説明

高純度ジグリシジルアミン系エポキシ化合物およびその製造方法

【課題】工業的に有用な高純度ジグリシジルアミン系エポキシ化合物およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の高純度ジグリシジルアミン系エポキシ化合物は、化学純度96%以上である、下記一般式(1)で示されるエポキシ化合物であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業的に有用なジグリシジルアミン系エポキシ化合物およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エポキシ化合物は、有機化学分野および高分子化学分野で広く用いられている化合物であり、ファインケミカル、医農薬原料および樹脂原料、さらには電子情報材料や光学材料など、工業用途として多岐にわたる分野で有用な化合物である。
【0003】
さらに多官能のエポキシ化合物は、種々の硬化剤で硬化させることにより、一般的に機械的性質、耐水性、耐薬品性、耐熱性および電気特性に優れた硬化物となり、接着剤、塗料、積層板および複合材料などの広い分野に利用されている。なかでもジグリシジルアミン型エポキシ化合物は、低粘度であり、かつ高耐熱特性を有するため、宇宙・航空機用複合材料や耐熱性接着剤、半導体封止材などへも用途を広げている。
【0004】
発明者らは、種々の硬化剤で硬化させることにより、機械的性質、耐薬品性、耐熱性、および電気特性に優れる、新規なグリシジルアミン系エポキシ化合物とその製造方法を提案した(特許文献1)。
【0005】
しかしながら、このジグリシジルアミン系エポキシ化合物は、化学純度が低く、すなわち不純物を多く含有していた。このため、不純物に起因してエポキシ化合物のオリゴマー化が経時に進み、ジグリシジルアミン系エポキシ化合物の貯蔵安定性が悪いという問題があった。
【0006】
また、高度な信頼性が要求される電子情報材料用途における使用での許容される無機塩素含量は約10ppm以下であり、このジグリシジルアミン系エポキシ化合物はこれを大きく超えていた。
【0007】
さらに、このジグリシジルアミン系エポキシ化合物は、色調が濃いため、無色や淡色の硬化物を必要とする用途には用いることができなかった。
【0008】
そこで、このジグリシジルアミン系エポキシ化合物を高純度化するために、一般的な減圧蒸留法で精製しようとすると、蒸留中の加熱により、ジグリシジルアミン系エポキシ化合物が熱分解等を起こすため、収率良く精製することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2010/047244号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、化学純度が96%以上の高純度エポキシ化合物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記従来技術の現状に鑑み、鋭意検討した結果、下記一般式(1)
【化1】

に示すエポキシ化合物を薄膜蒸留することにより、化学純度が96%以上の高純度エポキシ化合物が収率良く得られることを見出した。
【0012】
前記高純度ジグリシジルアミン系エポキシ化合物としては、無機塩素含量が10ppm以下であることが好ましい。また、前記高純度ジグリシジルアミン系エポキシ化合物の色調がガードナー色数で8以下であることが好ましい。
【0013】
本発明の高純度ジグリシジルアミン系エポキシ化合物の製造方法は、低純度のジグリシジルアミン系エポキシ化合物を薄膜蒸留することにより高純度化することを特徴とする。低純度のジグリシジルアミン系エポキシ化合物は、上述した特許文献1に記載された製造方法により得ることができる。
【0014】
また、高純度ジグリシジルアミン系エポキシ化合物の製造方法では、薄膜蒸留における蒸発面の加熱温度を80〜200℃にすることが好ましい。さらに、薄膜蒸留における真空度を10Pa以下にすることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の高純度ジグリシジルアミン系エポキシ化合物は、貯蔵安定性が高い。また本発明の高純度ジグリシジルアミン系エポキシ化合物と硬化剤を含有してなる樹脂組成物を硬化させることにより、高強度、高弾性率、高接着性、高靭性、耐熱性、耐候性、耐溶剤性および耐衝撃性などに優れた高機能なジグリシジルアミン系エポキシ樹脂硬化物が得られる。また、本発明の高純度ジグリシジルアミン系エポキシ化合物と通常のエポキシ樹脂を混合してアミンで硬化させると、例えば、接着剤や塗料などに使用できる硬化物が得られる。
