説明

高純度イリジウムの回収法

【課題】 イリジウムおよびイリジウム以外の白金族を含有する溶媒抽出剤を少量含む塩化アンモニウム溶液を出発原料として高純度イリジウム溶液を得る、高純度イリジウムの回収方法。
【解決手段】 溶媒抽出剤を少量含む塩化アンモニウム溶液であり、かつ、イリジウ
ムおよびイリジウム以外の白金族も含有する溶液から溶媒抽出剤を除去する第一工程
その後、大部分が塩化イリジウム酸アンモニウム塩からなる晶析物を得る第二工程、
晶析物に対して酸化剤を添加し、晶析物を溶解して高濃度イリジウム溶液を得、そ
の際にイリジウム以外の不純物を不溶解性残渣として除去する第三工程、からなる高純度イリジウムの回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イリジウムを含有する溶液、例えば、溶媒抽出剤を少量含む塩化アンモニウム溶液であり、かつ、イリジウム以外の白金族も含有する溶液から高純度イリジウムを回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のイリジウムの回収方法としては、例えば(非特許文献1)『Gilchrist法によるPtのIr溶液からの分離 および アンチモンを用いたRhのセメンテーションによるIr溶液からの分離法』のように分析化学的手法を用いてIrをRh, Ptと分離する方法がある。これらの方法は、本発明の目的である高純度イリジウム、例えば、99.90mass%以上の純度において回収する手段としては不適格である。
また一方乾式法としては、特許文献1のように、塩化物として、沸点の差を利用し、不純物を分離する方法も明示されている。この方法では、その得られたものの品位は、99%以上の開示しかない。また乾式法であり、塩素を使用する点好ましい方法ではない。
【0003】
【非特許文献1】「Gilchrist法によるPtのIr溶液からの分離 および アンチモンを用いたRhのセメンテーションによるIr溶液からの分離法」 定性分析化学 中巻 イオン反応編 高木誠司著 出版社:南江堂 出版日:昭和7年4月1日
【特許文献1】特開昭62−256932 イリジウムの回収方法
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の白金族回収方法、例えば、前述の分析化学的手法である『Gilchrist法によるPtのIr溶液からの分離 および アンチモンを用いたRhのセメンテーションによるIr溶液からの分離法』では、高純度イリジウムの回収という観点からは不純物除去効果が不充分なレベルとなりやすく工程管理項目の増大を招く可能性が大となり、また、その工程操作も煩雑となりやすいという欠点があった。
【0005】
一方、塩化アンモニウムによる塩化イリジウム酸アンモニウム塩の作製、いわゆる晶析反応が一般的に知られており、晶析反応ではIr以外の不純物が除去される効果が期待される。しかし、晶析反応においては晶析反応前液中のIrの純度が上昇し、不純物濃度が低くなると不純物除去効果が悪化する。特に、Ptは塩化イリジウム酸アンモニウム塩と同形の晶析物を形成し、かつ溶解度が非常に低いため、晶析反応によってはPtを除去することは不可能である。よって、晶析反応の繰り返しにより高純度Irを得ることは非常に困難である。
【0006】
また、晶析物を溶解した液には塩化イリジウム酸アンモニウム塩を構成するアンモニウムイオンが含まれてしまうために、この液を対象とした溶媒抽出剤を用いた抽出反応による不純物の除去、例えば、TBPによるPtの抽出(除去)反応が阻害される可能性があった。
本発明の課題は、Ir収率が良く、不純物除去効果も高い方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、
(1)溶媒抽出剤を少量含む塩化アンモニウム溶液であり、かつ、イリジウムおよびイリジウム以外の白金族も含有する溶液から
溶媒抽出剤を除去する第一工程、
