説明

高芳香族炭化水素油の製造方法

【課題】流動接触分解残油(CLO)を、軽質で、かつ芳香族分の含有量が高いガソリン留分や灯軽油留分などの炭化水素油に転換する方法を提供する。
【解決手段】重質油を重油直接脱硫(RH)装置において水素化脱硫及び水素化分解して得られた脱硫重油(DSAR)を、残油流動接触分解(RFCC)装置または流動接触分解(FCC)装置の原料油として接触分解することにより、高芳香族炭化水素油を製造する、高芳香族炭化水素油の製造方法であって、前記重質油を予め150〜350℃の温度でアスファルテンの凝集緩和処理を行う高芳香族炭化水素油の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高芳香族炭化水素油の製造方法に関し、さらに詳しくは、重質油を前処理して得られた凝集緩和油を原料油として用いた高芳香族炭化水素油の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用ガソリンを始めとして、高オクタン価ガソリン基材の需要は年々増加しているため、重質軽油留分あるいは常圧残油留分等を分解して、高オクタン価ガソリン基材を増産する技術の開発が望まれている。
一方、中国、インド等におけるパラキシレンの需要増加に対し、ベンゼン、トルエン、キシレン(BTX)等の一環芳香族化合物を多く含有する石油留分は、そのための原料として有用であり、石油化学原料としての芳香族分含有量の多い留分の増産技術の開発も望まれている。
他方、重油は年々需要が激減しており、バンカーC重油などに使用されている流動接触分解残油(CLO)は、残油流動接触分解装置(RFCC)または流動接触分解装置(FCC)からガソリン留分や灯軽油留分を製造する際の連産品であることから、特にその利用に関して、早急に有効な方策が望まれている。
ガソリン留分以外の留分を水素化分解して高オクタン価ガソリン基材を製造する方法として、軽質サイクル油(LCO)やコーカー軽油を原料とし、ZSM−5を触媒として用いて接触分解させる方法が提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、この方法は、転化率は高いものの、ガソリン留分の選択率が低く実用的ではない。
また、上記方法と同様の原料をモルデナイト、フォージャサイト等のアルミノシリケートを用いて接触分解する方法が提案されている(特許文献2参照)。しかしながら、この方法は、得られるガソリン留分のオクタン価は高いものの、ガソリン留分の収率が低い。
さらに、重質油をチタン含有フォージャサイト、アルミノシリケート等により接触分解させ、ガソリン留分及び灯軽油留分を製造する方法が提案されている(特許文献3、特許文献4参照)。しかしながら、この方法では、ガソリン留分及び灯軽油留分の収率は高いが、得られるガソリン留分のオクタン価についての詳細は不明であり、灯軽油留分の製造が主目的であることから、得られるガソリン留分はリサーチオクタン価が低く、そのままガソリン基材として用いるには多くの制約があると推測される。
【0003】
また、原油の常圧蒸留によって得られる常圧残油などの重質油は、通常、硫黄分や窒素分を多量に含んでいる。これらの重質油を燃料油として使用する場合、SOxやNOxが発生するので、環境上の規制などにより重質油中の硫黄分や窒素分の含有量を所定の値以下にすることが必要となる。重質油の水素化精製を繰り返し行うことで、硫黄分や窒素分の含有量を十分下げることもできるが、硫黄分や窒素分を十分に除去できる条件で水素化精製処理を行った場合、水素化精製処理触媒の触媒寿命が短いなどの問題があった。また、水素化精製の反応温度を高温にすることにより、硫黄分や窒素分の除去を促進することも試みられているが、副反応として炭化水素が縮合して、ドライスラッジが発生し、製品が劣質化することや触媒上にコークが堆積して触媒が失活するという問題があった。
この、コーク生成の問題を解決するための一つの方法として、水素供与性化合物を用いて重質油中のコーク前駆体を水素化する方法が報告されている。しかしながら、水素供与性溶剤を重質油に混合して高温で水素化処理を行っているため、ある程度コークの生成の抑制効果が見られるが、その効果は不十分であった。
また、水素供与性溶剤を含む、アスファルテンの凝集緩和処理剤を重質油に混合して、150〜350℃で凝集緩和処理することにより、その後に行う重質油の熱分解や接触分解などの水素の不存在下における分解反応において、コークの生成を抑制する方法が開示されている(特許文献5、6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭55−149386号公報
