説明

高純度カルボン酸アルコールエステル精製方法及びその装置

【課題】反応効率が高く、且つ分離も簡単な、カルボン酸グリセリドとアルコールのエステル交換反応によるカルボン酸エステルの製造方法を提供する。
【解決手段】多孔質体に含浸させたグリセリンに反応に必要なアルコール・アルカリ触媒を保持させ、これに1次反応を終えた粗カルボン酸アルコールエステルを通液する。多孔質体にグリセリンを保持させ、これに上記を終えたカルボン酸アルコールエステルを通液する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボン酸グリセリドとアルコールのエステル置換反応における高純度カルボン酸アルコールエステル精製方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ触媒を用いたカルボン酸グリセリドとアルコールのエステル置換反応装置において、反応過程で発生するグリセリンがアルカリ触媒を吸着・偏在を促し、エステル置換反応の持続性を急速に阻害し、反応収束が95〜98%で停止してしまう。
【0003】
反応促進のため、とられる手法の一部に、反応槽を高温・高圧にする設備もあるが、反応槽が耐圧型になる為、気密性、耐圧性(高強度)が求められ、槽自体が高価になってしまう。
【0004】
その他手法の一部に、2次反応を促すため、大量のアルコールと僅かなアルカリ触媒を混入させる工程を設けるものがあるが、その後に、アルコールの回収の為の分留など設備が大掛かりになると同時に、大量のエネルギー消費を余儀なくされる。
【0005】
このように高反応収束が困難なため、反応の中間体のモノグリセリド等が低温性能(フィルター目詰まり点等)を阻害する。
【0006】
アルカリ触媒を除去する手法の一部に静置保管があるが、除去効率が悪く数百PPM前後のアルカリ触媒を残留させる。
【0007】
その他のアルカリ触媒の吸着に活性白土を用いる技法があるが、活性白土がグリセリン等粘性の高い液体をも取り込み、ユニット内に堆積し易く、頻繁なメンテナンスを要する。
【0008】
反応槽を終えた粗カルボン酸アルコールエステルの触媒を取り除く技術の多くが水洗いに求められているが、アルカリ触媒残存量が多く、歩留まり低下等の不具合を生じている。
【0009】
この際、水と石鹸とカルボン酸アルコールエステルが乳濁し、分離が困難になる為、様々な薬剤の投入等、コストアップと共に、石鹸中の脂肪酸やアルコールが触媒を水洗いすることで更に発生させ、水質を汚染する要因となる。
なお、脂肪酸メチルエステルの製造方法として、特許文献1,2が知られている。
【特許文献1】特開2007-211139
【特許文献2】特開2008-024841
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
アルカリ触媒を用いたカルボン酸グリセリドとアルコールのエステル置換反応装置において、反応過程で発生するグリセリンがアルカリ触媒を吸着・偏在を促し、反応の持続性を急速に阻害し、反応収束が95〜98%で停止してしまう。
【0011】
また、反応槽の大型化により、油脂分子、アルカリ触媒、アルコール分子を均質に分散することが攪拌翼のみではより困難になる現状がある。
【0012】
反応直後のカルボン酸アルコールエステルにおいてアルカリ触媒が数百〜数千PPM残留する。
【0013】
そのため、水洗い時、これらエステルとアルカリ触媒が水と反応し一部がアルコールと石鹸に変化して歩留まりを落とすと共に、カルボン酸アルコールエステルと石鹸、水とで乳濁し、分離を困難にすると共に洗浄排水のCODを著しく悪化させる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
手法1;メタノール、アルカリ触媒を任意の割合で含んだグリセリンをセルロース系フィルター等の多孔質体に含浸させ、エステル置換一次反応を終えた粗カルボン酸アルコールエステルに、反応に必要な熱エネルギーを持たせ、その多孔質体へ誘導する。
【0015】