その後、大部分が塩化イリジウム酸アンモニウム塩からなる晶析物を得る第二工程、
晶析物に対して酸化剤を添加し、晶析物を溶解して高濃度イリジウム溶液を得、その際にイリジウム以外の不純物を不溶解性残渣として除去する第三工程、
からなる高純度イリジウムの回収方法。
(2)上記(1)記載の第三工程において、得られた溶液に対して溶媒抽
出剤を用いた抽出反応により不純物を除去する第四工程、
この液から晶析反応により塩化イリジウム酸アンモニウム塩からなる晶析
物を得る第五工程、
該晶析物を酸化剤により溶解し、得られた溶液に対して溶媒抽出剤を用いた
抽出反応によりイリジウムを抽出し、逆抽出反応により高純度イリジウム溶液
を得る第六工程
を含む高純度イリジウムの回収方法。
(3)上記(1)、上記(2)のいずれかに記載の第一工程における溶媒抽出剤の除去操作が、塩酸を添加し、pHを0.5から1.5に調整した後、80〜90℃に加熱し、分離する溶媒抽出剤を除去する高純度イリジウムの回収方法。
(4)上記(1)から上記(3)の何れかに記載の第二工程における晶析物を得る反応に関して、第一工程で得られた溶液に対して次亜塩素酸ソーダを添加し、液ORP値を900mV以上に上昇した後、80℃以上に加温し、その後、塩化アンモニウムを20g/Lから200g/Lの濃度となるように添加したのち、徐冷、ろ過して晶析物を得る高純度イリジウムの回収方法。
(5)上記(1)から上記(4)の何れかに記載の第三工程における晶析物を溶解する反応に関して、第二工程で得られた晶析物に対して用いる酸化剤が次亜塩素酸ソーダであり、かつ、液pHが、1から2の間において溶解反応を終了させ、ただちにろ過を行い不溶解性残渣を除去することによりイリジウム以外の不純物元素を低減させ、高濃度イリジウム溶液を得ること高純度イリジウムの回収方法。
【0008】
(6)上記(2)から上記(5)の何れかに記載の第四工程における溶媒抽出剤を用いた抽出反応により不純物を除去する反応に関して、第三工程において得られた高濃度イリジウム溶液に対し、還元剤として亜硫酸ナトリウム、または、亜硫酸ガスを添加することにより液ORP値を500mV以下に調整し、その後塩酸を添加して酸濃度を2〜5規定に調整し、溶媒抽出剤としてトリブチルリン酸(TBP)を用いて該溶液中の白金を除去することを特徴とする高純度イリジウムの回収方法。
(7)上記(2)から上記(6)の何れかに記載の第五工程における晶析反応に関して、第四工程において得られた高濃度イリジウム溶液に対し液ORP値を900mV以上上昇した後、80℃以上に加温し、その後、塩化アンモニウムを20g/Lから200g/Lの濃度となるように添加したのち、徐冷、ろ過して晶析物を得る高純度イリジウムの回収方法。
(8)上記(2)から上記(7)の何れかに記載の第六工程における晶析反応に関して、第五工程において得られた晶析物に対して添加する酸化剤が次亜塩素酸ソーダであり、かつ、液pHが1から2の間において、溶解反応を終了させ、溶媒抽出剤としてトリブチルリン酸(TBP)を用いて該溶液からイリジウムを抽出し、
イリジウムを含有したTBPに対して逆抽出液として2〜4規定の塩酸溶液を添加し、攪拌操作を行いながら、同時に、
亜硫酸ガスを吹き込み、液ORP値を500mV以下に調整し、イリジウムを塩酸溶液中に逆抽出する高純度イリジウムの回収方法。
を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、
(1)イリジウムおよびイリジウム以外の白金族元素が溶解している液から晶析反応を用いて、効率良く、高純度イリジウムを得ることを可能とする。
(2)トリブチルリン酸を用いた溶媒抽出反応により、易操作で高純度イリジウムを得ることを可能とする効果が得られる。
(3)また、その際に使用される試薬としては、塩化アンモニウム、塩酸、次亜塩素酸ソーダ、亜硫酸ソーダ、亜硫酸ガスを用いて、白金族以外の元素イオンで溶液を汚染しない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下本発明について、詳細に説明する。
