説明

高純度水素化ゲルマニウムの製造法

二酸化ゲルマニウムを40g/L以上で溶解限度以下の濃度で含有するアルカリ水溶液を隔膜セル内のニッケル陰極側にて電流密度1.0〜1.5A/cm2及び温度65℃以下で電解処理して水素化ゲルマニウムを製造するに際し、水素化ゲルマニウムに対して制限された不純物の最低見込含有量を達成するに必要な時間に亘ってアルカリ水溶液に電流を先行的に流す。更に高純度にするには分離された水素化ゲルマニウムを隔膜法で精製する。結果としてSiH4、AsH3、PH3、H2S、CH4、Fe、Ni、Al、Ca、Mg等の不純物の合計含有率が1×10-6%〜1×10-6%以下で比較的広範な利用分野に適合する水素化ゲルマニウムが得られる。水素化ゲルマニウムの生成率は40〜50g/hrである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに提案する発明はゲルマニウム含有材の製造法に関するものであり、特にマイクロエレクトロニクス技術におけるゲルマニウム源として使用するのに適した高純度水素化ゲルマニウムを製造するための電気化学的方法の開発に関するものである。
【背景技術】
【0002】
25〜35g/Lの二酸化ゲルマニウムを含有するアルカリ水溶液を隔膜セル内のニッケル陰極側にて電流密度1.0〜1.5A/cm2で電解処理することにより水素化ゲルマニウムを製造する方法は知られており、この場合の電解処理は、陰極室で水素化ゲルマニウムと水素が除去された後の電解液を陽極室へ供給すると共に陽極室で酸素が除去された後の電解液を陰極室へ供給するという電解液流れの交差混合によって行われる(特許文献1参照)。
【特許文献1】仏国特許第1732697号明細書
【0003】
この公知の方法は生産性が10g/hr程度と低く、また得られる水素化ゲルマニウム中のSiH4、AsH3、PH3、H2S、CH4、Fe、Ni、Al、Ca、Mg等の不純物の合計含有率も1×10-4%以下で、このことがこの製法の実用面、特にSi−Geエピタキシャル構造の製造における利用を妨げており、水素化ゲルマニウムの純度の更なる改善が求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の根底をなす課題は、電解法における水素化ゲルマニウムの純度を改善すると共に生産性を改善し、同時に低エネルギー消費量で特徴付けられる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、この課題は、二酸化ゲルマニウムを含有するアルカリ水溶液を隔膜セル内のニッケル陰極側にて電流密度1.0〜1.5A/cm2で電解処理し、この際に電解処理は陰極室で水素化ゲルマニウムと水素が除去された後の電解液を陽極室へ供給すると共に陽極室で酸素が除去された後の電解液を陰極室へ供給するという電解液流れの交差混合によって行ない、生成された水素化ゲルマニウムを水素との混合物から分離することにより水素化ゲルマニウムを製造する方法において、前記アルカリ水溶液に65℃以下の温度で水素化ゲルマニウムに対して制限された不純物の最低見込含有量を達成するに必要な時間に亘って電流を先行的に流し、その後、前記アルカリ水溶液に二酸化ゲルマニウムを40g/L以上で溶解限度以下の濃度で添加して65℃以下の温度で電解処理することにより解決される。
【0006】
水素化ゲルマニウムを最大見込生成率(50g/hr)で製造する場合、電解処理は二酸化ゲルマニウム濃度50g/L及び電解液温度65℃で行うことが望ましい。
【0007】
多量の水素化ゲルマニウムの製造には、水素との混合物から水素化ゲルマニウムを分離する際の冷却と凝縮がかなり低温で行われるので、高いエネルギー消費が伴う。従って多量の水素化ゲルマニウムの製造時にエネルギー消費を削減するには、水素化ゲルマニウムを分離する前に拡散隔膜を用いて前記混合物を濃縮しておくことが望ましい。水素化ゲルマニウムを濃縮すると、冷却すべき水素の量が減少し、これによってエネルギー消費量が削減される。拡散隔膜を用いた水素化ゲルマニウムの濃縮は室温で行われる。
【0008】
このようにして合成され分離された水素化ゲルマニウム中のSiH4、AsH3、PH3、H2S、CH4、Fe、Ni、Al、Ca、Mg等々の不純物の合計含有率は1×10-6%以下であり、これは広範な利用分野、特に放射線検出器用のゲルマニウム源として適合する。
