した結果、官能基としてアミジノ基を有するキレート樹脂により粗アルカリ金属炭酸塩水溶液中の重金属分を十分に除去できることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は具体的には以下の通りである。
1.官能基としてアミジノ基を有するキレート樹脂を用いて、粗アルカリ金属炭酸塩水溶液中の重金属を除去することにより、高純度アルカリ金属炭酸塩水溶液を得ることを特徴とする高純度アルカリ金属炭酸塩水溶液の製造方法。
2.前記キレート樹脂が下記式(1)で表されるキレート樹脂である上記1.に記載の高純度アルカリ金属炭酸塩水溶液の製造方法。
A−C(=NR)−NHR (1)
[式(1)において、Aはスチレン系樹脂であり、Rは水素原子、ヒドロキシル基又は炭素数1〜3のアルキル基であり、Rは水素原子、ヒドロキシル基又は炭素数1〜3のアルキル基である。]
3.前記重金属が、鉄、銅、ニッケル、鉛、アルミニウム、マンガン、チタン、コバルト、亜鉛及びカドミウムのうちの少なくとも1種である上記1.又は2.に記載の高純度アルカリ金属炭酸塩水溶液の製造方法。
4.前記粗アルカリ金属炭酸塩水溶液の濃度が15〜60重量%である上記1.乃至3.のうちのいずれか1項に記載の高純度アルカリ金属炭酸塩水溶液の製造方法。
5.前記粗アルカリ金属炭酸塩水溶液に含まれる前記重金属は、5000ng/g以下である上記1.乃至4.のうちのいずれか1項に記載の高純度アルカリ金属炭酸塩水溶液の製造方法。
6.前記高純度アルカリ金属炭酸塩水溶液に含まれる重金属は、500ng/g以下である上記1.乃至5.のうちのいずれか1項に記載の高純度アルカリ金属炭酸塩水溶液の製造方法。
7.前記アルカリ金属炭酸塩水溶液全体を100質量%とした場合に、前記キレート樹脂は0.1〜20質量%である上記1.乃至6.のうちのいずれか1項に記載の高純度アルカリ金属炭酸塩水溶液の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の高純度アルカリ金属炭酸塩水溶液の製造方法によれば、官能基としてアミジノ基を有するキレート樹脂を用いて粗アルカリ金属炭酸塩水溶液中の重金属を除去するものであるため、重金属を含む粗アルカリ金属炭酸塩水溶液から効率よく重金属を捕捉し、除去することができる。
アミジノ基を有するキレート樹脂が前記式(1)で表されるキレート樹脂であれば、さらに効率よく高純度アルカリ金属炭酸塩水溶液を製造することができる。
重金属が、鉄、銅、ニッケル、鉛、アルミニウム、マンガン、チタン、コバルト、亜鉛及びカドミウムのうちの少なくとも1種である場合、これらをより効率よく除去することができる。これらの金属は、特に、半導体ウェーハの劣化、半導体デバイスの特性の低下等をもたらすため、除去する効果が大きい。
粗アルカリ金属炭酸塩水溶液に含まれるアルカリ金属炭酸塩の濃度が、15〜60質量%であれば、高濃度であるため、例えば、研磨剤等に添加することにより、研磨剤等の濃度の低下を抑制しつつ、その作用効果を維持することができる。
粗アルカリ金属炭酸塩水溶液に含まれる重金属が、5000ng/g以下であれば、効率よく重金属を除去することができ、より高純度のアルカリ金属炭酸塩水溶液を製造することができる。
本発明の高純度アルカリ金属炭酸塩水溶液の製造方法であれば、重金属を500ng/g以下にまで低減させることができ、極めて高純度のアルカリ金属炭酸塩水溶液を製造することができる。
粗アルカリ金属炭酸塩水溶液全体を100質量%とした場合に、キレート樹脂が0.1〜20質量%であれば、効率よく高純度アルカリ金属炭酸塩水溶液を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の高純度アルカリ金属炭酸塩水溶液の製造方法は、官能基としてアミジノ基を有するキレート樹脂(以下、「キレート樹脂」ともいう。)を用いて、粗アルカリ金属炭酸塩水溶液中の重金属を除去することを特徴とする。
