説明

高細胞密度の培養物からのアデノウイルスの精製方法

本発明は、宿主細胞DNA断片化および/または沈殿後、接線流濾過での清澄化工程を用いて、高細胞密度懸濁液から大容量のアデノウイルス精製をする方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス生産分野に関する。より詳細には、本発明は、細胞懸濁液からアデノウイルス粒子を精製するための改良された方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワクチンの生産分野における近年の開発において、大量生産が必要とされるようになってきた。感染症に対抗するのに十分な量の(組換え)ワクチン接種を用いて世界を支えるため、安定的に、且つ、高収率で製造する方法が必要である。
【0003】
感染症に対するワクチンは、組換えアデノウイルス粒子に基づくものである。そのため、細胞を用いたアデノウイルス生産方法の最適化に多大な努力が払われてきた。細胞は、より高い総ウイルス収率を得るため、さらに高い密度で培養され、その後、ウイルス感染させる。このような高細胞密度の方法は、例えばクルセル ホランド ベー ヴェーの国際公開第2010/060719号およびYuk et al. (2004)に開示されている。高濃度の組み換えアデノウイルスの生産方法は、これらに記載されている。この最適化された方法は、細胞当りのウイルス生産数が高い状態で維持された、高細胞密度(例えば1mL当り5×10細胞より高い)の培養物に感染する性能により実現する。このようにして、1つのバイオリアクター内で、高ウイルス濃度の採取ウイルス溶液を得る方法を提供する。前記方法による通常のウイルス粒子(VP)の収率は、約1.5〜2.5×1012VP/mLである。
【0004】
細胞を高密度で培養する方法は、多量の細胞残屑および宿主細胞DNAを蓄積しやすい。この混入物質は、さらなる精製方法を経て処分する必要があり、これは煩わしい操作である。宿主細胞DNAを採取細胞培養物から除去する方法は、以前の米国特許第7326555号明細書に開示した。方法は、選択的に宿主細胞DNAを細胞培養物から沈殿させる工程からなる。選択的な沈殿剤は、宿主細胞DNAに特異的に結合し、アデノウイルス粒子を沈殿させないまま残す。しかしながら、この参考文献の方法は、低細胞密度の細胞培養に関しての記載であり、細胞残屑および宿主細胞DNAの量は低量である。
【0005】
今まで、前記方法が高細胞密度を含む培養物に応用可能か否かは知られていなかった。逆に、前記方法に使用されるような沈殿剤は、高濃度で使用した場合、選択的に宿主細胞DNAを培養物から沈殿させず、ウイルス粒子を沈殿させることが、従来技術の強い示唆から推定された(Goerket et al. 2004)。
【0006】
アデノウイルスを含む細胞培養物の採取は、精製されたアデノウイルスを得るため、一般的にさらに処理される。例えば深層濾過および/または接線流濾過(TFF)を用いた清澄化工程は、通常、前記精製方法に含まれる。TFFの使用は、比較的他の物質が混在しない採取物、即ち、含有する宿主細胞DNA等の細胞残屑または他の不純物の量が制限されたものに適している。過剰量の前記不純物は、フィルターを閉塞する可能性がある。そのため、TFFによる清澄化が、さらなる精製手段として、例えば第3または第4の工程として、一般的に使用される。
【0007】
採取直後のアデノウイルスを含む細胞懸濁液から接線流濾過を用いたアデノウイルスの分離については、例えば欧州特許第1371723号明細書に記載されている。しかしながら、アデノウイルスは、採取後にバイオリアクター内に残った粘着細胞上に成長する。従って、さらに処理されたウイルスを含む懸濁液は、非常に低濃度の細胞残屑および宿主細胞DNAを包含する。国際公開第2006/052302号には、採取直後のTFFの使用も記載されている。しかしながら、ここに使用したウイルスを含む採取物の細胞密度は、5×10細胞/mLより非常に低いものであった。ここに開示するように、採取直後の清澄化工程におけるTFFの使用は、高細胞密度を含む細胞培養には適していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2010/060719号
【特許文献2】米国特許第7326555号明細書
【特許文献3】欧州特許第1371723号明細書
【特許文献4】国際公開第2006/052302号
【特許文献5】国際公開第2004/099396号
【特許文献6】国際公開第2005/095578号
【特許文献7】国際公開第2008/006494号
【特許文献8】欧州特許第08168181.9号明細書
【特許文献9】国際公開第98/22588号
【特許文献10】米国特許第6,544,424号明細書
【特許文献11】国際公開第2005080556号
【特許文献12】米国特許第6,485,958号明細書
【特許文献13】国際公開第05/080556号
【特許文献14】国際公開第03/097797号
【特許文献15】国際公開第02/44348号
【特許文献16】国際公開第97/08298号
【特許文献17】国際公開2006/108707号
【特許文献18】欧州特許第08168181.9号明細書
【特許文献19】米国特許第5,994,128号明細書
【特許文献20】欧州特許第1230354号明細書
【特許文献21】国際公開第98/39411号
【特許文献22】米国特許第5,891,690号明細書
【特許文献23】国際公開第96/26281号
【特許文献24】国際公開第00/03029号
【特許文献25】米国特許第6,492,169号明細書
【特許文献26】国際公開第03/104467号
【特許文献27】米国特許第6,492,169号明細書
【特許文献28】米国特許第5,559,099号明細書
【特許文献29】米国特許第5,837,511号明細書
【特許文献30】米国特許第5,846,782号明細書
【特許文献31】米国特許第5,851,806号明細書
【特許文献32】米国特許第5,994,106号明細書
【特許文献33】米国特許第5,965,541号明細書
【特許文献34】米国特許第5,981,225号明細書
【特許文献35】米国特許第6,040,174号明細書
【特許文献36】米国特許第6,020,191号明細書
【特許文献37】米国特許第6,113,913号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Cortin V, Thibault J, Jacob D, Gamier A. High-Titer Adenovirus Vector Product ion in 293S Cell Perfusion Culture. Biotechnol. Prog. 2004.
【非特許文献2】Goerke A, To B, Lee A, Sagar S, Konz K. Development of a Novel Adenovirus Purification Process Utilizing Selective Precipitation of Cellular DNA. Biotechnology and bioengineering, Vol. 91, No. 1, July 5, 2005.
