説明

高純度トリアルキルガリウム及びその製法

【課題】 簡便な方法よる高純度トリアルキルガリウム及びその方法の提供。
【解決手段】 炭化水素の含有量が4質量ppm未満の高純度トリメチルガリウム。 一般式(1)


(式中、Rは、炭素原子数1〜6のアルキル基を示す。)で示されるトリアルキルアルミニウムと一般式(2)


(式中、Xは、ハロゲン原子を示す。)で示されるトリハロゲノガリウムとを混合して反応、還流比を10〜25として初留分を除去し、その後、還流比を6〜15として主留分として、一般式(3)


(式中、Rは、前記と同義である。)で示されるトリアルキルガリウムを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度トリアルキルガリウム及びその製法に関するものである。高純度トリアルキルガリウムは、例えば、エピタキシャル成長法による高機能の化合物半導体の製造原料として有用な化合物である。
【背景技術】
【0002】
従来、高純度トリアルキルガリウムの製法としては、例えば、三塩化ガリウムとトリメチルアルミニウムとをメシチレン中で反応させてトリメチルガリウムを製造する方法が知られている。しかしながら、この方法では、大量のメシチレンが必要であるため、容量の大きな反応釜の使用により操作が煩雑となり、工業的な高純度トリアルキルガリウムの製法としては不適であった(例えば、特許文献1参照)。
又、トリアルキルガリウムと沸点が近い炭化水素は、ガリウム含有薄膜の製造において、当該膜中に混入してしまうことで、電気特性等に悪影響を与える蓋然性が高いという問題があった。しかしながら、このような炭化水素は、高純度トリアルキルガリウム製造過程における蒸留精製等の際に、取り除くことが一般的に困難とされていた。そのため、炭化水素が極めて低減された高純度トリアルキルガリウムを得ることは未達であった。
【特許文献1】特開2005-8553号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、上記問題点を解決し、簡便な方法によって、高純度トリアルキルガリウム及びその方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の課題は、炭化水素の含有量が4質量ppm未満であることを特徴とする、高純度トリメチルガリウムを提供することを課題とする。
【0005】
本発明の課題は、又、一般式(1)
【0006】
【化1】

【0007】
(式中、Rは、炭素原子数1〜6のアルキル基を示す。)
で示されるトリアルキルアルミニウムと一般式(2)
【0008】
【化2】

【0009】
(式中、Xは、ハロゲン原子を示す。)
で示されるトリハロゲノガリウムとを混合して反応させた後、還流比を10〜25として初留分を除去し、その後、還流比を6〜15として主留分として、一般式(3)
【0010】
【化3】