近年の白金族精製プロセスにおいて、溶媒抽出剤を用いた抽出反応操作は目的元素以外の白金族不純物を除去する手段として一般的に行われている。特に白金およびロジウム精製プロセスにおいて、イリジウムは溶媒抽出剤、例えば、トリブチルリン酸(TBP)により除去されている。
上記の理由により、イリジウムの回収、精製を行うにあたっては、原料としてこれら該溶媒抽出剤に含有されるイリジウムが対象とされる。
【0011】
該溶媒抽出剤に含有されるイリジウムを回収する一般的な方法としては、塩化アンモニウム溶液でイリジウムをはじめとする白金族元素の逆抽出を行う。
よって本発明では、イリジウムおよびイリジウム以外の白金族を含有する溶媒抽出剤を少量含む塩化アンモニウム溶液を出発原料として想定しているが、本発明プロセスは該原料の溶液形態に限定されず、イリジウムを含有する溶液一般に適用可能である。
【0012】
(1)第一工程
前述した該溶液に対して、塩化イリジウム酸アンモニウム塩を形成する反応、いわゆる晶析反応によりイリジウムを塩化イリジウム酸アンモニウム塩の形態、いわゆる晶析物として回収することは可能であるが、該原料溶液に溶媒抽出剤が含有されると液中で晶析物と混合してタール状の形態となり、ろ過性およびハンドリング性が非常に悪くなる。
【0013】
よって、晶析反応に先立ち、該原料溶液に含有される溶媒抽出剤を除去する目的で、該原料溶液に塩酸を添加し、pHを0.5から1.5に調整し、80〜90℃で2時間加温を行う。
pHを0.5より低いと、後工程での晶析反応においてイリジウム以外の白金族不純
物も晶析物を形成し、結果としてイリジウム純度を低下させるため好ましくなく、pH1.5より高いと相分離が進行し難いために好ましくない。
また温度は、80℃より低いと相分離が進行し難いので好ましくなく、90℃より高
い場合は、溶媒除去がそれほど進行せず、経済性のため好ましくない。
該原料溶液に含有される溶媒抽出剤が油滴として該原料溶液上に浮遊するのでアスピレータ等で除去を行う。さらに、ろ紙を用いて自然ろ過を行うことで該原料溶液中の異物等の除去を行う。
【0014】
(2)第二工程
第一工程で得られた原料溶液に対して、酸化剤として次亜塩素酸ソーダの添加を行い、液ORP値が900mV以上に調整を行う。
900mV以上にするのは、イリジウムの価数を4に調整するためである。
添加量の目安としては、例えば、該原料溶液5リットルに対して、次亜塩素酸ソーダ50mLである。
添加後、該溶液を80℃以上に加熱し、20から40分間保持を行う。
次に塩化アンモニウムを添加量が該溶液に対して20g/Lから200g/Lになるように添加を行う。
20g/Lより少なくては、充分な晶析物が形成されず、結果としてイリジウムの収率が低下するためである。
200g/Lより多い場合は、イリジウム以外の白金族不純物まで晶析してくるので晶析物中のイリジウム純度が低下するため好ましくない。
添加後、液温を80℃以上で2時間以上保持を行う。
80℃より低い場合は、反応効率が悪いためである。
その後、徐冷する。室温まで温度が低下してからろ過を行い、晶析物を得る。
【0015】
(3)第三工程
塩化イリジウム酸アンモニウム塩は通常、イリジウムの価数が4価のままでは溶解させることはできない。
なぜならば、4価のイリジウムは塩化イリジウム酸としてアンモニウムイオンと塩を形成し、塩化イリジウム酸アンモニウム塩となるが、この塩の溶解度が非常に小さいためである。
ちなみに塩化イリジウム酸アンモニウム塩には2種類あり、3価のイリジウムイオンからなる塩化イリジウム酸アンモニウム塩と4価の塩化イリジウム酸アンモニウム塩があるが、前者の溶解度は後者と比較すると10倍以上大きい。
【0016】
よって、通常は亜硫酸ソーダ等の還元剤を添加してイリジウムイオンを3価に還元することにより塩化イリジウム酸アンモニウムの溶解度を増すことにより溶解させる。
