説明

高血糖症の治療もしくは予防、または血糖の安定化に用いられる酵母細胞壁

【課題】酵母の細胞壁に基づいた、高血糖症の治療もしくは予防、または血糖の安定化に用いられる薬剤および製剤、並びに対応する治療用組成物の提供。
【解決手段】サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)種の酵母の細胞壁からなりグルカンおよびマンナンの総含量が乾燥体基準で少なくとも34.0質量%、かつグリコーゲン含量が乾燥体基準で10.0質量%未満である薬剤および、それを用いた高血糖症の治療用組成物。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、高血糖症(hyperglycemia)の治療および予防、ならびに血糖の安定化に関する。
すでに、特に糖尿病の場合の、高血糖症の予防、高血糖症の治療、および/または血糖の安定化に用いられる多数の化合物が提案されている。
【0002】
従って、酵母に基づいた生成物、例えば、特に酵母自体、酵母抽出物、クロム富化酵母から抽出されたクロム含有耐糖因子(GTF)、およびまたビール酵母(brewer's yeast)の細胞調製物、が提案されている。
【0003】
このように、JP−A−61−167622では、該明細書中で細胞壁と呼ばれるビール酵母の細胞画分を基にした抗糖尿病薬であって、苦味を除去したビール酵母の、50〜70℃の温度で少なくとも2時間の加水分解および水溶性構成物の水性抽出によって得られるものが提案されている。前記ビール酵母の細胞画分は詳細には、グルカン含量が約14.8%、マンナン含量が約13.9%である。また、前記細胞画分のグリコーゲン含量は約24.9%である。グリコーゲンまたは肝臓デンプン(ドイツ語では、"Leberstaerke")は、筋肉、特に、肝臓内にも存在する貯蔵多糖である。また、このグリコーゲンは酵母中の貯蔵物質であり、生存のためのエネルギー源として酵母に利用される。これはこの日本国特許出願に記載される細胞画分の主成分の1つであるが、これは酵母の細胞壁の一部を形成するものではない。
【0004】
本発明によれば、今般、高血糖症の予防および治療のための薬剤として効果的であり、グリコーゲン含量の低い酵母細胞壁を得ることが可能であり、この酵母細胞壁は単純な自己分解または酵素加水分解プロセスによって得ることが可能であることが見出された。
【0005】
「酵母細胞壁」とは、全酵母細胞の乾燥体含量の少なくとも50質量%、好ましくは少なくとも60質量%の可溶化をもたらすが、細胞壁の構造多糖、すなわち、β−グルカンおよびマンノプロテインの形態で存在するマンナン、を維持する自己分解または主としてプロテアーゼによる酵素加水分解の後に得られる非クロム富化酵母細胞の不溶性画分を意味する。
【0006】
この自己分解または酵素加水分解は、酵母細胞の貯蔵糖、例えばグリコーゲンおよびトレハロース、の大部分を可溶化するように実施する。この酵母細胞壁は、自己分解または酵素加水分解によって可溶化された画分を分離することによって得られ、この酵素加水分解は少なくとも18時間持続させるのが好ましい。クリーム酵母の自己分解のための好ましいプロセスは、参照マニュアル"Yeast Technology", 2nd edition, 1991, G. Reed and T.W. Nogodawithana、Van Nostrand Reinhold出版, New York、ISBN 0-442-31892-8中の370〜377頁に記載されている。このようにして得られた酵母細胞壁は、その後、慣用の乾燥方法、例えば噴霧乾燥または回転ドラム乾燥によって通常は乾燥させる。
【0007】
本発明による酵母細胞壁は、サッカロミセス(Saccharomyces)属、好ましくはサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)種に属する酵母の細胞壁である。
【0008】