【非特許文献3】Yuk IHY, Olsen MM, Geyer S, Forestell SP. Perfusion Cultures of Human Tumor Cells: A Scalable Product ion Platform for Oncolytic Adenoviral Vectors. Biotechnol. Bioengin. 86: 637〜641 (2004).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
細胞培養方法は大規模化し、かつ、細胞をより高密度で培養するため、工業的に、高細胞密度の懸濁液を処理することができる下流処理の必要性が存在する。これは、特にアデノウイルス生産分野に適用される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、アデノウイルス粒子を細胞懸濁液中の細胞溶解物、特に高細胞密度の懸濁液から精製する方法に関する。
【0012】
高細胞密度の懸濁液からアデノウイルスを既存の方法で精製したところ、本明細書(実験例1)に実証するように、そのウイルス回収率は非常に低いものとなった。採取後得られる前記高細胞密度の懸濁液中の不純物の濃度は、通常、直接アデノウイルスを精製することを許容するには高すぎる。既知の方法を使用した高細胞密度の懸濁液の下流処理は、一般的に複数の工程を必要とする。第1の濾過工程は、大きな沈殿物および細胞残屑を取り除くため、粗い濾過工程からなる。その後、1または2段階のより選択的な濾過工程が、十分に精製されたアデノウイルス懸濁液を得るために必要とされる。
【0013】
発明者らは、驚くべきことに、アデノウイルスを含む細胞溶解物を調製した直後、宿主細胞DNA断片化および/または沈殿を連続的に実施し、接線流濾過(TFF)を備えた清澄化を行うことで、高度に精製されたアデノウイルス懸濁液を生じる清澄化ことを見出し、本明細書に開示する。
【0014】
驚くべきことに、本発明によって、アデノウイルス、多量の細胞残屑、宿主細胞DNAおよび他の不純物を含む細胞溶解物を処理して、精製アデノウイルスを得ることができる。このようにして、本発明は、大規模なアデノウイルス精製方法において、宿主細胞DNAを取り除くための新規方法を提供する。
【0015】
DNA断片化または沈殿を精製方法に取り入れることで、TFFを使用した、単回の清澄化工程で、十分に清澄化されたアデノウイルスを高細胞密度の懸濁液から精製することができた。
【0016】
本発明は、精製されたアデノウイルス粒子を細胞密度1mL当り5×10〜150×10細胞の細胞懸濁液から精製する方法を提供し、該方法は、a)前記細胞懸濁液中で細胞を溶解する工程;b)前記細胞懸濁液中で宿主細胞DNAを断片化および/または沈殿する工程;c)工程b)から得た細胞懸濁液を接線流濾過し、清澄化する工程とを備える。
【0017】
いくつかの実施形態において、前記アデノウイルスは、細胞密度1mL当り5×10〜150×10細胞、例えば1mL当り5×10〜50×10細胞または1mL当り10×10〜30×10細胞の細胞懸濁液から精製される。
【0018】
他の実施形態において、工程b)における前記沈殿は、選択的な沈殿剤を添加し、選択的に宿主細胞DNAをアデノウイルス粒子から沈殿することによって実施される。
【0019】
好ましい実施形態において、接線流濾過は、膜細孔のサイズが0.1〜0.65μmの膜で実施される。
【0020】
他の好ましい実施形態において、接線流濾過は中空糸で実施される。また、他の実施形態において、前記接線流濾過は、ATFシステムで実施される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】アデノウイルスの回収率および宿主細胞DNAの沈殿除去率を、低密度(2.5×10〜3.5×10vc/mL)および高密度(20×10〜30×10vc/mL)の細胞懸濁液で、臭化ドミフェン濃度に対してプロットしたグラフである。
【図2】アデノウイルスの回収率および宿主細胞DNAの沈殿除去率を、低密度(2.5×10〜3.5×10vc/mL)および高密度(18×10〜25×10vc/mL)の細胞懸濁液で、臭化ドミフェン濃度に対してプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、アデノウイルス粒子を高細胞密度の懸濁液から精製する方法に関する。本発明の高細胞密度の懸濁液は、高細胞密度まで細胞を培養して得られる。培養方法については、特に制限されるものではないが、例えばバッチ、フェッドバッチまたは潅流モードを使用できる。細胞を高細胞密度まで培養する方法は当業者に既知である。高細胞密度の培養物を得るための特定の方法は、例えば国際公開第2004/099396号、第2005/095578号、第2008/006494号、第2010/060719号に開示されている。
【0023】
本発明において、高細胞密度の懸濁液の細胞密度は、約5×10〜150×10細胞/mL、例えば約8×10〜120×10細胞/mL、約12×10〜100×10細胞/mL、約20×10〜80×10細胞/mLである。
【0024】
本発明の好ましい実施形態において、前記高細胞密度の懸濁液中の細胞密度は、約10×10〜50×10細胞/mL、例えば少なくとも約15×10細胞/mL、少なくとも約20×10細胞/mL、少なくとも約25×10細胞/mL、最高で約30×10細胞/mL、最高約35×10細胞/mL、最高約40×10細胞/mL、最高約45×10細胞/mLである。
【0025】
本発明において、高細胞密度の培養物にアデノウイルス粒子を感染させて、前記アデノウイルスを細胞培養物中で増殖可能な状態とする。このようにして、単一のバイオリアクター内で、高濃度のアデノウイルスを有する高細胞密度の懸濁液を取得できる。高細胞密度の培養物を感染させる方法は当業者に既知である。高いウイルス濃度で前記高細胞密度の培養物を得るための特定の方法は、欧州特許第08168181.9号明細書、Cortin et al. 2004およびYuk et al. 2004に開示されている。これらの参考文献には、数々の組換えアデノウイルスの産生方法が記載されている。これらの方法は、細胞当りの高いアデノウイルス生産能を保持する、高細胞密度の培養物に感染する性能に依存する。このように、本発明は、高アデノウイルス濃度を有する高細胞密度の懸濁液を、1つのバイオリアクター内で得る方法を提供する。従来の方法での通常の収率は、例えば組換えアデノウイルス35(rAd35)は、約1.5〜2.5×1012VP/mLである。アデノウイルスを細胞培養物中で増殖させた後、大半の細胞をつぶし、アデノウイルス粒子を、本発明に従って、高細胞密度の懸濁液から精製した。
【0026】
本発明の第1工程としての方法は、高細胞密度の懸濁液に含まれる細胞を溶解する工程を備える。アデノウイルス粒子を感染させた高細胞密度の懸濁液を溶解することで、細胞懸濁液中に多量の細胞残屑および宿主細胞DNAが蓄積する。この蓄積により、その後、細胞懸濁液の煩わしい下流処理が必要となる。
【0027】
本発明は、アデノウイルス粒子を高細胞密度の懸濁液の細胞溶解液から精製するのに適した方法を提供する。選択的な沈殿剤を細胞溶解物に添加することによって、多量の宿主細胞DNAを、高細胞密度の懸濁液中のアデノウイルス粒子から選択的に沈殿除去することができ、宿主細胞DNAの少なくとも約80%を、アデノウイルス粒子を含む高細胞密度の懸濁液から沈殿除去することができる。本明細書に開示するように、TFFでの清澄化後、沈殿工程により、宿主細胞DNAの少なくとも80%の減少、好ましくは90%>、より好ましくは本明細書に例示する宿主細胞DNAの約95%が減少し、混在する宿主細胞DNAの沈殿除去が可能となる。
【0028】
<溶解>