【特許文献2】特開昭61−283687号公報
【特許文献3】特許第3341011号公報
【特許文献4】特開2003−226519号公報
【特許文献5】特開平5−117665号公報
【特許文献6】特開2005−307103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、需要が年々激減している重油を、軽質でかつ芳香族分の含有量が高いガソリン留分や灯軽油留分などの炭化水素油に転換する方法を提供するものである。
また、本発明は重油直接脱硫装置(RH)での重質油の水素化精製処理において脱硫率、脱メタル率等を向上させ、かつコークの生成を抑制して、エネルギーの消費量を低減させるとともに、続く残油流動接触分解装置(RFCC)での接触分解を容易にする原料油を生成することにより、RFCCで芳香族分の含有量が高いガソリン留分や灯軽油留分等の高芳香族分炭化水素油を得ることができる方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
〔1〕重質油を重油直接脱硫装置(RH)において水素化脱硫及び水素化分解して得られた脱硫重油(DSAR)を、残油流動接触分解装置(RFCC)または流動接触分解装置(FCC)の原料油として接触分解することにより、高芳香族炭化水素油を製造する、高芳香族炭化水素油の製造方法であって、前記重質油を予め150〜350℃の温度でアスファルテンの凝集緩和処理を行う高芳香族炭化水素油の製造方法、
〔2〕前記アスファルテンの凝集緩和処理を、凝集緩和処理剤の存在下で行う、上記〔1〕記載の高芳香族炭化水素油の製造方法、
〔3〕前記凝集緩和処理剤が、50質量%以上の芳香族化合物を含有する石油留分である、上記〔2〕記載の高芳香族炭化水素油の製造方法、
【0007】
〔4〕前記石油留分が、流動接触分解残油(CLO)及び重質サイクル油(HCO)から選ばれる少なくとも一種である、上記〔3〕記載の高芳香族炭化水素油の製造方法、
〔5〕前記重質油と前記凝集緩和処理剤の合計量に対する、凝集緩和処理剤の混合割合が1〜30容量%である、上記〔2〕〜[4]のいずれかに記載の高芳香族炭化水素油の製造方法、
〔6〕前記流動接触分解残油(CLO)又は重質サイクル油(HCO)中に含まれる水泥分が0.5容量%以下である、上記〔4〕又は[5]に記載の高芳香族炭化水素油の製造方法、及び
〔7〕前記高芳香族炭化水素油がガソリン留分である、上記〔1〕〜[6]のいずれかに記載の高芳香族炭化水素油の製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、重質油を、重油直接脱硫装置(RH)での水素化精製処理前に予め150〜350℃の温度でアスファルテンの凝集緩和処理を行うことにより、重油直接脱硫装置(RH)での水素化精製処理、および引き続いての残油流動接触分解装置(RFCC)あるいは流動接触分解装置(FCC)での流動接触分解処理により芳香族分の含有量が高いガソリン留分や灯軽油留分などの炭化水素油に転換することができ、これにより、ガソリン留分においてはそのリサーチオクタン価(RON)が高くなり、また、芳香族分の含有量が高いガソリン留分や灯軽油留分はベンゼン、トルエン、キシレン(BTX)等の有用な石油化学原料を収率良く得ることができる。
また、重油直接脱硫装置(RH)での重質油の水素化精製処理において脱硫率、脱メタル率等を向上させ、かつコークの生成を抑制して、エネルギーの消費量を低減させるとともに、続く残油流動接触分解装置(RFCC)での接触分解を容易にする原料油を生成することにより、RFCCで芳香族分の含有量が高いガソリン留分や灯軽油留分等の高芳香族分炭化水素油を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の高芳香族分炭化水素油の製造方法において、原料油として用いられる重質油としては特に制限はなく、例えば原油の常圧蒸留残油(AR)及び減圧蒸留残油(VR)、重質軽油、接触分解残油、ビスブレーキング油、ビチューメンなどの密度の高い石油留分を挙げることができる。これらの重質油は、通常アスファルテンが1質量%以上含まれている。また、これらの重質油から抽出したアスファルテンも用いることができる。本発明においては、原料油として、これらを単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0010】