【0016】
また、本発明の高純度ジグリシジルアミン系エポキシ化合物は、粘度が低いため充填剤を高充填することができ、経済的に有利である。さらに、淡色であるため、無色および/または淡色の硬化物が得られる。この硬化物は、光の透過率が高く、また意匠の面で好ましい。
【0017】
さらに、本発明の高純度ジグリシジルアミン系エポキシ化合物は、無機塩素含量が少ないため、その硬化物は、金属等を腐蝕させることが少ない。加えて、易可けん化塩素も少ないため、同様にその硬化物は、金属等を腐蝕させることが少ない。
【0018】
本発明のジグリシジルアミン系エポキシ化合物は、ファインケミカル、医農薬原料、樹脂原料、さらには電子情報材料、光学材料など、工業用途として多岐にわたる分野で有用である。
【0019】
本発明の高純度ジグリシジルアミン系エポキシ化合物の製造方法は、高純度ジグリシジルアミン系エポキシ樹脂を収率良く得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の高純度ジグリシジルアミン系エポキシ化合物とその製造方法について詳細に記載する。
【0021】
本発明の高純度ジグリシジルアミン系エポキシ化合物は、下記一般式(1)
【化2】

で示されるジグリシジルアミン系エポキシ化合物の低純度品を原料とし、これを薄膜蒸留することにより得られる。低純度のジグリシジルアミン系エポキシ化合物としては、特に制限されるものでなく、例えば特許文献1に記載された製造方法によりえることができる。すなわち、フェノキシアニリンとエピクロロヒドリンを反応させることにより、低純度のジグリシジルアミン系エポキシ化合物を製造することができる。このフェノキシアニリンおよびエピクロロヒドリンの反応は、アルコールを含む溶媒中で行うことが好ましく、フェノキシアニリンとエピクロロヒドリンとの反応により生成したジクロロヒドリン体(フェノキシ−N,N−ビス(2−ヒドロキシ−3−クロロプロピル)アニリン)をアルカリ化合物と反応させ、脱塩化水素することによりジエポキシ化合物を調製するとよい。またジクロロヒドリン体をジエポキシ化合物にするとき、第四級アンモニウム塩および/または第四級ホスフォニウム塩を共存させることが好ましい。
【0022】
本発明の高純度グリシジルアミン系エポキシ化合物の化学純度は96%以上であり、より好ましくは98%以上である。高純度グリシジルアミン系エポキシ化合物の化学純度が96%未満であると、貯蔵安定性が低くなり、ジグリシジルアミン系エポキシ化合物と硬化剤を含有してなる樹脂硬化物が所望の性能を示さない。本発明において、グリシジルアミン系エポキシ化合物の化学純度は、液体クロマトグラフィー(LC area%)により測定することができる。
【0023】
本発明の高純度グリシジルアミン系エポキシ化合物に含まれる無機塩素含量は、10ppm以下が好ましく、より好ましくは5ppm以下である。無機塩素含量が10ppmを超えると、金属等を腐蝕させることがあり好ましくない。本発明において、エポキシ化合物中の無機塩素含量は、JIS K 7243−1:2005 エポキシ樹脂の塩素含量の求め方 第1部:無機塩素に従って測定する。
【0024】
本発明の高純度ジグリシジルアミン系エポキシ化合物の色調は、ガードナー色数で8以下が好ましく、より好ましくは6以下である。ガードナー色数が8を超えると、得られる硬化物が着色し好ましくない。ガードナー色数は、JIS K 0071−2 化学製品の色試験方法―第2部:ガードナー色数に従って測定する。
【0025】
高純度グリシジルアミン系エポキシ化合物は、易可けん化塩素含量が好ましくは500ppm以下、より好ましくは200ppm以下にするとよい。易可けん化塩素含量を500ppm以下にすることにより、その硬化物に接触した金属等が腐蝕するのを抑制することができる。エポキシ化合物中の無機塩素含量は、JIS−K 7243−2:2005 エポキシ樹脂の塩素含量の求め方 第2部:易可けん化塩素に従って測定する。
【0026】
JIS−K 7243−2:2005 エポキシ樹脂の塩素含量の求め方 第2部:易可けん化塩素に従って行った。なお、けん化時間は30分とした。