方法の第1工程は、細胞懸濁液中の細胞を溶解することを備える。細胞膜を溶解するこの第1工程は、感染した高細胞密度の懸濁液から細胞性(細胞内)および非細胞性(細胞外)双方のアデノウイルスを採取することを可能とする。宿主細胞を界面活性剤によりウイルスを含む宿主細胞を溶解する好ましい方法は、機械的でない溶解法(例えば酵素処理)および/または機械的なせん断法(例えば中空糸限外濾過)と置き換えることができ、最大量のアデノウイルスを放出する。活性化された細胞溶解物に使用できる方法は、当業者に既知であり、例えば国際公開第98/22588号、p. 28〜35に説明されている。この点に関して実用的な方法は、例えば凍結融解、固体せん断、高張および/または低張溶解、液体せん断、超音波処理、高圧押出し、界面活性剤による溶解、これらの組み合わせ等である。本発明の一実施形態において、細胞は少なくとも1種の界面活性剤を使用して溶解される。溶解用界面活性剤の使用は、それが簡便な方法であり、容易に計量可能であるという利点がある。
【0029】
使用できる界面活性剤およびそれを用いる方法は、一般的に当業者に既知である。いくつかの例が、例えば国際公開第98/22588号、p. 29〜33に説明されている。本明細書に使用するような界面活性剤は、陰イオン、陽イオン、両性イオンおよび非イオン界面活性剤を含むが、これらに制限されるものではない。界面活性剤の例としては、例えばTritonおよび/またはポリソルベート80が挙げられる。一実施形態において、使用する界面活性剤は、Triton X−100である。また、TNBP等の溶媒を、これら界面活性剤のそのエンベロープウイルスを不活性にする性能を補助するくらい低濃度で、溶解物または清澄化された溶解物に添加できる。さらに、感染した宿主細胞のその中のアデノウイルスによる自己分解は、多量の細胞内アデノウイルスを放出させることができ、本発明の方法に利用することができる。従って、従来技術において既知の、宿主細胞のあらゆる形態の溶解物を用いて、本明細書に開示した方法に従って最終的な採取するために、細胞内ウイルスを宿主細胞培養物の培地に遊離させることができる。界面活性剤の最適な濃度は、多様であり、例えば約0.1%〜1%(w/w)であることが、当業者に明らかである。
【0030】
<断片化および選択的な沈殿>
溶解後、宿主細胞DNAは、ウイルスを含む細胞懸濁液から断片化または沈殿することができる。
【0031】
好ましい実施形態において、宿主細胞DNAは、選択的な沈殿剤(SPA)溶液の添加によって沈殿除去される。この工程は、選択的な宿主細胞DNAの沈殿を可能とすると同時に、液相中のウイルス粒子を修飾しないまま保持することを可能とする。本明細書に例示するように、この初期段階の沈殿工程により、清澄化後、宿主細胞DNAは少なくとも約90%減少する。
【0032】
本発明を実施するにあたって、実用的なSPAとしては、アミン共重合体、4級アンモニウム化合物およびそれらそれぞれの混合物が挙げられるが、これらに制限されるものではない。より詳細には、種々のポリエチレン(PEI)が、過剰な陰イオン電荷(DNA不純物)の中和に非常に有効である。本発明に適宜使用できる許容可能なSPAの一覧は、本明細書に組み込まれる米国特許第7326555号明細書(列12、56〜67行目および列13、1〜28行目)に挙げられている。本発明に使用するのに適したSPAは、以下のクラスおよび市販の製品例を含むが、これらに制限されるものではない:モノアルキルトリメチルアンモニウム塩(市販製品の例としては、セチルトリメチルアンモニウムブロミドまたはCTABとしてクロリド、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロミドまたはクロリド(TTA)、アルキルトリメチルアンモニウムクロリド、アルキルアリルトリメチルアンモニウムクロリド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミドまたはクロリド、ドデシルジメチル−2−フェノキシエチルアンンモニウムブロミド、ヘキサデシルアミン:クロリドまたはブロミド塩、ドデシルアミンまたはクロリド塩およびセチルジメチルエチルアンモニウムブロミドまたはクロリド)、モノアルキルジメチルベンジルアンモニウム塩(例としては、アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロリドおよびBTCとしてベンゼトニウムクロリド)、ジアルキルジメチルアンモニウム塩(市販製品としては、臭化ドミフェン(DB)、ジデシルジメチルアンモニウムハライドおよびオクチルドデシルジメチルアンモニウムクロリドまたはブロミド)、複素芳香族アンモニウム塩(市販製品としては、セチルピリジウムハライド(CPCまたはブロミド塩およびヘキサデシルピリジニウムブロミドまたはクロリド)、シス異性体1−[3−クロロアリール]−3,5,7−トリアザ−1−アゾニアアダマンタン、アルキル−イソキノリニウムブロミドおよびアルキルジメチルナフチルメチルアンモニウムクロリド(BTC 1110))。多置換の4級アンモニウム塩(市販製品としては、アルキルジメチルベンジルアンモニウムサッカリンおよびアルキルジメチルエチルベンジルアンモニウムシクロヘキシルスルファメートを含むが、制限しない)、ビス4級アンモニウム塩(製品例としては、1,10−ビス(2−メチル−4−アミノキノリウムクロリド)−デカン、1,6−ビス[1−メチル−3−(2,2,6−トリメチルシクロヘキシル)−プロピルジメチルアンモニウムクロリド]ヘキサンまたはトリクロビソニウムクロリドおよびBuckman BrochuresによってCDQと称されるビスクアット(bis-quat))およびポリメリック4級アンモニウム塩(ポリイオネン、例えばポリ[オキシエチレン(ジメチルイミノ)エチレン(ジメチルイミノ)エチレンジクロリド]、ポリ[N−3−ジメチルアンモニオ)プロピル]N−[3−エチレンオキシエチレンジメチルアンモニオ)プロピル]ユリアジクロリドおよびα−4−[1−トリス(2−ヒドロキシエチル)アンモニウムクロリド])。米国特許第7326555号明細書から当業者が理解できるように、この中のいくつかが正常に作用し、当業者は、化合物が選択的にDNAを沈殿する適切な濃度を通常通り見出すことができることを示す。これはSPAの例であり、この開示および本発明に基づいて、本発明に適していることも明らかである。
【0033】
好ましい実施形態において、陽イオン界面活性剤が、本発明で使用される。さらにより好ましい実施形態において、臭化ドミフェン(DB)等のジアルキルジメチルアンモニウム塩が、本発明で使用される。様々な潜在的なSPAを本発明の実施に使用できるが、臭化ドミフェンは、主にGMPグレードの原材料としての有用性、およびヒトへの使用を意図する他の製品における現在の使用の有用性から、特に有用性の高いものである。より詳細には、臭化ドミフェンは、口腔衛生製品または局所用抗生物質クリームの有効成分として広範囲で使用されており、この分子は多量に生産され、cGMP条件下で販売されている。
【0034】
宿主細胞DNAを細胞懸濁液から沈殿するために、高細胞密度の細胞懸濁液において使用される最適なSPA濃度を、本発明において測定した。従来技術に基づき、高濃度のSPAと接触して配置した場合、アデノウイルス粒子は、即時に沈殿すると予期されていたが、意外にもアデノウイルス粒子は沈殿せずにとどまった。実際、従来技術、例えば米国特許第7326555号明細書には、陽イオン界面活性剤の濃度を上昇させた場合、低細胞密度の懸濁液中(最高1×10細胞/mLまで)で、アデノウイルス粒子が沈殿することを示した。
【0035】
本明細書に開示するように、高細胞密度の培養物を溶解して生産されるような懸濁液は、非常に大量の宿主細胞DNAおよび他の不純物を含み、従って、大量の陽イオン界面活性剤を必要とする(例えば2倍の濃度)。従って、低細胞密度の結果から推定したものに基づくと、この陽イオン界面活性剤濃度の上昇は、懸濁液中に存在するアデノウイルス粒子の総量の沈殿を導くことが予期される。
【0036】