なお、前記アスファルテンとは、重質油からn−ヘプタンによる溶媒抽出により抽出したn−ヘプタン不溶解分を意味する。重質油中のアスファルテンの含有量が1質量%以上であれば、本発明の目的であるアスファルテンの凝集緩和による重油直接脱硫装置(RH)、残油流動接触分解装置(RFCC)あるいは流動接触分解装置(FCC)でのコーク発生の低減効果が充分に発揮される。
本発明においては、これらの重質油をRHにおいて水素化精製処理するに際し、この水素化精製処理を行う前に、アスファルテンの凝集緩和処理を行なうものである。この凝集緩和処理として、本発明においては、凝集緩和処理剤の不存在下で、又は、存在下で、重質油を150〜350℃の温度で加熱処理する。このような処理により、重質油の水素化脱硫及び水素化分解において、アスファルテンの凝集を緩和することができ、その結果、アスファルテンの凝集に由来するコークの発生が抑制されると共に、反応基質と触媒活性点の接触効率を向上させることができ、原料重質油の脱硫反応、脱金属反応、水素化分解反応および水素化反応を促進することができる。
【0011】
加熱によるアスファルテンの凝集緩和処理の場合、加熱処理温度が150〜350℃の温度範囲内であれば、アスファルテンの凝集緩和効果が十分発揮され、重質油の分解や重合反応によるコークの生成を効率的に抑制することができる。以上の点から、本発明における好ましい加熱処理温度は200〜350℃の範囲であり、特に250〜330℃の範囲が好ましい。また、その際の圧力については特に制限はなく、自生圧でよいが、窒素ガスなどの不活性ガスや水素ガスを導入して加圧してもよい。この場合、圧力は通常0.1〜30MPa、好ましくは1〜20MPaの範囲で選定される。加熱処理時間は、加熱処理温度などにより左右され、一概に定めることはできないが、通常10〜120分程度で充分である。この加熱処理においては、アスファルテンの凝集緩和効果をより一層高めるために回転翼による撹拌や、超音波照射を併用することができる。
【0012】
本発明においては、上記アスファルテンの凝集緩和は、凝集緩和処理剤の存在下で行うこともでき、その方がアスファルテンの凝集緩和効果が大きく好ましい。このような凝集緩和処理剤としては、各種の有機溶媒、例えば芳香族系溶媒、極性溶媒、水素供与性溶媒、芳香族系石油留分、工業溶媒などが使用できる。
上記芳香族系溶媒としては、例えば、1−メチルナフタレン、1−メチルアントラセン、9−メチルアントラセン、トルエンなどを、極性溶媒としては、例えば、キノリン、Nーメチルピロリドンなどを、水素供与性溶媒としては、例えば、デカリン、テトラリンなどを、芳香族系石油留分としては、十分な凝集緩和効果を得るため、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上の芳香族化合物を含有する石油留分であり、例えば、重質サイクル油(HCO)、流動接触分解残油(CLO)、軽質サイクル油(LCO)などを、工業溶媒としては、例えば、クレオソート油、アントラセン油などを挙げることができる。これらの溶媒や石油留分は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明においては、芳香族分含有量が多く製油所内で調達可能である点から、流動接触分解残油(CLO)及び重質サイクル油(HCO)から選ばれる少なくとも一種の芳香族系石油留分が好ましい。
【0013】
CLOまたはHCOは、RFCCもしくはFCCから得られたエフルエントを蒸留にて分離して得られるものであるが、効率的に分解を行なう点から、前記AR単独由来のDSARを、RFCCもしくはFCCの原料油の少なくとも一部として用いて、後述のRFCCもしくはFCCと同様の条件で得られたCLOまたはHCOを用いることが好ましい。CLOまたはHCOで循環を繰り返す場合は、ある一定以上はCLOまたはHCOの分解が進まず、未分解油として残り、精製費の浪費になる恐れがあるからである。
【0014】
本発明において、上記CLOまたはHCOは、沸点330℃以上の流動接触分解処理後の生成油であることが好ましく、沸点350℃以上の留分が50容量%以上であるものがより好ましい。