【0027】
本発明の高純度グリシジルアミン系エポキシ化合物は、薄膜蒸留により精製する。薄膜蒸留とは、蒸発面と凝縮面の距離を平均自由行程内にした蒸留装置で、高真空下、試料液体を薄膜状にし、瞬間的に加熱蒸発させ、蒸留分離する操作である。高真空下にすることにより、蒸発を妨げる空気の層を減らすことで蒸発速度が早くなる。また、試料液体を薄膜状にすることにより、試料液体同士が蒸発を妨げることが減らせ、余剰な熱を加えることなく蒸発させることが出来る。これにより、熱に不安定な化合物に余剰な熱を加える必要が無くなり、化合物を熱劣化させずに、蒸発させることが出来るため、ジグリシジルアミン系エポキシ化合物を蒸留するときに、非常に効率の良い精製方法である。
【0028】
本発明に使用される薄膜蒸留装置としては、遠心式分子蒸留装置、流下薄膜式分子蒸留装置が上げられるが、中でも遠心式蒸留装置が好適に用いられる。
【0029】
操作条件としては、薄膜蒸留における蒸発面の加熱温度が好ましくは80〜200℃、より好ましくは100〜180℃にするとよい。蒸発面の加熱温度が80℃未満であるとジグリシジルアミン系エポキシ化合物が蒸発しづらくなり、200℃を超えるとジグリシジルアミン系エポキシ化合物のエポキシ基の開裂、重合などの熱劣化により、薄膜蒸留の収率が低下する。薄膜蒸留における真空度は、10Pa以下が好ましく、より好ましくは5Pa以下である。真空度が10Paを超えると、ジグリシジルアミン系エポキシ化合物が蒸発しづらくなる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により具体的に説明するが、本発明は実施例のみに制限されるものではない。なお、各実施例において得られる高純度ジグリシジルアミン系エポキシ化合物の分析値は、次の方法により測定した。
【0031】
(化学純度)
以下の条件の液体クロマトグラフィー(島津製作所製CLASS−VP)により、ジグリシジルアミン系エポキシ化合物の化学純度(LC area%)を測定した。
・カラム: YMC―Pack ODS−AM303 4.6φ×250mm
・カラム温度: 40℃
・移動相
A:0.1%(v/v)リン酸水溶液
B:メタノール
・グラジエント
時間(分) 組成(A/B)
0 90/10
5 90/10
55 10/90
65 10/90
65.1 90/10
・流量: 1ml/min
・注入量: 3μl
・検出: UV 254nm
・分析時間: 80分
・分析サンプル調製:サンプル0.02gを秤量し、メタノール約50mlに希釈
ただし、上記の分析条件に基づく分析結果と同じ結果が得られる限り、この分析条件に限定されるものではない。
【0032】
(粘度)
・粘度計: RE80U(東機産業(株)製)、ローターコードNo.1
・温度: 40℃
・回転数: 20rpm
ただし、上記の分析条件に基づく分析結果と同じ結果が得られる限り、この分析条件に限定されるものではない。
【0033】
(色調)
JIS K 0071−2 化学製品の色試験方法―第2部:ガードナー色数に従って測定した。
【0034】
(無機塩素含量)
JIS K 7243−1:2005 エポキシ樹脂の塩素含量の求め方 第1部:無機塩素に従って行った。但し、試料量は2gとした。
【0035】
(易可けん化塩素含量)
JIS−K 7243−2:2005 エポキシ樹脂の塩素含量の求め方 第2部:易可けん化塩素に従って行った。なお、けん化時間は30分とした。
【0036】
(合成例1)
温度計、滴下漏斗、冷却管および攪拌機を取り付けた四つ口フラスコに、エピクロロヒドリンを610.6g(6.6mol)、2−プロパノールを509.3g仕込み、窒素パージを行いながら温度を60℃まで上げて4−フェノキシアニリン203.7g(1.1mol)の粉末を3時間かけて添加した。さらに温度を80℃まで上げて18時間撹拌しながら熟成することにより付加反応を実施し、4−フェノキシ−N,N−ビス(2−ヒドロキシ−3−クロロプロピル)アニリンを生成させた。続いて2−プロパノールと残存エピクロロヒドリンの一部710.3gを減圧下に留去した。濃縮物に407.4gのトルエンと硫酸水素テトラブチルアンモニウム11.2g(0.033mol)を添加し、続いて48%水酸化ナトリウム水溶液275g(3.3mol)を1時間で滴下してさらに3時間撹拌しながら熟成し、環化反応を行った。
【0037】