前記酵母は好ましくはパン酵母である。パン酵母は、サッカロミセス・セレビシエ種に属する酵母であり、前掲の参照マニュアル"Yeast Technology"中に教示されるように主として好気的増殖または培養法を用いて製造され、例えば、ビール製造の副産物であり、それ故にその自己分解または酵素加水分解のための回収の前にビールの製造において役割を果たすビール酵母とは違って、その自己分解または酵素加水分解の前に、どのような目的にも役割を果たさない。このビール酵母は主として嫌気条件下で増殖する(ビールの製造は嫌気性プロセスである)。
【0009】
本発明による酵母細胞壁は、グルカンおよびマンナンの細胞壁総含量(体系的に各々同質量のグルコースおよびマンノースとして表される、下記測定法を参照)が乾燥体基準で少なくとも34.0質量%であり、グリコーゲン含量(体系的に各々同質量のグルコースとして表される、下記測定法を参照)が乾燥体基準で10.0質量%未満である。
【0010】
本発明による酵母細胞壁は、グルカンおよびマンナンの総含量が乾燥体基準で少なくとも40.0質量%が好ましく、乾燥体基準で少なくとも45.0質量%であるのがさらに好ましい。
【0011】
本発明による酵母細胞壁はまた、グリコーゲン含量が乾燥体基準で8.0質量%未満が好ましく、乾燥体基準で5.0質量%未満であるのがさらに好ましく、乾燥体基準で3.0質量%未満であるのがさらにより好ましい。
【0012】
有用には、本発明による酵母細胞壁は、N×6.25タンパク質含量が乾燥体基準で17.0〜35.0質量%であり、好ましくは乾燥体基準で18.0〜26.0質量%である。
【0013】
有利には、本発明による酵母細胞壁は、乾燥体含量が少なくとも90質量%、好ましくは少なくとも94質量%およびさらに好ましくは少なくとも96質量%である。
【0014】
一般に、本発明による酵母細胞壁のグルカンおよびマンナンの総含量は、乾燥体基準で70質量%以下である。これは特に、乾燥体基準で65質量%以下であってよい。また、これは乾燥体基準で55質量%以下でもあってよい。
【0015】
本発明の1つの変形によれば、酵母細胞壁からグリコーゲンを完全にまたは実質的に完全に取り除くためには、上記のようにして得た本発明による酵母細胞壁を水性懸濁液に懸濁し、アルカリ性の培地中、70℃〜100℃の間で最大3時間加熱し、この処理によって可溶化された画分を取り除き、残りの非可溶化画分を回収して通常乾燥させる。例えば、ナトリウムを含有するアルカリ性の水性培地中に酵母細胞壁乾燥体量を約12%含む懸濁液を85℃で2時間加熱すればよい。このグリコーゲンを全て含むが、マンノプロテインの大部分、またはさらには全含量をも含む、可溶化された画分を、遠心分離および洗浄によって取り除く。
【0016】
このような処理によって、グルカンおよびマンナンの総含量が乾燥体基準で55質量%〜70質量%、好ましくは60質量%〜70質量%、およびさらに好ましくは乾燥体基準で60〜65質量%である本発明による酵母細胞壁を製造することができる。このような処理によって、特に、乾燥体基準で1.0質量%未満のグリコーゲン、および好ましくは乾燥体基準で0.1質量%未満のグリコーゲンを含む酵母細胞壁を製造することができる。これらの酵母細胞壁はマンナンを含まない場合もある。
【0017】
高いグルカンおよびマンナンの総含量を含むこれらの酵母細胞壁は、高血糖症の治療もしくは予防、または血糖の安定化に用いられる本発明による薬剤の一実施形態に相当する。
【0018】
これらは、高血糖症の治療もしくは予防、または血糖の安定化に用いられる本発明による製剤に適している。これらは、本発明によれば、高血糖症の治療もしくは予防、または血糖の安定化に用いられる治療用組成物の製造に使用できる。
【0019】
グリコーゲン含量の測定方法
0.5mlの0.25M NaCOを乾燥酵母細胞壁のサンプル20mgに添加し(すなわち、乾燥体含量が少なくとも90質量%)、この混合物を95℃で4時間保つ。
次に、この混合物を、1M酢酸0.3mlおよび0.2M酢酸ナトリウム1.2mlを添加して成分を混合することにより、pH5.2とする。蒸留水を添加して総量2mlとする。
【0020】