【0009】
不純物含有率の低い水素化ゲルマニウムは数多くの実用利用分野で求められている。これを達成するには、分離された水素化ゲルマニウムを更に追加の精製処理に付す必要がある。公知の精製処理法、例えばセンターポットによる精留法などによって低沸点及び高沸点で分解される不純物の除去が確実に行えるが、同時に高いエネルギー消費が要求される。熱蒸留法も浮遊微粒子の確実な除去に有効であるが、やはり高いエネルギー消費が要求される。
【0010】
このように不純物の含有率が低い水素化ゲルマニウムを同時に付加的なエネルギー消費を要することなく製造するため、本発明による方法では、二酸化ゲルマニウムを含有するアルカリ水溶液を隔膜セル内のニッケル陰極側にて電流密度1.0〜1.5A/cm2で電解処理し、この際に電解処理は陰極室で水素化ゲルマニウムと水素が除去された後の電解液を陽極室へ供給すると共に陽極室で酸素が除去された後の電解液を陰極室へ供給するという電解液流れの交差混合によって行ない、電解処理後の水素との混合物から水素化ゲルマニウムを分離することにより水素化ゲルマニウムを製造する方法において、前記アルカリ水溶液に65℃以下の温度で水素化ゲルマニウムに対して制限された不純物の最低見込含有量を達成するに必要な時間に亘って電流を先行的に流し、その後、前記アルカリ水溶液に二酸化ゲルマニウムを40g/L以上で溶解限度以下の濃度で添加して65℃以下の温度で電解処理し、この間に分離される水素化ゲルマニウムを隔膜法で精製処理する。
【0011】
この場合、水素化ゲルマニウムを最大見込生成率(50g/hr)で製造するには電解処理を二酸化ゲルマニウム濃度50g/L及び電解液温度65℃で行うことが望ましい。
【0012】
多量の水素化ゲルマニウムを製造する場合、水素化ゲルマニウムを分離前に拡散隔膜を用いて濃縮することが望ましい。
【0013】
SiH4、AsH3、PH3、H2S、CH4、Fe、Ni、Al、Ca、Mg等の不純物の合計含有率が1×10-7%以下でマイクロエレクトロニクス技術におけるゲルマニウム源として使用するのに適した水素化ゲルマニウムを製造するためには、分離した水素化ゲルマニウムをガス拡散隔膜を用いて精製処理することが好ましく、これにより分子不純物及び金属形態の不純物の同時除去が確実に果たされる。
【0014】
サブミクロンサイズの浮遊固体粒子である異種不純物は、例えば光学及びレーザー技術等の数多くの実用的利用分野における制限ファクターである。これを除去するには、精製処理後の水素化ゲルマニウムを更に室温で超濾過隔膜に通し、これによって0.05μmサイズの浮遊微粒子を5.5×103個/モル以下のレベルにまで確実に除去することが望ましい。
【0015】
これらの隔膜は、高分子材料、金属、或いはセラミック製のものとすることができる。
【0016】
本発明による方法の新規な特徴は、先ず二酸化ゲルマニウムの添加前にアルカリ水溶液に電流を先行的に流し、これにより試薬及び装置材料中に存在するSiH4、AsH3、PH3、H2S、CH4等の溶解不純物の除去を確実にして、分離後に得られる水素化ゲルマニウム中の全不純物を100倍以上減少させ、分離後の水素化ゲルマニウムの隔膜法による高純度化レベルをも向上させることにある。アルカリ水溶液に電流を流すと陰極側で水素が遊離することは周知である。上述の不純物の含有量に対する水素の定量分析は、アルカリ水溶液の電解処理を実行する際の電解液から不純物が除去される度合いの評価基準である。電解処理は、製造される水素化ゲルマニウムに対して除去すべき不純物の含有量が最低見込含有量に達するまで実行される。電解液温度65℃以下で二酸化ゲルマニウムの濃度を40g/L以上とすることにより生成率を40〜50g/hrとすることができ、これは従来技術に比べて4〜5倍向上している。二酸化ゲルマニウム濃度を40g/L未満にすると生成率は3倍以下に低下する。これは、二酸化ゲルマニウム濃度が40g/L未満では水素化ゲルマニウムの形成が二酸化ゲルマニウム濃度に対する依存性の影響で低下するという事実で説明される。
【0017】