本発明においては、凝集緩和処理剤として用いられるCLOまたはHCO中に含まれる水泥分は、RHの触媒層への堆積による差圧の発生を防止し、偏流によるホットスポットの発生を防止する観点から、0.5容量%以下であることが好ましく、0.2容量%以下であることがより好ましく、0.05容量%以下であることが更に好ましい。
上記CLOまたはHCOは、その芳香族分含有量が、一般に60〜95質量%であるが、本発明においては、70〜80質量%であることが好ましい。また、硫黄分含有量は、一般に0.3〜1.1質量%である。
【0015】
凝集緩和処理剤の原料重質油に対する使用割合は、十分なアスファルテンの凝集緩和効果を得つつその後の反応効率を低下させない点から、好ましくは前記重質油と凝集緩和処理剤との合計量の1〜30容量%、より好ましくは3〜20容量%、更に好ましくは3〜18容量%である。凝集緩和処理剤の含有量が多すぎると、流動接触分解装置において、コークが多く生成し、流動接触分解装置の再生塔への負荷が高くなり、触媒循環量が低下し、分解率が低下することがあり、更には、通油量を低下せざるを得なくなりガソリン留分等の収量が低下してしまうことがある。結果的に有用なガソリン、灯軽油留分が十分得ることが出来なくなる場合がある。また、上記含有量が少なすぎると、所望のアスファルテンの凝集緩和効果が得られないことがある。
【0016】
また、凝集緩和処理剤の使用量は、重質油中のアスファルテンに対し、0.1〜10倍質量の範囲で、該アスファルテンの分子構造に応じて適宜選定するのが好ましい。該凝集緩和処理剤はアスファルテンの凝集構造に浸透して、凝集緩和効果を発揮するが、その量が上記範囲内であれば凝集緩和効果が充分に発揮され経済的にも有利である。この凝集緩和処理剤のより好ましい使用量は、アスファルテンに対し、0.5〜5倍質量の範囲である。
【0017】
本発明における重質油の水素化精製処理においては、このように予め重質油を、凝集緩和処理剤の不存在下で、又は、存在下で加熱処理してアスファルテンの凝集を緩和する処理を施したのち、水素化脱硫及び水素化分解を行う。この水素化脱硫及び水素化分解は、従来重質油の水素化精製処理に慣用されている方法であれば特に限定されない。
【0018】
本発明においては、上記重質油とCLO及び/又はHCO等の凝集緩和処理剤を含む緩和処理油を、RHにおいて水素化脱硫及び水素化分解してDSARを得る。
水素化脱硫及び水素化分解は、触媒の存在下で行い、反応温度、反応圧力、液空間速度等の反応条件を最適化することにより必要とされる脱硫率や重質油の分解率を達成することができる。水素化脱硫及び水素化分解は、通常300〜450℃、好ましくは330〜420℃、より好ましくは380〜420℃の温度条件下で通常10〜22MPa、好ましくは13〜20MPaの水素加圧下で行われる。液空間速度(LHSV)は通常0.1〜10h-1、好ましくは0.1〜3h-1、水素/油比は通常200〜10,000Nm3/KL、好ましくは500〜10,000Nm3/KLの範囲で行われる。
【0019】
水素化脱硫及び水素化分解は、第一工程として水素化脱金属処理工程、第二工程として水素化脱硫処理工程の2工程を含むことが好ましい。原料重質油は、初めに第一工程である水素化脱金属処理工程で、水素化脱金属処理され、水素化脱硫触媒の活性低下の原因となるバナジウム、ニッケルなどの金属分が水素化され脱金属される。次いで水素化脱金属処理工程で処理された留出油は、第二工程である水素化脱硫処理工程に送られ水素化脱硫処理される。この時、第一工程と第二工程は同一装置内で行うこともできるが、別装置で行っても良い。
本発明においては、触媒の劣化抑制の点から、前記RHの上流に、別途OCR等の脱金属装置を付帯して有することが好ましい。
【0020】
上記第一工程と第二工程の機能分担を実現させる具体的手段としては、触媒担体の細孔構造と担持金属量とをパラメーターとして、例えば、第一工程においては、担体の細孔径を大きく(又は金属担持量を少なく)する方法により、触媒の細孔容積を大きくして、分子の大きな金属分を捕捉して、第二工程では表面積の大きい(細孔の径が小さく、数の多い)担体に、活性金属をより多く担持した触媒を用いて、主として硫黄化合物の水素化脱硫を行なう。これら各工程は、前記のとおりの主たる機能分担を有するが、全体としては原料重質油の水素化精製処理が行われる。
【0021】
