説明

高純度窒化ホウ素ナノチューブの製造方法

【課題】 高純度で良質の窒化ホウ素ナノチューブを広い反応温度範囲にわたって製造できる、高純度窒化ホウ素ナノチューブの製造方法を提供する。
【解決手段】 ホウ素(B)粉末と酸化鉄(FeO)粉末と酸化マグネシウム(MgO)粉末とからなる混合物を、アンモニアガス気流中で所定時間加熱し、高純度窒化ホウ素ナノチューブを合成する。1100〜1700℃で0.7〜3時間保持することで、直径が約50nm、壁厚10〜15nm、長さ数十μmを有する高純度窒化ホウ素ナノチューブを得ることができる。半導体材料、エミッタ材料、耐熱性充填材料、高強度材料、触媒等として利用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体材料、エミッタ材料、耐熱性充填材料、高強度材料、触媒等として利用可能な高純度窒化ホウ素ナノチューブを広範囲の反応温度で大量に製造できる、高純度窒化ホウ素ナノチューブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ホウ素ナノチューブは、高温での耐酸化性に優れた材料であるとともに高強度であるため、これらの特性が要求される分野、例えば、半導体材料、エミッタ材料、耐熱性充填材料、高強度材料、触媒等において特に有用である。
【0003】
従来、窒化ホウ素ナノチューブは、アーク放電法(例えば、非特許文献1参照)、レーザー加熱法(例えば、非特許文献2参照)、カーボンナノチューブを鋳型とする置換反応による方法(例えば、特許文献1,2及び非特許文献3〜5参照)、ボールミルを用いる微細粉の生成とアニールによる方法(例えば、非特許文献6参照)によって製造されているが、これらの製造方法は大量生産には適していない。
【0004】
最近、二層窒化ホウ素ナノチューブや単層窒化ホウ素ナノチューブが、改良されたアーク放電法(例えば、非特許文献7参照)やプラズマアーク法(例えば、非特許文献8参照)によってそれぞれ製造されているが、これらの方法では、純度の点でまだ満足できる段階ではない。
【0005】
また、ホウ素粉末及び酸化マグネシウムのような金属酸化物の混合物を加熱して酸化ホウ素の蒸気を発生させ、これとアンモニアガスを反応させて、不純物となる炭素を含まない窒化ホウ素ナノチューブの製造方法も提案されている(例えば、特許文献3及び非特許文献9〜11参照)。
しかしながら、この製造方法は、収量や純度の面で反応温度の影響を大きく受け、1100℃以下では、良質の高純度窒化ホウ素ナノチューブが得られる。しかしながら、収量が例えば数十mgという低い欠点を有している。逆に、反応温度を高くすると収率は向上するが、生成した窒化ホウ素ナノチューブの直径が1μm(マイクロメートル)のオーダーまで増加してしまい、nm(ナノメートル)サイズの直径を有する、いわゆるナノチューブは得られない。
【0006】
【特許文献1】特開2000−109306号公報
【特許文献2】特開2002−97004号公報
【特許文献3】特開2004−161546号公報
【非特許文献1】A.Loiseau 他、Carbon, 36巻、743 頁、1997年
【非特許文献2】T.Laude 他、Appl.Phys.Lett., 76巻、3239頁、2000年
【非特許文献3】D.Gorberg 他、Appl.Phys.Lett., 79巻、415 頁、2000年
【非特許文献4】D.Gorberg 他、Chem.Phys.Lett., 323巻、185 頁、2000年
【非特許文献5】D.Gorberg 他、Solid State Commun., 116巻、1 頁、2000年
【非特許文献6】Y.Chen他、Appl.Phys.Lett.74 巻、2960頁、1999年
【非特許文献7】R.S.Lee 他、Phys.Rev.B,64 巻、1405頁、2001年
【非特許文献8】J.Cumings 他、Chem.Phys.Lett.316巻、 211頁、2000年
【非特許文献9】C.Tang他、Chem.Commun., 2002年、1290頁
【非特許文献10】C.Tang他、J.solid state chem., 177巻、2670頁、2004年
【非特許文献11】C.Tang他、Appl.Phys.A.,75 巻、 681頁、2002年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述したように、従来の技術においては、収率の向上と品質の向上とを同時に満足させる窒化ホウ素ナノチューブの製造方法を提供することは非常に困難であるという課題がある。
【0008】