【0011】
(式中、Rは、前記と同義である。)
で示されるトリアルキルガリウムを得ることを特徴とする、高純度トリアルキルガリウムの製法によっても解決される。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、エピタキシャル成長法による高機能の化合物半導体の製造原料として有用な高純度トリアルキルガリウム及びその製法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の高純度トリアルキルガリウムは、炭化水素の含有量が4質量ppm未満であることを特徴とするものである。トリアルキルガリウム中の炭化水素は、例えば、トリアルキルガリウムを使用したガリウム含有薄膜の製造において、ガリウム薄膜中に混入することで、当該膜の電気特性等に悪影響を与える蓋然性が高い化合物である。そのため、当該分野において、トリアルキルガリウム中の炭化水素の含有量を4質量ppm未満することが望ましい。
【0014】
ここで炭化水素とは、例えば、n-ペンタン、2-メチルブタン、2,2-ジメチルプロパン、n-ヘキサン、2-メチルペンタン、3-メチルペンタン、2,2-ジメチルブタン、2,3-ジメチルブタン、n-ヘプタン、2-メチルヘキサン、3-メチルヘキサン、2,2-ジメチルペンタン、2,3-ジメチルペンタン、2,4-ジメチルペンタン、3,3-ジメチルペンタン、2,2,3-トリメチルブタン、n-オクタン、2-メチルヘプタン、3-メチルヘプタン、4-メチルヘプタン、2,2-ジメチルヘキサン、2,3-ジメチルヘキサン、2,4-ジメチルヘキサン、2,5-ジメチルヘキサン、3,4-ジメチルヘキサン、2,2,3-トリメチルペンタン、2,2,4-トリメチルペンタン、2,3,3-トリメチルペンタン、2,2,3,3,-テトラメチルブタン、n-ノナン、n-デカン、及びそれらの異性体が挙げられる。なお、これらの炭化水素は、ここには例示列挙していないが、部分的に不飽和結合を有するものであっても良い。
【0015】
本発明の製法において使用するトリハロゲノガリウムは、前記の一般式(2)で示される。その一般式(2)において、Xは、ハロゲン原子であり、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられるが、好ましくは塩素原子、臭素原子、更に好ましくは塩素原子である。当該トリハロゲノガリウムは、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0016】
本発明の製法において使用するトリアルキルアルミニウムは、前記の一般式(1)で示される。その一般式(1)において、Rは、炭素数1〜6のアルキル基を示し、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基が挙げられるが、好ましくはメチル基、エチル基である(即ち、トリアルキルアルミニウムが、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム)。なお、これらの基は、各種異性体も含む。
【0017】
前記トリアルキルアルミニウムの使用量は、トリハロゲノガリウム1モルに対して、好ましくは3.0〜4.0モル、更に好ましくは3.0〜3.5モルである。
【0018】
本発明の製法は、還流比をコントロールすることにより高純度トリアルキルガリウムを製造することが本質的な部分ではあるが、更には、還流比に加えて温度条件(反応温度、還流温度等)をコントロールすることで、より一層の効果を生じさせることができる(より高純度のトリアルキルガリウムを得ることができる)。なお、以下で言及する初留分とは、4質量ppm以上の炭化水素を含有するトリアルキルガリウムを主として含む留分を示す。一方、主留分とは、4質量ppm未満の炭化水素を含有する高純度トリアルキルガリウムである留分を示す。
【0019】
本発明の製法の好ましい態様としては、例えば、トリアルキルアルミニウムとトリハロゲノガリウムとを混合して、好ましくは70〜120℃、更に好ましくは75〜105℃で反応させた後、還流比(留出液量に対する還流液量の比率)を好ましくは10〜25、更に好ましくは10〜20として初留分を除去し、その後、還流比を好ましくは6〜15、更に好ましくは6〜10として主留分としてトリアルキルガリウムを得ることによって行われる。なお、反応系内の圧力は適宜調節する。
【0020】
本発明の製法において使用するトリアルキルアルミニウムは、予め前処理したものを用いるのが望ましく、具体的には、トリアルキルアルミニウム(市販品でも合成品でも良い)を、好ましくは50〜120℃、更に好ましくは65〜100℃で全還流させた後に、還流比を好ましくは4〜20、更に好ましくは4〜15として最初の留分を除去した後、還流比を好ましくは0.5〜15、更に好ましくは1〜10として続く留分として得られたトリアルキルアルミニウムが好適に使用される。又、留分を除去するために必要な蒸留塔は、製造規模、条件等に応じて最適なサイズのものを適宜選択することができる。
【0021】