このようにして得られた懸濁液0.5mlを、Roche社からカタログ番号102 857で市販されているアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)アミログルコシダーゼの過剰な存在下、55℃で15時間インキュベートする。
遠心分離後、放出されたグルコースを酵素アッセイによって測定する。
【0021】
グルコースの酵素アッセイは、特に、マニュアル"Methods of Biochemical Analysis and Food Analysis - using Single Reagents"、Boehringer Mannheim GmbH Biochemica、(c) 1989、50〜55頁に記載されており、Roche社の子会社:Boehringer Mannheim GmbH/R-Biopharm GmbH at Darmstadt, Germanyが提供するカタログ番号139 106の"Test-Combination D-Glucose/-Fructose"を用いて実施するのが好ましい。
このようにして定量した(assayed)グルコースの量(mg)は、グルコースと同質量として表されるサンプル中に存在するグリコーゲンの量に相当する。
【0022】
グルカンおよびマンナンの総含量の測定方法
乾燥酵母細胞壁のサンプル20mg、すなわち、乾燥体含量少なくとも90質量%のサンプルを、2N HCl 20mlと混合することによって酸加水分解を行い、混合物を15分おきに攪拌しながらインキュベーター中、密閉したネジ蓋付きの瓶の中に103℃で4時間置く。
【0023】
次に、このようにして得られた酸性溶液を中和し、中和溶液中のグルコース量およびマンノース量を各々酵素経路によって定量する。
このグルコースおよびマンノースの酵素アッセイも、前掲のマニュアルの50〜55頁に記載されており、カタログ番号139 106の"Test Combination"を用いて実施するのが好ましい。
【0024】
一方でこの方法に従って定量したグルコースの量(mgで表す)と、上記のグリコーゲン含量の測定方法によってこれらの酵母細胞壁について定量したグルコースの量(これもmgで表す)との差を算出する。
【0025】
定量した2つのグルコースの量の差(mg)は、このサンプル中に存在するグルカンの総量に相当する。このグルカンの量は、グルコースと同質量として表されるからである。
定量したマンノースの量(mg)は、サンプル中に存在するマンナンの総量に相当する。このマンナンの量は、マンノースと同質量として表されるからである。
【0026】
本発明は、第一に、上記に定義される酵母細胞壁、すなわち、本発明による酵母細胞壁からなる高血糖症の治療に用いられる薬剤に関する。高血糖症の治療は、主として血糖、すなわち血中グルコースレベルの低下を含む。
【0027】
本発明による本薬剤は、高血糖症のいくつかの症例、例えば特に、以下に記載の症例に有用である可能性がある。
(a)2型糖尿病の場合の高血糖症の治療のため(2型糖尿病を以降「症状(a)」と呼ぶ);
(b)妊娠性または妊娠糖尿病の場合の高血糖症の治療のため(妊娠性または妊娠糖尿病を以降「症状(b)と呼ぶ」);
(c)前糖尿病の場合の高血糖症の治療のため(前糖尿病を以降「症状(c)」と呼ぶ);
(d)食後高血糖症の治療のため(食後の状態を以降「症状(d)」と呼ぶ)。
【0028】
また、本発明は、高血糖症の予防に用いられる薬剤に関し、前記薬剤は本発明による酵母細胞壁からなる。高血糖症の予防は、主として血糖を高血糖症よりも低いレベルに保つことを含む。
前記薬剤は、特に、上記に定義される症状(a)、(b)、(c)または(d)のうちの少なくとも1つの場合の高血糖症の予防に用いられる薬剤であり得る。
【0029】
また、本発明は、血糖の安定化に用いられる薬剤に関し、前記薬剤は本発明による酵母細胞壁からなる。血糖の安定化は主として血糖を高血糖症より低く低血糖症よりも高いレベルに保つことを含む。
前記薬剤は、特に、症状(a)、(b)、(c)または(d)のうちの少なくとも1つの場合の血糖の安定化に用いられる薬剤であり得る。
【0030】
本発明による薬剤は、その多様な実施形態において、単独またはその他の成分、例えば、1種以上の別の治療上有効な成分および/または1種以上の賦形剤などと組合わせて種々の形態または剤形で投与してよい。