しかしながら、驚くべきことに、高いSPA濃度、選択的に混在する宿主細胞DNAをウイルス粒子を含む高細胞密度の懸濁液から取り除くことは、依然として可能であった。本発明の好ましい実施形態において、SPA、好ましくはDBが、1.2〜5mMの濃度まで添加される。さらにより好ましい実施形態において、SPA、好ましくはDBは、1.3〜2.2mM、例えば1.4〜2mM,1.4〜1.8mM、1.5〜1.6mMの濃度で添加される。本開示に基づいて、当業者は、採取時の一定の細胞密度に関する適切なSPA濃度範囲を決定する方法を知っていることは、明らかである。
【0037】
アデノウイルスを含む、細胞密度が10×10〜150×10細胞/mLである高細胞密度の懸濁液を処理するための適切なDBの濃度は、約1.2mM〜5mMである。アデノウイルスを含む、細胞密度が10×10〜50×10細胞/mLの高細胞密度の懸濁液を処理するための適切な濃度のDBは、約1.3mM〜2.2mMである。アデノウイルスを含む、細胞密度が10×10〜30×10細胞/mLの高細胞密度の懸濁液の採取物を処理するための適切な濃度のDBは、約1.3mM〜2mM、例えば約1.4〜1.9mM、1.4〜1.8mM、約1.4〜1.7mM、約1.45〜1.65mM、約1.5〜1.55mMである。
【0038】
本明細書に開示したSPAとなり得る化合物を試験し、効果的に核酸分子および他の細胞残屑をアデノウイルス粒子から沈殿する化合物を同定することは、本明細書に臭化ドミフェン(DB)が例示されているように、当業者のなし得る範囲内である。従って、本発明は、アデノウイルス粒子を高細胞密度の懸濁液から精製する方法に関するものである。前記方法は、選択的な沈殿剤を溶解後の宿主細胞培地に添加することによって、選択的に宿主細胞の核酸分子を溶解後の高細胞密度の懸濁液中のアデノウイルス粒子から沈殿させることを備える。
【0039】
宿主細胞DNAを細胞懸濁液から取り除く好ましい方法は、選択的な沈殿であるが、本発明は、それに制限されない。宿主細胞DNAを取り除く他の方法も本発明に含まれる。
【0040】
従って、一実施形態において、宿主細胞DNAは断片化され、即ち、断片に切断される。本発明において、溶解後の宿主細胞DNAの断片化は、ヌクレアーゼを細胞懸濁液中に添加して実施することができる。本発明の使用に適切な典型的なヌクレアーゼとしては、Benzonase(登録商標)、Pulmozyme(登録商標)または他の従来技術の範囲で一般的に使用されるDNaseおよび/またはRNaseが挙げられる。本発明の好ましい実施形態において、ヌクレアーゼは、Benzonase(登録商標)であり、特定のヌクレオチドの間の内部のホスホジエステル結合を加水分解することによって急速に核酸を加水分解し、そのことによって細胞溶解物の粘度を減少する。Benzonase(登録商標)は、例えばMerck KGaA(コードW214950)から市販されている。
【0041】
十分な断片化に必要とされるヌクレアーゼの濃度は、即ち宿主細胞密度、温度および反応時間に依存する。当業者は、良好な宿主細胞DNAの断片化のために必要とされるヌクレアーゼ濃度を測定し、最適化する方法を知っている。
【0042】
<清澄化>
前述の工程から得られたSPA処理した細胞溶解物は、その後、清澄化し、沈殿した宿主細胞DNA、細胞残屑および他の不純物を沈殿して取り除く。
【0043】
一段階の清澄化手段でアデノウイルスを高細胞密度の懸濁液から直接精製したところ、本明細書(実験例1)に例示するように、ウイルス回収率が低くなる結果となった。採取後に得られた前記高細胞密度の懸濁液中の不純物の濃度は、通常、直接ウイルスを精製することを可能とするには高すぎる。通常は、従来技術にしばしば使用され、推奨され、本明細書に例示されている、少なくとも2つの連続したフィルターの組み合わせが、適切に清澄化するために必要である。
【0044】
発明者らは、驚くべきことに、TFFを用いた清澄化工程とDNAの沈殿を組み合わせることで、高細胞密度の懸濁液から高い回収率でウイルス精製ができることを見出し、本明細書に開示する。一段階の接線流濾過工程で、細胞残屑および核酸沈殿物をウイルスを含む懸濁液から十分に取り除くことができた。宿主細胞DNAの95%超を沈殿させることができ、かつ、ウイルス回収率は、80%超であった。それゆえに、本発明において、TFFを単回の清澄化工程として使用することが可能である。本発明の方法で得られた清澄化されたウイルスを含む懸濁液は、元の溶解物(本方法の工程a)で得られるもの)と比較して、宿主細胞DNAおよび他の不純物が実質的に減少していた。
【0045】
本発明において、TFFセットアップに使用するフィルターは、例えばGE HealthcareまたはJM分離からの中空糸フィルターである;他のフィルターとしては、MilliporeまたはSartorius stedium biotechからのフラットスクリーンフィルターが挙げられる。前記TFFセットアップにおけるウイルス粒子は、透過液中に収集され、一方、細胞残屑、沈殿した宿主細胞DNAおよび他の不純物は、残液中に残存する。中空糸フィルターは、高細胞密度の懸濁液を処理するのに非常に適切であったことを、本明細書に示す。従って、本発明の好ましい実施形態において、TFFは、中空糸フィルターで実施される。
【0046】
本発明において、前記フィルターの細孔のサイズは、好ましくは0.1〜1μmである。本発明の好ましい実施形態において、細孔のサイズは、0.2〜0.65μmである。前記細孔のサイズは、ウイルス粒子が膜を透過することを可能とし、細胞残屑、沈殿した宿主細胞DNAおよび他の不純物が透過せずに保たれることを可能とする。フィルターモジュールを、製造業者の指示通り、好ましくは水で予め湿らせる。液体は、モジュールを経て管および蠕動ポンプを用いて再循環する。
【0047】
本発明のある実施形態において、TFFは、交互接線流濾過(ATF)の形態で使用される。ATFは、接線流濾過の一形態であって、本明細書においてATFを用いた清澄化は、高濃度の細胞残屑、宿主細胞DNAおよび他の不純物を含む懸濁液からのウイルス回収に、非常に適していることが見出された。接線流濾過は、当業者に既知の方法および例えば米国特許第6,544,424号明細書に従って達成することができる。ATFシステム(例えばATFシステム、Refine Technology, Co., East Hanover, NJ)を使用する利点は、供給液および残液の流れの方向が、ATFポンプサイクル(サイクルは加圧および排出モードからなる)ごとに変わることにある。これにより、膜を経た逆流洗浄作用と、膜間圧(TMP)の持続的な変化が生じる。排出中、真空が生じ、いくらかの物質が透過液側から残液側に逆流し、これにより膜が浄化される。ATFの使用は、膜の詰まりを減らし、より高いウイルス回収率をもたらす。当業者は、最適なATFおよび最高の収率のための透過液流速度を決定することができる。本発明によると、前記ATFシステムに用いたフィルターは、例えばGE healthcareからの中空糸フィルターである。
【0048】
ATFシステムを用いるさらなる利点は、清澄化に使用されるセットアップが、潅流モードにおける培養細胞に初期段階で使用することができることである。実際、ATFシステムに接続されたバイオリアクターは、最初に高細胞密度まで細胞を培養するために使用することができる。100×10生存細胞/mL超の非常に高い細胞密度が、ATF潅流システム、例えばPER.C6細胞での使用で得られる(例えばYallop et al, 2005および国際公開第2005/095578号を参照)。細胞が高細胞密度まで達すると、非常に濃縮されたウイルスを含む細胞懸濁液を得るため、それを感染させることができる。この方法を経て、バイオリアクターに接続されたままのATFシステムは、その後、ウイルスを前記高細胞密度の懸濁液から精製するために使用することができる。
【0049】