水素化脱硫及び水素化分解に用いる触媒は、水素化脱金属能、水素化脱硫能を持った公知の触媒をいずれも用いることができ、例えば、アルミナ、シリカ−アルミナ、ゼオライトあるいはこれらの混合物等の担体に、周期表第V〜VIII族金属、あるいはこれらの硫化物、酸化物を担持した触媒を用いることができる。上記周期表第V〜VIII族の金属の金属としては、水素化脱硫に適した活性金属を用いる点から、好ましくはニッケル、コバルト、モリブデン、タングステン等、あるいはこれらの組み合わせが用いられる。本発明においては、重質油に対してより水素化脱硫、水素化分解および水素化能の優れている点から、触媒としてアルミナ等の多孔質無機酸化物担体にCo−Mo、Co−Mo−P、Ni−Mo、Ni−Mo−P等の金属を担持した触媒を用いることが好ましい。
上記水素化脱硫及び水素化分解で用いられる反応器としては従来公知の様式の反応器、例えば固定床、移動床いずれも使用することができ、ダウンフロー式、
アップフロー式のいずれであってもよい。
【0022】
RHにおける水素化脱硫及び水素化分解で得られた反応生成物は、気液分離装置により気液を分離し、液相は蒸留等の分離操作によりナフサ留分、灯油留分、軽油留分、重油留分等の所望の留分に分留し回収する。このとき得られた重油留分であるDSARをRFCCもしくはFCCの原料油として用いる。
【0023】
上記RHにおける水素化脱硫及び水素化分解においては、その脱硫率(HDS)、脱窒素率(HDN)、脱バナジウム率(HDV)、脱ニッケル率(HDNi)、脱残炭率(HDCCR)、脱アスファルテン率(HDAs)がそれぞれ、80〜90%、35〜40%、75〜80%、65〜75%、50〜55%、60%以上であることが好ましい。これらは、いずれもRHの原料油と生成油中の各成分量から、各成分の除去割合として算出される。
得られたDSARは、軽油等のいわゆる中間留分となり得る留分は極力軽油等に活用するという点から、沸点が330℃以上の重質留分であることが好ましく、その芳香族分含有量は、70〜90質量%であることが好ましく、硫黄分含有量は0.2〜0.5質量%であることが好ましい。
【0024】
上記RHで水素化脱硫及び水素化分解されて得られたDSARは、次いで、RFCCもしくはFCCに導入され、流動接触分解される。
本発明の高芳香族炭化水素油の製造方法においては、RFCCもしくはFCC内で、DSARの分解反応と脱硫反応を同時に行わせる。RFCCもしくはFCCの原料油として、DSARとともに、本発明の効果を損なわない範囲で、重質軽油、減圧軽油、脱瀝軽油、常圧残油、その他重質留分を混合して用いることもできる。また、重質軽油、減圧軽油等を間接脱硫装置(VH)にて脱硫処理して得られる脱硫重質軽油(VHHGO)、脱硫減圧軽油(VHVGO)、溶剤脱瀝装置から得られる脱瀝油なども併用することができる。
【0025】
本発明の高芳香族炭化水素油の製造方法におけるRFCCもしくはFCCの処理条件は、本発明の効果を奏する範囲で特に限定されないが、例えば、反応温度480〜650℃の範囲が好ましく、480〜550℃の範囲がより好ましい。また、反応圧力は0.02〜5MPaの範囲が好ましく、0.2〜2MPaの範囲がより好ましい。反応温度および反応圧力が上記範囲内であると、流動接触分解触媒の分解活性、接触分解ガソリンの収率及び脱硫率が高く好ましい。
【0026】
本発明の高芳香族炭化水素油の製造方法においては、得られる高芳香族炭化水素油として、ガソリン留分や灯軽油留分などの炭化水素油が挙げられるが、ガソリン留分としては、炭素数が5〜沸点が220℃の留分として得られる。その芳香族分含有量は、18〜29質量%であることが好ましく、23〜28質量%であることが更に好ましい。硫黄分含有量としては、低硫黄分のガソリン基材になるという点から20質量ppm以下であることが好ましく、15質量ppm以下であることがより好ましく、10質量ppm以下であることがさらに好ましい。そのリサーチオクタン価(RON)は、高RONのガソリン基材として使用できるという点から90〜95であることが好ましい。その他、オレフィン含有量は40容量%以下、更には30容量%であることが好ましい。
【0027】
また、軽油留分としては、沸点が190〜380℃の留分が好ましい。その芳香族分含有量は、40〜70質量%であることが好ましく、特に一環芳香族化合物や二環芳香族化合物であればより好ましい。硫黄分含有量としては、0.2〜0.5質量%であることが好ましく、0.2〜0.3質量%であることがより好ましい。
【実施例】
【0028】
次に実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら制限されるものではない。なお、各性状は次の方法に従って求めた。