従って、本発明は、上記に定義されるような本発明による酵母細胞壁を含んでなる高血糖症の治療に用いられる製剤に関する。換言すれば、前記製剤は本発明による薬剤を含んでなる。
本発明による前記製剤は、特に、症状(a)、(b)、(c)または(d)のうちの少なくとも1つの場合の高血糖症の治療に用いられる製剤であり得る。
【0031】
また、本発明は、本発明の酵母細胞壁を含んでなる高血糖症の予防に用いられる製剤に関する。
前記製剤は、特に、症状(a)、(b)、(c)または(d)のうちの少なくとも1つの場合の高血糖症の予防に用いられる製剤であり得る。
【0032】
また、本発明は、本発明による酵母細胞壁を含んでなる血糖の安定化に用いられる製剤に関する。
前記製剤は、特に、症状(a)、(b)、(c)または(d)のうちの少なくとも1つの場合の血糖の安定化に用いられる製剤であり得る。
【0033】
上記実施形態のうちのいずれかによる製剤は、一般に経口経路での投与のための製剤である。
この製剤は、特に、錠剤、カプセル剤、丸剤、散剤、顆粒剤または懸濁液の形態で提供されてよい。
また、本発明による製剤は、1種以上の治療上有効な薬剤、および、特に、1種以上の血糖降下薬を含んでよい。従って、この製剤は、1種以上のビタミン、1種以上の食物ミネラルなどを含んでよい。
【0034】
この製剤はまた、1種以上の薬学上許容される賦形剤を含んでよい。
本発明による製剤は、特に、本発明による酵母細胞壁乾燥体含量の10g未満、好ましくは1〜8g、さらに好ましくは1〜7g量に相当する、経口摂取用の投与形で提供されてもよい。
【0035】
また、本発明は、治療用組成物または医薬の製造における、本発明による酵母細胞壁の使用に関し、その種々の実施形態は上記に定義されている。
本発明は、特に、上記に定義されるような本発明による組成物の1つの製造における、これらの酵母細胞壁の使用に関する。
従って、本発明は、高血糖症の治療に用いられる治療用組成物の製造における、本発明による酵母細胞壁の使用に関する。
本発明による酵母細胞壁は、特に、症状(a)、(b)、(c)または(d)のうちの少なくとも1つの場合の高血糖症の治療に用いられる治療用組成物の製造に用いてよい。
【0036】
また、本発明は、高血糖症の予防に用いられる治療用組成物の製造における、本発明による酵母細胞壁の使用に関する。
本発明による酵母細胞壁は、特に、症状(a)、(b)、(c)または(d)のうちの少なくとも1つの場合の高血糖症の予防に用いられる治療用組成物の製造に用いてよい。
【0037】
また、本発明は、血糖の安定化に用いられる治療用組成物の製造における本発明による酵母細胞壁の使用に関する。
本発明による酵母細胞壁は、特に、症状(a)、(b)、(c)または(d)のうちの少なくとも1つの場合の血糖の安定化に用いられる治療用組成物の製造に用いてよい。
【0038】
この医薬組成物とは、原則として経口経路による投与に用いられる組成物である。
この医薬組成物は、特に、錠剤、カプセル剤、丸剤、散剤、顆粒剤または懸濁液の形態で提供されてよい。
本発明による酵母細胞壁は、特に、
・1種以上の治療上有効な薬剤、特に、1種以上の血糖降下薬、および/または
・1種以上のビタミン、1種以上の食物ミネラルなど
を含んでなる医薬組成物の製造に用いてよい。
【0039】
また、医薬組成物は1種以上の薬学上許容される賦形剤を含んでよい。
本発明による酵母細胞壁は、特に、本発明による酵母細胞壁乾燥体含量の10g未満、好ましくは1〜8g、さらに好ましくは1〜7g量に相当する、経口摂取用の投与形で用いてよい。
【0040】
さらに、本発明は、高血糖症の治療に用いられる本発明による薬剤または高血糖症の治療に用いられる本発明による製剤を患者へ投与することを含んでなる、患者における高血糖症の治療方法に関する。
【0041】
高血糖症の治療方法は、特に、症状(a)、(b)、(c)または(d)のうちの少なくとも1つの場合の高血糖症の治療方法であってよい。
また、本発明は、患者における高血糖症の治療、高血糖症の予防、または血糖の安定化における、本発明による薬剤または製剤の使用に関する。