TFFによる清澄化と選択的な沈殿との組み合わせにより、採取後に得られる高細胞密度の溶解物に含まれる、宿主細胞DNAの少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは90%が除去される。
【0050】
<さらなる精製方法>
ある実施形態において、採取したウイルス粒子は、さらに精製される。さらなるウイルスの精製は、例えば本明細書に参考として取り込まれる国際公開第2005080556号に記載されたような濃縮、限外濾過、透析濾過またはクロマトグラフィーでの分離を備えるいくつかの工程で実施できる。他の工程、例えば陰イオン交換膜クロマトグラフィー、除菌、逆相吸着、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーも使用できる。これらの工程は、例えば本明細書に参考として完全に取り込まれる米国特許第7326555号に開示されている。当業者は、各々の精製工程の最適な条件を見出す方法を知っている。また、本明細書に参考として完全に取り込まれる国際公開第98/22588号には、ウイルス粒子の生産および精製方法に関しても記載されている。
【0051】
本発明における一実施形態において、清澄化されたアデノウイルス粒子の懸濁液は、限外濾過で処理してもよい。ウイルス懸濁液の濃縮に限外濾過が使用される。懸濁液は、5〜20倍に濃縮することができ、場合により、ヌクレアーゼで(上記のように)処理することができる。本発明の他の態様においては、その後、透析濾過によって緩衝液の交換を導入する。限外濾過装置を用いた透析濾過または緩衝液交換は、塩、糖類等を除去・交換するための方法である。当業者であれば、緩衝液交換が行われるべき条件およびこの工程に適切な緩衝液を判断できる。
【0052】
選択される特定の限外濾過膜は、アデノウイルス粒子を保つのに十分に小さいサイズであるが、効率的に不純物を清澄化するのに十分に大きなサイズとされるであろう。製造業者および膜の種類に応じて、表示される分子量カットオフが10〜1000kDaのものが適切である。接線流モードを用いた限外濾過が好ましい。前記モードにおいて、工程は逆流する残余液の背圧を伴う、または伴わない固定された直交流の設定、固定膜間圧の設定、または、直交流および透過液フラックスの双方の固定、によって調節することができる。
【0053】
本発明によると、次の工程は、陰イオン交換クロマトグラフィー工程である。前記工程の間、アデノウイルス粒子は、正電荷物質、例えば膜、カートリッジまたはカラムに結合する。次の溶出工程において、ウイルス粒子の不純物および残存する宿主細胞DNAからの分離が可能となる。
【0054】
Mustang Q膜吸収剤でのアデノウイルス精製のため、導入および洗浄用のNaCl濃度は、pH7.5における推定濃度として0.3〜0.4Mのいずれかにすることができ、pHの変化にしたがって変更することができる。より好ましくは、NaCl濃度は0.35Mである。緩衝剤のpHは、アデノウイルスが結合できるくらいに十分に高い必要がある(約6.5を超える)。さらに、緩衝剤システムのpHもウイルスの不安定性を防ぐのに十分に低い必要がある。使用可能な最高pHの正確な値は、アデノウイルスおよび緩衝成分の特定の安定性によって異なり、特定の用途に応じて、当業者が容易に決定することができる。参考までに、制限するものではないが、pHは実質的に約5〜10の範囲となる。
【0055】
緩衝液中に0.1%PS−80が含まれると、それがアデノウイルス/DNAの会合およびアデノウイルス凝集を弱めるため、産物中の残留DNAレベルを低くするには非常に好ましい。アデノウイルス粒子を他のアデノウイルス並びに様々な細胞混入物質から分離するのに実用的な、より高いか、より低い濃度の界面活性剤または代替の界面活性剤を確立することは、当業者にとって日常の実験範囲内である。当業者が選択的な界面活性剤を加工用の緩衝剤として選択することも、同様に実験範囲内である。かかる代替の界面活性剤の例は、米国特許第7326555号明細書に見出すことができる。陰イオン交換膜クロマトグラフィーの産物、例えばPall(例えばMustang(商標)シリーズ)およびSartorius (例えばSartobindシリーズ)によるものが、本発明によるウイルス精製に適切である。米国特許第6,485,958号明細書または国際公開第05/080556号には、組換えアデノウイルスの精製に陰イオン交換クロマトグラフィーを使用することが記載されている。
【0056】
膜吸収剤、例えばMustang Q(Pall Corporation)にウイルスを結合する性能は、非常に高く、7×1013VP/mL程度である。この方法におけるアデノウイルス精製に適切な他の膜吸収剤および樹脂は、Source 15QおよびSource 30Q(GE life sciences)、Q-Sepharose XL (GE life sciences)、Fractogel TMAE (EM industries)、Sartobind Q (Sartorius)、Adsept Q (Natrix separations)、CIM QA (BIA separations)が挙げられるが、これらに制限されるものではない。アデノウイルス溶出は、NaClを含む緩衝剤を用いて実施することが好ましい。当業者は、NaCl濃度を最適化する方法を理解している。
【0057】
ある実施形態においては、少なくとも1つの陰イオン交換クロマトグラフィー工程を使用することが好ましい。陰イオン交換工程の後、アデノウイルスは十分に精製される。しかし、いくつかの実施形態においては、サイズ排除クロマトグラフィー工程をさらに実施し、方法の安定性を上昇させる。この工程は、陰イオン交換クロマトグラフィー工程の前に行っても、後に行ってもよい。当然に、他の精製工程を適切に陰イオン交換クロマトグラフィー工程と組み合わせてもよい。陰イオン交換クロマトグラフィーのアデノウイルス精製への使用は、広範囲に亘って記載されていて、この態様は、従って十分に当業者の実施範囲内である。多種類のクロマトグラフィー担体が、アデノウイルス精製に使用されており、使用に適している。当業者は、前記アデノウイルスを精製するのに最適な陰イオン交換物質を容易に見出すことができる。
【0058】
本発明のある実施形態において、陰イオン交換産物は、緩衝液中および濾過滅菌器内で透析濾過することができる。或いは、透析濾過の前または後のいずれかで、付加的なクロマトグラフィー工程(例えば陽イオン交換)を加えて、不純物及び/またはウイルス/プリオン清澄化の安定性を改良する可能性を付与することができる。
【0059】
この段階で、さらに限外濾過工程を実施してもよい。接線流限外濾過は、残余タンパク質および核酸を取り除く際、並びに、アデノウイルスを緩衝液中に、交換する際に有用である。300kDa〜500kDaの膜の選択は、収率と、不純物の清澄化の改良度合いとのバランスをとって決定される。他の膜の形態(例えば中空糸)が、代替として許容可能である。選択した限外濾過膜は、アデノ粒子を保つのに十分に小さいサイズであるが、効率的に不純物を清澄化するのに十分に大きいものとする。製造業者および膜の種類に応じて、表示分子量カットオフ値が10〜1000kDaのものが適切である。
【0060】
濾過滅菌工程を処理工程に含めてもよく、この工程は、生物学的負荷を除く際に有用である。産物は、0.22ミクロンの修飾したフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)膜(例えばMillipore, Millipak)を経て濾過することができる。
【0061】
任意の下流処理工程をこの方法に追加することができる。これらは、例えばサイズ排除クロマトグラフィー工程、逆相吸着工程および/またはヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー工程を含む。これらそれぞれの工程に関するさらなる詳細は、例えば米国特許第7326555号明細書、国際公開第03/097797号、第02/44348号に見出すことができる。
