説明

高蛋白質低グルコシノレート菜種ミールの製造方法。

【課題】栄養特性に優れた菜種ミールを簡便に製造する方法を提供することであり、さらには産業的に価値のある副産物を同時に生成し利用できる高蛋白質低グルコシノレート菜種ミールを提供することである。
【解決手段】菜種ミールと水を混合し、糖化処理および/又はアルコール発酵処理もしくは糖化処理とアルコール発酵処理を同一工程で行い、副産物としてエタノールを産生しつつ、高蛋白質低グルコシノレート菜種ミールを製造する方法を見出し、本発明を完成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高蛋白質低グルコシノレート菜種ミールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
菜種や大豆等の油糧種子から油分を取り除いた後に残った搾り粕は、蛋白質供給源として主に飼料用に利用されている。しかし、菜種の搾り粕である菜種ミールは、大豆ミールと比べて蛋白質含量が少なく、繊維質を多く含むため家畜に対するエネルギー価が低いという欠点を有している。
【0003】
また、菜種ミールに含まれる硫黄化合物であるグルコシノレートは、哺乳動物の腸内細菌に含まれる酵素ミロシナーゼによって、甲状腺誘発物質ゴイトロゲンになるため、配合飼料に入れられる菜種ミールの配合率は限られており、菜種ミールを飼料中へ多量に配合できないという問題点があった。
【0004】
かかる問題点を解決する方法として、菜種ミール中の蛋白質含量を増加させる方法や菜種ミール中のグルコシノレートを低減する方法が考えられる。菜種ミールの蛋白質含量を増加させる方法としては、菜種ミールを篩で分別して蛋白質含量の多い画分と少ない画分に分画する方法が開示されているが、低蛋白質画分は飼料価値が低く、利用範囲が限られる(特許文献1)。また、菜種を脱皮した後に搾油し菜種ミールを回収する方法が開示されているが、粒径の小さい菜種を脱皮するこの方法は高コストになり現実的でない(非特許文献1)。一方、菜種ミール中のグルコシノレートを低減化する方法としては、エタノールに溶解し除去する方法が開示されているが、大量のエタノールを使用する方法は高コストになり実用的でない(非特許文献2)。
このため、油分を回収した後に副産物として大量に生じる菜種ミールの有効な活用法として、大豆ミールよりも安く、栄養特性でも大豆ミールに迫る高蛋白質低グルコシノレート菜種ミールの製造方法の開発が望まれていた。
【0005】
【特許文献1】特許第3970917号公報
【非特許文献1】W. Grala, et al.,Ileal apparent protein and amino acid digestibilities and endogenous nitrogen losses in pigs fed soybean and rapeseed products., Journal of Animal science, 76, p.769−p.577 (1998)
【非特許文献2】H. Kozlwska,et al., The influence of selected technological process on the improvement of rapeseed meal and flour feed quality part 1. The influence of hydrothermal treatment and ethanol extraction on chemical composition of rapeseed products., Die Nahrung, 35, p.485−489 (1991)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、栄養特性に優れた菜種ミールを簡便に製造する方法を提供することであり、さらには産業的に価値のある副産物を同時に生成し、利用できる高蛋白質低グルコシノレート菜種ミールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意検討を重ねた結果、副産物としてエタノールを産生する高蛋白質低グルコシノレート菜種ミールの製造方法を見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明の第1の発明は、菜種ミールと水を混合し、糖化処理および/又はアルコール発酵処理した物を固液分離、乾燥することを特徴とする高蛋白質低グルコシノレート菜種ミールの製造方法である。