この反応が進行するのは、4価の塩化イリジウム酸アンモニウム塩の溶解度が非常に小さいとはいえどもその一部が溶解しており、その溶解している4価の塩化イリジウム酸を亜硫酸イオンが3価に還元するために液中の4価の塩化イリジウム酸からなる塩化イリジウム酸アンモニウム塩と4価の塩化イリジウム酸との化学平衡を取り戻すように4価の塩化イリジウム酸アンモニウム塩の溶解が進行するということが推察される。
【0017】
よって、亜硫酸ソーダ等の還元剤による4価の塩化イリジウム酸アンモニウム塩の溶解反応は上記に説明したように進行するためにアンモニウムイオンは液中に残る結果となる。
そこで鋭意研究した結果、次亜塩素酸イオンがアンモニウムイオンを分解する性質に着目した。つまり、次亜塩素酸ソーダがアンモニウムイオンを分解するために塩化イリジウム酸は4価のままで溶解することが可能であることを見出した。つまり、アンモニウムイオンがほとんど存在しない高濃度の4価の塩化イリジウム酸溶液を製造することが可能であることを見出した。次亜塩素酸イオンがアンモニウムイオンを分解する反応は以下の反応式に因ると推測される。
【0018】
(式1) 2NH4+ + 3ClO- → N2 + 2HCl + Cl- + 3H2O

次亜塩素酸ソーダによる晶析物の溶解では、市販の有効塩素濃度5mass%程度の次亜塩素酸ソーダを用いても溶解液中の塩化イリジウム酸濃度が50g/L以上の高濃度のイリジウム溶液を容易に得ることが可能である。
【0019】
さらに、この反応の際に、イリジウム以外の不純物、特に白金が不溶解性残渣として溶解しないことが見出された。この化合物の特定は調査中である。
ろ過等の操作により液中から該不溶解性残渣を除去することは容易である。
【0020】
第二工程で得られた晶析物に対して酸化剤として次亜塩素酸ソーダを添加し、晶析物の溶解を行い、晶析物の溶解が終了した時点において該溶解液中に存在する不溶解性残渣をろ過により除去を行う。
晶析物の溶解反応の終点を知るためには溶解反応中、該溶解液の液pHを測定し、液pHが、1以上において溶解反応の終点とする。
例えば、図2に示すように、晶析物の溶解が、終了するとpHが、急に上昇することを把握したからである。
その根拠は前述の反応式(式1)で示すように、次亜塩素酸イオンで溶解する晶析物が存在する間は塩酸が発生するので液pHは1前後で安定する。
市販の次亜塩素酸ソーダは次亜塩素酸イオンの分解防止のために試薬液のpHを12~13程度にしているので、晶析物が分解し該溶液中からなくなった時点において、前述の反応式(式1)に示される塩酸の発生がなくなり、該溶解液の液pH値が上昇するためである。
【0021】
(4)第四工程
第三工程で得られた溶解液に対して、還元剤、例えば、亜硫酸ナトリウムを添加することにより、該溶解液の液ORP値を500mV以下に調整を行う。
500mV以下に調整を行うのは、イリジウムの価数を3に調整するためである。
この時、該溶解液の酸濃度の測定を行い、酸濃度が2~5規定となるように塩酸の添加を行う。
酸濃度が2~5規定とするのは、トリブチルリン酸への白金の抽出率が高くなり、かつ、相分離性が良くなるためである。
こうして得られた液に対して容積が同量のトリブチルリン酸(TBP)と混合し、白金の抽出操作を行う。抽出時間は30~60分間である。抽出反応後、相分離を行い、イリジウムを含有する抽出残液の回収を行う。
【0022】
(5)第五工程
第四工程で得られた溶液に対して、酸化剤、例えば、次亜塩素酸ソーダを添加することにより、該溶液の液ORP値を900mV以上に調整する。
900mV以上に調整するのは、イリジウムの価数を4に調整するためである。
添加後、該溶液を80℃以上に加熱し、30分間保持を行う。
80℃以上とするのは、晶析反応促進のためである。この温度より晶析反応温度が低いと晶析反応が2~4時間の間では晶析反応は充分に進行しない。
次に塩化アンモニウムを添加量が該溶液に対して20g/Lから200g/Lになるように添加を行う。