本発明は上記課題に鑑み、高純度で良質の窒化ホウ素ナノチューブを広い反応温度範囲にわたって製造できる、高純度窒化ホウ素ナノチューブの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の高純度窒化ホウ素ナノチューブの製造方法は、ホウ素(B)粉末と酸化鉄(FeO)粉末と酸化マグネシウム(MgO)粉末とからなる混合物を、アンモニアガス気流中で所定時間加熱し、高純度窒化ホウ素ナノチューブを合成することを特徴とする。
上記構成において、酸化マグネシウム粉末とホウ素粉末の重量比は、1:10〜2:1の範囲とし、ホウ素粉末と酸化鉄粉末の重量比は10:1〜1:2の範囲とすることが好ましい。加熱の温度は、好ましくは、1100〜1700℃の範囲とする。加熱の時間は0.7〜3時間の範囲とする。また、アンモニアガスの流量は、200〜400cm3 /分の範囲とすることが好ましい。
上記構成によれば、従来の窒化ホウ素ナノチューブの原料であったホウ素粉末及び酸化マグネシウム粉末に、さらに、遷移金属である鉄の酸化物を触媒として加えることにより、広い反応温度範囲にわたって高収率で良質の窒化ホウ素ナノチューブを製造することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の高純度窒化ホウ素ナノチューブの製造方法によれば、反応温度の厳密な制御や管理を必要としない広い反応温度範囲にわたって、高品質で高純度の窒化ホウ素ナノチューブを高収率で得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づき詳細に説明する。
図1は、本発明の窒化ホウ素ナノチューブを製造する装置の一例を示す模式図である。この装置を例に製造方法を説明する。
図において、縦型高周波誘導加熱装置1は、反応管2と、反応管2の周囲に配設される誘導加熱コイル3と、反応管2内に配設されるグラファイトなどからなるサセプター4の付いたボート5に収容される坩堝6と、を備えている。
誘導加熱コイル3に対向する位置に配置される坩堝6には、ホウ素(B)粉末と酸化鉄(FeO)粉末と酸化マグネシウム(MgO)粉末とからなる混合物7が収容され、誘導加熱コイル3により加熱される。また、矢印8は反応管2に供給されるアンモニアガスを表している。
ここで、縦型高周波誘導加熱装置1は縦型に限らず横型でもよい。また、加熱方法は、高周波誘導加熱に限らず、坩堝6を所定の温度に加熱できるランプ加熱や抵抗加熱による加熱装置であってもよい。
【0012】
図1の装置を用いて窒化ホウ素ナノチューブを製造する方法を説明する。
先ず、ホウ素粉末と酸化鉄粉末と酸化マグネシウム粉末とからなる混合物7を窒化ホウ素製の坩堝6に入れ、この坩堝6を窒化ホウ素製のボート5の中に設置する。
次に、反応管2にアンモニアガス8を流しながら、坩堝6を誘導加熱コイル3により所定の加熱温度に昇温し、所定時間保持する。具体的には、1100〜1700℃の加熱温
度で、0.7〜3時間保持する。
上記の操作を施すことで、窒化ホウ素ボート5内には、合成された生成物である窒化ホウ素ナノチューブが白色の固体として堆積する。
【0013】
この際、酸化マグネシウム粉末とホウ素粉末の重量比は1:10〜2:1の範囲が好ましい。ホウ素粉末と酸化鉄粉末の重量比は10:1〜1:2の範囲が好ましい。この範囲よりもホウ素粉末が多いと収量が低下するので好ましくない。逆に、この範囲よりもホウ素粉末の量が少ない場合には、生成物中に粒子等の不純物が混入するので好ましくない。さらに、酸化マグネシウム粉末の重量比がこの範囲よりも多いと不純物が混入し好ましくない。逆に、この範囲よりも酸化マグネシウム粉末の量が少ない場合には、収量が低下するので好ましくない。
【0014】
加熱温度は、1100〜1700℃の範囲が好ましい。加熱温度が1700℃以上では生成物に不純物が混入し、好ましくない。逆に、1100℃以下の場合は収量が著しく低下するので好ましくない。
【0015】
加熱時間は0.7〜3時間の範囲が好ましく、3 時間で反応が完結するので、これ以上の時間をかける必要はない。0.7時間以下では収量が低下してしまう。
【0016】
アンモニアガスの流量は200〜400cm3 /分の範囲が好ましく、400cm3 /分の流量で十分な収量が得られるので、これ以上の流量のガスを無駄に流す必要はない。200cm3 /分以下の流量では、窒化ホウ素ナノチューブを得るのに十分な流量ではない。
【0017】
本発明の高純度窒化ホウ素ナノチューブの製造方法によれば、従来の窒化ホウ素ナノチューブの原料であったホウ素粉末及び酸化マグネシウム粉末に、さらに、遷移金属である鉄の酸化物(FeO)を触媒として加えることにより、広い反応温度範囲にわたって高収率で良質の窒化ホウ素ナノチューブを製造することができる。
【実施例1】