【0009】
本発明の第2の発明は、菜種ミールと水を混合し、糖化処理とアルコール発酵処理を同一工程で行い、この生成物を固液分離、乾燥することを特徴とする高蛋白質低グルコシノレート菜種ミールの製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明を実施することで、蛋白質含量が高い菜種ミールを製造することができる。これにより、家畜に対するエネルギー価を高くすることができる。さらにアルコール発酵の併用により燃料用等として使用できるエタノールも得ることができる。かつ本発明の製造方法の実施で得られる高蛋白質菜種ミールはグルコシノレート含量が低減されているため、飼料に多く配合することができ、飼料価値が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(菜種ミール)
菜種ミールとは、菜種を圧搾機により抽出し、続いて、圧搾粕に残された油分をn−ヘキサンなどの有機溶剤を用いて抽出する搾油工程を経た後、有機溶剤を蒸発させてできた菜種粕のことであり、水分を8〜15質量%含むものである。
【0012】
(水、その他の添加物)
本発明における水とは特に限定されるものではなく、例えば蒸留水、純水、水道水いずれであっても構わない。糖化処理又は発酵処理前に、菜種ミールと水を混合する場合、菜種ミール10〜60重量部と水90〜40重量部、好ましくは、菜種ミール20〜50重量部と水50〜80重量部、さらに好ましくは菜種ミール35〜50重量部、水75〜50重量部の割合で混合すればよい。後述するアルコール発酵処理において、水分添加量を多くすればエタノールの生成量が増すが、この混合割合を採用すると可溶性蛋白質の溶出を抑えることができ、蛋白質をより効率的に回収できる。
【0013】
糖化処理および/又はアルコール発酵処理前の菜種ミールと水の混合物100重量部に対しミネラル、糖、アミノ酸、培地成分、酵素、微生物等の添加物を0〜10重量部加えても良い。ミネラルの具体例としては、リン、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、鉄等が挙げられる。糖の具体例としては、ショ糖、ブドウ糖、麦芽糖、オリゴ糖等が挙げられる。アミノ酸の具体例としては、グルタミン酸、リジン等が挙げられ、蛋白質の構成アミノ酸やGABA等非構成アミノ酸、蛋白質の加水分解物でも良い。培地成分の具体例としては、酵母エキス、麦芽エキス、ペプトン等が挙げられる。酵素の具体例としては、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、グルコシダーゼ又はこれらの混合物が挙げられる。微生物の具体例としては、糸状菌、Saccharomyces cerevisiaeShizosaccharomyces pombePichia stipitis等の酵母、Zymomonas mobilis等が挙げられる。(以下、水もしくは水と添加物を併せて水等と言う。)
これら添加物のうち水溶性のものは前記水に可溶化して加えても良い。
【0014】
(混合)
本発明における菜種ミールと水等の混合とは、菜種ミールと水等を手動および装置で混ぜ合わせることを言う。混合後の固形分中の水分の分布は均一であるほど糖化処理あるいはアルコール発酵処理の効率が良いので望ましいが、固形分中の水分分布に偏りがあっても糖化あるいはアルコール発酵の目的は達成される。菜種ミールと水等を加えた混合物は、糖化処理中、又はアルコール発酵中の糖化微生物又は発酵微生物以外の微生物の繁殖を防ぐため、オートクレーブにて滅菌することが望ましい。滅菌後は糖化処理温度又はアルコール発酵処理温度で使用する。
【0015】
(糖化処理)