ガソリン
[芳香族炭化水素分含有量]
JIS K 2536−2により測定した。
【0029】
AR、VR、HCO、CLO、DSAR
[硫黄分含有量]
JIS K 2541−4に準拠して測定した。
[窒素分含有量]
JIS K 2609により測定した。
[バナジウム含有量]
石油学会規格JPI−5S−59−99に準拠して測定した。
[ニッケル含有量]
石油学会規格JPI−5S−59−99に準拠して測定した。
[残留炭素含有量]
JIS K 2270−2により測定した。
[アスファルテン(ヘプタン不溶解分)含有量]
IP143に準拠して測定した。
[芳香族炭化水素分含有量]
IP469に準拠して測定した。
[飽和炭化水素分含有量]
IP469に準拠して測定した。
[水泥分含有量]
JIS K 2601−14により測定した。
【0030】
比較例1
常圧蒸留装置から得られたAR(芳香族分:64.1質量%、硫黄分:3.75質量%)90質量%と減圧蒸留装置から得られたVR(芳香族分:56.4質量%、硫黄分:4.25質量%)10質量%をタンク内で混合し、原料油を調製した。この原料油100質量%に対して流動接触分解装置から得られたHCO(芳香族分:71.9質量%、硫黄分:0.54質量%)をアスファルテンの凝集緩和処理剤として外枠で15質量%添加し60分間80℃で加熱前処理を行なった。使用したAR、VR及びHCOの各性状を表1に示す。その後、水素化処理を行なうため試料温度を下げることなく流通式反応装置に通油した。流通式反応装置では、触媒層の上段にアルミナ担体にニッケルおよびモリブデンを金属酸化物として触媒重量に対しそれぞれ2.5質量%、10.0質量%担持した脱金属触媒20質量%を充填し、中段に同様にアルミナ担体にニッケルおよびモリブデンを金属酸化物として触媒重量に対しそれぞれ3.0質量%、12.5質量%担持した脱硫触媒Aを40質量%充填し、さらに、下段にアルミナ担体にニッケルおよびモリブデンを金属酸化物として触媒重量に対しそれぞれ3.0質量%、13.3質量%担持した脱金属触媒Bを40質量%充填して用いた。水素化処理反応条件は、圧力14.5MPa、温度390℃、LHSV=2.2h-1、水素/油比750Nm3/KL、水素流量14.9NL/Hrであった。
通油して得たDSAR(芳香族分:57.4質量%、硫黄分:0.50質量%)をRFCCの原料として、RFCC処理を行なった。このとき、反応出口温度(ROT)は、519℃、C/Oが6.0であった。流通式反応装置内の触媒活性は、ASTM基準の固定床マイクロ活性試験(Micro Activity Test)装置を使用して、クウェート原油由来の減圧軽油(KVGO)を原料油として用い、485℃、C/O=4.5の測定条件で測定した結果、65質量%を示した。流通式反応装置での水素化処理により得られた生成油を蒸留装置にて分留し、炭素数5以上の留分であって195℃以下の沸点範囲留分である分解ガソリンを得た。他の留分も併せてそれぞれの得率を表2に示す。
【0031】
実施例1、2及び3
比較例1において、加熱処理温度をそれぞれ230、280、330℃とし、それ以外は全て比較例1と同様にして前処理、水素化処理、及びRFCC処理を行った。
DSAR性状とRFCC得率を表2に示す。
【0032】
比較例2
常圧蒸留装置から得られたAR(芳香族分:64.1質量%、硫黄分:3.75質量%)90質量%と減圧蒸留装置から得られたVR(芳香族分:56.4質量%、硫黄分:4.25質量%)10質量%をタンク内で混合し、原料油を調製した。この原料油100質量%に対して流動接触分解装置から得られたCLO(芳香族分:77.9質量%、硫黄分:0.60質量%)をアスファルテンの凝集緩和処理剤として外枠で15質量%添加し60分間80℃で加熱前処理を行なった。使用したAR、VR及びCLOの各性状を表1に示す。その後、水素化処理を行なうため試料温度を下げることなく流通式反応装置に通油した。流通式反応装置では、触媒層の上段にアルミナ担体にニッケルおよびモリブデンを金属酸化物として触媒重量に対しそれぞれ2.5質量%、10.0質量%担持した脱金属触媒20質量%を充填し、中段に同様にアルミナ担体にニッケルおよびモリブデンを金属酸化物として触媒重量に対しそれぞれ3.0質量%、12.5質量%担持した脱硫触媒Aを40質量%充填し、さらに、下段にアルミナ担体にニッケルおよびモリブデンを金属酸化物として触媒重量に対しそれぞれ3.0質量%、13.3質量%担持した脱金属触媒Bを40質量%充填して用いた。水素化処理反応条件は、圧力14.5MPa、温度390℃、LHSV=2.2h-1、水素/油比750Nm3/KL、水素流量14.9NL/Hrである。