65℃を超える温度で電解処理を行うと、上記濃度で二酸化ゲルマニウムの熱分解が増加することから水素化ゲルマニウムの生成率が低下する事態を招く。隔膜法による精製処理は最も廉価で効率の良い方法である。合成後に分離される水素化ゲルマニウムは、前述のように不純物合計含量が1×10-6%未満というかなり高い精製レベルに達していることから、隔膜法は室温下で容易に実行でき、それによって分子不純物及び金属不純物の全体的な除去レベルを10倍以上とし、且つサブミクロンサイズの浮遊微粒子を5.5×103個/モル未満のレベルにまで除去することができる。合成後に分離された水素化ゲルマニウムが例えば従来技術における1×10-4%のように1×10-6%を超える合計含有量の不純物を含有していると隔膜法による高純度化が妨げられ、或る程度までの不純物の除去しかできないことになる。従って、隔膜法で更に高純度化すべき水素化ゲルマニウム合成段階における上述の純度レベルは重要な特徴である。以上に述べた特徴の全ては水素化ゲルマニウムの合成段階のみならずその後の精製処理段階においても重要であり、その理由は、最小の見込みエネルギー消費量で高純度の水素化ゲルマニウムを製造するには両者が共に必要条件であると共に充分条件であるからである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の実施可能性を明確にする説明は以下の実施例で裏づけられる。
【0019】
フィルタープレス型単極セル内で表面積500cm2のニッケル陰極側に水素化ゲルマニウムを生成させる。2.5NのKOH溶液をセル内に注ぎ、SiH4、AsH3、PH3、H2S、CH4等の溶解不純物濃度が最低見込み含有率になるまで温度65℃及び電流密度1.5A/cm2で電流を流した。電解処理遂行時間の評価は上記不純物の含有量に対する水素生成量の分析結果を基準とした。その後、二酸化ゲルマニウムを濃度50g/Lまで上記アルカリ水溶液に添加し、電解処理を65℃で実行した。電解処理中の電極は冷水で冷却した。陰極側に電解液から分離された陰極ガスが形成された。この陰極ガスは水素と水素化ゲルマニウムからなっている。ガスクロマトグラフによる分析結果によれば、水素ガス中の水素化ゲルマニウムの濃度は6%であった。このガス混合物を分画して水素化ゲルマニウムを分離した。分離に先立ち、ポリ(アリレートジメチルシロキサン)ブロックコーポリマーによるPDMSのようなガス分画拡散隔膜を用いて水素化ゲルマニウムを濃縮し、その後、凝固点降下法を用いて水素化ゲルマニウムを分離した。
【0020】
ガスクロマトグラフ及び化学的スペクトル分析法の結果によれば、合成後に分離された水素化ゲルマニウム中のSiH4、AsH3、PH3、H2S、CH4、Fe、Ni、Al、Ca、Mg等の不純物の合計含有率は1×10-6%以下であった。この方法の水素化ゲルマニウムの生成率は50g/hrであった。
【0021】
ここで、上記不純物の除去レベルを更に高める必要がある場合は、以上のようにして得られた水素化ゲルマニウムをガス拡散隔膜による隔膜法で精製し、これによって分子不純物及び金属不純物を合計含有率1×10-7%未満にまで確実に除去する。尚、ガス拡散隔膜としては、水素化ゲルマニウムの濃縮用のものと同じ隔膜を使用することができる。この精製処理は室温で行われる。
【0022】
制限すべき不純物がサブミクロンサイズの懸濁固体粒子の形態の異種不純物である場合は、例えばラブサン(lavsan)製の原子フィルターなどの超濾過隔膜を用いて付加的な水素化ゲルマニウムの高純度化精製処理を行う。限外顕微鏡による分析結果によれば、精製処理後のこれら不純物の含有量は5.5×103個/モル以下(0.05μm粒子について)であった。
【0023】
以上に述べたような電気化学的合成及び分離後の水素化ゲルマニウムの隔膜法による高純度化精製処理を含む高純度水素化ゲルマニウムの製造法は、SiH4、AsH3、PH3、H2S、CH4、Fe、Ni、Al、Ca、Mg等の不純物の合計含有率が1×10-6%以下で0.05μmサイズの浮遊微粒子含有量が5.5×103個/モル以下という高度の高純度化効果を達成するものである。
【0024】