【0010】
[1]アミジノ基を有するキレート樹脂
前記「アミジノ基を有するキレート樹脂」は、金属イオンに対する選択性がイオン交換樹脂よりもはるかに大きく、更に、キレート樹脂が有する官能基であるアミジノ基により重金属が捕捉されて強固なキレートが形成されるため、重金属が再度溶出することがなく、効率的に重金属を除去することが可能である。そのため、重金属を数ng/g以下にまで除去することができる。また、アミジノ基を有するキレート樹脂が前記式(1)で表されるキレート樹脂である場合は、更に効率よく高純度アルカリ金属炭酸塩水溶液を製造することができる。
【0011】
アミジノ基を有するキレート樹脂としては、官能基がアミドオキシム基[RC(=NOH)NH]であるキレート樹脂であるMuromac XMS−5713(商品名、ムロマチテクノス社製)等を例示することができる。
【0012】
重金属の除去をバッチ式で行う場合は、アミジノ基を有するキレート樹脂の添加量は、粗アルカリ金属炭酸塩水溶液全体を100質量%とした場合に、0.1〜20質量%であることが好ましく、0.3〜10質量%であることがより好ましく、1〜10質量%であることが更に好ましい。0.1質量%未満では、十分な重金属除去の効果が得られず、20質量%を超えて添加しても、重金属除去の効果はそれ以上大きく向上することはない。但し、粗アルカリ金属炭酸塩水溶液中の重金属濃度により適宜調整することが好ましい。
【0013】
重金属の除去を連続式で行う場合は、容器中の溶液を入れ替えることなく作業することができるため、バッチ式より作業効率が高く好ましい。連続式で行う場合、例えば、充填塔を用いて重金属を除去させるときは、粗アルカリ金属炭酸塩水溶液の単位時間当たりの流量である空塔速度(以下、「SV」と略記する。)で表示すると、SV=0.1〜5[1/時間]、好ましくはSV=0.2〜3[1/時間]、より好ましくはSV=0.3〜2[1/時間]でキレート樹脂に接触させることによって、より効率よく重金属を除去することができる。また、充填塔が破過に達する前に充填したキレート樹脂を入れ替えることにより、連続して重金属を除去する時間を延ばすことができる。入れ替えるキレート樹脂の量は入れ替え前に処理した粗アルカリ金属炭酸塩水溶液を100質量%とした場合に、0.1〜20質量%であることが好ましく、0.3〜10質量%であることがより好ましく、0.3〜1質量%であることが更に好ましい。キレート樹脂は繰り返し使用し、除去効果に応じて一括入れ替え、若しくは逐次入れ替えをすればよく、更には後述の再生により重金属が除去された状態に回復させ、維持させることができる。
【0014】
重金属類が吸着したキレート樹脂は、超純水等による洗浄や逆洗浄操作などの後、更には塩酸や硝酸等の酸で処理した後、水で洗浄する等の、公知の脱重金属操作による再生方法が適用し、再生させることができる。そして、このようにして再生したキレート樹脂は、本発明の高純度アルカリ金属炭酸塩水溶液の製造に再使用することができる。
【0015】
[2]粗アルカリ金属炭酸塩水溶液
上記「粗アルカリ金属炭酸塩水溶液」とは、重金属を除去する前のアルカリ金属炭酸塩水溶液である。
アルカリ金属炭酸塩としては、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム及び炭酸カリウムが好ましい種類として挙げられ、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム及び炭酸カリウムが更に好ましく、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムが特に好ましく、効率よく重金属除去処理ができる炭酸カリウムが最も好ましい。
【0016】