通油して得たDSAR(芳香族分:58.6質量%、硫黄分:0.50質量%)をRFCCの原料として、RFCC処理を行なった。このとき、反応出口温度(ROT)は、519℃、C/Oが6.0であった。流通式反応装置内の触媒活性は、ASTM基準の固定床マイクロ活性試験(Micro Activity Test)装置を使用して、クウェート原油由来の減圧軽油(KVGO)を原料油として用い、485℃、C/O=4.5の測定条件で測定した結果、65質量%を示した。流通式反応装置での水素化処理により得られた生成油を蒸留装置にて分留し、炭素数5以上の留分であって195℃以下の沸点範囲留分である分解ガソリンを得た。他の留分も併せてそれぞれの得率を表2に示す。
【0033】
実施例4、5及び6
比較例2において、加熱処理温度をそれぞれ230、280、330℃とし、それ以外は全て比較例1と同様にして前処理、水素化処理、及びRFCC処理を行った。
DSAR性状とRFCC得率を表2に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
アスファルテンの凝集緩和処理剤としてHCOを用いた場合、比較例1の前処理温度80℃の場合に比べて、前処理温度230、280、330℃の実施例1、2及び3では、ガソリン留分のRFCC得率がそれぞれ1.2、2.6及び1.5ポイント向上した。
また、凝集緩和処理剤としてCLOを用いた場合は、比較例2の前処理温度80℃の場合に比べて、前処理温度230、280、330℃の実施例4、5及び6では、ガソリン留分のRFCC得率がそれぞれ0.4、1.6及び0.8ポイント向上した。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の製造方法によれば、需要が年々激減している重油、特に用途が限定される分解残油(CLO)等を重質油中のアスファルテンの凝集緩和処理剤として使用することにより、軽質で、かつ芳香族分の含有量が高いガソリン留分や灯軽油留分などの炭化水素油に転換し、芳香族分の含有量が高い炭化水素留分(ガソリン留分、灯軽油留分)の製造に好適に使用することができることから、ガソリン留分においてはそのリサーチオクタン価(RON)が高くなり、また、芳香族分が高いガソリン留分や灯軽油留分はBTXを収率良く得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重質油を重油直接脱硫(RH)装置において水素化脱硫及び水素化分解して得られた脱硫重油(DSAR)を、残油流動接触分解(RFCC)装置または流動接触分解(FCC)装置の原料油として接触分解することにより、高芳香族炭化水素油を製造する、高芳香族炭化水素油の製造方法であって、前記重質油を予め150〜350℃の温度でアスファルテンの凝集緩和処理を行う高芳香族炭化水素油の製造方法。
【請求項2】
前記アスファルテンの凝集緩和処理を、凝集緩和処理剤の存在下で行う、請求項1記載の高芳香族炭化水素油の製造方法。
【請求項3】
前記凝集緩和処理剤が、50質量%以上の芳香族化合物を含有する石油留分である、請求項2記載の高芳香族炭化水素油の製造方法。
【請求項4】
前記石油留分が、流動接触分解残油(CLO)及び重質サイクル油(HCO)から選ばれる少なくとも一種である、請求項3記載の高芳香族炭化水素油の製造方法。
【請求項5】
前記重質油と前記凝集緩和処理剤の合計量に対する、凝集緩和処理剤の混合割合が1〜30容量%である、請求項2〜4のいずれかに記載の高芳香族炭化水素油の製造方法。
【請求項6】
前記流動接触分解残油(CLO)又は重質サイクル油(HCO)中に含まれる水泥分が0.5容量%以下である、請求項4又は5に記載の高芳香族炭化水素油の製造方法。
【請求項7】
前記高芳香族炭化水素油がガソリン留分である、請求項1〜6のいずれかに記載の高芳香族炭化水素油の製造方法。

【公開番号】特開2011−79995(P2011−79995A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−234564(P2009−234564)
【出願日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】