【0062】
国際公開出願である国際公開第97/08298号には、あるクロマトグラフィー担体を用いて、ウイルスへの損傷を防ぐアデノウイルスの精製であって、陰イオン交換およびサイズ排除工程を含むものを記載されている。
【0063】
ある限外濾過方法は、国際公開第2006/108707号に開示するように、アデノウイルスの精製にも非常に適している。かかる工程は、あるクロマトグラフィー精製工程に加えて、または、その代わりに実施することができる。
【0064】
<細胞培養システムおよび下流処理システムの規模>
本発明の方法は、大容量化が可能である。本発明に使用した細胞培養物は、小規模培養物(例えば1〜10リットルで行う)から中規模培養物(例えば20〜1000Lで行う)、市販の大規模の調製、例えば1000〜50000Lの生産の実施までの範囲である。初期工程(溶解、深層濾過、限外濾過)は、培養容量に合わせた容量とし、一方で、陰イオン交換クロマトグラフィーおよびその後の工程は、導入されるアデノウイルス粒子量に応じた容量とする。従って、後の工程の容量は、バイオリアクター生産率の推定量(1mL当り少なくとも1×1012アデノウイルス粒子(vp/mL))を基準とする。これら高収率のアデノウイルスは、例えば高細胞密度の培養物を感染して得られる(例えば欧州特許第08168181.9号明細書)。これら高濃度のアデノウイルス粒子を含む高密度細胞懸濁液のさらなる精製が、本発明により可能である。多量の細胞残屑および宿主細胞DNAを含む、これらの懸濁液の処理が可能となることで、懸濁液の容量当たり多量のアデノウイルス粒子の精製が可能となる。本発明の利点は、高濃度のアデノウイルス粒子を有する高細胞密度の細胞内容バッチを処理して、処理容量当たりの収率が非常に高い状態でアデノウイルス粒子を回収することが可能な方法を提供できることである。この方法は、大規模な細胞培養物に適用可能であるが、細胞を小規模で培養し、高細胞密度とすることで効率的に処理可能な高アデノウイルス収率を達成することができる。この方法は、非常に濃縮されたアデノウイルスバッチの処理を可能とすることで、アデノウイルス精製香料の全体にとって、大きな影響を与えるものとなろう。
【0065】
<アデノウイルスおよび生産細胞>
本発明は、アデノウイルスの精製に関する。本発明のアデノウイルスは、野生型の、修飾された、突然変異型のアデノウイルスおよび/または組換えアデノウイルスベクターである。遺伝子ワクチン接種および/または遺伝子治療の応用において、「内部のない(gutless)」アデノウイルスベクターを含む、E1の欠失またはさらなる欠失を有する、第1または第2継体の複製不全アデノウイルスの使用が特に注目される。アデノウイルスゲノムは、一般的にヒトに害のない症状に関連する。ゲノムは、それぞれのベクターを構成するのに用いられる方法によっては、操作に影響を受けやすい。複製不全ウイルス、例えば組換えアデノウイルス35(rAd35)または26(rAd26)ベクター(本明細書に例示するもの)は、欠失を補足する生産細胞株を必要とする。
【0066】
生産細胞(従来技術および本明細書で「パッケージング細胞」、「補完細胞」または「宿主細胞」とも表記される)は、あらゆる生産細胞であって、望ましいアデノウイルスを増殖できる。例えば、組換えアデノウイルスベクターの増殖は、アデノウイルスの欠乏を補足する生産細胞内で行われる。このような生産細胞は、そのゲノム中に少なくともアデノウイルスE1配列を有することが好ましく、このことからE1領域を欠失させた組換えアデノウイルスの補足を可能とする。なお、アデノウイルスは、Adゲノムに重要でないE3領域に欠失を有するが、このような欠失は補足する必要はない。あらゆるE1補足再選細胞、E1によって不死化したヒト網膜細胞等、例えば911またはPER.C6細胞(米国特許第5,994,128号明細書参照)、E1が形質転換された羊膜細胞(欧州特許第1230354号明細書参照)、E1が形質転換されたA549細胞(例えば国際公開第98/39411号、米国特許第5,891,690号明細書参照)、GH329:HeLa(Gao et al, 2000, Human Gene Therapy 11:213〜219)、293等が使用できる。ある実施形態において、生産細胞は、例えばHEK293細胞、PER.C6細胞、911細胞またはIT293SF細胞等である。好ましくは、PER.C6細胞(ECACC, CAMR, Porton Down, Salisbury SP4 0JG, United Kingdomで1996年2月29日に寄託されたECACC寄託番号96022940;米国特許第5,994,128号明細書参照)またはそれ由来の細胞が、生産細胞として使用される。
【0067】
複製不全アデノウイルスベクターは、アデノウイルス若しくはキメラアデノウイルスのあらゆる種類、株、サブタイプまたは種類、株、サブタイプの組み合わせをベクターDNAの発生源として用いて生産してもよく、この方法により、例えば特定の望ましい細胞種に感染する性能を有するアデノウイルスベクターの提供が可能となる(例えば国際公開第96/26281号、第00/03029号参照)。本発明の好ましい実施形態において、rAd35またはrAd26は、アデノウイルスとして使用される。
【0068】
当業者にとって、例えば米国特許第6,492,169号明細書または国際公開第03/104467号およびその参考文献に開示した方法を用いた特定の宿主細胞の異なる抗原型のアデノウイルスベクターを増殖する可能性は公知である。例えば、E1欠失rAd35の増殖のため、Ad35のE1B−55Kを発現する特定の生産細胞を、例えば当業者に既知のPER.C6またはHEK293細胞等のE1AおよびE1Bを発現する既存の生産細胞(例えば米国特許第6,492,169号明細書参照)を用いて生産することができる。或いは、かつ好ましくは、例えばPER.C6またはHEK293は、例えば本明細書に参考として完全に取り込まれる国際公開第03/104467号に広範囲に亘って開示されている既存の(Ad5−)補完細胞株、Ad5のE4−orf6コーディング配列をrAd35またはrAd26ベクターに包含させることによって、E1欠乏のrAd35またはrAd26を増殖するための細胞の修飾がなくても使用することができる。従って、あらゆる抗原型のアデノウイルスベクターの増殖が、当業者に既知の手段および方法を用いて生産細胞において実施できる。アデノウイルスベクター、その構成方法およびその増殖方法は、例えば米国特許第5,559,099号、第5,837,511号、第5,846,782号、第5,851,806号、第5,994,106号、第5,994,128号、第5,965,541号、第5,981,225号、第6,040,174号、第6,020,191号、第6,113,913号明細書、Thomas Shenk, "Adenoviridae and their Replication", M. S. Horwitz, "Adenoviruses"、それぞれChapters 67および68,Virology, B. N. Fields et al, eds., 3d ed., Raven Press, Ltd., New York (1996)並びに本明細書に述べた他の参考文献において周知である。
【実施例】
【0069】
本発明は、以下の実施例でさらに詳細に説明されている。実施例は、本発明を何ら制限するものではなく、本発明を明確にする役割を果たすにすぎない。
【0070】
<実験例1:直接的なTFF清澄化は、高細胞密度からの採取を実施できない>
PER.C6細胞を37℃のバイオリアクター内で培養し、無血清培養培地で3日間、Ad35を感染させた。細胞密度が20〜30×10細胞/mL、かつウイルス力価が1〜1.5×1012VP/mLの状態で細胞を採取した。非イオン界面活性剤Triton X−100およびTween−80を、最終濃度がそれぞれ0.1%及び0.05%となるように添加し、ウイルスを細胞から放出させた。溶解時間は、2〜24時間とした。溶解後、ウイルスを含む採取物を接線流濾過(TFF)によって清澄化した。