手法2;グリセリンをフィルターのような多孔質体に含浸させ、手法1を終えた粗カルボン酸アルコールエステルを常温以下にし、この多孔質体へ誘導する。
【発明の効果】
【0016】
手法1の効果;未反応のトリカルボン酸グリセリド又は、中間体のモノ・ジカルボン酸グリセリドの残留する粗カルボン酸アルコールエステルが多孔質体を通過する際、ミクロンオーダーの空隙には、グリセリンと共にグリセリンが吸着・保持するメタノール、アルカリ触媒が存在し、更なるエステル置換反応を促す。(二次反応)
【0017】
反応時に発生した新たなグリセリンは先に含浸させたグリセリンにその高い粘性により吸着される。
【0018】
多孔質体に含浸したグリセリンは、エステル置換反応で新たに発生したグリセンを吸着しながら、粗カルボン酸アルコールエステルに残留する数Vol%のメタノール、数百〜数千PPMのアルカリ触媒を飽和状態まで吸着し、エステル置換反応に必要な環境を持続させる事を可能とする。
【0019】
ミクロンオーダーの空隙において吸着したグリセリン分子は余剰になると、多孔質体より油滴として分離し、沈降する。
【0020】
手法1の結果として高効率のカルボン酸アルコールエステル反応が得られると同時に、アルカリ触媒量を数十PPMにまで下げられる。
【0021】
手法2の効果;手法1で液体中に僅かに残るグリセリンが低温化で更に粘度が増す事により継続的に多孔質体内に含浸させたグリセリンに吸着され、カルボン酸アルコールエステル中から更なるアルカリ触媒を吸着除去する。
【0022】
これにより、カルボン酸アルコールエステル中に残存するグリセリン量・アルカリ触媒量は、0〜数PPMに下げられる。
【0023】
グリセリンがアルカリ触媒を飽和状態まで吸着した時、アルカリ触媒成分を含有する液を漏洩することになるが、後設の水素置換型のイオン交換樹脂がアルカリ触媒を吸着して水を吐き出す。
【0024】
水の発生を目視等により確認し、予備のフィルターMF2に切り替えられ、継続的にアルカリ触媒の除去が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図1において手法1を説明すると、反応後の反応槽、又は反応後の粗カルボン酸アルコールエステルの保管容器T1から、ポンプを介してプレフィルターPF、メインフィルターMF1に粗カルボン酸アルコールエステルを通液させ、容器T2に保管する。
【0026】
粗カルボン酸アルコールエステルを通液前にKOH等のアルカリ触媒をアルコールに溶かし込み、これにグリセリンを混ぜ込ませた液体を、フィルターMF1に含浸させておく。
【0027】
フィルター内部の小さなセルには、グリセリンと共に、アルコールとアルカリ触媒が存在する。
【0028】
ここに、粗カルボン酸アルコールエステルに含まれる未反応油脂(トリカルボン酸グリセリド)、モノ・ジカルボン酸グリセリドを誘導し反応せしめる。
【0029】
容器T1に貯めた粗カルボン酸アルコールエステルにエステル置換反応に必要な温度を温度計TIを監視しながら加熱装置HTで与える。
【0030】
反応に必要な熱エネルギーは、反応槽における反応直後の液体を保温して置く事で得られる。
【0031】
図1のユニットの液温が必要温度に達するまでの間は、フィルターMF1を通った液は容器T1に戻される。
【0032】
粗カルボン酸アルコールエステルが反応槽におけるエステル置換反応後の余熱として必要熱エネルギーを持っていれば、加熱の必要は無い。
【0033】
ポンプPで流量計FIを監視しながらフィルターMF1に対して一定流量の粗カルボン酸アルコールエステルを送液する。
【0034】
フィルター面積(セル数)と流量調整は比例関係にあり、流量調整と温度は粘度の関係から反比例に似た関係を示す。
【0035】
ポンプPで送液された粗カルボン酸アルコールエステルは、狭雑物をプレフィルターPFで除去し、フィルターMF1が目詰まりを起こすことを防止する。
【0036】
プレフィルターPFの目詰まりは圧力計PIで監視する。
【0037】
温度計TIにおいて必要温度に達したら、フィルターMF1を通った液は、容器T2へ送られる。
【0038】
図2において、手法2を説明すると手法1を終えた粗カルボン酸アルコールエステルから、グリセリンとアルカリ触媒を除去する装置
