説明

高脂血症又はインスリン非依存性糖尿病の予防及び/又は治療のための医薬

【課題】高脂血症又はインスリン非依存性糖尿病等の予防及び/又は治療のための医薬を提供する。
【解決手段】3,7,11,15-テトラメチル-2,4,6,10,14-ヘキサデカペンタエン酸を有効成分として含む高脂血症又はインスリン非依存性糖尿病等の予防及び/又は治療のための医薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペルオキシゾーム増殖剤活性化受容体(peroxisome proliferatoractivated receptor:以下、本明細書において「PPAR」と略す場合がある)の活性化に基づく高脂血症又はインスリン非依存性糖尿病の予防及び/又は治療のための医薬に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、我が国の高脂血症患者及び糖尿病患者は併せて1000万人以上と推定され、その数は増加の一途にある。糖尿病患者の多くはインスリン非依存性糖尿病であり、その特徴はインスリンの作用に抵抗性を示す高血糖等を呈する病態である。また、高脂血症や糖尿病では、高インスリン血症、低HDLコレステロール血症、高血圧及び肥満等の病態が高頻度に発生し、臨床上問題とされている。近年、これら複数の症状を示す病態はX症候群と呼ばれ、重篤な疾患として位置付けられている(引用文献:Diabetes、37、1595-1607(1988))。
【0003】
これらの疾患に対する治療薬として、クロフィブレートに代表されるクロフィブレート系誘導体やピオグリタゾン、トログリタゾンに代表されるチアゾリジン誘導体等が使用されている。クロフィブレート系誘導体はPPARαの活性化作用を有し(引用文献:Nature、347、645-650(1990))、肝臓において脂肪酸β酸化系酵素を介して脂質代謝を改善すると考えられている。また、チアゾリジン誘導体はPPARγの活性化作用を有し(引用文献:J.Biol.Chem.、270、112953-112956(1995))、インスリン抵抗性を改善し血糖を低下させると考えられている(引用文献:Diabetes、45、1661-1669(1996))。
【0004】
しかしながら、PPARの作動薬は一般的に肝機能障害等の副作用が報告されており、PPARγ作用薬の一つであるトログリタゾンは肝機能障害患者には禁忌であり(引用文献:臨床医薬、14、461-466(1998))、現在は販売中止となっている。
【0005】
上記のように、PPARの活性化作用を有する薬物は高脂血症及び糖尿病に対する治療薬として有用であるが、副作用が多いことから副作用の少ないPPARの活性化薬が望まれている。
【0006】
ポリプレニル化合物の一つである(2E,4E,6E,10E)-3,7,11,15-テトラメチル-2,4,6,10,14-ヘキサデカペンタエン酸(開発コード「NIK-333」)は、レチノイン酸結合蛋白及びレチノイン酸受容体に対して親和性を示すことや、肝細胞癌における分化誘導作用及びアポトーシス誘導作用が知られている。臨床においては、NIK-333は一年間の長期投与により肝癌根治治療後の再発を有意に抑制し、肝癌再発抑制作用が示唆されている。さらに、この時、肝機能障害及び他のレチノイドに見られる副作用はほとんど認められず、安全な薬剤である(引用文献:N.Eng.J.Med. 334、1561-1567 (1996))。
しかしながら、ポリプレニル化合物がPPARを活性化することは全く知られていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明は副作用の少ないPPARの活性化に基づく高脂血症又はインスリン非依存性糖尿病の予防及び/又は治療のための医薬を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、PPARの活性化剤を見出すべく種々研究を重ねてきた。その結果、ポリプレニル化合物がPPARα及びγのmRNA発現を誘導し、さらにPPARαに対してリガンド活性を有することを明らかにした。これらの結果から、ポリプレニル化合物はPPARを活性化することを見出し、さらに研究を行うことにより本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、ポリプレニル化合物を有効成分とするペルオキシゾーム増殖剤活性化受容体(PPAR)の活性化剤を提供するものである。また、本発明により、ポリプレニル化合物を有効成分として含む高脂血症又はインスリン非依存性糖尿病の予防及び/又は治療のための医薬が提供される。