使用する粗アルカリ金属炭酸塩水溶液は、水酸化アルカリ金属水溶液に炭酸を吹き込んで炭酸アルカリ金属水溶液や炭酸水素アルカリ金属水溶液にしたもの、又は水酸化アルカリ金属と炭酸水素アルカリ金属を水溶液で反応させ、炭酸アルカリ金属水溶液にしたもの、更には炭酸水素アルカリ金属を焼成してアルカリ金属炭酸塩にした後、これを水溶液にしたもの等が挙げられる。
【0017】
粗アルカリ金属炭酸塩水溶液に含まれるアルカリ金属炭酸塩の濃度は、どのような濃度でも重金属低減効果が望めるが、例えば、研磨剤等に添加して使用する場合、研磨剤等の濃度が低下しないように、高濃度であることが好ましい。また、輸送効率、保管効率や、その後の取り扱いで濃縮する等の余計な操作を必要としないよう、高濃度であることが好ましい。
【0018】
粗アルカリ金属炭酸塩水溶液中のアルカリ金属炭酸塩の濃度は、炭酸カリウムであれば、粗アルカリ金属炭酸塩水溶液全体を100質量%とした場合に、炭酸カリウム20〜60質量%であることが好ましい。20質量%未満では、研磨剤等として使用したときに十分な作用効果が得られず、60質量%を超えると、常温(20〜30℃)では溶解度を超え、析出するおそれがあるからである。この濃度は25〜57質量%であることが更に好ましく、30〜54質量%であることが特に好ましく、40〜50質量%であることが最も好ましい。
【0019】
炭酸水素カリウム及び炭酸ナトリウムであれば、粗アルカリ金属炭酸塩水溶液全体を100質量%とした場合に、炭酸水素カリウム及び炭酸ナトリウム15〜25質量%であることが好ましい。15質量%未満では、研磨剤等として使用したときに十分な作用効果が得られず、25質量%を超えると、常温では溶解度を超え、析出するおそれがあるからである。この濃度は18〜22質量%であることが更に好ましい。
【0020】
炭酸水素ナトリウムであれば、粗アルカリ金属炭酸塩水溶液全体を100質量%とした場合に、炭酸水素ナトリウム5〜10質量%であることが好ましい。10質量%を超えると、溶解度を超え、析出するおそれがあるからである。この濃度は8〜10質量%であることが更に好ましい。
【0021】
[3]重金属
前記「重金属」とは、粗アルカリ金属炭酸塩水溶液に含まれる不純物としての重金属である。
粗アルカリ金属炭酸塩水溶液に含まれる不純物としての重金属としては、例えば、鉄、銅、ニッケル、鉛、アルミニウム、マンガン、チタン、コバルト、亜鉛、カドミウム、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム)、バナジウム、モリブデン、クロム、ジルコニウム、銀、錫、水銀、アンチモン、ビスマス、ガリウム、タリウム等が挙げられ、これらを極力少なくすることが望ましい。
【0022】
更には、特定の重金属においては少量の含有でも製品の品質に対して影響が大きい。この特定の重金属とは、鉄、銅、ニッケル、鉛、アルミニウム、マンガン、チタン、コバルト、亜鉛、カドミウムであり、これらは、より低レベルまで低減できることが好ましい。特に、半導体ウェーハやカラーフィルター等の電子部品の製造においては、半導体ウェーハの劣化、半導体デバイスの特性の低下等を防ぐため、これらの特定の重金属の含有量が極力少ない高純度の水溶液であることが要求されている。
【0023】
重金属が含有される過程としては、アルカリ金属炭酸塩水溶液の製造工程において、原材料に元々含まれている場合、重金属性の製造容器から溶出する場合、製造ラインのパイプ等から溶出する場合、及び製造したアルカリ金属炭酸塩水溶液を保存する金属製容器から溶出する場合等が考えられる。例えば、ステンレス製の容器により製造又は保存すれば、鉄、ニッケル、クロム等の金属種が溶出することがある。
【0024】
[4]除去
前記「除去」とは、粗アルカリ金属炭酸塩水溶液から重金属を取り除き、高純度のアルカリ金属炭酸塩水溶液を得る過程をいう。この除去は、含有されている重金属を実質的に完全に取り除く場合のみならず、不完全に取り除く場合をも意味する。