本発明における糖化処理とは、菜種ミールに含まれる繊維質(セルロース)に分解酵素を菜種ミール1gあたり20−2000unit添加し、含まれる繊維質をグルコースへと分解することを指す。糖化処理に使用する繊維質分解酵素は、セルラーゼ単独若しくは、セルラーゼにヘミセルラーゼやグルコシダーゼなどの酵素を組み合わせて使用することができる。糖化処理に用いる酵素は繊維質を分解できるものであれば良く、市販品であっても、糸状菌を培養した培養液やそれを更に精製したものであっても、糸状菌そのものであっても良い。
糖化処理は、菜種ミールと水等の混合物に酵素や微生物を加え25℃以上、好ましくは25〜37℃(又は使用する酵素や微生物の反応最適温度)で培養を行う。培養時間は、4〜189時間、好ましくは24〜72時間である。
【0016】
(アルコール発酵処理)
本発明におけるアルコール発酵処理とは、菜種ミールと水等を加えた混合物又は菜種ミールと水等を加えた混合物の糖化処理した物に微生物を接種し、微生物によりエタノールを生成する工程のことをいう。使用する微生物については、酵母ではSaccharomyces cerevisiaeや、Shizosaccharomyces pombeや、Pichia stipitisを用いることができ、酵母以外では、アルコール発酵が可能な細菌であるZymomonas mobilisなど、アルコール発酵が可能な微生物であれば、遺伝子組み換えをされたものも含めて何でも使用できる。微生物は、スラントや凍結などで保存されているものを使用しても良いが、S. cerevisiaeを用いる場合は市販のパン酵母を用いても良い。スラントや凍結などで保存されているものを用いる場合は、使用する前に液体培地で前培養し、前培養液等を使用することが望ましい。前培養に用いる液体培地は、1質量%酵母エキス、2質量%ペプトン、3質量%グルコースのような、酵母又は細菌の培養に適しているものであれば良い。
糖化処理は、酵素や微生物を菜種ミールと水等を加えた混合物に加え25〜45℃、好ましくは28〜37℃で培養を行う。培養時間は、4〜378時間、好ましくは24〜168時間である。培養中は嫌気状態にし、攪拌すると効率が上がる。
【0017】
(固液分離後、乾燥および蒸留)
菜種ミールと水等を加えた混合物を糖化処理および/又はアルコール発酵処理した物もしくは菜種ミールと水を混合し糖化処理とアルコール発酵処理を同一工程で行った物を固液分離し、乾燥する。この結果得られるものを高蛋白質低グルコシノレート菜種ミールと言う。乾燥は乾熱乾燥、真空乾燥、凍結乾燥、スプレードライ等、該混合物の糖化処理および/又はアルコール発酵処理した物の水分及びエタノールを蒸発させられるものであればよい。乾燥前に、水蒸気蒸留等によりエタノールを回収すれば、回収したエタノールは工業用又は燃料用として利用することができる。
【0018】
(高蛋白質低グルコシノレート菜種ミール)
本発明における高蛋白質低グルコシノレート菜種ミールとは、菜種ミールを糖化処理および/又はアルコール発酵処理して得た高蛋白質菜種ミール菜種粕処理物であり、乾燥重量換算で44〜65質量%の蛋白質を含むものであり、好ましくは47〜65量%含むものである。
さらに、低グルコシノレートとは、グルコシノレート含量1μmol/g未満に抑えたものである。
なお、ここでいう蛋白質含有量は、ケルダール法で求めた全窒素に6.25を乗じた値を指す。グルコシノレート量はHPLCによるAOCSの公定法により求めた。
【0019】
(糖化処理とアルコール発酵処理を同一工程で行うこと)
本発明における同一工程とは、糖化処理とアルコール発酵を同一容器中で同一時期に併行して行う併行複発酵のことをいう。すなわち、菜種ミールに水等と糖化処理に用いる酵素等とアルコール発酵処理に用いる微生物等を混ぜ合わせ同時に処理することである。
【0020】
製造した高蛋白質低グルコシノレート菜種ミールには糖分、蛋白質、アミノ酸、繊維分、ミネラル、油分、抗菌成分等を含んだ飼料原料や飼料添加物を加えて使用しても良い。具体例としては、とうもろこし、ソルガム、コーングルテンフィールド、コーンスターチ、米ぬか、大豆ミール、フスマ、エンバク、ミルクカゼイン、ホエー、魚粉、ビタミンミックス、ミネラルミックス、アミノ酸製剤等が挙げられる。
【0021】