【0071】
清澄化を、0.2μm(GE Healthcare, model CFP-2-E-4MA, 0.042m2)または0.65μm(GE Healthcare, model CFP-6-D-4MA, 0.046m2)の中空糸フィルターを用いて実施した。溶解した採取物1Lを少なくとも3倍に濃縮した。清澄化後、フィード・アンド・ブリード操作で残液の3倍の容量を用いて洗浄操作を行った・。透過液のフラックスが15〜40LMHとなるよう、濾過実験を実施した。清澄化工程におけるウイルス回収率を測定したところ、以下の表の示す通りとなった。
【0072】
【表1】

【0073】
清澄化後、ウイルス回収はできていなかった。これは、例えば欧州1371723号明細書および国際公開第2006/052302号に、TFFの使用がアデノウイルス採取物を良好に清澄化する旨が記載されていたため、予期していなかった。明らかに、従来の方法の高細胞密度は、この工程を妨げ、直接的な清澄化に不適切なTFFを示す。
【0074】
<実験例2:高細胞密度の懸濁液中の選択的な宿主細胞DNA沈殿>
細胞密度1×10細胞/mLまでの選択的な宿主細胞DNA沈殿については、従来技術(Goerke et al (2005)、米国特許第7326555号明細書)において実施されている。それには、(低細胞密度で)宿主細胞DNAの少なくとも80%が、細胞懸濁液からのウイルス粒子収率90%で、沈殿することができることを示す。しかしながら、高細胞密度の細胞懸濁液は多量の宿主細胞DNAおよび細胞残屑を含むため、このような選択的な沈殿が可能かどうかは全く知られていなかった。そのため、従来技術のデータが使用するDNA沈殿剤が高濃度であるとアデノウイルスも沈殿させることを示唆する一方で、より多量のDNA沈殿剤が必要となるものと予測された。
【0075】
高細胞密度でのDNA沈殿の可能性を検討するため、細胞密度30×10細胞/mLまでの小規模な試験管中で、宿主細胞DNA沈殿を試験した。選択的なDNA沈殿が、高細胞密度でも生じるかどうかを試験するために、小規模な試験管のモデルを迅速なスクリーニングツールとして用いた。
【0076】
PER.C6細胞をバイオリアクター内で培養し、アデノウイルス35(Ad35)を感染させ、37℃の無血清培養培地で3日間培養した。細胞を細胞密度2〜30×10細胞/mLおよびウイルス力価8×1010〜1.5×1012VP/mLで採取した。非イオン界面活性剤Triton X−100およびTween−80を、最終濃度がそれぞれ0.1%および0.05%となるように添加し、2〜24時間の細胞溶解を行った。40mM NaCl中の高濃度の臭化ドミフェン(DB)を、溶解した採取物3.5mLに添加し、その後、直ぐに1分間ボルテックスした。沈殿した物質を0.45μmフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)シリンジフィルターで取り除いた。濾液をAd35と宿主細胞DNA濃度について、それぞれHPLC−AEXおよびQ−PCR分析を用いて分析した。
【0077】
図1は、ウイルス回収率および沈殿した宿主細胞DNAを、臭化ドミフェンの濃度に対してプロットしたものを示す。三角形で示した曲線は、細胞密度2.5×10〜3.5×10細胞/mLの細胞培養採取物から得られた。丸で示した曲線は、細胞密度20×10〜30×10細胞/mLの細胞培養採取物から得られた。低細胞密度および高細胞密度でのC(90%ウイルス回収を示す臭化ドミフェン濃度)並びに関連する沈殿した宿主細胞DNAの割合をグラフに示した。
【0078】
宿主細胞DNAの90%超を細胞密度20×10〜30×10細胞/mLで沈殿するために必要とされるDB濃度は、10倍より低い細胞密度で必要とされるDB濃度と比較して少なくとも2.5倍高かった。驚くべきことに、DB濃度を高くしても、より低い細胞密度で得られた曲線から予期されるようにウイルス粒子の沈殿は生じなかった。
【0079】
細胞密度18×10〜25×10細胞/mLの細胞培養採取物についても同様の実験を行った。図2は、ウイルス回収率および宿主細胞DNA沈殿率を、臭化ドミフェン濃度に対してプロットしたものを示す。三角形で示した曲線は、細胞密度2.5×10〜3.5×10細胞/mLの細胞培養採取物から得られた。丸で示した曲線は、細胞密度18×10〜25×10細胞/mLの細胞培養採取物から得られた。低細胞密度および高細胞密度でのC(90%ウイルス回収を示す臭化ドミフェン濃度)並びに関連する沈殿した宿主細胞DNAの割合をグラフ上に示した。
【0080】
図1および2のグラフから分かるように、高細胞密度の懸濁液に関して90%ウイルス回収が得られるようなDB濃度(C)は、それぞれの実験で若干異なるが、これは通常の変化の一部である。しかしながら、グラフは、常に、選択的なDNAの沈殿が高細胞密度においても可能であり、SPA(ここではDB)の適切な濃度は、低細胞密度培養より著しく高いが、推定したものより非常に低いことを示す。従って、当業者は、選択的な沈殿剤の適切な濃度は、固定的ではなく、むしろ幅があり、本明細書の開示に基づいて、適切な範囲を見出すことができることを認める。例えば、アデノウイルスを含む、細胞密度が約10×10〜30×10細胞/mLの高細胞密度の懸濁液の採取物を処理するのに適切な濃度のDBは、約1.3〜2mMである。
【0081】
これらの結果に基づいて、当業者は、DNA沈殿が、さらにより高い細胞密度、例えば約40×10細胞/mL、例えば約50×10細胞/mL、例えば約100×10細胞/mL以下、例えば約150×10細胞/mL以下のアデノウイルスを含む懸濁液に関して推定でき、このように高細胞密度の懸濁液からのアデノウイルスが本発明の方法を用いて精製できることを認識できるであろう。
【0082】
従って、本発明に従って、アデノウイルス粒子を高細胞密度の懸濁液から精製する際、選択的なDNA沈殿を使用することが可能である。
【0083】
<実験例3:大容量の高細胞密度の懸濁液における選択的な宿主細胞DNA沈殿>
DNA沈殿を0.5L〜20Lの規模で試験した。DNA沈殿のために使用したDB濃度は、上記の実験結果に基づくものである(図2)。小規模の試験管モデルとして測定された濃度Cの約80%を用いた。
【0084】
潅流モードの際、ATFシステムを用いて実施した潅流を、細胞添加後4日目、細胞密度約2.5×10総細胞/mLで開始した。潅流開始14日後、バイオリアクター内で、新鮮な無血清培地を用いて細胞密度約13×10細胞/mLまで細胞懸濁液を希釈した。その後、バイオリアクターをAd35ウイルス感染させた。感染5時間後、ATFシステムを培地交換速度1日当り2容器で開始した。感染3日後、細胞を採取した。採取時の細胞密度(CADH)を表2に示す。
【0085】
採取後、非イオン界面活性剤Triton X−100およびTween−80を最終濃度がそれぞれ0.1および0.05%となるように添加することによって、細胞を2〜24時間溶解した。臭化ドミフェンを、40mM NaCl中の溶解した採取物に、最終濃度が0.72および1.52mMとなるように添加した。異なる細孔サイズの2つの連続した荷電深層濾過を用いて、沈殿した溶解物を清澄化した。双方のフィルターの推定される細孔サイズは、それぞれ〜10−〜5μm(Millistak +CE20)および〜1〜0.2μm(Cuno Zeta plus 50CP)あった。第1のフィルターを使用し、大きな細胞残屑および不純物を取り除いた。前記前濾過後、第2のフィルターを使用し、残存する不純物および沈殿したDNAを、ウイルスを含む懸濁液から取り除いた。一定のフラックス100LMH(リットル/平方メートル/時間)で、圧力5psiを達するまで清澄化を実施した。
【0086】