粗アルカリ金属炭酸塩水溶液に混入していても差し支えない重金属の濃度は、除去操作後の高純度アルカリ金属炭酸塩水溶液に残存する重金属の濃度により異なる。例えば、不純物除去後の濃度が30ng/g以下である場合、除去前に混入していても差し支えない濃度として、各金属とも5000ng/g以下であることが好ましく、1000ng/g以下であることがより好ましく、500ng/g以下であることが特に好ましい。
【0025】
本発明の高純度アルカリ金属炭酸塩水溶液の製造方法において、重金属を除去するときの操作温度は0℃から60℃程度であればよく、この温度範囲であれば、粗アルカリ金属炭酸塩水溶液中の重金属を効率よく除去することができるので好ましい。0℃未満では、粗アルカリ金属炭酸塩水溶液中のアルカリ金属炭酸塩の溶解度が減少し、析出しやすくなり、キレート樹脂に析出物が詰まりやすく、重金属の除去効率の低下を招く。一方、60℃を超えると、加熱を継続する必要があり、経済的な面で不利である。好ましい操作温度は5℃から50℃であり、より好ましくは10℃から45℃である。
【0026】
除去操作は、より具体的には、例えば、粗アルカリ金属炭酸塩水溶液をカラムに詰めたキレート樹脂と、0℃から60℃の間の温度で、連続的に接触させて重金属を除去し、高純度アルカリ金属炭酸塩水溶液を製造することができる。また、粗アルカリ金属炭酸塩水溶液とキレート樹脂とをバッチ式で0℃から60℃の間の温度で、例えば、2時間、接触させて重金属を除去し、高純度アルカリ金属炭酸塩水溶液を製造することもできる。
【0027】
[5]高純度アルカリ金属炭酸塩水溶液
前記「高純度アルカリ金属炭酸塩水溶液」とは、粗アルカリ金属炭酸塩水溶液から重金属を除去した後のアルカリ金属炭酸塩水溶液である。
高純度アルカリ金属炭酸塩水溶液中に残存する重金属、即ち、鉄、銅、ニッケル、鉛、アルミニウム、マンガン、チタン、コバルト、亜鉛、カドミウム等の濃度は500ng/g以下であることが好ましく、100ng/g以下であることがより好ましく、30ng/g以下であることが特に好ましい。
尚、粗アルカリ金属炭酸塩水溶液に含有されている各重金属の下限量は、高純度アルカリ金属炭酸塩水溶液における各重金属の含有量より多い。即ち、重金属の除去操作により上記下限量を超える多くの重金属が溶出し、含有されることはない。
【0028】
本発明の高純度アルカリ金属炭酸塩水溶液の製造方法により製造した高純度アルカリ金属炭酸塩水溶液には、種々の用途があり、特に限定はされない。
この高純度アルカリ金属炭酸塩水溶液は、研磨剤にpH調整剤として配合することにより、半導体ウェーハやカラーフィルター等の電子部品の製造、例えば、エッチング後のウェーハ表面の平面化、及びレジスト材の現像と除去等において使用することができる。また、洗浄剤として、電子部品表面の洗浄に用いることもできる。
使用方法も特に限定はされず、例えば、上記のように配合して使用する場合、当初から研磨剤に配合したものを使用することもでき、研磨剤の使用にともない重金属が増加した時点で、配合して使用してもよい。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
表1に示す重金属成分を含有する、40質量%炭酸カリウム水溶液(粗アルカリ金属炭酸塩水溶液)100gに、アミジノ基を有するキレート樹脂(商品名;Muromac XMS−5713、ムロマチテクノス社製)を0.5g加え、室温で攪拌して2時間接触させた。尚、ポリテトラフルオロエチレン製の容器を用いて試験を行い、容器から金属イオンが溶出することのないようにした。以下の実施例2〜10及び比較例1〜10においても、この材質の容器を用いた。
その後、溶液を採取し、重金属の含有量の分析(下記の分析方法)を行った。その結果を表1に示す。
【0030】
(重金属の分析方法)