【0042】
また、本発明は、本発明による高血糖症の予防に用いられる薬剤または本発明による高血糖症の予防に用いられる製剤を患者へ投与することを含んでなる、患者における高血糖症の予防方法に関する。
高血糖症の予防方法は、特に、症状(a)、(b)、(c)または(d)のうちの少なくとも1つの場合の高血糖症の予防方法であってよい。
【0043】
また、本発明は、本発明による血糖の安定化に用いられる薬剤または本発明による血糖の安定化に用いられる製剤を患者へ投与することを含んでなる、患者における血糖の安定化のための方法に関する。
【0044】
血糖の安定化方法は、特に、症状(a)、(b)、(c)または(d)のうちの少なくとも1つの場合の血糖の安定化方法であってよい。
本発明は、特に、薬剤または製剤を経口経路で患者へ投与するような方法に関する。
【0045】
本発明による種々の方法には、特に、本発明による酵母細胞壁の1〜10g、好ましくは2〜8g、さらに好ましくは3〜6gに相当する一日量での、薬剤または製剤の患者への投与を含んでなる。前記一日量であれば、単回投与すなわち一回の投与として例えば朝食中に投与すること、あるいはいくつかに分割した用量で、つまり一日の間に何回かに分散させて投与することが可能である。
【0046】
また、本発明による方法は、薬剤または製剤の投与後の患者の血糖をチェックするための工程を含んでもよい。
これらの方法は、特に、患者へ薬剤または製剤を投与する前に患者の血糖を測定するための工程、および患者へ薬剤または製剤を投与した後に患者の血糖をチェックするための工程を含んでよい。
【実施例】
【0047】
A.本発明による酵母細胞壁の製造方法
12〜18質量%の乾燥体含量のサッカロミセス・セレビシエの水性クリーム(つまり水中の酵母細胞の懸濁液)を、前記酵母細胞の内因性酵素を用いて加水分解する。場合により、外因性のプロテアーゼ、例えばパパインを酵母細胞に添加する。酵母細胞の乾燥体含量の少なくとも60質量%を可溶化するように、50℃にて24時間、加水分解を実施する。
【0048】
実際には、一般に、本発明による自己分解または酵素加水分解は、グルカンまたはマンノプロテインを可溶化させることのできるいずれの酵素を用いずに45℃〜55℃で18〜36時間実施する。
【0049】
遠心分離および水洗の数回の連続的な工程により、可溶化画分を不溶性画分から分離する。
不溶性画分を加熱したドラムで乾燥させて乾燥体含量を95質量%とする。生じた凝集物をふるいにかけて取り除く。
【0050】
このようにして得られた酵母細胞壁は、
・乾燥体含量が95質量%
・N×6.25のタンパク質含量が乾燥体基準で20.2質量%
・グルカンおよびマンナンの総含量が乾燥体基準で43%
・グリコーゲン含量が乾燥体基準で8質量%
である。
【0051】
B.本発明による製剤による高血糖症の予防および治療
82歳の身体的に障害のある患者が2型糖尿病であると診断された。
要求される身体運動ができないため、初期治療を、脂肪含量の低い、消化性の糖類を含む食事療法に限定した。
【0052】
この食事療法によって得られた効果は限られたものであった。特に、血中グルコース含量は4.0〜7.0mmol/リットル、好ましくは4.2〜6.0mmol/リットルであることが求められるが、患者の血糖は、血中グルコース含量が10.0〜12.0mmol/リットルの状態であったことが観察された。
【0053】
その後、上記の項目Aに記載される酵母細胞壁3〜4gを朝食のシリアルに添加することによって上述の食事を補充した。
前記酵母細胞壁の最初の摂取から12時間後、患者の血糖は血中グルコース6mmol/リットルまで低下した。
【0054】
朝食中に1日3〜4gの酵母細胞壁の摂取を継続すると、患者の血糖は少なくとも4ヶ月の間、血中グルコース4.5〜6mmol/リットルの間で維持された。
この4ヶ月の間に、チョコレートの消費など所定の食事に違反した後でさえ食後高血糖症は起こらなかった。