【0039】
予め、フィルターMF2にはグリセリンを含浸させて置く。
【0040】
先ず始めに図2において、僅かに沈降したグリセリンを容器T2から除去する。
【0041】
温度計TIで常温以下の温度になるよう、熱交換器(又は冷却器)HTで、手法1を終えた粗カルボン酸アルコールエステルを冷却する。
【0042】
ポンプPで流量計FIを監視しながら流量を調整し、フィルターMF2に容器T2の液を送液する。
【0043】
液温が常温以下に安定するまで、フィルターMF2を通った液は容器T2に戻される。
【0044】
温度が常温以下に安定したら、容器T3に送液する。
【0045】
フィルターMF2のアルカリ触媒除去能力が無くなった際には水素系イオン交換樹脂が入った樹脂塔IMFの底部に水が溜まる。
【0046】
水が観察されたら、すぐさま、予備のフィルターMF2に回路を切り替える。
【0047】
温度が常温以下に安定するまで、容器T2に液を戻し、温度が常温以下に安定したら再び容器T3へ送液する。
【0048】
反応を高率に維持するためには液温と送液速度は反比例する傾向を持ち、フィルター面積と送液速度は比例する傾向がある。
【0049】
監視用に送液圧力、液温、送液流量を計測し、フィルターに詰まりや、機能低下が認められた際は、バイパス弁を切り替える。
【実施例1】
【0050】
一次反応から(温)水洗浄に移行する脂肪酸メチルエステル(FAME)製造において、図1又は図2のユニットを後付できる。
【実施例2】
【0051】
図1の熱交換器HTとフィルターMF1のユニットを複数連結し、トリグリセリド、モノ・ジグリセリドに対する反応適温をそれぞれに熱交換器HTで与え、通液する。
【0052】
又、図2において、グリセリン含浸フィルターMF2を複数連結しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0053】
脂肪酸メチルエステル(FAME)燃料製造
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】カルボン酸アルコールエステル高反応率を促す装置の概念図
【図2】カルボン酸アルコールエステル中のグリセリン・アルカリ触媒除去装置の概念図
【符号の説明】
【0055】
T1;反応槽もしくは、反応直後の粗アルコールカルボン酸エステルの貯槽容器
HT;熱交換器又はヒーターなどの加温・冷却装置
P ;ポンプ
PI;圧力計
PF;プレフィルター
MF1;メインフィルター(グリセリン・アルカリ触媒・アルコール含浸、又はアルカリ触媒・アルコール含浸)
MF2;メインフィルター(グリセリン・アルコール含浸、又はグリセリン含浸)
IMF;イオン交換樹脂塔(水素置換タイプの樹脂)
TI;温度計
FI;流量計
T2;貯槽容器
T3;貯槽容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセリンのアルカリ触媒を強力に吸着する性質、低級アルコール等に任意の比率で溶解する性質を応用した高率にエステル置換反応収束させる方法。
【請求項2】
グリセリンをアルカリ触媒の吸着剤とするエステル精製方法。
【請求項3】
グリセリンのアルカリ触媒を強力に吸着する性質、低級アルコール等に任意の比率で溶解する性質を応用した高率にエステル置換反応収束させる装置。
【請求項4】
グリセリンをアルカリ触媒の吸着剤とするエステル精製装置。
【請求項5】
請求項1または2を用いて精製されたエステル。
【請求項6】
請求項3または4を用いて精製されたエステル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−263277(P2009−263277A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−114965(P2008−114965)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(307036638)
【Fターム(参考)】