採取した試料に超純水を加えた後、硝酸で中和した。そして100mM酢酸アンモニウム水溶液(pH5.5)を加えてメスアップし、供試液とした。その後、キレートディスクにて供試液に含まれる対象金属を捕捉し、次いで、超純水により洗浄した。そして、希硝酸を用いてキレートディスクから対象金属を溶出させ、超純水でメスアップして誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)で各金属濃度を測定した(各金属については、事前に検量線を作成した)。
尚、以下の実施例2〜8及び比較例1〜10においてもこの分析方法で重金属の分析を行った。
【0031】
[比較例1]
実施例1のキレート樹脂に替えて、官能基としてイミノジ酢酸Naを有するキレート樹脂(商品名;ダイヤイオンCR−11、三菱化学社製)0.5gを使用した。他の条件は実施例1と同様にして試験を行った。
以上の結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
表1によれば、実施例1(アミジノ基を有するキレート樹脂使用)は、比較例1(イミノジ酢酸Naを有するキレート樹脂使用)に比べ、いずれの重金属の除去効果も高かった。特に鉄については比較例1と比べ、顕著な差があった。いずれもキレート樹脂添加量0.5gという少量の添加量であるにも拘らず、大きな除去効果が得られた。
【0034】
[実施例2]
表2に原液Aとして示す重金属を含有する、40質量%炭酸カリウム水溶液(粗アルカリ金属炭酸塩水溶液)100gに、官能基としてアミジノ基を有するキレート樹脂(商品名;Muromac XMS−5713、ムロマチテクノス社製)を6.4g加え、室温で攪拌して2時間接触させた。その後、溶液を採取し、重金属含有分の分析を行った。
【0035】
[比較例2]
実施例2のキレート樹脂に替えて、官能基としてイミノジ酢酸Naを有するキレート樹脂(商品名;ダイヤイオンCR−11、三菱化学社製)6.4gを使用した。他の条件は実施例2と同様にして試験を行った。
[比較例3]
表2に原液Bとして示す重金属を含有する、40質量%炭酸カリウム水溶液(粗アルカリ金属炭酸塩水溶液)100gに、官能基としてSONaを有するゲル型のイオン交換樹脂(商品名;ダイヤイオンSK110、三菱化学社製)6.4gを使用した。他の条件は実施例2と同様にして試験を行った。
[比較例4]
比較例3のイオン交換樹脂に替えて、官能基としてSONaを有するポーラス型のイオン交換樹脂(商品名;ダイヤイオンPK228、三菱化学社製)6.4gを使用した。他の条件は比較例3と同様にして試験を行った。
[比較例5]
比較例3のイオン交換樹脂に替えて、官能基として−CHNH(CHCHNH)Hを有するキレート樹脂(商品名;ダイヤイオンCR−20、三菱化学社製)を使用した。他の条件は比較例3と同様にして試験を行った。
[比較例6]
比較例3のイオン交換樹脂に替えて、官能基として−CHCCH(COOH)HSONaを有するイオン交換樹脂(商品名;ダイヤイオンWK−10、三菱化学社製)6.4gを使用した。他の条件は、比較例3と同様にして試験を行った。
[比較例7]
比較例3のイオン交換樹脂に替えて、官能基としてイミノジ酢酸Naを有するキレート樹脂(商品名;レバチットモノプラスTP−208、ランクセス社製)6.4gを使用した。他の条件は比較例3と同様にして試験を行った。
以上の結果を表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
表2によれば、実施例2(アミジノ基を有するキレート樹脂使用)は、比較例2〜7(他のキレート樹脂又はイオン交換樹脂使用)に比べ、略いずれの重金属に対しても重金属除去の効果が大きいことが分かった。また、表1及び表2から理解されるように、実施例1と実施例2とを比較すると、鉄、銅、ニッケルについて除去効果は、キレート樹脂0.5g使用の実施例1と比べ、キレート樹脂6.4g使用の実施例2のほうが、格段に優れているといえる。