表2は、方法のパラメーターおよび精製方法の結果を示す。容積、採取時の細胞密度(cell density at harvest(CDAH))およびウイルス力価に関して8つの異なる採取物を用いて、溶解、DNA沈殿(DNA ptt)および清澄化を実施した。採取物を2Lまたは10Lのバイオリアクターから抽出した。沈殿工程に亘る沈殿した宿主細胞DNA(HC−DNA)およびウイルス回収の割合を測定した。
【0087】
【表2】

【0088】
高細胞密度においても選択的な宿主細胞DNAの沈殿が高細胞密度で可能であると判断された。実際、DB濃度は上昇したが(2倍)、ウイルス粒子は沈殿せずに残存し(回収率が70%を超えている点に注目のこと)、および98超のHC−DNAが減少した。
【0089】
この方法は、高細胞密度の培養物から、ウイルス回収率を落とすことなく宿主細胞DNAを除去する方法を提供する。このようにして、工業的に必要とされる、大容量の高細胞密度の懸濁液の処理を可能とする。
【0090】
実用的な理由から、1つのDB濃度(1.52mM)が、試験例4〜8における選択的なDNA沈殿に使用されたことに留意すべきである。前記試験例は、幅広い範囲の細胞密度(9.1×10〜25.8×10vc/mL)のアデノウイルスを含む懸濁液が、1.52mMのDBで処理できることを示す。これは、適切な濃度の選択的な沈殿剤および細胞密度の間の関係が、十分に固定されたものでなく、変動するという前記概念と一致するため、沈殿剤の濃度の範囲は、一定の細胞密度に適合する。
【0091】
アデノウイルスを含む、細胞密度が10×10〜50×10細胞/mLの高細胞密度の懸濁液を処理するのに適したDBの濃度は、約1.3mM〜2.2mMである。アデノウイルスを含む、細胞密度が10×10〜30×10細胞/mLの高細胞密度の懸濁液の採取物を処理するのに適したDBの濃度は、約1.3mM〜2mMである。
【0092】
高細胞密度でのいくつかの試験例(試験例6および7)は、低細胞密度の採取物と比較して、ウイルス回収率が低く、第2のフィルターに亘るフィルター性能が観測されたことに留意する。なお、に、2つの連続した異なるフィルターの使用は、繁雑で、費用のかかる工程であるといえる。
【0093】
<実験例4:選択的な宿主細胞DNA沈殿後、TFFによる高細胞密度のアデノウイルス調製の単一の清澄化工程>
PER.C6細胞を潅流バイオリアクター内で培養し、Ad35を感染させ、36℃、無血清培養培地で3日間培養した。細胞密度が20〜30×10細胞/mL、かつウイルス力価1〜1.5×1012VP/mLの状態で細胞を採取した。非イオン界面活性剤Triton X−100およびTween−80を最終濃度がそれぞれ0.1および0.05%となるように添加して、細胞からウイルスを放出させた。溶解時間は、2〜24時間とした。細胞を溶解した後、清澄化工程の前に、DNA沈殿工程を実施した。
【0094】
40mM NaCl中、0.063%〜0.077%の臭化ドミフェン(DB)を用いて、DNA複製を実施した。DBの添加時間を2時間とし、撹拌速度を0.17から1.52m/s−1として、DNA沈殿を3時間実施した。0.65μmの中空糸フィルター(GE Healthcare, model CFP-6-D-4MA, 0.046m2)での接線流濾過を用いて、清澄化を実施した。溶解し、DNA沈殿した採取物1Lを少なくとも3倍に濃縮した。清澄化後、フィード・アンド・ブリード操作において残液の3倍の容量で洗浄を行った。透過液フラックスを15〜40LMHとして、濾過実験を実施した。3つの異なる採取物を用いて、溶解後、DNA沈殿および清澄化を行った。選択的な沈殿および清澄化後、沈殿した宿主細胞DNA、1×1011ウイルス粒子当りの宿主細胞DNA濃度およびウイルス回収率の割合を測定し表3に示した。
【0095】
【表3】

【0096】
前記実験例と同様に、予想外に、選択的なDNA沈殿が高細胞密度においても可能であることが示された。実際に、DB濃度が上昇したが、ウイルス粒子は沈殿せずに残存し(回収率が80%より高い点に注目のこと)、99%超のHC−DNAが減少した。
【0097】
実験例1の失敗にも関わらず、この実験例において、接線流濾過を選択的なHC−DNA沈殿と組み合わせて使用した場合、高細胞密度の懸濁液を清澄化することを可能としたことを示す。
【0098】
2つの異なる深層フィルターの組み合わせ(前記に例示する)の代わりに、接線流濾過を使用することは、高細胞密度の懸濁液を1回の清澄化工程で清澄化したアデノウイルス懸濁液とする可能性を提供する。
【0099】
接線流濾過の使用した選択的なHC−DNA沈殿の組み合わせは、高細胞密度の懸濁液の採取物から宿主細胞DNAを取り除くことを可能とし、驚くべきことに、アデノウイルス回収率を落とすことなく可能である。実際、この方法を用いた完全なアデノウイルスの回収率は、深層濾過を用いた典型的な2工程の清澄化濾過方法を用いたものより高くすることができる。また、本発明は、深層濾過方法と比較して、より簡便で費用のかからない精製過程を要する精製方法を提供する。このようにして、工業的過程に必要とされる大容量の高細胞密度の懸濁液の処理を可能とする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞懸濁液からアデノウイルス粒子を精製する方法であって、
a)前記細胞懸濁液中で細胞を溶解する工程;
b)前記細胞懸濁液中で宿主細胞のDNAを断片化および/または沈殿する工程;
c)工程b)から得られる細胞懸濁液を接線流濾過により清澄化し、精製されたアデノウイルス懸濁液を得る工程;を備え、
前記細胞懸濁液の細胞密度が、1mL当り5×10〜150×10細胞であることを特徴とする方法。
【請求項2】
工程b)における前記沈殿は、選択的な沈殿剤を添加し、選択的に宿主細胞DNAをウイルス粒子から沈殿することで実施される、請求項1に記載のアデノウイルス粒子を精製する方法。
【請求項3】
前記選択的な沈殿剤は、臭化ドミフェン(DB)である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記臭化ドミフェン(DB)の濃度は、1.2〜5mMである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
細胞密度は、1mL当り約10×10〜30×10細胞であり、臭化ドミフェン(DB)の濃度は、1.3〜2mMである、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記接線流濾過は、膜細孔サイズが0.1〜0.65μmのもので実施される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記接線流濾過は、中空糸で実施される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記接線流濾過は、ATFシステムで実施される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
宿主細胞DNAの少なくとも80%が、精製されたアデノウイルス懸濁液から除去される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2013−507141(P2013−507141A)
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−533631(P2012−533631)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際出願番号】PCT/EP2010/065436
【国際公開番号】WO2011/045381
【国際公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(301055549)クルセル ホランド ベー ヴェー (27)
【Fターム(参考)】