【0010】
別の観点からは、上記の医薬の製造のためのポリプレニル化合物の使用;ヒトを含む哺乳類動物においてペルオキシゾーム増殖剤活性化受容体(PPAR)を活性化する方法であって、ポリプレニル化合物の有効量をヒトを含む哺乳類動物に投与する工程を含む方法;並びに、高脂血症又はインスリン非依存性糖尿病の予防及び/又は治療方法であって、予防及び/又は治療を必要とするヒトを含む哺乳類動物にポリプレニル化合物の予防及び/又は治療有効量を投与する工程を含む方法が本発明により提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1図は、NIK-333で処理した細胞中のPPARαのmRNA(wild type、splice variant)の発現を示す。
【図2】第2図は、NIK-333で処理した細胞中のPPARγ1の mRNAの発現を示す。
【図3】第3図は、NIK-333又はWy-14643のPPARαの発現ベクター未導入時(−)及び導入時(+)におけるPPARα に対するリガンド活性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
日本国特願2000-122974号(2000年4月24日出願)の明細書の全ての開示を本明細書の開示に参照として含める。
【0013】
本発明に使用されるポリプレニル化合物としては、(2E,4E,6E,10E)-3,7,11,15-テトラメチル-2,4,6,10,14-ヘキサデカペンタエン酸(NIK-333)を特に好ましい化合物として挙げることができる。また、他のポリプレニル化合物として、特公昭63-34855公報に記載の3,7,11,15-テトラメチル-2,4,6,10,14-ヘキサデカペンタエン酸等の共役ポリプレニルカルボン酸(ポリプレン酸)及びそのエステルなどを挙げることができる。
【0014】
本発明で使用されるポリプレニル化合物は、公知の方法(日本国特許公報昭63-32058号、J. Chem. Soc.(C), 2154頁, 1966年)により合成することができる。
【0015】
本発明のPPAR活性化剤、あるいはPPARの活性化作用に基づく本発明の高脂血症又はインスリン非依存性糖尿病の予防及び/又は治療のための医薬を使用する場合には、通常、ポリプレニル化合物を含む医薬組成物を調製し、経口又は非経口のいずれか適当な投与方法により投与することができる。経口投与に適する医薬組成物の形態としては、例えば錠剤、顆粒剤、カプセル剤、軟カプセル剤、丸剤、散剤、液剤などが挙げられ、非経口投与に適する医薬組成物の形態としては、例えば、注射剤、座剤などが挙げられる。これらの医薬組成物は、ポリプレニル化合物又は薬理学上許容しうるその塩と薬学的に許容される通常の製剤担体の1種又は2種以上とを用いて常法により調製することができる。有効成分であるポリプレニル化合物を2種以上用いてもよい。
【0016】
例えば、経口投与に適する医薬の場合には、製剤担体として、乳糖、ブドウ糖、コーンスターチ、ショ糖などの賦形剤、カルボキシメチルセルロースカルシウム、ヒドロキシプロピルセルロースなどの崩壊剤、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、硬化油などの滑沢剤、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ゼラチン、アラビアゴムなどの結合剤、グリセリン、エチレングリコールなどの湿潤剤、その他必要に応じて界面活性剤、矯味剤などを使用して所望の医薬組成物を調製することができる。
【0017】
また、非経口投与に適する医薬の場合には、製剤担体として、水、エタノール、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、寒天、トラガラントガムなどの希釈剤を用いて、必要に応じて溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、安定剤、緩衝剤、等張化剤、保存剤、無痛化剤などを使用することができる。
【0018】