【0038】
[実施例3]
実施例2の40質量%炭酸カリウム水溶液に替えて、20質量%炭酸ナトリウム水溶液を使用して、試験を行った。原液の重金属成分は表3に示す通りである。他の条件は実施例2と同様にして試験を行った。
[比較例8]
実施例3のキレート樹脂に替えて、官能基としてイミノジ酢酸Naを有するキレート樹脂(商品名;ダイヤイオンCR−11、三菱化学社製)を使用した。他の条件は実施例3と同様にして試験を行った。
以上の結果を表3に示す。
【0039】
【表3】

【0040】
表3によれば、実施例3(アミジノ基を有するキレート樹脂使用)は、比較例8(イミノジ酢酸Naを有するキレート樹脂使用)に比べ、亜鉛を除き、いずれの重金属についても除去効果が大きいことが分かった。また、アルミニウムを除き、他の重金属について90〜98%と十分な除去がなされていることが分かった。また、実施例1及び2の40質量%炭酸カリウム水溶液に替えて、20質量%炭酸ナトリウム水溶液を使用しても、使用するキレート樹脂の量が6.4gであれば、同様の効果が得られることが分かった。
【0041】
[実施例4]
実施例2の40質量%炭酸カリウム水溶液に替えて、20質量%炭酸水素カリウム水溶液を使用して試験を行った。原液の重金属成分は表4に示す通りである。他の条件は実施例2と同様にして試験を行った。
[比較例9]
実施例4のキレート樹脂に替えて、官能基としてイミノジ酢酸Naを有するキレート樹脂(商品名;ダイヤイオンCR−11)を使用した。他の条件は実施例4と同様にして試験を行った。
以上の結果を表4に示す。
【0042】
【表4】

【0043】
表4によれば、実施例4(アミジノ基を有するキレート樹脂使用)は、比較例9(イミノジ酢酸Naを有するキレート樹脂使用)に比べ、鉛とマンガンについては、劣っているものの、他の重金属については、除去効果が大きいことが分かった。そして、コバルトを除き、各重金属について85〜99%の重金属が除去されることが分かった。
【0044】
[実施例5]
実施例2の40質量%炭酸カリウム水溶液に替えて、9質量%炭酸水素ナトリウム水溶液を使用して試験を行った。原液の重金属成分は表5に示す通りである。他の条件は実施例2と同様にして試験を行った。
[比較例10]
実施例5のキレート樹脂に替えて、官能基としてイミノジ酢酸Naを有するキレート樹脂(商品名;ダイヤイオンCR−11、三菱化学社製)を使用した。他の条件は実施例5と同様にして試験を行った。
以上の結果を表5に示す。
【0045】
【表5】

【0046】
表5によれば、実施例5(アミジノ基を有するキレート樹脂使用)は、比較例10(イミノジ酢酸Naを有するキレート樹脂使用)に比べ、鉄、鉛、アルミニウム、マンガンについては、僅かに劣るものの、全体としては、優れた重金属除去効果を有している。また、コバルトを除き、各重金属について80〜99%の重金属が除去されることが分かった。
【0047】
[実施例6〜8]
表6に原液として示す重金属を含有する、40質量%炭酸カリウム水溶液100gに、官能基としてアミジノ基を有するキレート樹脂(商品名;Muromac XMS−5713、ムロマチテクノス社製)を、添加量を変化させて添加し、試験を行った。
以上の結果を表6に示す。
【0048】
【表6】

【0049】
表6によれば、実施例6のように、キレート樹脂0.1gの添加した場合は、鉄、銅及びニッケルについて、45〜60%の重金属の除去ができた。また、実施例7のように、キレート樹脂を0.6g添加した場合、除去の割合は飛躍的に向上し、88〜94%の重金属の除去ができた。更に、実施例8のように、キレート樹脂を3.9g添加した場合、90〜96%の重金属を除去することができた。
【0050】
[実施例9〜10]