この方法による水素化ゲルマニウムの生成率は40〜50g/hrに達し、しかも本方法は、水素ガスとの混合物からの分離工程における水素化ゲルマニウムの濃縮と、分離後の水素化ゲルマニウムの精製処理を室温で行うことができるので、エネルギー消費量が低いという特徴を備えている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化ゲルマニウムを含有するアルカリ水溶液を隔膜セル内のニッケル陰極側にて電流密度1.0〜1.5A/cm2で電解処理し、この際に電解処理は陰極室で水素化ゲルマニウムと水素が除去された後の電解液を陽極室へ供給すると共に陽極室で酸素が除去された後の電解液を陰極室へ供給するという電解液流れの交差混合によって行ない、生成された水素化ゲルマニウムを水素との混合物から分離することにより水素化ゲルマニウムを製造する方法において、水素化ゲルマニウムに対して制限された不純物の最低見込含有量を達成するに必要な時間に亘って前記アルカリ水溶液に先行的に電流を流し、その後、前記アルカリ水溶液に二酸化ゲルマニウムを40g/L以上で溶解限度以下の濃度で添加して65℃以下の温度で電解処理することを特徴とする高純度水素化ゲルマニウムの製造法。
【請求項2】
二酸化ゲルマニウムを前記水溶液に50g/Lの濃度まで添加し、電解処理を温度65℃で行うことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
水素化ゲルマニウムを分離前にガス拡散隔膜を用いて濃縮することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ガス拡散隔膜が高分子材料製、金属製、又はセラミック製であることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
二酸化ゲルマニウムを含有するアルカリ水溶液を隔膜セル内のニッケル陰極側にて電流密度1.0〜1.5A/cm2で電解処理し、この際に電解処理は陰極室で水素化ゲルマニウムと水素が除去された後の電解液を陽極室へ供給すると共に陽極室で酸素が除去された後の電解液を陰極室へ供給するという電解液流れの交差混合によって行ない、生成された水素化ゲルマニウムを水素との混合物から分離することにより水素化ゲルマニウムを製造する方法において、水素化ゲルマニウムに対して制限された不純物の最低見込含有量を達成するに必要な時間に亘って前記アルカリ水溶液に先行的に電流を流し、その後、前記アルカリ水溶液に二酸化ゲルマニウムを40g/L以上で溶解限度以下の濃度で添加して65℃以下の温度で電解処理し、更に分離後の水素化ゲルマニウムを隔膜法によって精製処理することを特徴とする高純度水素化ゲルマニウムの製造法。
【請求項6】
二酸化ゲルマニウムを前記水溶液に50g/Lの濃度まで添加し、電解処理を温度65℃で行うことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
水素化ゲルマニウムを分離前にガス拡散隔膜を用いて濃縮することを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項8】
分離後に得られた水素化ゲルマニウムをガス拡散隔膜を用いて精製処理することを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項9】
ガス拡散隔膜を用いた精製処理の後に、水素化ゲルマニウムを超濾過隔膜に通すことにより追加の精製処理を行うことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
各隔膜が高分子材料製、金属製、又はセラミック製であることを特徴とする請求項5、7〜9のいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2007−527467(P2007−527467A)
【公表日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−518126(P2006−518126)
【出願日】平成16年7月6日(2004.7.6)
【国際出願番号】PCT/EP2004/007389
【国際公開番号】WO2005/005673
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(391009659)リンデ アクチエンゲゼルシヤフト (106)
【氏名又は名称原語表記】LINDE AKTIENGESELLSCHAFT
【住所又は居所原語表記】Abraham−Lincoln−Strasse 21, D−65189 Wiesbaden,Germany
【Fターム(参考)】