なお、より高純度のトリアルキルガリウムを得るために、トリアルキルガリウムは、更に精製しても良い。その精製には、例えば、公知の方法も採用することができる(例えば、非特許文献1参照)。
【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc.,84,3605(1962)
【実施例】
【0022】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。なお、トリアルキルガリウムの金属原子の分析は、誘導プラズマ発光分析法(ICP-OES法)にて行った。
【0023】
実施例1(高純度トリメチルガリウムの合成)
還流冷却器、温度計及び蒸留塔を備えた内容積28Lの容器に、トリメチルアルミニウム(炭化水素化合物の含量;600質量ppm)15.5kg(215mol)を加え、系内を全還流状態(系内圧力;25kPaA、系内温度;80〜85℃)で0.5時間保持した後、還流比を10として、最初の留分として仕込み量の20%を除去した。その後、還流比を3として、続く留分として、仕込み量に対して65〜70%の精製されたトリメチルアルミニウムを取得した。
次いで、還流冷却器、温度計及び蒸留塔を備えた内容積28Lの容器に、塩化ガリウム7.5kg及び前記の精製されたトリメチルアルミニウム10.5kgを加え、反応系内を全還流状態(系内圧力;常圧、系内温度;80〜90℃)で0.5時間保持した後、還流比を10として、初留分として仕込み量の5%を除去した。その後、還流比を6として、主留分として、仕込み量に対して80〜85%のトリメチルガリウムを得た。これを3回繰り返して得られたトリメチルガリウムを還流冷却器、温度計及び蒸留塔を備えた内容積28Lの容器に再度入れ、系内圧力:常圧、系内温度:56℃で、還流比を20として、初留分として仕込み量の12%を除去した。その後、還流比を10とし主留分として、仕込み量に対して60〜65%を取得した。その結果、炭化水素の含有量が4質量ppm未満である高純度トリメチルガリウム8kgを得た。
【0024】
比較例1(トリメチルガリウムの合成)
還流冷却器、温度計及び蒸留塔を備えた内容積28Lの容器に、トリメチルアルミニウム(炭化水素化合物の含量;600質量ppm)14.5kg(201mol)を加え、系内を全還流状態(系内圧力;25kPaA、系内温度;80〜85℃)で0.5時間保持した後、還流比を3として、最初の留分として仕込み量の15%を除去した。その後、還流比を0.3として、続く留分として、仕込み量に対して73%のトリメチルアルミニウムを取得した。
次いで、還流冷却器、温度計及び蒸留塔を備えた内容積28Lの容器に、塩化ガリウム7.5kg及び前記の精製されたトリメチルアルミニウム10.5kgを加え、反応系内を全還流状態(系内圧力;常圧、系内温度;80〜90℃)で0.5時間保持した後、還流比を10として、初留分として仕込み量の5%を除去した。その後、還流比を3として、留分として、仕込み量に対して80〜85%のトリメチルガリウムを得た。これを3回繰り返して得られたトリメチルガリウムを還流冷却器、温度計及び蒸留塔を備えた内容積28Lの容器に再度入れ、系内圧力:常圧、系内温度:56℃で還流比を10として、留分として仕込み量の12%を除去した。その後、還流比を5とし留分として、仕込み量に対して60〜65%を取得した。その結果、炭化水素の含有量が20〜80質量ppmであるトリメチルガリウム8kgを得た。
【0025】
実施例2(高純度トリエチルガリウムの合成)
実施例1において、トリメチルアルミニウムの代わりにトリエチルアルミニウムを用いること以外、実施例1と同様に反応を行うと、炭化水素が4質量ppm未満の高純度トリエチルガリウムが得られる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、高純度トリアルキルガリウム及びその製法に関するものである。高純度トリアルキルガリウムは、例えば、エピタキシャル成長法による高機能の化合物半導体の製造原料として有用な化合物である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素の含有量が4質量ppm未満であることを特徴とする、高純度トリメチルガリウム。
【請求項2】
一般式(1)
【化1】

(式中、Rは、炭素原子数1〜6のアルキル基を示す。)
で示されるトリアルキルアルミニウムと一般式(2)
【化2】

(式中、Xは、ハロゲン原子を示す。)
で示されるトリハロゲノガリウムとを混合して反応させた後、還流比を10〜25として初留分を除去し、その後、還流比を6〜15として主留分として、一般式(3)
【化3】

(式中、Rは、前記と同義である。)
で示されるトリアルキルガリウムを得ることを特徴とする、高純度トリアルキルガリウムの製法。
【請求項3】
トリアルキルアルミニウムが、予め還流させた後に、還流比を4〜20として初留分を除去した後、還流比を0.5〜15として主留分として得られたものである、請求項2記載の高純度トリアルキルガリウムの製法。
【請求項4】
トリアルキルガリウムが、トリメチルガリウム又はトリエチルガリウムである請求項2乃至3記載の高純度トリアルキルガリウムの製法。