20g/Lより少なくては、晶析物が充分に得られないためである。
200g/Lより多い場合においても、得られる晶析物は、ほとんど変化はなく、経済性の見地から好ましくない。
添加後、液温を80℃以上で2時間以上保持を行う。
80℃より低い場合は、反応効率が悪いためである。
その後、徐冷する。室温まで温度が低下してからろ過を行い、晶析物を得る。
【0023】
(6)第六工程
第五工程で得られた晶析物に対して、酸化剤、例えば、次亜塩素酸ソーダを添加することにより高濃度の塩化イリジウム酸溶液を得る。
この反応操作は第三工程で前述したのと同様に次亜塩素酸ソーダを添加しつつ、該溶解液の液pH値を測定し、1から2の間において溶解反応の終点とする。
その後、該溶解液と同容量の溶媒抽出剤、例えば、トリブチルリン酸(TBP)と該溶解液とで抽出反応を行う。
抽出時間は30~60分間である。抽出操作後、相分離を行い、高濃度のイリジウムを含有する溶媒抽出剤を回収する。
該溶媒抽出剤に対して、同容量の逆抽出液となる2~4規定の塩酸溶液を混合し、攪拌操作を行う。
2~4規定の塩酸溶液を逆抽出液として用いると、逆抽出が効率的に行われるからである。
同時に還元剤を添加し、溶媒抽出剤に含有されるイリジウムを4価から3価に還元する。
3価のイリジウムの分配率、すなわち、溶媒抽出剤である油相と塩酸溶液である水相との間に成立する平衡状態の濃度比は50~100程度であるので、ほとんどのイリジウムを逆抽出液側に抽出することが可能である。
この一連の操作で、該溶解液に含有されるロジウムは溶媒抽出剤側にほとんど抽出されないので、結果的に、イリジウムとロジウムの分離を行ったことになる。
【0024】
また、該溶解液中のイリジウム濃度は10~50g/Lと高濃度であるので、溶媒抽出剤を用いて該溶解液からイリジウムを抽出する際に一度目の抽出操作では全量のイリジウムを抽出しきれない可能性がある。その場合には、一度目の抽出操作で残った抽出残液に含有されるイリジウムをさらに二度目の抽出操作により抽出してもよい。ここで得られたイリジウム含有溶媒抽出剤は一度目および二度目のものと合わせて、前述した逆抽出操作によりイリジウムを回収することは可能である。
【実施例】
【0025】
図1に示すフローシートに添って実施例を説明する。
(1)第一工程
出発原料であるイリジウムおよびイリジウム以外の白金族を含有する溶媒抽出剤を少量含む塩化アンモニウム溶液をビーカに入れ、攪拌操作を行いながら塩酸を少量添加し、液pH値を0.9に調整を行った後、90℃に加熱2時間保持を行った。
攪拌操作は低速で行ったので、分離した溶媒抽出剤であるTBPは該原料溶液の表面上に浮遊しており、アスピレータで吸引、除去を行った。
この操作により、後工程の晶析反応に対して、残余する溶媒抽出剤が障害となることはなかった。溶媒抽出剤除去後、自然ろ過による異物除去を行った。この際にも若干の溶媒抽出剤の除去が認められた。
得られた該原料溶液のICP分析値を表1に示す。
【表1】

【0026】
(2)第二工程
第一工程で得られた原料溶液5リットルをビーカに入れ、次亜塩素酸ソーダを50ml添加した。この時、該溶液ORP値が400mVから900mV以上に上昇した。その後、90℃に加温し、30分間経過した後、塩化アンモニウム250g添加した。添加後、90℃で2時間保持した後、自然冷却を行った。液温が室温まで低下してからろ過を行い、晶析物を得た。
残った晶析后液のICP分析値から推測される晶析物に含まれる各元素量とその品位を表2に示す。イリジウムの収率が90%程度であるのに対して、Pt, Pd, Rhの各不純物元素の物量はほぼ1/10程度まで低減していた。
【表2】

【0027】
(3)第三工程
第二工程で得られた晶析物に対して、次亜塩素酸ソーダを添加して晶析物の溶解を行った。この時の次亜塩素酸ソーダの添加量に対する溶解液の液pH値のグラフを図2に示す。