1080ng/gの鉄を含有する、40質量%炭酸カリウム水溶液(粗アルカリ金属炭酸塩水溶液)100gに、官能基としてアミジノ基を有するキレート樹脂(商品名;Muromac XMS−5713、ムロマチテクノス社製))10g(実施例9)又は20g(実施例10)を加え、室温で攪拌して2時間接触させた。その後、これらの溶液を採取し、鉄含有分の分析(下記の分析方法)を行い、キレート樹脂未接触の原液と比較して除去率を求めた。その結果、実施例9、10のいずれの場合も除去率は99%を超えていた。このように粗アルカリ金属炭酸塩水溶液に高濃度に含まれる鉄を極めて効率よく除去できることが分かった。
【0051】
(鉄イオンの分析方法)
採取した試料に超純水を加えた後、塩酸酸性とした。そして10質量%塩酸ヒドロキシルアンモニウム水溶液を加え、数分間煮沸させた後、希アンモニア水にてpHを3〜5に調整し、0.3質量%オルトフェナントロリン塩酸塩溶液を加えた。次いで、20質量%酢酸アンモニウム緩衝液と蒸留水とでメスアップし、室温で10分間放置して発色させ、吸光光度計にて吸光度を求めた。また、別途、採取試料を用いないで同様の操作を行い、ブランクの吸光度を求めた。更に、別途作成した検量線を用いて鉄濃度を求めた。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、粗アルカリ金属炭酸塩水溶液中の重金属を除去し、高純度化することができるため、半導体ウェーハの研磨等の電子材料向けの他、医薬品、化粧品等の多くの分野に適用することができ、また、アルカリ金属炭酸塩水溶液製造時、出荷時、受け入れ時、使用時等のいずれの場合でも手軽に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
官能基としてアミジノ基を有するキレート樹脂を用いて、粗アルカリ金属炭酸塩水溶液中の重金属を除去することにより、高純度アルカリ金属炭酸塩水溶液を得ることを特徴とする高純度アルカリ金属炭酸塩水溶液の製造方法。
【請求項2】
前記キレート樹脂が下記式(1)で表されるキレート樹脂である請求項1に記載の高純度アルカリ金属炭酸塩水溶液の製造方法。
A−C(=NR)−NHR (1)
[式(1)において、Aはスチレン系樹脂であり、Rは水素原子、ヒドロキシル基又は炭素数1〜3のアルキル基であり、Rは水素原子、ヒドロキシル基又は炭素数1〜3のアルキル基である。]
【請求項3】
前記重金属が、鉄、銅、ニッケル、鉛、アルミニウム、マンガン、チタン、コバルト、亜鉛及びカドミウムのうちの少なくとも1種である請求項1又は2に記載の高純度アルカリ金属炭酸塩水溶液の製造方法。
【請求項4】
前記粗アルカリ金属炭酸塩水溶液の濃度が15〜60重量%である請求項1乃至3のうちのいずれか1項に記載の高純度アルカリ金属炭酸塩水溶液の製造方法。
【請求項5】
前記粗アルカリ金属炭酸塩水溶液に含まれる前記重金属は、5000ng/g以下である請求項1乃至4のうちのいずれか1項に記載の高純度アルカリ金属炭酸塩水溶液の製造方法。
【請求項6】
前記高純度アルカリ金属炭酸塩水溶液に含まれる重金属は、500ng/g以下である請求項1乃至5のうちのいずれか1項に記載の高純度アルカリ金属炭酸塩水溶液の製造方法。
【請求項7】
前記アルカリ金属炭酸塩水溶液全体を100質量%とした場合に、前記キレート樹脂は
0.1〜20質量%である請求項1乃至6のうちのいずれか1項に記載の高純度アルカリ金属炭酸塩水溶液の製造方法。

【公開番号】特開2009−167036(P2009−167036A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−5010(P2008−5010)
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【出願人】(000215615)鶴見曹達株式会社 (49)
【Fターム(参考)】