以下に本発明をより具体的に説明するために、実施例を示すが本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0022】
<試験1:水分添加量と蛋白質含有率と蛋白質残存率>
菜種ミール(商品名:菜種油粕、日清オイリオグループ(株)製、以下同じ)(水分含量 12.7質量%)2gに、0.2ml(サンプルA),0.7ml(サンプルB)、1.7ml(サンプルC)、3.7ml(サンプルD)、9.7ml(サンプルE)、19.7ml(サンプルF)の水を加えて、121℃で15分間オートクレーブ滅菌した後、人肌程度まで冷やし、S. cerevisiae NBRC2377株の前培養液をそれぞれのサンプルに0.3mlずつ加え、容器のふたを閉めた状態で28℃で1週間培養した。
すなわち菜種ミール1gに対し、水と前培養液の混合液をそれぞれ0.25ml(サンプルA)、0.5ml(サンプルB)、1ml(サンプルC)、2ml(サンプルD)、5ml(サンプルE)、10ml(サンプルF)加え、0.25倍量希釈、0.5倍量希釈、1倍量希釈、2倍量希釈、5倍量希釈、10倍量希釈とした。
1週間後に固液分離を行い、固体部分を凍結乾燥し、重量を測定した後、乾燥した残渣の蛋白質量をケルダール法にて求めた全窒素量に、6.25を乗じて求めた。発酵後の各サンプル中に含まれている蛋白質の割合を蛋白質含量(乾燥重量換算)、発酵後の各サンプルに含まれている蛋白質の含量を、発酵前の各サンプルに含まれている蛋白質の含量で割ったものを蛋白質残存率とした。
【0023】
【表1】

【0024】
表1は、各サンプルの発酵後の蛋白質含量、蛋白質残存率及びミール1gあたりのエタノール生成量を示す。表1より、菜種ミールに添加する水分量が増加するほど、発酵後の菜種ミールに含まれる蛋白質含量は増加したが、蛋白質残存率は減少した。一方、添加する水分量が減少するほどエタノール生成量は減少した。この結果より、高い蛋白質残存率を保ちながら、蛋白質含量を増加させるには、菜種ミール1重量部と、水分を1−2重量部を混合させることが最も有効であることが分かった。
【実施例2】
【0025】
<実施例2:併行複発酵による菜種ミールの成分変化>
菜種ミール220gに、水220mlを加えて121℃で15分間オートクレーブ滅菌した後、人肌程度まで冷やし、セルラーゼ(MPバイオ社製、アスペルギルス属由来)4gと、S. cereviciae NBRC2377株の前培養液を40mlを加え、よく攪拌した。これにふたをして、28℃で1週間培養した。1週間後に固液分離を行い、固体部分を凍結乾燥した後に、蛋白質含量、繊維分、グルコシノレート量(乾燥重量換算)を求めた。アルコール発酵前の菜種ミールについても、同様の項目について求めた。繊維分は基準油脂分析法の濾過法、グルコシノレート量はHPLCによるAOCSの公定法により求めた。
【0026】
【表2】

【0027】
表2は、発酵前と発酵後の菜種ミールの蛋白質含量、繊維分、グルコシノレート量について、分析値を示した。表2より、発酵前と発酵後の菜種ミールの併行複発酵を行うと、蛋白質含量が増加することが分かった。また、同時に、併行複発酵により、グルコシノレート量が減少することも分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
菜種ミールと水を混合し、糖化処理および/又はアルコール発酵処理を行うことを特徴とする高蛋白質低グルコシノレート菜種ミールの製造方法。
【請求項2】
前記菜種ミール10〜60重量部と水90〜40重量部を混合することを特徴とする請求項1に記載の高蛋白質低グルコシノレート菜種ミールの製造方法。
【請求項3】
前記菜種ミールと水を混合し、糖化処理とアルコール発酵処理を同一工程で行うことを特徴とする高蛋白質低グルコシノレート菜種ミールの製造方法。

【公開番号】特開2010−11760(P2010−11760A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−173212(P2008−173212)
【出願日】平成20年7月2日(2008.7.2)
【出願人】(000227009)日清オイリオグループ株式会社 (251)
【Fターム(参考)】