本発明の医薬は、PPARの活性化により治療及び/又は予防が可能な疾患に適用することができ、ヒトを含む哺乳類動物に対して用いることが可能である。本発明の医薬により活性化可能なPPARとしては、例えばPPARα又はPPARγを好ましい対象として挙げることができる。本発明の医薬の好ましい適用対象としては、インスリン非依存性糖尿病又は高脂血症、あるいはそれらの疾患の合併症、例えば高インスリン血症、低HDLコレステロール血症、高血圧、肥満等を挙げることができる。
【0019】
本発明のPPAR活性化剤、あるいはPPARの活性化作用に基づく本発明の高脂血症又はインスリン非依存性糖尿病の予防及び/又は治療のための医薬を用いる場合、その投与量は特に限定されないが、例えば、成人1日あたり経口投与の場合には1〜2,000mg、好ましくは20〜800mg、非経口投与の場合には1〜1,000mg、好ましくは10〜100mgの範囲である。上記の投与量をそれぞれ1日1〜3回投与することにより所望の予防及び/又は治療効果が期待できる。
【実施例】
【0020】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1 ヒト細胞株でのPPARα及びPPARγのmRNAの発現
ヒト細胞株としてCaco-2(大腸癌由来)を、10%牛胎仔血清を含むRPMI-1640培地にて、37℃で5%CO2存在下で培養した。その後、無血清のRPMI-1640培地に培地を交換し48時間培養した後、NIK-333の作用を検討するため、NIK-333のエタノール溶液を最終濃度10μMになるように添加した。添加0、0.5、1、2、5時間後にRNAを抽出し、RT-PCR法により、PPARα、PPARγ1及びPPARγ2のmRNAを観察した。
【0021】
その結果、NIK-333は添加0.5時間後よりPPARαのmRNAの発現が認められた(第1図)。また、NIK-333はPPARγ1のmRNAに対しても添加0.5時間後より発現が認められたが(第2図)、PPARγ2のmRNAの発現は認められなかった。
【0022】
実施例2 PPARαに対するリガンド活性
サル腎由来細胞株COS-7を、10%牛胎仔血清を含むDMEM培地にて、37℃で5%CO2存在下で培養した。その後、RXRα(レチノイン酸X受容体α)とPPARαの発現ベクター及びその応答配列であるPPRE(ペルオキシゾーム増殖剤応答配列)をくみこんだレポーターベクターを細胞内に同時に導入し24時間培養し、NIK-333の作用を検討するため、NIK-333又はWy-14643(PPARαの選択的作用薬)のエタノール溶液を最終濃度10μMになるように添加した。その24時間培養後、ホタルルシフェラーゼの活性を測定した。測定値はウミシイタケルシフェラーゼ活性で標準化した値で示した。
【0023】
第3図に示すように、NIK-333及びWy-14643はPPARαの発現ベクター未導入時(−)ではルシフェラーゼ活性を増加せず、PPARαの発現ベクター導入時(+)のみルシフェラーゼ活性を増加させた。このNIK-333の作用は、Wy-14643と同等のリガンド活性の増加作用を示した。
【産業上の利用可能性】
【0024】
ポリプレニル化合物はPPARα及びγの発現を誘導し、さらにPPARαに対するリガンド活性を有することから、PPARの活性化作用を有しており、高脂血症又はインスリン非依存性糖尿病の予防及び/又は治療に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3,7,11,15-テトラメチル-2,4,6,10,14-ヘキサデカペンタエン酸を有効成分として含む高脂血症又はインスリン非依存性糖尿病等の予防及び/又は治療のための医薬。
【請求項2】
(2E,4E,6E,10E)-3,7,11,15-テトラメチル-2,4,6,10,14-ヘキサデカペンタエン酸を有効成分として含む高脂血症又はインスリン非依存性糖尿病等の予防及び/又は治療のための医薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−219496(P2011−219496A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154477(P2011−154477)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【分割の表示】特願2001−577953(P2001−577953)の分割
【原出願日】平成13年4月23日(2001.4.23)
【出願人】(000226404)興和創薬株式会社 (17)
【出願人】(505225197)長崎県公立大学法人 (31)
【Fターム(参考)】