【0018】
次に、実施例を示して、さらに本発明を詳細に説明する。
実施例1として、ホウ素粉末(レアメタリック社製、純度95%)2g、酸化鉄粉末(和光純薬工業(株)製、純度99.5%)1g及び酸化マグネシウム粉末(和光純薬工業(株)製、純度99.9%)1gの混合物を窒化ホウ素製の坩堝6に入れ、この坩堝6をグラファイトサセプター4の付いた縦型高周波誘導加熱装置1中の窒化ホウ素製ボート5の中に設置した。
反応管2に400cm3 /分の流量のアンモニアガス8を流しながら、1500℃で1時間加熱した。窒化ホウ素製ボート5内に白色の固体が200mg堆積した。
【0019】
図2は、実施例1で得られた白色固体の透過型電子顕微鏡像を示す図である。図から、実施例で得られた白色固体からナノチューブが形成されていることが確認でき、その直径は約50nm、壁厚10〜15nm、長さ数十μmを有するナノチューブであることが分かった。また、透過型電子顕微鏡像の観察から、ナノチューブ以外の他の粒子などを含まないことが分かった。さらに、このナノチューブのX線分析を行い、合成したナノチューブが、不純物を含まない高純度の窒化ホウ素からなることが判明した。
【実施例2】
【0020】
実施例2として、加熱温度を1100℃にした以外は、実施例1と同様の条件で製造した。その結果、白色固体が30mg得られた。分析の結果、直径は約50nm、壁の厚さ10〜15nm、長さ数十μmを有する窒化ホウ素ナノチューブであり、実施例1と同様
な品質であった。
【実施例3】
【0021】
実施例3として、加熱温度を1300℃にした以外は実施例1と同様な条件で製造した。その結果、白色固体が100mg堆積した。分析したところ、実施例1と同様に、直径は約50nm、壁の厚さ壁の厚さが10〜15nm、長さが数十μmを有する窒化ホウ素ナノチューブであった。
【実施例4】
【0022】
実施例4として、加熱温度を1700℃にした以外は実施例1と同様の条件で製造した結果、その直径は約50nm、壁の厚さ10〜15nm、長さ数十μmの窒化ホウ素ナノチューブが240mg得られた。
【0023】
上記実施例1〜4に示したように、1100〜1700℃の広い反応温度で、かつ、高収率で、直径、壁厚、長さの変動のない窒化ホウ素ナノチューブが製造できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明により、広い反応温度範囲で高純度の窒化ホウ素ナノチューブが収率よく製造可能となったことから、半導体材料、エミッタ材料、耐熱性充填材料、高強度材料、触媒等など、種々の機能性材料として利用されることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の窒化ホウ素ナノチューブを製造する装置の一例を示す模式図である。
【図2】実施例1で得られた白色固体の透過型電子顕微鏡像を示す図である。
【符号の説明】
【0026】
1:縦型高周波誘導加熱装置
2:反応管
3:誘導加熱コイル
4:サセプター
5:ボート
6:坩堝
7:混合物
8:アンモニアガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ素(B)粉末と酸化鉄(FeO)粉末と酸化マグネシウム(MgO)粉末とからなる混合物を、アンモニアガス気流中で所定時間加熱し、高純度窒化ホウ素ナノチューブを合成することを特徴とする、高純度窒化ホウ素ナノチューブの製造方法。
【請求項2】
前記酸化マグネシウム粉末と前記ホウ素粉末の重量比が1:10〜2:1の範囲であり、前記ホウ素粉末と前記酸化鉄粉末の重量比が10:1〜1:2の範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の高純度窒化ホウ素ナノチューブの製造方法。
【請求項3】
前記加熱温度を、1100〜1700℃の範囲とすることを特徴とする、請求項1に記載の高純度窒化ホウ素ナノチューブの製造方法。
【請求項4】
前記加熱時間を、0.7〜3時間の範囲とすることを特徴とする、請求項1に記載の高純度窒化ホウ素ナノチューブの製造方法。
【請求項5】
前記アンモニアガスの流量を、200〜400cm3 /分の範囲とすることを特徴とする、請求項1に記載の高純度窒化ホウ素ナノチューブの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−240942(P2006−240942A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−61321(P2005−61321)
【出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】