この後、該溶解液をメンブレンフィルタによりろ過を行い、液中に存在する不溶解性残渣の除去を行った。得られた溶液は320mlであった。この液のICP分析結果を表3に示す。白金の相当量が除去されていることが判明した。
【表3】

【0028】
(4)第四工程
第三工程で得られた溶解液に対して、還元剤、たとえば亜硫酸ソーダを添加して液ORP値を900mVから500mV以下まで降下させた。さらに塩酸を添加し、酸濃度を4規定に調整を行い、同容量のトリブチルリン酸と混合し、白金の抽出操作を30分間行った。抽出反応後、相分離を行い、イリジウムを含む抽出残液を回収した。
該抽出残液のICP分析値を表4に示す。
表4のイリジウムの物量と表3のイリジウムの物量を比較すると6%程度減少しているが、これはICP分析のために液を一部サンプリングしたために減少した分も含まれており、第四工程におけるトリブチルリン酸による白金抽出操作による純イリジウム損失分は2.5%であった。
【表4】

【0029】
(5)第五工程
第四工程で得られた逆抽出液に対して、次亜塩素酸ソーダを添加し、液ORP値を400mVから1000mVまで上昇させた。この時に消費された市販の有効塩素濃度5%次亜塩素酸ソーダ量は20mlであった。その後、該逆抽出液を90℃に加熱し30分間保持した。
その後、塩化アンモニウムを濃度が50g/Lとなるように添加し、さらに2時間加熱した。その後、徐冷を行い、室温まで冷却された後、ろ過により晶析物を得た。
残った晶析后液のICP分析より、得られた晶析物に含まれる白金、パラジウム、イリジウム、ロジウムの物量および品位を表5に示す。表5のイリジウムの物量と表4のイリジウムの物量を比較すると4%程度減少しているが、これはICP分析のために液を一部サンプリングしたために減少した分も含まれており、第五工程での晶析反応における純イリジウム損失分は1%であった。
【表5】

【0030】
(6)第六工程
第五工程で得られた晶析物を次亜塩素酸ソーダを添加することにより溶解した。この溶解操作は、第三工程で前述したとおり溶解液の液pH値を測定し、2を超えた時点において溶解反応の終点とした。この液に対して、同容量のトリブチルリン酸を混合、抽出操作を30分間行った。
その後、相分離させ、イリジウムを含有する溶媒抽出剤を回収した。該溶媒抽出剤に対して、同容量の4規定塩酸溶液を逆抽出液として混合、攪拌を行った。同時に還元剤として亜硫酸ガスを吹き込み、該混合液の液ORP値の測定を行った。
液ORP値は800mVから低下し、500mVに達した時点において亜硫酸ガスの吹き込みおよび攪拌を停止し、該混合液を相分離させ、イリジウムを含む逆抽出液を回収した。
この反応工程における抽出残液および逆抽出液のICP分析値を表6に示す。
【表6】

抽出残液のロジウムの物量は前述の表5のロジウムの物量とほぼ等しく、かつ、逆抽出液のロジウムのICP分析値は分析下限未満であったので、ロジウムはそのほぼ全量が抽出残液に残ったのに対して、イリジウムは溶媒抽出剤に90%程度の分配率で抽出されたことが判明した。
なお、抽出残液にまだ10%弱のイリジウムが残留しているが、これはさらにこの液に対してトリブチルリン酸によるイリジウム抽出操作でロジウムの随伴をともなわずにイリジウムをさらに回収できることはいうまでもなく、また、一段目の溶媒抽出剤と二段目の溶媒抽出剤とを合わせて逆抽出操作を行うことにより、イリジウムの回収率を100%近くできることは容易に推察される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一態様である処理フローシートを示す。
【図2】本発明の一態様である次亜塩素酸ソーダの添加量に対する溶解液の液pH値のグラフを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒抽出剤を少量含む塩化アンモニウム溶液であり、かつ、イリジウ
ムおよびイリジウム以外の白金族も含有する溶液から溶媒抽出剤を除去する第一工程、
その後、大部分が塩化イリジウム酸アンモニウム塩からなる晶析物を得る第二工程、