環化反応が終わった後、305.6gの水で洗浄を行い、有機層にさらに203.7gの水、61.1gの2−プロパノールを添加して洗浄を行った。有機層からトルエンとエピクロロヒドリンを減圧下で除き、低純度4−フェノキシ−N,N−ジグリシジルアニリン317.3g(純度(LC area%)91.0%、純度換算収率(4−フェノキシアニリン基準)95.1%)を得た。ガードナー色数は15以上、粘度は、0.33Pa・s(40℃)、無機塩素含量は150ppm、易可けん化塩素含量は284ppmであった。
【0038】
(実施例1)
合成例1で得られた低純度4−フェノキシ−N,N−ジグリシジルアニリン262.1gを、伝熱面積 約0.03m2の流下薄膜式分子蒸留装置(柴田科学社製)を用い、2〜3Paの真空度で、供給液速度約150ml/h、蒸発面の温度135〜150℃にて処理した。給液量に対して前留分4.6重量%を除き、得られた黄淡色透明液体として、4−フェノキシ−N,N−ジグリシジルアニリンを199.2g得た。得られた4−フェノキシ−N,N−ジグリシジルアニリンは、純度98.1%(LC area%)、蒸留収率76.0%、ガードナー色数は4、粘度は0.25Pa・s(40℃)、無機塩素含量は1ppm未満、易可けん化塩素含量は144ppmであった。
【0039】
(実施例2)
合成例1で得られた低純度4−フェノキシ−N,N−ジグリシジルアニリンを31.2kg、伝熱面積 約0.45m2の遠心式分子蒸留装置(日本車輌製造(株)製)を用い、0.4Paの真空度で、蒸発面の温度145〜180℃にて処理した。給液量に対して前留分4.1重量%を除き、得られた黄淡色透明液体として、4−フェノキシ−N,N−ジグリシジルアニリンを25.0kg得た。得られた4−フェノキシ−N,N−ジグリシジルアニリンは、純度98.2%(LC area%)、蒸留収率80.0%、ガードナー色数は4、粘度は0.25Pa・s(40℃)、無機塩素含量は1ppm未満、易可けん化塩素含量は185ppmであった。
【0040】
(比較例1)
合成例1で得られた褐色粘性液体を、三口フラスコに入れ攪拌下、真空度100Pa、バス温250℃で単蒸留したところ、黄淡色透明液体として4−フェノキシ−N,N−ジグリシジルアニリンを得た。得られた4−フェノキシ−N,N−ジグリシジルアニリンは、純度95.0%(LC area%)、蒸留収率10.0%であった。また、ガードナー色数は6、粘度は0.28Pa・s(40℃)、無機塩素含量は1ppm未満、易可けん化塩素含量は220ppmであった。
【0041】
以上の結果を表1に示す。実施例1、2は、比較例1に比べ、高純度のジグリシジルアミン系エポキシ化合物が収率良く得られた。得られたジグリシジルアミン系エポキシ化合物は、無機塩素含量、易可けん化塩素含量が低く、低粘度で色調が薄かった。
【0042】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学純度96%以上である、下記一般式(1)
【化1】

で示される高純度ジグリシジルアミン系エポキシ化合物。
【請求項2】
無機塩素含量が10ppm以下である、請求項1に記載の高純度ジグリシジルアミン系エポキシ化合物。
【請求項3】
色調がガードナー色数で8以下である、請求項1または2に記載の高純度ジグリシジルアミン系エポキシ化合物。
【請求項4】
薄膜蒸留することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の高純度ジグリシジルアミン系エポキシ化合物の製造方法。
【請求項5】
前記薄膜蒸留における蒸発面の加熱温度が80〜200℃であることを特徴とする請求項4に記載の高純度ジグリシジルアミン系エポキシ化合物の製造方法。
【請求項6】
前記薄膜蒸留における真空度が10Pa以下であることを特徴とする請求項4または5に記載の高純度ジグリシジルアミン系エポキシ化合物の製造方法。

【公開番号】特開2012−219081(P2012−219081A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88659(P2011−88659)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(000187046)東レ・ファインケミカル株式会社 (153)
【出願人】(596012397)交洋ファインケミカル株式会社 (3)
【Fターム(参考)】