有害な副作用は認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高血糖症の治療に用いられる薬剤であって、前記薬剤がサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)種の酵母の細胞壁からなり、
グルカンおよびマンナンの総含量が乾燥体基準で少なくとも34.0質量%、好ましくは乾燥体基準で少なくとも40.0質量%、さらに好ましくは乾燥体基準で45.0質量%であり、かつ
グリコーゲン含量が乾燥体基準で10.0質量%未満、好ましくは乾燥体基準で8.0質量%未満、さらに好ましくは乾燥体基準で5.0質量%未満、さらにより好ましくは乾燥体基準で3.0質量%未満である、
薬剤。
【請求項2】
酵母細胞壁のグルカンおよびマンナンの総含量が乾燥体基準で70質量%以下である、請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】
酵母細胞壁のグルカンおよびマンナンの総含量が乾燥体基準で55質量%〜70質量%、好ましくは60質量%〜70質量%、さらに好ましくは乾燥体基準で60質量%〜65質量%である、請求項1または2に記載の薬剤。
【請求項4】
酵母細胞壁のグリコーゲン含量が乾燥体基準で1.0質量%未満、好ましくは乾燥体基準で0.1質量%未満である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項5】
酵母細胞壁の乾燥体含量が90質量%以上、好ましくは94質量%以上、さらに好ましくは96質量%以上である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の酵母細胞壁からなる、高血糖症の予防に用いられる薬剤。
【請求項7】
前記高血糖症が2型糖尿病の場合の高血糖症である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか一項に定義される酵母細胞壁からなる、血糖の安定化に用いられる薬剤。
【請求項9】
2型糖尿病の場合の血糖の安定化に用いられる、請求項8に記載の薬剤。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の酵母細胞壁を含んでなる、高血糖症の治療に用いられる製剤。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の酵母細胞壁を含んでなる、高血糖症の予防に用いられる製剤。
【請求項12】
前記高血糖症が2型糖尿病の場合の高血糖症である、請求項10または11に記載の製剤。
【請求項13】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の酵母細胞壁を含んでなる、血糖の安定化に用いられる製剤。
【請求項14】
2型糖尿病の場合の血糖の安定化に用いられる、請求項13に記載の製剤。
【請求項15】
高血糖症の治療に用いられる治療用組成物の製造における、請求項1〜5のいずれか一項に記載の酵母細胞壁の使用。
【請求項16】
高血糖症の予防に用いられる治療用組成物の製造における、請求項1〜5のいずれか一項に記載の酵母細胞壁の使用。
【請求項17】
前記高血糖症が2型糖尿病の場合の高血糖症である、請求項15または16に記載の使用。
【請求項18】
血糖の安定化に用いられる治療用組成物の製造における、請求項1〜5のいずれか一項に記載の酵母細胞壁の使用。
【請求項19】
2型糖尿病の場合の血糖の安定化に用いられる治療用組成物の製造のための、請求項18に記載の使用。

【公開番号】特開2011−178794(P2011−178794A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89381(P2011−89381)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【分割の表示】特願2006−522971(P2006−522971)の分割
【原出願日】平成16年8月10日(2004.8.10)
【出願人】(505344199)ルサフル、エ、コンパニ (8)
【氏名又は名称原語表記】LESAFFRE ET CIE
【Fターム(参考)】