晶析物に対して酸化剤を添加し、晶析物を溶解して高濃度イリジウム溶液を得、その際にイリジウム以外の不純物を不溶解性残渣として除去する第三工程、
からなることを特徴とする高純度イリジウムの回収方法。
【請求項2】
請求項1記載の第三工程において、得られた溶液に対して溶媒抽
出剤を用いた抽出反応により不純物を除去する第四工程、
この液から晶析反応により塩化イリジウム酸アンモニウム塩からなる晶析
物を得る第五工程、
該晶析物を酸化剤により溶解し、得られた溶液に対して溶媒抽出剤を用いた
抽出反応によりイリジウムを抽出し、逆抽出反応により高純度イリジウム溶液
を得る第六工程
を含むことを特徴とする高純度イリジウムの回収方法。
【請求項3】
請求項1、請求項2のいずれかに記載の第一工程における溶媒抽出剤の除去操作が、塩酸を添加し、pHを0.5から1.5に調整した後、80〜90℃に加熱し、分離する溶媒抽出剤を除去することを特徴とする高純度イリジウムの回収方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3の何れかに記載の第二工程における晶析物を得る反応に関して、第一工程で得られた溶液に対して次亜塩素酸ソーダを添加し、液ORP値を900mV以上に上昇した後、80℃以上に加温し、その後、塩化アンモニウムを20g/Lから200g/Lの濃度となるように添加したのち、徐冷、ろ過して晶析物を得ることを特徴とする高純度イリジウムの回収方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4の何れかに記載の第三工程における晶析物を溶解する反応に関して、第二工程で得られた晶析物に対して用いる酸化剤が次亜塩素酸ソーダであり、かつ、液pHが、1から2の間において溶解反応を終了させ、ただちにろ過を行い不溶解性残渣を除去することによりイリジウム以外の不純物元素を低減させ、高濃度イリジウム溶液を得ることを特徴とする高純度イリジウムの回収方法。
【請求項6】
請求項2から請求項5の何れかに記載の第四工程における溶媒抽出剤を用いた抽出反応により不純物を除去する反応に関して、第三工程において得られた高濃度イリジウム溶液に対し、還元剤として亜硫酸ナトリウム、または、亜硫酸ガスを添加することにより液ORP値を500mV以下に調整し、その後塩酸を添加して酸濃度を2〜5規定に調整し、溶媒抽出剤としてトリブチルリン酸(TBP)を用いて該溶液中の白金を除去することを特徴とする高純度イリジウムの回収方法。
【請求項7】
請求項2から請求項6の何れかに記載の第五工程における晶析反応に関して、第四工程において得られた高濃度イリジウム溶液に対し液ORP値を900mV以上上昇した後、80℃以上に加温し、その後、塩化アンモニウムを20g/Lから200g/Lの濃度となるように添加したのち、徐冷、ろ過して晶析物を得ることを特徴とする高純度イリジウムの回収方法。
【請求項8】
請求項2から請求項7の何れかに記載の第六工程における晶析反応に関して、第五工程において得られた晶析物に対して添加する酸化剤が次亜塩素酸ソーダであり、かつ、液pHが1から2の間において、溶解反応を終了させ、溶媒抽出剤としてトリブチルリン酸(TBP)を用いて該溶液からイリジウムを抽出し、
イリジウムを含有したTBPに対して逆抽出液として2〜4規定の塩酸溶液を添加し、攪拌操作を行いながら、同時に、
亜硫酸ガスを吹き込み、液ORP値を500mV以下に調整し、イリジウムを塩酸溶液中に逆抽出することを特徴とする高純度イリジウムの回収方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−203503(P2009−203503A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−45474(P2008−45474)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】